説明

像加熱装置

【課題】 所定のキュリー温度を持つ整磁合金を用いた電磁誘導加熱方式の加熱装置において、薄紙時の非通紙部昇温による画像不良を防止する。
【解決手段】 磁場発生手段3により導電部材1(1a)に磁場を作用させて導電部材に発生する渦電流による発熱により被加熱材Pを加熱する電磁誘導加熱方式の加熱装置において、前記導電部材は所定のキュリー温度を持つように組成を調整した整磁合金であって、前記導電部材の端部を冷却する冷却手段27a、27bを備え、普通紙時よりも定着温度が低い薄紙時で冷却手段による冷却効果を大きくすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子写真方式や静電記録方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において、記録材に形成されたトナー像を加熱する像加熱装置として用いられる電磁誘導加熱方式の像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式等の画像形成装置には、記録材に形成されたトナー像を記録材に加熱定着させる像加熱装置を備える。この像加熱装置は、一般に、記録材上のトナーを加熱する像加熱部材と、これに圧接して記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材とを有する。この像加熱ベルトを加熱する構成として、例えば特許文献1に開示されるように、発熱効率の高い電磁誘導加熱方式を用いた構成(誘導加熱装置)が提案されている。この誘導加熱装置は、金属導体(導電部材、磁性材料、誘導発熱体)に渦電流を発生させ、金属導体自体の表皮抵抗によってジュール発熱させる。この誘導加熱装置によれば、発熱効率が極めて向上するため、ウォームアップ時間の短縮が可能となる。
【0003】
このような誘導加熱装置の構成であっても、像加熱部材の幅方向の長さが短いサイズの記録材を通紙する場合、記録材の通過する部分(通紙部)よりも通過しない部分(非通紙部)の温度が高くなってしまう(以下、非通紙部昇温と称す)。このため、ゴム層を有する通紙部と非通紙部において、ゴム層の熱膨張差により記録材の搬送速度に差が生ずる。この速度差によって、記録材の搬送性が低下し、記録材の画像不良が発生する場合がある。
【0004】
この非通紙部昇温を低減する構成として、例えば特許文献2に開示されるように、像加熱部材のキュリー温度を所定の定着温度付近に調整した整磁合金を用いた誘導加熱装置が提案されている。所定温度に調整されたキュリー温度を持つ整磁合金を用いることで、像加熱部材は所定温度以上に加熱を抑えることができる。そのため、上述の非通紙部昇温を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−33787号公報
【特許文献2】特開2000−39797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような構成において、キュリー温度に近づくと発熱効率が低下する傾向にあることから、像加熱部材のキュリー温度は、コイルへの通電制御を行うことにより温度制御された記録材上の画像を加熱する像加熱温度よりも高い温度に設定される。
【0007】
薄紙等の小さい熱量で画像を加熱することができる記録材を通紙する場合には、像加熱温度を低い温度に設定するような像加熱装置に上記のような像加熱部材を用いると以下のような問題が生ずる。
【0008】
即ち、低い像加熱温度が設定されている状態で、幅の小さい記録材を通紙すると非通紙部の温度はキュリー温度近傍まで上昇する場合があるため、通紙部と非通紙部との間の温度差が大きくなりすぎる。その結果、記録材の搬送性の安定性が低下することになる。