説明

像加熱装置

【課題】温度調整の目標温度が下げられた場合に、回転体とベルト部材を新しい目標温度まで速やかに温度低下させて、ダウンタイムを解消できる像加熱装置を提供する。
【解決手段】離間状態では送風が加熱ニップNによる記録材の搬送面を越えて定着ベルト51へ到達するが、当接状態では定着ベルト51へ向かう送風が加圧ベルト52に遮られるように送風ファン203を配置している。制御部141は、定着ベルト51の温度調整の目標温度が下げられると、定着ベルト51と加圧ベルト52とを離間状態にして定着ベルト51を冷却する第一冷却モードを実行する。その後、定着ベルト51と加圧ベルト52とを近接離間状態にして、送風ファン203が加圧ベルト52を冷却する第二冷却モードに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体にベルト部材を圧接した加熱ニップでトナー画像を担持した記録材を加熱加圧処理する像加熱装置、詳しくは目標温度が下げられた場合に回転体とベルト部材を新しい目標温度へ速やかに対応させ得る送風装置の配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成部でトナー像を形成して記録材に転写し、トナー像が転写された記録材を、定着装置の加熱ニップで加熱加圧して記録材に画像を定着させる画像形成装置が広く用いられている。像加熱装置は、定着装置の他に、半定着又は定着済みトナー画像を担持した記録材を加熱加圧して画像表面の光沢度等を調整する画像表面処理装置を含む。
【0003】
記録材の加熱ニップを形成する加熱回転体と加圧回転体の少なくとも一方をベルト部材で構成した像加熱装置が実用化されている(特許文献1、特許文献2)。ベルト部材を用いると、ローラ部材を用いる場合よりも搬送方向に長い加熱ニップが形成されて記録材の加熱滞在時間が伸びるため、記録材の加熱効率が高まる。
【0004】
特許文献1には、加熱ローラに加圧ベルトを圧接させた定着装置が示され、カム部材を用いた接離機構によって、加熱ローラに対して加圧ベルトが接離自在である。加熱ローラと加圧ベルトに個別の温度センサ及び温度調整回路が設けられ、加熱ローラと加圧ベルトは、離間状態で待機して、それぞれの目標温度に温度調整されている。
【0005】
特許文献2には、加熱ベルトに加圧ベルトを圧接させた定着装置が示され、スリープ状態からの加熱ベルトと加圧ベルトの温度立ち上げに際して、カム部材を用いた加熱ベルトと加圧ベルトの接離機構が制御される。
【0006】
近年、画像形成装置において、材質、厚み、熱伝導率、表面性状等が大きく異なる多種類の記録材への対応が求められている。画像形成〜画像定着を行うプロセススピードについても、複数段階のプロセススピードへの対応が求められている。記録材の種類やプロセススピードが変化すると、加熱ニップにおけるトナー画像の定着条件が変化するため、加熱ニップを構成する回転体(ローラ部材又はベルト部材)とベルト部材の温度調整の目標温度がそれぞれ変更される。
【0007】
そして、回転体及びベルト部材の温度調整の目標温度が変更された場合、回転体及びベルト部材が新しいそれぞれの目標温度へ収束するまで、画像形成が中断されてダウンタイムが発生する。ここで、目標温度が高く変更された場合、加熱の投入電力を高めることで速やかにダウンタイムを解消できる。しかし、目標温度が下げられた場合、自然冷却を待っていたのでは、ダウンタイムが際限なく伸びてしまう。
【0008】
そこで、特許文献3に示されるように、回転体及びベルト部材に切り替え送風して強制冷却を行う送風装置を設けることが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−175721号公報
【特許文献2】特開2011−81079号公報
【特許文献3】特開2006−119430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に示される構成では、送風装置により冷却されているベルト部材と回転体とが接触することで、回転体の温度を下げて、ダウンタイムを短縮することができるが、回転体と接触してベルト部材が温度上昇してしまう。ベルト部材を介して回転体の冷却を行う場合、温度上昇したベルト部材をその後別途冷却すると、ベルト部材と回転体とをそれぞれの目標温度に冷却するためのトータルのダウンタイムが大きくなる。そのため、更なるダウンタイムの短縮を可能にする構成が望まれている。
【0011】
その対策として、回転体を冷却する送風装置と、ベルト部材を冷却する送風装置とをそれぞれ配置する構成が考えられるが、送風装置をそれぞれ配置すると、画像形成装置が大型化する問題が生ずる。
【0012】
そこで、送風装置を複数設けなくても、ベルト部材を冷却できるだけでなく、回転体も速やかに冷却して、低い目標温度に移行させるためのトータルのダウンタイムを短縮することができる構成が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の像加熱装置は、回転体と、前記回転体に圧接して記録材の画像を加熱する加熱ニップを形成するベルト部材と、前記回転体と前記ベルト部材とを接触及び離間するための接離機構とを備えたものである。そして、前記加熱ニップによる記録材の搬送面よりも前記ベルト部材側に配置された送風装置と、前記回転体とベルト部材とを離間することで前記送風装置からの風がベルト面に案内されて回転体に達することにより回転体とベルト部材とが冷却される第一冷却モードと、前記回転体とベルト部材との離間量を第一冷却モードよりも小さくして前記ベルト部材を前記送風装置からの風により冷却する第二冷却モードとを前記接離機構によって切換可能な制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の像加熱装置は、第一冷却モードを実行することで、加熱ニップによる記録材の搬送面越しに、回転体に送風装置の送風を当てて効率的に冷却できる。また、第二冷却モードを実行することで、ベルト部材に送風装置の送風を直接当てて効率的に冷却できる。
【0015】
したがって、送風装置を複数設けなくても、温度調整の目標温度が下げられた場合に、回転体とベルト部材を短いダウンタイムで温度低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】画像形成装置の制御系のブロック図である。
【図3】定着装置の構成の説明図である。
【図4】実施例1の冷却構成の説明図である。
【図5】実施例1の冷却制御のフローチャートである。
【図6】厚紙からコート紙へ切り替える際の冷却性能の説明図である。
【図7】スタンバイ状態から薄紙プリントへ切り替える際の冷却性能の説明図である。
