説明

像加熱装置及びこの像加熱装置に用いる発熱ベルト

【課題】発熱ベルトの回転を行うことなく発熱ベルトの周方向での温度ムラの発生を抑制できるようにする。
【解決手段】
像加熱装置に用いられる筒形状の発熱ベルト11において、前記発熱ベルトは、電力が供給されて発熱する発熱層11aと、表面離型層11bと、を有し、前記発熱層は樹脂材料中に導電性フィラー11a1が分散している層であり、ベルト母線方向における前記発熱層のシート抵抗R1は、ベルト周方向における前記発熱層のシート抵抗R2よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載する定着装置(定着器)として用いれば好適な像加熱装置及びこの像加熱装置に用いられる発熱ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やプリンタに搭載する定着装置(定着器)として、フィルム加熱方式の定着装置が知られている。このフィルム加熱方式の定着装置は、セラミックス製の基板上に通電発熱体を有するヒータと、ヒータと接触しつつ回転する筒状の定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有する。未定着トナー画像を担持する記録材はニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。このタイプの定着装置は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温する時間が短いというメリットを有する。従って、この定着装置を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、1枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First Print Out Time)を短くできる。またこのタイプの定着装置は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
ところで、フィルム加熱方式の定着装置では、定着フィルムの内面側に配設されたヒータで定着フィルムが加熱され、この定着フィルムの表面でトナー像が加熱定着されるため、定着フィルムの熱伝導性の向上が重要となる。しかし、定着フィルムを薄膜化して熱伝導性を改善しようとすると定着フィルムの機械的特性が低下し、定着フィルムを高速に回転させることが難しくなるといった課題がある。この問題を解決するために、特許文献1乃至特許文献3には、定着ベルト自体に発熱体を設け、この発熱体に通電することにより定着ベルトを直接発熱させるタイプの定着装置が提案されている。このタイプの定着装置は、発熱体への通電を開始し定着ベルトが定着可能温度まで昇温する時間がさらに短く、消費電力もさらに小さく、定着ベルトの回転の高速化などの面からも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−066539号公報
【特許文献2】特開平06−202513号公報
【特許文献3】特開2007−272223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定着ベルトを直接発熱させるタイプの定着装置では、定着ベルトにおいて定着ベルトの軸線に沿う長手方向両端部に設けられる電極部材間を直線で結ぶ領域で発熱量が最大となり、定着ベルトの周方向で電極部材から遠い領域ほど発熱量が小さくなる。このため、定着べルトには定着ベルトの周方向に温度ムラが発生する。そこで、定着ベルトの発熱体への通電の開始と同時に加圧ローラを回転させ、加圧ローラの回転に追従させて定着ベルトを回転させる。定着ベルトを回転させることで、定着ベルトの周方向に温度ムラを発生させることなく定着ベルト全体を均一に昇温させることが可能となる。ところが、定着ベルトを回転させると、定着ベルトの熱で加圧ローラ表面全体を加熱することになるため、定着ベルトの昇温速度が遅くなる。このため、定着ベルトの発熱体への通電を開始し定着ベルトが定着可能温度まで昇温する時間が長くなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、発熱ベルトの回転を行うことなく発熱ベルトの周方向での温度ムラの発生を抑制できるようにした像加熱装置及びこの像加熱装置に用いられる発熱ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る発熱ベルトの構成は、像加熱装置に用いられる筒形状の発熱ベルトにおいて、前記発熱ベルトは、電力が供給されて発熱する発熱層と、表面離型層と、を有し、前記発熱層は樹脂材料中に導電性フィラーが分散している層であり、ベルト母線方向における前記発熱層のシート抵抗は、ベルト周方向における前記発熱層のシート抵抗よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る像加熱装置の構成は、筒形状の発熱ベルトと、前記発熱ベルトの外面に接触し前記発熱ベルトとの間にニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、前記発熱ベルトは、電力が供給されて発熱する発熱層と、表面離型層と、を有し、前記発熱層は樹脂材料中に導電性フィラーが分散している層であり、ベルト母線方向における前記発熱層のシート抵抗は、ベルト周方向における前記発熱層のシート抵抗よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
