僧帽弁の機能を改善する方法及び装置
僧帽弁逆流を軽減する方法及び装置である。装置(90)は、患者の冠状静脈洞(90)の中の僧帽弁後尖の近傍へ挿入される。この装置は、冠状静脈洞のうちの少なくとも僧帽弁後尖の近傍部分の本来の彎曲形状を直線形状に近付け、それによって後尖の弁輪部を前方へ移動させて弁尖の接合状態を改善し、もって僧帽弁逆流を軽減するものである。この装置は更に、電気リード線(600)と共に使用するように構成されており、その電気リード線は、例えば、植込形の両心室ペーシング・デバイス、植込形の除細動器、等々のための電気リード線である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件特許出願は、
(1)係属中の先行特許出願である米国特許出願第10/446,470号(出願日:2003年5月27日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-43)の一部継続出願であり、
(2)係属中の先行特許出願である米国特許出願第10/894,676号(出願日:2004年7月19日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-48)の一部継続出願であり、
(3)係属中の先行特許出願である米国特許仮出願第60/630,606号(出願日:2004年11月24日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-49 PROV)に基づく優先権を主張するものである。
尚、上記3件の米国特許出願の内容はこの言及をもって本願開示に組込まれたものとする。
【0002】
本発明は広くは外科手術の方法及び装置に関し、より詳しくは僧帽弁の機能を改善する外科手術の方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
僧帽弁は心臓内の、左心房と左心室との間に位置している。正常に機能している僧帽弁は、左心室が拡張するとき(即ち心拡張期)に、左心房から左心室へ血液を流入させ、左心室が収縮するとき(即ち心収縮期)に、左心室から左心房へ血液が逆流するのを阻止する。
【0004】
ある種の状況下では、僧帽弁が正常に機能しないために、逆流が発生することがある。例えば、心不全患者には多くの場合、僧帽弁逆流の発生が認められる。心不全患者における僧帽弁逆流の発生は、左心室、乳頭筋、それに僧帽弁輪などの変形を原因とするものである。それらが変形していると、その結果として、収縮期における僧帽弁の弁尖の接合不全が生じる。このような状況下で、僧帽弁逆流を取除くためには、一般的に、僧帽弁輪にひだ形成術を施して、拡張していた弁輪の周縁部を縫縮することにより、僧帽弁輪の原形を回復するという方法が採用されている。
【0005】
より詳しくは、僧帽弁を修復するために現在実施されている外科手術では、一般的に、僧帽弁輪の径を縮めるために、左心房を開けて、縫合糸を、また、より一般的には縫合糸及びサポートリングを、弁輪の内周面に縫着する必要がある。この縫着構造は、巾着袋の口元を引締めるような形で弁輪を引締めて縫縮することにで弁輪を縮径し、それによって弁尖の接合状態を改善し、もって僧帽弁逆流を軽減するものである。
【0006】
こうして僧帽弁を修復する施術法は、一般的に「僧帽弁形成術」と呼ばれており、これによって、心不全患者の僧帽弁逆流を効果的に軽減することができる。そして、それによって、心不全の症状を緩解し、生活の質を改善し、延命をもたらす効果が得られる。しかしながら、この僧帽弁の外科手術は、侵襲的処置であり(即ち、全身麻酔、開胸、心肺バイパス、心肺停止、僧帽弁にアクセスするための心臓自体の切開、等々が行われる)、それに伴うリスクゆえに、心不全患者の多くはこの外科手術の良好なキャンディデートとはなり得ない。従って、心不全患者に関して、その弁尖の接合状態を改善して僧帽弁逆流を軽減するための、より侵襲の少ない手段を提供するならば、それによって、この治療方法を、より多くの患者に適応することが可能となる。
【0007】
更に、僧帽弁逆流は、急性心筋梗塞患者の約20%に発生している。また、僧帽弁逆流は、急性心筋梗塞によって重度の血行動態の不安定をきたしている患者の約10%において、心原性ショックの主要原因をなしている。僧帽弁逆流を発生して心原性ショックに至る患者は、病院死亡の約50%を占めている。従って、そのような患者にとっては、僧帽弁逆流を解消することが非常に有益である。しかしながら、急性の僧帽弁逆流を合併している急性心筋梗塞患者は、外科手術のキャンディデートとしてはハイリスクの部類に入るものであり、従って、従来の僧帽弁形成術に関しては、その好適なキャンディデートであるとはいえない。それゆえ、このような命に関わる症状を呈している患者に関して、その僧帽弁逆流を一時的に軽減ないし解消することのできる、侵襲が最小限の手段を提供するならば、それによって、心筋梗塞などの急性の命に関わる事象から回復するための時間を患者に与えることができ、ひいては、そのような患者を、その他の介入的医療処置ないし手術治療の好適なキャンディデートにすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的の1つは、僧帽弁逆流を軽減するための改良した方法を提供することにある。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、僧帽弁逆流を軽減するための改良した装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的並びにその他の目的が本発明によって達成される。本発明は、僧帽弁逆流を軽減するための改良した方法と、僧帽弁逆流を軽減するための改良した装置とを包含するものである。
【0011】
本発明によれば、その1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減するアセンブリが提供され、このアセンブリは、
細長キャリア部材を備え、該細長キャリア部材は、冠状静脈洞に挿入されたときに冠状静脈洞の形状に略々沿った第1の形状を呈し、且つ、第1の形状と比べてより直線形状に近い形状となるように付勢されたならば、より直線形状に近い形状である第2の形状を呈するように、十分に大きな可撓性を有する材料から成るものであり、該細長キャリア部材はその長手方向に貫通延在する複数本のルーメンを有しており、
前記ルーメンに挿入可能な複数本の直線度増強ロッドを備え、該複数本の直線度増強ロッドの各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織の剛性と比べてより大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べてより直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、前記キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で前記ルーメンに前記直線度増強ロッドを挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしてあり、
前記複数本のルーメンのうちの少なくとも1本のルーメンが、電気リード線を挿通可能な寸法とされている、
ことを特徴とするアセンブリである。
【0012】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、且つ、患者の血管系を介してガイドワイヤを挿入して該ガイドワイヤの末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤの外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0013】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線の外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0014】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記キャリア部材の中を通して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0015】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成され、ルーメンの中に挿通された電気リード線を備えた、可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置すると共に前記電気リード線を心臓の生体組織に定位し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これより、添付図面を参照しつつ、本発明の様々な好適な実施の形態について更に詳細に説明することにより、本発明の以上の目的及びその他の目的、並びに、本発明の以上の特徴及びその他の特徴を明らかにして行く。尚、添付図面において、同一ないし対応する構成要素には同一の参照番号を付してある。
【0017】
概観
冠状静脈洞は、ヒトの心臓壁内の静脈のうちの最大のものである。冠状溝の中を通っている冠状静脈洞のかなりの部分が左心室に沿って走っており、その部分の長さは、典型的な場合では約5〜10cmである。ここで重要なことは、冠状静脈洞の全体のうちのある部分、典型的な場合では例えば7〜9cmの部分は、僧帽弁輪の後縁に非常に近接して走っていることである。本発明は、この事実を利用している。より詳しくは、新規な装置を冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置することによって、冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の本来の彎曲形状を変化させ、それによって後尖弁輪部を前方へ移動させて弁尖の接合状態を改善し、もって僧帽弁逆流を軽減するようにしたものである。
【0018】
患者の身体構造
図1及び図2に患者の心臓血管系5の各部を示した。これについて詳述すると、心臓血管系5の全体は、心臓10、上大静脈15、右鎖骨下静脈20、左鎖骨下静脈25、頸静脈30、及び下大静脈35を含んでいる。上大静脈15と下大静脈35とは右心房40に接続している。冠状静脈口45は冠状静脈洞50に続いている。この冠状静脈洞50の遠位端55(図2)において、以上の血管構造が、下行している前室間静脈(AIV)60(図1及び図2)に接続している。尚、本発明に関しては、便宜上、「冠状静脈洞」という用語は、この冠状静脈口45とAIV60との間を延在している血管構造を指すものとする。
【0019】
図2に示したように、冠状静脈口45とAIV60との間に冠状静脈洞50が延在しており、この冠状静脈洞50は、僧帽弁70の弁輪65の後縁にかなり近接している。僧帽弁70は、後尖75と前尖80とを備えている。逆流を発生している僧帽弁では、通常、収縮期に、後尖75と前尖80とが適切に接合しないために両者間に隙間85が生じており、この隙間85が、不都合な逆流を発生させる原因となっている。
【0020】
僧帽弁形成術用デバイスの概要
図3及び図4に、本発明の1つの好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90を示した。この僧帽弁形成術用デバイス90は、僧帽弁輪を治療目的でリモデル(形状変更)するための植込部材95(図4)と、この植込部材95を治療部位へデリバリーするためのカテーテル・シャフト100とを備えている。1つの好適な構成例においては、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを一体化して、単一構造体として形成するようにしている。この僧帽弁形成術用デバイス90を患者の冠状静脈洞に挿入する方法としては、例えば、標準的な導入用シース105(図3)とガイドワイヤ110とを用いて挿入を行うなどの方法がある。
【0021】
植込部材
図3〜図6に示したように、本発明の1つの実施の形態においては、植込部材95を、リード・セクション115と、トリートメント・セクション120とを備えた構造のものとしている。
【0022】
リード・セクション115は、末端部125と基端部130とを有する。リード・セクション115は、その全長に亘ってテーパが付けられており、先端が細く、基端側へ行くにつれて径が拡大している。このようにテーパを付けたリード・セクション115を備えることによって、血管構造の中を通過させて植込部材95を末端側へ移動させることを容易にしている。リード・セクション115は、その末端部から基端部まで延在する少なくとも1本のルーメン135(図5)が形成されたものとする。このようなルーメン135を備えることによって、ガイドワイヤ110を用いた標準的な経皮的デリバリー方式によって、この僧帽弁形成術用デバイスをデリバリーできるようにしており、これについては後に更に詳細に説明する。
【0023】
リード・セクション115の製作材料としては、例えば低硬度シリコーンゴムなどの比較的柔軟性及び可撓性に優れた材料を用いることが好ましく、また、リード・セクション115の寸法は、その基端部130が、冠状静脈洞と前室間静脈(AIV)との接続箇所に位置しているときに、その末端部125が、AIVの中に入り込んで下方を向いているような寸法とすることが好ましい。また更に、リード・セクション115の末端部125またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー140(図3及び図4)を取付けておくことが好ましく、そうすることによって、末端部125の位置をフルオロスコープなどで視認することが可能となる。
【0024】
トリートメント・セクション120は、キャリア部材145により構成されており、このキャリア部材145は末端部150と基端部155とを有する。キャリア部材145の末端部150は、リード・セクション115の基端部130に結合されており、このリード・セクション115を備えることによって、血管構造の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を挿入して行くときに、トリートメント・セクション120を比較的無理なく、また生体組織を傷つけることなく挿入して行けるようにしている。1つの好適な構成例においては、リード・セクション115とトリートメント・セクション120とを一体化して、単一構造体として形成している。また更に、トリートメント・セクション120の末端部150またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー160(図3及び図4)を取付けると共に、トリートメント・セクション120の基端部155またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー165を取付けておくことが好ましく、そうすることによって、トリートメント・セクション120の位置をフルオロスコープなどで視認することが可能となる。
【0025】
キャリア部材145は、その基端部155から末端部150へ向かって延在する少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、主機能ルーメン170(図6)が形成されたものとする。複数本の主機能ルーメン170を形成する場合には、それら主機能ルーメンの全てを同一径のものとしてもよく、互いに径の異なるものとしてもよい。1つの好適な構成例では、同一径の3本の主機能ルーメン170を、キャリア部材145の中心軸の周りに等角度間隔で形成して、それら主機能ルーメン170が、キャリア部材145の基端部155から末端部150までの略々全長に亘って延在するようにしている。
【0026】
1つの好適な構成例においては、キャリア部材145を、その基端部155から末端部150へ向かって延在する少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、補助ルーメン175(図6)が更に形成されたものとしている。複数本の補助ルーメン175を形成する場合には、それら補助ルーメンの全てを同一径のものとしてもよく、互いに径の異なるものとしてもよい。更に、1本または数本の補助ルーメン175が、1本または数本の主機能ルーメン170と同一径であるようにしてもよい。1つの好適な構成例においては、同一径の3本の補助ルーメン175を、キャリア部材145の中心軸の周りに等角度間隔で形成して、それら補助ルーメン175が、キャリア部材145の基端部155から末端部150までの略々全長に亘って延在するようにしている。
【0027】
少なくとも1本の主機能ルーメン170、及び/または、少なくとも1本の補助ルーメン175が、リード・セクション115を貫通して延在している上述した少なくとも1本のルーメン135(図5)に接続するようにしている。こうすることによって、ガイドワイヤ110を用いた標準的な経皮的デリバリー方式によって、僧帽弁形成術用デバイスをデリバリーできるようにしており、これについては後に更に詳細に説明する。1つの好適な構成例においては、キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170のうちの1本が、リード・セクション115を貫通して延在している1本のルーメン135に接続するようにしている。
【0028】
キャリア部材145の製作材料は、比較的可撓性に優れた材料とすることが好ましく、そうすれば、患者の冠状静脈洞の中にキャリア部材145を挿入するときに、生体組織を傷つけてしまうおそれが比較的小さくなり、また、冠状静脈洞の本来の形状を大きく変形させることなく挿入することが可能となり、これについては後に更に詳細に説明する。また、キャリア部材145の製作材料は、比較的摩擦の小さな材料とすることが好ましく、そうすれば、患者の血管系を通過させてキャリア部材145を進めて行くことが容易になり(例えば、ガイドワイヤの外周に沿わせて進めて行くことが容易になる)、また、ロッドやワイヤをキャリア部材145のルーメン170及び175の中に挿入すること及びそこから抜去することが容易になる。1つの好適な構成例においては、キャリア部材145をテフロン(商標)で形成している。
【0029】
主機能ルーメン170は、そこに直線度増強ロッドを選択的に挿入することによって、僧帽弁輪に治療目的のリモデルを施すためのルーメンであり、これについては後に更に詳細に説明する。尚、直線度増強ロッドの好適な1つの具体例を、図7に直線度増強ロッド180として示した。
【0030】
図3、図7、及び図14に示したように、複数本の直線度増強ロッド180の各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織と比べて幾分大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べて幾分直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で主機能ルーメン170に直線度増強ロッド180を挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。尚、これについては後に更に詳細に説明する。
【0031】
また、以上のことを換言するならば、直線度増強ロッド180の各々の寸法及び直線度は、彎曲形状の冠状静脈洞の中に直線度増強ロッド180を収容するためには冠状静脈洞と直線度増強ロッド180とのいずれか一方もしくは両方の形状が変化しなければならないような寸法及び直線度としてあり、また、直線度増強ロッド180の剛性は、その直線度増強ロッド180に対向する生体組織の剛性と比べて幾分大きな剛性としてあるため、冠状静脈洞の中に直線度増強ロッドを配置することによって、生体組織の形状の変化が引き起こされ、それによって僧帽弁の形状が矯正され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。尚、これについては後に更に詳細に説明する。
【0032】
本発明の1つの好適な実施の形態では、複数本の直線度増強ロッド180の各々は(応力が作用していない状態では)略々直線形状を呈している棒状部材から成るものであり、この棒状部材は幾分の可撓性を有しており、その弾性によって、冠状静脈洞の壁面に直線度増強力(生体組織の形状をより直線形状に近付ける力)を作用させるものである。
【0033】
複数本の直線度増強ロッド180は、1本おきに、冠状静脈洞の壁面へ作用させる直線度増強力の大きさが同一であるようにしてもよく、或いは、それら複数本の直線度増強ロッドを、夫々に異なった大きさの直線度増強力を作用させるものとして構成するようにしてもよい。本発明の1つの好適な実施の形態においては、夫々に異なった大きさの直線度増強力を発生する複数本の直線度増強ロッド180を取り揃えてキットとし、医師がそれらのうちから適当なものを選択できるようにしている。複数本の直線度増強ロッドの直線度増強力を夫々に異ならせる方法としては、ロッドの剛性を異ならせる(例えばロッドの材質を異ならせたり、ロッドの径を異ならせるなどする)という方法、ロッドの長さを異ならせるという方法、複数本の直線度増強ロッドを使用する場合にそれらロッドの相対的な位置を異ならせる(例えば複数本のロッドを使用する場合にそれらの長手方向位置を相対的に異ならせる)という方法、等々がある。
【0034】
更に、本発明の1つの好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が冠状静脈洞の壁面に作用させる力の大きさを、僧帽弁逆流を軽減するために最終的に必要とされる目標全体移動量の一部分に相当する移動量だけ僧帽弁輪を移動させるのに必要な程度の力の大きさとしている。本発明のこの実施の形態では、キャリア部材145の内部に更なる直線度増強ロッド180を挿入することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすること、及び/または、1本または複数本の補助ルーメン175の中に更なる直線度増強ロッドを挿入することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすること、及び/または、キャリア部材145の内部に埋設する形で、またはその外周面に形成する形で、またはその外周に嵌合させる形で、更なる直線度増強部材を装備することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすることが可能である。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、キャリア部材145のボディの主機能ルーメン170及び補助ルーメン175の周囲の領域に更なる直線度増強ロッドを埋設するようにしてもよく、及び/または、キャリア部材145の外周面に、板状部材、または殻状部材、または管状部材の形態の、外部部材としての直線度増強部材を設けるようにしてもよい。
【0035】
また更に別の方法として、この装置を、僧帽弁輪に弾性的な直線度増強力を作用させるような構成としてもよく、そうした場合には、その直線度増強力が最初に作用した時点では、それによって引き起こされる僧帽弁輪の移動量は、僧帽弁逆流を軽減するために最終的に必要とされる目標全体移動量の一部分に相当する移動量にすぎないが、冠状静脈洞のリモデル(形状変更)が進行して行く期間に亘って、その直線度増強力は治療効果を動的に発揮し続けることになる。
【0036】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が、互いに可撓性の大きさを異ならせた複数の領域を有するマルチゾーン型バーとして構成されている。これによって、僧帽弁輪の夫々の部分を、夫々に異なった大きさの力で変形させ、もって弁尖の接合状態を改善するようにしている。
【0037】
本発明の1つの特に好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が、本明細書の冒頭で言及した米国特許出願第10/446,470号、米国特許出願第10/894,676号、それに米国特許仮出願第60/630,606号に開示されている「5ゾーン型バー」により構成されている。その直線度増強ロッド180は、図7に示したように、所定の大きさの可撓性を有する中央部(ヒンジ部)S1と、中央部S1より小さな可撓性を有する延長部(アーム部)と、中央部S1より大きな可撓性を有する端部(フット部)S3とを備えている。基本的に、この5ゾーン型の構成では、中央部S1が、僧帽弁輪の部分に係合する「サドル部」として機能し、アーム部S2が、中央部S1から所定の距離(冠状静脈洞の長手軸方向にとった距離)だけ離れた箇所の冠状静脈洞の外側面に力を伝達する剛構造部として機能し、フット部S3が、冠状静脈洞の壁面に作用する荷重を「ソフト・ランディング」させる機能を果たすようにしてある。この5ゾーン型のバーは、極めて有利な構成であることが判明しており、なぜならば(1)5ゾーン型バーは、冠状静脈洞の中に挿入したときに、このバーの中央点が僧帽弁後尖の位置に合致しようとするセンタリング性を有しており、これは一種の「マクロエラスティック・エナジー・ウェル」であって、それによって、このバーが長手方向に移動してしまうおそれが非常に小さくなっていること、(2)5ゾーン型バーは、交連間距離を拡大することなく、拡張していた僧帽弁の前後距離を縮小することによって弁尖の接合状態を改善するものであるため、不都合な「側方噴流」を発生させるおそれが極めて小さいこと、それに、(3)5ゾーン型バーは、患者ごとの解剖学的ばらつきにも、完全に良好に対応し得ることによるものである。
【0038】
また更に、直線度増強ロッド180が、テーパ付の末端部185(図7)を備えているようにし、そして、その末端部183その先端に、生体組織を傷つけるのを防止するためのボール形チップ190が形成されているようにすることが好ましい。こうすることによって、キャリア部材145を患者の冠状静脈洞の中に配設した状態で、患者の体外からそのキャリア部材145の主機能ルーメン170の中に、容易に直線度増強ロッド180を挿入することができる。また以上の構成とすることにより、直線度増強ロッド180は、上述した端部S3より更に大きな可撓性を有する先端部S4を備えたものとなる。
【0039】
使用する複数本の直線度増強ロッド180のうちの1本ないし数本を、単一材料(例えばニチノールなど)の一体成形部品とすることが望ましいことがある。そうする場合に、複数の領域S1、S2、S3、及びS4の可撓性を異ならせるには、ロッド径を異ならせるようにすればよい(例えば図8に示した構成を参照されたい)。また、使用する複数本の直線度増強ロッド180のうちの1本ないし数本を、2種類以上の材料(例えばステンレス鋼とニチノールなど)を組合せた複合構造とすることが望ましいこともある。そうする場合には、その直線度増強ロッドを、ニチノールとステンレス鋼とを交互に配置した構成としてもよく(例えば図9に示した構成を参照されたい)、また、ニチノールとステンレス鋼とを同心的に配置した構成としてもよく(例えば図10及び図10Aに示した構成を参照されたい)、更にその他の構成としてもよい。
【0040】
カテーテル・シャフト