それを未然に防止するため、記録材間の間隔を大きくすることで非通紙部昇温を低減する構成が考えられるが、その場合には生産性が低下するといった問題が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、コイルと、前記コイルから生ずる磁束により発熱し、熱により記録材を加熱する像加熱部材と、前記像加熱部材を圧し、記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記像加熱手段の温度が予め設定した像加熱温度になるように前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、第一の坪量の記録材を第一設定温度で加熱する第一加熱モードと第一の坪量よりも小さい坪量の記録材を第一設定温度よりも低い温度の第二設定温度で加熱する第二加熱モードとを実行可能な実行手段と、を有し、前記像加熱部材のキュリー温度は前記第一設定温度よりも高い温度であって像加熱装置の耐熱温度よりも低い温度である像加熱装置において、少なくとも前記像加熱部材或いは前記加圧部材の一方の端部を冷却する冷却手段を有し、前記第二加熱モードで記録材の幅が通紙可能な最大サイズの記録材の幅よりも小さい記録材を連続通紙する際に、非通紙部の温度がキュリー温度よりも低い温度である予め設定した温度に達すると前記冷却手段を動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、キュリー温度が設定されている像加熱部材を用いる構成において、像加熱温度の設定幅を大きくしても、小サイズ通紙時に生産性を大きく低下させなくても、非通紙部と通紙部との温度差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における画像形成装置例の概略構成図
【図2】実施例1における定着装置(電磁誘導加熱方式の加熱装置)の横断面図
【図3】実施例1における正面模型図
【図4】実施例1における縦断正面図
【図5】定着ローラの発熱原理を示す図
【図6】所定のキュリー温度を持つ磁性体の、透磁率の温度特性を示す図
【図7】実施例1のフローチャット図
【図8】実施例1における定着装置の他の実施構成例を示す図
【図9】実施例1における定着装置の実施構成例を示す図
【図10】実施例3における定着装置の実施構成例を示す横断面図
【図11】実施例3における正面模型図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
(1)画像形成装置例
図1は本発明に従う電磁誘導加熱方式の像加熱定着装置を備えた画像形成装置の一例の概略構成模型図である。
【0014】
まず、記録材上にトナー像を形成する画像形成部について説明する。
41は像担持体としての回転ドラム型の感光体(感光ドラム)であり、矢印の方向に所定の周速度をもって回転駆動され、その回転課程において一次帯電器42によってマイナスの所定の暗電位Vdに一様に帯電処理される。43はレーザービームスキャナであり、不図示の画像読取装置、コンピュータ等のホスト装置から入力されるデジタル画像信号に対応して変調されたレーザービームLを出力し、感光ドラム41の一様帯電処理面を走査露光する。このレーザービーム走査露光により、感光ドラム41の露光部分は電位絶対値が小さくなって明電位Vlとなり、感光ドラム41面に画像信号に対応した静電潜像が形成される。静電潜像は現像器44により、感光ドラム面の露光明電位Vl部にマイナスに帯電したトナーが付着することで、トナー画像として顕像化される。
【0015】
一方、不図示の給紙トレイ上から給紙された記録材Pは、転写バイアスを印加した転写部材としての転写ローラ45と感光ドラム41の圧接部(転写部)へ感光ドラム41の回転と同期された適切なタイミングをもって搬送される。そして、記録材Pの面に感光ドラム41上のトナー画像tが順次転写される。トナー画像tが形成された記録材Pは、感光ドラム41から分離され、後述する像加熱装置である定着装置Fに導入されて、加圧加熱されることによって、トナー画像tの定着処理を受けて機外に排出される。記録材Pを分離した後の感光ドラム41の表面は、クリーニング装置46で感光ドラム表面に残ったトナー等の転写残留物の除去を受けたのち、繰り返して作像に供される。
【0016】
(2)定着装置F
次に、像加熱装置としての定着装置Fについて説明する。
図2は定着装置Fの要部の拡大横断面模型図、図3は要部の正面模型図、図4はその縦断正面模型図である。
【0017】
この定着装置Fは、電磁誘導加熱方式で定着ローラ型の加熱装置であり、互いに所定の押圧力で圧接させて所定のニップ幅(ニップ長)の定着ニップ部Nを形成する像加熱部材としての定着ローラと加圧部材としての加圧ローラ2を有するものである。
【0018】
