説明

像転写式レーザー加工装置およびその加工方法

【課題】 像転写式レーザ加工装置においてワークの高さに応じてビーム整形用マスクを移動させて焦点を合わせた場合でも、加工品質を保ちつつ所定の加工形状のままにすることができるレーザー加工装置とレーザー加工方法を得る。
【解決手段】 レーザービームを出射するレーザー発振器1と、レーザー発振器1から出射されたレーザービームを所定の開口径の範囲内のみ通過させ、かつ開口径を大小に変化させることが出来る虹彩絞り2と調整手段12からなるアパーチャと、アパーチャを通過したレーザービームを結像させる結像レンズ4と、アパーチャのレーザービームの進行方向に対する結像レンズ4までの物理的距離を変更する移動手段7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー発振器から出力されたレーザービームが、光路中に挿入されたアパーチャを通過してワークに転写されることでワークの加工を行う像転写式レーザー加工装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来の像転写式レーザー加工装置の構成図である。レーザー発振器1から出力された矢印方向のレーザービームはレーザービーム整形用のマスク18を通過することにより所望の形状のレーザービームに整形され、ミラー3によって反射された後、整形されたレーザービームは結像用レンズ4により集光され、XYテーブル5上に載置されたワーク6の表面上にレーザービーム2が到達することにより加工を行うことができる。このような像転写式レーザー加工装置においては、レーザービーム整形用のマスク18の形状を正確にワーク6に転写しワーク6の除去加工を行うために、レーザービームの焦点をワーク6の表面に合わせる必要がある。
【0003】
図9は従来の第1の像転写式レーザー加工装置の構成図である。図9に示したように、例えば結像用レンズ4を光軸方向に移動させる駆動装置21を備えることにより、レーザービームの焦点がワーク6の表面上となるように合わせる技術がある。(以下、従来技術1と呼ぶ)。
【0004】
また図10は、従来の第2の像転写式レーザー加工装置の構成図である。図10に示すように、結像用レンズ4ではなく、レーザービーム整形用のマスク18を光軸方向に移動させる移動手段7を備えることにより、レーザービームの焦点をワーク6の表面に合わせ、レーザービーム整形のマスク18の形状を正確にワーク6に転写し、ワーク6の除去加工を行うレーザー加工装置およびレーザー加工方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。(以下、従来技術2と呼ぶ)
【0005】
【特許文献1】特開2000−263261号公報(第4〜7頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
像転写式レーザー加工装置において、加工穴の真円度や断面形状などの加工品質を保ちつつ良好に加工を行うには、レーザービームの焦点位置をワークの表面もしくは特定の位置に固定させる必要がある。特に多層基板の加工において、多層基板はその層数により厚さがまちまちであるため、特にレーザービームの焦点をワーク表面に固定する技術が重要となってきている。
【0007】
従来技術1においては、焦点位置をワーク表面に一致させるために、結像用レンズと共に、結像用レンズ周辺にある、ワークからのスパッタによる結像用レンズの汚れを防ぐための集塵装置や、レーザーによる切断・穴あけ品質を向上させるための加工ガス供給機構や、加工速度向上のためのガルバノスキャンミラーなどの光学部品を一緒に移動させる必要があり、移動させる部品が体積・重量とも非常に大きくなり、移動手段は大型で、かつ大きなトルクを発生させられる大型サーボモータにする必要があった。
【0008】
さらに、必要とされる焦点位置の移動量と結像用レンズの移動量は、ほぼ1対1で対応しており、焦点裕度が非常に狭い加工、例えば、パッケージ分野における多層基板のエポキシ樹脂層40μm厚に穴径φ40μmの加工を行う場合においては、レーザー加工における焦点裕度は約±10μmであるので、10μm程度の精度で焦点位置をワーク表面と一致させる必要があり、結像レンズとその周辺部品も10μm程度の精度で移動させる必要がある。よって、移動手段には位置決め精度の高いボールねじ等の移動手段が必要となり、移動手段が高価な物が必要であった。
【0009】