カテーテル・シャフト100(図4)は、植込部材95を治療部位へデリバリーするためのものである。カテーテル・シャフト100は、末端部195と基端部200とを有する。カテーテル・シャフト100が植込部材95を治療部位へデリバリーしているときには、このカテーテル・シャフト100の末端部195が、植込部材95の基端部155に係合している。本発明の1つの実施の形態においては、カテーテル・シャフト100は、植込部材95の基端部155から選択的に分離できるようにしてあり、そのため、例えば治療部位への植込部材95のデリバリーが完了した後の適当な時点で分離することができるようにしている。これを可能にするために、後に更に詳細に説明するが、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成した上で、それをカテーテル・シャフト100に着脱可能に取付けるようにしている。本発明の別の実施の形態においては、植込部材95をカテーテル・シャフト100と一体に形成した上で、それを(例えば切断するなどして)カテーテル・シャフト100から選択的に分離できるようにしている。本発明の更に別の実施の形態においては、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを単一構造体として形成し、使用期間中はその状態を維持するようにしている。
【0041】
カテーテル・シャフト100は細長い構造体であり、このカテーテル・シャフト100を用いて、患者の血管系を通過させて冠状静脈洞まで植込部材95を挿入することができるように、十分な長さを有しており、また、十分に大きな可撓性を有する材料で形成されている。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、カテーテル・シャフト100の長さ及び可撓性は、このカテーテル・シャフト100を使用して、頸部における頸静脈のアクセス・ポイントから、或いは胴部における右鎖骨下静脈または左鎖骨下静脈のアクセス・ポイントから体内へ導入した植込部材95を、そのアクセス用の静脈の中を通して下方へ進めて行き、そこから上大静脈の中を更に下方へ進め、右心房を通過させて冠状静脈洞の中に挿入することができるような長さ及び可撓性としている。
【0042】
図4及び図11に示したように、カテーテル・シャフト100は、少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、主機能ルーメン205を備えたものとして構成される。主機能ルーメン205は、カテーテル・シャフト100の末端部195に開口しており、カテーテル・シャフト100の全長に亘って貫通して延在しており、そして、カテーテル・シャフト100の基端部200に開口している。主機能ルーメン205は、キャリア部材145の主機能ルーメン170へのアクセスを提供するものであり、この目的のためには、カテーテル・シャフト100の複数本の主機能ルーメン205は、キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170と本数を同一にし、それらの位置も揃えておくことが好ましい。
【0043】
1つの好適な構成例においては、カテーテル・シャフト100が更に、少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、補助ルーメン210を備えたものとして構成される。補助ルーメン210は、カテーテル・シャフト100の末端部195に開口しており、カテーテル・シャフト100の全長に亘って貫通して延在しており、そして、カテーテル・シャフト100の基端部200に開口している。補助ルーメン210は、キャリア部材145の補助ルーメン175へのアクセスを提供するものであり、この目的のためには、カテーテル・シャフト100の複数本の補助ルーメン210は、キャリア部材145の複数本の補助ルーメン175と本数を同一にし、それらの位置も揃えておくことが好ましい。
【0044】
使用法
僧帽弁形成術用デバイス90の好ましい使用法は次の通りである。
【0045】
先ず、標準的な導入用シース105(図3)を患者の血管系に挿入し、冠状静脈口まで進める。より具体的には、無論これに限定されるものではないが、その際に、その標準的な導入用シースを患者の頸動脈(または患者の右鎖骨下静脈ないし左鎖骨下静脈)へ挿入し、上大静脈の中を下方へ進め、更に右心房を通過させて、冠状静脈口の中に挿入する。次に、この標準的な導入用シース105の中にガイドワイヤ110を挿通して、そのガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中に挿入する(図12)。次に、そのガイドワイヤ110の外周に、僧帽弁形成術用デバイス90を装着する。その僧帽弁形成術用デバイス90が植込部材95とカテーテル・シャフト100とを一体に形成したものである場合には、その僧帽弁形成術用デバイス90を1つのユニットとしてガイドワイヤ110の外周に装着することになる。一方、その僧帽弁形成術用デバイス90が、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを別体に形成したものである場合には、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを結合した後に、その結合したものをガイドワイヤ110の外周に装着するようにしてもよく、或いはまた、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを個別にガイドワイヤ110の外周に装着した後に、それらを互いに結合するようにしてもよい。植込部材95とカテーテル・シャフト100との一体化がどの時点でなされるにせよ(即ち、製造時点か、ガイドワイヤ110の外周に装着する前の時点か、それともガイドワイヤ110の外周に装着した後の時点かにかかわらず)、植込部材95とカテーテル・シャフト100とは一体化され、その際に、キャリア部材145の主機能ルーメン170とカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205とが位置合せされ、また、キャリア部材145の補助ルーメン175とカテーテル・シャフト100の補助ルーメン210とが位置合せされる。僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110の外周に装着する際には、互いに位置合せした主機能ルーメン170と主機能ルーメン205とにガイドワイヤ110の基端部を挿入するようにすることが好ましく、こうして装着が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90を、ガイドワイヤ110の外周に沿わせて末端側へ進めて行く。ただし別法として、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110の外周に装着する際に、互いに位置合せした補助ルーメン175と補助ルーメン210とにガイドワイヤ110の基端部を挿入するようにしてもよく、この場合にも、こうして装着が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90を、ガイドワイヤ110の外周に沿わせて末端側へ進めて行く、或いはまた、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤの外周に装着するための更に別のルーメンを、僧帽弁形成術用デバイス90に形成しておくようにしてもよい。
【0046】
そして、その僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて末端側へ、即ち下方へと進めて行き、トリートメント・セクション120を僧帽弁後尖の近傍に定位したならば、それによって、リード・セクション115がAIVの中へ入り込んで下向きになり、また、トリートメント・セクション120とリード・セクション115との接合点が、冠状静脈洞とAIVとの接続箇所に位置するようになる(図3及び図13)。尚、放射線不透過性マーカー140、160及び/または165を利用して、フルオロスコープなどで観察しながら僧帽弁形成術用デバイス90の定位を行うようにするとよく、そうすることによって、容易に定位を行うことができる。
【0047】
この僧帽弁形成術用デバイス90を治療部位である冠状静脈洞の中に挿入して行くときには、トリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入しておかないようにすることが望ましい。そうすれば、患者の血管系の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を進めて行くときに、キャリア部材145がより撓みやすいため、僧帽弁形成術用デバイス90の挿入をより容易に行うことができる。これは本発明の重要な利点のうちの1つであり、なぜならば、これによって、生体組織を傷つけるおそれを非常に小さくし、また、僧帽弁形成術用デバイスにキンクを発生させるおそれも小さくして、僧帽弁形成術用デバイスの挿入を行えるからである。
【0048】
キャリア部材145が比較的可撓性の大きな材料で製作されているため、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて挿入して行くのに先立って、使用されていない主機能ルーメンのペア170、205には、閉塞充填材を装填しておくことが望ましいことがある。使用されていない主機能ルーメンを空洞のままにしておくと、特にキャリア部材145が屈曲したときなどに、そのルーメンがつぶれた状態になるおそれがあるが、閉塞充填材を装填しておくことでそのような事態を防止することができる。また、使用されていない主機能ルーメンを空洞をままにしておくと、後にキャリア部材に直線度増強ロッドを挿入する際に、その直線度増強ロッドがキャリア部材の側壁を突き破るおそれがあるが、閉塞充填材を装填しておくことで、そのような事態も防止することができる。例えばキャリア部材145が3本の主機能ルーメン170を有するものである場合に、その3本のうちの、2本の主機能ルーメン170に装填した閉塞充填材は、残りの(3本目の)主機能ルーメンに挿入する直線度増強ロッドを案内する「レール」として機能する。ただしこれに関しては、そのような閉塞充填材はできるだけ可撓性の大きなものとすることが好ましく、そうすれば、僧帽弁形成術用デバイスが撓むこと、及び/または、僧帽弁形成術用デバイスを挿入することに対して、大きな抵抗力を発生することなく、使用されていない主機能ルーメンのペア170、205がつぶれた状態になるのを防止することができる。
【0049】
同様に、補助ルーメンのペア175、210についても、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて挿入して行くのに先立って、使用されていない補助ルーメンのペア175、210には、閉塞充填材を装填しておくようにするのもよい。
【0050】
患者の血管系の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を挿入し、その僧帽弁形成術用デバイス90のトリートメント・セクション120を、冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に定位したならば、ガイドワイヤ110を抜去してもよい。ただし別法として、ガイドワイヤ110が挿通されているルーメンを別の目的に使用する必要がなければ、ガイドワイヤ110を抜去せずにそのままにしておいてもよい。そうした方が有利であることもあり、それは、ガイドワイヤ110は、僧帽弁形成術用デバイス90に挿通されている間は、それが挿通されているルーメン(例えば主機能ルーメンのペア10、205)を支持する機能を果たすからである。
【0051】
続いて、キャリア部材145の1本または複数本の主機能ルーメン170の中に、1本または複数本の直線度増強ロッド180を挿入する。それには、直線度増強ロッド180を、先ずカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205の中に挿入し、そこから更にキャリア部材145の主機能ルーメン170の中に挿入する。また、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入するときに閉塞充填材またはガイドワイヤが嵌挿されていた主機能ルーメン205及び170に、直線度増強ロッドを挿入しようとするときには、その閉塞充填材またはガイドワイヤを抜去した後に直線度増強ロッドを挿入する。
【0052】
キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170の中に複数本の直線度増強ロッド180を次々と挿入して行くと、それにつれてキャリア部材145の剛性が次第に大きくなり、そのためキャリア部材145の形状が直線形状に近付いて行く。即ち、直線度が増強される。またそれによって、拡張していた僧帽弁の形状を変更するリモデルが徐々に進行し、それに伴って僧帽弁後尖が前方へ押されて移動し、もって僧帽弁逆流が軽減される(図14)。キャリア部材145の主機能ルーメン170に、直線度増強ロッド180を1本追加して挿入するごとに、僧帽弁逆流の程度を観察して、その逆流が最小になるまでこのプロセスを反復する。一旦挿入した直線度増強ロッド180を抜去することが望ましいと判断された場合にはその抜去を行い、また、別の直線度増強ロッドに交換した方がよいと判断された場合にはその交換を行い、それらによって、生体組織の変形の程度を改善して僧帽弁逆流が最小になるようにする。本質的に、キャリア部材145を冠状静脈洞の中に定位した状態で、その定位したキャリア部材145に直線度増強ロッド180を挿入して行くのであるから、植込部材95は治療部位において完成されることになる。この方式によれば、数々の優れた利点が提供される。それらのうちでも特に、複数本の直線度増強ロッドをキャリア部材145の中に次々と挿入して行く方式であることから、治療処置を「段階的に」適用することができ、そのため生体組織の変形度を「精密調整」することができ、それによって最適治療が可能となっている。またこれに関しては、直線度増強ロッド180を提供する形態として、直線度増強力の大きさが互いに異なる複数本の直線度増強ロッド180を取り揃えたキットの形で提供することが好ましいということがあり、そうすることによって、生体組織を変形させる変形力の大きさを容易に最適化することができる。これに関しては、例えば図14Aを参照されたい。同図に示した様々な直線度増強ロッドは、長さに関して3通りのものがあり、その各長さごとに、剛性が6通りあるため、医師は18通りの異なった直線度増強力を利用することができる。更に、患者の生体組織に対して治療目的で作用させる力が徐々に増大させることができるため、生体組織を傷つけるおそれも小さくすることができる。更に、本発明は、生体組織を傷つけるおそれの小さいデバイスを使用していることから、システムの構成要素を簡明な方法で低コストで製作することができる。本発明のこの新規な方式には、更にその他の様々な利点もあるが、それらは当業者であれば、本開示に基づいて容易に理解し得るものである。
【0053】
更に、キャリア部材145は、例えばテフロン(商標)などの比較的低摩擦の材料で製作されるものであるため、直線度増強ロッド180をキャリア部材145に挿入するときの滑りも良好であり、また、このキャリア部材145を冠状静脈洞30に挿入するときの滑りも良好である。そのため、キャリア部材145に複数本の直線度増強ロッド180を次々と挿入して、後尖弁輪部を次第に前方へ移動させて行くにつれて、このデバイスの形状が次第に直線形状に近付いて行く際に、このデバイスの末端部及び基端部が突出しなければならないが、その突出も無理なく行われる。
【0054】
これについて更に詳細に説明する。図14Bは、僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクション120が、患者の生体組織の中に配置された状態を示した図である。複数本の直線度増強ロッド180が次々と挿入されるにつれて、トリートメント・セクション120が、直線度が増強されていない状態(実線)から、直線度が増強された状態(破線)へ移行して行き、その際に、トリートメント・セクション120の長さが一定であるのに対して、生体組織の形状が変化することから、トリートメント・セクション120の末端部150及び基端部155が、生体組織に沿って摺動する(これを移動量Xで図示した)が、その際に生体組織を傷つけるおそれは小さい。このデバイスが摺動する際に、生体組織を傷つけるおそれが小さいのは、キャリア部材145が比較的低摩擦の材料(例えばテフロン(商標)など)で形成されているからである。実際のところ、複数本の直線度増強ロッドを次々と挿入して行くにつれて、生体組織の変形が徐々に進行することから、このデバイスの摺動も徐々に進行し、そのため、生体組織を傷つけるおそれが更に小さなものとなっている。
【0055】
僧帽弁形成術用デバイス90の挿入は、いわゆるスタイレット・デリバリー方式で行うようにしてもよい。そうする場合には、ガイドワイヤを利用してシースを冠状静脈洞の中に挿入した後にそのガイドワイヤを抜去し、そして、そのシースの中を通して僧帽弁形成術用デバイス90を挿入して冠状静脈洞の中に定位し、続いて、そのシースを抜去して、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に残置する。また、その場合に、僧帽弁形成術用デバイス90の末端部130の開口は、その他の用途に使用する必要がなければ、封止しておくようにするとよい(ここでいうその他の用途とは、例えば電気リード線を挿通するなどの用途であり、これについては後に説明する)。
【0056】
更なる好適な構成例の詳細
直線度増強ロッド180の寸法及び形状は、冠状静脈洞の中に配置されたならば、冠状静脈洞の形状をより直線形状に近付けるような、即ち、冠状静脈洞に直線度増強をもたらすような、寸法及び形状とされている。より詳しくは、複数本の直線度増強ロッド180の各々は、(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織と比べて幾分大きな剛性を有し、(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の自然な彎曲形状と比べて幾分直線形状に近い形状を有し、そして、(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有するように形成されており、それによって、直線度増強ロッドを患者の冠状静脈洞の中に配置されたならば、その直線度増強ロッドが、冠状静脈洞に直線度増強力を作用させることで僧帽弁後尖に前向きの力を作用させ、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。
【0057】
1つ重要なこととして、キャリア部材145それ自体の弾性によって冠状静脈洞の壁面に作用する直線度増強力が、とるに足らない程度の、非常に小さな力となるように、このキャリア部材145を構成するとよいということがある。それによって大きな利点が得られ、なぜならば、そうすることによって、キャリア部材145を治療部位まで挿入するする際に、そのキャリア部材145に直線度増強ロッド180を挿入しておかなければ、容易に、また生体組織を傷つけることなく、そのキャリア部材145を治療部位まで進めることができるからである。
【0058】
更にもう1つ重要なこととして、個々の直線度増強ロッド180が冠状静脈洞の表面に作用させる直線度増強力の大きさは、冠状静脈洞の壁面に作用させるべき直線度増強力の全体のうちの一部だけとすることができるということがある。このようにすることができるのは、複数本の直線度増強ロッド180による累積効果を利用するようにしているからである。これによっても大きな利点が得られ、なぜならば、こうすることによって、容易に、また生体組織を傷つけることなく、個々の直線度増強ロッドを治療部位まで進めることができるからである。
【0059】
更にもう1つ重要なこととして、複数本の直線度増強ロッドを個別に挿入して、僧帽弁輪に直線度増強力を作用させるようにしているため、使用する直線度増強ロッドの本数を増減することにより、及び/または、使用する直線度増強ロッドの剛性などを加減することにより、様々な大きさの直線度増強力を作用させることができるということがある。
【0060】
また、これも重要なこととして、直線度増強ロッド180を弾性材料で形成してあるため、直線度増強ロッド180によって、生体組織のリモデルを徐々に進行させることができ、即ち、時間をかけて弁尖の接合状態に動的に影響を及ぼして行くことができることから、個々の直線度増強ロッド180が冠状静脈洞の表面に作用させる直線度増強力の大きさを、弁尖の接合状態を略々完全な状態にするために必要とされる直線度増強力の全体の一部分に相当する力の大きさにし得るということがある。また特に、これに関しては、生体組織は動的に反応する性質があるため、可撓性を有する直線度増強ロッドを使用して、生体組織を徐々に最終位置へ移動させて行くことができる。そのため、生体組織のリモデルを時間をかけて進行させることができ、それによって、生体組織のリモデルを一度に完了させる場合と比べて、生体組織を傷つけるおそれをより小さくすることができる。
【0061】
トリートメント・セクション120の1本または複数本の主機能ルーメン170の中に予め直線度増強ロッド180を挿入した上で、その僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞へ進めて行くという方法もあり、また、カテーテル・シャフト100の1本または複数本の主機能ルーメン205の中に予め直線度増強ロッド180を挿入した上で、その僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞へ進めて行くという方法もある。ただし、既述のごとく、通常は、先に僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入し、しかる後に、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入するようにすることが望ましく。そうすることによって、患者の冠状静脈洞の中に僧帽弁形成術用デバイスを挿入しているときに、僧帽弁形成術用デバイスの可撓性を、可及的に大きくしておくことができる。
【0062】
キャリア部材145の補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入することによって、僧帽弁輪に所望の直線度増強をもたらすようにしてもよい。またそうする際に、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッドを挿入すると共に、補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入するようにしてもよく、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッドを挿入する替わりに、補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入するようにしてもよい。
【0063】
1つの好適な構成例においては、主機能ルーメン170の中と補助ルーメン175の中との両方に直線度増強ロッドを挿入することによって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付ける所望の直線度増強効果を得るようにしている。
【0064】
更に、1つの特に好適な構成例においては、主機能ルーメン170の中に挿入する直線度増強ロッドの可撓性の大きさと、補助ルーメン175の中に挿入する直線度増強ロッドの可撓性の大きさとの間に、適切な相関関係を設定することによって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付ける直線度増強効果を更に改善したものとしている。
【0065】
より詳しく説明すると、1つの好適な実施の形態に係る直線度増強ロッド180においては、図7に示したように、直線度増強ロッド180の末端部S4の可撓性を比較的大きくすることで、生体管路内を通して直線度増強ロッドを患者の冠状静脈洞まで挿入する操作を容易にしている。ただし、これによって、末端部S4が発生する直線度増強力が弱まるため、冠状静脈洞のうちのこの末端部S4に対応した領域では、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付けるための直線度増強効果が弱まるという結果を生じるおそれがある。そこで、図15に示したような補助直線度増強ロッド211を併用するようにしており、この補助直線度増強ロッド211は、その基端部S5の剛性を第1の大きさとし、その末端部S6の剛性を第1の大きさより大きい第2の大きさとしたものであり、この補助直線度増強ロッド211の末端部S6の可撓性の大きさと直線度増強ロッド180の末端部S4の可撓性の大きさとの間に、適切な相関関係を設定することにより、それら2つの末端部の総合作用によって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付けるための直線度増強力が、所望の大きさとなるようにしたものである。
【0066】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、補助直線度増強ロッド211の末端部に基端側ほど可撓性が小さくなる可撓性勾配を付与し、それによって、基端側ほど可撓性が大きくなる可撓性勾配を有する直線度増強ロッド180の末端部の影響を補償するようにしている。この作用を図解して示したのが図16である。このような可撓性勾配を付与する方法としては、例えば、ロッドの径を変化させる方法や、2種類以上の材料を併用する方法があり、更にその他の方法もある。
【0067】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、先ず、補助ルーメン210の中に1本または複数本の補助直線度増強ロッド211を挿入し、その後に、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入するようにしており、そして、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に配置した後に、主機能ルーメン170の中に1本または複数本の直線度増強ロッド180を挿入するようにしている。
【0068】
また、直線度増強ロッド180を、直線度増強ロッド180に作用する大きな応力に耐えられる材料(例えばニチノール等の超弾性金属材料など)で形成し、補助直線度増強ロッド211を、キャリア部材45に必要とされる大きな強度を提供することのできる別の材料(例えば手術器具用ステンレス鋼など)で形成するようにしてもよい。
【0069】
既述のごとく、一般的には、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170に挿入するのは、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入した後とすることが望ましく、そうすることで、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞に挿入する操作が容易になる。
【0070】
