説明

充填用ペースト及びペースト充填方法

【課題】プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴が微細またはアスペクト比が大きな場合であっても充填効率良く且つ安定してペーストを充填することができる充填用ペースト及びペースト充填方法を提供する。
【解決手段】プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴に充填するための充填用ペーストであって、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内にある。logY>−0.67logX+2.53かつlogY<−0.62logX+3.18。式中、Yは充填用ペーストの粘度[Pa・s]、Xは充填用ペーストの剪断速度[1/s]を表す。また、スキージ4を備える印刷装置Pを用い、最初の印刷動作における該スキージ4のアタック角度θを3〜18度とし、掃引速度を1〜30mm/sとして、上記充填用ペースト1の充填を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴に充填するための充填用ペースト及びペースト充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の配線密度の濃密化に伴い、両面プリント配線基板や複数の配線層を積層させた多層構造のプリント配線基板が使用されるようになっている。このような両面または多層構造のプリント配線基板には、スルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴が形成されている。スルーホールは上下の外層の配線層間を導通接続する際に用いる貫通穴であり、ブラインドバイアホールは内層の配線層間または内層と外層の配線層間を導通接続する際に用いる有底穴である。スルーホールやブラインドバイアホールによる上記配線層間の導通接続手段の一つとして、各ホールに導電性のペーストを充填するとともにそれを固化させて導電物質を形成する方法が用いられている。
【0003】
ペーストの充填は、例えばスクリーン印刷法により行う。すなわち、スルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴が設けられたプリント配線基板の表面にスクリーンを重ね、スクリーン表面に沿ってスキージを移動させてスクリーン上のペーストをスキージでこすり付けることによって、スクリーンの版膜でマスクされていない開口部にペーストを通すことで小径穴に充填する。
【0004】
このように、ペーストをスキージにより小径穴に充填するにあたり、導電性のペーストは金属フィラーを多く含んでいるため絶縁性のペーストよりも粘度が大きく、小径穴が微細な場合には入りにくい。そこで、特開2002−8444号公報に開示された発明のように、粘度を低下させる溶剤を含有したペーストを充填していた。
【0005】
【特許文献1】特開2002−8444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、粘度を低下させる溶剤を含有したペーストを用いる上記方法によると、スキージがペーストを押し込む力が四方八方に分散してしまい、プリント配線基板の微細穴に向かって集中しなくなる。その結果、特に深い小径穴、つまりアスペクト比が大きな小径穴への充填は不完全なものとなる。また、小径穴が更に微細になると、小径穴から空気が抜けにくくなり、したがってペーストの中に閉じこめられた空気も抜けにくく充分な導電性が得られないことがある。そこで、微細穴の空気を抜くと共に空気を捲き込まないように真空下で充填する方法が考えられた。ところが、上記溶剤を含有したペーストを真空下で充填すると、溶剤が揮発してペーストの特性が急激に変化するため真空下での印刷には好ましくない。
【0007】
電子機器の配線密度の濃密化がより一層進むなか、より微細なスルーホールやブラインドバイアホールが要望されている。本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴が微細またはアスペクト比が大きな場合であっても充填効率良く且つ安定してペーストを充填することができる充填用ペースト及びペースト充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、請求項1の発明は、プリント配線基板2に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴3に充填用ペースト1を充填するペースト充填方法であって、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内にある充填用ペースト1を、スキージ4を備える印刷装置Pを用い、最初の印刷動作における該スキージ4のアタック角度θを3〜18度とし、掃引速度を1〜30mm/sとして充填する。
