説明

充水機能付きバタフライ弁

【課題】 充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる充水機能付きバタフライ弁を提供する。
【解決手段】 開栓操作時の回転方向における弁体の背面側に一対のディスクテール部が設けられ、両ディスクテール部に通水孔が形成され、弁体の開度と損失係数fvとの関係において、通水孔から充水する際に、弁体の開度の変化に対して損失係数fvがほぼ一定値となる横這い領域Rbが存在するバタフライ弁であって、通水孔から充水する際のバタフライ弁の上流側配管内の充水流速と、バタフライ弁の上流側の圧力水頭とが設定され、設定された充水流速と圧力水頭とによって適値の損失係数fvが決定され、横這い領域Rbが上記適値の損失係数fvとなるように、通水孔の総開口面積が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充水機能を備えたバタフライ弁に関し、配管への充水時に定流量で流体を供給するバルブの技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配管の敷設時における初期充水時および再充水時においては、急激な充水によって満管状態にするとウォーターハンマー等によって配管が破損することがあるので、配管の途中に設けたバタフライ弁を小開度に開栓して小流量で下流側の管路に充水していた。
【0003】
しかしながら、一般的なバタフライ弁は小開度における流量制御が困難であり、定流量供給することができず、充水開始から満管状態になるまでの必要時間を予め算出することは困難であった。
【0004】
この対策として、図4に示すように、バタフライ弁1を備えた主管2に充水用の副管3を設け、副管3の途中に副管弁4を設けたものがある。上記副管3の一端はバタフライ弁1の上流側の主管2に接続され、副管3の他端はバタフライ弁1の下流側の主管2に接続されている。
【0005】
これによると、充水時においては、バタフライ弁1を閉栓し、副管弁4を開栓することにより、主管2内の流体は、バタフライ弁1の上流側から副管3を通ってバタフライ弁1の下流側へ流れ、下流側の管路に小流量で充水される。尚、通常、規格等により、副管3の口径は主管2の口径の1/5に設定されており、したがって、副管3の流路断面積が主管2の流路断面積の1/25になっている。
【0006】
しかしながら上記のように副管3と副管弁4とを設けたものでは、配管設置に要するスペースが大きくなるといった問題があった。このような問題の対策として、図5〜図8に示すような充水機能付きバタフライ弁10を用いることが考えられる。
【0007】
すなわち、図8に示すように、バタフライ弁10の弁箱11は両側に上流側の配管21および下流側の配管22を接続するものである。また、図5に示すように、弁箱11の内部には弁体12を弁棒13の軸心13aの周りに回転自在に配置し、弁箱11の内周面には円環状をなす弁箱シール14を配置しており、弁体12は全閉位置Sにおいて周縁部が弁箱シール14に摺接する。弁体12は弁棒13を介した左右一対の弁体片12a、12bの各々にディスクテール部15a,15bを設けており、これら一対のディスクテール部15a,15bは開栓操作時の弁体12の回転方向Cにおける背面側に配置している。
【0008】
両ディスクテール部15a,15bはそれぞれ、弁体12の板面から立ち上がっており、弁箱シール14に摺接する球面状に湾曲した外周面を有している。両ディスクテール部15a,15bにはそれぞれ通水孔17を形成しており、通水孔17は一端がディスクテール部15a,15bの外周面に開口し、他端がディスクテール部15a,15bの裏面、つまり開栓操作時の弁体12の背面側に開口している。
【0009】
図6に示すように、開栓操作時に上流側に回動する弁体片12aに設けた一方のディスクテール部15aにおいて通水孔17はディスクテール部15aの外周面側の開口が流入口17aをなし、弁体12の背面側の開口が排出口17bをなす。また、開栓操作時に下流側に回動する弁体片12bに設けた他方のディスクテール部15bにおいて通水孔17は弁体12の背面側の開口が流入口17cをなし、ディスクテール部15bの外周面側の開口が排出口17dをなす。図7に示すように、通水孔17はその開口形状が弁体12の周方向に沿った長円形をなしている。尚、両通水孔17の総開口面積は、上記図4に示した副管3の流路断面積と同じになるように設定されており、すなわち、バタフライ弁10に接続された配管21,22の流路断面積の1/25になっている。
【0010】
尚、上記弁棒13の回転は、減速機とハンドル或いはモーター等で構成される開閉操作機で行われる。