【図8】実施例2の冷却構成の説明図である。
【図9】風向制御部材による冷却領域の変更の説明図である。
【図10】実施例2の冷却構成による冷却効果の説明図である。
【図11】実施例4の定着装置における冷却モードの説明図である。
【図12】実施例5の定着装置における冷却モードの説明図である。
【図13】実施例6の定着装置における冷却モードの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明は、ベルト部材側に配置された送風装置による送風を、接離機構の動作を利用して回転体側とベルト部材側とに切り替える限りにおいて、実施形態の構成の一部又は全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0018】
本実施形態では、ベルト/ベルト加熱方式の像加熱装置を説明するが、本発明は、ベルト/ローラ加熱方式、ローラ/ベルト加熱方式の像加熱装置でも実施できる。像加熱装置は、定着装置に限らず、画像形成装置から独立した単独の光沢処理装置等でも実施できる。
【0019】
像加熱装置を搭載する画像形成装置は、中間転写ベルト方式に限らず、感光ドラムから枚葉式に記録材へトナー像を転写する方式、中間転写ドラム方式、記録材搬送ベルト方式、転写ベルト方式等でも実施できる。本実施形態では、トナー像の形成/転写に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。
【0020】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図2は画像形成装置の制御系のブロック図である。図1に示すように、画像形成装置100は、中間転写ベルト130に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0021】
画像形成部Paでは、感光ドラム3aにイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト130に転写される。画像形成部Pbでは、感光ドラム3bにマゼンタトナー像が形成されて中間転写ベルト130に転写される。画像形成部Pc、Pdでは、感光ドラム3c、3dにシアントナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト130に転写される。
【0022】
二次転写ローラ11は、対向ローラ14に内側面を支持された中間転写ベルト130に当接して二次転写部T2を形成する。記録材カセット10a(10b)から引き出された記録材Pは、分離ローラ6a(6b)で1枚ずつに分離して、レジストローラ12へ送り出される。レジストローラ12は、中間転写ベルト130のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Pを送り出す。トナー像と重ねて記録材Pが二次転写部T2を挟持搬送される過程で、二次転写ローラ11に正極性の直流電圧が印加されることにより、フルカラートナー像が中間転写ベルト130から記録材Pへ二次転写される。ベルトクリーニング装置19は、記録材Pへ転写されずに中間転写ベルト130に残った転写残トナーを回収する。
【0023】
四色のトナー像を二次転写された記録材Pは、中間転写ベルト130から曲率分離して定着装置9へ送り込まれる。定着装置9は、記録材Pを加熱加圧してトナーを融解して表面に画像を定着させる。その後、排出ローラ73を通じて記録材Pが機体外へ排出される。
【0024】
画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdは、現像装置1a、1b、1c、1dで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、画像形成部Paについて説明し、画像形成部Pb、Pc、Pdについては、説明中の符号末尾のaをb、c、dに読み替えて説明されるものとする。
【0025】
画像形成部Paは、感光ドラム3aの周囲に、帯電ローラ2a、露光装置5a、現像装置1a、転写ローラ24a、ドラムクリーニング装置4aを配置している。感光ドラム3aは、帯電特性が負極性の感光層を有して200mm/secのプロセススピードで矢印方向に回転する。
【0026】
帯電ローラ2aは、感光ドラム3aの表面を一様な負極性の暗部電位VDに帯電させる。露光装置5aは、感光ドラム3aにレーザービームを回転ミラーで走査して、露光部分の表面を明部電位VLに低下させることにより画像の静電像を書き込む。現像装置1aは、トナーとキャリアを含む二成分現像剤を用いて感光ドラム3aの静電像をトナー像に現像する。
【0027】
転写ローラ24aは、感光ドラム3aと中間転写ベルト130の間にトナー像の転写部を形成する。トナーの帯電極性とは逆極性の転写電圧を転写ローラ24aに印加することにより、転写部を通過する感光ドラム3aの表面から中間転写ベルト130へトナー像が転写される。ドラムクリーニング装置4aは、転写を逃れて感光ドラム3aに残った転写残トナーを回収する。
【0028】
画像形成装置100は、給紙〜画像形成〜定着〜排紙の動作を繰り返すことで連続的なプリントが可能であり、A4サイズの普通紙において、毎分80枚のフルカラープリントを出力することができる。
【0029】
図2に示すように、画像形成装置100は、マイクロコンピュータを用いた制御部141と、ユーザーが画像形成装置100にアクセスするためのインターフェースとなる操作部142とを有する。制御部141は、画像形成装置100の各所の動作を監視、制御しつつ、各ユニット間の命令系統を統括することで、画像形成動作を取りまとめている。操作部142は、ユーザーによって、プリントジョブ情報(坪量等の記録材情報、濃度等の画像情報、プリント枚数等)の基本的な設定や、連続的に記録材の種類を切り替えてプリントする所謂「混載ジョブ」等の詳細設定が可能である。
【0030】
<定着装置>
図3は定着装置の構成の説明図である。図3中、(a)は当接状態、(b)は離間状態である。
【0031】
図3の(a)に示すように、定着装置9は、トナーの融点以上の温度に温度制御された定着ベルト51に加圧ベルト52を圧接して加熱ニップNを形成し、トナー像を担持した記録材Pを加熱ニップNで挟持搬送して、熱と圧力により定着画像を得る。ベルト部材の一例である加圧ベルト52は、回転体の一例である定着ベルト51との間に記録材の加熱ニップNを形成可能である。定着ベルト51は、加圧ベルト52の上方に配置されて加圧ベルト52よりも高い目標温度に温度調整される。
【0032】