一方、従来技術2にて示されるように、ビーム整形用マスクを移動させて焦点を合わせるものは、ビーム整形用マスクの周辺には集塵装置や加工ガス供給装置やガルバノスキャンミラーなどが存在しないため、移動させる必要があるものはビーム整形用マスクのみであり、体積・重量とも小さく、上記のような問題は発生しない。また、必要とされる焦点位置の移動量とビーム整形用マスクの移動量は、一般的な像転写式レーザー加工装置の構造ではほぼ1対100以上で対応しており、移動手段に10μm程度の精度は必要とされず、1mm程度(=10μm×100)の精度があれば良いため、位置決め精度の高い移動手段を要求されることはない。
【0010】
しかし、ビーム整形用マスクを移動させて焦点を合わせた場合、焦点位置の移動量が大きくなるので、転写率の変化が大きく、ワークにおける加工形状が変化してしまうという問題があった。
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、ワークの高さに応じてビーム整形用マスクを移動させて焦点を合わせた場合でも、加工品質を保ちつつ所定の加工形状のままにすることができるレーザー加工装置とレーザー加工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、レーザービームを出射するレーザー発振器と、前記レーザー発振器から出射されたレーザービームを所定の形状の範囲内のみ通過させ、かつ前記形状を大小に変化させることが出来るアパーチャと、前記アパーチャを通過したレーザービームを被加工物に結像させる結像レンズと、前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を変更する移動手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、レーザービームを出射するレーザー発振器と、前記レーザー発振器から出射されたレーザービームを所定の形状の範囲内のみ通過させ、かつ前記形状を大小に変化させることが出来るアパーチャと、前記アパーチャを通過したレーザービームを被加工物に結像させる結像レンズと、前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を変更する移動手段とを備えたので、ワークの高さに応じて前記アパーチャを移動させて焦点を合わせた場合でも、加工品質を保ちつつ所定の加工形状のままにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置を示す構成図である。図1において、レーザー発振器1から出力されたレーザービームは、アパーチャの一部を構成し、開口径が可変となりレーザービームを所望の形状に整形して通過させる虹彩絞り2を通過することで所望の形状に整形される。実施の形態1においては、虹彩絞り2の開口形状は円であるとする。また、アパーチャは虹彩絞り2と虹彩絞り2の開口径を調節する調整手段12とから構成され、虹彩絞り2と調整手段12から構成されるアパーチャは移動手段7によってレーザービームの光軸方向の位置が調節される。アパーチャの位置の調節と虹彩絞り2の開口径の調節については後述する。
【0014】
虹彩絞り2を通過したレーザービームは、単数もしくは複数のミラー3により結像用レンズ4へ導かれる。また、図示していないが、ミラー3と結像用レンズ4との間に、ガルバノスキャンミラーを設けてもよい。結像用レンズ4を通過したレーザービームは、XY方向に可動するXYテーブル5上に載置された被加工物であるワーク6表面に到達し、虹彩絞り2の形状がワーク6表面に転写される。
【0015】
虹彩絞り2と調節手段12とからなるアパーチャの位置の調整について説明する。
アパーチャは、移動手段7によってレーザービームの光軸方向の移動がなされる。移動手段7は虹彩絞り2を配置した可動台8、第一のボールネジの軸9、第一のサーボモータ10から構成される。
可動台8は、移動手段7の構成をなす第1のボールネジの軸方向の可動部分をも構成しており、レーザービームの光軸方向に配設された第1のボールネジの軸9が回転することで可動台8及び可動台8に固定された虹彩絞り2をレーザービームの光軸方向に動作させることが出来る。第1のボールネジの軸9を回転させるために、第1のサーボモータ10が配設され、第1のサーボモータ10が回転することで第1のボールネジの軸9を回転させるよう連結されている。第1のボールネジの軸9は固定台11に回転可能に固定され、第1のサーボモータ10も固定台11に固定されている。
したがって、第1のサーボモータ10の回転位置を調整することで、アパーチャの一部を構成する虹彩絞り2から結像用レンズ4までの物理的距離を調整することが可能となる。
【0016】