これによると、充水時の操作の始めにおいて弁体12は図5に示すような全閉状態にあり、急激な充水によって配管が破損することを防止するためにバタフライ弁10を小開度に開栓して小流量で下流側配管に充水する。すなわち、図6に示すように、開栓操作によって弁体12を小開度(約15〜20%)に開栓し、ディスクテール部15a,15bの外周面を弁箱シール14に摺接させる状態において通水孔17を全開状態となす。
【0011】
弁体12の小開度における通水孔17の全開によって、弁体12を介した弁箱13の内部の上流側領域と下流側領域はディスクテール部15a,15bの通水孔17を通してのみ連通し、上流側の配管21から弁箱11に流入する水が通水孔17を通して下流側の配管22へ通水される。
【0012】
このとき、通水孔17を流れる流量は通水孔17の流路断面積等の流路形状に相応して予め定まっているので、定流量で下流側の配管22へ充水することができ、充水開始から満管状態になるまでの必要時間を予め算出することができる。
【0013】
尚、図2の二点鎖線で描いたグラフAは、上記従来の充水機能付きバタフライ弁10の弁体12の開度(%)と損失係数との関係を示している。開度が20%以下の範囲において、ディスクテール部15a,15bの外周面が弁箱シール14に摺接し、さらに、開度15〜20%の範囲において、通水孔17が全開状態となる。これによると、弁体12の開度が大きくなるに従って、グラフAが下向きに傾斜し、損失係数が低下するが、開度15〜20%の範囲においては、通水孔17が全開状態となるため、損失係数がほぼ一定値となる横這い領域Raが存在する。尚、上記充水時においては、開度20%以下で使用している。
【0014】
ここで、通水孔17から充水する際のバタフライ弁10の上流側の配管21内の充水流速をV(m/s)とし、バタフライ弁10の上流側の圧力水頭をH(m)とし、重力加速度をg(=9.8m/s)とすると、上記損失係数fvは下記の式1で求められる。

fv=H×2×g/V ・・・式1

例えば、水道管路に上記バタフライ弁10を設けた場合、充水時の充水流速Vは一般的に安全性を考慮して0.5m/sと設定され、水道管路の標準的な水理条件として、上流側の圧力水頭Hが100m(=9.8×10Pa)と設定され、この条件で上記式1から求められる損失係数fvは約8000(正確にはfv=7845)になる。したがって、0.5m/sの充水流速Vで充水するためには、上記図2のグラフAより、弁体12の開度を約10%に保つ必要がある。
【0015】
しかしながら、上記弁体12の開度は開閉操作機のバックラッシュ等によって変動し易く、上記弁体12の開度が10%から僅かにずれて変動した場合、この変動に対して損失係数fvが大きく変化するため、充水流速Vが0.5m/sから変動し、これにより充水流量も変動してしまうため、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間が、予め算出しておいた時間から、ずれてしまうといった問題がある。
【0016】
尚、上記のように弁体12に一対のディスクテール部15a,15bを設けた充水機能付きバタフライ弁は下記特許文献1,2に記載されている。
【特許文献1】特開2003−120829
【特許文献2】特開2004−218786
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる充水機能付きバタフライ弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本第1発明は、弁箱内に配置された弁箱シールと、弁棒の軸心周りに回転して全閉位置で弁箱シールに摺接する弁体と、開栓操作時の回転方向における弁体の背面側に設けられた一対のディスクテール部とを有し、上記ディスクテール部は弁箱シールに摺接する球面状に湾曲した外周面を有し、少なくともいずれか一方のディスクテール部に、一端が外周面に開口するとともに他端が弁体の上記背面側に開口する通水孔が形成され、弁体の開度と損失係数との関係において、通水孔から充水する際に、弁体の開度の変化に対して損失係数がほぼ一定値となる横這い領域が存在する充水機能付きバタフライ弁であって、上記通水孔から充水する際のバタフライ弁の上流側配管内の充水流速と、バタフライ弁の上流側の圧力水頭とが設定され、上記設定された充水流速と圧力水頭とによって適値の損失係数が決定され、上記横這い領域が上記適値の損失係数となるように、上記通水孔の総開口面積が設定されているものである。
【0019】
これによると、横這い領域が上記適値の損失係数となるため、充水時、弁体の開度を上記横這い領域に対応する所定の開度に保って充水することにより、設定された充水流速で充水される。この際、弁体の開度が上記所定の開度から僅かにずれて変動した場合であっても、上記開度の変動が横這い領域内に含まれていれさえすれば、これに対する損失係数の変化が小さくなるため、充水流速の変動も減少し、充水流量の変動が抑制されて安定する。これにより、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる。