定着装置9は、定着ベルト51と加圧ベルト52とが、記録材Pの搬送方向に連続した記録材の加熱ニップNを形成している。駆動ロール101及びパッドステー105は、加圧ロール102及び加圧パッド106との間で、加熱ニップNに位置する定着ベルト51及び加圧ベルト52を外側から加圧している。記録材Pは、図中右から左方向に通過し、加熱ニップNで加熱及び加圧されることで、画像を表面に定着される。
【0033】
定着ベルト51は、駆動ロール101とベルトテンションを付与する機能を有するテンションロール103とに掛け渡して支持される。定着ベルト51は、厚さ50μm、幅380mm、周長160mmのニッケル金属の無端ベルトに、厚さ400μmのシリコンゴムをコーティングし、表層に厚み40μmのPFAチューブを被覆している。
【0034】
駆動ロール101は、ステンレスパイプ材料によって外径がφ20に形成された中空ロールである。テンションロール103は、ステンレスパイプ材料によって外径がφ20、内径φ18に形成された中空ロールである。テンションロール103は、両端部を不図示のテンションバネに付勢されて、加圧ベルト52にテンションを付与している。
【0035】
加熱ニップNの入口側に対応する定着ベルト51の内側に、ステンレス鋼でブロック状に形成されたパッドステー105が加圧パッド106に対向配置されている。パッドステー105は、記録材通過時の加熱ニップNの温度低下を抑制するための蓄熱部材を兼ねている。
【0036】
加圧ベルト52は、加圧ロール102とベルトテンションを付与する機能を有するテンションロール104とに掛け渡して支持される。加圧ベルト52は、厚さ50μm、幅380mm、周長172mmのニッケル金属の無端ベルトに、厚さ350μmのシリコンゴムをコーティングし、表層に厚み40μmのPFAチューブを被覆している。
【0037】
加圧ロール102は、ステンレスパイプ材料によって外径がφ20に形成された中空ロールである。テンションロール104は、ステンレスパイプ材料によって外径がφ20、内径φ18に形成された中空ロールである。テンションロール104は、両端部を不図示のテンションバネに付勢されて、加圧ベルト52にテンションを付与している。加熱ニップNの入口側に対応する加圧ベルト52の内側に、シリコンゴムで形成された加圧パッド106が配置される。加圧パッド106は、総圧400Nで加圧ベルト52の内側面に押圧される。
【0038】
駆動ロール101の内側には、定格1000Wの第1加熱素子201が配設される。加圧ロール102の内側には、定格1000Wの第2加熱素子202が配設される。駆動ロール101及び加圧ロール102は、軸方向の一端に配置されたギア機構で連結され、外部から駆動されてほぼ等しい周速度で回転する。これにより、定着ベルト51と加圧ベルト52は、当接状態でも離間状態でもほぼ等しい回転速度で回転する。
【0039】
<接離機構>
接離機構207は、定着ベルト51に対して加圧ベルト52を接離させる。接離機構207は、記録材の入口側で加圧ベルト52を張架する支持回転体の一例であるテンションロール104を、記録材の出口側に配置した回動軸111を中心にして揺動させる機構である。
【0040】
加圧ベルト52、加圧ロール102、加圧パッド106、テンションロール104は、加圧回動板113上に組み立てられ、回動軸111を中心にして加圧回動板113と一体に揺動可能な加圧ユニットを構成する。加圧ロール102の長手方向の両端部に配置された加圧アーム112及び加圧回動板113は、加熱ニップNの出口側に配置された回動軸111を中心にして、それぞれ独立して回動可能である。加圧ロール102及び加圧パッド106は、加圧板114に支持され、加圧バネ114によって上方へ付勢されている。
【0041】
加圧回動板113下面には加圧カム120が当接しており、加圧カム120の回転によって、加圧回動板113が上下に移動することにより、加圧ベルト52の定着ベルト51に対する圧接・離間の動作が可能となっている。加圧カム120は、接離機構207によって駆動されて、加圧ロール102、加圧パッド106、及びテンションロール104に支持された加圧ベルト52を昇降させる。
【0042】
制御部141は、接離機構207を作動させて加圧カム120の回転方向・回転角度を制御することにより、加圧ベルト52の定着ベルト51に対する接離状態を任意に設定可能である。定着ベルト51と加圧ベルト52の圧接時の総荷重は約800N(80kgf)で搬送方向に約15mmの長さの加熱ニップNを形成する。接離機構207の従来の目的は、ジャム処理性向上や定着ベルト51の長寿命化、及び非通紙時の加圧ベルト52の昇温防止等である。
【0043】
しかし、定着ベルト51に加圧ベルト52を圧接させる場合、加圧ベルト52の温度が高過ぎると、コート紙内部の水分が蒸発して、水蒸気がコート層を破って画像面に噴出して画像を乱す、所謂ブリスタ現象が懸念される。加圧ベルト52の温度が高過ぎると、記録材の内部の水分が蒸発して、水蒸気が加圧ベルトと記録材裏面との摩擦力を低下させて、所謂スリップ現象が発生するため、搬送不良が懸念される。記録材Pの内部の水分が蒸発して、水蒸気が定着ベルト51と記録材の画像面の間にたまると、画像面から定着ベルト51が浮き上がり易くなって、画像光沢ムラが懸念される。
【0044】
このため、画像形成装置100では、加圧ベルト52を定着ベルト51に比べて相当に低い温度に温度制御しており、非通紙時には、定着ベルト51の温度低下を防ぐために、接離機構207によって加圧ベルト52を定着ベルト51から離間させている。これにより、記録材Pに与える熱量を最小限に止めつつ、定着ベルト51による必要な定着性能を確保している。
【0045】
<定着装置の温度制御>
図3を参照して図2に示すように、温度制御部200は、加熱ニップNの下流側で定着ベルト51の中央部に接触している第1温度検知素子205の検出温度に基づいて第1加熱素子201への電力供給を制御して、定着ベルト51の表面温度を調整する。温度制御部200は、加熱ニップNの下流側で加圧ベルト52の中央部に接触している第2温度検知素子206の検出温度に基づいて第2加熱素子202への電力供給を制御して、加圧ベルト52の表面温度を調整する。ここでは、第1加熱素子201および第2加熱素子202は、ハロゲンランプヒータであるが、抵抗加熱装置、誘導加熱装置等に置き換えてもよい。
【0046】