アパーチャの一部を構成する虹彩絞り2の開口径の調整について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2の開口径を調整する調整手段12の拡大図である。図2は図1において矢印A−Aから調整手段12を見たものである。
【0017】
虹彩絞り2は、絞り調整レバー13の位置を左右方向に移動させることでその開口径が変化する構成となっている。そして絞り調整レバー13は第2のボールネジの可動部をかねており、左右方向に配置された第2のボールネジの軸14が回転することで、第2のボールネジの可動部である絞り調整レバー13を左右に移動させ、虹彩絞り2の開口径を大小に変化させることが出来る。第2のボールネジの軸14を回転させるために、第2のサーボモータ15が配設され、第2のサーボモータ15が回転することで第2のボールネジの軸14を回転させるよう連結されている。第2のボールネジの軸14は可動台8に回転可能に固定され、第2のサーボモータ15も可動台8に固定されている。
したがって、第2のサーボモータ15の回転位置を調整することで、虹彩絞り2の開口径を調整することが可能となる。
【0018】
上記によって虹彩絞り2の位置と開口径の調整をすることでワーク6の加工点近傍の表面高さに基づいて適切な焦点位置と加工径とになるようにすることが可能である。
尚、本実施の形態においては、加工点近傍のワーク6の表面高さを測定するためのセンサー16とワーク6の表面高さのデータ情報に基づいて虹彩絞り2の位置と開口径の制御を行う制御手段17によって自動的に虹彩絞り2の位置と開口径の調節が行われる。
具体的にはセンサー16が加工点近傍のワーク6の表面高さを測定し、そのワーク6の表面高さのデータ情報を制御手段17に出力する。制御手段17は入力されたワーク6の加工点近傍の表面高さに基づいて適切な焦点位置と加工径とになるよう、計算した上で、第1のサーボモータ10と第2のサーボモータ15の回転位置を駆動信号により制御することで、虹彩絞り2の位置と開口径の調整が行われる。制御手段17の機能の詳細については後述する。
【0019】
次に、具体的な数値例を用いて、この実施の形態1の虹彩絞り2の位置と開口径の調整動作を説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2の位置と開口径の調整動作を示す図である。図3(a)はレーザービームの焦点をワーク6の高さ2mmにあわせた場合、図3(b)は、レーザービームの焦点をワーク6の高さ2.5mmにあわせた場合のものである。
図3における像転写式レーザー加工装置に示されている寸法の一例について説明する。本仕様は特殊なものでは無く、一般的な像転写式レーザー加工装置の仕様とほぼ同じオーダーの値である。
上記像転写式レーザー加工装置において、図3(a)に示す厚さ2mmと図3(b)に示す厚さ2.5mmの段差を有する樹脂板に対し、穴径φ0.2mmの貫通穴を形成する場合を説明する。
【0020】
まず、図3(a)中、a=2000.000mmは、虹彩絞り2から結像用レンズ4までの物理的距離の初期値であって虹彩絞り2の位置によって変動するものである。
同じく、f=100.000mmは、結像用レンズ4の焦点距離(固定値)である。
b=105.263mmは、aが上記値の場合における結像用レンズ4から焦点位置までの光学的距離であり、一般的なレンズの公式である1/a+1/b=1/fの式(1)から求まるものである。
Y=3.800mmは、虹彩絞り2の開口径であり、左記の値は初期値であって変動可能なものである。
y=0.200mm:虹彩絞り2の焦点位置における結像径であり、虹彩絞り2の開口径、a及びbによって変化するものであり、一般的なレンズの公式から、Y×b/a=yの式(2)にて求められる。
また、図中、cは結像用レンズ4からワーク5までの物理的距離であり、焦点裕度の範囲内でc=bとなることで、加工穴の真円度や断面形状などの加工品質を保ちつつ良好に加工を行うことができる。
【0021】
また、実施の形態1では、高さ測定手段16により測定されたワーク6表面の高さ情報を制御手段17が入手し、その情報と上記式(1)および式(2)より求められる最適な虹彩絞り2の位置と開口径の計算を行うとともに、虹彩絞り2の移動や開口径調整を行う。以下、制御手段17が行う処理についても上記寸法の一例に合わせて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の制御手段17の処理を示すフローチャートである。
【0022】
まず、ステップS01にて、加工スタートと共に、高さ測定手段16により現在のワーク高さを測定し、その測定値を制御手段17に送る。制御手段17はその測定値を初期ワーク高さ基準値として設定する。