本発明の更なる目的は、添付図面を参照しつつ以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発熱ベルトの回転を行うことなく発熱ベルトの周方向での温度ムラの発生を抑制できるようにした像加熱装置及びこの像加熱装置に用いられる発熱ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は定着装置の定着ベルトと加圧ローラの関係を表す外観斜視図、(b)は(a)に示す定着ベルトと加圧ローラの横断面模式図
【図2】(a)は定着ベルトの発熱層の斜視図、(b)は定着ベルトの発熱層の層構成を表す断面図、(c)は比較例定着ベルト(1)の層構成の断面図
【図3】画像形成装置の一例の構成模式図
【図4】実施例2の定着装置に用いる定着ベルトの層構成の断面図
【図5】実施例3の定着装置を搭載するフルカラーの画像形成装置の構成模式図
【図6】(a)は実施例3の定着装置に用いる定着ベルトの層構成を表す断面図、(b)は比較例定着ベルト(3)の層構成の断面図
【図7】実施例4の定着装置に用いる定着ベルトの層構成の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図3は本発明に係る像加熱装置を定着装置(定着器)として搭載する画像形成装置の一例の構成模式図である。この画像形成装置は、電子写真技術を利用して記録紙やOHPシートなどの記録材に画像を形成するレーザービームプリンタ(以下、プリンタと記す)である。本実施例1に示すプリンタは、ホストコンピュータなどの外部装置(不図示)から出力されるプリント指令に応じて制御部(不図示)が所定の画像形成制御シーケンスを実行し、この画像形成制御シーケンスに従って所定の画像形成動作を行う。制御部はCPUとROMやRAMなどのメモリとからなり、メモリには画像形成制御シーケンス及び画像形成に必要な各種プログラムなどが記憶されている。
【0013】
本実施例1のプリンタは、記録材上にトナー画像を形成する画像形成部と、記録材上の未定着のトナー画像を記録材に加熱定着する定着部(以下、定着装置と記す)と、を有している。画像形成制御シーケンスが実行されると、画像形成部において、先ず像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1が所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向に回転される。そしてこの感光ドラム1の外周面(表面)が帯電部材としての帯電ローラ2によって一様に帯電される。次にこの感光ドラム1表面の帯電面に対し光走査装置3により画像情報に応じてON/OFF制御されたレーザービームLによる走査露光が施され、感光ドラム1表面の帯電面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。そしてこの静電潜像が現像装置4によりトナー(現像剤)を用いてトナー画像として現像される。
【0014】
一方、給送カセット(不図示)より所定の記録材搬送機構(不図示)によって給送されてきた記録材Pは、感光ドラム1表面と転写部材としての転写ローラ5の外周面(表面)との間の転写ニップ部へと搬送される。この記録材Pは転写ニップ部で感光ドラム1表面と転写ローラ5表面とで挟持搬送される。そして感光ドラム1表面のトナー画像は記録材Pの搬送過程において転写ローラ5により記録材P上に転写される。これによって記録材Pはトナー画像を担持する。
【0015】
トナー画像を担持した記録材Pは定着装置7に導入され、この定着装置7より熱と圧力を受けることによってトナー画像は記録材P上に加熱定着される。トナー画像が加熱定着された記録材Pは所定の記録材排出機構(不図示)によって排出トレイ(不図示)上に排出される。
【0016】
トナー画像の転写後の感光ドラム1表面は、感光ドラム1表面に残留する残トナーがクリーニング部材としてのクリーニングブレード6によって除去され、次の画像形成に供される。
【0017】
(2)定着装置
以下の説明において、定着装置及び定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。また長手方向とは後述する定着ベルトの軸線に沿う方向でもある。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向である。長さとは長手方向の寸法である。幅とは短手方向の寸法である。
【0018】
図1において、(a)は定着装置の定着ベルトと加圧ローラの関係を表す外観斜視図、(b)は(a)に示す定着ベルトと加圧ローラの横断面模式図である。本実施例1に示す定着装置7は、発熱ベルトとしての定着ベルト11と、ガイド部材としてのベルトガイド13と、バックアップ部材としての加圧ローラ12などを有している。定着ベルト11と、ベルトガイド13と、加圧ローラ12は、何れも長手方向に長い部材である。
【0019】