プリントジョブが開始される時、制御部141は、操作部142を通じて設定された記録材Pの情報に基づいて、定着装置9の温度調整の目標温度を選択し、温度制御部200に設定して、定着ベルト51及び加圧ベルト52の温度制御を行わせる。表1は、定着装置9における温度調整の目標温度テーブルである。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、制御部141は、記録材の種類(坪量、表面性等)に応じた数段階の目標温度を備えて定着ベルト51および加圧ベルト52を温度制御している。普通紙等の非コート紙については、搬送性(しわ、分離性等)と画像性(定着性、トナーオフセット、表面光沢等)とが両立する温度に設定し、記録材の坪量が大きいほど目標温度を高くする。一方、表面に樹脂層を有するコート紙については、これらの基本性能(搬送性、画像性)に加えて、コート紙特有の搬送不良や画像欠陥を防止するため、コート紙特有の目標温度を設定する。
【0049】
定着ベルト51の目標温度、およびジョブ開始判定温度は、記録材の搬送性と画像性とを両立させるために、記録材Pの坪量が大きいほど高くなるように設定している。
【0050】
加圧ベルト52の目標温度は、基本的には、全ての記録材について100℃に設定しているが、連続通紙を行うと、画像間隔で定着ベルト51が加圧ベルト52に接触して温度が上昇するため、プリントジョブ開始判定温度を設けている。プリントジョブ開始判定温度に達すると、画像形成が中断されて、温度低下を待機する。
【0051】
低坪量の紙である普通紙1、薄紙は、厚みが薄いため加圧ベルト52の温度が記録材Pを通じてトナー層に伝わり易く、トナー層が過溶融して紙の凸凹に沿って流れて濃度ムラが発生し易いため、プリントジョブ開始判定温度の上限を110℃にしている。表面に凹凸が多く、平滑性の低い紙においては、トナー層を過溶融してしまうと、トナー粘度が下がって、紙の凸面にいたトナーが凹面に流れてしまう。この結果、紙の凸面と凹面に同じ量のトナーが定着されていた場合に比べて、濃度やグロスのムラが顕著になってしまう。コート紙では、上述したブリスタ現象を阻止するためにプリントジョブ開始判定温度の上限を110℃にしている。その他の記録材Pでは、記録材Pの搬送性(しわ、分離)を優先してプリントジョブ開始判定温度の上限を120℃としている。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、デフォルト設定でのスタンバイ目標温度は、定着ベルト51で180℃、加圧ベルト52で100℃としている。これは、使用頻度の高い記録材である普通紙2をプリントする際に、待機することなく、直ちにジョブをスタートできるためである。なお、デフォルト設定におけるスタンバイ目標温度は、操作部142から「よく使う記録材」として任意に設定可能である。
【0054】
複数段階の目標温度を備えている画像形成装置100では、目標温度の切り替え時に、プリント待機時間が発生する。記録材Pの種類及び坪量によってプリント開始判定温度の温度範囲が異なるため、記録材Pの種類が替わった時、定着ベルト51と加圧ベルト52の温度をプリント開始判定温度にまで加熱もしくは冷却する必要が発生する。
【0055】
特に、熱容量の大きい定着構成においては、冷却の必要が発生した際に時間を要するため、温度切り替えのための待機時間が長くかかる。高速機においては、連続通紙時の温度低下を防ぐために熱容量の大きい構造となっているため、新しい目標温度への移行時間は、加熱の場合よりも冷却の場合の方が長くかかり、画像形成装置100のトータル生産性への影響が大きい。
【0056】
例えば、表2に示すスタンバイ目標温度から表1に示す薄紙の目標温度へ移行させる場合には、冷却のためのダウンタイムが長く発生して、画像形成装置100の生産性が低下する。また、薄紙の連続通紙と厚紙の連続通紙を交互に実行する混載ジョブの場合、厚紙から薄紙へ切り替わるごとに、冷却のためのダウンタイムが発生するため、普通紙2の単載ジョブに比較して画像形成装置100の生産性が大きく低下する。このため、ユーザビリティの観点で好ましくない。
【0057】
<従来例>
図3の(a)に示すように、特許文献3に示されるように、加圧ベルト52を冷却する方法として、冷却用の送風ファン203Hを設けることが考えられる。従来例では、定着ローラ51と加圧ベルト52とで加熱ニップNを形成する構成において、加圧ベルト52側に送風ファン203Hを備える。従来例では、定着ベルト51を冷却する場合、定着ベルト51に加圧ベルト52を圧接して冷却動作を行い、加圧ベルト52を冷却する場合、定着ローラ51から離間した状態で、加圧ベルト52が送風ファン203Hによって冷却される。
【0058】
しかし、メディア混載ジョブにおいて厚紙の連続通紙から薄紙の連続通紙へ切り替える場合、表1に示すように、定着ベルト51と加圧ベルト52の双方を冷却する必要がある。このとき、従来例では、厚紙の連続通紙の後に、ニップ圧接状態のまま、送風ファン203Hに冷却された加圧ベルト52を介して定着ベルト51を目標温度まで冷却した後に、定着ローラ51から離間して、加圧ベルト52を単独で冷却する。そのため、定着ベルト51と加圧ベルト52の双方がそれぞれの目標温度に達するには長い冷却時間を要する。
【0059】
さらに、この場合、定着ベルト51と加圧ベルト52の温度差、及び加圧ベルト52の熱容量と送風ファン203Hの冷却能力によっては、ニップ圧接状態で定着ベルト51を冷却している間に、加圧ベルト52が昇温することが考えられる。結果として、定着ベルト51の冷却時間が少しくらい短くても、加圧ベルト52が目標温度に達するまでに、大幅な冷却待機時間の延長が必要となってしまう。そのため、定着ベルト51よりも加圧ベルト52を主に冷却したい場合、最初から定着ベルト51と加圧ベルト52を離間状態にして、加圧ベルト52を冷却し、定着ベルト51は自然放熱させた方が、トータルの温度切替え時間としてはかえって短くなる。
【0060】
また、近年では、画質は従来同等以上に確保しつつ、省エネルギーの観点からなるべくトナーの消費量を減らすことが求められている。そのため、トナー消費量を従来よりも減らす代わりに、トナーに含有される顔料の量を従来よりも増やすことで、画質を維持していく必要がある。このように、トナー消費量を低減させていく風潮の中で、定着ベルト51の温度制御の重要性、特に加圧ベルト52の過昇温を防ぐことの重要性が増している。そして、トナー層の過溶融に起因する問題を防ぐためにも、加圧ベルト52の過昇温を防いで、記録材の非画像面からの過剰な熱供給を防ぐことの重要性が増している。
【0061】
そこで、以下の実施例では、この温度切り替えのための待機時間を可及的に短くして目標温度切り替え時の定着ベルト冷却時間を短縮する。同時に、加圧ベルトの昇温を極力抑えることで、濃度や光沢度のムラによる画質の劣化を防ぐ。
【0062】
<実施例1>
図4は実施例1の冷却構成の説明図である。図5は実施例1の冷却制御のフローチャートである。図6は厚紙からコート紙へ切り替える際の冷却性能の説明図である。
【0063】