具体的には、高さ測定手段16は、例えば非接触式のレーザー変位計であり、ワーク6がない状態からワーク6がセットされた状態でのレーザー変位計の示す値を測定値として制御手段17に送る。
尚、この時点では高さ測定手段16によって測定された測定値とレーザー加工装置の仕様から決まる値に基づいて、式(1)および式(2)に当てはめた場合に、各値は適正なものであったものとする。
【0023】
上記仕様の加工機により、図3(a)に示すように、まず、XYテーブル5上にワーク6を配置した後、レーザの焦点位置(結像位置)がワーク6(樹脂板)の2mmの厚さの部分の表面になるように虹彩絞り2の位置と口径と調節されている。この状態にて、虹彩絞り2の開口径をφ3.800mm、レーザパルス幅100μs、レーザービームエネルギー10mJ、パルス数20パルスをワーク6(樹脂板)に照射することにより、穴径φ0.2mmの貫通穴の加工を行うことができる。尚、上記の結像用レンズ4から焦点位置までの光学的距離bと結像径yは、ワーク6(樹脂板)の2mmの厚さの部分の表面になるようにした場合の設定値であり、その際、結像用レンズ4から焦点位置までの光学的距離b=結像用レンズ4からワーク5までの物理的距離cとなっている。
【0024】
その際、図4のステップS02において、高さ測定手段16は、定期的にワーク高さを測定し、測定値を制御手段17に送る。ここで、定期的にとは、XYテーブル5を連続的に移動させる場合には、例えば一定距離XYテーブル5が移動する毎に測定したり、一定時間毎に測定したりしても良いし、ガルバノスキャンミラーを用いた場合は、XYテーブル5によりスキャンエリアを変更する毎に測定しても良い。
【0025】
次に、ステップS03にて、制御手段17は、ワーク高さ基準値と測定値とを比較して、その変化量が別途設定した判断値以上であるかどうかを比較する。現状態においては、ワーク高さに変動はなく判断値未満であるため、再度ステップS02を実施する。ここで判断値とは、虹彩絞り2の移動や開口径の変更をさせるかどうかの判断値である。非常に焦点裕度の狭い加工においても±0.01mmの焦点裕度があるため、ワーク高さの変化量が0.01mm以下であった場合は、加工品質は変化しないため、虹彩絞り11の移動や開口径変更を行わず、現在の加工をそのまま進行する。駆動系の時間遅れによる焦点位置の追従遅れに伴う加工品質低下を防ぐため、判断値を小さく設定しても良い。また、判断値は各加工の焦点裕度の値により変化させても良い。
【0026】
次に、図3(b)のように、ワーク5(樹脂板)の2.5mmの厚さの部分にφ0.2mmの貫通穴の加工を行うため、XYテーブル5をレーザービームの光軸方向とは直交に移動させることにより、結像用レンズ4の下がワーク6(樹脂板)の2.5mmの厚さの部分となるよう移動させる。この状態では結像用レンズ4からワーク6の表面までの距離bと焦点位置(結像位置)cとが合っていないので真円度の良好なφ0.2mmの加工は出来ないからである。
その際、図4のステップS04にて、制御手段17は、ワーク高さの変化量が判断値以上であったと判断し、式(1)および式(2)により虹彩絞り2の移動量や開口径の変更量を算出する。
結像用レンズ4からワーク6表面までの距離cは0.5mm小さくなり、104.763mmとなっているので、所望の虹彩絞り2から結像用レンズ4までの距離aは式(1)より以下の通りとなる。
【0027】
式(1)に各値を代入すると1/a+1/104.763=1/100.000となる。aを求めるとa=2199.517となる。
よって、虹彩絞り2は、199.517mmだけレーザー発振器1側に移動させることにより焦点位置b(結像位置)をワークの表面に合わせることができる。なお、加工種類にもよるが、焦点裕度が非常に狭い加工における焦点裕度を例えば±10μmであることを考慮すると、結像用レンズ4から焦点位置までの距離bが104.753〜104.773mmとなるような虹彩絞り2から結像用レンズ4までの距離aでも加工品質は保たれるので、この場合の距離aは式(1)より以下の通りとなる。
【0028】
b=104.753の場合は、1/a+1/104.753=1/100.000よりa=2203.934となる。
b=104.773の場合は、1/a+1/104.773=1/100.000よりa=2195.778となる。
よって、焦点位置(結像位置)をワーク5の表面に合わせるために、虹彩絞り2を移動させるために、虹彩絞り2から結像用レンズ4までの距離aは、2196〜2203mmの範囲にあれば良い。すなわち虹彩絞り2の移動手段7は、±3.5mm程度の精度があれば、焦点裕度の範囲内で焦点位置(結像位置)をワーク6の表面に合わせることができる。