定着ベルト11は筒状(筒形状)に形成されている。そしてこの定着ベルト11は横断面略半円弧状の樋型に形成されたベルトガイド13に対し周長に余裕をもってルーズに外嵌されている。ベルトガイド13は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等を用いて形成されている。本実施例1ではベルトガイド13の材料として液晶ポリマーを用いた。このベルトガイド13は、ベルトガイド13の長手方向両端部が定着装置7の装置フレーム(不図示)に支持されている。
【0020】
加圧ローラ12は、芯金12aと、芯金12aの長手方向両端部の被支持部12aR,12aL以外の外周面上に設けられた弾性体層12bと、弾性体層12bの外周面上に設けられた最外層の離形層12cなどを有している。本実施例1では、芯金12aはアルミ芯金を用い、弾性体層12bはシリコーンゴムを用い、離形層12cはPFAをコーティングしたものを用いた。定着ベルト11の下方で定着ベルト11と平行に配された加圧ローラ12は、芯金12aの長手方向両端部の被支持部12aR,12aLが装置フレームに軸受(不図示)を介して回転可能に支持されている。そしてこの加圧ローラ12に対して加圧ローラ12の母線方向と直交する方向でベルトガイド13の長手方向両端部を加圧ばねなどの加圧手段(不図示)により加圧している。これによって定着ベルト11の外周面(表面(外面))を加圧ローラ12の外周面(表面)に加圧状態に加圧し加圧ローラの弾性体層12bを弾性変形させている。これにより定着ベルト11表面と加圧ローラ12表面との間に所定幅の定着ニップ部(ニップ部)Nを形成している。
【0021】
図2を参照して、定着ベルト11の構成を詳しく説明する。図2において、(a)は定着ベルトの発熱層を表す斜視図、(b)は定着ベルトの発熱層の層構成を表す断面図である。
【0022】
本実施例1に示す定着ベルト11は、通電によって発熱する筒状の発熱層11aを有している。発熱層11aは、樹脂材料11a1と、樹脂材料11a1中に分散された導電性フィラー11a2と、を有している。樹脂材料11a1は、耐熱性樹脂であるポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPSなどにより形成されている。導電性フィラー11a2は、その形状が異方性を有し、長手方向がベルトの周方向に配向している。導電性フィラーとして、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル等のカーボンナノ材料、金属微粒子または金属酸化物微粒子などを用いている。樹脂材料11a1に対する導電性フィラーの配合量は30〜60重量%が好ましい。なお、本実施例では長さ150μmのカーボンナノチューブをポリイミド中に分散したものを発熱層として用いている。図2(a)では、導電性フィラー11a2が円形に並んでいるように図示しており、また、図2(b)では、導電性フィラー11a2が等間隔に並んでいるように図示している。しかしながら、これら図は導電性フィラーの配向方向を示しているに過ぎない。上述のように導電性フィラー11a2は樹脂材料中に分散しているので、発熱層中にランダムに存在している。ただし、導電性フィラーは、その長軸がベルト周方向に配向している。
【0023】
本実施例1の定着ベルト11は、導電性フィラーがベルト周方向に配向しているため、発熱層11aのシート抵抗Ω/□(ohm/square)には異方性を付与することができる。つまり、発熱層11aの長手方向(ベルト母線方向)のシート抵抗をR1、発熱層11aの周方向のシート抵抗をR2とすると、R1>R2の関係が成り立つ。従って、発熱層11aの長手方向の電気的なシート抵抗R1は発熱層11aの周方向のシート抵抗R2よりも大きい。なお、シート抵抗R1とR2の比率は、ベルト11の周方向の一部でベルトを母線方向に切り開いて長方形のシート状態とし、更に、長辺を短辺と同じ長さに揃えて正方形とし、正方形の対向する2辺に抵抗値測定用の端子を取り付けて測定したもの(対向する2辺は二組あるのでそれぞれ測定する)で代用できる。導電性フィラー(分散材)を発熱層11aの周方向に配向させる製法としては、例えば回転している円筒状の金型に対して、導電性フィラーを分散させたポリイミド前駆体溶液をビーム塗工する方法がある。また商用電源を用いて画像形成装置を動作させる場合、電源の容量、印刷速度、定着装置の立上げ速度などを考慮すると、定着ベルト11へ投入する電力は100W〜1500Wが好ましい。従って、発熱層11aの長手方向(母線方向)の両端間(すなわち給電用電極間)における抵抗値は5Ω〜100Ωの範囲にあることが好ましい。また発熱層11aの厚みは前記抵抗値(5Ω〜100Ω)の範囲と定着ベルト11の強度を考慮して30〜200μmが好ましい。発熱層11aの外周面上には記録材Pが担持するトナー画像T(図1(b)参照)との離型性を確保するために離型層(表面離型層)11bが設けられている。離型層11bは、PTFE、PFA、FEP等の耐熱性フッ素樹脂からなる。そして離型層11bは、発熱層11aの外周面上にプライマー層(不図示)を介して接着されている。この離型層11bには、カーボンやイオン導電性の電気抵抗制御物質(有機リン酸、5酸化アンチモン、酸化チタン)を分散させてもよい。
【0024】
発熱層11aの長手方向両端部の領域11aR,11aL(図1(a)参照)において発熱層11aの周方向の所定の位置には、この発熱層11aに電力を供給するための電極部材16R,16Lが接続される。電極部材16R,16Lが接続される発熱層11aの長手方向両端部の領域(以下、給電領域と記す)11aR,11aLにはAg等の導電剤を塗布してあってもよい。