【0020】
また、本第2発明は、充水流速が約0.5m/sに設定され、圧力水頭が約100mに設定され、この場合の適値の損失係数が約8000であるものである。
これによると、横這い領域が適値の損失係数約8000となるため、充水時、弁体の開度を上記横這い領域に対応する所定の開度に保って充水することにより、設定された充水流速約0.5m/sで充水される。
【0021】
この際、弁体の開度が上記所定の開度から僅かにずれて変動した場合であっても、上記開度の変動が横這い領域内に含まれていれさえすれば、これに対する損失係数(=約8000)の変化が小さくなるため、充水流速(=約0.5m/s)の変動も減少し、充水流量の変動が抑制されて安定する。これにより、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる。
【0022】
また、本第3発明は、通水孔は、一対のディスクテール部のうち、開栓操作時に上流側へ回動する一方のディスクテール部のみに形成されているものである。
これによると、充水時、上流側から通水孔を通過した流体は、弁体の背面側から下流側流路の中心方向へ流れるため、キャビテーションが防止される。また、通水孔を両方のディスクテール部にそれぞれ形成する場合に比べて、加工工数が減り、コストダウンができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本第1,第2発明によると、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる。
また、第3発明によると、キャビテーションを防止でき、加工工数を減らしてコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明における第1の実施の形態を図1,図2に基づいて説明する。尚、先述した従来のものと同一の部材については、同じ符号を付記して、その説明を省略する。
これによると、水道管路にバタフライ弁10を設けた場合、設定された充水流速V(=約0.5m/s)と圧力水頭H(=約100m)とにより、上記式1に基づいて、適値の損失係数fv(=約8000)が決定され、図2の実線で描いたグラフBに示すように、弁体12の開度と損失係数との関係における横這い領域Rbが上記適値の損失係数fv(=約8000)となるように、両通水孔17の総開口面積が設定されている。
【0025】
従来では、両通水孔17の総開口面積は、上記副管3の流路断面積と同じになるように、バタフライ弁10に接続された配管21,22の流路断面積の1/25にしており、この場合、図2のグラフAで示すように、横這い領域Raは損失係数fv=約2000の付近に位置している。これに対して本実施の形態では、両通水孔17の総開口面積を、従来の1/2、すなわちバタフライ弁10に接続された配管21,22の流路断面積の1/50にすることで、上記のように横這い領域Rbが適値の損失係数fv(=約8000)の付近まで上昇する。
【0026】
これによると、上記横這い領域Rbは開度約15〜20%に対応しており、図1に示すように、弁体12を開度約15〜20%内の所定の開度に保って充水することにより、バタフライ弁10の損失係数fvが適値の損失係数fv(=約8000)となり、設定された充水流速V(=約0.5m/s)で充水される。この際、弁体12を開度が上記所定の開度から僅かにずれて変動した場合であっても、上記開度の変動が横這い領域Rb内(すなわち開度15〜20%内)に含まれていれさえすれば、これに対する損失係数fv(=約8000)の変化が小さくなるため、充水流速V(=約0.5m/s)の変動も減少し、充水流量の変動が抑制されて安定する。これにより、充水開始から満管状態になるまでの実際の必要時間と予め算出しておいた時間とのずれを小さくすることができる。
【0027】
尚、圧力水頭Hを約100mよりも高い値に設定したり或いは充水流量を少なくしたい場合は、開度約15%以下で使用すればよい。
上記第1の実施の形態では、両方のディスクテール部15a,15bにそれぞれ1個ずつ通水孔17を形成しているが、複数個ずつ形成してもよい。
【0028】
上記第1の実施の形態では、通水孔17が両ディスクテール部15a,15bにそれぞれに形成されているが、次に説明する第2の実施の形態においては、図3に示すように、通水孔17は、一対のディスクテール部15a,15bのうち、開栓操作時に上流側へ回動する一方のディスクテール部15aのみに形成されている。尚、この場合も、第1の実施の形態と同様に、通水孔17の総開口面積を、従来の1/2、すなわちバタフライ弁10に接続された配管21,22の流路断面積の1/50としている。