本発明の1つの実施の形態においては、カテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205の中で、また、トリートメント・セクション120の主機能ルーメン170中で、直線度増強ロッド180を移動させるために、簡単な構成のプッシュ・ロッド215(図17)を用いるようにしている。プッシュ・ロッド215は、直線度増強ロッド180とは別体に形成してもよく、また直線度増強ロッド180と一体に形成してもよい。本発明の1つの好適な実施の形態では、プッシュロッド215を直線度増強ロッド180と一体に形成するか、さもなくば、プッシュロッド215を直線度増強ロッド180に連結するようにしている。
【0071】
ある種の状況下では、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170から抜去する操作が行われることがある。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、トリートメント・セクション120を冠状静脈洞の中に定位した後に、僧帽弁輪に作用させる直線度増強力を加減するために、先に挿入した直線度増強ロッドを別の直線度増強ロッドに交換することが必要とされ、もしくは望まれることがある。或いはまた、冠状静脈洞の中に展開した僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞から抜去することが必要とされ、もしくは望まれることがあり、そのような場合には、冠状静脈洞の中に定位されているトリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去することが必要とされ、もしくは望まれることになる。トリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去する際に、その直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が一体に形成されているならば、或いは、その直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が連結されているならば、その抜去を容易に行うことができる。即ち、そのような場合には、そのプッシュ・ロッド215の基端部を摘んで基端側へ引っ張るだけで、直線度増強ロッド180を容易に抜去することができる。
【0072】
トリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去するときには、その直線度増強ロッド180を挿入するときに使用したプッシュ・ロッドの末端部を、その直線度増強ロッド180の基端部に着脱可能に連結して、そのプッシュ・ロッドを利用して抜去するようにしてもよい。
【0073】
更に詳細に説明すると、図18に示したプッシュ・ロッド220は、直線度増強ロッド180に着脱可能に連結されている。このプッシュ・ロッド220は、末端部225と基端部230とを有する。プッシュ・ロッド220の末端部225には、可撓性を有するコイルスプリング235が設けられており、このコイルスプリング235が、直線度増強ロッド180の基端部に当接している。プッシュ・ロッド220の基端部230にはハンドル240が取付けられている。プッシュ・ロッド220には中心ルーメン255が形成されている。この中心ルーメン255には引張ワイヤ260が挿通されている。引張ワイヤ206の一端は直線度増強ロッド180の基端部に連結されており、引張ワイヤ206の他端はハンドル240に取付けられた引張機構265に連結されている。
【0074】
使用法について説明すると、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド220に連結されている状態では、ハンドル240を利用して、直線度増強ロッド180をトリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中に挿入することができ、また、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170から抜去することができる。それらが完了した後に、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220から切り離す際には、引張機構265を操作して引張ワイヤ260に十分に大きな引張力を加えれば、引張ワイヤ260を破断させて、引張ワイヤ260と直線度増強ロッド180とを切り離すことができ、それによってプッシュ・ロッド220を僧帽弁形成術用デバイス90から除去することができ、一方、直線度増強ロッド180はトリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中にそのまま残置される。
【0075】
図19〜図21に、直線度増強ロッドをプッシュ・ロッドに切り離し可能に連結するためのその他の様々な機構を示した。図19〜図21に示した構成は、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッドに切り離し可能に連結するという意味では図18の構成と同様であるが、ただし、図19〜図21の構成は、プッシュ・ロッドから切り離された直線度増強ロッドに対して、再びそのプッシュ・ロッドを連結できるという、更なる利点を有するものである。
【0076】
図19に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結し、しかも、一度切り離したプッシュ・ロッドを再び直線度増強ロッドに連結することのできる構成の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、(1)直線度増強ロッド180の基端部が凹部270を備えており、(2)プッシュ・ロッド220が、割り溝付き外筒部275と内側くさびロッド280とを備えている。内側くさびロッド280を基端側へ引っ張り、割り溝付き外筒部275から引き出すと、割り溝付き外筒部275は径方向に押し広げられた状態から解放されて、凹部270の内周面に対する保持力を失い、それによって、割り溝付き275を凹部270に出し入れすることが可能になる。一方、割り溝付き外筒部275を凹部270に嵌合させた上で、内側くさびロッド280を末端側へ移動させて割り溝付き外筒部275の中へ押し込むと、割り溝付き外筒部275は径方向に押し広げられた状態となり、割り溝付き275が凹部270の内周面を保持できるようになるため、それによって直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド220に固定される。この後、内側くさびロッド280を基端側へ引っ張り、割り溝付き外筒部275から引き出せば、プッシュ・ロッド220を直線度増強ロッド180から抜脱することができ、それによって、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220から切り離すことができる。
【0077】
図20に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結することのできる構成の別の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、(1)直線度増強ロッド180の基端部が、雄形部285を備えており、(2)プッシュ・ロッド220の末端部が、スプリング機能を有する凹部290を備えており、(3)プッシュ・ロッド220の外周に閉止チューブ295が同心的に嵌装されている。この構成において、閉止チューブ295を基端側へ引っ張ってスプリング式凹部290から引き離すと、プッシュ・ロッド220の末端部が、外側から押さえ付けられた状態から解放されてスプリング機能により自由に拡がった状態になり、雄形部材285に対する保持力を失うため、凹部290を雄形部材285に対して嵌脱することが可能になる。一方、プッシュ・ロッド220の末端部を雄形部材285の外周に嵌合して、閉止チューブ295を末端側へ移動させてスプリング式凹部290の外周へ嵌合したならば、プッシュ・ロッド220の末端部が雄形部材285を保持して、それによって直線度増強ロッド280がプッシュ・ロッド220に固定される。この後、閉止チューブ295を引っ張って、スプリング式凹部290から離れる方向に移動させ、プッシュ・ロッド220を直線度増強ロッド180から抜脱することによって、直線度増強ロッド130をプッシュ・ロッド220から切り離すことができる。
【0078】
図21に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結することのできる構成の別の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、直線度増強ロッド180とプッシュ・ロッド220との一方に、バヨネット型連結構造の一方の連結機構を装備し、また、直線度増強ロッド180とプッシュ・ロッド220との他方に、バヨネット型連結構造の他方の連結機構を装備するようにしており、それらによって、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結できるようにしたものである。
【0079】
当業者であれば、本開示を参照することにより、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結するための、更にその他の様々な方式にも想到するのは当然のことである。
【0080】
既述のごとく、カテーテル・シャフト100(図4)は植込部材95を治療部位へデリバリーする機能を果たすものである。カテーテル・シャフト100が植込部材95を治療部位へデリバリーしているときには、そのカテーテル・シャフト100の末端部195が植込部材95の基端部に結合されており、また、本発明の幾つかの実施の形態では、デリバリーが完了した後のある時点で、カテーテル・シャフト100の末端部105を植込部材95の基端部155から切り離せるようにしている。そのためには、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、それをカテーテル・シャフト100に切り離し可能に連結しておくようにしてもよく、或いは、植込部材95をカテーテル・シャフト100と一体に、ただしカテーテル・シャフト100から切り離し可能に形成しておくようにしてもよい。
【0081】
植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、それをカテーテル・シャフト100に切り離し可能に連結しておくようにする場合には、両者の選択的連結を可能にする様々な構成を利用することができる。
【0082】
1つの好適な構成例においては、図22に示したように、接続糸300を用いて植込部材95とカテーテル・シャフト100とを切り離し可能に連結している。これについて詳細に説明すると、1本または複数本の接続糸300の末端部を、トリートメント・セクション120の補助ルーメン175に挿入して固定し、その接続糸300をカテーテル・シャフトの補助ルーメン210に挿通して基端側へ引き出す。続いて、その接続糸300を緊張させた状態で、カテーテル・シャフト100の末端部195をトリートメント・セクション120の基端部155に押し付けることにより、植込部材95とカテーテル・シャフト100とが一体化され、あたかも1つのユニットであるかのように扱うことができるようになる。より具体的には、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて患者の冠状静脈洞へ進めて行くときには、カテーテル・シャフト100で押すことによって植込部材95を末端側へ移動させることができる。また、僧帽弁形成術用デバイス90を引き出す必要が生じたならば、接続糸300を基端側へ引っ張れば、それによって植込部材95を基端側へ(従って、カテーテル・シャフト1000を基端側へ)引き出すことができる。
【0083】
治療部位に植込部材95を残置して、カテーテル・シャフト100を抜去する際には、先ず、カテーテル・シャフト100を動かさずに、接続糸300を基端側へ引っ張ると、それによって接続糸300が植込部材95から抜けて離れるため、続いて、接続糸300とカテーテル・シャフト100とを治療部位から抜去すればよい。図23に示したのは、このような作用効果を実現するための1つの構成例であり、この構成例においては、接続糸300が摩擦力によって補助ルーメン175に固定されており、その摩擦力は、十分に大きな力を加えることによって、接続糸300を抜き取ることができる程度のものである(即ち、植込部材95が移動しないようにカテーテル・シャフト300で押さえた状態で接続糸300を強い力で引っ張るようにすればよい)。
【0084】
別法として、接続糸300を残したまま、カテーテル・シャフト100だけを抜去するようにしてもよく、その場合には、治療部位に残置した植込部材95から基端側へ延出している接続糸300が、そのまま残されることになる。この方法の利点は、後に植込部材95を引き出す必要が生じたときに、残されている接続糸300が、体内に配置されている植込部材95に容易にアクセスするための手段となることである。植込部材95を患者の体内から除去できることは、本発明の優れた利点のうちの1つである。
【0085】
更に、接続糸300が植込部材95から基端側へ延出して露出しているため、その接続糸300に沿わせてキャップ(不図示)を挿入して植込部材95まで進めることにより、植込部材95の基端部にキャップを被着することができる。このようなキャップを使用することで、植込部材95の基端部によって生体組織が傷つけられるのを防止することができ、また、植込部材95の内部の少なくとも幾分かが封止されるために、凝固を発生させるおそれも軽減される。
【0086】
以上に説明した植込部材95は、先に言及した米国特許出願第10/446,470号において細長部材175、184の1つの好適な実施の形態として記載されているものである。それゆえ、この植込部材95は単独で体内に配置する(例えば、冠状静脈洞の内壁に直接当接させるようにして配置する)ことも可能であり、また、上記米国特許出願において細長部材157、184に関連して記載されているように、その他の何らかのデバイスと共に体内に配置することも可能であって、例えば、安定化スカホールドなどと共に配置することができる。
【0087】
この点に関して付言すると、1本の比較的大径のロッド(例えば先に言及した米国特許出願第10/446,470号に記載されている細長部材157、184など)に替えて、複数本のそれより小径のロッド(例えば上で説明した直線度増強ロッド180、211など)を使用することにより、幾つもの優れた利点が得られる。これについて、図24を参照して更に詳細に説明する。図24は、ロッド径(AまたはB)、断面プロファイル(CP)、ピーク剛性(SF)、それにピーク応力(ST)の間の関係を示した模式図である。尚、ここで「断面プロファイル」というのは、デバイスの横断面のプロファイルである。より詳しくは、ロッド径Aの1本のロッドに替えて、より小径のロッド径Bの複数本のロッドを使用することにより、植込部材の断面プロファイル(CP)を低下させ、植込部材のピーク剛性(SF)を増大させ、ピーク応力(ST)を低下させることができる。従って、複数本の小径のロッドによって構成される本発明に係る複合ロッド方式の植込部材(インプラント)は、1本の比較的大径のロッドから成るロッド形植込部材(インプラント)と比較して、より大きな利点をもたらすものである。
【0088】
また更に、本発明に従って構成した植込デバイスによれば、医師は、複数の変数を調節することができるため、それによって様々な大きさの直線度増強力を発生させることができ、更にそれによって最適の結果を得ることができる。調節可能な変数には、(1)体内の植込部材を定位する位置、(2)植込部材に挿入するロッドの位置、(3)挿入するロッドの長さ、(4)挿入するロッドの剛性、それに(5)全体としての植込部材の剛性の大きさなどがある。
【0089】
この僧帽弁形成術用デバイス90は、様々な実施の形態として構成し得るものであるため、様々な用途に使用可能である。その具体例を挙げるならば、本発明の1つの実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイス90を純粋に診断用デバイスとして利用するものとし、診断のための処置が完了したならば、その全体を抜去することができるものとしている。また、本発明の別の実施の形態として、処置の完了後に、その処置を行うために定位した位置に、僧帽弁形成術用デバイス90の全体を残置しておけるようにすることも可能である。この場合には、コスト上の理由から、その僧帽弁形成術用デバイス90を、植込部材95をカテーテル・シャフト100に一体に形成したものとする(例えばモールド成形などにより)とよい。本発明の更に別の形態においては、治療処置が完了したならば、僧帽弁形成術用デバイス90のうちの、植込部材95だけを治療部位に残置して、その他の部分を抜去することができるように、僧帽弁形成術用デバイス90を構成している。この場合には、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、両者を切り離し可能に連結し、体内に配置されている間は両者が連結された状態に維持しておき、処置が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90のうちの植込部材95だけを冠状静脈洞の中に残置して、その他の部分を抜去するようにするのもよい。
【0090】
この僧帽弁形成術用デバイスを、洗浄液でフラッシュ洗浄することが必要とされる状況も数多く存在する。フラッシュ洗浄を行うのは例えば、空気塞栓を排除するためであり、或いはまた、造影剤を供給するためであり、或いはまた、フラッシュ洗浄はその他の目的でも行われる。それらの場合に、患者の体内に異物が侵入するおそれを最小限にするために、図25に示したように、複数本のルーメンをそれらの末端において、1つまたは複数のコネクタ部分305に接続することにより、閉じた流路を画成するとよい。尚、植込部材95がカテーテル・シャフト100とは別体に形成されていて、しかも、洗浄液をカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205から植込部材95の主機能ルーメン170へ流入させる必要がある場合には、植込部材95とカテーテル・シャフト100との接続を液密接続とする必要がある。
【0091】
トリートメント・セクション120は、その全長に亘って同一の円形の断面形状(例えば図6に示したような断面形状)を有するように形成してもよく、或いは、その長手方向位置によって断面形状が変化するように形成してもよい。その具体例を挙げるならば、ただしこれに限定されるものではないが、例えば、トリートメント・セクション120が、その末端部150では円形の断面形状(図26)を有し、その長手方向の中間部(即ち、僧帽弁のP2弁尖の近傍に位置する部分)では、矩形または台形の断面形状(図27)を有し、その基端部155では、比較的扁平な断面形状(図28)を有するように形成するようにしてもよい。更に、トリートメント・セクション120の断面形状が、円形以外の形状である場合には、手術部位へ挿入する操作を行っている間、トリートメント・セクション120を拘束して、トリートメント・セクション120が円形の断面形状を呈するようにしておくとよく、それによって、患者の血管系の中を通過させてトリートメント・セクションを挿入することが容易になる。これを実現するには、トリートメント・セクション120を、取外し可能なシース310(図28)の中に収容し、トリートメント・セクション120を手術部位に定位した後にそのシース310を除去するようにすればよく、それによって、トリートメント・セクション120の形状は所要の形状を回復する。
【0092】
図26〜図28には、更に、トリートメント・セクション120の中を貫通して延在する複数本のルーメンを全て同一径にしてもよいということを例示した。
【0093】
既述のごとく、植込部材95を安定化スカホールドと共に配置するようにしてもよく、使用する安定化スカホールドは、例えば先に言及した米国特許出願第10/446,470号に開示されている種類のものとすることができる。そのような安定化スカホオールドは、僧帽弁形成術用デバイスが冠状静脈洞の壁面に及ぼす力を分散させるのに役立ち、また、トリートメント・セクション120の中央部が長手方向にずれて移動してしまうのを防止する安定化にも役立つ(ただし、このデバイスの末端部及び基端部は、直線度増強ロッドが挿入されてこのデバイスの形状が直線的になろうとする際に、生体組織の表面に接した状態で移動できるようにしておくことが一般的には好ましい)。更に、トリートメント・セクション120の外周面の一部に生体組織の内方成長を促進する構造315(図29)を備えているようにするのもよく、そうすれば、トリートメント・セクション120の中央部を冠状静脈洞の中に更にしっかりと固定することができる。その具体例を挙げるならば、ただしこれに限定されるものではないが、トリートメント・セクション120の外周面に不規則な、即ち「ファジー」な凹凸を形成し、及び/または、その外周面に、生体組織の内方成長を促進する内方成長促進剤をコーティングするようにしてもよい。本発明の1つの好適な実施の形態においては、表面構造315をグラフト部材としており、また好ましくは、ダクロン(商標)とテフロン(商標)とを使用したハイブリッド材料で形成し、テフロン(商標)で製作したトリートメント・セクション120のボディにこれを固定するようにしており、また、そのグラフト部材が、大きな静止摩擦力と、大きな内皮成長促進特性とを備えているようにしている。
【0094】
コリドール・システム
図30及び図31に示した1つの好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90は、植込処置の完了後に、植込部材95まで延在する再アクセス用の「コリドール(通用路)」を残存させるように構成したものである。これを実現するために、(1)この僧帽弁形成術用デバイス90は、トリートメント・セクション120の基端部155とカテーテル・シャフト100の末端部とを一体に形成した「単一ユニット」構造とされており、(2)この僧帽弁形成術用デバイス90は、鎖骨下静脈から患者の血管系にアクセスすることを想定して構成されており、(3)植込処置の完了後に、カテーテル・シャフトの基端部にキャップ320を被着して、それを患者の皮下に形成した「ポケット」の中に固定するようにしてあり、これらについて以下に更に詳細に説明する。
【0095】
より詳しくは、本発明のこの実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイス90は、先に説明したようにして、ガイドワイヤに沿わせて挿入することが好ましいものであり、挿入が完了したならば、リード・セクション115はAIVの中に入り込んで下向きになり、トリートメント・セクション120は冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍の領域に配置され、カテーテル・シャフト100はそこから右心房を通過し、更に上大静脈の中を上方へ向かって延在し、更に一方の鎖骨下静脈の中を上方へ向かって延在し、そして、その鎖骨下静脈の血管壁を貫通して体外へ延出する。尚、本発明の1つの好適な実施の形態においては、この僧帽弁形成術用デバイス90の直径を、約7フレンチとしている。
【0096】
僧帽弁形成術用デバイス90は、安定支持スカホールド325を通すことが好ましく、この安定支持スカホールド325は、冠状静脈洞の中に配置され、冠状静脈口45の近傍において僧帽弁形成術用デバイス90を摺動可能に支持するものである。このような支持スカホールド325としては、先に言及した米国特許出願第10/446,470号に開示されているものなどを使用すればよい。また、それだけに限られず、このような支持スカホールド325としては、僧帽弁形成術用デバイス90が冠状静脈洞の壁面に及ぼす力を分散させるのに役立ち、且つ、僧帽弁形成術用デバイス90がその支持スカホールドに対して相対的に摺動できる構成のものであれば、任意の適当な構成のものを用いることができる。僧帽弁形成術用デバイス90は更に、生体組織の内方成長を行わせる領域315を備えたものとすることが好ましく、この領域315は、トリートメント・セクション120の中央部を冠状静脈洞に固定するのに役立つ。また、この領域315は、僧帽弁形成術用デバイス90のトリートメント・セクション120の末端部の外周に装着する、耐蝕性スリーブとして機能するグラフト330から成るものとすることが好ましい。
【0097】
尚、以上に説明した構成では、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に適切に定位した後に、主機能ルーメン205、170の中に直線度増強ロッド180を挿入し、それによって患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにする。
【0098】
主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入し、それによって患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにしたならば、続いて、チューブ状のバンパー・コイル335(図31)などの適当な器具を主機能ルーメン205の中に挿入して主機能ルーメン205の隙間を埋め、それによって、直線度増強ロッド180が主機能ルーメン170の中で移動しないように確実に固定する。尚、直線度増強ロッド180が前述した引張ワイヤ260(図18)を備えている場合には、その引張ワイヤをチューブ状のバンパー・コイル335の中に通すようにすればよい。
【0099】
ただし、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215(例えば図17に示したようなプッシュ・ロッド)に連結されている場合には、通常、バンパー・コイルなどの器具は不要であり、なぜならば、そのプッシュ・ロッド215がバンパー・コイルの機能を肩代わりして、主機能ルーメン205の隙間を埋め、直線度増強ロッド180が主機能ルーメン170の中で移動しないように確実に固定するからである。
【0100】
以上が完了したならば、カテーテル・シャフト100の基端部を、患者の胴部の皮下に形成した「ポケット」の中に収容する。より詳しくは、カテーテル・シャフト100の基端部を(それが長すぎる場合に)適当な長さに切り整え、そしてキャップ320を被着した上で、皮下ポケットの中に収容する。キャップ320は、簡単な構造の「単体」キャップでもよいが、内側キャップ340と外側キャップ355とで構成したものであればなお好ましい。その場合の内側キャップ340は、シール345と、プラグ350とを備えたものとするのがよく、プラグ350は、内側キャップ340に、引張ワイヤ260と、バンパー・コイル335またはプッシュ・ロッド215(直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が連結されている場合)とを固定するものである。一方、外側キャップ355は、単にこの僧帽弁形成術用デバイスの尾部の全体を覆うために嵌合して被着するものである。外側キャップ355は、組織を傷つけるおそれの小さい形状とし、患者に違和感を与えないものとすることが好ましい。
【0101】