【0025】
(3)定着装置の加熱定着動作
図1の(b)を参照して、定着装置の加熱定着動作を説明する。制御部は、プリント指令に応じてモータMを回転駆動する。モータMの出力軸の回転は所定のギア列(不図示)を介して加圧ローラ12の芯金12aに伝達される。これにより加圧ローラ12は所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向へ回転する。加圧ローラ12の回転は定着ニップ部Nにおいて加圧ローラ12表面と定着ベルト11表面との摩擦力によって定着ベルト11に伝達される。これにより定着ベルト11は、定着ベルト11の発熱層11aの内周面(内面)がベルトガイド13の外周面と接触しながら加圧ローラ12の回転に追従して回転する。また制御部は、プリント指令に応じてAC電源15より電極部材16R,16Lを介して定着ベルト11の発熱層11aに通電を開始する。これによって発熱層11aが発熱し定着ベルト11は急速に昇温する。定着ベルト11の温度は発熱層11a内面に接触又は近接されているサーミスタなどの温度検知部材17により検知される。この温度検知部材17は装置フレーム又はベルトガイドに所定のブラケットを介して支持されている。そして制御部は、温度検知部材17からの出力信号(温度検知信号)を取り込み、この出力信号に基づいて定着ベルト11が所定の定着温度(目標温度)を維持するように電力を制御する。モータMを回転駆動し、かつ、発熱層11aに通電を行っている状態において、未定着のトナー画像Tを担持した記録材Pがトナー画像担持面を上向きにして定着ニップ部Nに導入される。この記録材Pは定着ニップ部Nにおいて定着ベルト11表面と加圧ローラ12表面とにより挟持されその状態に搬送(挟持搬送)される。この搬送過程において記録材P上のトナー画像Tは定着ベルト11により加熱されて溶融し定着ニップ部Nで加圧されることにより記録材P上に加熱定着される。そしてトナー画像Tが加熱定着された記録材Pは定着ニップ部Nから記録材排出機構に向けて搬送される。
【0026】
(4)評価
本実施例1の定着装置と比較例の定着装置について立ち上がり時間の比較を行った。本実施例1の定着装置と比較例の定着装置のそれぞれの定着ベルトの構成について以下に説明する。説明の便宜上、本実施例1の定着ベルトを実施例定着ベルト(1)と記し、比較例の定着ベルトを比較例定着ベルト(1)と記す。比較例定着ベルト(1)において、実施例定着ベルト(1)と共通する部分には同じ符号を付している。図2の(c)に比較例定着ベルト(1)の層構成の断面図を示す。
【0027】
<実施例定着ベルト(1)>
図2の(b)に示すように、実施例定着ベルト(1)は、発熱層11aと離型層11bとを有する2層構造である。発熱層11aとして厚みが60μmのポリイミドを用いた。そして発熱層11a中に分散する導電性フィラーとしてカーボンナノファイバー(長さ150μm)を用いた。カーボンナノファイバーはその長軸がベルト周方向に配向している。ポリイミドからなる樹脂材料11a1に対する導電性フィラー(カーボンナノファイバー)の配合量は40重量%である。この発熱層11aにおいて長手方向のシート抵抗R1と周方向のシート抵抗R2の比は、1.6:1であった。離型層11bとして厚みが10μmのPFAを発熱層11aの外周面上にコーティングしている。実施例定着ベルト(1)の内径はφ24mm、長さは230mmである。実施例定着ベルト(1)において発熱層11aの長手方向両端部の給電領域11aR,11aLは離型層11bをコーティングせずに発熱層11aを露出させている。実施例定着ベルト(1)の発熱層11aの長手方向の両端間における抵抗値は15Ωであった。
【0028】
<比較例定着ベルト(1)>
比較例定着ベルト(1)は、実施例定着ベルト(1)と同様、発熱層11aと、発熱層11aの外周面上に設けられた離型層11bと、を有する2層構造である。発熱層として厚みが60μmのポリイミドを用いた。そしてこの発熱層に導電性フィラーとしてカーボンナノファイバーを35重量%配合した。このときカーボンナノファイバーは長手方向及び周方向どちらにも配向せずに均一に分散した。つまり、発熱層11aは、発熱層11aのシート抵抗には異方性がなく長手方向及び周方向でシート抵抗が略均一になるように作られている。離型層11bとして厚みが10μmのPFAを発熱層11aの外周面上にコーティングしている。比較例定着ベルト(1)の内径はφ24mm、長さは230mmである。比較例定着ベルト(1)において発熱層11aの長手方向両端部の給電領域11aR,11aLは、離型層11bをコーティングせずに発熱層11aを露出させている。比較例定着ベルト(1)の発熱層11aの長手方向両端間における抵抗値は15Ωであった。
【0029】
<立ち上がり時間の比較>