logY>−0.67logX+2.53
かつ
logY<−0.62logX+3.18
式中、Yは充填用ペースト1の粘度[Pa・s]、Xは充填用ペースト1の剪断速度[1/s]を表す。
【0009】
請求項2の発明では、前記充填用ペースト1は、流動特性が非ニュートン性を示すとともに、下記式で定義されるチキソトロピー指数が1.5以上である。
チキソトロピー指数=(剪断速度40[1/s]での粘度)/(剪断速度100[1/s]での粘度)
請求項1及び請求項2の発明によると、例えば図1の印刷装置1において、最初の印刷動作における該スキージ4のアタック角度θを3〜18度とし、掃引速度を1〜30mm/sとすることにより、スキージ4がマスク6を介してプリント配線基板2に接する部分付近11では、充填用ペースト1の剪断速度は大きく粘度は小さい。このため小径穴3が微細であっても充填用ペースト1は容易に入る。また、スキージ4の前方部分がペースト1と接する部分付近12では、充填用ペースト1の剪断速度は小さく粘度は大きい。スキージ前方のペースト粘度が大きいのでスキージ4による押込み力は、四方八方に分散することなく、プリント配線基板2に向かって集中する。このため小径穴3のアスペクト比が大きな場合であっても充填用ペースト1の充填性が良い。
【0010】
請求項3の発明では、前記充填用ペースト1は、角周波数ω=0.65[rad/s]以下の動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)が1.2〜2.5である。請求項3の発明によると、小径穴3の上面において充填用ペースト1の表面が平坦となり窪みや凹凸が生じない。
【0011】
請求項4の発明では、前記充填用ペースト1は、室温から硬化温度まで上昇させたとき、発生するガス量が200wtPPM以下である。請求項4の発明によると、充填用ペースト1自体から発生する気泡が少なく充填効率が良い。
請求項5の発明は、プリント配線基板2に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴3に充填するための充填用ペースト1であって、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内にある。
logY>−0.67logX+2.53
かつ
logY<−0.62logX+3.18
式中、Yは充填用ペースト1の粘度[Pa・s]、Xは充填用ペースト1の剪断速度[1/s]を表す。
【0012】
請求項6の発明では、前記充填用ペースト1は、流動特性が非ニュートン性を示すとともに、下記式で定義されるチキソトロピー指数が1.5以上である。
チキソトロピー指数=(剪断速度40[1/s]での粘度)/(剪断速度100[1/s]での粘度)。請求項7の発明では、前記充填用ペースト1は、角周波数ω=0.65[rad/s]以下の動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)が1.2〜2.5である。請求項8の発明では、前記充填用ペースト1は、室温から硬化温度まで上昇させたとき、発生するガス量が200wtPPM以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴が微細またはアスペクト比が大きな場合であっても充填効率良く且つ安定してペーストを充填することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は真空印刷装置Pを示す概略図、図2はスルーホール3に充填されたペースト1の充填状態を示す図である。
【0015】
本発明の発明者らは、真空印刷装置Pにより、特性の異なる6種類のペースト1A〜1Fをそれぞれ別々のスルーホール3に充填する実験を行い、スルーホール3やブラインドバイアホール等の小径穴への充填に好適なペーストに関する諸データを得た。
【0016】
図1において、真空印刷装置Pは、第1スキージ4、第2スキージ5、マスク6、及び図示しない真空チャンバーなどを備え、プリント配線基板2に形成されたスルーホール3にペースト1を充填する。
【0017】
第1スキージ4は、材質が硬度80度のウレタン樹脂からなり、その幅は200mm、厚さ4Tは20mmである。第2スキージ5は、材質がナイロンからなり、その幅は200mm、厚さ5Tは10mmである。マスク6は、金属を材質とし開口部61を備えたメタルマスクであり、マスク6上に供給されたペースト1を、第1スキージ4及び第2スキージ5の印圧によりこの開口部からプリント配線基板2の表面に向けて押し込む。スルーホール3の穴径は0.2mm、深さは1.6mmである。
【0018】
上記実験は次の要領で行った。すなわち真空チャンバー内において、まず、真空圧力が40Paの下で第1スキージ4により、印圧を4kgf、アタック角度θを3°〜15°、及び掃引速度(スキージ速度)を1〜30m/sとしてX1方向に往路印刷(最初の印刷動作)を行う。次に、真空圧力が90000Paの下で第2スキージ5により、印圧を0.8kgf、アタック角度θを45°、及び掃引速度を5〜15m/sとしてX2方向に復路印刷を行う。
