像加熱装置、及び画像形成装置
【課題】記録材を冷媒の凝縮温度以上に加熱することで熱交換効率を上げ、省エネルギー効果を高めた蒸気圧縮冷凍サイクルを加熱源とする画像形成装置を提供することにある。
【解決手段】予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して定着装置26に受け渡す。搬送ベルト102は、凝縮器105aで加熱された記録材Pを搬送して凝縮器105bを通過させる。凝縮器105aは、凝縮器105bで放熱して凝縮温度になった冷媒を用いて、凝縮器105bよりも低い加熱温度で記録材を加熱する。凝縮器105bは、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材Pを冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱する。
【解決手段】予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して定着装置26に受け渡す。搬送ベルト102は、凝縮器105aで加熱された記録材Pを搬送して凝縮器105bを通過させる。凝縮器105aは、凝縮器105bで放熱して凝縮温度になった冷媒を用いて、凝縮器105bよりも低い加熱温度で記録材を加熱する。凝縮器105bは、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材Pを冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トナー画像を担持した記録材を、加熱処理する前にヒートポンプを用いて予備加熱する像加熱装置、詳しくはヒートポンプによる加熱効率を高めて、記録材の予備加熱に要する消費電力を削減する熱交換器の配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー像を記録材に転写した後に、定着装置で記録材を加熱及び加圧しつつ搬送して、画像を記録材に定着させる画像形成装置が広く用いられている。また、定着済みトナー像又は半定着トナー像を担持した記録材を加熱及び加圧しつつ搬送して、所望の表面状態や光沢度を付与する後処理装置が実用化されている。像加熱装置は、定着装置と後理装置を含む装置名称である。
【0003】
特許文献1には、ヒートポンプにより加熱されるローラ定着装置を搭載した画像形成装置が提案されている。ここでは、1段又は2段のヒートポンプを用いて加熱した加熱ローラを記録材の画像面に接触させてトナー像を記録材に定着させている。
【0004】
特許文献2には、トナー像を記録材へ転写して定着装置へ搬送する過程で、記録材をヒートポンプにより予備加熱する定着システムが提案されている。ここでは、ヒートポンプによって加圧された高温の冷媒は、ローラ定着装置で熱交換を行って温度が少し下がった状態で、予備加熱ローラへ導かれて記録材との熱交換を行う。これにより、ヒートポンプの出力を加熱と予備加熱の二段階に活用して、トナー像の定着に要する合計の消費電力を削減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−258003号公報
【特許文献2】特開2009−133884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、ヒートポンプは、理論的には投入した電力の数倍〜数10倍の熱量を発生できるため、低消費電力で高出力の定着装置を期待できる。しかし、ヒートポンプは、吸熱原と放熱原の温度差が大きいほど効率が低下する。このため、トナーを実用的に溶融できる100度C以上の高温を得ようとすると、それほど効率的とは言えず、ランプヒータや電磁加熱等で直接加熱を行ったほうが消費電力が少なくて済む場合もある。つまり、大型圧縮機の搭載や圧縮機騒音に見合うような消費電力の削減効果が得られない。
【0007】
このため、ヒートポンプを60度程度の予備加熱に用いて、予備加熱後に電磁加熱等を用いて集中的な加熱を行うことにより、予備加熱と加熱とを含めたトータルの消費電力を低下させることが提案された。
【0008】
しかし、通常のヒートポンプでは、主として冷媒の潜熱を用いて加熱を行うため、圧縮機の出口圧力(又は凝縮器の出口圧力)における冷媒の凝縮温度までの加熱しか行うことができない。そのため、予備加熱後の加熱の消費電力の削減効果が限られていた。
【0009】
本発明は、ヒートポンプの消費電力を増やすことなく、冷媒の凝縮温度を越える温度まで記録材を予備加熱して、予備加熱後の加熱に要する消費電力を効果的に削減できる像加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の像加熱装置は、トナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部を備え、ヒートポンプを用いて記録材を予備加熱して前記加熱部に受け渡すものである。そして、前記ヒートポンプの圧縮機で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する第1の熱交換部と、前記第1の熱交換部で放熱した冷媒を用いて前記第1の熱交換部よりも低い加熱温度で記録材を加熱する第2の熱交換部と、前記第2の熱交換部で加熱された記録材を前記第1の熱交換部へ搬送して前記第1の熱交換部で加熱された記録材を前記加熱部へ受け渡す搬送手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の像加熱装置では、熱交換手段が二段階の予備加熱を行う。最初に、ヒートポンプで凝縮された湿り蒸気の冷媒と熱交換させて、大量で一定温度の熱を記録材へ受け渡して、確実に冷媒の凝縮温度(湿り蒸気の温度)に記録材の温度を近づける。その後、ヒートポンプで加圧された乾き蒸気の冷媒と熱交換させて、乾き蒸気の顕熱を利用して記録材を冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱する。
【0012】
したがって、記録材を冷媒の凝縮温度を越える温度に予備加熱して加熱部へ受け渡すことができる。ヒートポンプの消費電力を増やすことなく、冷媒の凝縮温度を越える温度まで記録材を予備加熱して、予備加熱後の加熱に要する消費電力を効果的に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】実施例1の予備加熱装置の構成の説明図である。
【図3】ヒートポンプの構成の説明図である。
【図4】冷媒の蒸気線図である。
【図5】ヒートポンプサイクルの放熱過程の説明図である。
【図6】毎分処理枚数と予備加熱性能の関係の説明図である。
【図7】ベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【図8】予備加熱装置の制御のフローチャートである。
【図9】予備加熱による定着部の消費電力削減効果の説明図である。
【図10】実施例2の予備加熱装置の構成の説明図である。
【図11】実施例2におけるベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、ヒートポンプを用いて記録材の予備加熱を行う限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0015】
従って、トナー画像を加熱する像加熱装置であれば、画像形成装置に装備された定着装置、光沢処理装置、後処理装置等に限らず、スタンドアロンの像加熱装置でも実施できる。加熱部の構成形式は、ローラ/ローラ方式に限らず、ローラ/ベルト方式等でも実施でき、加熱部の加熱方法は、抵抗加熱に限らず、ランプヒータ、電磁加熱等で実施できる。
【0016】
画像形成装置は、二成分現像剤/一成分現像剤のいずれを用いるものでもよく、タンデム型/1ドラム型、中間転写型/記録材搬送型/直接転写型、モノクロ/フルカラーの区別無く実施できる。本実施形態では、トナー像の形成/定着に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。
【0017】
なお、特許文献1、2に示される定着装置及び画像形成装置の一般的な事項については、図示を省略して重複する説明を省略する。
【0018】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置1は、中間転写ベルト8に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0019】
画像形成部Paでは、感光ドラム2aにイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。画像形成部Pbでは、感光ドラム2bにマゼンタトナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。画像形成部Pc、Pdでは、感光ドラム2c、2dにシアントナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。中間転写ベルト8に重ねて転写された四色のトナー像は、二次転写部T2へ搬送されて記録材Pへ二次転写される。
【0020】
中間転写ベルト8は、テンションローラ11と駆動ローラ10と対向ローラ21に掛け渡して支持され、駆動ローラ10に駆動されて所定のプロセススピードで矢印R2方向に回転する。二次転写ローラ22は、対向ローラ21によって内側面を支持された中間転写ベルト8に当接して二次転写部T2を形成する。
【0021】
記録材カセット17から引き出された記録材Pは、分離ローラ19で1枚ずつに分離して、レジストローラ16へ送り出される。レジストローラ16は、停止状態で記録材Pを受け入れて待機させ、中間転写ベルト8のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Pを送り出す。トナー像と重ねて記録材Pが二次転写部T2を挟持搬送される過程で、二次転写ローラ22に正極性の直流電圧が印加されることにより、フルカラートナー像が中間転写ベルト8から記録材Pへ二次転写される。転写されずに中間転写ベルト8の表面に残った転写残トナーは、ベルトクリーニング装置12に回収される。
【0022】
四色のトナー像を二次転写された記録材Pは、中間転写ベルト8から曲率分離して搬送ベルト102に搬送されて定着装置26へ送り込まれ、加熱加圧を受けて表面にトナー像を定着された後に、機体外部へ排出される。
【0023】
画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdは、現像装置7a、7b、7c、7dで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、イエローの画像形成部Paについて説明し、他の画像形成部Pb、Pc、Pdについては、説明中の構成部材に付した符号の末尾のaをb、c、dに読み替えて説明されるものとする。
【0024】
また、両面印刷時には、定着装置26、排紙ローラ24を通った記録材Pは両面反転パス27の方向に導かれて逆方向に反転搬送され、両面パス28へ搬送される。両面パス28を通った記録材Pは、再び縦パスローラ20を通り、1面目と同様に2面目の画像を作像、転写、定着されて排出される。
【0025】
画像形成部Paは、感光ドラム2aの周囲に、コロナ帯電器3a、露光装置5a、現像装置7a、転写ブレード6a、ドラムクリーニング装置4aを配置している。感光ドラム2aは、帯電極性が負極性の感光層を有して所定のプロセススピードで矢印方向に回転する。コロナ帯電器3aは、感光ドラム2aの表面を、負極性の暗部電位VDに一様に帯電処理する。露光装置5aは、イエローの分解色画像を展開した走査線画像データをON−OFF変調したレーザービームを回転ミラーで走査して、感光ドラム2aの表面に画像の静電像を書き込む。
【0026】
現像装置7aは、感光ドラム2aに形成された静電像を反転現像してトナー像を形成する。転写ブレード6aは、中間転写ベルト8の内側面を押圧して感光ドラム2aと中間転写ベルト8の間に一次転写部を形成する。転写ブレード6aに正極性の電圧を印加することにより、感光ドラム2aに担持されたトナー像が中間転写ベルト8へ一次転写される。ドラムクリーニング装置4aは、中間転写ベルト8への一次転写を逃れて感光ドラム2aに残った転写残トナーを回収する。
【0027】
<定着装置>
加熱部の一例である定着装置26は、トナー画像を担持した記録材Pを加熱及び加圧しつつ搬送する。定着装置26は、中心からハロゲンランプヒータで加熱されて記録材Pの画像面に当接する加熱ローラに、中心からハロゲンランプヒータで加熱されて記録材Pの裏面に当接する加圧ローラを当接させて構成される。
【0028】
定着装置26は、加熱ローラと加圧ローラによって作られるニップ部にて、トナー像Gが転写された記録材Pに熱、圧を加えて定着させる。加熱ローラと加圧ローラの回転動作は、回転駆動手段により調整される。
【0029】
加熱ローラの外径は51mmであり、アルミ製の芯金上に厚さ500μmのゴム層が設けられ、さらにゴム層の上に厚さ25μmのPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)等のフッ素樹脂が被覆されている。加圧ローラも同様の構成となっている。
【0030】
ところで、定着装置は、加熱溶融性の樹脂等よりなるトナー(顕画剤)を用いて記録材の面に形成された未定着トナー画像を、熱と圧力を加えることにより、記録材面に永久固着させる。
【0031】
定着装置の加熱源として、ハロゲンヒータ、赤外線ランプ、あるいは誘導加熱方式を採用した場合、電流により発生するジュール熱等を利用しているため、熱変換効率が1を超えることがない。このため、投入したワット数以上の加熱を行うことができず、省エネルギー化を図ることが困難であった。
【0032】