上記の実施例定着ベルト(1)を用いた定着装置と比較例定着ベルト(1)を用いた定着装置において、実施例定着ベルト(1)と比較例定着ベルト(1)の立ち上がり時間を計測した。即ち、実施例定着ベルト(1)と比較例定着ベルト(1)について、通電を開始してから未定着のトナー画像を定着できる温度まで昇温する時間(立ち上がり時間)を計測した。実施例定着ベルト(1)を用いた定着装置と比較例定着ベルト(1)を用いた定着装置の加圧ローラ12は同じものを用いている。この加圧ローラ12の外径はφ25mmである。そしてAlの芯金12aの外周面上にシリコーンゴムによって弾性層12bを形成し、この弾性層12bの外周面をPFA樹脂で覆うことによって離型層12cを形成した。実施例定着ベルト(1)と比較例定着ベルト(1)には、それぞれ600Wの一定の電力を投入した。実施例定着ベルト(1)と比較例定着ベルト(1)において、通電を開始してから実施例定着ベルト(1)及び比較例定着ベルト(1)の表面温度が160℃に到達するまでの時間を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例定着ベルト(1)は、発熱層11aの長手方向のシート抵抗R1が発熱層11aの周方向のシート抵抗R2よりも高い。このため、発熱層11aの長手方向両端部から電極部材16R,16Lを介して発熱層11aに通電した場合、発熱層11aに流れる電流は発熱層11aの周方向に回り込み易くなる。その結果、比較例よりも発熱層11aの広い領域で発熱するため、装置立上げ時に実施例定着ベルト(1)を回転させる必要がない。よって、装置を定着可能状態まで立ち上げる時に加圧ローラ12の周方向の一部に熱伝達するだけとなり、実施例定着ベルト(1)の昇温速度が速い。これに対して、比較例定着ベルト(1)は、発熱層11aの軸線11oに沿う長手方向のシート抵抗R1と発熱層11aの周方向のシート抵抗R2が均一である。そのため、発熱層11aの長手方向両端部から電極部材16R,16Lを介して発熱層11aに通電した場合、発熱層11aに流れる電流は電極部材16R,16L間を直線で結ぶ領域に集中しやすい。その結果、発熱層11aの周方向の一部が発熱することになるため、発熱層11aの周方向に温度ムラが生じる可能性がある。そこで、立ち上げ時は発熱層11aへの通電の開始と同時に加圧ローラ12を回転させ、加圧ローラ12の回転に追従させて比較例定着ベルト(1)を回転させるようにする。比較例定着ベルト(1)を回転させることにより、発熱層11aの周方向に温度ムラを発生させることなく発熱層11a全体を均一に昇温させることが可能となるが、加圧ローラ12表面全体を加熱することになるので、昇温速度が遅くなった。
【0032】
本実施例1の定着装置7は、定着ベルト11の発熱層11aのシート抵抗に異方性がある。即ち、発熱層11aの長手方向(通電方向)のシート抵抗R1を発熱層11aの周方向のシート抵抗R2よりも大きくしている。これにより発熱層11aの長手方向両端部の給電領域11aR,11aLを直線で結ぶ領域の電流密度が小さくなり、定着ベルト11の周方向の温度ムラが抑制される。よって、立ち上げ時に加圧ローラ12を回転させる必要がなくなり、定着ベルト11を定着温度に昇温させるための時間を短縮することができる。さらに、定着ベルト11の周方向の温度ムラが抑制されることから、電極部材16R,16Lの配置に関しては定着ベルト11の周方向の任意の位置を選択でき、電極部材16R,16Lの配置の自由度が増す。
【0033】
[実施例2]
本実施例2では、実施例1の定着装置よりもより高速にトナー画像Tの加熱定着を行うことのできる定着装置について説明する。実施例1の定着装置と同じ部材・部分については、同じ符号を付して再度の説明を省略する。図4に本実施例2の定着装置に用いる定着ベルトの層構成の断面図を示す。
【0034】
高速にトナー画像Tの加熱定着を行うためには、発熱源である定着ベルト11を効率的に加熱する必要がある。つまり、発熱層11aで発生した熱がより効率的に定着ベルト11表面に伝熱することが重要であり、そのためには定着ベルト11内側のベルトガイド13への伝熱を最小にしなければならない。本実施例2の定着装置7では、定着ベルト11の内面を断熱するために、定着ベルト11の発熱層11aの内周面(内面)上に基層としての絶縁層11c(図4参照)を設け、この絶縁層11cの外周面とベルトガイド13の外周面を接触させている。従って、定着ベルト11の層構成は、絶縁層11cと、絶縁層11cの外周面上に設けられた発熱層11aと、発熱層11aの外周面上に設けられた離型層11bの3層構造である。
【0035】
本実施例2に示す定着装置7は、発熱層11aの内周面上に絶縁層11cを有する定着ベルト11を用いるため、定着ベルト11の発熱層11aからのベルトガイド13への伝熱が抑制される。このため、定着ベルト11を定着温度に昇温させるための時間をさらに短縮することができる。よって、実施例1の定着装置7よりもより高速にトナー画像Tの加熱定着を行うことができる。
【0036】
[実施例3]
(1)フルカラーの画像形成装置例
本実施例3では、フルカラーの画像形成装置に搭載する定着装置について説明する。実施例1の定着装置と同じ部材・部分については、同じ符号を付して再度の説明を省略する。図5は本実施例3の定着装置を搭載するフルカラーの画像形成装置の構成模式図である。
【0037】
本実施例3に示すフルカラーの画像形成装置は、電子写真技術を利用して記録紙やOHPシートなどの記録材に画像を形成するフルカラーのレーザービームプリンタ(以下、フルカラープリンタと記す)である。本実施例3に示すフルカラープリンタは、ホストコンピュータなどの外部装置(不図示)から出力されるプリント指令に応じて制御部(不図示)が所定の画像形成制御シーケンスを実行し、この画像形成制御シーケンスに従って所定の画像形成動作を行う。制御部はCPUとROMやRAMなどのメモリとからなり、メモリには画像形成制御シーケンス及び画像形成に必要な各種プログラムなどが記憶されている。