定着ローラ1は、外径が40mm、厚さは0.5mm、長さ340mmであある。定着ローラ1の芯金1aは、キュリー温度Tcが本実施例では220℃になるように鉄、ニッケル、クロム等の材料を配合した整磁合金よりなる。また、表層1bは、厚さ30μmのトナー離型性を高めるためにPFAやPTFE等のフッ素樹脂から形成される。また、カラー画像等の高画質な定着画像を得るために、芯金1aと表層1bの間にシリコーンゴムなどの耐熱弾性層を設けても良い。
【0019】
この定着ローラ1はその両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板(定着ユニットフレーム)21・22間に軸受23を介して回転可能に支持させて配設してある。また内空部には、上記の定着ローラ1に誘導電流(渦電流)を誘起させてジュール発熱させるため磁束発生手段としてのコイル・アセンブリ3を挿入して配置してある。
【0020】
加圧ローラ2は、外径38mm、長さは330mmである。そして、外径28mm、肉厚3mmの芯金2a、芯金2aの周面に形成される厚さ5mmの耐熱弾性層2b、および耐熱弾性層2bの周面に形成されるPFA、PTFEなどのフッ素樹脂より成る厚さ30μmの表層2cとから成る。
【0021】
この加圧ローラ2は上記の定着ローラ1の下側に並行に配列して、芯金2aの両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板21・22間に軸受26を介して回転自在に保持させてある。
【0022】
そして、上記の定着ローラ1と加圧ローラ2を互いに不図示の加圧機構によって弾性体層2bの弾性に抗して圧接させて、該両ローラ1・2間に被加熱材としての記録材Pを挟持搬送してトナー像を加熱定着する幅約5mmの定着ニップ部Nを形成させている。
【0023】
ここで、本発明において、装置構成部材についてその長手方向とは、定着ニップ部Nを含む平面において記録材Pの搬送方向に対して直交する方向(或いは定着ローラの回転軸線方向)としている。また、中央部及び端部は、その長手方向の中央部及び端部である。
【0024】
定着ローラ1の内空部に挿入した磁場発生手段としてのコイル・アセンブリ3は、ボビン4、磁性コア5(1,2)、コイル6、絶縁部材製のステー7等の組み立て体である。コア5はボビン4に保持させてあり、コイル6はボビン4の周囲に電線を巻回して形成されている。このボビン4・コア5・コイル6のユニットをステー7に固定支持させてある。
【0025】
上記のコイル・アセンブリ3を定着ローラ1の内空部に挿入して所定の角度姿勢でかつ定着ローラ1の内面とコイル6との間に一定のギャップを保持させた状態にしてステー7の両端部7a・7a側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の保持部材24・25に非回転に固定支持させて配置してある。
【0026】
コア5はフェライト、パーマロイ等の、高透磁率で残留磁束密度の低い材料であって、コイル6によって発生した磁束を定着ローラ1に導く働きをする。本実施例におけるコア5は横断面T字型であり、T字の横棒部分と縦棒部分とを構成する2枚の板状コア5(1)と5(2)との組み合わせで構成させている。
【0027】
コイル6は、図4のように、定着ローラ1の長手方向に平行に延び、コア5を周回するようにボビン4の形状に合せて横長舟型に複数回巻回して両端で折り曲げられて巻かれるリッツ線を束ねたものである。そして、定着ローラ1の内周に沿うように湾曲して配置されている。6a・6bは上記コイル6の2本のリード線(コイル供給線)であり、ステー7の奥側から外部に引き出して、コイル6に高周波電流を供給する高周波インバーター(励磁回路)101に接続してある。
【0028】
サーミスタ11は定着ローラ1の温度を検知する温度検知部材としてのサーミスタである。このサーミスタについては後述する。
【0029】
12は定着前ガイド板であり、作像機構部側から定着装置Fに搬送された記録材Pを定着ニップ部Nの入口部に案内する。13は分離爪であり、定着ニップ部Nに導入されて定着ニップ部Nを出た記録材Pが定着ローラ1に巻き付くのを抑え、定着ローラ1から分離させる役目をする。14は定着後ガイド板であり、定着ニップ部Nの出口部を出た記録材Pを排紙案内する。
【0030】
前記のボビン4、ステー7、分離爪13は耐熱および電気絶縁性エンジニアリング・プラスチックから形成されている。
【0031】