図4に示すように、送風装置の一例である送風ファン203は、加熱ニップNによる記録材の搬送面よりも加圧ベルト52側(ベルト部材側)に配置される。送風ファン203は、テンションロール104の揺動に伴って、テンションロール104に張架された加圧ベルト52の二つの張架面を交互に空冷可能である。接離機構207による加圧ベルト52の離間状態では送風ファン203の送風が加熱ニップNによる記録材の搬送面を越えて定着ベルト51へ到達する。接離機構207による加圧ベルト52の当接状態では送風ファン203の定着ベルト51へ向かう送風が加圧ベルト52に遮られる。
【0064】
制御手段の一例である制御部141は、第一冷却モードと第二冷却モードとを接離機構207によって切換可能である。制御部141は、定着ベルト51の目標温度が下げられると、第一冷却モードを実行した後に第二冷却モードを実行する。
【0065】
図4の(a)に示すように、第一冷却モードは、定着ベルト51と加圧ベルト52とを離間することで送風ファン203からの風が加圧ベルト52のベルト面に案内されて定着ベルト51に達することにより定着ベルト51と加圧ベルト52とが冷却される。第一冷却モードでは、送風ファン203の送風が加圧ベルト52に沿って流れて、離間した加熱ニップNを通過する。
【0066】
図4の(b)に示すように、第二冷却モードは、定着ベルト51と加圧ベルト52との離間量を第一冷却モードよりも小さくして、加圧ベルト52を送風ファン203からの風により冷却する。
【0067】
実施例1では、定着装置9に冷却用の送風ファン203を備えている。接離機構207は、送風ファン203による冷却効率を上げるための重要な役割を担う。接離機構207は、第一冷却モードと第二冷却モードとで、送風ファン203の送風路の違いを演出する。実施例1の大きな特徴は、テンションロール104の揺動位置(加圧ベルト52の傾き角度)によって、加圧ベルトのみの冷却として用いていた送風ファン203の風路を定着ベルト51も同時に冷却できるように切り替え可能なことである。
【0068】
図4を参照して図5に示すように、制御部141は、記録材の切り替えに伴って切り替える先の目標温度と現在の実測温度とに温度差が発生すると(S1)、加圧ベルト52の冷却が必要かどうかを判定する(S2)。制御部141は、加圧ベルト52の冷却が必要ない場合(S2のNO)、送風ファンを作動させない(S9)。そのまま、温度制御部200を制御して、第1加熱素子201、第2加熱素子202を動作させて(S3)、目標温度に到達した後にプリントジョブを開始させる(S4)。冷却が不要な昇温過程なので、比較的短時間でジョブ開始できる。
【0069】
制御部141は、加圧ベルト52の冷却動作が必要な場合(S2のYES)、定着ベルト51の冷却動作が必要かどうかを判定する(S5)。
【0070】
制御部141は、定着ベルト51の冷却動作が必要な場合(S5のYES)、図4の(a)に示すように、加圧ベルト52のテンションロール104を、送風ファン203の風路を越えるまで大きく離間させる(S6)。制御部141は、この状態で送風ファン203をONにして(S8)、定着ベルト51と加圧ベルト52を同時に冷却する。
【0071】
制御部141は、定着ベルト51の冷却が進んで、定着ベルト51の冷却動作が不必要になると(S5のNO)、図4の(b)に示すように、加圧ベルト52を定着ベルト51へ当接する直前位置に停止させる(S7)。制御部141は、加圧ベルト52が定着ベルト51に加熱されない状態を保って送風ファン203により加圧ベルト52のみを冷却する(S8)。
【0072】
制御部141は、加圧ベルト52の冷却が進んで、加圧ベルト52の冷却動作が不必要になると(S2のNO)、送風を停止して(S9)、通常の温度制御に戻して(S3)プリントジョブを開始させる(S4)。
【0073】
実施例1では、厚紙2の連続通紙からコート紙に切り替える「混載ジョブ」のケースについて説明する。表1に示すように、厚紙2の目標温度は190℃/100℃(定着ベルト/加圧ベルト)であるが、上述したように、連続通紙がされて加圧ベルト52の温度が上昇している。
【0074】
実施例1では、厚紙2を200枚通紙した直後の温度は190℃/118℃(定着ベルト/加圧ベルト)であった。表1に示すように、切り替える先のコート紙の目標温度は170℃/110℃(定着ベルト/加圧ベルト)であるため、切り替え前に、定着ベルト51と加圧ベルト52ともに冷却する必要がある。
【0075】
図6に黒丸(太線)で示すように、上述の実施例1の制御では、0分0秒まで厚紙2の連続通紙がされ、0分0秒で図4の(a)に示す離間状態で定着ベルト51と加圧ベルト52が冷却された。21秒後に定着ベルト51が目標の170℃まで冷却したので、図4の(b)に示す近接離間状態となって加圧ベルト52が冷却された。しかし、加圧ベルト52は既に110℃まで冷却完了していたので、定着ベルト51の完了と同時にコート紙ジョブが開始された。
【0076】
<従来例>
図3の(a)に示すように、従来例では、特許文献3と同様に、加圧ベルト52を冷却する方法として、冷却用の送風ファン203Hを設けている。従来例では、定着ローラ51と加圧ベルト52とで加熱ニップNを形成する構成において、加圧ベルト52側に送風ファン203Hを備える。従来例では、定着ベルト51を冷却する場合、定着ベルト51に加圧ベルト52を圧接して冷却動作を行い、加圧ベルト52を冷却する場合、定着ローラ51から離間した状態で、加圧ベルト52が送風ファン203Hによって冷却される。従来例は、加圧ベルト52を定着ベルト51に圧接した状態で、定着ベルト51を目標温度の170℃まで下げたのち加圧ベルト52を離間して送風ファン203で目標温度の110℃まで冷却する。
【0077】
図6にバツ印で示すように、従来例では、0分0秒まで厚紙2の連続通紙がされ、0分0秒で図3の(a)に示す当接状態のまま送風ファン203Hを作動させて、冷却された加圧ベルト52に接触させて定着ベルト51を除熱した。定着ベルト51は11秒で目標の170℃に冷却完了したが、その間に加圧ベルト52が定着ベルト51に接触して140℃まで加熱されてしまったため、加圧ベルト52の冷却にさらに20秒を要して合計で30秒のダウンタイムが発生した。
【0078】
メディア混載ジョブにおいて厚紙の連続通紙からコート紙の連続通紙へ切り替える場合、定着ベルト51と加圧ベルト52の双方を冷却する必要がある。このとき、従来例では、厚紙の連続通紙の後に、ニップ圧接状態のまま、送風ファン203Hに冷却された加圧ベルト52を介して定着ベルト51を目標温度まで冷却した後に、定着ローラ51から離間して、加圧ベルト52を単独で冷却する。そのため、定着ベルト51と加圧ベルト52の双方がそれぞれの目標温度に達するには長い冷却時間を要する。