【0038】
本実施例1のフルカラープリンタは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー画像を形成する画像形成部51Y,51M,51C,51Bkを有している。またこの画像形成部で形成したトナー画像を担持する中間像担持体としての中間転写ベルト61を有している。また中間転写ベルト61から記録材Pに転写された記録材P上の未定着のトナー画像(不図示)を記録材Pに加熱定着する定着部(以下、定着装置と記す)65を有している。画像形成制御シーケンスが実行されると、各画像形成部51Y,51M,51C,51Bkが順次駆動され、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)52が所定の周速度(プロセススピード)で矢印方向に回転される。中間転写ベルト61は、各画像形成部51Y,51M,51C,51Bkの感光ドラム52に跨るように、駆動ローラ58と、従動ローラ59と、2次転写対向ローラ60に掛け回されている。そしてこの中間転写ベルト61は、駆動ローラ58の回転駆動によって矢印方向へ各感光ドラム52の回転周速度と対応した周速度で回転される。
【0039】
先ず1色目のイエローの画像形成部51Yにおいて、感光ドラム52の外周面(表面)が帯電部材としての帯電ローラ53によって一様に帯電される。次にこの感光ドラム52表面の帯電面に対し光走査装置57により画像情報に応じてON/OFF制御されたレーザービームLによる走査露光が施され、感光ドラム52表面の帯電面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。そしてこの静電潜像が現像装置54によりトナー(現像剤)を用いてトナー画像として現像される。同様の帯電、露光、現像の各工程が、2色目のマゼンタの画像形成部51M、3色目のシアンの画像形成部51C、4色目のブラックの画像形成部51Bkにおいても行われる。
【0040】
各画像形成部51Y,51M,51C,51Bkにおいて、1次転写部材としての1次転写ローラ55が中間転写ベルト61を挟んで各感光ドラム52と対向配置されている。そして各画像形成部51Y,51M,51C,51Bkにおいて感光ドラム52表面に形成された各色のトナー画像は1次転写ローラ55によって中間転写ベルト61の外周面(表面)上に順番に重ねて転写される。これにより中間転写ベルト61表面にフルカラーのトナー画像が担持される。トナー画像転写後の感光ドラム52表面は、感光ドラム52表面に残留する残トナーがクリーニング部材としてのクリーニングブレード56によって除去され、次の画像形成に供される。
【0041】
一方、給送カセット(不図示)より所定の記録材搬送機構(不図示)によって給送されてきた記録材Pは、中間転写ベルト61表面と2次転写部材としての2次転写ローラ64の外周面(表面)との間の転写ニップ部へと搬送される。この記録材Pは転写ニップ部で中間転写ベルト61表面と2次転写ローラ64表面とで挟持搬送される。そして中間転写ベルト61表面のフルカラーのトナー画像は記録材Pの搬送過程において2次転写ローラ64により記録材P上に転写される。これによって記録材Pはフルカラーのトナー画像を担持する。フルカラーのトナー画像転写後の中間転写ベルト61表面は、中間転写ベルト61表面に残留する残トナーがクリーニング部材としてのクリーニングブレード63によって除去され、次の画像形成に供される。
【0042】
フルカラーのトナー画像を担持した記録材Pは定着装置65に導入され、この定着装置65より熱と圧力を受けることによってトナー画像は記録材P上に加熱定着される。フルカラーのトナー画像が加熱定着された記録材Pは所定の記録材排出機構(不図示)によって排出トレイ(不図示)上に排出される。
【0043】
(2)定着装置
本実施例3の定着装置65の構成は、定着ベルト11を下記の3層構成とした点を除いて、実施例1の定着装置7の構成と同じである。図6において、(a)は本実施例3の定着装置に用いる定着ベルトの層構成を表す断面図である。本実施例3の定着装置65は、フルカラーのトナー画像を記録材Pに加熱定着するため、光沢ムラ、OHT透過性、ハーフトーン画像の一様性といった画質の観点で、定着ベルト11に弾性層を設けることが好ましい。つまり、定着ベルト11の発熱層11aの外周面上に弾性層11d(図6(a)参照)を設け、この弾性層11dの外周面上に離型層11bを設けている。弾性層11dはシリコーンゴムからなる。そして弾性層11dの厚みは50〜500μmが好ましい。
【0044】
(3)評価
本実施例3の定着装置65と比較例の定着装置について立ち上がり時間の比較を行った。本実施例3の定着装置と比較例の定着装置のそれぞれの定着ベルトの構成について以下に説明する。説明の便宜上、本実施例3の定着ベルト11を実施例定着ベルト(3)と記し、比較例の定着ベルトを比較例定着ベルト(3)と記す。比較例定着ベルト(3)において、実施例定着ベルト(3)と共通する部分には同じ符号を付している。図6の(b)に比較例定着ベルト(3)の層構成の断面図を示す。
【0045】
<実施例定着ベルト(3)>