G1は定着ローラ1の奥側の端部側に固着させた定着ローラドライブギアである。このドライブギアG1に駆動源M1から伝達系を介して回転力が伝達されることで、定着ローラ1が図2において矢印Aの時計方向に本実施例では300mm/secの周速度にて回転駆動される。加圧ローラ2は定着ニップ部Nでの定着ローラ1との摩擦力で定着ローラ1の回転駆動に従動して矢印の反時計方向Bに回転する。
【0032】
15は定着ローラクリーナである。これは、クリーニングウエブ155aをロール巻きに保持したウエブ繰り出し軸部15bと、ウエブ巻取り軸部15cと、該両軸部15b・15c間のウエブ部分を定着ローラ1の外面に押し付ける押し付けローラ15dからなる。押し付けローラ15dで定着ローラ1に押し付けたウエブ部分で定着ローラ1面にオフセットしたトナーが拭われて定着ローラ面が清掃される。定着ローラ1に押し付けられるウエブ部分は繰り出し軸部15b側から巻取り軸部15c側にウエブ15aが少しずつ送られることで徐々に更新される。
【0033】
本実施例では、通紙は中央基準で行われる。Sはその中央基準である。本実施例の画像形成装置においては、通紙可能な記録材の最大サイズ(以下、大サイズ紙と記す)は例えばA4横(297mm)である。また通紙できる記録材の最小サイズ(以下、小サイズ紙と記す)は例えばB5R(182mm)である。P1はその大サイズ紙の通紙領域幅、P2は小サイズ紙の通紙領域幅である。
【0034】
中央温度検知装置であるサーミスタ11は、小サイズ紙の通紙領域幅P2の略中央部に対応する定着ローラ中央部分において、定着ローラ1を隔ててコイル6に向かい合うように、定着ローラ1の表面に対してに圧接させて配置してある。
このメインサーミスタ11の定着ローラ温度検知信号は制御部(CPU)100に入力される。
【0035】
画像形成装置の制御回路部100は装置のメイン電源スイッチのONにより装置を起動させて所定の作像シーケンス制御をスタートさせる。定着装置Fは駆動源M1の起動により定着ローラ1の回転が開始される。この定着ローラ1の回転に従動して加圧ローラ2も回転する。また制御回路部100は高周波インバーター101を起動させてコイル6に高周波電流(例えば10kHz〜100kHz)を流す。これによりコイル6の周囲に高周波交番磁束が発生し、定着ローラ1が電磁誘導発熱して所定の定着温度T向かって昇温していく。この定着ローラ1の昇温がサーミスタ11で検知され、その検知温度情報が制御回路部100に入力する。
【0036】
制御回路部100はこのサーミスタ11から入力する定着ローラ1の検知温度が所定の定着温度(像加熱温度)Tに維持されるように高周波インバーター101からコイル6に供給される電力を制御して定着ローラ1を加熱し、定着温度Tでの温調を行う。制御回路部100はコイルへの通電を制御する通電制御手段としての機能を有する。
【0037】
そして、この温調状態において、定着ニップ部Nに対して作像部側から未定着トナー像tを担持した被加熱材としての記録材Pが導入されて定着ニップ部Nを挟持搬送される。これにより、定着ローラ1の熱と定着ニップ部Nの加圧力で、未定着トナー像tが記録材Pの面に加熱定着される。
【0038】
なお、本実施例1では、第一の坪量(厚み)の用紙(例えば80g/m)を加熱定着する場合は、第一加熱モードとしての普通紙モードの定着温度Tは190℃に設定される。また、第二の坪量(厚み)である薄紙(例えば60g/m)を加熱定着する場合、第二加熱モードとしての薄紙モードの定着温度Tは170℃に設定される。制御回路部100は、普通紙モードと薄紙モードとを実行可能である実行手段としての機能を有する。
【0039】
27a、27bは定着ローラ1の略両端部を冷却する、冷却手段としての冷却ファンである。冷却ファン27a、27bは、普通紙モードにて通紙する場合には動作を停止し、薄紙モードにて通紙する場合にのみ不図示の駆動手段によって動作する。
【0040】
ここで、図5を用いて、導電部材である定着ローラ芯金1aの電磁誘導発熱原理を説明する。コイル6には、高周波インバーター101から交流電流が印加され、これによってコイル6の周囲には矢印Hで示した磁束が生成消滅を繰り返す。磁束Hは、コア5(1,2)と芯金1aによって形成された磁路に沿って導かれる。コイル6が生成した磁束の変化に対して、芯金1a内では、磁束の変化を妨げる方向に磁束を発生するように渦電流が発生する。この渦電流を矢印Cで示す。
【0041】
この渦電流Cは、表皮効果により芯金1aのコイル6側の面に集中して流れ、芯金1aの表皮抵抗Rsに比例した電力で発熱を生じる。