この課題を解決するため、上述した特許文献1、特許文献2の画像形成装置では、ヒートポンプ機能を有する蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を利用した熱変換装置を定着装置に用いている。熱変換装置は、定着後の記録材が有する熱を吸収し、吸収した熱を定着装置の加熱源に供給して加熱することで、熱変換効率を高め省エネルギー化を図っている。ヒートポンプの凝縮器から放熱される熱量で定着装置の定着部を加熱し、その定着部の熱を記録材に与えて加熱している。
【0033】
しかし、現在のところ、未定着のトナーを溶融して定着するには少なくとも100℃以上に加熱する必要がある。一般的に、ヒートポンプを熱源とした場合、冷媒の凝縮時の熱量を利用するので、凝縮温度を100℃程度まで上げるには、高圧に耐え、かつ圧縮機の出力も大きい特殊なヒートポンプが必要となり、消費電力も上がってしまう。そのような特殊なヒートポンプを定着装置の熱源に用いた場合、ハロゲンヒータや赤外線ランプ、誘導加熱方式を熱源に用いた定着装置の消費電力と比べて消費電力はあまり小さくならない。
【0034】
例えば、特許文献2では、熱容量が大きく、また、加熱能力を必要とする加熱ローラに冷媒を循環させた後、予備加熱ローラに循環させているので、圧縮機の出力が大きいヒートポンプを必要とする。この場合、ヒートポンプの消費電力は、加熱ローラの加熱能力によって決まるので、予備加熱ローラを用いてもヒートポンプの消費電力を低減することにはならない。
【0035】
実用化されている低消費電力のヒートポンプでは、高温部の温度は60℃から70℃程度となる。このため、特許文献1、特許文献2のように、ヒートポンプのみを定着装置の熱源とするのではなく、定着を行う直前の記録材の予備加熱源としてヒートポンプ利用することが望まれる。このようなヒートポンプの熱変換効率(COP;加熱能力/消費電力)は5〜6程度と考えられるので、消費電力200W程度のヒートポンプであれば、1000W以上の加熱能力をもっていることになる。これを利用して、60℃から70℃程度まで記録材を予備加熱することが可能である。そして、従来よりもワット数の低いハロゲンヒータや赤外線ランプ、誘導加熱を用いて、最終的に必要な温度までの加熱と、定着温度コントロールを行うことができる。
【0036】
予備加熱により定着装置に入る前に記録材の温度を上げることで、定着装置の低温化、またはニップ通過時間の短縮化が可能となり定着装置の消費電力を下げると同時に処理速度を高めることができる。ヒートポンプを予備加熱源に用いることで、定着で使われる消費電力が低減でき省エネルギー化が図れる。
【0037】
そして、ヒートポンプを予備加熱の熱源とする場合、冷媒が過熱蒸気である高温帯は熱量が小さいため利用できず、記録材を冷媒の凝縮温度以上にまで加熱することは難しい。予備加熱中に、記録材の温度が冷媒の凝縮温度に達してしまうと、それ以上に記録材の温度を上げられず、定着装置の消費電力低減には限界が生じる。
【0038】
以下の実施例では、記録材を冷媒の凝縮温度以上に加熱できるようにする。これにより、ヒートポンプの消費電力を必要以上に上げることなく、省エネルギー効果を高めた蒸気圧縮逆冷凍サイクルを予備加熱源とすることができるため、定着装置の消費電力が低減される。冷媒凝縮時の熱量と共に凝縮温度よりも高い過熱蒸気の熱量も利用して記録材を加熱するため、凝縮温度以上に記録材を加熱することができるため、定着装置の消費電力をさらに低減できる。
【0039】
<実施例1>
図2は実施例1の予備加熱装置の構成の説明図である。図3はヒートポンプの構成の説明図である。図4は冷媒の蒸気線図(モリエル線図)である。図5はヒートポンプサイクルの放熱過程の説明図である。図6は毎分処理枚数と予備加熱性能の関係の説明図である。図7はベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。図8は予備加熱装置の制御のフローチャートである。図9は予備加熱による定着部の消費電力削減効果の説明図である。
【0040】
図1に示すように、画像形成手段の一例である画像形成部Pa、Pb、Pc、Pd及び中間転写ベルト8は、トナー像を形成して記録材Pに転写する。
【0041】
加熱部の一例である定着装置26は、トナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。定着装置26は、トナー像が転写された記録材Pを加熱加圧して記録材Pにトナー像を定着させる。定着装置26は、電気的に加熱及び温度制御された加熱ニップNを用いてトナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。
【0042】
予備加熱部の一例である予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを予備加熱して定着装置26に受け渡す。予備加熱装置100は、トナー画像を担持した記録材Pを、加圧することなく搬送しつつ、トナー画像の反対側の面からヒートポンプ101を用いて加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して加熱ニップNへ受け渡す。
【0043】
ヒートポンプ101の蒸発器107は、加熱部の排熱を用いて冷媒を蒸発させて乾き蒸気まで加熱してヒートポンプ101の圧縮機104に供給する。
【0044】
図2に示すように、搬送手段の一例である搬送ベルト102は、凝縮器105aで加熱された記録材Pを凝縮器105bへ搬送して、その後、凝縮器105bで加熱された記録材Pを定着装置26へ受け渡す。搬送ベルト102は、記録材Pの担持面の裏側面を、凝縮器105bの放熱面と凝縮器105aの放熱面とに摺擦させて回転する無端ベルト部材で構成される。記録材Pは、搬送ベルト102を介して凝縮器105a及び凝縮器105bにより加熱される。
【0045】
予備加熱装置100は、ベルト熱交換器109にヒートポンプ101を組み込んで構成される。記録材Pの搬送手段は、搬送ベルト102と搬送ローラ103で構成されている。搬送ベルト102は、4色のトナー像Gが転写された記録材Pを定着装置26まで搬送する。
【0046】
予備加熱装置100は、一対の搬送ローラ103に張架させた搬送ベルト102に記録材Pを担持して搬送する。搬送ベルト102は、ポリイミド樹脂の無端状に形成した数〜数十μmのフィルム表面に、数μm単位の導電層および離型層(抵抗層)を順次コーティングした多層構成となっている。
【0047】
搬送ベルト102には、記録材Pを吸引するための小さい穴が開けられ、搬送ベルト102を通じて記録材Pを吸引するための吸引機構が搬送ベルト102の内側に設けられている。吸引機構は、凝縮器(放熱板)105に複数の空気吸引孔を形成しておき、この空気吸引孔の下方に配置された吸引ファンで放熱板の空気吸引孔から空気を吸引する。これにより、記録材Pは、搬送ベルト102に吸着して、放熱板上を搬送される。
【0048】
なお、記録材Pと搬送ベルト102との密着方法は静電的でもよい。その場合、搬送手段は、搬送ローラ103に搬送ベルト102を巻いた搬送部と記録材Pを静電的に吸着するための帯電装置(不図示)と放熱板で構成される。搬送ベルト102の導電層は不図示の電気的接続によりアースに落とされ、絶縁層でもある離型層、あるいはさらにその上にくる記録材Pとの間に電荷を付与することで記録材Pを静電的に吸着して、放熱板上を搬送できるようになる。
【0049】
搬送ベルト102の内側面に密着するように凝縮器(放熱板)105が配置されている。搬送ベルト102は、記録材Pを、凝縮器105の冷媒出口側から冷媒入口側へ搬送する。その搬送の過程で、記録材Pは、凝縮器105と熱交換することで、凝縮温度まで加熱された後、搬送終盤の過熱蒸気の部分で凝縮温度T0以上にまで加熱される。
【0050】
図3に示すように、予備加熱装置100は、蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)のヒートポンプ101を加熱源として記録材Pの予備加熱を行う。ヒートポンプ101は、圧縮機104で圧縮して加熱された冷媒を凝縮器105で放熱させて過冷却液まで凝縮させる。膨張弁106は、冷媒の圧力を低下させ、蒸発器107は、周囲の熱を奪って冷媒を気化させる。気化した冷媒が圧縮機104で圧縮されてヒートポンプサイクルが構成される。
【0051】
図4に示すように、ヒートポンプ101は、圧力PとエンタルピhのP−h線図において閉曲線ABCDのサイクルを実行する。冷媒の過熱蒸気Aを圧縮機104により所望温度に対する飽和蒸気圧以上の圧力まで圧縮して過熱蒸気Bにして凝縮器105に送る。高温度の過熱蒸気Bは凝縮器105において熱量Q1を放熱することで冷やされ、凝縮/液化して過冷却液Cになる。
【0052】
過冷却液Cは、膨張弁106に送られ、膨張弁106によって等エンタルピ膨張して、低温度の湿り蒸気Dになり、蒸発器107に送られる。低温度の湿り蒸気Dは、蒸発器107において周囲から熱量Q2を得て気化し、過熱蒸気Aになって1サイクルを終了する。過熱蒸気Aは、再び圧縮機104によって圧縮されて高温度の過熱蒸気Bとなって熱サイクルを繰り返す。
【0053】
図5に示すように、凝縮器105で冷媒が熱量Q1を放熱する過程において、冷媒のエンタルピ変化と温度変化が発生する。過熱蒸気Bの状態から飽和蒸気B’の状態までの顕熱変化では、冷媒の温度が低下しながらエンタルピは、hBからhB’と僅かに変化する。
【0054】
次に、飽和蒸気B’の状態から飽和液C’の状態に至る潜熱変化では、温度が一定(凝縮温度)で、エンタルピはhB’からhCへと大きく変化する。その後、飽和液C’の状態から過冷却液Cの状態までの顕熱変化では、温度が低下しながら、エンタルピはhC’からhCへと僅かに変化する。
【0055】
エンタルピがhBからhB’まで変化する時に放熱する熱量をQ1’’とし、エンタルピがhB’からhCまで変化する時に放熱する熱量をQ1’とする。
【0056】
凝縮器105から放熱される熱量Q1を利用して記録材Pを加熱する場合、最初に、エンタルピ変化が大きい潜熱変化及び過冷却時の顕熱変化(hB’→hC)時の熱量Q1’を利用して、記録材Pと熱交換をさせる。これにより、冷媒の凝縮温度T0付近まで記録材Pの温度を上げる。
【0057】
その後、エンタルピ変化が僅かな過熱蒸気の顕熱変化(hB→hB’)時の熱量Q1’’を利用して、記録材Pと熱交換をさせる。これにより、凝縮温度T0以上の温度T1付近まで記録材Pの温度を上げる。
【0058】
記録材Pの熱容量が小さいため、エンタルピ変化が僅かな過熱蒸気の熱量Q1’’でも十分に温度が上昇して、記録材Pを凝縮温度T0以上の温度まで加熱できる。数値的に説明すれば、熱量Q1を放熱する際に、冷媒のエンタルピは、hBからhCまで変化している。この時、過熱蒸気の顕熱変化ではhBからhB’まで変化しており、エンタルピ変化の比を考えると熱量Q1’’は熱量Q1の約20%程度である。ヒートポンプ101の能力としてQ1が2500W程度見込める場合、過熱蒸気の顕熱変化分は500W程度となる。
【0059】
図6に示すように、顕熱変化(hB→hB’)時の熱量Q1’’において連続予備加熱される記録材Pが受け取る毎分の熱量をEとする。用紙坪量105g/m2の記録材Pの上にトナーが厚さ10μm載っている状態を想定して、85ppmと150ppmで搬送して予備加熱させた場合のコンピュータシミュレーションを行った。
【0060】
ヒートポンプ101によって予備加熱しようとする温度幅を大きくすると、記録材Pに供給すべき熱量が大きくなる。毎分150枚(150ppm)の予備加熱を行った場合、毎分85枚(85ppm)の予備加熱を行う場合よりも、ヒートポンプ101によって昇温できる温度幅は小さくなる。
【0061】
トナーが転写された記録材Pの温度は、凝縮温度以上である熱量Q1’’が500Wの場合、85ppmで30℃程度、150ppmでも18℃程度さらに温度を上げることができることが確認された。
【0062】
以上のように、トナーが転写された記録材Pの熱容量であれば、過熱蒸気の熱量を利用して十分に温度を上げることが可能である。
【0063】
図2に示すように、ヒートポンプ101は、圧縮機104、凝縮器105、膨張弁106、蒸発器107に加えて、圧力計108、ファン114、インバータ制御部115が付設され、凝縮器105には、温度測定用の温度センサ116が設けられている。蒸発器107に付設されたファン114を作動させることで、蒸発器107は、周囲から高効率で熱を回収することができる。
【0064】
圧力計108により凝縮器105内の冷媒の圧力が把握でき、測定した圧力で図4の蒸気線図を参照することで、その圧力下での冷媒の凝縮温度がわかる。温度センサ116は、放熱板内中央部の過熱蒸気B入口側付近に取り付けれらている。インバータ制御部115は、圧縮機104へ出力する周波数を30Hzから75Hzまで調整することで、圧縮機104の回転数が変わり、冷媒の循環量の制御ができ、凝縮器105の放熱量を調整できる。
【0065】
凝縮器105は、搬送ベルト102の内側面に密着するように取り付けられ、トナー像Gが一括転写された記録材Pは、搬送ベルト102を介して凝縮器105と熱交換して加熱される。
【0066】
図7の(a)に示すように、凝縮器105は、アルミプレート112内に銅管111が蛇行して配置された直方体状の放熱板となっている。但し、銅管111の配置は、図に示す配置に限定されるわけではない。銅管111とアルミプレート112との接触面積が増えることで、冷媒とアルミプレート112との熱変換効率が高まればよい。
【0067】