【0029】
この状態では、ワーク6の表面に焦点位置(結像位置)は合っているので虹彩絞り2の形状は正確にワーク6上に転写され加工が行われるが、aとbの距離が変更されているため、加工される穴径は式(2)よりy=3.800×104.763/2199.517=0.181となり、穴径φ0.181mmの穴加工を行ってしまう。一般的に要求される穴径は狙いの穴径に対して例えば±5%以下とすると、φ0.181mmでは品質不良となってしまう。ここで、逆に結像径yがφ0.2mmとなるような虹彩絞り2の開口径Yを式(2)から求めると、Y×104.763/2199.517=0.200よりY=4.199となる。
【0030】
よって、虹彩絞り2の開口径をφ3.800mmからφ4.199mmに広げることで、φ0.200mmの所望の穴加工を実現することができる。ここで、一般的に要求される穴径は狙いの穴径に対して例えば±5%以下、すなわちφ0.195〜0.205mmであることを考慮すると、虹彩絞り2の開口径の精度は、式(2)より以下の通りとなる。
y=0.195の場合は、Y×104.763/2199.517=0.195よりY=4.094となる。
y=0.201の場合は、Y×104.763/2199.517=0.205よりY=4.304となる。
【0031】
よって、虹彩絞り2の開口径は4.1〜4.3mmの範囲にあればよく、すなわちφ0.2mmの穴を加工する場合には、虹彩絞り2の開口径調整手段16は±0.1mm程度の精度があれば、所望の径の穴加工ができる。一般的に穴径については現状100〜200μm程度が主流であり、よって開口径調整手段16に用いられるボールねじの精度は0.1mm程度でよく、この場合安価な転造ボールねじを使用することができる。
【0032】
次に、ステップS05において、制御手段17は、ステップS04で算出された結果に基づき、第1のサーボモータ10および第2のサーボモータ15に駆動信号が送られ、算出結果の虹彩絞り2の位置や開口径となるよう第1のサーボモータ10および第2のサーボモータ15を制御して、虹彩絞り2の位置や開口径を変更する。
ステップS06にて加工が停止されたかどうか確認し、停止されていなければ再度、ステップS01もしくはS02から処理を行う。この一連の動作を、加工が停止されるまで継続して同じ動作を繰り返す。
【0033】
以上説明したように、レーザービームを出射するレーザー発振器1と、レーザー発振器1から出射されたレーザービームを所定の開口径の範囲内のみ通過させ、かつ開口径を大小に変化させることが出来る虹彩絞り2と調整手段12からなるアパーチャと、アパーチャを通過したレーザービームを結像させる結像レンズ4と、アパーチャのレーザービームの進行方向に対する結像レンズ4までの物理的距離を変更する移動手段7とを備えたので、ワークの高さに応じて前記アパーチャを移動させて焦点を合わせた場合でも、加工品質を保ちつつ所定の加工形状のままにすることができる。
【0034】
また、結像レンズ4から被加工物であるワーク6までの距離を直接または間接的に検出する高さ測定手段16と、高さ測定手段16により検出された結像レンズ4からワーク6までの距離と結像レンズ4からの焦点距離とを一致させるために、移動手段7を用いて、アパーチャのレーザービームの進行方向に対する結像レンズ4での物理的距離を制御する制御手段17を備えたので、ワーク6の高さが加工品質に影響を与えると判断した場合に、制御手段17は虹彩絞り2の位置を調整する移動手段7および開口径を調整する調整手段12を制御して焦点と加工径をワーク6の加工位置に随時あわせることができる。
【0035】
また、虹彩絞り2の移動手段7は1mm単位の精度しか要求されないため、例えば第1のボールネジ9では安価な転造ボールねじなどを使用することができ、安価に移動手段を構成できる。
【0036】
さらに、虹彩絞り2は通常のマスクと同じ薄い金属板からなり、重量は通常のマスクとほとんど変わらない。また、虹彩絞り2のを可変するための絞り調整レバー13は、可動範囲も小さく動作に必要なトルクも小さいことから、第2のボールネジおよび第2のサーボモータ15は小型のもので動作可能である。よって、虹彩絞り2の調整手段12は小型軽量に構成することができ、したがって、調整手段12を載置した移動手段7も小型軽量に構成することができる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態1においては、レーザービームを所望の開口径の範囲のみ通過させるアパーチャとして虹彩絞り2とその調整手段12を用いたが、レーザービーム径の変更は、図2に示した虹彩絞り2のように開口径を連続的に変化させるタイプではなく、離散的に変化させるタイプでも実現可能であり、そのような場合について以下、説明する。