この実施の形態に係る「コリドール・システム」は、数々の優れた利点を提供するものである。それら利点のうちでも特に、植込んだデバイスに容易にアクセスすることのできるアクセス経路を提供しているため、植込処置の完了後に生体組織の変形の度合いを調節したいとき、それを容易に実現できるということがある。これを行うには、例えば、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、チューブ状のバンパー・コイル335を抜去し、引張ワイヤ260を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、替わりに使用する直線度増強ロッド180を挿入し、チューブ状のバンパー・コイル335を再装着し、そして、この僧帽弁形成術用デバイスにキャップを再装着すればよい(或いは、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている場合には、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、プッシュ・ロッド215を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、替わりに使用する直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド215を介して挿入し、そして、僧帽弁形成術用デバイスにキャップを再装着すればよい)。或いはまた、植込んだデバイスに容易にアクセスすることのできるアクセス経路を提供しているため、植込んだデバイスの全体を患者の体内から抜去したいときにはそれも可能であり、それには、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、チューブ状のバンパー・コイル335を除去し、引張ワイヤ260を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、そして、カテーテル・シャフト100の基端部を基端側に引っ張ることによって、この僧帽弁形成術用デバイスの残りの部分を抜去すればよい(或いは、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている場合には、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、プッシュ・ロッド215を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、そして、カテーテル・シャフト100の基端部を基端側に引っ張ることによって、この僧帽弁形成術用デバイスの残りの部分を抜去すればよい。
【0102】
更に、この僧帽弁形成術用デバイス90は、その使用に際して、皮下ポケットの中に収まるように、基端部の寸法を合わせる(即ち切り整える)ことのできる「単一ユニット」構造のデバイスであるため、デバイスの寸法の問題(従って在庫の問題)が格段に軽減されている。
【0103】
図32〜図38に示したのは、また別の好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90である。この構成においては、植込部材95がカテーテル・シャフト100と一体に形成されており(図32〜図34、及び図36参照)、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている(図38参照)。更に、カテーテル・シャフト100に3本の主機能ルーメン205が形成されており(図35)、植込部材95に3本の主機能ルーメン170が形成されている(図32〜図38においては不図示)。トリートメント・セクション120の中央部を固定するために、また、生体組織の内方成長を促進するために設けられている表面構造315は、トリートメント・セクションの外周に螺旋状に巻回した縫合糸などのフィラメントによって形成されている(図32〜図34、及び図36)。プッシュ・ロッド215のシャフトに、大径部400(図38)を形成して、フルオロスコープを使用したときの視認性を向上させるようにしてもよい。カテーテル・シャフト100の基端部をキャップ500が閉塞している。
【0104】
図32〜図38のデバイスは、「コリドール」方式を採用したものとすることが好ましい。より詳しくは、この僧帽弁形成術用デバイス90は、好ましくは、鎖骨下静脈から患者の血管系に導入して、冠状静脈洞の中まで挿入する。続いて、1本または複数本の直線度増強ロッド180を主機能ルーメン205、170に挿入して、患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにする。続いて、キャップ500を被着してこの僧帽弁形成術用デバイスの基端部を閉塞する。続いて、この僧帽弁形成術用デバイス90の基端部を皮下ポケットの中に収容する。この後、僧帽弁形成術用デバイス90に対して(例えば1本または複数本の直線度増強ロッド180を追加、除去、または交換することにより)調節を施す必要が生じたならば、皮下ポケットを開き、キャップ500を除去して、この僧帽弁形成術用デバイスのシステムに再アクセスすればよい。
【0105】
僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用する使用法
本発明に係る新規な僧帽弁形成術用デバイスは、電気リード線と共に使用することができ、その電気リード線は例えば、植込形の両心室ペーシング・デバイス、植込形の除細動器、等々のための電気リード線である。この僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用するという方式は、大きな利点を提供し得るものであり、なぜならば、それらの電気リード線は、一般的に、僧帽弁形成術用デバイス90を挿入する体内経路と同一の体内経路に挿入されるからであり、即ち、その体内経路とは、通常の血管アクセス部位(例えば左鎖骨下静脈25など)からAIV60へ至る体内経路である。
【0106】
その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、本発明の1つの好適な実施の形態では、先ず、1本または複数本の電気リード線を、冠状静脈洞を通過させて、また更にAIVを通過させて、その先の適当な生体組織にまで挿入するようにしている。次にガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中まで挿入する。ただしこれとは逆に、先にガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中まで挿入し、その後に1本または複数本の電気リード線を挿入するようにしてもよい。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90を、それらガイドワイヤ及び電気リード線に装着する。その際には、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205にガイドワイヤの基端部を挿入し、また、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205に(または、互いに位置合せされた補助ルーメンのペア175、210などのその他のルーメンに)電気リード線を挿入する。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をそれらガイドワイヤ及び電気リード線に沿わせて末端側へ進めて行く。僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に定位したならば、先に説明したようにして、直線度増強ロッド180を挿入する。
【0107】
このような場合を示した具体例として、図39には、僧帽弁形成術用デバイスの末端部から延出した電気リード線600が示されている。
【0108】
また別法として、本発明の別の実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイスを冠状静脈洞の中の目標位置まで案内するのに、ガイドワイヤの替わりに電気リード線を使用し、ガイドワイヤは使用しないようにしている。より詳しくは、本発明のこの実施の形態では、最初に1本または複数本の電気リード線を、冠状静脈洞を通過させて、更にAIVを通過させて、その先の適当な生体組織にまで挿入するようにしている。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をその電気リード線に装着する。その際には、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205に(または、互いに位置合せされた補助ルーメンのペア175、210などのその他のルーメンに)電気リード線を挿入する。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をその電気リード線に沿わせて末端側へ進めて行く。僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に定位したならば、先に説明したようにして、直線度増強ロッド180を挿入する。
【0109】
当然のことながら、1本または複数本の電気リード線を挿通しようとするルーメンが、他の用途に使用するために必要なルーメン(例えば、直線度増強ロッドを挿入するために必要とされる互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205)である場合には、僧帽弁形成術用デバイスに、予めより多くのルーメンを形成しておくようにするとよい。更に、電気リード線と直線度増強ロッドの両方を、同一のルーメンの中に収容しなければならない場合には、直線度増強ロッドそれ自体にルーメンを形成しておき、電気リード線をその直線度増強ロッドのルーメンに挿通することによって、直線度増強ロッドと電気リード線とを同心的に配置するようにしてもよい。
【0110】
本発明の更に別の好適な実施の形態においては、1本または複数本の電気リード線を、先に体内に定位した僧帽弁形成術用デバイスを通過させて挿入するようにしている。より詳しくは、本発明のこの実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイスを冠状静脈洞の中に定位した後に、1本または複数本の電気リード線をその僧帽弁形成術用デバイスのルーメンの中に挿通し、その僧帽弁形成術用デバイスの末端から延出させて、適当な生体組織に到達させるようにしている。尚、本発明のこの実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞にデリバリーするには、ガイドワイヤに沿わせて挿入するようにしてもよく、また、先に述べたようにスタイレット・デリバリー方式で挿入するようにしてもよい。
【0111】
本発明の更に別の実施の形態においては、1本または複数本の電気リード線を僧帽弁形成術用デバイスに「ビルト・イン」するなどして、プリ・インストールするようにしている。このような構成においては、患者の体内に僧帽弁形成術用デバイスと電気リード線とを同時に挿入することになる。
【0112】
当業者であれば、本開示に基づいて、この新規な僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用する際のその他の使用法にも想到するのは当然のことである。
【0113】
変更例
本発明の本質を明らかにするために、以上に、具体的な構成、材料、手順、及び部品の組合せ方について説明しまた例示したが、それらに対して施し得る、本発明の原理及び範囲に含まれる多種多様な変更を、当業者であればなし得ることは当然であり、本発明の範囲は特許請求の範囲の記載により明示した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】ヒトの血管系を部分的に示した模式図である。
【図2】ヒトの心臓を部分的に示した模式図である。
【図3】患者の体内に挿入した状態にある新規な僧帽弁形成術用デバイスを示した模式図である。
【図4】僧帽弁形成術用デバイスの1つの好適な構成例を示した模式図である。
【図5】図4の5−5線に沿った断面図である。
【図6】図4の6−6線に沿った断面図である。
【図7】1直線度増強ロッドの1つの形態を示した模式図である。
【図8】直線度増強ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図9】直線度増強ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図10】別の形態の直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図10A】別の形態の直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図11】図4の11−11線に沿った断面図である。
【図12】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図13】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図14】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図14A】複数種類の直線度増強ロッドを取り揃えたキットによって広範な範囲に亘る様々な大きさの直線度増強力を提供できることを例示した模式図である。
【図14B】冠状静脈洞の形状を直線形状に近付けて僧帽弁逆流を軽減するにつれて僧帽弁形成術用デバイスが生体組織を傷つけるおそれのない状態で生体組織に対して相対的に摺動することを説明するための模式図である。
【図15】補助直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図16】直線度増強ロッドの可撓性勾配と補助直線度増強ロッドの可撓性勾配とに逆相関関係を持たせることを説明するための模式図である。
【図17】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの1つの形態を示した模式図である。
【図18】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図19】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図20】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図21】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図22】植込部材をカテーテル・シャフトに切り離し可能に連結する方法の1つの好適例を示した模式図である。
【図23】接続糸を植込部材から分離する方法の一例を示した模式図である。
【図24】ロッド径、断面、ピーク剛性、及びピーク応力の間の関係を示した模式図である。
【図25】閉じた流路を画成するために複数本のルーメンをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図26】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図27】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図28】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図29】生体組織の内方成長を促進することによってデバイスの安定性を増強するために僧帽弁形成術用デバイスの外周面をどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図30】本発明の別の実施の形態を示した模式図であり、この実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイスが「単一ユニット」構造を有しており、また、植込処置が完了したならば僧帽弁形成術用デバイスの基端部を患者の胸部の皮下に形成した「ポケット」の中に収容するようにした実施の形態である。
【図31】図30の僧帽弁形成術用デバイスの基端部を皮下ポケットの中に収容する前にその基端部に被着するキャップを例示した模式図である。
【図32】僧帽弁形成術用デバイスの別の好適例を示した図である。
【図33】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図34】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図35】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図36】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図37】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図38】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図39】僧帽弁形成術用デバイスの末端部から延出した電気リード線を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本件特許出願は、
(1)係属中の先行特許出願である米国特許出願第10/446,470号(出願日:2003年5月27日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-43)の一部継続出願であり、
(2)係属中の先行特許出願である米国特許出願第10/894,676号(出願日:2004年7月19日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-48)の一部継続出願であり、
(3)係属中の先行特許出願である米国特許仮出願第60/630,606号(出願日:2004年11月24日、発明者:Jonathan Rourke et al.、発明の名称:METHOD AND APPARATUS FOR IMPROVING MITRAL VALVE FUNCTION、代理人整理番号:VIA-49 PROV)に基づく優先権を主張するものである。
尚、上記3件の米国特許出願の内容はこの言及をもって本願開示に組込まれたものとする。
【0002】
本発明は広くは外科手術の方法及び装置に関し、より詳しくは僧帽弁の機能を改善する外科手術の方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
僧帽弁は心臓内の、左心房と左心室との間に位置している。正常に機能している僧帽弁は、左心室が拡張するとき(即ち心拡張期)に、左心房から左心室へ血液を流入させ、左心室が収縮するとき(即ち心収縮期)に、左心室から左心房へ血液が逆流するのを阻止する。
【0004】
ある種の状況下では、僧帽弁が正常に機能しないために、逆流が発生することがある。例えば、心不全患者には多くの場合、僧帽弁逆流の発生が認められる。心不全患者における僧帽弁逆流の発生は、左心室、乳頭筋、それに僧帽弁輪などの変形を原因とするものである。それらが変形していると、その結果として、収縮期における僧帽弁の弁尖の接合不全が生じる。このような状況下で、僧帽弁逆流を取除くためには、一般的に、僧帽弁輪にひだ形成術を施して、拡張していた弁輪の周縁部を縫縮することにより、僧帽弁輪の原形を回復するという方法が採用されている。
【0005】
より詳しくは、僧帽弁を修復するために現在実施されている外科手術では、一般的に、僧帽弁輪の径を縮めるために、左心房を開けて、縫合糸を、また、より一般的には縫合糸及びサポートリングを、弁輪の内周面に縫着する必要がある。この縫着構造は、巾着袋の口元を引締めるような形で弁輪を引締めて縫縮することにで弁輪を縮径し、それによって弁尖の接合状態を改善し、もって僧帽弁逆流を軽減するものである。
【0006】
こうして僧帽弁を修復する施術法は、一般的に「僧帽弁形成術」と呼ばれており、これによって、心不全患者の僧帽弁逆流を効果的に軽減することができる。そして、それによって、心不全の症状を緩解し、生活の質を改善し、延命をもたらす効果が得られる。しかしながら、この僧帽弁の外科手術は、侵襲的処置であり(即ち、全身麻酔、開胸、心肺バイパス、心肺停止、僧帽弁にアクセスするための心臓自体の切開、等々が行われる)、それに伴うリスクゆえに、心不全患者の多くはこの外科手術の良好なキャンディデートとはなり得ない。従って、心不全患者に関して、その弁尖の接合状態を改善して僧帽弁逆流を軽減するための、より侵襲の少ない手段を提供するならば、それによって、この治療方法を、より多くの患者に適応することが可能となる。
【0007】
更に、僧帽弁逆流は、急性心筋梗塞患者の約20%に発生している。また、僧帽弁逆流は、急性心筋梗塞によって重度の血行動態の不安定をきたしている患者の約10%において、心原性ショックの主要原因をなしている。僧帽弁逆流を発生して心原性ショックに至る患者は、病院死亡の約50%を占めている。従って、そのような患者にとっては、僧帽弁逆流を解消することが非常に有益である。しかしながら、急性の僧帽弁逆流を合併している急性心筋梗塞患者は、外科手術のキャンディデートとしてはハイリスクの部類に入るものであり、従って、従来の僧帽弁形成術に関しては、その好適なキャンディデートであるとはいえない。それゆえ、このような命に関わる症状を呈している患者に関して、その僧帽弁逆流を一時的に軽減ないし解消することのできる、侵襲が最小限の手段を提供するならば、それによって、心筋梗塞などの急性の命に関わる事象から回復するための時間を患者に与えることができ、ひいては、そのような患者を、その他の介入的医療処置ないし手術治療の好適なキャンディデートにすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的の1つは、僧帽弁逆流を軽減するための改良した方法を提供することにある。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、僧帽弁逆流を軽減するための改良した装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的並びにその他の目的が本発明によって達成される。本発明は、僧帽弁逆流を軽減するための改良した方法と、僧帽弁逆流を軽減するための改良した装置とを包含するものである。
【0011】
本発明によれば、その1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減するアセンブリが提供され、このアセンブリは、
細長キャリア部材を備え、該細長キャリア部材は、冠状静脈洞に挿入されたときに冠状静脈洞の形状に略々沿った第1の形状を呈し、且つ、第1の形状と比べてより直線形状に近い形状となるように付勢されたならば、より直線形状に近い形状である第2の形状を呈するように、十分に大きな可撓性を有する材料から成るものであり、該細長キャリア部材はその長手方向に貫通延在する複数本のルーメンを有しており、
前記ルーメンに挿入可能な複数本の直線度増強ロッドを備え、該複数本の直線度増強ロッドの各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織の剛性と比べてより大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べてより直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、前記キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で前記ルーメンに前記直線度増強ロッドを挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしてあり、
前記複数本のルーメンのうちの少なくとも1本のルーメンが、電気リード線を挿通可能な寸法とされている、
ことを特徴とするアセンブリである。
【0012】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、且つ、患者の血管系を介してガイドワイヤを挿入して該ガイドワイヤの末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤの外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0013】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線の外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0014】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記キャリア部材の中を通して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【0015】
本発明によれば、その別の1つの実施の形態として、僧帽弁逆流を軽減する方法が提供され、この方法は、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成され、ルーメンの中に挿通された電気リード線を備えた、可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置すると共に前記電気リード線を心臓の生体組織に定位し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これより、添付図面を参照しつつ、本発明の様々な好適な実施の形態について更に詳細に説明することにより、本発明の以上の目的及びその他の目的、並びに、本発明の以上の特徴及びその他の特徴を明らかにして行く。尚、添付図面において、同一ないし対応する構成要素には同一の参照番号を付してある。
【0017】
概観
冠状静脈洞は、ヒトの心臓壁内の静脈のうちの最大のものである。冠状溝の中を通っている冠状静脈洞のかなりの部分が左心室に沿って走っており、その部分の長さは、典型的な場合では約5〜10cmである。ここで重要なことは、冠状静脈洞の全体のうちのある部分、典型的な場合では例えば7〜9cmの部分は、僧帽弁輪の後縁に非常に近接して走っていることである。本発明は、この事実を利用している。より詳しくは、新規な装置を冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置することによって、冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の本来の彎曲形状を変化させ、それによって後尖弁輪部を前方へ移動させて弁尖の接合状態を改善し、もって僧帽弁逆流を軽減するようにしたものである。
【0018】
患者の身体構造
図1及び図2に患者の心臓血管系5の各部を示した。これについて詳述すると、心臓血管系5の全体は、心臓10、上大静脈15、右鎖骨下静脈20、左鎖骨下静脈25、頸静脈30、及び下大静脈35を含んでいる。上大静脈15と下大静脈35とは右心房40に接続している。冠状静脈口45は冠状静脈洞50に続いている。この冠状静脈洞50の遠位端55(図2)において、以上の血管構造が、下行している前室間静脈(AIV)60(図1及び図2)に接続している。尚、本発明に関しては、便宜上、「冠状静脈洞」という用語は、この冠状静脈口45とAIV60との間を延在している血管構造を指すものとする。
【0019】