図7の(b)に示すように、アルミプレート112と銅管111は、伝熱性を向上させるため、密着性が高い加工がされている。また、銅管111は、圧縮機104から過熱蒸気入口まで断熱処理されており、過熱蒸気の熱量(エンタルピ)が周囲へ放熱することを防いでいる。搬送ベルト102と接触するアルミプレート112の表面は、搬送ベルト102との密着性を高めるために平滑度が高く、かつ摩擦による磨耗が少なくするため、例えば、Tiなどによりメッキ処理がされている。アルミプレート112の裏面及び四方の側面は、搬送ベルト102以外への放熱を防ぐため、断熱材による断熱処理がされている。
【0068】
圧縮機104により所望温度に対する飽和蒸気圧以上の圧力まで圧縮して過熱蒸気Bとなった冷媒は、過熱蒸気Bのまま入口側から入り、蛇行して配置された銅管111を通りながら凝縮し出口側へ流れる。この時、冷媒が過熱蒸気となって流れている銅管111が配置されている放熱板の表面温度は、冷媒の凝縮温度以上となっている。
【0069】
図7の(c)に示すように、凝縮器(放熱板)105の搬送ベルト102との接触面である放熱面の温度分布は、x方向に向かって高温となる。実施例1では、第1の熱交換部と第2の熱交換部とが一体の凝縮器(放熱板)105に形成されて熱的に分離されていないため、凝縮器(放熱板)105の放熱面の温度分布は連続的になる。
【0070】
図7の(a)に示すように、予備加熱装置100は、トナー像Gが転写された記録材Pを搬送ベルト102により搬送し、記録材Pは、搬送中に凝縮器(放熱板)105と熱交換することで加熱される。トナー像Gが転写された記録材Pは、凝縮器(放熱板)105の低温側となる銅管111の出口側から高温側となる過熱蒸気Bの入口側へ搬送されることにより、ヒートポンプの冷媒の凝縮温度以上まで加熱される。トナー像Gが転写された記録材Pが転写された記録材Pは熱容量が小さいため、凝縮器(放熱板)105により冷媒と熱交換する際に、熱量は小さいが高温である過熱蒸気で温度を上げることができるからである。
【0071】
<ヒートポンプの制御>
図2を参照して図8に示すように、予備加熱装置100のヒートポンプ101の圧縮機104は、可変の出力で冷媒を圧縮し、凝縮器105bの冷媒を凝縮温度を越える所定温度に保つように圧縮機104の出力を制御する。
【0072】
画像形成装置(1:図1)がスタートすると圧縮機104が駆動して凝縮器(放熱板)105のウォーミングアップが開始される(S101)。同時に、定着装置26の熱源に電力が供給され加熱ローラ26aのウォーミングアップが開始される(S102)。そして、ウォーミングアップ開始と同時に温度センサ26sにて加熱ローラ26aの温度が測定され、定着開始温度に達したかを判断する(S103)。
【0073】
定着開始温度に達していない場合(S103のNO)はウォーミングアップを継続し、達している場合(S103のYES)は待機モードへ移行する(S104)。待機モードでは、加熱ローラ26aの温度が定着開始温度を維持するだけの電力が熱源に供給される(S104)。
【0074】
次に、凝縮器(放熱板)105のウォーミングアップ開始と同時に、温度センサ116にて放熱板の温度が測定され、定着に必要なプレ加熱温度に達したかを判断する(S105)。定着に必要なプレ加熱温度に達していない場合(S105のNO)はウォーミングアップを継続し、達している場合(S105のYES)は待機モードへ移行する(S106)。待機モードでは、凝縮器(放熱板)105の温度が定着に必要なプレ加熱温度を維持するだけの回転数に圧縮機が維持される(S106)。
【0075】
その後、プリント動作が実行される(S107)。プリント動作が実行されると、記録材Pに熱が奪われて凝縮器105の冷媒圧力が低下する。インバータ制御部115は、圧力計108により凝縮器105出口の圧力を測定し(S108)、測定した圧力で図4のP−h線図を参照して冷媒の凝縮温度を算出する(S109)。
【0076】
インバータ制御部115は、凝縮器(放熱板)105の温度センサ116にて凝縮器(放熱板)105の温度を測定し、放熱板温度が算出された凝縮温度(S109)以上か否かを判断する(S110)。
【0077】
インバータ制御部115は、凝縮温度以上となっていない場合、圧縮機104へ出力する周波数を上げて回転数を上げる制御を行う(S111)。回転数の増加に伴い、冷媒循環量が増えて、凝縮器(放熱板)105から放熱される熱量が増加する。その結果、図4のP−h線図で示されるような所定のヒートポンプサイクルが維持される。
【0078】
インバータ制御部115は、凝縮温度以上となっている場合、プリント動作終了かを判断する(S112)。プリント動作が終了せず継続する場合S112は、ステップS103に戻ってプリント動作終了までS103〜S112を繰り返す。しかし、プリント動作が終了する場合(S112のYES)、ヒートポンプを停止して(S113)、加熱ローラ26aの加熱源に電力供給を停止し(S114)、画像形成装置(1:図1)をストップする。
【0079】
実施例1で使用したヒートポンプの凝縮器105であるアルミプレート放熱板の放熱面サイズは320mm×400mmである。放熱板内に銅管を約5m蛇行して配置しており、圧縮機を運転してから120秒程度で放熱面の過熱蒸気入口側の温度が定着に必要なプレ加熱温度である70℃となるようにヒートポンプ101内の冷媒量を調整した。
【0080】
使用した冷媒は、一般的な代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)の一種である代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)のR134a(登録商標)を使用した。ヒートポンプ101を圧縮機104の最大周波数である75Hzで稼動し、放熱面の冷媒入口側の温度が70℃になったところで、圧縮機104の周波数を調整しながら放熱面温度を維持した。
【0081】
記録材Pには、A4サイズで厚さ100μmの普通紙を用いた。搬送速度400mm/secで記録材Pを連続的に搬送開始させ、予め定着可能となって待機中の定着装置26を通して永久画像とした。凝縮器(放熱板)105の放熱面の搬送方向の長さは400mmなので、記録材の加熱時間は1秒であった。
【0082】
この時、上記の制御により、ヒートポンプの消費電力は約280Wであった。そして、凝縮器105と膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の測定値は1.6MPaで図4に示す凝縮温度は60℃程度であった。そして、凝縮器(放熱板)105の温度は、冷媒入口側が68℃で凝縮温度の60℃よりも高くなっていた。そして、搬送ベルト102により、記録材Pは、凝縮器(放熱板)105の冷媒出口側から冷媒入口側へ搬送され、記録材P上のトナー表面温度は25℃から63℃まで上昇していた。記録材Pは、凝縮器(放熱板)105中央部付近まで搬送される間に、凝縮温度とほぼ同じ温度の凝縮器(放熱板)105の温度まで加熱され、凝縮器(放熱板)105冷媒入口付近の搬送後半部でさらに温度が上昇していた。
【0083】
凝縮器(放熱板)105と熱交換して加熱された熱容量の小さい記録材Pは、高温で熱量が小さい過熱蒸気が流れている放熱板の冷媒入口側でも加熱することが可能で、トナー109が転写されている記録材Pの温度を上げることができた。記録材Pの連続搬送中は、凝縮器105と膨張弁106の間に取り付けられた凝縮部の圧力ゲージ108が1.6MPaで安定に維持され、ヒートポンプの消費電力も280Wで一定であった。
【0084】
実施例1の制御によれば、乾き蒸気の冷媒の顕熱を用いる第1の熱交換部において、大きな熱量を記録材Pに移転させることができる。このため、凝縮器105の放熱不足が低減し、安定な逆冷凍サイクルを維持できるため、圧縮機104の消費電力を必要以上に上げることなく予備加熱が可能となり、省エネルギー効果が上がる。
【0085】
一方、凝縮器(放熱板)105の冷媒入口と冷媒出口とを逆にして、記録材Pを凝縮器(放熱板)105の冷媒入口側から冷媒出口側へ搬送して定着装置26に受け渡す実験を行った。その結果、記録材P上のトナー109の表面温度は25℃から58℃までしか上昇しなかった。これは、過熱蒸気が流れる冷媒入口側の凝縮器(放熱板)105は、未加熱の記録材Pに冷やされるため、熱量が小さい過熱蒸気では高温を維持できず、凝縮器(放熱板)105の温度が凝縮温度とほぼ同じの60℃まで低下したためである。
【0086】
予備加熱中に記録材Pの温度が凝縮温度に達してしまうと、記録材Pは、ヒートポンプ101の凝縮器105から放熱される熱量をそれ以上に得ることができないので、長時間このような状態が継続されれば凝縮器105の放熱不足を招くことになる。
【0087】
その結果、凝縮器105で冷媒が液化して過冷却されることなく膨張弁106にて減圧されるため、安定なヒートポンプサイクルを維持できず、圧縮機104の運転圧力が高くなってしまう。すると、圧縮機104の運転圧力と消費電力はほぼ比例の関係にあることから、ヒートポンプ101の消費電力が上がってしまう。
【0088】
以上から、記録材Pの搬送方向は、凝縮器(放熱板)105の低温側となる冷媒出口側から高温側となる冷媒入口側、つまり冷媒の放熱板内の循環方向と対向する凝縮器(放熱板)105の低温側から高温側へ搬送される必要がある。
【0089】
<実施例1の効果>
図9に示すように、予備加熱されて定着装置26に受け渡されるトナー像Gを担持した記録材Pの温度と、定着装置26で消費される電力量の関係をコンピュータシミュレーションにより調べた。計算で用いた定着条件は、実施例1の上記条件に加えて以下の通りである。
【0090】
加熱ローラ26aの周速は360mm/secであり、平均ニップ圧は2.2kgf/cm2であり、ニップ幅は8mmである。加熱ローラ26aは中心に配置したハロゲンランプヒータの加熱源からの輻射エネルギーにて、表面温調温度が180℃に加熱、維持される。記録材Pは、用紙坪量105g/m2で、その上にトナー像Gが厚さ10μmで載っている。
【0091】
図9に示すように、トナー像G及び記録材Pが室温程度の25℃では、定着装置26の消費電力は約1000Wである。予備加熱による温度上昇と共に定着装置26の消費電力が低減され、約10℃上昇することで100W程度の消費電力が削減できる。
【0092】
よって、搬送ベルト102を備えた予備加熱装置100によって、ヒートポンプ101の消費電力を必要以上に上げずに、可能な限り記録材Pの温度を上げることで、永久画像を形成する際の定着に使われる消費電力を低減できる。
【0093】
実施例1では、記録材P上のトナー像Gの表面温度は25℃から63℃まで上昇していたことから、図9の関係から見ると、定着装置26の消費電力を約400W低減できたことになる。ヒートポンプの消費電力280Wを考慮してもトータルの消費電力が120W低減された。
【0094】
<実施例2>
図10は実施例2の予備加熱装置の構成の説明図である。図11は実施例2におけるベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【0095】
図2に示すように、実施例2の予備加熱装置100は、実施例1と同様に、記録材Pを搬送ベルト102で搬送してヒートポンプ101により予備加熱する。実施例1との相違点は、凝縮器(放熱板)105の第1熱交換部と第2熱交換部とを熱的に分離した構成となっている点である。
【0096】
図10に示すように、凝縮器105bと凝縮器105aとは、熱的に分離され、凝縮器105bの熱交換部の質量は、凝縮器105bの熱交換部の質量よりも小さい。
【0097】
第2の熱交換部の一例である凝縮器105aは、凝縮器105bで放熱した冷媒を用いて凝縮器105bよりも低い加熱温度で記録材を加熱する。凝縮器105aは、凝縮器105bで冷媒の凝縮温度に冷却された冷媒の潜熱を用いて記録材を加熱する。凝縮器105aでは、記録材Pが冷媒の凝縮温度まで加熱される。
【0098】
第1の熱交換部の一例である凝縮器105bは、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材Pを加熱する。凝縮器105bは、冷媒の凝縮温度を越える温度に加熱された冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する。凝縮器105bでは、記録材Pが冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱される。凝縮器105bは、加熱部側の一例である定着装置26側の加熱温度が第2の熱交換部側の一例である凝縮器105a側の加熱温度よりも高い。
【0099】
図11の(a)に示すように、実施例2の予備加熱装置100は、冷媒が凝縮して湿り蒸気となっている凝縮器(放熱板)105aと過熱蒸気となっている凝縮器(放熱板)105bとが熱的に分離して構成される。凝縮器105aの搬送ベルト102との接触面である放熱面と、凝縮器105bの搬送ベルト102との接触面である放熱面とが断熱分離している。
【0100】
ヒートポンプ101の凝縮器(放熱板)105bの放熱面サイズは320mm×80mm、凝縮器(放熱板)105aの放熱面サイズは320mm×320mmとし、それぞれを5mm程度離した。2つの放熱板内に蛇行して配置した銅管の全長は約5mで、ヒートポンプ内の冷媒量は実施例1と同じにした。
【0101】
図11の(b)に示すように、湿り蒸気が流れる凝縮器105aと過熱蒸気が流れる凝縮器105bとを別々のものとし、搬送ベルト102との接触面であるそれぞれの放熱面を断熱分離する。これにより、定着装置側の凝縮器(放熱板)105bを、給紙側の凝縮器(放熱板)105aの飽和蒸気B’入口の温度よりもさらに高温にすることが可能である。
【0102】
図11の(c)に示すように、断熱分離された凝縮器(放熱板)105aと凝縮器(放熱板)105bの温度分布は不連続になる。凝縮器(放熱板)105bの温度は、凝縮器(放熱板)105aの飽和蒸気B’入口側よりも高温となるため、図7の(c)に示す実施例1よりも記録材Pの温度を上げることができる。
【0103】