図6の(a)に示すように、実施例定着ベルト(3)は、発熱層11aと、発熱層11aの外周面上に設けられた弾性層11dと、弾性層11dの外周面上に設けられた離型層11bと、を有する3層構造である。発熱層11aとして厚みが60μmのポリイミドを用いた。そして発熱層11a中に分散する導電性フィラーとしてカーボンナノファイバー(長さ150μm)を用いた。ポリイミドに対する導電性フィラー(カーボンナノファイバー)の配合量は40重量%である。この発熱層11aにおいて長手方向のシート抵抗R1と周方向のシート抵抗R2の比は、1.6:1であった。弾性層11dの材料はシリコーンゴムであり、弾性層11dの厚みは300μmである。離型層11bとして厚みが10μmのPFAを弾性層11dの外周面上にコーティングしている。実施例定着ベルト(3)の内径はφ24mm、長さは230mmである。実施例定着ベルト(3)において発熱層11aの長手方向両端部の給電領域11aR,11aLは弾性層11dと離型層11bを形成せずに発熱層11aを露出させている。実施例定着ベルト(3)の発熱層11aの長手方向両端間における抵抗値は15Ωであった。
【0046】
<比較例定着ベルト(3)>
比較例定着ベルト(1)は、実施例定着ベルト(3)と同様、発熱層11aと、発熱層11aの外周面上に設けられた弾性層11dと、弾性層11dの外周面上に設けられた離型層11bと、を有する3層構造である。発熱層11aとして厚みが60μmのポリイミドを用いた。そして発熱層に分散する導電性フィラーとしてカーボンナノファイバー(長さ150μm)を35重量%配合した。このときカーボンナノファイバーは長手方向及び周方向いずれにも配向させることなく均一に分散した。つまり、発熱層11aは、発熱層11aのシート抵抗には異方性がなく長手方向及び周方向でシート抵抗が略均一になるように作られている。弾性層11dはシリコーンゴムからなる。そして弾性層11dの厚みは300μmである。離型層11bとして厚みが10μmのPFAを弾性層11dの外周面上にコーティングしている。比較例定着ベルト(3)の内径はφ24mm、長さは230mmである。比較例定着ベルト(3)において発熱層11aの長手方向両端部の給電領域11aR,11aLは、弾性層11dと離型層11bをコーティングせずに発熱層11aを露出させている。比較例定着ベルト(3)の発熱層11aの長手方向の両端間における抵抗値は15Ωであった。
【0047】
<立ち上がり時間の比較>
上記の実施例定着ベルト(3)を用いた定着装置と比較例定着ベルト(3)を用いた定着装置において、実施例定着ベルト(3)と比較例定着ベルト(3)の立ち上がり時間を計測した。即ち、実施例定着ベルト(3)と比較例定着ベルト(3)について、通電を開始してから未定着のトナー画像を定着できる温度まで昇温する時間(立ち上がり時間)を計測した。実施例定着ベルト(3)を用いた定着装置と比較例定着ベルト(3)を用いた定着装置の加圧ローラ12は同じものを用いている。この加圧ローラ12の外径はφ25mmである。そしてAlの芯金12aの外周面上にシリコーンゴムによって弾性層12bを形成し、この弾性層12bの外周面をPFA樹脂で覆うことによって離型層12cを形成した。実施例定着ベルト(3)と比較例定着ベルト(3)には、それぞれ600Wの一定の電力を投入した。実施例定着ベルト(1)と比較例定着ベルト(1)において、通電を開始してから実施例定着ベルト(1)及び比較例定着ベルト(1)の表面温度が160℃に到達するまでの時間を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例定着ベルト(3)は、発熱層11aの長手方向のシート抵抗R1が発熱層11aの周方向のシート抵抗R2よりも高い。このため、発熱層11aの長手方向両端部から電極部材16R,16Lを介して発熱層11aに通電した場合、発熱層11aに流れる電流は発熱層11aの周方向に回り込み易い。その結果、比較例よりも発熱層11aの広い領域で発熱するため、装置立上げ時に実施例定着ベルト(1)を回転させる必要がない。よって、装置を定着可能状態まで立ち上げる時に加圧ローラ12の周方向の一部に熱伝達するだけとなり、実施例定着ベルト(3)の昇温速度が速い。これに対して、比較例定着ベルト(3)は、発熱層11aの長手方向のシート抵抗R1と発熱層11aの周方向のシート抵抗R2が均一である。そのため、発熱層11aの長手方向両端部から電極部材16R,16Lを介して発熱層11aに通電した場合、発熱層11aに流れる電流は電極部材16R,16L間を直線で結ぶ領域に集中しやすい。その結果、発熱層11aの周方向の一部が発熱することになるため、発熱層11aの周方向に温度ムラが生じる可能性がある。そこで、立ち上げ時は発熱層11aへの通電の開始と同時に加圧ローラ12を回転させ、加圧ローラ12の回転に追従させて比較例定着ベルト(3)を回転させるようにする。比較例定着ベルト(3)を回転させることにより、発熱層11aの周方向に温度ムラを発生させることなく発熱層11a全体を均一に昇温させることが可能となるが、加圧ローラ12表面全体を加熱することになるので、昇温速度が遅くなった。
【0050】
本実施例3の定着装置65は、フルカラーのトナー画像を記録材Pに加熱定着させるために、定着ベルト11の発熱層11aの外周面上に弾性層11dを設けたものである。これによりフルカラーの画像を加熱定着したときに光沢ムラ、OHT透過性、ハーフトーン画像の一様性といった画質の観点で良好な画像が得られる。またこの定着ベルト11を用いた場合でも、立ち上げ時に加圧ローラ12を回転させる必要がなくなり、定着ベルト11を定着温度に昇温させるための時間を短縮することができる。