【0038】
図5は、本発明の実施の形態2に係わる像転写式レーザー加工装置のアパーチャの拡大図である。尚、表示していない部分については実施の形態1と同じであり、図5中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
実施の形態1においてアパーチャの一部を構成していた虹彩絞り2の代わりに、異なった開口径を有する複数の固定のマスク18を並べている。固定のマスク18の位置の微調整は、各マスク18に設けられた位置微調用ネジ19にて行う。
また、所定のマスク18を選択するには、レーザービームの光軸と所定のマスクとの位置が合うよう調整手段12の調整レバー13を調整することで行う。尚、調整レバー13は実施の形態1と同様、第2のボールネジの可動部を兼ねていることから、第2のサーボモータ15の出力軸に連結された第2のボールネジの軸14が回転することで調整レバー13を動作させ、調整することが出来る。
【0039】
従って、本実施の形態においては、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
尚、本実施の形態においては、設置するマスク18の個数が制限されるので、マスク径の可変領域が制限され、マスク径の微調整が困難なので、ワークの高さの変化が小さく、また焦点裕度が比較的大きい加工に適しているものの、マスク18によって光を通過させる部分の形状を変更することが容易となり、円形以外の形状(例えば矩形や三角形など)にも容易に対応することが出来るといった効果がある。
【0040】
尚、アパーチャは実施の形態1に示した虹彩絞り2や多数のマスク18を備えたものに限らず、レーザービームを通過させる所望の形状の範囲を変更し、かつレーザービームを通過させる際のその位置を変更できるものであれは、他のものでもよい。
【0041】
実施の形態3.
実施の形態1では、1つのレーザービームを1つのワークに照射し加工を行う像転写式レーザー加工装置について説明したが、1つのレーザービームを複数に分けて複数のワークを一度に加工する、いわゆるマルチヘッドレーザー加工装置の場合について説明する。
図6は、本発明の実施の形態3に係わる像転写式レーザー加工装置の構成図である。尚、表示していない部分については実施の形態1と同じであり、図6中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0042】
図6において、レーザー発振器1から出力されたレーザービームは、半透過ミラー20により2つのレーザービームに分光される。分光された一方のレーザービームは、レーザービームを所望の形状に整形するための開口径が可変となる虹彩絞り2aを通過し、結像用レンズ4aへ導かれる。尚、レーザービームは半透過ミラー20で分光され、直接虹彩絞り2aに入射し、虹彩絞り2aを通過した後、直接結像用レンズ4aに入射しているが、その過程で単数もしくは複数の他のミラーによりその光路を適宜調整される場合もある。また、図示していないが、虹彩絞り2aと結像用レンズ4aとの間に、ガルバノスキャンミラーを設けてもよい。結像用レンズ4aを通過したレーザービームは、結像用レンズ4aにより集光され、XYテーブル5a上に載置されたワーク6a表面に、虹彩絞り2aの形状を転写する。
【0043】
半透過ミラー20にて分光された他方のレーザービームは、ミラー3によって反射された後、一方のレーザービームと同様に、虹彩絞り2bを通過し、結像用レンズ4bによりワーク6b表面に集光される。他方のレーザービームの光路中には、単数もしくは複数の他のミラーが設けられ、適宜光路を調整しても良い。また、図示していないが、虹彩絞り2bと結像用レンズ4bとの間に、ガルバノスキャンミラーを設けてもよい。
【0044】
一方及び他方のレーザービームの光径を調節するそれぞれの虹彩絞り2a、2bは、それぞれの移動手段7a、7bにより、レーザービームの光軸に沿ってその位置を調整することが可能であり、それぞれの虹彩絞り2a、2bの開口径は、それぞれの調整手段12a12bにより調整することが可能である。さらに、それぞれの虹彩絞り2a、2bの移動手段7a、7bおよび調整手段12a、12bは、加工点近傍のワーク6a、6bの表面高さを測定するためのそれぞれの高さ測定手段16a、16bからワーク高さデータを受信したそれぞれの制御手段17により、ワーク高さデータに基づき動作を制御される。