記録材Pの温度をさらに上げることで、定着装置26の消費電力をさらに削減できるため、圧縮機104の消費電力を上げることなく省エネルギー効果が高まる。温度上昇に伴って凝縮器(放熱板)105bから記録材Pに熱交換される熱量が増えるので、凝縮器(放熱板)105bの放熱不足が低減してヒートポンプサイクルも安定する。
【0104】
<ヒートポンプの制御>
図10に示すように、記録材Pが搬送ベルト102によって搬送されながら凝縮器105a、105bと熱交換して加熱される際、ヒートポンプ101において、図4、図5に示すヒートポンプサイクルが安定に維持されたとする。このとき、定着装置26に近い側の凝縮器105bは、図4のヒートポンプサイクルの過熱蒸気が流れるBからB’の状態に保たれ、記録材Pが給紙される側の凝縮器105aは、凝縮状態の湿り蒸気と過冷却液が流れるB’からCの状態に保たれている。
【0105】
この状態で、記録材Pは、凝縮器(放熱板)105aと搬送ベルト102との接触面から放熱される熱量Q1’と、凝縮器(放熱板)105bと搬送ベルト102との接触面から放熱される熱量Q1’’とにより加熱される。
【0106】
このため、それぞれの放熱板で放熱されるQ1’とQ1’’の放熱量比(エンタルピ変化量の比)が、定着装置26に近い側の凝縮器(放熱板)105bの放熱面積と給紙側の凝縮器(放熱板)105aの放熱面積の比となるように制御する。記録材Pの違いや搬送速度の違いなどにより、凝縮器(放熱板)105と記録材Pとの熱交換の状態が変化した場合には、図4及び図5のヒートポンプサイクルが変化して、Q1’とQ1’’の放熱量比(エンタルピ変化量の比)が変わる可能性がある。このような場合、図4及び図5のヒートポンプサイクルを維持するために、インバータ制御部115は、圧縮機104の回転数を制御して冷媒循環量を調整する。
【0107】
具体的には、温度センサ116が定着装置26側の凝縮器(放熱板)105bに設けられ、図8に示すフローチャートの制御のステップS108以下で次のようなフローを行う。
【0108】
インバータ制御部115は、圧力計108により測定された圧力で図4のP−h線図を参照して、冷媒の凝縮温度T0を算出する(S109)。
【0109】
インバータ制御部115は、凝縮器(放熱板)105bの温度センサ116にて凝縮器(放熱板)105bの温度を測定する。そして、凝縮器(放熱板)105の温度が凝縮温度T0以上となっているかを、算出した温度(S109)と比較して判断する(S110)。
【0110】
インバータ制御部115は、凝縮温度T0以上となっていない場合、圧縮機104の周波数を上げて回転数を上げる制御を行う(S111)。回転数の増加に伴い冷媒循環量が増え、凝縮器(放熱板)105から放熱される熱量が増加して、図4のP−h線図で示されるヒートポンプサイクルが維持される。
【0111】
<実施例2の効果>
実施例2について、定着装置26と予備加熱装置100の合計の消費電力の削減効果を調べた。実施例2で使用した画像形成装置は実施例1と同じ装置であり、画像形成プロセスに伴うヒートポンプの制御も実施例1と同じである。
【0112】
ヒートポンプ101を圧縮機104の最大周波数である75Hzで稼動し、凝縮器105bの温度が定着に必要なプレ加熱温度である80℃になったところで、圧縮機104の周波数を調整しながら凝縮器105bの温度を維持させた。
【0113】
搬送速度400mm/secで記録材Pを連続的に搬送を開始し、予め定着可能となって待機中の定着装置26を通し永久画像とした。記録材Pには、A4サイズで厚さ100μmの普通紙を用いた。この時、ヒートポンプの消費電力は約280Wであった。
【0114】
凝縮器105aと膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の指値は1.6MPaで凝縮温度は60℃であった。凝縮器(放熱板)105bの温度は75℃で冷媒の凝縮温度よりも高く、さらに実施例1の凝縮器(放熱板)105の温度よりも高くなっていた。
【0115】
搬送ベルト102により記録材Pは、凝縮器105aの冷媒出口側から凝縮器105bの冷媒入口側へ搬送され、記録材P上の表面温度は25℃から68℃まで上昇していた。記録材Pは、凝縮器(放熱板)105a上を搬送される間に既に凝縮温度付近まで加熱され、実施例1の凝縮器105より高い温度の凝縮器105b上を搬送されることで、さらに温度が上昇した。
【0116】
その結果、実施例1より記録材P上のトナー温度をさらに5℃上げることができた。また、記録材Pの連続搬送中に凝縮器105aと膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の指値は1.6MPaで安定に維持され、圧縮機104の消費電力は280Wで一定であった。
【0117】
図9の記録材加熱温度と定着装置26の消費電力の関係は実施例1と共通であるため、実施例2では、図9から定着装置26の消費電力を約450W低減できたことになる。ヒートポンプ101の消費電力280Wを考慮しても、トータルの消費電力が170W低減され、実施例1よりもさらに50W低減された。ヒートポンプ101の消費電力を必要以上に上げることなく、トナー像の定着に使われる消費電力を1000Wから830Wに低減することができた。
【0118】
実施例2の予備加熱装置では、省エネルギー効果を高めた蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を予備加熱源とすることで、トナーが転写された記録材の温度を冷媒の凝縮温度以上に予備加熱することができる。
【0119】
これにより、定着装置26のさらなる省エネルギー化が図れる。また、放熱板との熱交換効率が上がるため放熱不足が低減し、安定した逆冷凍サイクルを維持することで、圧縮機の消費電力を必要以上に上げずに記録材の予備加熱ができるので、さらに省エネルギー効果が高まる。
【0120】
<実施例3>
実施例1、2では、一般的な代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)を使用して、蒸発過程も凝縮過程も冷媒が湿り蒸気相を含むヒートポンプサイクルの実施例を説明した。しかし、本発明は、ヒートポンプサイクルを行う限りにおいて、冷媒は代替フロンには限られず、凝縮過程は湿り蒸気相には限られない。
【0121】
例えば、現在、広く用いられている炭酸ガスのヒートポンプサイクルでも実施できる。炭酸ガスのヒートポンプサイクルは、蒸発過程は湿り蒸気相で行われるが、凝縮過程は過熱蒸気相から直接液相へ相転移することが特徴である。
【0122】
図2に示すように、実施例3では、第1の熱交換部の一例である凝縮器105の定着装置26側部分は、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の炭酸ガスの顕熱を用いて記録材Pを加熱する。第2の熱交換部の一例である凝縮器105の二次転写部(T2)側部分は、凝縮器105の定着装置26側部分で放熱した冷媒を用いて凝縮器105の定着装置26側部分よりも低い加熱温度で記録材Pを加熱する。そして、搬送手段の一例である搬送ベルト102は、凝縮器105の二次転写部(T2)側部分で加熱された記録材Pを凝縮器105の定着装置26側部分へ搬送して、凝縮器105の定着装置26側部分で加熱された記録材Pを定着装置26へ受け渡す。
【0123】
<実施例4>
近年、トナーの低融点化によって定着装置の消費電力の低減が図られている。また、炭酸ガスサイクルのような高温利用が可能な冷媒により、ヒートポンプサイクルの加熱温度の高温化が可能となっている。したがって、将来、特許文献2に示されるように、定着装置において電力で直接加熱を行う熱源を持たずに、ヒートポンプサイクルによる加熱のみでトナー像の定着を行う可能性もある。
【0124】
この場合、冷媒の顕熱を用いて記録材Pの加熱加圧を行うこととすれば、冷媒の凝縮温度よりも融点の高いトナーのトナー像を定着することができる。トナーの融点よりも低い凝縮温度の冷媒を用いて、ヒートポンプサイクルによる加熱のみでトナー像の定着を行うことができる。
【0125】
しかし、記録材にトナー像を定着させる場合、実際にトナー像の加熱・溶融に使用されるエネルギーはごくわずかであり、消費電力のほとんどは、記録材をトナーの溶融温度100℃よりもかなり低い60℃程度の温度に加熱するために使用されている。したがって、そのような記録材の単なる加熱においては、既存の冷媒の凝縮温度でも十分に対処できる。既存の冷媒を用いたヒートポンプを活用することで、消費電力の数倍〜10数倍のエネルギーを記録材の予備加熱に使用できる。
【0126】
また、ヒートポンプで最終的な加熱加圧を行う場合、加熱ニップの温度制御を正確に行うことは容易でない。電気的な制御と加熱との間にヒートポンプが介在して、応答性と調整精度を損なわせているからである。
【0127】
例えば、温度変更のためにヒートポンプの圧縮機の回転数を変化させた場合、ヒートポンプの凝縮器温度が変化して定着ニップの温度が変化するまでに相当な遅れ時間が発生する。また、ヒートポンプの圧縮機の回転数を加熱ニップの温度制御のために利用すると、凝縮器の圧力変動がヒートポンプサイクルを不安定にする可能性もある。
【0128】
したがって、像加熱装置にヒートポンプを使用する場合、最終の加熱ニップは、ハロゲンランプヒータ等の輻射加熱、電磁誘導のような電磁加熱、ヒータのような抵抗加熱を用いて直接的な加熱を行うことが望ましい。電気的に応答速度の高い温度制御を行えるからである。そして、記録材を単に加熱するための膨大なエネルギー供給を予備加熱の形でヒートポンプに担わせることで、定着ニップの加熱に関して大幅な省電力化、温度制御の精密化、小型化が可能になる。
【0129】
実施例4では、図2に示すように、ヒートポンプ101を用いて予備加熱した記録材Pを、ごく簡単な定着装置26を用いて最終的な定着温度まで加熱する。定着装置26は、電気的に加熱及び温度制御された加熱ニップNを用いてトナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。
【0130】
予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを予備加熱して定着装置26に受け渡す。予備加熱装置100は、トナー画像を担持した記録材Pを、加圧することなく搬送しつつ、トナー画像の反対側の面からヒートポンプ101を用いて加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して加熱ニップNへ受け渡す。
【符号の説明】
【0131】
1 画像形成装置、Pa、Pb、Pc、Pd 画像形成部
8 中間転写ベルト、17 記録材カセット、22 二次転写ローラ
26 定着装置、101 ヒートポンプ、102 搬送ベルト
103 搬送ローラ、104 圧縮機、105、105a、105b 凝縮器
106 膨張弁、107 蒸発器、108 圧力計、111 銅管
112 アルミプレート、114 ファン、115 インバータ制御部
116 温度センサ P 記録材、G トナー像
【技術分野】
【0001】
トナー画像を担持した記録材を、加熱処理する前にヒートポンプを用いて予備加熱する像加熱装置、詳しくはヒートポンプによる加熱効率を高めて、記録材の予備加熱に要する消費電力を削減する熱交換器の配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー像を記録材に転写した後に、定着装置で記録材を加熱及び加圧しつつ搬送して、画像を記録材に定着させる画像形成装置が広く用いられている。また、定着済みトナー像又は半定着トナー像を担持した記録材を加熱及び加圧しつつ搬送して、所望の表面状態や光沢度を付与する後処理装置が実用化されている。像加熱装置は、定着装置と後理装置を含む装置名称である。
【0003】
特許文献1には、ヒートポンプにより加熱されるローラ定着装置を搭載した画像形成装置が提案されている。ここでは、1段又は2段のヒートポンプを用いて加熱した加熱ローラを記録材の画像面に接触させてトナー像を記録材に定着させている。
【0004】
特許文献2には、トナー像を記録材へ転写して定着装置へ搬送する過程で、記録材をヒートポンプにより予備加熱する定着システムが提案されている。ここでは、ヒートポンプによって加圧された高温の冷媒は、ローラ定着装置で熱交換を行って温度が少し下がった状態で、予備加熱ローラへ導かれて記録材との熱交換を行う。これにより、ヒートポンプの出力を加熱と予備加熱の二段階に活用して、トナー像の定着に要する合計の消費電力を削減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−258003号公報
【特許文献2】特開2009−133884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、ヒートポンプは、理論的には投入した電力の数倍〜数10倍の熱量を発生できるため、低消費電力で高出力の定着装置を期待できる。しかし、ヒートポンプは、吸熱原と放熱原の温度差が大きいほど効率が低下する。このため、トナーを実用的に溶融できる100度C以上の高温を得ようとすると、それほど効率的とは言えず、ランプヒータや電磁加熱等で直接加熱を行ったほうが消費電力が少なくて済む場合もある。つまり、大型圧縮機の搭載や圧縮機騒音に見合うような消費電力の削減効果が得られない。
【0007】
このため、ヒートポンプを60度程度の予備加熱に用いて、予備加熱後に電磁加熱等を用いて集中的な加熱を行うことにより、予備加熱と加熱とを含めたトータルの消費電力を低下させることが提案された。
【0008】
しかし、通常のヒートポンプでは、主として冷媒の潜熱を用いて加熱を行うため、圧縮機の出口圧力(又は凝縮器の出口圧力)における冷媒の凝縮温度までの加熱しか行うことができない。そのため、予備加熱後の加熱の消費電力の削減効果が限られていた。
