説明

光ケーブル

【課題】簡易な構成で解体時に粗巻き紐を確実且つ短時間に切断除去できるようにする。
【解決手段】光ケーブルは、溝付きスペーサ2の溝2a内に光ファイバ心線4を収納し、スペーサ2の外周に粗巻き紐8、押え巻きテープ6、及びケーブル外被7を順に施してなる。そして粗巻き紐8は、80〜140℃の融点を有する複数の第1の繊維と、220℃以上の融点を有する複数の第2の繊維とが合糸された繊維束からなり、粗巻き紐8の第1の繊維が押え巻きテープ6と接着されている。これら第1の繊維及び第2の繊維は、互いに融点の異なるポリアミド樹脂を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝付きスペーサの溝内に多数本の光ファイバ心線を収納し、スペーサの外周に粗巻き紐、押え巻きテープ、ケーブル外被を順次施してなる光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ケーブルを用いた大容量高速ネットワークの構築が進むなか、一方では、使用済み光ケーブルの廃棄量増大により、地球環境保護と資源の有効利用の観点から、光ケーブルのリサイクルに対する対応が求められている。光ケーブルのリサイクルを実施するに当たって、リサイクルコストやリサイクル品の品質、また、リサイクルを考慮した光ケーブルに関して、今までにも種々の提案がなされている。
【0003】
代表的な光ケーブルとしては、溝付きスペーサの溝内に単心又はテープ状の光ファイバ心線を収納し、この外周に止水又は外被成形時の熱絶縁のための押え巻きテープを螺旋巻きあるいは縦添えで施し、その外側をケーブル外被で覆った構造のものがある。この光ケーブルのリサイクルでは、ケーブル外被又はスペーサの樹脂材料(通常、ポリエチレン)が対象とされる。
【0004】
図3は、従来技術による溝付きスペーサを用いた光ケーブルの一例を示す図である。従来の光ケーブル1は、中心にテンションメンバ3を埋設一体化し、複数の溝2aを設けた樹脂材料からなるスペーサ2により構成される。スペーサ2の溝2aは螺旋状又はSZ状に形成され、溝2a内には複数本の光ファイバ心線又はテープ状の光ファイバ心線4を集線して収納する。光ケーブル1の製造過程で、光ファイバ心線4を溝2a内に収納した直後、溝2aから光ファイバ心線4が脱落する(特に、SZ状溝を有するSZスペーサの場合)のを防止するために、粗巻き紐5がスペーサ2の外周に螺旋状に巻き付けられる。粗巻き紐5としては、テープ状のものも含まれる。
【0005】
粗巻き紐5が施されたスペーサ2の外周には、光ケーブル内への止水又は外被成形時の熱絶縁のための押え巻きテープ6が螺旋巻きあるいは縦添えで施され、その外側がケーブル外被7で被覆されて光ケーブル1となる。なお、螺旋溝を有するスペーサの場合は、粗巻き紐5を用いずに押え巻きテープ6で光ファイバ心線の脱落を防止することも可能であるが、SZ溝を有するスペーサの場合は、光ファイバ心線の脱落防止のために複数本の光ファイバ心線4を集線してスペーサ2の溝2aに収納すると同時に、押え巻きテープ6を施すのは難しく製造線速を遅くする必要などがある。このため、通常は、SZスペーサを用いる場合、複数本の光ファイバ心線4を収納する地点近くで、巻き付けが容易な繊維束からなる粗巻き紐5で光ファイバ心線4の脱落を防止してから、押え巻きテープ6を施している。粗巻き紐5としては、ナイロン等の汎用の繊維束が一般的に用いられ、その太さは例えば1260デニール程度である。
【0006】
上述した光ケーブル1をリサイクルする場合の解体方法としては、例えば、ケーブル外被7に長手方向にカッターで切り込みを入れ、ケーブル外被7を除去、回収した後、ケーブルコアの外面にカッターで切り込みを入れて、押え巻きテープ6、粗巻き紐5を切り屑にし、ダイス等でしごいてこの切りくずを除去する。こうして得られたスペーサ2から光ファイバを取り出した後、所定のテンションメンバ剥離手段を用いてスペーサ2からテンションメンバ3を分離し、スペーサ材を回収する。
【0007】