【0051】
[実施例4]
本実施例4では、実施例3の定着装置65よりもより高速にフルカラーのトナー画像の加熱定着を行うことのできる定着装置について説明する。実施例3の定着装置65と同じ部材・部分については、同じ符号を付して再度の説明を省略する。図7に本実施例4の定着装置に用いる定着ベルトの層構成の断面図を示す。
【0052】
高速にフルカラーのトナー画像の加熱定着を行うためには、発熱源である定着ベルト11を効率的に加熱する必要がある。つまり、発熱層11aで発生した熱がより効率的に定着ベルト11表面に伝熱することが重要であり、そのためには定着ベルト11内側のベルトガイド13への伝熱を最小にしなければならない。本実施例4の定着装置65では、定着ベルト11の内面を断熱するために、発熱層11aの内周面(内面)上に基層としての絶縁層11c(図7参照)を設け、この絶縁層11cの外周面とベルトガイド13の外周面を接触させている。従って、定着ベルト11の層構成は、絶縁層11cと、絶縁層11cの外周面上に設けられた発熱層11aと、発熱層11aの外周面上に設けられた弾性層11dと、弾性層11dの外周面上に設けられた離型層11bの4層構造である。
【0053】
本実施例4に示す定着装置65は、発熱層11aの内周面上に絶縁層11cを有する定着ベルト11を用いるため、定着ベルト11の発熱層11aからのベルトガイド13への伝熱が抑制される。このため、立ち上げ時に加圧ローラ12を回転させる必要がなくなり、定着ベルト11を定着温度に昇温させるための時間をさらに短縮することができる。よって、実施例3の定着装置65よりもより高速にフルカラーのトナー画像の加熱定着を行うことができる。また定着ベルト11の発熱層11aの外周面上に弾性層11dを設けているため、フルカラーの画像を加熱定着したときに光沢ムラ、OHT透過性、ハーフトーン画像の一様性といった画質の観点で良好な画像が得られる。
【0054】
[その他の実施例]
実施例1乃至実施例4の定着装置は、未定着のトナー画像を記録材に加熱定着する装置としての使用に限られない。例えば未定着のトナー画像を加熱して記録材に仮定着する装置、或いは記録材に加熱定着されているトナー画像を加熱してトナー画像表面に光沢を付与する装置としても使用できる。
【符号の説明】
【0055】
7:定着装置、11:定着ベルト、11a:発熱層、11b:離型層、11a1:導電性フィラー、12:加圧ローラ、R1:発熱層の長手方向のシート抵抗、R2:発熱層の周方向のシート抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像加熱装置に用いられる筒形状の発熱ベルトにおいて、
前記発熱ベルトは、電力が供給されて発熱する発熱層と、表面離型層と、を有し、前記発熱層は樹脂材料中に導電性フィラーが分散している層であり、ベルト母線方向における前記発熱層のシート抵抗は、ベルト周方向における前記発熱層のシート抵抗よりも大きいことを特徴とする発熱ベルト。
【請求項2】
前記導電性フィラーの形状は異方性を有し、前記導電性フィラーは前記樹脂材料中でベルト周方向に配向していることを特徴とする請求項1に記載の発熱ベルト。
【請求項3】
前記ベルト母線方向における前記発熱層の両端間の抵抗値は5Ω〜100Ωであることを特徴とする請求項2に記載の発熱ベルト。
【請求項4】
前記発熱層中の前記導電性フィラーの配合量は30〜60重量%であることを特徴とする請求項3に記載の発熱ベルト。
【請求項5】
前記発熱層と前記表面離型層の間には弾性層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発熱ベルト。
【請求項6】
筒形状の発熱ベルトと、前記発熱ベルトの外面に接触し前記発熱ベルトとの間にニップ部を形成するバックアップ部材と、を有する像加熱装置において、
前記発熱ベルトは、電力が供給されて発熱する発熱層と、表面離型層と、を有し、前記発熱層は樹脂材料中に導電性フィラーが分散している層であり、ベルト母線方向における前記発熱層のシート抵抗は、ベルト周方向における前記発熱層のシート抵抗よりも大きいことを特徴とする像加熱装置。
【請求項7】
前記導電性フィラーの形状は異方性を有し、前記導電性フィラーは前記樹脂材料中でベルト周方向に配向していることを特徴とする請求項6に記載の像加熱装置。
【請求項8】
前記ベルト母線方向における前記発熱層の両端間の抵抗値は5Ω〜100Ωであることを特徴とする請求項7に記載の像加熱装置。
【請求項9】
前記発熱層中の前記導電性フィラーの配合量は30〜60重量%であることを特徴とする請求項8に記載の像加熱装置。
【請求項10】
前記発熱層と前記表面離型層の間には弾性層が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の像加熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−145656(P2011−145656A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255788(P2010−255788)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】