【0042】
ここで、コイル6に印加する交流電流の周波数f(Hz)、芯金1aの透磁率μ(H/m)、芯金1aの固有抵抗ρ(Ω・m)から得られる表皮深さδ(m)および表皮抵抗Rs(Ω)は、式1および式2で示される。
【0043】
【数1】

【0044】
【数2】

【0045】
また、芯金1aに誘導される渦電流をI(A)は、芯金1a内に通過する磁束の量に比例することから、コイル6の巻き数N(回)、コイル6に印加されるコイル電流I(A)を用いて、式3で示される。
【0046】
【数3】

【0047】
以上より、芯金1aに発生する電力W(W)は、芯金1a内に誘導される渦電流Iと表皮抵抗によるジュール発熱であることから、式4で示される。
【0048】
【数4】

【0049】
式4より、芯金1aの発熱量を増加させるためには、芯金1aは、鉄やニッケル等の強磁性金属もしくはその合金のような、高透磁率で高抵抗な材料を用いればよく、コイル6の巻き数を増やしても良いことがわかる。
【0050】
また、高周波インバーター101は、コイル6に印加するコイル電流Iもしくはコイル電流の周波数fを制御することにより、芯金1aの発熱量を最適に制御することが可能となる。
【0051】
次にキュリー温度Tcについて説明する。一般に強磁性体は、材料固有のキュリー温度Tcまで加熱されると、自発磁化を失う。その結果、強磁性体の透磁率μは真空の透磁率μとほぼ等しくなり、一定となる。したがって、定着ローラ1の導電部材である芯金1aの温度がキュリー温度Tcを越えてしまうと、芯金1aの発熱量Wが減少する。
【0052】
ただし、実際には、キュリー温度Tcの前後で急に透磁率μが変化するわけではなく、図6に示すように、キュリー温度Tcよりも低い透磁率低下温度Tc’から変化が開始する。即ち、透磁率低下温度は透磁率の最大値を示す温度となる。なお、本実施例1で用いた芯金1aの透磁率低下温度Tc’は200℃であり、キュリー温度Tcは220℃である。
【0053】
ここで、芯金1aの厚さをt(m)とすると、芯金1aの温度が上昇し、芯金1aの表皮深さδが芯金1aの厚さt以上である場合、芯金1aに誘導される渦電流は、芯金1aの断面方向の全体にわたって流れる。この場合の表皮抵抗Rs’(Ω)および発熱量W’(W)は、式5および式6で示される。
【0054】
【数5】

【0055】
【数6】

【0056】
実際には、式6で示される発熱量W’と、芯金1aからの放熱量Q(W)との関係が、W’≦Qとなるような条件において、芯金1aの温度は所定の飽和温度Tsで一定となる。
【0057】
ここで、放熱量Qは、定着ローラ1表面の表面積および放射率、定着ローラ1表面の温度と周囲雰囲気および加圧ローラ2との温度差、および周囲雰囲気および加圧ローラ2への熱伝達率に依存する。
【0058】
以上より、芯金1aに所定の温度、具体的には定着温度Tよりも高く、定着装置の耐熱温度である非通紙部昇温の許容温度より低くなるようにキュリー温度Tcを調整した整磁合金を用いることによって、芯金1aの温度は所定の飽和温度Tsで一定となる。その結果、小サイズの記録材を通紙しても、非通紙部の温度は一定となる。
【0059】
一方で、上述の薄紙モードのように、透磁率低下温度Tc’およびキュリー温度Tcよりも定着温度Tが十分低い場合においては、かえって通紙部と非通紙部の温度差が大きくなる状態が起こりうる。これは、非通紙部の発熱量は透磁率低下温度Tc’を越えるまでは発熱量は通紙部とほぼ同等であり、透磁率低下温度Tc’を越えてから発熱量の低下が始まることが原因である。
【0060】
したがって、上述の薄紙モードように、透磁率低下温度Tc’およびキュリー温度Tcよりも定着温度Tがさらに低い場合においては、上述の放熱量Qを大きくすることによって、透磁率低下温度Tc’付近で速やかに温度を一定とすることが可能となる。
【0061】
例えば、従来例として、本実施例1の構成で冷却ファン27a、27bを動作させない場合について、坪量80g/mのA4R用紙を普通紙モード(定着温度(第一設定温度)190℃)にて連続通紙したときの非通紙部の飽和温度Tsは215℃となる。通紙部と非通紙部の温度差ΔTは25℃であったが、定着後の紙には、紙シワおよび擦れ画像等の画像不良は発生しなかった。
【0062】