【0009】
本発明は、ヒートポンプの消費電力を増やすことなく、冷媒の凝縮温度を越える温度まで記録材を予備加熱して、予備加熱後の加熱に要する消費電力を効果的に削減できる像加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の像加熱装置は、トナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部を備え、ヒートポンプを用いて記録材を予備加熱して前記加熱部に受け渡すものである。そして、前記ヒートポンプの圧縮機で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する第1の熱交換部と、前記第1の熱交換部で放熱した冷媒を用いて前記第1の熱交換部よりも低い加熱温度で記録材を加熱する第2の熱交換部と、前記第2の熱交換部で加熱された記録材を前記第1の熱交換部へ搬送して前記第1の熱交換部で加熱された記録材を前記加熱部へ受け渡す搬送手段とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の像加熱装置では、熱交換手段が二段階の予備加熱を行う。最初に、ヒートポンプで凝縮された湿り蒸気の冷媒と熱交換させて、大量で一定温度の熱を記録材へ受け渡して、確実に冷媒の凝縮温度(湿り蒸気の温度)に記録材の温度を近づける。その後、ヒートポンプで加圧された乾き蒸気の冷媒と熱交換させて、乾き蒸気の顕熱を利用して記録材を冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱する。
【0012】
したがって、記録材を冷媒の凝縮温度を越える温度に予備加熱して加熱部へ受け渡すことができる。ヒートポンプの消費電力を増やすことなく、冷媒の凝縮温度を越える温度まで記録材を予備加熱して、予備加熱後の加熱に要する消費電力を効果的に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】実施例1の予備加熱装置の構成の説明図である。
【図3】ヒートポンプの構成の説明図である。
【図4】冷媒の蒸気線図である。
【図5】ヒートポンプサイクルの放熱過程の説明図である。
【図6】毎分処理枚数と予備加熱性能の関係の説明図である。
【図7】ベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【図8】予備加熱装置の制御のフローチャートである。
【図9】予備加熱による定着部の消費電力削減効果の説明図である。
【図10】実施例2の予備加熱装置の構成の説明図である。
【図11】実施例2におけるベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、ヒートポンプを用いて記録材の予備加熱を行う限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0015】
従って、トナー画像を加熱する像加熱装置であれば、画像形成装置に装備された定着装置、光沢処理装置、後処理装置等に限らず、スタンドアロンの像加熱装置でも実施できる。加熱部の構成形式は、ローラ/ローラ方式に限らず、ローラ/ベルト方式等でも実施でき、加熱部の加熱方法は、抵抗加熱に限らず、ランプヒータ、電磁加熱等で実施できる。
【0016】
画像形成装置は、二成分現像剤/一成分現像剤のいずれを用いるものでもよく、タンデム型/1ドラム型、中間転写型/記録材搬送型/直接転写型、モノクロ/フルカラーの区別無く実施できる。本実施形態では、トナー像の形成/定着に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。
【0017】
なお、特許文献1、2に示される定着装置及び画像形成装置の一般的な事項については、図示を省略して重複する説明を省略する。
【0018】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置1は、中間転写ベルト8に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0019】
画像形成部Paでは、感光ドラム2aにイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。画像形成部Pbでは、感光ドラム2bにマゼンタトナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。画像形成部Pc、Pdでは、感光ドラム2c、2dにシアントナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト8に転写される。中間転写ベルト8に重ねて転写された四色のトナー像は、二次転写部T2へ搬送されて記録材Pへ二次転写される。
【0020】
中間転写ベルト8は、テンションローラ11と駆動ローラ10と対向ローラ21に掛け渡して支持され、駆動ローラ10に駆動されて所定のプロセススピードで矢印R2方向に回転する。二次転写ローラ22は、対向ローラ21によって内側面を支持された中間転写ベルト8に当接して二次転写部T2を形成する。
【0021】
記録材カセット17から引き出された記録材Pは、分離ローラ19で1枚ずつに分離して、レジストローラ16へ送り出される。レジストローラ16は、停止状態で記録材Pを受け入れて待機させ、中間転写ベルト8のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Pを送り出す。トナー像と重ねて記録材Pが二次転写部T2を挟持搬送される過程で、二次転写ローラ22に正極性の直流電圧が印加されることにより、フルカラートナー像が中間転写ベルト8から記録材Pへ二次転写される。転写されずに中間転写ベルト8の表面に残った転写残トナーは、ベルトクリーニング装置12に回収される。
【0022】
四色のトナー像を二次転写された記録材Pは、中間転写ベルト8から曲率分離して搬送ベルト102に搬送されて定着装置26へ送り込まれ、加熱加圧を受けて表面にトナー像を定着された後に、機体外部へ排出される。
【0023】
画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdは、現像装置7a、7b、7c、7dで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、イエローの画像形成部Paについて説明し、他の画像形成部Pb、Pc、Pdについては、説明中の構成部材に付した符号の末尾のaをb、c、dに読み替えて説明されるものとする。
【0024】
また、両面印刷時には、定着装置26、排紙ローラ24を通った記録材Pは両面反転パス27の方向に導かれて逆方向に反転搬送され、両面パス28へ搬送される。両面パス28を通った記録材Pは、再び縦パスローラ20を通り、1面目と同様に2面目の画像を作像、転写、定着されて排出される。
【0025】
画像形成部Paは、感光ドラム2aの周囲に、コロナ帯電器3a、露光装置5a、現像装置7a、転写ブレード6a、ドラムクリーニング装置4aを配置している。感光ドラム2aは、帯電極性が負極性の感光層を有して所定のプロセススピードで矢印方向に回転する。コロナ帯電器3aは、感光ドラム2aの表面を、負極性の暗部電位VDに一様に帯電処理する。露光装置5aは、イエローの分解色画像を展開した走査線画像データをON−OFF変調したレーザービームを回転ミラーで走査して、感光ドラム2aの表面に画像の静電像を書き込む。
【0026】
現像装置7aは、感光ドラム2aに形成された静電像を反転現像してトナー像を形成する。転写ブレード6aは、中間転写ベルト8の内側面を押圧して感光ドラム2aと中間転写ベルト8の間に一次転写部を形成する。転写ブレード6aに正極性の電圧を印加することにより、感光ドラム2aに担持されたトナー像が中間転写ベルト8へ一次転写される。ドラムクリーニング装置4aは、中間転写ベルト8への一次転写を逃れて感光ドラム2aに残った転写残トナーを回収する。
【0027】
<定着装置>
加熱部の一例である定着装置26は、トナー画像を担持した記録材Pを加熱及び加圧しつつ搬送する。定着装置26は、中心からハロゲンランプヒータで加熱されて記録材Pの画像面に当接する加熱ローラに、中心からハロゲンランプヒータで加熱されて記録材Pの裏面に当接する加圧ローラを当接させて構成される。
【0028】
定着装置26は、加熱ローラと加圧ローラによって作られるニップ部にて、トナー像Gが転写された記録材Pに熱、圧を加えて定着させる。加熱ローラと加圧ローラの回転動作は、回転駆動手段により調整される。
【0029】
加熱ローラの外径は51mmであり、アルミ製の芯金上に厚さ500μmのゴム層が設けられ、さらにゴム層の上に厚さ25μmのPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)等のフッ素樹脂が被覆されている。加圧ローラも同様の構成となっている。
【0030】
ところで、定着装置は、加熱溶融性の樹脂等よりなるトナー(顕画剤)を用いて記録材の面に形成された未定着トナー画像を、熱と圧力を加えることにより、記録材面に永久固着させる。
【0031】
定着装置の加熱源として、ハロゲンヒータ、赤外線ランプ、あるいは誘導加熱方式を採用した場合、電流により発生するジュール熱等を利用しているため、熱変換効率が1を超えることがない。このため、投入したワット数以上の加熱を行うことができず、省エネルギー化を図ることが困難であった。
【0032】
この課題を解決するため、上述した特許文献1、特許文献2の画像形成装置では、ヒートポンプ機能を有する蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を利用した熱変換装置を定着装置に用いている。熱変換装置は、定着後の記録材が有する熱を吸収し、吸収した熱を定着装置の加熱源に供給して加熱することで、熱変換効率を高め省エネルギー化を図っている。ヒートポンプの凝縮器から放熱される熱量で定着装置の定着部を加熱し、その定着部の熱を記録材に与えて加熱している。
【0033】
しかし、現在のところ、未定着のトナーを溶融して定着するには少なくとも100℃以上に加熱する必要がある。一般的に、ヒートポンプを熱源とした場合、冷媒の凝縮時の熱量を利用するので、凝縮温度を100℃程度まで上げるには、高圧に耐え、かつ圧縮機の出力も大きい特殊なヒートポンプが必要となり、消費電力も上がってしまう。そのような特殊なヒートポンプを定着装置の熱源に用いた場合、ハロゲンヒータや赤外線ランプ、誘導加熱方式を熱源に用いた定着装置の消費電力と比べて消費電力はあまり小さくならない。
【0034】
例えば、特許文献2では、熱容量が大きく、また、加熱能力を必要とする加熱ローラに冷媒を循環させた後、予備加熱ローラに循環させているので、圧縮機の出力が大きいヒートポンプを必要とする。この場合、ヒートポンプの消費電力は、加熱ローラの加熱能力によって決まるので、予備加熱ローラを用いてもヒートポンプの消費電力を低減することにはならない。
【0035】
実用化されている低消費電力のヒートポンプでは、高温部の温度は60℃から70℃程度となる。このため、特許文献1、特許文献2のように、ヒートポンプのみを定着装置の熱源とするのではなく、定着を行う直前の記録材の予備加熱源としてヒートポンプ利用することが望まれる。このようなヒートポンプの熱変換効率(COP;加熱能力/消費電力)は5〜6程度と考えられるので、消費電力200W程度のヒートポンプであれば、1000W以上の加熱能力をもっていることになる。これを利用して、60℃から70℃程度まで記録材を予備加熱することが可能である。そして、従来よりもワット数の低いハロゲンヒータや赤外線ランプ、誘導加熱を用いて、最終的に必要な温度までの加熱と、定着温度コントロールを行うことができる。
【0036】
予備加熱により定着装置に入る前に記録材の温度を上げることで、定着装置の低温化、またはニップ通過時間の短縮化が可能となり定着装置の消費電力を下げると同時に処理速度を高めることができる。ヒートポンプを予備加熱源に用いることで、定着で使われる消費電力が低減でき省エネルギー化が図れる。
【0037】
そして、ヒートポンプを予備加熱の熱源とする場合、冷媒が過熱蒸気である高温帯は熱量が小さいため利用できず、記録材を冷媒の凝縮温度以上にまで加熱することは難しい。予備加熱中に、記録材の温度が冷媒の凝縮温度に達してしまうと、それ以上に記録材の温度を上げられず、定着装置の消費電力低減には限界が生じる。
【0038】
以下の実施例では、記録材を冷媒の凝縮温度以上に加熱できるようにする。これにより、ヒートポンプの消費電力を必要以上に上げることなく、省エネルギー効果を高めた蒸気圧縮逆冷凍サイクルを予備加熱源とすることができるため、定着装置の消費電力が低減される。冷媒凝縮時の熱量と共に凝縮温度よりも高い過熱蒸気の熱量も利用して記録材を加熱するため、凝縮温度以上に記録材を加熱することができるため、定着装置の消費電力をさらに低減できる。
【0039】
<実施例1>
図2は実施例1の予備加熱装置の構成の説明図である。図3はヒートポンプの構成の説明図である。図4は冷媒の蒸気線図(モリエル線図)である。図5はヒートポンプサイクルの放熱過程の説明図である。図6は毎分処理枚数と予備加熱性能の関係の説明図である。図7はベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。図8は予備加熱装置の制御のフローチャートである。図9は予備加熱による定着部の消費電力削減効果の説明図である。
【0040】
図1に示すように、画像形成手段の一例である画像形成部Pa、Pb、Pc、Pd及び中間転写ベルト8は、トナー像を形成して記録材Pに転写する。
【0041】