図2に示したように、冠状静脈口45とAIV60との間に冠状静脈洞50が延在しており、この冠状静脈洞50は、僧帽弁70の弁輪65の後縁にかなり近接している。僧帽弁70は、後尖75と前尖80とを備えている。逆流を発生している僧帽弁では、通常、収縮期に、後尖75と前尖80とが適切に接合しないために両者間に隙間85が生じており、この隙間85が、不都合な逆流を発生させる原因となっている。
【0020】
僧帽弁形成術用デバイスの概要
図3及び図4に、本発明の1つの好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90を示した。この僧帽弁形成術用デバイス90は、僧帽弁輪を治療目的でリモデル(形状変更)するための植込部材95(図4)と、この植込部材95を治療部位へデリバリーするためのカテーテル・シャフト100とを備えている。1つの好適な構成例においては、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを一体化して、単一構造体として形成するようにしている。この僧帽弁形成術用デバイス90を患者の冠状静脈洞に挿入する方法としては、例えば、標準的な導入用シース105(図3)とガイドワイヤ110とを用いて挿入を行うなどの方法がある。
【0021】
植込部材
図3〜図6に示したように、本発明の1つの実施の形態においては、植込部材95を、リード・セクション115と、トリートメント・セクション120とを備えた構造のものとしている。
【0022】
リード・セクション115は、末端部125と基端部130とを有する。リード・セクション115は、その全長に亘ってテーパが付けられており、先端が細く、基端側へ行くにつれて径が拡大している。このようにテーパを付けたリード・セクション115を備えることによって、血管構造の中を通過させて植込部材95を末端側へ移動させることを容易にしている。リード・セクション115は、その末端部から基端部まで延在する少なくとも1本のルーメン135(図5)が形成されたものとする。このようなルーメン135を備えることによって、ガイドワイヤ110を用いた標準的な経皮的デリバリー方式によって、この僧帽弁形成術用デバイスをデリバリーできるようにしており、これについては後に更に詳細に説明する。
【0023】
リード・セクション115の製作材料としては、例えば低硬度シリコーンゴムなどの比較的柔軟性及び可撓性に優れた材料を用いることが好ましく、また、リード・セクション115の寸法は、その基端部130が、冠状静脈洞と前室間静脈(AIV)との接続箇所に位置しているときに、その末端部125が、AIVの中に入り込んで下方を向いているような寸法とすることが好ましい。また更に、リード・セクション115の末端部125またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー140(図3及び図4)を取付けておくことが好ましく、そうすることによって、末端部125の位置をフルオロスコープなどで視認することが可能となる。
【0024】
トリートメント・セクション120は、キャリア部材145により構成されており、このキャリア部材145は末端部150と基端部155とを有する。キャリア部材145の末端部150は、リード・セクション115の基端部130に結合されており、このリード・セクション115を備えることによって、血管構造の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を挿入して行くときに、トリートメント・セクション120を比較的無理なく、また生体組織を傷つけることなく挿入して行けるようにしている。1つの好適な構成例においては、リード・セクション115とトリートメント・セクション120とを一体化して、単一構造体として形成している。また更に、トリートメント・セクション120の末端部150またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー160(図3及び図4)を取付けると共に、トリートメント・セクション120の基端部155またはその近傍に1つまたは複数の放射線不透過性マーカー165を取付けておくことが好ましく、そうすることによって、トリートメント・セクション120の位置をフルオロスコープなどで視認することが可能となる。
【0025】
キャリア部材145は、その基端部155から末端部150へ向かって延在する少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、主機能ルーメン170(図6)が形成されたものとする。複数本の主機能ルーメン170を形成する場合には、それら主機能ルーメンの全てを同一径のものとしてもよく、互いに径の異なるものとしてもよい。1つの好適な構成例では、同一径の3本の主機能ルーメン170を、キャリア部材145の中心軸の周りに等角度間隔で形成して、それら主機能ルーメン170が、キャリア部材145の基端部155から末端部150までの略々全長に亘って延在するようにしている。
【0026】
1つの好適な構成例においては、キャリア部材145を、その基端部155から末端部150へ向かって延在する少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、補助ルーメン175(図6)が更に形成されたものとしている。複数本の補助ルーメン175を形成する場合には、それら補助ルーメンの全てを同一径のものとしてもよく、互いに径の異なるものとしてもよい。更に、1本または数本の補助ルーメン175が、1本または数本の主機能ルーメン170と同一径であるようにしてもよい。1つの好適な構成例においては、同一径の3本の補助ルーメン175を、キャリア部材145の中心軸の周りに等角度間隔で形成して、それら補助ルーメン175が、キャリア部材145の基端部155から末端部150までの略々全長に亘って延在するようにしている。
【0027】
少なくとも1本の主機能ルーメン170、及び/または、少なくとも1本の補助ルーメン175が、リード・セクション115を貫通して延在している上述した少なくとも1本のルーメン135(図5)に接続するようにしている。こうすることによって、ガイドワイヤ110を用いた標準的な経皮的デリバリー方式によって、僧帽弁形成術用デバイスをデリバリーできるようにしており、これについては後に更に詳細に説明する。1つの好適な構成例においては、キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170のうちの1本が、リード・セクション115を貫通して延在している1本のルーメン135に接続するようにしている。
【0028】
キャリア部材145の製作材料は、比較的可撓性に優れた材料とすることが好ましく、そうすれば、患者の冠状静脈洞の中にキャリア部材145を挿入するときに、生体組織を傷つけてしまうおそれが比較的小さくなり、また、冠状静脈洞の本来の形状を大きく変形させることなく挿入することが可能となり、これについては後に更に詳細に説明する。また、キャリア部材145の製作材料は、比較的摩擦の小さな材料とすることが好ましく、そうすれば、患者の血管系を通過させてキャリア部材145を進めて行くことが容易になり(例えば、ガイドワイヤの外周に沿わせて進めて行くことが容易になる)、また、ロッドやワイヤをキャリア部材145のルーメン170及び175の中に挿入すること及びそこから抜去することが容易になる。1つの好適な構成例においては、キャリア部材145をテフロン(商標)で形成している。
【0029】
主機能ルーメン170は、そこに直線度増強ロッドを選択的に挿入することによって、僧帽弁輪に治療目的のリモデルを施すためのルーメンであり、これについては後に更に詳細に説明する。尚、直線度増強ロッドの好適な1つの具体例を、図7に直線度増強ロッド180として示した。
【0030】
図3、図7、及び図14に示したように、複数本の直線度増強ロッド180の各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織と比べて幾分大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べて幾分直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で主機能ルーメン170に直線度増強ロッド180を挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。尚、これについては後に更に詳細に説明する。
【0031】
また、以上のことを換言するならば、直線度増強ロッド180の各々の寸法及び直線度は、彎曲形状の冠状静脈洞の中に直線度増強ロッド180を収容するためには冠状静脈洞と直線度増強ロッド180とのいずれか一方もしくは両方の形状が変化しなければならないような寸法及び直線度としてあり、また、直線度増強ロッド180の剛性は、その直線度増強ロッド180に対向する生体組織の剛性と比べて幾分大きな剛性としてあるため、冠状静脈洞の中に直線度増強ロッドを配置することによって、生体組織の形状の変化が引き起こされ、それによって僧帽弁の形状が矯正され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。尚、これについては後に更に詳細に説明する。
【0032】
本発明の1つの好適な実施の形態では、複数本の直線度増強ロッド180の各々は(応力が作用していない状態では)略々直線形状を呈している棒状部材から成るものであり、この棒状部材は幾分の可撓性を有しており、その弾性によって、冠状静脈洞の壁面に直線度増強力(生体組織の形状をより直線形状に近付ける力)を作用させるものである。
【0033】
複数本の直線度増強ロッド180は、1本おきに、冠状静脈洞の壁面へ作用させる直線度増強力の大きさが同一であるようにしてもよく、或いは、それら複数本の直線度増強ロッドを、夫々に異なった大きさの直線度増強力を作用させるものとして構成するようにしてもよい。本発明の1つの好適な実施の形態においては、夫々に異なった大きさの直線度増強力を発生する複数本の直線度増強ロッド180を取り揃えてキットとし、医師がそれらのうちから適当なものを選択できるようにしている。複数本の直線度増強ロッドの直線度増強力を夫々に異ならせる方法としては、ロッドの剛性を異ならせる(例えばロッドの材質を異ならせたり、ロッドの径を異ならせるなどする)という方法、ロッドの長さを異ならせるという方法、複数本の直線度増強ロッドを使用する場合にそれらロッドの相対的な位置を異ならせる(例えば複数本のロッドを使用する場合にそれらの長手方向位置を相対的に異ならせる)という方法、等々がある。
【0034】
更に、本発明の1つの好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が冠状静脈洞の壁面に作用させる力の大きさを、僧帽弁逆流を軽減するために最終的に必要とされる目標全体移動量の一部分に相当する移動量だけ僧帽弁輪を移動させるのに必要な程度の力の大きさとしている。本発明のこの実施の形態では、キャリア部材145の内部に更なる直線度増強ロッド180を挿入することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすること、及び/または、1本または複数本の補助ルーメン175の中に更なる直線度増強ロッドを挿入することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすること、及び/または、キャリア部材145の内部に埋設する形で、またはその外周面に形成する形で、またはその外周に嵌合させる形で、更なる直線度増強部材を装備することで僧帽弁輪に作用させる直線度増強力をより大きなものとすることが可能である。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、キャリア部材145のボディの主機能ルーメン170及び補助ルーメン175の周囲の領域に更なる直線度増強ロッドを埋設するようにしてもよく、及び/または、キャリア部材145の外周面に、板状部材、または殻状部材、または管状部材の形態の、外部部材としての直線度増強部材を設けるようにしてもよい。
【0035】
また更に別の方法として、この装置を、僧帽弁輪に弾性的な直線度増強力を作用させるような構成としてもよく、そうした場合には、その直線度増強力が最初に作用した時点では、それによって引き起こされる僧帽弁輪の移動量は、僧帽弁逆流を軽減するために最終的に必要とされる目標全体移動量の一部分に相当する移動量にすぎないが、冠状静脈洞のリモデル(形状変更)が進行して行く期間に亘って、その直線度増強力は治療効果を動的に発揮し続けることになる。
【0036】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が、互いに可撓性の大きさを異ならせた複数の領域を有するマルチゾーン型バーとして構成されている。これによって、僧帽弁輪の夫々の部分を、夫々に異なった大きさの力で変形させ、もって弁尖の接合状態を改善するようにしている。
【0037】
本発明の1つの特に好適な実施の形態においては、直線度増強ロッド180の各々が、本明細書の冒頭で言及した米国特許出願第10/446,470号、米国特許出願第10/894,676号、それに米国特許仮出願第60/630,606号に開示されている「5ゾーン型バー」により構成されている。その直線度増強ロッド180は、図7に示したように、所定の大きさの可撓性を有する中央部(ヒンジ部)S1と、中央部S1より小さな可撓性を有する延長部(アーム部)と、中央部S1より大きな可撓性を有する端部(フット部)S3とを備えている。基本的に、この5ゾーン型の構成では、中央部S1が、僧帽弁輪の部分に係合する「サドル部」として機能し、アーム部S2が、中央部S1から所定の距離(冠状静脈洞の長手軸方向にとった距離)だけ離れた箇所の冠状静脈洞の外側面に力を伝達する剛構造部として機能し、フット部S3が、冠状静脈洞の壁面に作用する荷重を「ソフト・ランディング」させる機能を果たすようにしてある。この5ゾーン型のバーは、極めて有利な構成であることが判明しており、なぜならば(1)5ゾーン型バーは、冠状静脈洞の中に挿入したときに、このバーの中央点が僧帽弁後尖の位置に合致しようとするセンタリング性を有しており、これは一種の「マクロエラスティック・エナジー・ウェル」であって、それによって、このバーが長手方向に移動してしまうおそれが非常に小さくなっていること、(2)5ゾーン型バーは、交連間距離を拡大することなく、拡張していた僧帽弁の前後距離を縮小することによって弁尖の接合状態を改善するものであるため、不都合な「側方噴流」を発生させるおそれが極めて小さいこと、それに、(3)5ゾーン型バーは、患者ごとの解剖学的ばらつきにも、完全に良好に対応し得ることによるものである。
【0038】
また更に、直線度増強ロッド180が、テーパ付の末端部185(図7)を備えているようにし、そして、その末端部183その先端に、生体組織を傷つけるのを防止するためのボール形チップ190が形成されているようにすることが好ましい。こうすることによって、キャリア部材145を患者の冠状静脈洞の中に配設した状態で、患者の体外からそのキャリア部材145の主機能ルーメン170の中に、容易に直線度増強ロッド180を挿入することができる。また以上の構成とすることにより、直線度増強ロッド180は、上述した端部S3より更に大きな可撓性を有する先端部S4を備えたものとなる。
【0039】
使用する複数本の直線度増強ロッド180のうちの1本ないし数本を、単一材料(例えばニチノールなど)の一体成形部品とすることが望ましいことがある。そうする場合に、複数の領域S1、S2、S3、及びS4の可撓性を異ならせるには、ロッド径を異ならせるようにすればよい(例えば図8に示した構成を参照されたい)。また、使用する複数本の直線度増強ロッド180のうちの1本ないし数本を、2種類以上の材料(例えばステンレス鋼とニチノールなど)を組合せた複合構造とすることが望ましいこともある。そうする場合には、その直線度増強ロッドを、ニチノールとステンレス鋼とを交互に配置した構成としてもよく(例えば図9に示した構成を参照されたい)、また、ニチノールとステンレス鋼とを同心的に配置した構成としてもよく(例えば図10及び図10Aに示した構成を参照されたい)、更にその他の構成としてもよい。
【0040】
カテーテル・シャフト
カテーテル・シャフト100(図4)は、植込部材95を治療部位へデリバリーするためのものである。カテーテル・シャフト100は、末端部195と基端部200とを有する。カテーテル・シャフト100が植込部材95を治療部位へデリバリーしているときには、このカテーテル・シャフト100の末端部195が、植込部材95の基端部155に係合している。本発明の1つの実施の形態においては、カテーテル・シャフト100は、植込部材95の基端部155から選択的に分離できるようにしてあり、そのため、例えば治療部位への植込部材95のデリバリーが完了した後の適当な時点で分離することができるようにしている。これを可能にするために、後に更に詳細に説明するが、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成した上で、それをカテーテル・シャフト100に着脱可能に取付けるようにしている。本発明の別の実施の形態においては、植込部材95をカテーテル・シャフト100と一体に形成した上で、それを(例えば切断するなどして)カテーテル・シャフト100から選択的に分離できるようにしている。本発明の更に別の実施の形態においては、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを単一構造体として形成し、使用期間中はその状態を維持するようにしている。
【0041】
カテーテル・シャフト100は細長い構造体であり、このカテーテル・シャフト100を用いて、患者の血管系を通過させて冠状静脈洞まで植込部材95を挿入することができるように、十分な長さを有しており、また、十分に大きな可撓性を有する材料で形成されている。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、カテーテル・シャフト100の長さ及び可撓性は、このカテーテル・シャフト100を使用して、頸部における頸静脈のアクセス・ポイントから、或いは胴部における右鎖骨下静脈または左鎖骨下静脈のアクセス・ポイントから体内へ導入した植込部材95を、そのアクセス用の静脈の中を通して下方へ進めて行き、そこから上大静脈の中を更に下方へ進め、右心房を通過させて冠状静脈洞の中に挿入することができるような長さ及び可撓性としている。
【0042】
図4及び図11に示したように、カテーテル・シャフト100は、少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、主機能ルーメン205を備えたものとして構成される。主機能ルーメン205は、カテーテル・シャフト100の末端部195に開口しており、カテーテル・シャフト100の全長に亘って貫通して延在しており、そして、カテーテル・シャフト100の基端部200に開口している。主機能ルーメン205は、キャリア部材145の主機能ルーメン170へのアクセスを提供するものであり、この目的のためには、カテーテル・シャフト100の複数本の主機能ルーメン205は、キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170と本数を同一にし、それらの位置も揃えておくことが好ましい。
【0043】
1つの好適な構成例においては、カテーテル・シャフト100が更に、少なくとも1本の、そして好ましくは複数本の、補助ルーメン210を備えたものとして構成される。補助ルーメン210は、カテーテル・シャフト100の末端部195に開口しており、カテーテル・シャフト100の全長に亘って貫通して延在しており、そして、カテーテル・シャフト100の基端部200に開口している。補助ルーメン210は、キャリア部材145の補助ルーメン175へのアクセスを提供するものであり、この目的のためには、カテーテル・シャフト100の複数本の補助ルーメン210は、キャリア部材145の複数本の補助ルーメン175と本数を同一にし、それらの位置も揃えておくことが好ましい。
【0044】
使用法
僧帽弁形成術用デバイス90の好ましい使用法は次の通りである。
【0045】
先ず、標準的な導入用シース105(図3)を患者の血管系に挿入し、冠状静脈口まで進める。より具体的には、無論これに限定されるものではないが、その際に、その標準的な導入用シースを患者の頸動脈(または患者の右鎖骨下静脈ないし左鎖骨下静脈)へ挿入し、上大静脈の中を下方へ進め、更に右心房を通過させて、冠状静脈口の中に挿入する。次に、この標準的な導入用シース105の中にガイドワイヤ110を挿通して、そのガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中に挿入する(図12)。次に、そのガイドワイヤ110の外周に、僧帽弁形成術用デバイス90を装着する。その僧帽弁形成術用デバイス90が植込部材95とカテーテル・シャフト100とを一体に形成したものである場合には、その僧帽弁形成術用デバイス90を1つのユニットとしてガイドワイヤ110の外周に装着することになる。一方、その僧帽弁形成術用デバイス90が、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを別体に形成したものである場合には、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを結合した後に、その結合したものをガイドワイヤ110の外周に装着するようにしてもよく、或いはまた、植込部材95とカテーテル・シャフト100とを個別にガイドワイヤ110の外周に装着した後に、それらを互いに結合するようにしてもよい。植込部材95とカテーテル・シャフト100との一体化がどの時点でなされるにせよ(即ち、製造時点か、ガイドワイヤ110の外周に装着する前の時点か、それともガイドワイヤ110の外周に装着した後の時点かにかかわらず)、植込部材95とカテーテル・シャフト100とは一体化され、その際に、キャリア部材145の主機能ルーメン170とカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205とが位置合せされ、また、キャリア部材145の補助ルーメン175とカテーテル・シャフト100の補助ルーメン210とが位置合せされる。僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110の外周に装着する際には、互いに位置合せした主機能ルーメン170と主機能ルーメン205とにガイドワイヤ110の基端部を挿入するようにすることが好ましく、こうして装着が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90を、ガイドワイヤ110の外周に沿わせて末端側へ進めて行く。ただし別法として、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110の外周に装着する際に、互いに位置合せした補助ルーメン175と補助ルーメン210とにガイドワイヤ110の基端部を挿入するようにしてもよく、この場合にも、こうして装着が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90を、ガイドワイヤ110の外周に沿わせて末端側へ進めて行く、或いはまた、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤの外周に装着するための更に別のルーメンを、僧帽弁形成術用デバイス90に形成しておくようにしてもよい。
【0046】
そして、その僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて末端側へ、即ち下方へと進めて行き、トリートメント・セクション120を僧帽弁後尖の近傍に定位したならば、それによって、リード・セクション115がAIVの中へ入り込んで下向きになり、また、トリートメント・セクション120とリード・セクション115との接合点が、冠状静脈洞とAIVとの接続箇所に位置するようになる(図3及び図13)。尚、放射線不透過性マーカー140、160及び/または165を利用して、フルオロスコープなどで観察しながら僧帽弁形成術用デバイス90の定位を行うようにするとよく、そうすることによって、容易に定位を行うことができる。
【0047】
この僧帽弁形成術用デバイス90を治療部位である冠状静脈洞の中に挿入して行くときには、トリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入しておかないようにすることが望ましい。そうすれば、患者の血管系の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を進めて行くときに、キャリア部材145がより撓みやすいため、僧帽弁形成術用デバイス90の挿入をより容易に行うことができる。これは本発明の重要な利点のうちの1つであり、なぜならば、これによって、生体組織を傷つけるおそれを非常に小さくし、また、僧帽弁形成術用デバイスにキンクを発生させるおそれも小さくして、僧帽弁形成術用デバイスの挿入を行えるからである。
【0048】
キャリア部材145が比較的可撓性の大きな材料で製作されているため、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて挿入して行くのに先立って、使用されていない主機能ルーメンのペア170、205には、閉塞充填材を装填しておくことが望ましいことがある。使用されていない主機能ルーメンを空洞のままにしておくと、特にキャリア部材145が屈曲したときなどに、そのルーメンがつぶれた状態になるおそれがあるが、閉塞充填材を装填しておくことでそのような事態を防止することができる。また、使用されていない主機能ルーメンを空洞をままにしておくと、後にキャリア部材に直線度増強ロッドを挿入する際に、その直線度増強ロッドがキャリア部材の側壁を突き破るおそれがあるが、閉塞充填材を装填しておくことで、そのような事態も防止することができる。例えばキャリア部材145が3本の主機能ルーメン170を有するものである場合に、その3本のうちの、2本の主機能ルーメン170に装填した閉塞充填材は、残りの(3本目の)主機能ルーメンに挿入する直線度増強ロッドを案内する「レール」として機能する。ただしこれに関しては、そのような閉塞充填材はできるだけ可撓性の大きなものとすることが好ましく、そうすれば、僧帽弁形成術用デバイスが撓むこと、及び/または、僧帽弁形成術用デバイスを挿入することに対して、大きな抵抗力を発生することなく、使用されていない主機能ルーメンのペア170、205がつぶれた状態になるのを防止することができる。
【0049】
同様に、補助ルーメンのペア175、210についても、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて挿入して行くのに先立って、使用されていない補助ルーメンのペア175、210には、閉塞充填材を装填しておくようにするのもよい。
【0050】