一方、坪量60g/mのA4R用紙を薄紙モード(定着温度(第二設定温度)170℃)にて連続通紙したときの非通紙部の飽和温度Tsは210℃であり、通紙部と非通紙部の温度差ΔTは40℃であり、定着後の紙には、擦れ画像が発生した。
【0063】
上述の従来例に対して、本実施例1では、薄紙モードを選択された時には、冷却ファン27a、27bを動作させることにより、非通紙部の飽和温度Tsは200℃となる。通紙部と非通紙部の温度差ΔTは30℃となり、定着後の紙には紙シワおよび擦れ画像等の画像不良は発生しなかった。
【0064】
すなわち、本実施例1の構成にあっては、普通紙モードよりも定着温度が低い薄紙モードにおいては、普通紙モードよりも定着ローラの非通紙部の放熱量Qを大きくするため、非通紙部の温度を普通紙モード時の飽和温度よりも低くすることが出来る。その結果、通紙部と非通紙部の温度差が小さくなり、薄紙においても紙シワおよび擦れ画像等の画像不良を改善することが出来る。
【0065】
(冷却ファン動作シーケンス)
本実施例では、定着ローラ1の端部の温度を検知し、この検知温度が予め設定した設定温度に達すると、冷却ファンの動作を開始するように冷却ファンの動作を制御する。
【0066】
具体的には、図9において、大サイズ紙の通紙領域幅であるP1より外側に、第二の温度検知部材としてのサブサーミスタ28を配置している。そして、サブサーミスタ28が予め設定した設定温度に達すると、冷却ファン27a、27bを動作させる構成である。
【0067】
本実施例では、薄紙モードのように定着温度とキュリー温度との差分が大きい通紙モードで小サイズ紙を通紙した場合には、定着温度から透磁率低下温度までの温度差が大きいため、その領域での非通紙部昇温が大きくなる。そのため、本実施例では、定着温度とキュリー温度との差分が大きい通紙モードでは、定着温度から透磁率低下温度の間で冷却ファンを動作させることで、昇温が大きい領域での昇温を抑え、通紙部と非通紙部との温度差を小さくするものである。
【0068】
次に、本発明の冷却ファンの動作について、フローチャートを用いて説明する。
【0069】
本実施例では、普通紙モードと薄紙モードの二つのモードを備えた画像形成装置である。もちろん、他のモードを備える画像形成装置であってもいい。
【0070】
画像形成ジョブが入力されるとスタートする(S01).そして、制御回路部100は、その画像形成ジョブが普通紙モードであるかどうかの判断をする(S02)。普通紙モードの場合は、S03へ進み、普通紙モードでない場合は、S08に進む。普通紙モードの場合には、定着温度は190℃に設定される(S03)。次に、記録材の幅が所定の長さよりも小さいかどうかの判断が行われる(S04)。記録材の幅が所定の長さよりも小さいと判断された場合には、その記録材が通紙するものとして画像形成動作がスタートする。そして、画像形成動作中に端部の温度が210℃に達したかどうかの判断が行われる(S05)。即ち、サブサーミスタ28が第一の非通紙部温度(210℃)を検知したかどうかの判断が行われる。そして、端部の温度が210℃に達したら、冷却ファン27a、27bが動作する(S06)。その後、画像形成ジョブの画像形成が終了したかどうかの判断が行われ(S07),画像形成が終了した場合には、エンドとなる(S14)。なお、S04で記録材の幅が所定の長さよりも長い場合には、冷却ファンの動作は行なわれず、S07に進む。
【0071】
一方で、S02で普通紙モードでない場合には、本実施例では薄紙モードが選択される(S08)。薄紙モードの場合には、定着温度は170℃に設定される(S09)。次に、記録材の幅が所定の長さよりも小さいかどうかの判断が行われる(S10)。記録材の幅が所定の長さよりも小さいと判断された場合には、その記録材が通紙するものとして画像形成動作がスタートする。そして、画像形成動作中に端部の温度が190℃に達したかどうかの判断が行われる(S11)。即ち、サブサーミスタ28が第一の非通紙部温度(190℃)を検知したかどうかの判断が行われる。そして、端部の温度が190℃に達したら、冷却ファン27a、27bが動作する(S12)。その後、画像形成ジョブの画像形成が終了したかどうかの判断が行われ(S13),画像形成が終了した場合には、エンドとなる(S14)。なお、S10で記録材の幅が所定の長さよりも長い場合には、冷却ファンの動作は行なわれず、S13に進む。
【0072】