加熱部の一例である定着装置26は、トナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。定着装置26は、トナー像が転写された記録材Pを加熱加圧して記録材Pにトナー像を定着させる。定着装置26は、電気的に加熱及び温度制御された加熱ニップNを用いてトナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。
【0042】
予備加熱部の一例である予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを予備加熱して定着装置26に受け渡す。予備加熱装置100は、トナー画像を担持した記録材Pを、加圧することなく搬送しつつ、トナー画像の反対側の面からヒートポンプ101を用いて加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して加熱ニップNへ受け渡す。
【0043】
ヒートポンプ101の蒸発器107は、加熱部の排熱を用いて冷媒を蒸発させて乾き蒸気まで加熱してヒートポンプ101の圧縮機104に供給する。
【0044】
図2に示すように、搬送手段の一例である搬送ベルト102は、凝縮器105aで加熱された記録材Pを凝縮器105bへ搬送して、その後、凝縮器105bで加熱された記録材Pを定着装置26へ受け渡す。搬送ベルト102は、記録材Pの担持面の裏側面を、凝縮器105bの放熱面と凝縮器105aの放熱面とに摺擦させて回転する無端ベルト部材で構成される。記録材Pは、搬送ベルト102を介して凝縮器105a及び凝縮器105bにより加熱される。
【0045】
予備加熱装置100は、ベルト熱交換器109にヒートポンプ101を組み込んで構成される。記録材Pの搬送手段は、搬送ベルト102と搬送ローラ103で構成されている。搬送ベルト102は、4色のトナー像Gが転写された記録材Pを定着装置26まで搬送する。
【0046】
予備加熱装置100は、一対の搬送ローラ103に張架させた搬送ベルト102に記録材Pを担持して搬送する。搬送ベルト102は、ポリイミド樹脂の無端状に形成した数〜数十μmのフィルム表面に、数μm単位の導電層および離型層(抵抗層)を順次コーティングした多層構成となっている。
【0047】
搬送ベルト102には、記録材Pを吸引するための小さい穴が開けられ、搬送ベルト102を通じて記録材Pを吸引するための吸引機構が搬送ベルト102の内側に設けられている。吸引機構は、凝縮器(放熱板)105に複数の空気吸引孔を形成しておき、この空気吸引孔の下方に配置された吸引ファンで放熱板の空気吸引孔から空気を吸引する。これにより、記録材Pは、搬送ベルト102に吸着して、放熱板上を搬送される。
【0048】
なお、記録材Pと搬送ベルト102との密着方法は静電的でもよい。その場合、搬送手段は、搬送ローラ103に搬送ベルト102を巻いた搬送部と記録材Pを静電的に吸着するための帯電装置(不図示)と放熱板で構成される。搬送ベルト102の導電層は不図示の電気的接続によりアースに落とされ、絶縁層でもある離型層、あるいはさらにその上にくる記録材Pとの間に電荷を付与することで記録材Pを静電的に吸着して、放熱板上を搬送できるようになる。
【0049】
搬送ベルト102の内側面に密着するように凝縮器(放熱板)105が配置されている。搬送ベルト102は、記録材Pを、凝縮器105の冷媒出口側から冷媒入口側へ搬送する。その搬送の過程で、記録材Pは、凝縮器105と熱交換することで、凝縮温度まで加熱された後、搬送終盤の過熱蒸気の部分で凝縮温度T0以上にまで加熱される。
【0050】
図3に示すように、予備加熱装置100は、蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)のヒートポンプ101を加熱源として記録材Pの予備加熱を行う。ヒートポンプ101は、圧縮機104で圧縮して加熱された冷媒を凝縮器105で放熱させて過冷却液まで凝縮させる。膨張弁106は、冷媒の圧力を低下させ、蒸発器107は、周囲の熱を奪って冷媒を気化させる。気化した冷媒が圧縮機104で圧縮されてヒートポンプサイクルが構成される。
【0051】
図4に示すように、ヒートポンプ101は、圧力PとエンタルピhのP−h線図において閉曲線ABCDのサイクルを実行する。冷媒の過熱蒸気Aを圧縮機104により所望温度に対する飽和蒸気圧以上の圧力まで圧縮して過熱蒸気Bにして凝縮器105に送る。高温度の過熱蒸気Bは凝縮器105において熱量Q1を放熱することで冷やされ、凝縮/液化して過冷却液Cになる。
【0052】
過冷却液Cは、膨張弁106に送られ、膨張弁106によって等エンタルピ膨張して、低温度の湿り蒸気Dになり、蒸発器107に送られる。低温度の湿り蒸気Dは、蒸発器107において周囲から熱量Q2を得て気化し、過熱蒸気Aになって1サイクルを終了する。過熱蒸気Aは、再び圧縮機104によって圧縮されて高温度の過熱蒸気Bとなって熱サイクルを繰り返す。
【0053】
図5に示すように、凝縮器105で冷媒が熱量Q1を放熱する過程において、冷媒のエンタルピ変化と温度変化が発生する。過熱蒸気Bの状態から飽和蒸気B’の状態までの顕熱変化では、冷媒の温度が低下しながらエンタルピは、hBからhB’と僅かに変化する。
【0054】
次に、飽和蒸気B’の状態から飽和液C’の状態に至る潜熱変化では、温度が一定(凝縮温度)で、エンタルピはhB’からhCへと大きく変化する。その後、飽和液C’の状態から過冷却液Cの状態までの顕熱変化では、温度が低下しながら、エンタルピはhC’からhCへと僅かに変化する。
【0055】
エンタルピがhBからhB’まで変化する時に放熱する熱量をQ1’’とし、エンタルピがhB’からhCまで変化する時に放熱する熱量をQ1’とする。
【0056】
凝縮器105から放熱される熱量Q1を利用して記録材Pを加熱する場合、最初に、エンタルピ変化が大きい潜熱変化及び過冷却時の顕熱変化(hB’→hC)時の熱量Q1’を利用して、記録材Pと熱交換をさせる。これにより、冷媒の凝縮温度T0付近まで記録材Pの温度を上げる。
【0057】
その後、エンタルピ変化が僅かな過熱蒸気の顕熱変化(hB→hB’)時の熱量Q1’’を利用して、記録材Pと熱交換をさせる。これにより、凝縮温度T0以上の温度T1付近まで記録材Pの温度を上げる。
【0058】
記録材Pの熱容量が小さいため、エンタルピ変化が僅かな過熱蒸気の熱量Q1’’でも十分に温度が上昇して、記録材Pを凝縮温度T0以上の温度まで加熱できる。数値的に説明すれば、熱量Q1を放熱する際に、冷媒のエンタルピは、hBからhCまで変化している。この時、過熱蒸気の顕熱変化ではhBからhB’まで変化しており、エンタルピ変化の比を考えると熱量Q1’’は熱量Q1の約20%程度である。ヒートポンプ101の能力としてQ1が2500W程度見込める場合、過熱蒸気の顕熱変化分は500W程度となる。
【0059】
図6に示すように、顕熱変化(hB→hB’)時の熱量Q1’’において連続予備加熱される記録材Pが受け取る毎分の熱量をEとする。用紙坪量105g/m2の記録材Pの上にトナーが厚さ10μm載っている状態を想定して、85ppmと150ppmで搬送して予備加熱させた場合のコンピュータシミュレーションを行った。
【0060】
ヒートポンプ101によって予備加熱しようとする温度幅を大きくすると、記録材Pに供給すべき熱量が大きくなる。毎分150枚(150ppm)の予備加熱を行った場合、毎分85枚(85ppm)の予備加熱を行う場合よりも、ヒートポンプ101によって昇温できる温度幅は小さくなる。
【0061】
トナーが転写された記録材Pの温度は、凝縮温度以上である熱量Q1’’が500Wの場合、85ppmで30℃程度、150ppmでも18℃程度さらに温度を上げることができることが確認された。
【0062】
以上のように、トナーが転写された記録材Pの熱容量であれば、過熱蒸気の熱量を利用して十分に温度を上げることが可能である。
【0063】
図2に示すように、ヒートポンプ101は、圧縮機104、凝縮器105、膨張弁106、蒸発器107に加えて、圧力計108、ファン114、インバータ制御部115が付設され、凝縮器105には、温度測定用の温度センサ116が設けられている。蒸発器107に付設されたファン114を作動させることで、蒸発器107は、周囲から高効率で熱を回収することができる。
【0064】
圧力計108により凝縮器105内の冷媒の圧力が把握でき、測定した圧力で図4の蒸気線図を参照することで、その圧力下での冷媒の凝縮温度がわかる。温度センサ116は、放熱板内中央部の過熱蒸気B入口側付近に取り付けれらている。インバータ制御部115は、圧縮機104へ出力する周波数を30Hzから75Hzまで調整することで、圧縮機104の回転数が変わり、冷媒の循環量の制御ができ、凝縮器105の放熱量を調整できる。
【0065】
凝縮器105は、搬送ベルト102の内側面に密着するように取り付けられ、トナー像Gが一括転写された記録材Pは、搬送ベルト102を介して凝縮器105と熱交換して加熱される。
【0066】
図7の(a)に示すように、凝縮器105は、アルミプレート112内に銅管111が蛇行して配置された直方体状の放熱板となっている。但し、銅管111の配置は、図に示す配置に限定されるわけではない。銅管111とアルミプレート112との接触面積が増えることで、冷媒とアルミプレート112との熱変換効率が高まればよい。
【0067】
図7の(b)に示すように、アルミプレート112と銅管111は、伝熱性を向上させるため、密着性が高い加工がされている。また、銅管111は、圧縮機104から過熱蒸気入口まで断熱処理されており、過熱蒸気の熱量(エンタルピ)が周囲へ放熱することを防いでいる。搬送ベルト102と接触するアルミプレート112の表面は、搬送ベルト102との密着性を高めるために平滑度が高く、かつ摩擦による磨耗が少なくするため、例えば、Tiなどによりメッキ処理がされている。アルミプレート112の裏面及び四方の側面は、搬送ベルト102以外への放熱を防ぐため、断熱材による断熱処理がされている。
【0068】
圧縮機104により所望温度に対する飽和蒸気圧以上の圧力まで圧縮して過熱蒸気Bとなった冷媒は、過熱蒸気Bのまま入口側から入り、蛇行して配置された銅管111を通りながら凝縮し出口側へ流れる。この時、冷媒が過熱蒸気となって流れている銅管111が配置されている放熱板の表面温度は、冷媒の凝縮温度以上となっている。
【0069】
図7の(c)に示すように、凝縮器(放熱板)105の搬送ベルト102との接触面である放熱面の温度分布は、x方向に向かって高温となる。実施例1では、第1の熱交換部と第2の熱交換部とが一体の凝縮器(放熱板)105に形成されて熱的に分離されていないため、凝縮器(放熱板)105の放熱面の温度分布は連続的になる。
【0070】
図7の(a)に示すように、予備加熱装置100は、トナー像Gが転写された記録材Pを搬送ベルト102により搬送し、記録材Pは、搬送中に凝縮器(放熱板)105と熱交換することで加熱される。トナー像Gが転写された記録材Pは、凝縮器(放熱板)105の低温側となる銅管111の出口側から高温側となる過熱蒸気Bの入口側へ搬送されることにより、ヒートポンプの冷媒の凝縮温度以上まで加熱される。トナー像Gが転写された記録材Pが転写された記録材Pは熱容量が小さいため、凝縮器(放熱板)105により冷媒と熱交換する際に、熱量は小さいが高温である過熱蒸気で温度を上げることができるからである。
【0071】
<ヒートポンプの制御>
図2を参照して図8に示すように、予備加熱装置100のヒートポンプ101の圧縮機104は、可変の出力で冷媒を圧縮し、凝縮器105bの冷媒を凝縮温度を越える所定温度に保つように圧縮機104の出力を制御する。
【0072】
画像形成装置(1:図1)がスタートすると圧縮機104が駆動して凝縮器(放熱板)105のウォーミングアップが開始される(S101)。同時に、定着装置26の熱源に電力が供給され加熱ローラ26aのウォーミングアップが開始される(S102)。そして、ウォーミングアップ開始と同時に温度センサ26sにて加熱ローラ26aの温度が測定され、定着開始温度に達したかを判断する(S103)。
【0073】
定着開始温度に達していない場合(S103のNO)はウォーミングアップを継続し、達している場合(S103のYES)は待機モードへ移行する(S104)。待機モードでは、加熱ローラ26aの温度が定着開始温度を維持するだけの電力が熱源に供給される(S104)。
【0074】
次に、凝縮器(放熱板)105のウォーミングアップ開始と同時に、温度センサ116にて放熱板の温度が測定され、定着に必要なプレ加熱温度に達したかを判断する(S105)。定着に必要なプレ加熱温度に達していない場合(S105のNO)はウォーミングアップを継続し、達している場合(S105のYES)は待機モードへ移行する(S106)。待機モードでは、凝縮器(放熱板)105の温度が定着に必要なプレ加熱温度を維持するだけの回転数に圧縮機が維持される(S106)。
【0075】
その後、プリント動作が実行される(S107)。プリント動作が実行されると、記録材Pに熱が奪われて凝縮器105の冷媒圧力が低下する。インバータ制御部115は、圧力計108により凝縮器105出口の圧力を測定し(S108)、測定した圧力で図4のP−h線図を参照して冷媒の凝縮温度を算出する(S109)。
【0076】
インバータ制御部115は、凝縮器(放熱板)105の温度センサ116にて凝縮器(放熱板)105の温度を測定し、放熱板温度が算出された凝縮温度(S109)以上か否かを判断する(S110)。
【0077】
インバータ制御部115は、凝縮温度以上となっていない場合、圧縮機104へ出力する周波数を上げて回転数を上げる制御を行う(S111)。回転数の増加に伴い、冷媒循環量が増えて、凝縮器(放熱板)105から放熱される熱量が増加する。その結果、図4のP−h線図で示されるような所定のヒートポンプサイクルが維持される。
【0078】