患者の血管系の中を通過させて僧帽弁形成術用デバイス90を挿入し、その僧帽弁形成術用デバイス90のトリートメント・セクション120を、冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に定位したならば、ガイドワイヤ110を抜去してもよい。ただし別法として、ガイドワイヤ110が挿通されているルーメンを別の目的に使用する必要がなければ、ガイドワイヤ110を抜去せずにそのままにしておいてもよい。そうした方が有利であることもあり、それは、ガイドワイヤ110は、僧帽弁形成術用デバイス90に挿通されている間は、それが挿通されているルーメン(例えば主機能ルーメンのペア10、205)を支持する機能を果たすからである。
【0051】
続いて、キャリア部材145の1本または複数本の主機能ルーメン170の中に、1本または複数本の直線度増強ロッド180を挿入する。それには、直線度増強ロッド180を、先ずカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205の中に挿入し、そこから更にキャリア部材145の主機能ルーメン170の中に挿入する。また、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入するときに閉塞充填材またはガイドワイヤが嵌挿されていた主機能ルーメン205及び170に、直線度増強ロッドを挿入しようとするときには、その閉塞充填材またはガイドワイヤを抜去した後に直線度増強ロッドを挿入する。
【0052】
キャリア部材145の複数本の主機能ルーメン170の中に複数本の直線度増強ロッド180を次々と挿入して行くと、それにつれてキャリア部材145の剛性が次第に大きくなり、そのためキャリア部材145の形状が直線形状に近付いて行く。即ち、直線度が増強される。またそれによって、拡張していた僧帽弁の形状を変更するリモデルが徐々に進行し、それに伴って僧帽弁後尖が前方へ押されて移動し、もって僧帽弁逆流が軽減される(図14)。キャリア部材145の主機能ルーメン170に、直線度増強ロッド180を1本追加して挿入するごとに、僧帽弁逆流の程度を観察して、その逆流が最小になるまでこのプロセスを反復する。一旦挿入した直線度増強ロッド180を抜去することが望ましいと判断された場合にはその抜去を行い、また、別の直線度増強ロッドに交換した方がよいと判断された場合にはその交換を行い、それらによって、生体組織の変形の程度を改善して僧帽弁逆流が最小になるようにする。本質的に、キャリア部材145を冠状静脈洞の中に定位した状態で、その定位したキャリア部材145に直線度増強ロッド180を挿入して行くのであるから、植込部材95は治療部位において完成されることになる。この方式によれば、数々の優れた利点が提供される。それらのうちでも特に、複数本の直線度増強ロッドをキャリア部材145の中に次々と挿入して行く方式であることから、治療処置を「段階的に」適用することができ、そのため生体組織の変形度を「精密調整」することができ、それによって最適治療が可能となっている。またこれに関しては、直線度増強ロッド180を提供する形態として、直線度増強力の大きさが互いに異なる複数本の直線度増強ロッド180を取り揃えたキットの形で提供することが好ましいということがあり、そうすることによって、生体組織を変形させる変形力の大きさを容易に最適化することができる。これに関しては、例えば図14Aを参照されたい。同図に示した様々な直線度増強ロッドは、長さに関して3通りのものがあり、その各長さごとに、剛性が6通りあるため、医師は18通りの異なった直線度増強力を利用することができる。更に、患者の生体組織に対して治療目的で作用させる力が徐々に増大させることができるため、生体組織を傷つけるおそれも小さくすることができる。更に、本発明は、生体組織を傷つけるおそれの小さいデバイスを使用していることから、システムの構成要素を簡明な方法で低コストで製作することができる。本発明のこの新規な方式には、更にその他の様々な利点もあるが、それらは当業者であれば、本開示に基づいて容易に理解し得るものである。
【0053】
更に、キャリア部材145は、例えばテフロン(商標)などの比較的低摩擦の材料で製作されるものであるため、直線度増強ロッド180をキャリア部材145に挿入するときの滑りも良好であり、また、このキャリア部材145を冠状静脈洞30に挿入するときの滑りも良好である。そのため、キャリア部材145に複数本の直線度増強ロッド180を次々と挿入して、後尖弁輪部を次第に前方へ移動させて行くにつれて、このデバイスの形状が次第に直線形状に近付いて行く際に、このデバイスの末端部及び基端部が突出しなければならないが、その突出も無理なく行われる。
【0054】
これについて更に詳細に説明する。図14Bは、僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクション120が、患者の生体組織の中に配置された状態を示した図である。複数本の直線度増強ロッド180が次々と挿入されるにつれて、トリートメント・セクション120が、直線度が増強されていない状態(実線)から、直線度が増強された状態(破線)へ移行して行き、その際に、トリートメント・セクション120の長さが一定であるのに対して、生体組織の形状が変化することから、トリートメント・セクション120の末端部150及び基端部155が、生体組織に沿って摺動する(これを移動量Xで図示した)が、その際に生体組織を傷つけるおそれは小さい。このデバイスが摺動する際に、生体組織を傷つけるおそれが小さいのは、キャリア部材145が比較的低摩擦の材料(例えばテフロン(商標)など)で形成されているからである。実際のところ、複数本の直線度増強ロッドを次々と挿入して行くにつれて、生体組織の変形が徐々に進行することから、このデバイスの摺動も徐々に進行し、そのため、生体組織を傷つけるおそれが更に小さなものとなっている。
【0055】
僧帽弁形成術用デバイス90の挿入は、いわゆるスタイレット・デリバリー方式で行うようにしてもよい。そうする場合には、ガイドワイヤを利用してシースを冠状静脈洞の中に挿入した後にそのガイドワイヤを抜去し、そして、そのシースの中を通して僧帽弁形成術用デバイス90を挿入して冠状静脈洞の中に定位し、続いて、そのシースを抜去して、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に残置する。また、その場合に、僧帽弁形成術用デバイス90の末端部130の開口は、その他の用途に使用する必要がなければ、封止しておくようにするとよい(ここでいうその他の用途とは、例えば電気リード線を挿通するなどの用途であり、これについては後に説明する)。
【0056】
更なる好適な構成例の詳細
直線度増強ロッド180の寸法及び形状は、冠状静脈洞の中に配置されたならば、冠状静脈洞の形状をより直線形状に近付けるような、即ち、冠状静脈洞に直線度増強をもたらすような、寸法及び形状とされている。より詳しくは、複数本の直線度増強ロッド180の各々は、(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織と比べて幾分大きな剛性を有し、(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の自然な彎曲形状と比べて幾分直線形状に近い形状を有し、そして、(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有するように形成されており、それによって、直線度増強ロッドを患者の冠状静脈洞の中に配置されたならば、その直線度増強ロッドが、冠状静脈洞に直線度増強力を作用させることで僧帽弁後尖に前向きの力を作用させ、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしたものである。
【0057】
1つ重要なこととして、キャリア部材145それ自体の弾性によって冠状静脈洞の壁面に作用する直線度増強力が、とるに足らない程度の、非常に小さな力となるように、このキャリア部材145を構成するとよいということがある。それによって大きな利点が得られ、なぜならば、そうすることによって、キャリア部材145を治療部位まで挿入するする際に、そのキャリア部材145に直線度増強ロッド180を挿入しておかなければ、容易に、また生体組織を傷つけることなく、そのキャリア部材145を治療部位まで進めることができるからである。
【0058】
更にもう1つ重要なこととして、個々の直線度増強ロッド180が冠状静脈洞の表面に作用させる直線度増強力の大きさは、冠状静脈洞の壁面に作用させるべき直線度増強力の全体のうちの一部だけとすることができるということがある。このようにすることができるのは、複数本の直線度増強ロッド180による累積効果を利用するようにしているからである。これによっても大きな利点が得られ、なぜならば、こうすることによって、容易に、また生体組織を傷つけることなく、個々の直線度増強ロッドを治療部位まで進めることができるからである。
【0059】
更にもう1つ重要なこととして、複数本の直線度増強ロッドを個別に挿入して、僧帽弁輪に直線度増強力を作用させるようにしているため、使用する直線度増強ロッドの本数を増減することにより、及び/または、使用する直線度増強ロッドの剛性などを加減することにより、様々な大きさの直線度増強力を作用させることができるということがある。
【0060】
また、これも重要なこととして、直線度増強ロッド180を弾性材料で形成してあるため、直線度増強ロッド180によって、生体組織のリモデルを徐々に進行させることができ、即ち、時間をかけて弁尖の接合状態に動的に影響を及ぼして行くことができることから、個々の直線度増強ロッド180が冠状静脈洞の表面に作用させる直線度増強力の大きさを、弁尖の接合状態を略々完全な状態にするために必要とされる直線度増強力の全体の一部分に相当する力の大きさにし得るということがある。また特に、これに関しては、生体組織は動的に反応する性質があるため、可撓性を有する直線度増強ロッドを使用して、生体組織を徐々に最終位置へ移動させて行くことができる。そのため、生体組織のリモデルを時間をかけて進行させることができ、それによって、生体組織のリモデルを一度に完了させる場合と比べて、生体組織を傷つけるおそれをより小さくすることができる。
【0061】
トリートメント・セクション120の1本または複数本の主機能ルーメン170の中に予め直線度増強ロッド180を挿入した上で、その僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞へ進めて行くという方法もあり、また、カテーテル・シャフト100の1本または複数本の主機能ルーメン205の中に予め直線度増強ロッド180を挿入した上で、その僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞へ進めて行くという方法もある。ただし、既述のごとく、通常は、先に僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入し、しかる後に、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入するようにすることが望ましく。そうすることによって、患者の冠状静脈洞の中に僧帽弁形成術用デバイスを挿入しているときに、僧帽弁形成術用デバイスの可撓性を、可及的に大きくしておくことができる。
【0062】
キャリア部材145の補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入することによって、僧帽弁輪に所望の直線度増強をもたらすようにしてもよい。またそうする際に、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッドを挿入すると共に、補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入するようにしてもよく、主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッドを挿入する替わりに、補助ルーメン175の中に直線度増強ロッドを挿入するようにしてもよい。
【0063】
1つの好適な構成例においては、主機能ルーメン170の中と補助ルーメン175の中との両方に直線度増強ロッドを挿入することによって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付ける所望の直線度増強効果を得るようにしている。
【0064】
更に、1つの特に好適な構成例においては、主機能ルーメン170の中に挿入する直線度増強ロッドの可撓性の大きさと、補助ルーメン175の中に挿入する直線度増強ロッドの可撓性の大きさとの間に、適切な相関関係を設定することによって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付ける直線度増強効果を更に改善したものとしている。
【0065】
より詳しく説明すると、1つの好適な実施の形態に係る直線度増強ロッド180においては、図7に示したように、直線度増強ロッド180の末端部S4の可撓性を比較的大きくすることで、生体管路内を通して直線度増強ロッドを患者の冠状静脈洞まで挿入する操作を容易にしている。ただし、これによって、末端部S4が発生する直線度増強力が弱まるため、冠状静脈洞のうちのこの末端部S4に対応した領域では、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付けるための直線度増強効果が弱まるという結果を生じるおそれがある。そこで、図15に示したような補助直線度増強ロッド211を併用するようにしており、この補助直線度増強ロッド211は、その基端部S5の剛性を第1の大きさとし、その末端部S6の剛性を第1の大きさより大きい第2の大きさとしたものであり、この補助直線度増強ロッド211の末端部S6の可撓性の大きさと直線度増強ロッド180の末端部S4の可撓性の大きさとの間に、適切な相関関係を設定することにより、それら2つの末端部の総合作用によって、弁輪の近傍部分の形状をより直線形状に近付けるための直線度増強力が、所望の大きさとなるようにしたものである。
【0066】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、補助直線度増強ロッド211の末端部に基端側ほど可撓性が小さくなる可撓性勾配を付与し、それによって、基端側ほど可撓性が大きくなる可撓性勾配を有する直線度増強ロッド180の末端部の影響を補償するようにしている。この作用を図解して示したのが図16である。このような可撓性勾配を付与する方法としては、例えば、ロッドの径を変化させる方法や、2種類以上の材料を併用する方法があり、更にその他の方法もある。
【0067】
本発明の1つの好適な実施の形態においては、先ず、補助ルーメン210の中に1本または複数本の補助直線度増強ロッド211を挿入し、その後に、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入するようにしており、そして、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に配置した後に、主機能ルーメン170の中に1本または複数本の直線度増強ロッド180を挿入するようにしている。
【0068】
また、直線度増強ロッド180を、直線度増強ロッド180に作用する大きな応力に耐えられる材料(例えばニチノール等の超弾性金属材料など)で形成し、補助直線度増強ロッド211を、キャリア部材45に必要とされる大きな強度を提供することのできる別の材料(例えば手術器具用ステンレス鋼など)で形成するようにしてもよい。
【0069】
既述のごとく、一般的には、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170に挿入するのは、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に挿入した後とすることが望ましく、そうすることで、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞に挿入する操作が容易になる。
【0070】
本発明の1つの実施の形態においては、カテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205の中で、また、トリートメント・セクション120の主機能ルーメン170中で、直線度増強ロッド180を移動させるために、簡単な構成のプッシュ・ロッド215(図17)を用いるようにしている。プッシュ・ロッド215は、直線度増強ロッド180とは別体に形成してもよく、また直線度増強ロッド180と一体に形成してもよい。本発明の1つの好適な実施の形態では、プッシュロッド215を直線度増強ロッド180と一体に形成するか、さもなくば、プッシュロッド215を直線度増強ロッド180に連結するようにしている。
【0071】
ある種の状況下では、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170から抜去する操作が行われることがある。その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、トリートメント・セクション120を冠状静脈洞の中に定位した後に、僧帽弁輪に作用させる直線度増強力を加減するために、先に挿入した直線度増強ロッドを別の直線度増強ロッドに交換することが必要とされ、もしくは望まれることがある。或いはまた、冠状静脈洞の中に展開した僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞から抜去することが必要とされ、もしくは望まれることがあり、そのような場合には、冠状静脈洞の中に定位されているトリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去することが必要とされ、もしくは望まれることになる。トリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去する際に、その直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が一体に形成されているならば、或いは、その直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が連結されているならば、その抜去を容易に行うことができる。即ち、そのような場合には、そのプッシュ・ロッド215の基端部を摘んで基端側へ引っ張るだけで、直線度増強ロッド180を容易に抜去することができる。
【0072】
トリートメント・セクション120から直線度増強ロッド180を抜去するときには、その直線度増強ロッド180を挿入するときに使用したプッシュ・ロッドの末端部を、その直線度増強ロッド180の基端部に着脱可能に連結して、そのプッシュ・ロッドを利用して抜去するようにしてもよい。
【0073】
更に詳細に説明すると、図18に示したプッシュ・ロッド220は、直線度増強ロッド180に着脱可能に連結されている。このプッシュ・ロッド220は、末端部225と基端部230とを有する。プッシュ・ロッド220の末端部225には、可撓性を有するコイルスプリング235が設けられており、このコイルスプリング235が、直線度増強ロッド180の基端部に当接している。プッシュ・ロッド220の基端部230にはハンドル240が取付けられている。プッシュ・ロッド220には中心ルーメン255が形成されている。この中心ルーメン255には引張ワイヤ260が挿通されている。引張ワイヤ206の一端は直線度増強ロッド180の基端部に連結されており、引張ワイヤ206の他端はハンドル240に取付けられた引張機構265に連結されている。
【0074】
使用法について説明すると、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド220に連結されている状態では、ハンドル240を利用して、直線度増強ロッド180をトリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中に挿入することができ、また、直線度増強ロッド180を主機能ルーメン170から抜去することができる。それらが完了した後に、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220から切り離す際には、引張機構265を操作して引張ワイヤ260に十分に大きな引張力を加えれば、引張ワイヤ260を破断させて、引張ワイヤ260と直線度増強ロッド180とを切り離すことができ、それによってプッシュ・ロッド220を僧帽弁形成術用デバイス90から除去することができ、一方、直線度増強ロッド180はトリートメント・セクション120の主機能ルーメン170の中にそのまま残置される。
【0075】
図19〜図21に、直線度増強ロッドをプッシュ・ロッドに切り離し可能に連結するためのその他の様々な機構を示した。図19〜図21に示した構成は、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッドに切り離し可能に連結するという意味では図18の構成と同様であるが、ただし、図19〜図21の構成は、プッシュ・ロッドから切り離された直線度増強ロッドに対して、再びそのプッシュ・ロッドを連結できるという、更なる利点を有するものである。
【0076】
図19に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結し、しかも、一度切り離したプッシュ・ロッドを再び直線度増強ロッドに連結することのできる構成の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、(1)直線度増強ロッド180の基端部が凹部270を備えており、(2)プッシュ・ロッド220が、割り溝付き外筒部275と内側くさびロッド280とを備えている。内側くさびロッド280を基端側へ引っ張り、割り溝付き外筒部275から引き出すと、割り溝付き外筒部275は径方向に押し広げられた状態から解放されて、凹部270の内周面に対する保持力を失い、それによって、割り溝付き275を凹部270に出し入れすることが可能になる。一方、割り溝付き外筒部275を凹部270に嵌合させた上で、内側くさびロッド280を末端側へ移動させて割り溝付き外筒部275の中へ押し込むと、割り溝付き外筒部275は径方向に押し広げられた状態となり、割り溝付き275が凹部270の内周面を保持できるようになるため、それによって直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド220に固定される。この後、内側くさびロッド280を基端側へ引っ張り、割り溝付き外筒部275から引き出せば、プッシュ・ロッド220を直線度増強ロッド180から抜脱することができ、それによって、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220から切り離すことができる。
【0077】
図20に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結することのできる構成の別の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、(1)直線度増強ロッド180の基端部が、雄形部285を備えており、(2)プッシュ・ロッド220の末端部が、スプリング機能を有する凹部290を備えており、(3)プッシュ・ロッド220の外周に閉止チューブ295が同心的に嵌装されている。この構成において、閉止チューブ295を基端側へ引っ張ってスプリング式凹部290から引き離すと、プッシュ・ロッド220の末端部が、外側から押さえ付けられた状態から解放されてスプリング機能により自由に拡がった状態になり、雄形部材285に対する保持力を失うため、凹部290を雄形部材285に対して嵌脱することが可能になる。一方、プッシュ・ロッド220の末端部を雄形部材285の外周に嵌合して、閉止チューブ295を末端側へ移動させてスプリング式凹部290の外周へ嵌合したならば、プッシュ・ロッド220の末端部が雄形部材285を保持して、それによって直線度増強ロッド280がプッシュ・ロッド220に固定される。この後、閉止チューブ295を引っ張って、スプリング式凹部290から離れる方向に移動させ、プッシュ・ロッド220を直線度増強ロッド180から抜脱することによって、直線度増強ロッド130をプッシュ・ロッド220から切り離すことができる。
【0078】
図21に示したのは、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結することのできる構成の別の1つの具体例である。これについて詳細に説明すると、この具体例に係る構成では、直線度増強ロッド180とプッシュ・ロッド220との一方に、バヨネット型連結構造の一方の連結機構を装備し、また、直線度増強ロッド180とプッシュ・ロッド220との他方に、バヨネット型連結構造の他方の連結機構を装備するようにしており、それらによって、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結できるようにしたものである。
【0079】
当業者であれば、本開示を参照することにより、直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド220に切り離し可能に連結するための、更にその他の様々な方式にも想到するのは当然のことである。
【0080】
既述のごとく、カテーテル・シャフト100(図4)は植込部材95を治療部位へデリバリーする機能を果たすものである。カテーテル・シャフト100が植込部材95を治療部位へデリバリーしているときには、そのカテーテル・シャフト100の末端部195が植込部材95の基端部に結合されており、また、本発明の幾つかの実施の形態では、デリバリーが完了した後のある時点で、カテーテル・シャフト100の末端部105を植込部材95の基端部155から切り離せるようにしている。そのためには、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、それをカテーテル・シャフト100に切り離し可能に連結しておくようにしてもよく、或いは、植込部材95をカテーテル・シャフト100と一体に、ただしカテーテル・シャフト100から切り離し可能に形成しておくようにしてもよい。
【0081】
植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、それをカテーテル・シャフト100に切り離し可能に連結しておくようにする場合には、両者の選択的連結を可能にする様々な構成を利用することができる。
【0082】
1つの好適な構成例においては、図22に示したように、接続糸300を用いて植込部材95とカテーテル・シャフト100とを切り離し可能に連結している。これについて詳細に説明すると、1本または複数本の接続糸300の末端部を、トリートメント・セクション120の補助ルーメン175に挿入して固定し、その接続糸300をカテーテル・シャフトの補助ルーメン210に挿通して基端側へ引き出す。続いて、その接続糸300を緊張させた状態で、カテーテル・シャフト100の末端部195をトリートメント・セクション120の基端部155に押し付けることにより、植込部材95とカテーテル・シャフト100とが一体化され、あたかも1つのユニットであるかのように扱うことができるようになる。より具体的には、僧帽弁形成術用デバイス90をガイドワイヤ110に沿わせて患者の冠状静脈洞へ進めて行くときには、カテーテル・シャフト100で押すことによって植込部材95を末端側へ移動させることができる。また、僧帽弁形成術用デバイス90を引き出す必要が生じたならば、接続糸300を基端側へ引っ張れば、それによって植込部材95を基端側へ(従って、カテーテル・シャフト1000を基端側へ)引き出すことができる。