本実施例の構成により、普通紙モード(定着温度190℃)において連続通紙を行った場合には、サブサーミスタ28が第一の非通紙部温度(210℃)を検知すると、冷却ファン27a、27bが動作することによって、非通紙部の温度(飽和温度)はおよそ220℃で一定となる。一方、薄紙モード(定着温度170℃)において連続通紙を行った場合は、非通紙部の温度(飽和温度)はおよそ200℃で一定となる。
【0073】
なお、本実施例では、普通紙モードの場合にも冷却ファンを動作させるものであった。その目的は、通紙部温度と非通紙部温度との差分をできるだけ小さくすることである。しかし、普通紙モードの定着温度とキュリー温度との差は、記録材の搬送不良が生ずるほど大きくないため、冷却ファンを動作させない構成であってもいい。
【0074】
このように、本実施例により、非通紙部の温度を普通紙モード時の飽和温度よりも低くすることが出来るため、通紙部と非通紙部の温度差が小さくなり、薄紙においても紙シワおよび擦れ画像等の画像不良を改善することが出来た。
【実施例2】
【0075】
本実施例2は、加熱部材としての定着ローラの芯金の透磁率の変化を検知する透磁率検知手段として、コイルに対向して配置される検知コイルに誘導される電流もしくは電圧を検知する装置を備えることを特徴とする。
【0076】
具体的には、図10において、芯金1aを間に挟むようにコイル6に対向する、検知コイル30が配置される。また、検知コイル30に誘導される誘導電流を測定する電流検知手段としての電流計31を備え、検知コイル30と電流計31はともに閉回路を形成する。検知コイル30は、定着ローラ1の表面とは所定のギャップを維持するよう、不図示のホルダで保持されている。その他の構成に関しては、上記の実施例1と同様である。なお、図11に示すとおり、検知コイル30は、小サイズの通紙領域であるP2よりも外側の領域に配置することとする。
【0077】
次に、本実施例2においての、芯金1aの透磁率の変化を検知する方法を述べる。
所定のキュリー温度Tcになるよう調整された芯金1aの温度が上昇し、透磁率低下温度Tc’を越えると、芯金1aの透磁率は低下し、上記(式1)で示される表皮深さδ大きくなる。そして、表皮深さδが芯金1aの厚さtを越えると、コイル6a、6bが発生する磁束のうち、芯金1aの外側に漏れる量が急激に増加する。
【0078】
芯金1aの外側に漏れた磁束は、コイル6a、6bと対向して配置された検知コイル30を通過するため、検知コイル30には、芯金1aの外側に漏れた磁束をキャンセルする方向に、漏れた磁束量と比例する誘導電流が流れる。
【0079】
したがって、検知コイル30に接続された電流計31の出力から、芯金1aの透磁率の変化を検知することが可能となる。
【0080】
本実施例2は、実施例1の薄紙モード、普通紙モードの冷却ファンの動作に加えて、更に、冷却ファンの動作を追加するものである。即ち、電流計31が所定値以上を検知すると、冷却ファン27a、27bを動作させることで、非通紙部の放熱量を増加させ、非通紙部の飽和温度Tsを低下させることが出来る。
【0081】
[その他]
1)加熱部材の形態はローラ体に限られず、エンドレスベルト体など他の回転体形態にすることができる。また、加熱部材は誘導発熱体である導電部材単体の部材として構成することもできるし、導電部材の層を含む、耐熱性樹脂・セラミックス等の他の材料層との2層以上の複合層部材として構成することもできる。
2)磁束発生手段による導電部材の誘導加熱は実施例の内部加熱方式に限られず、磁束発生手段を導電部材の外側に配設した外部加熱方式の装置構成にすることもできる。
3)温度検知手段11はサーミスタに限らず、温度検知素子であればよく、また接触式でも非接触式でも構わない。
4)上記の実施例では、冷却手段として冷却ファンを用いるものであった。しかし、冷却手段は、冷却ファンの構成に限定されるものではない。例えば、冷却手段27a、27bとして、冷却ファンのほかに、高熱伝導率材料よりなる放熱ローラを用いても良い。この場合、不図示の着脱機構によって定着ローラ1に当接および離間可能であり、例えば、通常モードにおいて、放熱ローラは定着ローラ1より離間され、薄紙モードにおいては、放熱ローラは定着ローラ1に当接される。これにより、薄紙モードにおいて、定着ローラ1の放熱量を増加させ、非通紙部の飽和温度Tsを低くすることができるため、小サイズ紙の薄紙を連続通紙しても、紙シワや擦れ画像等の画像不良の発生を押さえることが可能となる。