インバータ制御部115は、凝縮温度以上となっている場合、プリント動作終了かを判断する(S112)。プリント動作が終了せず継続する場合S112は、ステップS103に戻ってプリント動作終了までS103〜S112を繰り返す。しかし、プリント動作が終了する場合(S112のYES)、ヒートポンプを停止して(S113)、加熱ローラ26aの加熱源に電力供給を停止し(S114)、画像形成装置(1:図1)をストップする。
【0079】
実施例1で使用したヒートポンプの凝縮器105であるアルミプレート放熱板の放熱面サイズは320mm×400mmである。放熱板内に銅管を約5m蛇行して配置しており、圧縮機を運転してから120秒程度で放熱面の過熱蒸気入口側の温度が定着に必要なプレ加熱温度である70℃となるようにヒートポンプ101内の冷媒量を調整した。
【0080】
使用した冷媒は、一般的な代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)の一種である代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)のR134a(登録商標)を使用した。ヒートポンプ101を圧縮機104の最大周波数である75Hzで稼動し、放熱面の冷媒入口側の温度が70℃になったところで、圧縮機104の周波数を調整しながら放熱面温度を維持した。
【0081】
記録材Pには、A4サイズで厚さ100μmの普通紙を用いた。搬送速度400mm/secで記録材Pを連続的に搬送開始させ、予め定着可能となって待機中の定着装置26を通して永久画像とした。凝縮器(放熱板)105の放熱面の搬送方向の長さは400mmなので、記録材の加熱時間は1秒であった。
【0082】
この時、上記の制御により、ヒートポンプの消費電力は約280Wであった。そして、凝縮器105と膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の測定値は1.6MPaで図4に示す凝縮温度は60℃程度であった。そして、凝縮器(放熱板)105の温度は、冷媒入口側が68℃で凝縮温度の60℃よりも高くなっていた。そして、搬送ベルト102により、記録材Pは、凝縮器(放熱板)105の冷媒出口側から冷媒入口側へ搬送され、記録材P上のトナー表面温度は25℃から63℃まで上昇していた。記録材Pは、凝縮器(放熱板)105中央部付近まで搬送される間に、凝縮温度とほぼ同じ温度の凝縮器(放熱板)105の温度まで加熱され、凝縮器(放熱板)105冷媒入口付近の搬送後半部でさらに温度が上昇していた。
【0083】
凝縮器(放熱板)105と熱交換して加熱された熱容量の小さい記録材Pは、高温で熱量が小さい過熱蒸気が流れている放熱板の冷媒入口側でも加熱することが可能で、トナー109が転写されている記録材Pの温度を上げることができた。記録材Pの連続搬送中は、凝縮器105と膨張弁106の間に取り付けられた凝縮部の圧力ゲージ108が1.6MPaで安定に維持され、ヒートポンプの消費電力も280Wで一定であった。
【0084】
実施例1の制御によれば、乾き蒸気の冷媒の顕熱を用いる第1の熱交換部において、大きな熱量を記録材Pに移転させることができる。このため、凝縮器105の放熱不足が低減し、安定な逆冷凍サイクルを維持できるため、圧縮機104の消費電力を必要以上に上げることなく予備加熱が可能となり、省エネルギー効果が上がる。
【0085】
一方、凝縮器(放熱板)105の冷媒入口と冷媒出口とを逆にして、記録材Pを凝縮器(放熱板)105の冷媒入口側から冷媒出口側へ搬送して定着装置26に受け渡す実験を行った。その結果、記録材P上のトナー109の表面温度は25℃から58℃までしか上昇しなかった。これは、過熱蒸気が流れる冷媒入口側の凝縮器(放熱板)105は、未加熱の記録材Pに冷やされるため、熱量が小さい過熱蒸気では高温を維持できず、凝縮器(放熱板)105の温度が凝縮温度とほぼ同じの60℃まで低下したためである。
【0086】
予備加熱中に記録材Pの温度が凝縮温度に達してしまうと、記録材Pは、ヒートポンプ101の凝縮器105から放熱される熱量をそれ以上に得ることができないので、長時間このような状態が継続されれば凝縮器105の放熱不足を招くことになる。
【0087】
その結果、凝縮器105で冷媒が液化して過冷却されることなく膨張弁106にて減圧されるため、安定なヒートポンプサイクルを維持できず、圧縮機104の運転圧力が高くなってしまう。すると、圧縮機104の運転圧力と消費電力はほぼ比例の関係にあることから、ヒートポンプ101の消費電力が上がってしまう。
【0088】
以上から、記録材Pの搬送方向は、凝縮器(放熱板)105の低温側となる冷媒出口側から高温側となる冷媒入口側、つまり冷媒の放熱板内の循環方向と対向する凝縮器(放熱板)105の低温側から高温側へ搬送される必要がある。
【0089】
<実施例1の効果>
図9に示すように、予備加熱されて定着装置26に受け渡されるトナー像Gを担持した記録材Pの温度と、定着装置26で消費される電力量の関係をコンピュータシミュレーションにより調べた。計算で用いた定着条件は、実施例1の上記条件に加えて以下の通りである。
【0090】
加熱ローラ26aの周速は360mm/secであり、平均ニップ圧は2.2kgf/cm2であり、ニップ幅は8mmである。加熱ローラ26aは中心に配置したハロゲンランプヒータの加熱源からの輻射エネルギーにて、表面温調温度が180℃に加熱、維持される。記録材Pは、用紙坪量105g/m2で、その上にトナー像Gが厚さ10μmで載っている。
【0091】
図9に示すように、トナー像G及び記録材Pが室温程度の25℃では、定着装置26の消費電力は約1000Wである。予備加熱による温度上昇と共に定着装置26の消費電力が低減され、約10℃上昇することで100W程度の消費電力が削減できる。
【0092】
よって、搬送ベルト102を備えた予備加熱装置100によって、ヒートポンプ101の消費電力を必要以上に上げずに、可能な限り記録材Pの温度を上げることで、永久画像を形成する際の定着に使われる消費電力を低減できる。
【0093】
実施例1では、記録材P上のトナー像Gの表面温度は25℃から63℃まで上昇していたことから、図9の関係から見ると、定着装置26の消費電力を約400W低減できたことになる。ヒートポンプの消費電力280Wを考慮してもトータルの消費電力が120W低減された。
【0094】
<実施例2>
図10は実施例2の予備加熱装置の構成の説明図である。図11は実施例2におけるベルト熱交換器の熱交換温度分布の説明図である。
【0095】
図2に示すように、実施例2の予備加熱装置100は、実施例1と同様に、記録材Pを搬送ベルト102で搬送してヒートポンプ101により予備加熱する。実施例1との相違点は、凝縮器(放熱板)105の第1熱交換部と第2熱交換部とを熱的に分離した構成となっている点である。
【0096】
図10に示すように、凝縮器105bと凝縮器105aとは、熱的に分離され、凝縮器105bの熱交換部の質量は、凝縮器105bの熱交換部の質量よりも小さい。
【0097】
第2の熱交換部の一例である凝縮器105aは、凝縮器105bで放熱した冷媒を用いて凝縮器105bよりも低い加熱温度で記録材を加熱する。凝縮器105aは、凝縮器105bで冷媒の凝縮温度に冷却された冷媒の潜熱を用いて記録材を加熱する。凝縮器105aでは、記録材Pが冷媒の凝縮温度まで加熱される。
【0098】
第1の熱交換部の一例である凝縮器105bは、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材Pを加熱する。凝縮器105bは、冷媒の凝縮温度を越える温度に加熱された冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する。凝縮器105bでは、記録材Pが冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱される。凝縮器105bは、加熱部側の一例である定着装置26側の加熱温度が第2の熱交換部側の一例である凝縮器105a側の加熱温度よりも高い。
【0099】
図11の(a)に示すように、実施例2の予備加熱装置100は、冷媒が凝縮して湿り蒸気となっている凝縮器(放熱板)105aと過熱蒸気となっている凝縮器(放熱板)105bとが熱的に分離して構成される。凝縮器105aの搬送ベルト102との接触面である放熱面と、凝縮器105bの搬送ベルト102との接触面である放熱面とが断熱分離している。
【0100】
ヒートポンプ101の凝縮器(放熱板)105bの放熱面サイズは320mm×80mm、凝縮器(放熱板)105aの放熱面サイズは320mm×320mmとし、それぞれを5mm程度離した。2つの放熱板内に蛇行して配置した銅管の全長は約5mで、ヒートポンプ内の冷媒量は実施例1と同じにした。
【0101】
図11の(b)に示すように、湿り蒸気が流れる凝縮器105aと過熱蒸気が流れる凝縮器105bとを別々のものとし、搬送ベルト102との接触面であるそれぞれの放熱面を断熱分離する。これにより、定着装置側の凝縮器(放熱板)105bを、給紙側の凝縮器(放熱板)105aの飽和蒸気B’入口の温度よりもさらに高温にすることが可能である。
【0102】
図11の(c)に示すように、断熱分離された凝縮器(放熱板)105aと凝縮器(放熱板)105bの温度分布は不連続になる。凝縮器(放熱板)105bの温度は、凝縮器(放熱板)105aの飽和蒸気B’入口側よりも高温となるため、図7の(c)に示す実施例1よりも記録材Pの温度を上げることができる。
【0103】
記録材Pの温度をさらに上げることで、定着装置26の消費電力をさらに削減できるため、圧縮機104の消費電力を上げることなく省エネルギー効果が高まる。温度上昇に伴って凝縮器(放熱板)105bから記録材Pに熱交換される熱量が増えるので、凝縮器(放熱板)105bの放熱不足が低減してヒートポンプサイクルも安定する。
【0104】
<ヒートポンプの制御>
図10に示すように、記録材Pが搬送ベルト102によって搬送されながら凝縮器105a、105bと熱交換して加熱される際、ヒートポンプ101において、図4、図5に示すヒートポンプサイクルが安定に維持されたとする。このとき、定着装置26に近い側の凝縮器105bは、図4のヒートポンプサイクルの過熱蒸気が流れるBからB’の状態に保たれ、記録材Pが給紙される側の凝縮器105aは、凝縮状態の湿り蒸気と過冷却液が流れるB’からCの状態に保たれている。
【0105】
この状態で、記録材Pは、凝縮器(放熱板)105aと搬送ベルト102との接触面から放熱される熱量Q1’と、凝縮器(放熱板)105bと搬送ベルト102との接触面から放熱される熱量Q1’’とにより加熱される。
【0106】
このため、それぞれの放熱板で放熱されるQ1’とQ1’’の放熱量比(エンタルピ変化量の比)が、定着装置26に近い側の凝縮器(放熱板)105bの放熱面積と給紙側の凝縮器(放熱板)105aの放熱面積の比となるように制御する。記録材Pの違いや搬送速度の違いなどにより、凝縮器(放熱板)105と記録材Pとの熱交換の状態が変化した場合には、図4及び図5のヒートポンプサイクルが変化して、Q1’とQ1’’の放熱量比(エンタルピ変化量の比)が変わる可能性がある。このような場合、図4及び図5のヒートポンプサイクルを維持するために、インバータ制御部115は、圧縮機104の回転数を制御して冷媒循環量を調整する。
【0107】
具体的には、温度センサ116が定着装置26側の凝縮器(放熱板)105bに設けられ、図8に示すフローチャートの制御のステップS108以下で次のようなフローを行う。
【0108】
インバータ制御部115は、圧力計108により測定された圧力で図4のP−h線図を参照して、冷媒の凝縮温度T0を算出する(S109)。
【0109】
インバータ制御部115は、凝縮器(放熱板)105bの温度センサ116にて凝縮器(放熱板)105bの温度を測定する。そして、凝縮器(放熱板)105の温度が凝縮温度T0以上となっているかを、算出した温度(S109)と比較して判断する(S110)。
【0110】
インバータ制御部115は、凝縮温度T0以上となっていない場合、圧縮機104の周波数を上げて回転数を上げる制御を行う(S111)。回転数の増加に伴い冷媒循環量が増え、凝縮器(放熱板)105から放熱される熱量が増加して、図4のP−h線図で示されるヒートポンプサイクルが維持される。
【0111】
<実施例2の効果>
実施例2について、定着装置26と予備加熱装置100の合計の消費電力の削減効果を調べた。実施例2で使用した画像形成装置は実施例1と同じ装置であり、画像形成プロセスに伴うヒートポンプの制御も実施例1と同じである。
【0112】
ヒートポンプ101を圧縮機104の最大周波数である75Hzで稼動し、凝縮器105bの温度が定着に必要なプレ加熱温度である80℃になったところで、圧縮機104の周波数を調整しながら凝縮器105bの温度を維持させた。
【0113】
搬送速度400mm/secで記録材Pを連続的に搬送を開始し、予め定着可能となって待機中の定着装置26を通し永久画像とした。記録材Pには、A4サイズで厚さ100μmの普通紙を用いた。この時、ヒートポンプの消費電力は約280Wであった。
【0114】
凝縮器105aと膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の指値は1.6MPaで凝縮温度は60℃であった。凝縮器(放熱板)105bの温度は75℃で冷媒の凝縮温度よりも高く、さらに実施例1の凝縮器(放熱板)105の温度よりも高くなっていた。
【0115】
搬送ベルト102により記録材Pは、凝縮器105aの冷媒出口側から凝縮器105bの冷媒入口側へ搬送され、記録材P上の表面温度は25℃から68℃まで上昇していた。記録材Pは、凝縮器(放熱板)105a上を搬送される間に既に凝縮温度付近まで加熱され、実施例1の凝縮器105より高い温度の凝縮器105b上を搬送されることで、さらに温度が上昇した。
【0116】