なお、2つに分光されたレーザービームの一方のレーザービーム側をヘッドA、他方のレーザービーム側をヘッドBとする。
【0045】
次に、この実施の形態3の動作を説明する。
この実施の形態3における2ヘッドの像転写式レーザー加工装置の仕様は、ヘッドA、ヘッドBとも実施の形態1に示した以下の例と同一とする。
【0046】
a=2000.000mm:虹彩絞り2a,2bから結像用レンズ4a,4bまでの距離
b= 105.263mm:結像用レンズ4a,4bから焦点位置までの距離
f= 100.000mm:結像用レンズ4a,4bの焦点距離(固定値)
Y= 3.800mm:虹彩絞り2a,2aの開口径
y= 0.200mm:虹彩絞り2a,2bの焦点位置における結像径
c:結像用レンズ4a、3bからワーク5a,5bまでの距離であり、焦点裕度の範囲内でc=bとなることが望ましい。
【0047】
本仕様も実施の形態1と同様に特殊なものでは無く、一般的な像転写式レーザー加工装置の仕様とほぼ同じオーダーの値である。
上記像転写式レーザー加工装置において、厚さ2mmと厚さ2.5mmの2種類の樹脂板に対し、穴径φ0.2mmの貫通穴を形成する場合を説明する。
【0048】
上記仕様の加工機により、図6に示すように、まずヘッドA、ヘッドB共に厚さ2mmのワークを加工する場合、XYテーブル5上に厚さ2mmのワーク6a、6bが載置され、焦点位置(結像位置)がワーク6a、6bの表面になるように調整されている。この状態にて、虹彩絞り2の開口径をφ3.800mm、レーザパルス幅100μs、レーザービームエネルギー10mJ、パルス数20パルスをワーク6a,6bに照射することにより、穴径φ0.2mmの貫通穴の加工を行うことができる。ヘッドAとヘッドBが同じ厚さ2mmのワークを加工する場合(図6)は、ヘッドAとヘッドBは上記のような同じマスク径とマスク位置にて加工を行う。
【0049】
次に、ヘッドAでは厚さ2mmのワーク5aを、ヘッドBでは厚さ2.5mmのワーク5cを加工する場合について説明する。図7は、本発明の実施の形態3に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2a,2bの位置と開口径の調整動作を示す図である。
【0050】
ヘッドBではワーク6cの表面に焦点位置(結像位置)が合っていないので真円度の良好なφ0.2mmの加工は出来ない。焦点位置(結像位置)をワークの表面に合わせるために、虹彩絞り2bを移動させる。結像用レンズ4bからワーク6c表面までの距離bが104.763mmとなっているので、ビーム整形用マスクの移動距離は、実施の形態1と同様に、199.517mm発振器側に移動させることにより焦点位置(結像位置)をワークの表面に合わせることができる。なお、虹彩絞り2bの移動距離は実施の形態1と同様に、2196〜2203mmの1mm単位程度で調整を行えば良い。さらに、aとbの距離が変更されているため、穴径φ0.181mmの貫通穴の加工を行ってしまい品質不良となってしまうので、実施の形態1と同様に虹彩絞り2bの径を4.1〜4.3mmとすることで、穴径φ0.2mmの貫通穴の加工を行うことが出来る。
【0051】
以上より、この実施の形態3に係る像転写式レーザー加工装置においては、実施の形態1と同様に、マルチヘッドタイプのものでも、実施の形態1と同様の効果を奏することが出来る。
また、本実施の形態3で説明した2ヘッドの加工機をはじめ複数のヘッドを有したマルチヘッドレーザー加工装置の場合、焦点調整手段はヘッド毎に必要であるため、従来技術1を適用したと比べて、よりコストの増加および装置の大型化を避けることができる。
さらに、本実施の形態3においては、ワークの厚さの変化によって焦点調整を行うことが出来る旨説明したが、マルチヘッドレーザー加工装置の場合、例えは各ヘッドで加工するワークの厚みが同じでも、各ヘッド間における機械精度の差は一般的に生じるものであり、それ吸収するためにヘッド毎の焦点調整を行うことに利用することが出来、そのことによる効果も奏することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2の開口径を調整する調整手段12の拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2の位置と開口径の調整動作を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係わる像転写式レーザー加工装置の制御手段17の処理を示すフォーチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2に係わる像転写式レーザー加工装置のアパーチャの拡大図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係わる像転写式レーザー加工装置の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係わる像転写式レーザー加工装置の虹彩絞り2a,2bの位置と開口径の調整動作を示す図である。