【0079】
さらに、この場合、定着ベルト51と加圧ベルト52の温度差、及び加圧ベルト52の熱容量と送風ファン203Hの冷却能力によっては、ニップ圧接状態で定着ベルト51を冷却している間に、加圧ベルト52が昇温する。その結果、定着ベルト51の冷却時間が少しくらい短くても、加圧ベルト52が目標温度に達するまでに、大幅な冷却待機時間の延長が必要となってしまう。
【0080】
<比較例>
図4の(b)に示すように、比較例では、定着ベルト51と加圧ベルト52を近接状態にして、加圧ベルト52を冷却し、定着ベルト51は自然放熱させた。比較例は、加圧ベルト52を定着ベルト51からわずかに離間させて、加圧ベルト52のみを冷却している。定着ベルト51は温度が高いため、第1加熱素子201の電力供給を停止するだけで、比較的速やかに温度が低下するからである。
【0081】
図6にひし形で示すように、比較例では、59分30秒から0分0秒まで厚紙2の連続通紙がされ、0分0秒で図4の(b)に示す近接離間状態のまま送風ファン203を作動させて加圧ベルト52のみを除熱した。加圧ベルト52は3秒で目標の110度に冷却したが、自然放熱に任せた定着ベルト51の冷却に43秒を要した。
【0082】
表3は、図6から読み取った、厚紙2の200枚通紙後にコート紙を通紙開始できるまでの温度調整待ち時間をまとめたものである。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に示すように、従来は加圧ベルト52の冷却用であった送風ファン203の風路を送風ファン203の配置と離接機構207とを組み合わせることで、実施例1では、定着ベルト51も冷却可能とした。このため、定着ベルト51と加圧ベルト52を同時に冷却することで、定着ベルト51もしくは加圧ベルト52のどちらかが自然冷却になってしまう比較例、従来例よりも短い切り替え時間で目標温度の切り替えを完了できる。
【0085】
<実施例2>
図7はスタンバイ状態から薄紙プリントへ切り替える際の冷却性能の説明図である。図4に示すように、実施例2では、実施例1の制御による別の事例として、スタンバイ状態から薄紙プリントへ切り替える際の定着ベルト51と加圧ベルト52の冷却効果を確認した。
【0086】
表2に示すように、スタンバイ状態のデフォルト目標温度は180℃/100℃(定着ベルト/加圧ベルト)である。表1に示すように、薄紙プリントのジョブ開始判定温度の上限は165℃/110℃(定着ベルト/加圧ベルト)である。このため、薄紙プリントへ切り替える前に、定着ベルト51と加圧ベルト52をともに冷却する必要がある。
【0087】
図7に黒丸(太線)で示すように、上述の実施例1の制御では、0分0秒までスタンバイがされ、0分0秒で図4の(a)に示す離間状態で定着ベルト51と加圧ベルト52が冷却された。13秒後に定着ベルト51が目標の165℃まで冷却したので、図4の(b)に示す近接離間状態となって加圧ベルト52が冷却された。しかし、加圧ベルト52は既に100℃まで冷却完了していたので、定着ベルト51の完了と同時に薄紙プリントのジョブが開始された。
【0088】
図7にバツ印で示すように、従来例では、0分0秒までスタンバイがされ、0分0秒で図3の(a)に示す当接状態で加圧ベルト52を介して定着ベルト51が冷却された。その結果、加圧ベルト52の温度上昇が発生してしまい、その冷却に10秒以上を要する結果となった。
【0089】
図7にひし形で示すように、比較例では、0分0秒までスタンバイがされ、0分0秒で図4の(b)に示す近接離間状態で加圧ベルト52のみが冷却され、定着ベルト51は第1加熱素子201への電力供給を停止して自然冷却に委ねられた。その結果、定着ベルト51の冷却に40秒を要する結果となった。
【0090】
表4は、図7から読み取った、スタンバイ状態から薄紙プリントを開始できるまでの温度調整待ち時間をまとめたものである。
【0091】
【表4】

【0092】
表4に示すように、スタンバイ時の目標温度切り替えにおいても、実施例2は、定着ベルト51と加圧ベルト52を同時に冷却するので、定着ベルト51と加圧ベルト52のどちらかが自然冷却になる比較例、従来例よりもダウンタイムが短くなる。
【0093】
以上説明したように、第一冷却モードを実行することにより、混載ジョブ時の目標温度切り替え、スタンバイ時の目標温度切り替えにおいて、大きな効果を発揮して画像不良の原因となる加圧ベルト52の温度昇温なしに定着ベルト51を効率的に制御できる。
【0094】
第一冷却モードでは、定着ベルト51から加圧ベルト52が大きく離間しているので、送風ファン203からの送風は定着ベルト51と加圧ベルト52の間を通って両方の部材を同時に冷却可能である。第二冷却モードでは、定着ベルト51と加圧ベルト52が近接離間して、送風ファン203の送風は加圧ベルト52のみを集中冷却する。このように、定着ベルト51と加圧ベルト52の離間具合を制御することで、送風ファン203の風向制御なしに冷却範囲を制御することが可能となる。
【0095】
定着ベルト51と加圧ベルト52の中央部の温度を検知し、目標とする目標温度に応じて定着ベルト51と加圧ベルト52の離間状態を制御することにより、冷却範囲を最適化することができる。このため、目標温度の切り替え発生時に、装置の持つ冷却能力としては可及的に短い待機時間によって目標温度に到達することが可能となる。
【0096】
<実施例3>
図8は実施例2の冷却構成の説明図である。図9は風向制御部材による冷却領域の変更の説明図である。図10は実施例2の冷却構成による冷却効果の説明図である。実施例3は、実施例1の効果を損なうことなく、プリントジョブ時における定着ベルト51の非通紙部昇温を抑えることで、非通紙部昇温の冷却待ち時間を低減する。
【0097】
図3の(a)に示すように、定着装置9は、プリントジョブ時は、定着ベルト51に加圧ベルト52を圧接させて、温度制御部200により表1に示す目標温度にて定着ベルト51を温度制御している。温度制御部200は、第1温度検知素子205が配置された定着ベルト51の中央部を温度制御しているため、連続通紙時には、定着ベルト51の両端部の記録材の非通紙部が徐々に昇温する。定着ベルト51の中央部で通紙される記録材に奪われる熱量と第1加熱素子201が供給する熱量が同じになるように温度制御するため、記録材に奪われる熱量が無い両端部の非通紙部では、第1加熱素子201が供給する熱量が余剰になって昇温する。
【0098】
そこで、実施例3では、通紙ジョブ時に、送風ファン203と風向制御部材208を組み合わせて、加圧ベルト52の両端部を冷やす事で、通紙時に圧接している定着ベルト51の非通紙部近傍を間接的に冷却して非通紙部の昇温を防止する。
【0099】