その結果、実施例1より記録材P上のトナー温度をさらに5℃上げることができた。また、記録材Pの連続搬送中に凝縮器105aと膨張弁106の間に取り付けられた圧力計108の指値は1.6MPaで安定に維持され、圧縮機104の消費電力は280Wで一定であった。
【0117】
図9の記録材加熱温度と定着装置26の消費電力の関係は実施例1と共通であるため、実施例2では、図9から定着装置26の消費電力を約450W低減できたことになる。ヒートポンプ101の消費電力280Wを考慮しても、トータルの消費電力が170W低減され、実施例1よりもさらに50W低減された。ヒートポンプ101の消費電力を必要以上に上げることなく、トナー像の定着に使われる消費電力を1000Wから830Wに低減することができた。
【0118】
実施例2の予備加熱装置では、省エネルギー効果を高めた蒸気圧縮逆冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を予備加熱源とすることで、トナーが転写された記録材の温度を冷媒の凝縮温度以上に予備加熱することができる。
【0119】
これにより、定着装置26のさらなる省エネルギー化が図れる。また、放熱板との熱交換効率が上がるため放熱不足が低減し、安定した逆冷凍サイクルを維持することで、圧縮機の消費電力を必要以上に上げずに記録材の予備加熱ができるので、さらに省エネルギー効果が高まる。
【0120】
<実施例3>
実施例1、2では、一般的な代替フロン(ハイドロフルオロカーボン)を使用して、蒸発過程も凝縮過程も冷媒が湿り蒸気相を含むヒートポンプサイクルの実施例を説明した。しかし、本発明は、ヒートポンプサイクルを行う限りにおいて、冷媒は代替フロンには限られず、凝縮過程は湿り蒸気相には限られない。
【0121】
例えば、現在、広く用いられている炭酸ガスのヒートポンプサイクルでも実施できる。炭酸ガスのヒートポンプサイクルは、蒸発過程は湿り蒸気相で行われるが、凝縮過程は過熱蒸気相から直接液相へ相転移することが特徴である。
【0122】
図2に示すように、実施例3では、第1の熱交換部の一例である凝縮器105の定着装置26側部分は、ヒートポンプ101の圧縮機104で圧縮して加熱された過熱蒸気の炭酸ガスの顕熱を用いて記録材Pを加熱する。第2の熱交換部の一例である凝縮器105の二次転写部(T2)側部分は、凝縮器105の定着装置26側部分で放熱した冷媒を用いて凝縮器105の定着装置26側部分よりも低い加熱温度で記録材Pを加熱する。そして、搬送手段の一例である搬送ベルト102は、凝縮器105の二次転写部(T2)側部分で加熱された記録材Pを凝縮器105の定着装置26側部分へ搬送して、凝縮器105の定着装置26側部分で加熱された記録材Pを定着装置26へ受け渡す。
【0123】
<実施例4>
近年、トナーの低融点化によって定着装置の消費電力の低減が図られている。また、炭酸ガスサイクルのような高温利用が可能な冷媒により、ヒートポンプサイクルの加熱温度の高温化が可能となっている。したがって、将来、特許文献2に示されるように、定着装置において電力で直接加熱を行う熱源を持たずに、ヒートポンプサイクルによる加熱のみでトナー像の定着を行う可能性もある。
【0124】
この場合、冷媒の顕熱を用いて記録材Pの加熱加圧を行うこととすれば、冷媒の凝縮温度よりも融点の高いトナーのトナー像を定着することができる。トナーの融点よりも低い凝縮温度の冷媒を用いて、ヒートポンプサイクルによる加熱のみでトナー像の定着を行うことができる。
【0125】
しかし、記録材にトナー像を定着させる場合、実際にトナー像の加熱・溶融に使用されるエネルギーはごくわずかであり、消費電力のほとんどは、記録材をトナーの溶融温度100℃よりもかなり低い60℃程度の温度に加熱するために使用されている。したがって、そのような記録材の単なる加熱においては、既存の冷媒の凝縮温度でも十分に対処できる。既存の冷媒を用いたヒートポンプを活用することで、消費電力の数倍〜10数倍のエネルギーを記録材の予備加熱に使用できる。
【0126】
また、ヒートポンプで最終的な加熱加圧を行う場合、加熱ニップの温度制御を正確に行うことは容易でない。電気的な制御と加熱との間にヒートポンプが介在して、応答性と調整精度を損なわせているからである。
【0127】
例えば、温度変更のためにヒートポンプの圧縮機の回転数を変化させた場合、ヒートポンプの凝縮器温度が変化して定着ニップの温度が変化するまでに相当な遅れ時間が発生する。また、ヒートポンプの圧縮機の回転数を加熱ニップの温度制御のために利用すると、凝縮器の圧力変動がヒートポンプサイクルを不安定にする可能性もある。
【0128】
したがって、像加熱装置にヒートポンプを使用する場合、最終の加熱ニップは、ハロゲンランプヒータ等の輻射加熱、電磁誘導のような電磁加熱、ヒータのような抵抗加熱を用いて直接的な加熱を行うことが望ましい。電気的に応答速度の高い温度制御を行えるからである。そして、記録材を単に加熱するための膨大なエネルギー供給を予備加熱の形でヒートポンプに担わせることで、定着ニップの加熱に関して大幅な省電力化、温度制御の精密化、小型化が可能になる。
【0129】
実施例4では、図2に示すように、ヒートポンプ101を用いて予備加熱した記録材Pを、ごく簡単な定着装置26を用いて最終的な定着温度まで加熱する。定着装置26は、電気的に加熱及び温度制御された加熱ニップNを用いてトナー画像を担持した記録材Pを加圧状態で加熱する。
【0130】
予備加熱装置100は、ヒートポンプ101を用いて記録材Pを予備加熱して定着装置26に受け渡す。予備加熱装置100は、トナー画像を担持した記録材Pを、加圧することなく搬送しつつ、トナー画像の反対側の面からヒートポンプ101を用いて加熱ニップNよりも低い温度に予備加熱して加熱ニップNへ受け渡す。
【符号の説明】
【0131】
1 画像形成装置、Pa、Pb、Pc、Pd 画像形成部
8 中間転写ベルト、17 記録材カセット、22 二次転写ローラ
26 定着装置、101 ヒートポンプ、102 搬送ベルト
103 搬送ローラ、104 圧縮機、105、105a、105b 凝縮器
106 膨張弁、107 蒸発器、108 圧力計、111 銅管
112 アルミプレート、114 ファン、115 インバータ制御部
116 温度センサ P 記録材、G トナー像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部を備え、ヒートポンプを用いて記録材を予備加熱して前記加熱部に受け渡す像加熱装置において、
前記ヒートポンプの圧縮機で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する第1の熱交換部と、
前記第1の熱交換部で放熱した冷媒を用いて前記第1の熱交換部よりも低い加熱温度で記録材を加熱する第2の熱交換部と、
前記第2の熱交換部で加熱された記録材を前記第1の熱交換部へ搬送して前記第1の熱交換部で加熱された記録材を前記加熱部へ受け渡す搬送手段と、を備えることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記第1の熱交換部は、冷媒の凝縮温度を越える温度に加熱された冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱し、
前記第2の熱交換部は、前記第1の熱交換部で冷媒の凝縮温度に冷却された冷媒の潜熱を用いて記録材を加熱し、
前記第1の熱交換部は、前記加熱部側の加熱温度が前記第2の熱交換部側の加熱温度よりも高いことを特徴とする請求項1記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記第2の熱交換部では、記録材が冷媒の凝縮温度まで加熱され、前記第1の熱交換部では、記録材が冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱されることを特徴とする請求項2記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記第1の熱交換部と前記第2の熱交換部とが熱的に分離され、前記第1の熱交換部の質量は、前記第1の熱交換部の質量よりも小さいことを特徴とする請求項3記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記圧縮機は可変の出力で冷媒を圧縮し、前記第1の熱交換部の冷媒を凝縮温度を越える所定温度に保つように前記圧縮機の出力を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記搬送手段は、記録材の担持面の裏側面を、前記第1の熱交換手段の放熱面と前記第2の熱交換手段の放熱面とに摺擦させて回転する無端ベルトで構成され、記録材は、前記無端ベルトを介して前記第2の熱交換手段及び前記第1の熱交換手段により加熱されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項7】
トナー像を形成して記録材に転写する画像形成手段と、
トナー像が転写された記録材を加熱加圧して記録材にトナー像を定着させる請求項1乃至6のいずれか1項記載の像加熱装置と、を備え、
前記ヒートポンプの蒸発器は、前記加熱部の排熱を用いて前記冷媒を蒸発させて乾き蒸気まで加熱して前記ヒートポンプの圧縮機に供給することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
抵抗加熱又は輻射加熱又は電磁加熱により加熱されて電気的に温度制御された加熱ニップを用いてトナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部と、
前記トナー画像を担持した記録材を搬送しつつ、前記トナー画像の反対側の面から、加圧することなく、ヒートポンプを用いて前記加熱ニップよりも低い温度に予備加熱して前記加熱ニップへ受け渡す予備加熱部と、を備えたことを特徴とする像加熱装置。
【請求項1】
トナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部を備え、ヒートポンプを用いて記録材を予備加熱して前記加熱部に受け渡す像加熱装置において、
前記ヒートポンプの圧縮機で圧縮して加熱された過熱蒸気の冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱する第1の熱交換部と、
前記第1の熱交換部で放熱した冷媒を用いて前記第1の熱交換部よりも低い加熱温度で記録材を加熱する第2の熱交換部と、
前記第2の熱交換部で加熱された記録材を前記第1の熱交換部へ搬送して前記第1の熱交換部で加熱された記録材を前記加熱部へ受け渡す搬送手段と、を備えることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記第1の熱交換部は、冷媒の凝縮温度を越える温度に加熱された冷媒の顕熱を用いて記録材を加熱し、
前記第2の熱交換部は、前記第1の熱交換部で冷媒の凝縮温度に冷却された冷媒の潜熱を用いて記録材を加熱し、
前記第1の熱交換部は、前記加熱部側の加熱温度が前記第2の熱交換部側の加熱温度よりも高いことを特徴とする請求項1記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記第2の熱交換部では、記録材が冷媒の凝縮温度まで加熱され、前記第1の熱交換部では、記録材が冷媒の凝縮温度を越える温度まで加熱されることを特徴とする請求項2記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記第1の熱交換部と前記第2の熱交換部とが熱的に分離され、前記第1の熱交換部の質量は、前記第1の熱交換部の質量よりも小さいことを特徴とする請求項3記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記圧縮機は可変の出力で冷媒を圧縮し、前記第1の熱交換部の冷媒を凝縮温度を越える所定温度に保つように前記圧縮機の出力を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記搬送手段は、記録材の担持面の裏側面を、前記第1の熱交換手段の放熱面と前記第2の熱交換手段の放熱面とに摺擦させて回転する無端ベルトで構成され、記録材は、前記無端ベルトを介して前記第2の熱交換手段及び前記第1の熱交換手段により加熱されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項7】
トナー像を形成して記録材に転写する画像形成手段と、
トナー像が転写された記録材を加熱加圧して記録材にトナー像を定着させる請求項1乃至6のいずれか1項記載の像加熱装置と、を備え、
前記ヒートポンプの蒸発器は、前記加熱部の排熱を用いて前記冷媒を蒸発させて乾き蒸気まで加熱して前記ヒートポンプの圧縮機に供給することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
抵抗加熱又は輻射加熱又は電磁加熱により加熱されて電気的に温度制御された加熱ニップを用いてトナー画像を担持した記録材を加圧状態で加熱する加熱部と、
前記トナー画像を担持した記録材を搬送しつつ、前記トナー画像の反対側の面から、加圧することなく、ヒートポンプを用いて前記加熱ニップよりも低い温度に予備加熱して前記加熱ニップへ受け渡す予備加熱部と、を備えたことを特徴とする像加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−173513(P2012−173513A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35453(P2011−35453)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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