【0082】
同様に、冷却手段として、ペルチェ素子を用いても良い。この場合は、通常モードにおいてはペルチェ素子には通電されずに、薄紙モードにおいては、ペルチェ素子に通電が行われる。
【0083】
また、本実施例1では、定着ローラ1を冷却手段27a、27bにて直接冷却したが、定着ローラ1に接触する他の部材を冷却することによって、定着ローラ1との温度差を大きくすることにより、定着ローラ1の放熱量を増やしても良い。
【0084】
定着ローラ1に当接する部材の一例として、図8に示すように、冷却手段27a、27bは加圧ローラ2を冷却しても良い。この場合、加圧ローラ2の非通紙部を冷却することで、定着ローラ1と加圧ローラ2の温度差を大きくすることにより、間接的に定着ローラ1の放熱量を増加させ、非通紙部の飽和温度Tsを低くすることができる。そのため、小サイズ紙の薄紙を連続通紙しても、紙シワや擦れ画像等の画像不良の発生を押さえることが可能となる。
【0085】
さらには、普通紙モードと薄紙モードで、冷却手段による冷却効果に関して差をつけても良い。例えば、図2に示す本実施例1において、薄紙モードにおいては冷却ファン27a、27bを等速で動作させ、普通紙モードにおいては冷却ファン27a、27bを半速で動作させてもよい。
【0086】
さらには、本実施例1においては、普通紙モードと、普通紙モードよりも定着温度の低い薄紙モードを備えるが、定着温度の設定はこれに限らない。例えば、普通紙モードおよび薄紙モードの他に、普通紙モードよりも定着温度Tが高い第三のモードとして厚紙モード等を設定しても良い。
【0087】
また、本実施例1においては、定着温度の異なるモードとして、普通紙モードと、普通紙モードよりも定着温度の低い薄紙モードを例示したが、定着温度が異なるモードであればこれに限らない。例えば、フルカラー画像を加熱定着する加熱装置において、フルカラーモードと、フルカラーモードよりも定着温度が低い単色モードにおいても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 定着ローラ(導電部材)
2 加圧ローラ
3 コイル・アセンブリ(磁場発生手段)
5 コア(磁性コア)
6 コイル
11 サーミスタ(温度検知手段)
27a、27b 冷却ファン(冷却手段)
41 感光体(感光ドラム)
42 一次帯電器
43 レーザービームスキャナ
44 現像器
45 転写ローラ
46 クリーニング装置
F 定着装置
P 記録材(被加熱材)
t トナー像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、前記コイルから生ずる磁束により発熱し、熱により記録材を加熱する像加熱部材と、前記像加熱部材を圧し、記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記像加熱手段の温度が予め設定した像加熱温度になるように前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、第一の坪量の記録材を第一設定温度で加熱する第一加熱モードと第一の坪量よりも小さい坪量の記録材を第一設定温度よりも低い温度の第二設定温度で加熱する第二加熱モードとを実行可能な実行手段と、を有し、前記像加熱部材のキュリー温度は前記第一設定温度よりも高い温度であって像加熱装置の耐熱温度よりも低い温度である像加熱装置において、
少なくとも前記像加熱部材或いは前記加圧部材の一方の端部を冷却する冷却手段を有し、前記第二加熱モードで記録材の幅が通紙可能な最大サイズの記録材の幅よりも小さい記録材を連続通紙する際に、非通紙部の温度がキュリー温度よりも低い温度である予め設定した温度に達すると前記冷却手段を動作することを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記予め設定した温度は、温度に対する透磁率の値が最大となる温度よりも小さい温度であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−104970(P2013−104970A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247814(P2011−247814)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】