図8に示すように、実施例3の定着装置9は、加圧ベルト52に位置関係を固定して風向制御部材208を設けている。遮蔽部材の一例である風向制御部材208は、加圧ベルト52の中央領域に対応させて配置され、第二冷却モードにおける加圧ベルト52の中央領域へ向かう送風ファン203の送風の割合を低下させる。風向制御部材208は、定着ベルト51に対して加圧ベルト52を近接離間状態にして行う第二冷却モードにおいて、加圧ベルト52の非通紙部昇温を除熱するための構造である。
【0100】
図3の(a)に示すように、風向制御部材208は、加圧ベルト52の回転軸線方向の両端部に配置された一対の加圧回動板113に位置関係を固定して配置される。加圧ベルト52、加圧ロール102、加圧パッド106、テンションロール104、風向制御部材208は、加圧回動板113上に組み立てられ、回動軸111を中心にして加圧回動板113と一体に揺動可能な加圧ユニットを構成する。
【0101】
風向制御部材208は、加圧ベルト52、加圧ロール102とその内部の第2加熱素子202、第2温度検知素子206と同様に、不図示の板金フレームで加圧回動板113に一体のユニットとして連結されて加圧ユニットを構成する。接離機構207は、加圧回動板113を揺動させて、定着ベルト51と加圧ベルト52の接離状態を任意に設定可能である。
【0102】
図8の(a)に示すように、風向制御部材208は、定着ベルト51に対する加圧ベルト52の離間時に、加圧ベルト52に沿って流れて定着ベルト51を冷却する送風ファン203の送風を遮らないように配設される。このため、図9の(a)に示すように、送風が風向制御部材208に遮られることなく、定着ベルト51と加圧ベルト52に行き渡る。したがって、実施例1、2で説明した混載ジョブやスタンバイ状態において目標温度の切り替えが生じた場合に実行される非画像形成時の第一冷却モードの冷却効果を損なわないで済む。
【0103】
図8の(b)に示すように、風向制御部材208は、定着ベルト51に対する加圧ベルト52の当接時に、加圧ベルト52の回転軸線方向の中央領域に当たる送風ファン203の送風を遮蔽するように配設される。図9の(b)に示すように、風向制御部材208は、定着ベルト51に対する加圧ベルト52の当接時に、送風ファン203の送風が風向制御部材208の外側を通って加圧ベルト52の両端部を冷却するように配設される。このため、画像形成時に送風ファン203を作動させて第二冷却モードを実行することにより、加圧ベルト52の回転軸線方向の両端部を冷却して、定着ベルト51の両端部の非通紙部昇温を抑制することが可能となる。
【0104】
図10の(a)に示すように、実施例2の第二冷却モードによる通紙時の端部冷却効果を確認した。坪量200gのA4サイズ普通紙を縦送りにして連続1000枚通紙し、直後の定着ベルト51の回転軸線方向の温度分布を測定した。A4サイズ普通紙の縦送りは、横送りに比較して非通紙部が大きく、非通紙部昇温が発生し易い。
【0105】
実験条件としては、送風ファン203の開口部の幅は350mm、風向制御部材208の幅は140mm、定着ベルト51の幅を400mm、長さを185mmとした。定着ベルト51の目標温度は190℃に対して、定着ベルト51の寿命から決めた設計上限温度を220℃としている。通常は、定着ベルト51の検出温度が220℃に達した場合、通紙を一時停止し、定着ベルト51の検出温度が下がってから通紙を再開させる。しかし、実施例3では、非通紙部昇温を正確に評価するために、定着ベルト51の検出温度が220℃を越えても通紙を一時停止させずに1000枚を最後まで通紙した。
【0106】
通紙中に実施例3の第二冷却モードを実行する実施例3と、通紙時に送風ファン203を作動させない従来例と、通紙時に送風ファン203を作動させて加圧ベルト52を全面冷却した比較例とによる実験結果を表5に示す。
【0107】
【表5】

【0108】
図10の(b)に示すように、通紙中に実施例3の第二冷却モードを実行することで、連続通紙1000枚でも定着ベルト51の非通紙部の昇温は212℃に抑制された。これに対して、通紙時に送風ファン203を作動させない従来例においては、定着ベルト51の非通紙部の昇温は224℃まで達してしまった。
【0109】
また、図4に示すように、風向制御部材208を設けないで、通紙時に送風ファン203を作動させて加圧ベルト52を全面冷却した比較例の場合、定着ベルト51の非通紙部昇温は従来例よりも高くなった。比較例では、温度調整している通紙部が冷却されるため、第1加熱素子201の負荷が増して発熱量が増える結果、非通紙部の加熱量も増えるからである。また、比較例では、定着ベルト51と加圧ベルト52の両方で目標温度を維持するための投入電力が増えるので、無駄な電力消費が発生した。
【0110】
ところで、実際の定着装置9では、定着ローラ51の非通紙部に第3温度検知素子(サーミスタ)を配置して、非通紙部の検出温度が設計上限温度の220℃に達すると通紙を一時停止して、定着ベルト51の非通紙部が200℃に冷えるのを待っている。このとき、約3分の冷却待ち時間が発生する。
【0111】
実施例3の第二冷却モードを実行した場合、設計上限温度の220℃に達することがなかったため、連続通紙の1000枚において冷却待ち時間が1回も発生しなかった。これに対し、従来例では、設計上限温度の220℃に1回達して、約3分の冷却待ち時間が発生した。比較例では、設計上限温度の220℃に2回達して、6分の冷却待ち時間が発生した。
【0112】
以上説明したように、風向制御部材208を設けて、加圧ベルト52に定着ローラ51を当接して行う第二冷却モードを実行することにより、定着ベルト51の非通紙部昇温が抑制される。連続通紙ジョブ時の定着ベルト51の非通紙部昇温を効率的に冷却でき、非通紙部の冷却のための待機時間を改善することが可能となる。
【0113】
非通紙部昇温に伴う種々の弊害を除いて、連続ジョブ時の端部冷却において定着ベルト51を効率的に制御できる有効性が実証された。
【0114】
<その他の実施例>
図11は実施例4の定着装置における冷却モードの説明図である。図12は実施例5の定着装置における冷却モードの説明図である。図13は実施例6の定着装置における冷却モードの説明図である。実施例4、5、6は定着部材、加圧部材、送風装置の配置以外は実施例1と同一に構成されるため、図11、12、13中、実施例1と共通する構成には、図3、4と共通の符号を付して重複する説明を省略する。
【0115】