【0029】
これによると、弁体12を開度約15〜20%内の所定の開度に保って充水している時、上流側から通水孔17を通過した水(流体)は、弁体12の背面側から下流側流路の中心方向へ流れるため、キャビテーションが防止される。また、先の第1の実施の形態のように通水孔17を両方のディスクテール部15a,15bにそれぞれ形成する場合に比べて、加工工数が減り、コストダウンができる。
【0030】
上記第2の実施の形態では、一方のディスクテール部15aのみに1個の通水孔17を形成しているが、複数個形成してもよい。
上記第2の実施の形態では、一方のディスクテール部15aのみに通水孔17を形成しているが、他方のディスクテール部15bのみに1個又は複数個の通水孔17を形成してもよい。
【0031】
さらに、上記各実施の形態では、通水孔17を長円形に形成しているが、それ以外の形状、例えば真円形や多角形に形成してもよい。
また、上記各実施の形態では、水道管路の標準的な水理条件として、充水流速Vを約0.5m/s、圧力水頭Hを約100mに設定し、これら両数値に基づいて適値の損失係数fvを約8000に決定しているが、これらの数値は一例であり、これらに限定されるものではない。また、通水孔17の総開口面積を配管21,22の流路断面積のほぼ1/50に設定しているが、これ以外の数値に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態における充水機能付きバタフライ弁の弁棒の軸心に直交する断面図である。
【図2】同、第1の実施の形態における充水機能付きバタフライ弁ならびに従来の充水機能付きバタフライ弁の開度と損失係数との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の実施の形態における充水機能付きバタフライ弁の弁棒の軸心に直交する断面図である。
【図4】従来の副管と副管弁とを用いた充水機構の図である。
【図5】従来の充水機能付きバタフライ弁の弁棒の軸心に直交する断面図であり、弁体を全閉位置にした状態を示す。
【図6】同、充水機能付きバタフライ弁の弁棒の軸心に直交する断面図であり、弁体を小開度開いて充水を行っている状態を示す。
【図7】同、充水機能付きバタフライ弁の弁体の斜視図である。
【図8】同、充水機能付きバタフライ弁の側面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 充水機能付きバタフライ弁
11 弁箱
12 弁体
13 弁棒
13a 軸心
14 弁箱シール
15a,15b ディスクテール部
17 通水孔
21 上流側の配管
C 開栓操作時の回転方向
Rb 横這い領域
S 全閉位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱内に配置された弁箱シールと、弁棒の軸心周りに回転して全閉位置で弁箱シールに摺接する弁体と、開栓操作時の回転方向における弁体の背面側に設けられた一対のディスクテール部とを有し、
上記ディスクテール部は弁箱シールに摺接する球面状に湾曲した外周面を有し、
少なくともいずれか一方のディスクテール部に、一端が外周面に開口するとともに他端が弁体の上記背面側に開口する通水孔が形成され、
弁体の開度と損失係数との関係において、通水孔から充水する際に、弁体の開度の変化に対して損失係数がほぼ一定値となる横這い領域が存在する充水機能付きバタフライ弁であって、
上記通水孔から充水する際のバタフライ弁の上流側配管内の充水流速と、バタフライ弁の上流側の圧力水頭とが設定され、
上記設定された充水流速と圧力水頭とによって適値の損失係数が決定され、
上記横這い領域が上記適値の損失係数となるように、上記通水孔の総開口面積が設定されていることを特徴とする充水機能付きバタフライ弁。
【請求項2】
充水流速が約0.5m/sに設定され、圧力水頭が約100mに設定され、この場合の適値の損失係数が約8000であることを特徴とする請求項1記載の充水機能付きバタフライ弁。
【請求項3】
通水孔は、一対のディスクテール部のうち、開栓操作時に上流側へ回動する一方のディスクテール部のみに形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の充水機能付きバタフライ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−234071(P2006−234071A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49830(P2005−49830)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】