【0019】
このように2つの異なる圧力下で2段階に亘って充填する、いわゆる差圧充填を行った結果、ペースト1Dは良好に充填できた。すなわちペースト1Dは、スルーホール3の上面において表面が平坦となり且つスルーホール3内に過不足なく充填できた。ペースト1B,1Eは、図2(B)のようにスルーホール3内への充填が不十分ながらも表面は平坦となり良好であった。充填が不十分な点については、複数回の印刷動作を行うことにより最終的にはペースト1Dと同様に問題なく充填できた。なお、ペースト1Bでは穴径50μm、深さ60μmの半導体ウエハのスルーホールへの充填にも成功している。
【0020】
ペースト1A,1Fは、図2(A)のように、スルーホール3の軸芯部においてペースト1A,1Fが引出されたような窪みを生じた。ペースト1Cは、図2(C)のように、スルーホール3の上面において表面に凹凸があり、あたかもペースト1Cが引き千切られたかのような現象が見られた。
【0021】
次に上記6種類のペースト1A〜1Fの各特性について開示する。図3,4は6種類のペースト1A〜1Fにおける粘度−剪断速度特性を示すグラフ、図5は6種類のペースト1A〜1Fを角周波数ωの動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)を示すグラフ、図6は6種類のペースト1A〜1Fをそれぞれ3通りの剪断速度比で測定したときのチキソトロピー指数を示すグラフである。
【0022】
図3,4に示すように、良好に充填できるペースト1B,1D,1Eに共通の特性は、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内(図3,4の斜線部分)にある。なお、図3は昇速時の11水準(測定点)、図4は降速時の10水準についてのグラフである。
【0023】
logY>−0.67logX+2.53かつlogY<−0.62logX+3.18 式中、Yはペーストの粘度[Pa・s]、Xはペーストの剪断速度[1/s]を表す。
【0024】
また、ペースト1B,1D,1Eの流動特性は、非ニュートン性を示すとともに、図6の右側グラフのように、下記式で定義されるチキソトロピー指数が1.5以上である。
【0025】
チキソトロピー指数=(剪断速度40[1/s]での粘度)/(剪断速度100[1/s]での粘度)
以上の特性は回転粘度計法によって測定したものである。このときの測定条件を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
ここで、非ニュートン性とは、流速が速くなるほど粘度が低下する性質である。また、チキソトロピー指数とは、ペースト1のような粘性流体における異なる剪断速度に対する粘度比であり、この比が大きいほど力を加えると粘度が低下し流動性が増すという性質が強くなる。
【0028】
ペースト1B,1D,1Eの備えたチキソトロピー性により、充填時の作用は次のようになる。図1において、第1スキージ4が印刷動作をしたとき、第1スキージ4がマスク6を介してプリント配線基板2に接する部分付近11では、ペースト1の剪断速度は大きく粘度は小さい。このためスルーホール3が微細であってもペースト1B,1D,1Eは容易に入る。
【0029】
また、第1スキージ4の前方部分がペースト1と接する部分付近12では、ペースト1の剪断速度は小さく粘度は大きい。粘度が大きいので第1スキージ4による押込み力は、四方八方に分散することなく、プリント配線基板2に向かって集中する。このためスルーホール3のアスペクト比が大きな場合であってもペースト1の充填性が良い。なお、第2スキージ5についても第1スキージ4の場合と同様な作用を示す。
【0030】
更に、図5に示すように、角周波数ω=0.65(rad/s)以下の動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)が1.2〜2.5であることが好ましい。このときの測定条件を表2に示す。なお、角周波数ω=0.65(rad/s)以下というのは、ほとんど静止に近い状態である。
【0031】
【表2】

【0032】
上記tanδ(粘性/弾性)について、粘性の比率が大きいと、図2(A)のペースト1A,1Fのようにスルーホール3の軸芯部において窪みを生じる。反対に、弾性の比率が大きいと、図2(C)のペースト1Cのようにスルーホール3の上面において表面に凹凸が見られる現象が起きる。
【0033】
また、気泡を捲き込まないように真空下で印刷を行うが、ペースト1自体からの気泡の発生も少ないものであることが必要である。そのためには、ペーストの製造時にフィラーを分散させる等の処置により脱泡を行うことはもちろんであるが、ペースト1の成分構成が、高温硬化時にペースト1から気化するガスが少ないものであることが必要である。
【0034】