実施例1、3では、加熱(定着)ベルトに加圧ベルトを当接させて記録材の加熱ニップを形成する定着装置の例を説明した。しかし、本発明は、加熱ローラに加圧ベルトを当接させる構成(図11)、または、加熱ベルトに加圧ローラを当接させる構成(図13)によっても実施可能である。実施例1、3では、加圧ベルトの揺動に伴って送風ファンの送風対象を切り替える構成を説明した。しかし、本発明は、加熱ベルトの揺動に伴って送風ファンの送風対象を切り替える構成(図12)によっても実施可能である。
【0116】
図11の(b)に示すように、実施例4では、定着ローラ51Aに加圧ベルト52Aを圧接して加熱ニップNが形成される。加圧ベルト52Aは、実施例1と同様に揺動可能に構成され、接離機構207によって揺動される。図11の(a)に示すように、第一冷却モードでは、定着ローラ51Aから加圧ベルト52Aが離間しており、加圧ベルト52Aに沿って流れる送風が定着ローラ51Aを冷却する。図11の(b)に示すように、第二冷却モードでは、定着ローラ51Aに加圧ベルト52Aが近接離間しており、定着ローラ51Aに向かう送風が加圧ベルト52Aによって遮られる。
【0117】
図12の(b)に示すように、実施例5では、定着ベルト51Bに加圧ベルト52Bを圧接して加熱ニップNが形成される。定着ベルト51Bは、揺動可能に構成され、接離機構207によって揺動される。図12の(a)に示すように、第一冷却モードでは、加圧ベルト52Bから定着ベルト51Bが離間しており、定着ベルト51Bに沿って流れる送風が加圧ベルト52Aを冷却する。図12の(b)に示すように、第二冷却モードでは、加圧ベルト52Bに定着ベルト51Bが近接離間しており、加圧ベルト52Bに向かう送風が定着ベルト51Bによって遮られる。
【0118】
図13の(b)に示すように、実施例6では、定着ベルト51Cに加圧ローラ52Cを圧接して加熱ニップNが形成される。定着ベルト51Cは、揺動可能に構成され、接離機構207によって揺動される。図13の(a)に示すように、第一冷却モードでは、加圧ローラ52Cから定着ベルト51Cが離間しており、定着ベルト51Cに沿って流れる送風が加圧ローラ52Cを冷却する。図13の(b)に示すように、第二冷却モードでは、加圧ローラ52Cに定着ベルト51Cが近接離間しており、加圧ローラ52Cに向かう送風が定着ベルト51Cによって遮られる。
【0119】
また、画像形成装置として、画像形成部が像担持体に並設しているタンデム式中間転写カラープリンタを例示したが、本願発明は、これに限定されるものではない。1つの像担持体に順次各色トナー像を形成して中間転写体に転写する1ドラム式中間転写カラープリンタや、中間転写体を備えずに像担持体から直接記録材に各色トナー像を転写するタンデム式直接転写カラープリンタ等でもよい。さらに、プリンタでなく複写機やファクシミリ等の他の画像形成装置であってもよい。
【符号の説明】
【0120】
1 現像装置、2 帯電ローラ、3 感光ドラム
4 ドラムクリーニング装置、6 分離ローラ
9 定着装置、10 記録材カセット、11 二次転写ローラ
12 レジストローラ、13 駆動ローラ、14 対向ローラ
15 テンションローラ、19 ベルトクリーニング装置
24 転写ローラ、51 定着ベルト、52 加圧ベルト
130 中間転写ベルト、141 制御部、142 操作部
200 温度制御部、201 第1加熱素子
202 第2加熱素子、203 送風ファン
205 第1温度検知素子、206 第2温度検知素子
207 接離機構、208 風向制御部材、P 記録材
Pa、Pb、Pc、Pd 画像形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、前記回転体に圧接して記録材の画像を加熱する加熱ニップを形成するベルト部材と、前記回転体と前記ベルト部材とを接触及び離間するための接離機構と、を備えた像加熱装置において、
前記加熱ニップによる記録材の搬送面よりも前記ベルト部材側に配置された送風装置と、
前記回転体とベルト部材とを離間することで前記送風装置からの風がベルト面に案内されて回転体に達することにより回転体とベルト部材とが冷却される第一冷却モードと、前記回転体とベルト部材との離間量を第一冷却モードよりも小さくして前記ベルト部材を前記送風装置からの風により冷却する第二冷却モードとを前記接離機構によって切換可能な制御手段と、を有することを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記第一冷却モードでは、前記送風装置の送風が前記ベルト部材に沿って流れて、離間した前記加熱ニップを通過することを特徴とする請求項1記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記接離機構は、記録材の入口側で前記ベルト部材を張架する支持回転体を、記録材の出口側に配置した回動軸を中心にして揺動させる機構であって、
前記送風装置は、前記支持回転体の揺動に伴って、前記支持回転体に張架された前記ベルト部材の二つの張架面を交互に空冷可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記回転体は、前記ベルト部材の上方に配置されて前記ベルト部材よりも高い目標温度に温度調整されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記回転体の目標温度が下げられると、前記第一冷却モードを実行した後に前記第二冷却モードを実行することを特徴とする請求項4記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記ベルト部材の中央領域に対応させて配置され、前記第二冷却モードにおける前記ベルト部材の中央領域へ向かう前記送風装置の送風の割合を低下させる遮蔽部材を備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載の像加熱装置。
【請求項7】
回転体と、前記回転体との間に記録材の加熱ニップを形成可能なベルト部材と、前記回転体に対して前記ベルト部材を接離させる接離機構と、を備えた像加熱装置において、
前記加熱ニップによる記録材の搬送面よりも前記ベルト部材側に配置された送風装置を備え、
前記接離機構による前記ベルト部材の離間状態では前記送風装置の送風が前記搬送面を越えて前記回転体へ到達し、前記接離機構による前記ベルト部材の当接状態では前記送風装置の前記回転体へ向かう送風が前記ベルト部材に遮られることを特徴とする像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−45030(P2013−45030A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184295(P2011−184295)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】