【図8】従来の像転写式レーザー加工装置の構成図である。
【図9】従来の第2の像転写式レーザー加工装置の構成図である。
【図10】従来の第3の像転写式レーザー加工装置の構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザー発振器、2 虹彩絞り、3 ミラー、4 結像用レンズ、5 XYテーブル、6 ワーク、7 移動手段、8、可動台、9 第1のボールネジの軸、10 第1のサーボモータ、11 固定台、12 調整手段、13 調整レバー、14 第2のボールネジの軸、15 第2のサーボモータ、16 高さ測定手段、17 制御手段、18マスク、19 位置微調整用ネジ、20 半透過ミラー、21 駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを出射するレーザー発振器と、前記レーザー発振器から出射されたレーザービームを所定の形状の範囲内のみ通過させ、かつ前記形状を大小に変化させることが出来るアパーチャと、前記アパーチャを通過したレーザービームを被加工物に結像させる結像レンズと、前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を変更する移動手段とを備えたことを特徴とする像転写式レーザー加工装置。
【請求項2】
前記結像レンズから被加工物までの距離を直接または間接的に検出する高さ測定手段と、前記高さ測定手段により検出された前記結像レンズから被加工物までの距離と前記結像レンズからの焦点距離とを一致させるために、前記移動手段を用いて、前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を制御すると共に、前記結像レンズから被加工物までの距離によって所望の加工形状が変化しないように前記アパーチャの前記形状の大小を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の像転写式レーザー加工装置。
【請求項3】
単数のレーザービームを複数に分光する半透過ミラーと、分光されたレーザービームについて焦点位置を調整すべくそれぞれ前記アパーチャ及び前記移動手段とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の像転写式レーザー加工装置。
【請求項4】
レーザービームを出射するステップと、レーザー発振器から出力されたレーザービームを所定の形状の範囲内のみ通過させるステップと、前記形状を大小に変化させることが出来るステップと、前記アパーチャを通過したレーザービームを結像させるステップと、前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を変更するステップとを備えたことを特徴とする像転写式レーザー加工方法。
【請求項5】
前記結像レンズから被加工物までの距離を直接または間接的に検出するステップと、前記結像レンズから被加工物までの距離と前記結像レンズからの焦点距離とを一致させるために、前記移動手段を用いて前記アパーチャのレーザービームの進行方向に対する前記結像レンズまでの物理的距離を制御するステップと前記結像レンズから被加工物までの距離によって所望の加工形状が変化しないように前記アパーチャの前記形状の大小を制御するステップとを備えたことを特徴する請求項4に記載の像転写式レーザー加工方法。
【請求項6】
単数のレーザービームを複数に分光するステップと、分光されたレーザービームについてそれぞれ前記光径と、レーザービームの進行方向に対する位置を調整して被加工物の加工位置の高さが焦点となるよう制御するステップとを備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の像転写式レーザー加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−82125(P2006−82125A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271582(P2004−271582)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】