加熱硬化後に気泡の発生が見られたペースト1Fと、気泡の発生の見られなかったペースト1Dの硬化時に発生する気泡の発生量を表3に示す。この表から良好なペースト1Dは、He雰囲気の下、室温から硬化温度100°Cまで上昇させたとき、発生するガス量が200wtPPM以下である。
【0035】
【表3】

【0036】
上の実施の形態において、ペーストは導電性のものとしたが、絶縁性樹脂であっても同様な効果が期待できる。また、スルーホール3に代えてブラインドバイアホールであっても同様な効果が期待できる。また、印刷時にメタルマスクを介したが、スクリーンマスクを介すること、またはマスク類を介さずに基板に直接に印刷すること、または後工程で除去されるカバーフイルムを貼った基板に印刷することも可能であり、それらの場合も同様な効果が期待できる。本実施の形態においては真空印刷装置により真空下での印刷を行ったが大気圧下での印刷においても同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】真空印刷装置を示す概略図である。
【図2】スルーホールに充填されたペーストの充填状態を示す図である。
【図3】6種類のペーストにおける昇速時の粘度−剪断速度特性を示すグラフである。
【図4】6種類のペーストにおける降速時の粘度−剪断速度特性を示すグラフである。
【図5】6種類のペーストを角周波数ωの動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)を示すグラフである。
【図6】6種類のペーストをそれぞれ3通りの剪断速度比で測定したときのチキソトロピー指数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 ペースト(充填用ペースト)
2 プリント配線基板
3 スルーホール(小径穴)
4 第1スキージ(スキージ)
θ アタック角度
P 真空印刷装置(印刷装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴に充填用ペーストを充填するペースト充填方法であって、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内にある充填用ペーストを、スキージを備える印刷装置を用い、最初の印刷動作における該スキージのアタック角度を3〜18度とし、掃引速度を1〜30mm/sとして充填することを特徴とするペースト充填方法。
logY>−0.67logX+2.53
かつ
logY<−0.62logX+3.18
式中、Yは充填用ペーストの粘度[Pa・s]、Xは充填用ペーストの剪断速度[1/s]を表す。
【請求項2】
前記充填用ペーストは、流動特性が非ニュートン性を示すとともに、下記式で定義されるチキソトロピー指数が1.5以上である請求項1記載のペースト充填方法。
チキソトロピー指数=(剪断速度40[1/s]での粘度)/(剪断速度100[1/s]での粘度)
【請求項3】
前記充填用ペーストは、角周波数ω=0.65[rad/s]以下の動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)が1.2〜2.5である請求項1または請求項2記載のペースト充填方法。
【請求項4】
前記充填用ペーストは、室温から硬化温度まで上昇させたとき、発生するガス量が200wtPPM以下である請求項1から請求項3のいずれかに記載のペースト充填方法。
【請求項5】
プリント配線基板に形成されたスルーホールやブラインドバイアホール等の小径穴に充填するための充填用ペーストであって、粘度−剪断速度特性が下記式の範囲内にあることを特徴とする充填用ペースト。
logY>−0.67logX+2.53
かつ
logY<−0.62logX+3.18
式中、Yは充填用ペーストの粘度[Pa・s]、Xは充填用ペーストの剪断速度[1/s]を表す。
【請求項6】
前記充填用ペーストは、流動特性が非ニュートン性を示すとともに、下記式で定義されるチキソトロピー指数が1.5以上である請求項5記載の充填用ペースト。
チキソトロピー指数=(剪断速度40[1/s]での粘度)/(剪断速度100[1/s]での粘度)
【請求項7】
前記充填用ペーストは、角周波数ω=0.65[rad/s]以下の動的粘弾性法で測定したときのtanδ(粘性/弾性)が1.2〜2.5である請求項5または請求項6記載の充填用ペースト。
【請求項8】
前記充填用ペーストは、室温から硬化温度まで上昇させたとき、発生するガス量が200wtPPM以下である請求項5から請求項7のいずれかに記載の充填用ペースト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−12923(P2006−12923A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184178(P2004−184178)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】