【0083】
治療部位に植込部材95を残置して、カテーテル・シャフト100を抜去する際には、先ず、カテーテル・シャフト100を動かさずに、接続糸300を基端側へ引っ張ると、それによって接続糸300が植込部材95から抜けて離れるため、続いて、接続糸300とカテーテル・シャフト100とを治療部位から抜去すればよい。図23に示したのは、このような作用効果を実現するための1つの構成例であり、この構成例においては、接続糸300が摩擦力によって補助ルーメン175に固定されており、その摩擦力は、十分に大きな力を加えることによって、接続糸300を抜き取ることができる程度のものである(即ち、植込部材95が移動しないようにカテーテル・シャフト300で押さえた状態で接続糸300を強い力で引っ張るようにすればよい)。
【0084】
別法として、接続糸300を残したまま、カテーテル・シャフト100だけを抜去するようにしてもよく、その場合には、治療部位に残置した植込部材95から基端側へ延出している接続糸300が、そのまま残されることになる。この方法の利点は、後に植込部材95を引き出す必要が生じたときに、残されている接続糸300が、体内に配置されている植込部材95に容易にアクセスするための手段となることである。植込部材95を患者の体内から除去できることは、本発明の優れた利点のうちの1つである。
【0085】
更に、接続糸300が植込部材95から基端側へ延出して露出しているため、その接続糸300に沿わせてキャップ(不図示)を挿入して植込部材95まで進めることにより、植込部材95の基端部にキャップを被着することができる。このようなキャップを使用することで、植込部材95の基端部によって生体組織が傷つけられるのを防止することができ、また、植込部材95の内部の少なくとも幾分かが封止されるために、凝固を発生させるおそれも軽減される。
【0086】
以上に説明した植込部材95は、先に言及した米国特許出願第10/446,470号において細長部材175、184の1つの好適な実施の形態として記載されているものである。それゆえ、この植込部材95は単独で体内に配置する(例えば、冠状静脈洞の内壁に直接当接させるようにして配置する)ことも可能であり、また、上記米国特許出願において細長部材157、184に関連して記載されているように、その他の何らかのデバイスと共に体内に配置することも可能であって、例えば、安定化スカホールドなどと共に配置することができる。
【0087】
この点に関して付言すると、1本の比較的大径のロッド(例えば先に言及した米国特許出願第10/446,470号に記載されている細長部材157、184など)に替えて、複数本のそれより小径のロッド(例えば上で説明した直線度増強ロッド180、211など)を使用することにより、幾つもの優れた利点が得られる。これについて、図24を参照して更に詳細に説明する。図24は、ロッド径(AまたはB)、断面プロファイル(CP)、ピーク剛性(SF)、それにピーク応力(ST)の間の関係を示した模式図である。尚、ここで「断面プロファイル」というのは、デバイスの横断面のプロファイルである。より詳しくは、ロッド径Aの1本のロッドに替えて、より小径のロッド径Bの複数本のロッドを使用することにより、植込部材の断面プロファイル(CP)を低下させ、植込部材のピーク剛性(SF)を増大させ、ピーク応力(ST)を低下させることができる。従って、複数本の小径のロッドによって構成される本発明に係る複合ロッド方式の植込部材(インプラント)は、1本の比較的大径のロッドから成るロッド形植込部材(インプラント)と比較して、より大きな利点をもたらすものである。
【0088】
また更に、本発明に従って構成した植込デバイスによれば、医師は、複数の変数を調節することができるため、それによって様々な大きさの直線度増強力を発生させることができ、更にそれによって最適の結果を得ることができる。調節可能な変数には、(1)体内の植込部材を定位する位置、(2)植込部材に挿入するロッドの位置、(3)挿入するロッドの長さ、(4)挿入するロッドの剛性、それに(5)全体としての植込部材の剛性の大きさなどがある。
【0089】
この僧帽弁形成術用デバイス90は、様々な実施の形態として構成し得るものであるため、様々な用途に使用可能である。その具体例を挙げるならば、本発明の1つの実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイス90を純粋に診断用デバイスとして利用するものとし、診断のための処置が完了したならば、その全体を抜去することができるものとしている。また、本発明の別の実施の形態として、処置の完了後に、その処置を行うために定位した位置に、僧帽弁形成術用デバイス90の全体を残置しておけるようにすることも可能である。この場合には、コスト上の理由から、その僧帽弁形成術用デバイス90を、植込部材95をカテーテル・シャフト100に一体に形成したものとする(例えばモールド成形などにより)とよい。本発明の更に別の形態においては、治療処置が完了したならば、僧帽弁形成術用デバイス90のうちの、植込部材95だけを治療部位に残置して、その他の部分を抜去することができるように、僧帽弁形成術用デバイス90を構成している。この場合には、植込部材95をカテーテル・シャフト100とは別体に形成して、両者を切り離し可能に連結し、体内に配置されている間は両者が連結された状態に維持しておき、処置が完了したならば、その僧帽弁形成術用デバイス90のうちの植込部材95だけを冠状静脈洞の中に残置して、その他の部分を抜去するようにするのもよい。
【0090】
この僧帽弁形成術用デバイスを、洗浄液でフラッシュ洗浄することが必要とされる状況も数多く存在する。フラッシュ洗浄を行うのは例えば、空気塞栓を排除するためであり、或いはまた、造影剤を供給するためであり、或いはまた、フラッシュ洗浄はその他の目的でも行われる。それらの場合に、患者の体内に異物が侵入するおそれを最小限にするために、図25に示したように、複数本のルーメンをそれらの末端において、1つまたは複数のコネクタ部分305に接続することにより、閉じた流路を画成するとよい。尚、植込部材95がカテーテル・シャフト100とは別体に形成されていて、しかも、洗浄液をカテーテル・シャフト100の主機能ルーメン205から植込部材95の主機能ルーメン170へ流入させる必要がある場合には、植込部材95とカテーテル・シャフト100との接続を液密接続とする必要がある。
【0091】
トリートメント・セクション120は、その全長に亘って同一の円形の断面形状(例えば図6に示したような断面形状)を有するように形成してもよく、或いは、その長手方向位置によって断面形状が変化するように形成してもよい。その具体例を挙げるならば、ただしこれに限定されるものではないが、例えば、トリートメント・セクション120が、その末端部150では円形の断面形状(図26)を有し、その長手方向の中間部(即ち、僧帽弁のP2弁尖の近傍に位置する部分)では、矩形または台形の断面形状(図27)を有し、その基端部155では、比較的扁平な断面形状(図28)を有するように形成するようにしてもよい。更に、トリートメント・セクション120の断面形状が、円形以外の形状である場合には、手術部位へ挿入する操作を行っている間、トリートメント・セクション120を拘束して、トリートメント・セクション120が円形の断面形状を呈するようにしておくとよく、それによって、患者の血管系の中を通過させてトリートメント・セクションを挿入することが容易になる。これを実現するには、トリートメント・セクション120を、取外し可能なシース310(図28)の中に収容し、トリートメント・セクション120を手術部位に定位した後にそのシース310を除去するようにすればよく、それによって、トリートメント・セクション120の形状は所要の形状を回復する。
【0092】
図26〜図28には、更に、トリートメント・セクション120の中を貫通して延在する複数本のルーメンを全て同一径にしてもよいということを例示した。
【0093】
既述のごとく、植込部材95を安定化スカホールドと共に配置するようにしてもよく、使用する安定化スカホールドは、例えば先に言及した米国特許出願第10/446,470号に開示されている種類のものとすることができる。そのような安定化スカホオールドは、僧帽弁形成術用デバイスが冠状静脈洞の壁面に及ぼす力を分散させるのに役立ち、また、トリートメント・セクション120の中央部が長手方向にずれて移動してしまうのを防止する安定化にも役立つ(ただし、このデバイスの末端部及び基端部は、直線度増強ロッドが挿入されてこのデバイスの形状が直線的になろうとする際に、生体組織の表面に接した状態で移動できるようにしておくことが一般的には好ましい)。更に、トリートメント・セクション120の外周面の一部に生体組織の内方成長を促進する構造315(図29)を備えているようにするのもよく、そうすれば、トリートメント・セクション120の中央部を冠状静脈洞の中に更にしっかりと固定することができる。その具体例を挙げるならば、ただしこれに限定されるものではないが、トリートメント・セクション120の外周面に不規則な、即ち「ファジー」な凹凸を形成し、及び/または、その外周面に、生体組織の内方成長を促進する内方成長促進剤をコーティングするようにしてもよい。本発明の1つの好適な実施の形態においては、表面構造315をグラフト部材としており、また好ましくは、ダクロン(商標)とテフロン(商標)とを使用したハイブリッド材料で形成し、テフロン(商標)で製作したトリートメント・セクション120のボディにこれを固定するようにしており、また、そのグラフト部材が、大きな静止摩擦力と、大きな内皮成長促進特性とを備えているようにしている。
【0094】
コリドール・システム
図30及び図31に示した1つの好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90は、植込処置の完了後に、植込部材95まで延在する再アクセス用の「コリドール(通用路)」を残存させるように構成したものである。これを実現するために、(1)この僧帽弁形成術用デバイス90は、トリートメント・セクション120の基端部155とカテーテル・シャフト100の末端部とを一体に形成した「単一ユニット」構造とされており、(2)この僧帽弁形成術用デバイス90は、鎖骨下静脈から患者の血管系にアクセスすることを想定して構成されており、(3)植込処置の完了後に、カテーテル・シャフトの基端部にキャップ320を被着して、それを患者の皮下に形成した「ポケット」の中に固定するようにしてあり、これらについて以下に更に詳細に説明する。
【0095】
より詳しくは、本発明のこの実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイス90は、先に説明したようにして、ガイドワイヤに沿わせて挿入することが好ましいものであり、挿入が完了したならば、リード・セクション115はAIVの中に入り込んで下向きになり、トリートメント・セクション120は冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍の領域に配置され、カテーテル・シャフト100はそこから右心房を通過し、更に上大静脈の中を上方へ向かって延在し、更に一方の鎖骨下静脈の中を上方へ向かって延在し、そして、その鎖骨下静脈の血管壁を貫通して体外へ延出する。尚、本発明の1つの好適な実施の形態においては、この僧帽弁形成術用デバイス90の直径を、約7フレンチとしている。
【0096】
僧帽弁形成術用デバイス90は、安定支持スカホールド325を通すことが好ましく、この安定支持スカホールド325は、冠状静脈洞の中に配置され、冠状静脈口45の近傍において僧帽弁形成術用デバイス90を摺動可能に支持するものである。このような支持スカホールド325としては、先に言及した米国特許出願第10/446,470号に開示されているものなどを使用すればよい。また、それだけに限られず、このような支持スカホールド325としては、僧帽弁形成術用デバイス90が冠状静脈洞の壁面に及ぼす力を分散させるのに役立ち、且つ、僧帽弁形成術用デバイス90がその支持スカホールドに対して相対的に摺動できる構成のものであれば、任意の適当な構成のものを用いることができる。僧帽弁形成術用デバイス90は更に、生体組織の内方成長を行わせる領域315を備えたものとすることが好ましく、この領域315は、トリートメント・セクション120の中央部を冠状静脈洞に固定するのに役立つ。また、この領域315は、僧帽弁形成術用デバイス90のトリートメント・セクション120の末端部の外周に装着する、耐蝕性スリーブとして機能するグラフト330から成るものとすることが好ましい。
【0097】
尚、以上に説明した構成では、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中に適切に定位した後に、主機能ルーメン205、170の中に直線度増強ロッド180を挿入し、それによって患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにする。
【0098】
主機能ルーメン170の中に直線度増強ロッド180を挿入し、それによって患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにしたならば、続いて、チューブ状のバンパー・コイル335(図31)などの適当な器具を主機能ルーメン205の中に挿入して主機能ルーメン205の隙間を埋め、それによって、直線度増強ロッド180が主機能ルーメン170の中で移動しないように確実に固定する。尚、直線度増強ロッド180が前述した引張ワイヤ260(図18)を備えている場合には、その引張ワイヤをチューブ状のバンパー・コイル335の中に通すようにすればよい。
【0099】
ただし、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215(例えば図17に示したようなプッシュ・ロッド)に連結されている場合には、通常、バンパー・コイルなどの器具は不要であり、なぜならば、そのプッシュ・ロッド215がバンパー・コイルの機能を肩代わりして、主機能ルーメン205の隙間を埋め、直線度増強ロッド180が主機能ルーメン170の中で移動しないように確実に固定するからである。
【0100】
以上が完了したならば、カテーテル・シャフト100の基端部を、患者の胴部の皮下に形成した「ポケット」の中に収容する。より詳しくは、カテーテル・シャフト100の基端部を(それが長すぎる場合に)適当な長さに切り整え、そしてキャップ320を被着した上で、皮下ポケットの中に収容する。キャップ320は、簡単な構造の「単体」キャップでもよいが、内側キャップ340と外側キャップ355とで構成したものであればなお好ましい。その場合の内側キャップ340は、シール345と、プラグ350とを備えたものとするのがよく、プラグ350は、内側キャップ340に、引張ワイヤ260と、バンパー・コイル335またはプッシュ・ロッド215(直線度増強ロッド180にプッシュ・ロッド215が連結されている場合)とを固定するものである。一方、外側キャップ355は、単にこの僧帽弁形成術用デバイスの尾部の全体を覆うために嵌合して被着するものである。外側キャップ355は、組織を傷つけるおそれの小さい形状とし、患者に違和感を与えないものとすることが好ましい。
【0101】
この実施の形態に係る「コリドール・システム」は、数々の優れた利点を提供するものである。それら利点のうちでも特に、植込んだデバイスに容易にアクセスすることのできるアクセス経路を提供しているため、植込処置の完了後に生体組織の変形の度合いを調節したいとき、それを容易に実現できるということがある。これを行うには、例えば、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、チューブ状のバンパー・コイル335を抜去し、引張ワイヤ260を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、替わりに使用する直線度増強ロッド180を挿入し、チューブ状のバンパー・コイル335を再装着し、そして、この僧帽弁形成術用デバイスにキャップを再装着すればよい(或いは、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている場合には、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、プッシュ・ロッド215を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、替わりに使用する直線度増強ロッド180をプッシュ・ロッド215を介して挿入し、そして、僧帽弁形成術用デバイスにキャップを再装着すればよい)。或いはまた、植込んだデバイスに容易にアクセスすることのできるアクセス経路を提供しているため、植込んだデバイスの全体を患者の体内から抜去したいときにはそれも可能であり、それには、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、チューブ状のバンパー・コイル335を除去し、引張ワイヤ260を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、そして、カテーテル・シャフト100の基端部を基端側に引っ張ることによって、この僧帽弁形成術用デバイスの残りの部分を抜去すればよい(或いは、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている場合には、皮下ポケットを開いて僧帽弁形成術用デバイスの基端部にアクセスし、外側キャップ355を除去し、内側キャップ340を除去し、プッシュ・ロッド215を利用して直線度増強ロッド180を抜去し、そして、カテーテル・シャフト100の基端部を基端側に引っ張ることによって、この僧帽弁形成術用デバイスの残りの部分を抜去すればよい。
【0102】
更に、この僧帽弁形成術用デバイス90は、その使用に際して、皮下ポケットの中に収まるように、基端部の寸法を合わせる(即ち切り整える)ことのできる「単一ユニット」構造のデバイスであるため、デバイスの寸法の問題(従って在庫の問題)が格段に軽減されている。
【0103】
図32〜図38に示したのは、また別の好適な実施の形態に係る僧帽弁形成術用デバイス90である。この構成においては、植込部材95がカテーテル・シャフト100と一体に形成されており(図32〜図34、及び図36参照)、直線度増強ロッド180がプッシュ・ロッド215に連結されている(図38参照)。更に、カテーテル・シャフト100に3本の主機能ルーメン205が形成されており(図35)、植込部材95に3本の主機能ルーメン170が形成されている(図32〜図38においては不図示)。トリートメント・セクション120の中央部を固定するために、また、生体組織の内方成長を促進するために設けられている表面構造315は、トリートメント・セクションの外周に螺旋状に巻回した縫合糸などのフィラメントによって形成されている(図32〜図34、及び図36)。プッシュ・ロッド215のシャフトに、大径部400(図38)を形成して、フルオロスコープを使用したときの視認性を向上させるようにしてもよい。カテーテル・シャフト100の基端部をキャップ500が閉塞している。
【0104】
図32〜図38のデバイスは、「コリドール」方式を採用したものとすることが好ましい。より詳しくは、この僧帽弁形成術用デバイス90は、好ましくは、鎖骨下静脈から患者の血管系に導入して、冠状静脈洞の中まで挿入する。続いて、1本または複数本の直線度増強ロッド180を主機能ルーメン205、170に挿入して、患者の生体組織を変形させて僧帽弁逆流が軽減されるようにする。続いて、キャップ500を被着してこの僧帽弁形成術用デバイスの基端部を閉塞する。続いて、この僧帽弁形成術用デバイス90の基端部を皮下ポケットの中に収容する。この後、僧帽弁形成術用デバイス90に対して(例えば1本または複数本の直線度増強ロッド180を追加、除去、または交換することにより)調節を施す必要が生じたならば、皮下ポケットを開き、キャップ500を除去して、この僧帽弁形成術用デバイスのシステムに再アクセスすればよい。
【0105】
僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用する使用法
本発明に係る新規な僧帽弁形成術用デバイスは、電気リード線と共に使用することができ、その電気リード線は例えば、植込形の両心室ペーシング・デバイス、植込形の除細動器、等々のための電気リード線である。この僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用するという方式は、大きな利点を提供し得るものであり、なぜならば、それらの電気リード線は、一般的に、僧帽弁形成術用デバイス90を挿入する体内経路と同一の体内経路に挿入されるからであり、即ち、その体内経路とは、通常の血管アクセス部位(例えば左鎖骨下静脈25など)からAIV60へ至る体内経路である。
【0106】
その具体例を挙げるならば、無論これに限定されるものではないが、本発明の1つの好適な実施の形態では、先ず、1本または複数本の電気リード線を、冠状静脈洞を通過させて、また更にAIVを通過させて、その先の適当な生体組織にまで挿入するようにしている。次にガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中まで挿入する。ただしこれとは逆に、先にガイドワイヤ110を冠状静脈洞の中まで挿入し、その後に1本または複数本の電気リード線を挿入するようにしてもよい。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90を、それらガイドワイヤ及び電気リード線に装着する。その際には、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205にガイドワイヤの基端部を挿入し、また、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205に(または、互いに位置合せされた補助ルーメンのペア175、210などのその他のルーメンに)電気リード線を挿入する。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をそれらガイドワイヤ及び電気リード線に沿わせて末端側へ進めて行く。僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に定位したならば、先に説明したようにして、直線度増強ロッド180を挿入する。
【0107】
このような場合を示した具体例として、図39には、僧帽弁形成術用デバイスの末端部から延出した電気リード線600が示されている。
【0108】
また別法として、本発明の別の実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイスを冠状静脈洞の中の目標位置まで案内するのに、ガイドワイヤの替わりに電気リード線を使用し、ガイドワイヤは使用しないようにしている。より詳しくは、本発明のこの実施の形態では、最初に1本または複数本の電気リード線を、冠状静脈洞を通過させて、更にAIVを通過させて、その先の適当な生体組織にまで挿入するようにしている。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をその電気リード線に装着する。その際には、互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205に(または、互いに位置合せされた補助ルーメンのペア175、210などのその他のルーメンに)電気リード線を挿入する。続いて、僧帽弁形成術用デバイス90をその電気リード線に沿わせて末端側へ進めて行く。僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞の中の適切な位置に定位したならば、先に説明したようにして、直線度増強ロッド180を挿入する。
【0109】
当然のことながら、1本または複数本の電気リード線を挿通しようとするルーメンが、他の用途に使用するために必要なルーメン(例えば、直線度増強ロッドを挿入するために必要とされる互いに位置合せされた主機能ルーメンのペア170、205)である場合には、僧帽弁形成術用デバイスに、予めより多くのルーメンを形成しておくようにするとよい。更に、電気リード線と直線度増強ロッドの両方を、同一のルーメンの中に収容しなければならない場合には、直線度増強ロッドそれ自体にルーメンを形成しておき、電気リード線をその直線度増強ロッドのルーメンに挿通することによって、直線度増強ロッドと電気リード線とを同心的に配置するようにしてもよい。
【0110】
本発明の更に別の好適な実施の形態においては、1本または複数本の電気リード線を、先に体内に定位した僧帽弁形成術用デバイスを通過させて挿入するようにしている。より詳しくは、本発明のこの実施の形態では、僧帽弁形成術用デバイスを冠状静脈洞の中に定位した後に、1本または複数本の電気リード線をその僧帽弁形成術用デバイスのルーメンの中に挿通し、その僧帽弁形成術用デバイスの末端から延出させて、適当な生体組織に到達させるようにしている。尚、本発明のこの実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイス90を冠状静脈洞にデリバリーするには、ガイドワイヤに沿わせて挿入するようにしてもよく、また、先に述べたようにスタイレット・デリバリー方式で挿入するようにしてもよい。
【0111】
本発明の更に別の実施の形態においては、1本または複数本の電気リード線を僧帽弁形成術用デバイスに「ビルト・イン」するなどして、プリ・インストールするようにしている。このような構成においては、患者の体内に僧帽弁形成術用デバイスと電気リード線とを同時に挿入することになる。
【0112】
当業者であれば、本開示に基づいて、この新規な僧帽弁形成術用デバイスを電気リード線と共に使用する際のその他の使用法にも想到するのは当然のことである。
【0113】
変更例
本発明の本質を明らかにするために、以上に、具体的な構成、材料、手順、及び部品の組合せ方について説明しまた例示したが、それらに対して施し得る、本発明の原理及び範囲に含まれる多種多様な変更を、当業者であればなし得ることは当然であり、本発明の範囲は特許請求の範囲の記載により明示した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】ヒトの血管系を部分的に示した模式図である。
【図2】ヒトの心臓を部分的に示した模式図である。
【図3】患者の体内に挿入した状態にある新規な僧帽弁形成術用デバイスを示した模式図である。
【図4】僧帽弁形成術用デバイスの1つの好適な構成例を示した模式図である。
【図5】図4の5−5線に沿った断面図である。
【図6】図4の6−6線に沿った断面図である。
【図7】1直線度増強ロッドの1つの形態を示した模式図である。
【図8】直線度増強ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図9】直線度増強ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図10】別の形態の直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図10A】別の形態の直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図11】図4の11−11線に沿った断面図である。
【図12】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図13】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図14】僧帽弁形成術用デバイスを使用して僧帽弁逆流を軽減するための使用法を例示した図である。
【図14A】複数種類の直線度増強ロッドを取り揃えたキットによって広範な範囲に亘る様々な大きさの直線度増強力を提供できることを例示した模式図である。
【図14B】冠状静脈洞の形状を直線形状に近付けて僧帽弁逆流を軽減するにつれて僧帽弁形成術用デバイスが生体組織を傷つけるおそれのない状態で生体組織に対して相対的に摺動することを説明するための模式図である。
【図15】補助直線度増強ロッドを示した模式図である。
【図16】直線度増強ロッドの可撓性勾配と補助直線度増強ロッドの可撓性勾配とに逆相関関係を持たせることを説明するための模式図である。
【図17】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの1つの形態を示した模式図である。
【図18】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図19】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図20】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図21】直線度増強ロッドを植込部材の中に挿入するためのプッシュ・ロッドの別の1つの形態を示した模式図である。
【図22】植込部材をカテーテル・シャフトに切り離し可能に連結する方法の1つの好適例を示した模式図である。
【図23】接続糸を植込部材から分離する方法の一例を示した模式図である。
【図24】ロッド径、断面、ピーク剛性、及びピーク応力の間の関係を示した模式図である。
【図25】閉じた流路を画成するために複数本のルーメンをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図26】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図27】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図28】長手方向位置によって断面形状が変化する僧帽弁形成術用デバイスのトリートメント・セクションをどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図29】生体組織の内方成長を促進することによってデバイスの安定性を増強するために僧帽弁形成術用デバイスの外周面をどのように形成すればよいかを例示した模式図である。
【図30】本発明の別の実施の形態を示した模式図であり、この実施の形態においては、僧帽弁形成術用デバイスが「単一ユニット」構造を有しており、また、植込処置が完了したならば僧帽弁形成術用デバイスの基端部を患者の胸部の皮下に形成した「ポケット」の中に収容するようにした実施の形態である。
【図31】図30の僧帽弁形成術用デバイスの基端部を皮下ポケットの中に収容する前にその基端部に被着するキャップを例示した模式図である。
【図32】僧帽弁形成術用デバイスの別の好適例を示した図である。
【図33】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図34】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図35】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図36】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図37】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図38】図32の僧帽弁形成術用デバイスを示した別の図である。
【図39】僧帽弁形成術用デバイスの末端部から延出した電気リード線を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
僧帽弁逆流を軽減するアセンブリにおいて、
細長キャリア部材を備え、該細長キャリア部材は、冠状静脈洞に挿入されたときに冠状静脈洞の形状に略々沿った第1の形状を呈し、且つ、第1の形状と比べてより直線形状に近い形状となるように付勢されたならば、より直線形状に近い形状である第2の形状を呈するように、十分に大きな可撓性を有する材料から成るものであり、該細長キャリア部材はその長手方向に貫通延在する複数本のルーメンを有しており、
前記ルーメンに挿入可能な複数本の直線度増強ロッドを備え、該複数本の直線度増強ロッドの各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織の剛性と比べてより大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べてより直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、前記キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で前記ルーメンに前記直線度増強ロッドを挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしてあり、
前記複数本のルーメンのうちの少なくとも1本のルーメンが、電気リード線を挿通可能な寸法とされている、
ことを特徴とするアセンブリ。
【請求項2】
前記キャリア部材は、その少なくとも一部分において円形の断面形状を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記キャリア部材は、その少なくとも一部分において卵形の断面形状を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記直線度増強ロッドは、その長手方向位置によって異なる大きさの剛性が付与されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記直線度増強ロッドは、剛性の大きさが異なる複数本のロッドを取り揃えたキットから選択されるものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記直線度増強ロッドは、長さが異なる複数本のロッドを取り揃えたキットから選択されるものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項7】
ガイドワイヤを更に備え、前記キャリア部材が更に、該ガイドワイヤが移動可能に挿通される開口を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記開口は、前記複数本のルーメンのうちの1本であることを特徴とする請求項7記載のアセンブリ。
【請求項9】
前記複数本のルーメンは、それらの径が異なることを特徴とする請求項8記載のアセンブリ。
【請求項10】
第1の直線度増強ロッドの剛性の大きさが、第2の直線度増強ロッドの剛性の大きさと異なることを特徴とする請求項8記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記第1の直線度増強ロッドのその少なくとも一部分における剛性の大きさと、前記第2の直線度増強ロッドのその少なくとも一部分における剛性の大きさとが、逆相関関係にあることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記キャリア部材を拘束するためのシースを更に備え、該シースは前記キャリア部材から除去可能であることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記シースは、前記キャリア部材を拘束して、該キャリア部材が第1の断面形状を呈するようにするものであり、前記シースを除去したならば、前記キャリア部材が解放されて該キャリア部材が第2の断面形状を呈するようにしてあることを特徴とする請求項12記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記直線度増強ロッドは、無応力状態において、実質的に直線形状を呈するものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項15】
前記直線度増強ロッドは、冠状静脈洞に挿入されたならば、実質的に彎曲形状を呈するものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項16】
前記直線度増強ロッドは、中間部によって一体に接続された第1端部及び第2端部を有しており、前記中間部は、中央領域によって一体に接続された第1領域及び第2領域を有しており、前記中央領域及び前記第1端部及び前記第2端部は、前記細長部材が冠状静脈洞に挿入されたならば、実質的に彎曲形状となり、更に、前記第1領域及び前記第2領域は、前記細長部材が冠状静脈洞に挿入された後に、略々直線形状を呈することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項17】
前記第1領域及び前記第2領域は前記中央領域よりも剛性が大きく、前記中央領域は前記第1端部及び前記第2端部よりも剛性が大きいことを特徴とする請求項16記載のアセンブリ。
【請求項18】
前記細長部材が、冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の略々近傍の部分の壁面には前向きの力を作用させ、且つ、冠状静脈洞のうちの僧帽弁交連の略々近傍の部分の壁面には後向きの力を作用させるように、前記中央領域、前記第1端部、前記第2端部、前記第1領域、及び前記第2領域の夫々の長さが定められていることを特徴とする請求項16記載のアセンブリ。
【請求項19】
前記直線度増強ロッドは、その少なくとも一部分が弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項20】
前記直線度増強ロッドは、長期間に亘って連続的に僧帽弁をリモデルする作用を及ぼし続けることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項21】
前記直線度増強ロッドは、その少なくとも一部分が超弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項22】
安定化スカホールドを更に備え、該安定化スカホールドは、前記細長キャリア部材に係合することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項23】
前記細長キャリア部材の少なくとも一部分が、生体組織の内方成長を促進する構造とされていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項24】
ルーメンの中を貫通して延在する電気リード線を更に備えることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項25】
前記細長キャリア部材が患者の体内に定位される前に前記電気リード線が前記ルーメンの中に挿通されることを特徴とする請求項24記載のアセンブリ。
【請求項26】
前記細長キャリア部材が患者の体内に定位された後に前記電気リード線が前記ルーメンの中に挿通されることを特徴とする請求項24記載のアセンブリ。
【請求項27】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、且つ、患者の血管系を介してガイドワイヤを挿入して該ガイドワイヤの末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤの外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項28】
前記電気リード線を患者の冠状静脈洞の中に挿入した後に、前記ガイドワイヤを患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ガイドワイヤを患者の冠状静脈洞の中に挿入した後に、前記電気リード線を患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤを前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項31】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線の外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項32】
前記電気リード線を前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項33】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記キャリア部材の中を通して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項34】
可撓性を有する前記キャリア部材を、ガイドワイヤの外周に沿わせて患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
可撓性を有する前記キャリア部材を、スタイレット・デリバリー方式で患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記電気リード線を、前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項37】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成され、ルーメンの中に挿通された電気リード線を備えた、可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置すると共に前記電気リード線を心臓の生体組織に定位し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項38】
可撓性を有する前記キャリア部材を、ガイドワイヤの外周に沿わせて患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項39】
可撓性を有する前記キャリア部材を、スタイレット・デリバリー方式で患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記ガイドワイヤを、前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項38記載の方法。
【請求項1】
僧帽弁逆流を軽減するアセンブリにおいて、
細長キャリア部材を備え、該細長キャリア部材は、冠状静脈洞に挿入されたときに冠状静脈洞の形状に略々沿った第1の形状を呈し、且つ、第1の形状と比べてより直線形状に近い形状となるように付勢されたならば、より直線形状に近い形状である第2の形状を呈するように、十分に大きな可撓性を有する材料から成るものであり、該細長キャリア部材はその長手方向に貫通延在する複数本のルーメンを有しており、
前記ルーメンに挿入可能な複数本の直線度増強ロッドを備え、該複数本の直線度増強ロッドの各々は、
(1)僧帽弁後尖の周囲の生体組織の剛性と比べてより大きな剛性を有し、
(2)冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の近傍の部分の形状と比べてより直線形状に近い形状を有し、そして、
(3)冠状静脈洞の曲率半径に対して相対的に適切な長さを有する、
ように形成されており、それによって、前記キャリア部材を患者の冠状静脈洞の中の僧帽弁後尖の近傍に配置した状態で前記ルーメンに前記直線度増強ロッドを挿入したならば、その挿入した直線度増強ロッドが冠状静脈洞の壁面に直線度増強力を作用させることで、僧帽弁後尖の弁輪部が前方へ移動させられ、それによって弁尖の接合状態が改善され、もって僧帽弁逆流が軽減されるようにしてあり、
前記複数本のルーメンのうちの少なくとも1本のルーメンが、電気リード線を挿通可能な寸法とされている、
ことを特徴とするアセンブリ。
【請求項2】
前記キャリア部材は、その少なくとも一部分において円形の断面形状を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記キャリア部材は、その少なくとも一部分において卵形の断面形状を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記直線度増強ロッドは、その長手方向位置によって異なる大きさの剛性が付与されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記直線度増強ロッドは、剛性の大きさが異なる複数本のロッドを取り揃えたキットから選択されるものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記直線度増強ロッドは、長さが異なる複数本のロッドを取り揃えたキットから選択されるものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項7】
ガイドワイヤを更に備え、前記キャリア部材が更に、該ガイドワイヤが移動可能に挿通される開口を有することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記開口は、前記複数本のルーメンのうちの1本であることを特徴とする請求項7記載のアセンブリ。
【請求項9】
前記複数本のルーメンは、それらの径が異なることを特徴とする請求項8記載のアセンブリ。
【請求項10】
第1の直線度増強ロッドの剛性の大きさが、第2の直線度増強ロッドの剛性の大きさと異なることを特徴とする請求項8記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記第1の直線度増強ロッドのその少なくとも一部分における剛性の大きさと、前記第2の直線度増強ロッドのその少なくとも一部分における剛性の大きさとが、逆相関関係にあることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記キャリア部材を拘束するためのシースを更に備え、該シースは前記キャリア部材から除去可能であることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記シースは、前記キャリア部材を拘束して、該キャリア部材が第1の断面形状を呈するようにするものであり、前記シースを除去したならば、前記キャリア部材が解放されて該キャリア部材が第2の断面形状を呈するようにしてあることを特徴とする請求項12記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記直線度増強ロッドは、無応力状態において、実質的に直線形状を呈するものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項15】
前記直線度増強ロッドは、冠状静脈洞に挿入されたならば、実質的に彎曲形状を呈するものであることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項16】
前記直線度増強ロッドは、中間部によって一体に接続された第1端部及び第2端部を有しており、前記中間部は、中央領域によって一体に接続された第1領域及び第2領域を有しており、前記中央領域及び前記第1端部及び前記第2端部は、前記細長部材が冠状静脈洞に挿入されたならば、実質的に彎曲形状となり、更に、前記第1領域及び前記第2領域は、前記細長部材が冠状静脈洞に挿入された後に、略々直線形状を呈することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項17】
前記第1領域及び前記第2領域は前記中央領域よりも剛性が大きく、前記中央領域は前記第1端部及び前記第2端部よりも剛性が大きいことを特徴とする請求項16記載のアセンブリ。
【請求項18】
前記細長部材が、冠状静脈洞のうちの僧帽弁後尖の略々近傍の部分の壁面には前向きの力を作用させ、且つ、冠状静脈洞のうちの僧帽弁交連の略々近傍の部分の壁面には後向きの力を作用させるように、前記中央領域、前記第1端部、前記第2端部、前記第1領域、及び前記第2領域の夫々の長さが定められていることを特徴とする請求項16記載のアセンブリ。
【請求項19】
前記直線度増強ロッドは、その少なくとも一部分が弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項20】
前記直線度増強ロッドは、長期間に亘って連続的に僧帽弁をリモデルする作用を及ぼし続けることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項21】
前記直線度増強ロッドは、その少なくとも一部分が超弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項22】
安定化スカホールドを更に備え、該安定化スカホールドは、前記細長キャリア部材に係合することを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項23】
前記細長キャリア部材の少なくとも一部分が、生体組織の内方成長を促進する構造とされていることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項24】
ルーメンの中を貫通して延在する電気リード線を更に備えることを特徴とする請求項1記載のアセンブリ。
【請求項25】
前記細長キャリア部材が患者の体内に定位される前に前記電気リード線が前記ルーメンの中に挿通されることを特徴とする請求項24記載のアセンブリ。
【請求項26】
前記細長キャリア部材が患者の体内に定位された後に前記電気リード線が前記ルーメンの中に挿通されることを特徴とする請求項24記載のアセンブリ。
【請求項27】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、且つ、患者の血管系を介してガイドワイヤを挿入して該ガイドワイヤの末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤの外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項28】
前記電気リード線を患者の冠状静脈洞の中に挿入した後に、前記ガイドワイヤを患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ガイドワイヤを患者の冠状静脈洞の中に挿入した後に、前記電気リード線を患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記電気リード線及び前記ガイドワイヤを前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項31】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記電気リード線の外周に沿わせて前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項32】
前記電気リード線を前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項33】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成された可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
前記キャリア部材の中を通して電気リード線を挿入して該電気リード線の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項34】
可撓性を有する前記キャリア部材を、ガイドワイヤの外周に沿わせて患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
可撓性を有する前記キャリア部材を、スタイレット・デリバリー方式で患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記電気リード線を、前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項37】
僧帽弁逆流を軽減する方法において、
長手方向に貫通して延在する複数本のルーメンが形成され、ルーメンの中に挿通された電気リード線を備えた、可撓性を有するキャリア部材を用意し、
患者の血管系を介して前記キャリア部材を挿入して該キャリア部材の末端部を患者の冠状静脈洞の中に配置すると共に前記電気リード線を心臓の生体組織に定位し、
複数本の直線度増強ロッドを前記複数本のルーメンの中に挿入し、前記キャリア部材に直線度増強力を作用させることにより冠状静脈洞に直線度増強力を作用させ、それによって僧帽弁の弁輪を前方へ移動させ、もって僧帽弁逆流を軽減する、
ことを特徴とする方法。
【請求項38】
可撓性を有する前記キャリア部材を、ガイドワイヤの外周に沿わせて患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項39】
可撓性を有する前記キャリア部材を、スタイレット・デリバリー方式で患者の冠状静脈洞の中に挿入することを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記ガイドワイヤを、前記ルーメンの中に挿通することを特徴とする請求項38記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図10A】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図10A】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公表番号】特表2008−521501(P2008−521501A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543495(P2007−543495)
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/042619
【国際公開番号】WO2006/058163
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(505177162)ビアカー・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/042619
【国際公開番号】WO2006/058163
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(505177162)ビアカー・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
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