上述のリサイクル処理時の押え巻き除去において、押え巻きテープ6と粗巻き紐5に対してカッターによる切り込みが入れられる。このとき、押え巻きテープ6は幅広テープでかつスペーサ2との間の摩擦がある程度大きいのでカッター等で長手方向に切断するのは可能であるが、粗巻き紐5が切断されずに残ってしまうことがある。この理由としては、カッターがスペーサ2のリブ部にある粗巻き紐5に当たる場合は、リブ部が壁となって粗巻き紐5が逃げないために比較的切断しやすいが、スペーサの溝2aを跨ぐ粗巻き紐5は、カッターに対して逃げるため切断されないことがある。
【0008】
また、端部が切断された粗巻き紐5は張力が開放された状態になって緩むため、カッターが当たっても切断されずにスペーサ2の長手方向に逃げてしまうことがある。さらに、切断後の粗巻き紐5が、繊維屑となって溜まり、絡まって押え巻きテープ6の切断を妨げたり、スペーサ2に絡みついたり、ダイスの通し穴を塞ぐなど作業性が悪いという問題があった。
【0009】
このような問題を解消するための技術として、例えば、特許文献1には、光ファイバ心線を溝内に収納した溝付スペーサの外周に粗巻き紐、押え巻きテープ、及びケーブル外被を順に施してなる光ケーブルにおいて、粗巻き紐が押え巻きテープと接着されている構成が開示されている。粗巻き紐と押え巻きテープとが接着されていることにより、粗巻き紐を押え巻きテープとともに確実に切断することができる。また、切断後の粗巻き紐は、押え巻きテープと一体になって除去できるので、切断屑となってスペーサ等に絡みつくことがなく、ケーブルの解体性を効率良く、より短時間で行うことができる。
【0010】
上記の特許文献1では、粗巻き紐と押え巻きテープとの接着構造を得るために、押え巻きテープと熱融着する接着層を粗巻き紐に設けている。また、他の例では、粗巻き紐をテープ形状とし、テープ状の粗巻き紐が押え巻きテープと接する面側に接着層を設けている。つまり、粗巻き紐を基材層と接着層の2層構成にして、接着層によって押え巻きテープとの接着構成を得るとともに、基材層によって機械的強度を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−139635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1に記載の光ケーブルのように、基材層と接着層との2層構成で粗巻き紐を形成することにより、粗巻き紐と押え巻きテープとを接着させて一体化させることができる。これにより、粗巻き紐を押え巻きテープとともに確実に切断することができ、光ケーブルの解体作業を効率よく行うことができるようになる。
ここで上記のような2層構造の粗巻き紐を用いる場合には、基材層となる構造体を成型加工する工程と、基材層に対して接着層を被覆もしくは貼り合わせる工程とが必要となるため、工程が複雑になるとともにコストも増大する。2層構造を用いない粗巻き紐によって押え巻きテープとの接着構成を得ることができれば、簡易な製造工程で良好な解体作業性が得られる光ケーブルを提供することができる。
【0013】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、多数本の光ファイバ心線を収納した溝付きスペーサの外周に、光ファイバ心線がスペーサの溝から脱落するのを防止する粗巻き紐を施し、その上に押え巻きテープ及びケーブル外被を施してなる光ケーブルで、簡易な構成で解体時に粗巻き紐を確実且つ短時間に切断除去できるようにした光ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による光ケーブルは、溝付きスペーサの溝内に光ファイバ心線を収納し、スペーサの外周に粗巻き紐、押え巻きテープ、及びケーブル外被を順に施してなる光ケーブルであって、粗巻き紐は80〜140℃の融点を有する複数の第1の繊維と、220℃以上の融点を有する複数の第2の繊維とが合糸された繊維束からなり、粗巻き紐の第1の繊維が前記押え巻きテープと接着されていることを特徴とする。また、第1の繊維糸及び第2の繊維糸は、互いに融点の異なるポリアミド樹脂を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ケーブルによれば、融点の異なる繊維を複数合糸した繊維束を使用して粗巻き紐を構成することで、粗巻き紐の構成を簡易化し製造工程を合理化することができる。そしてこの簡易な構成の粗巻き紐が押え巻きテープと接着し固定されているので、押え巻きテープとともに確実に粗巻き紐を切断することができる。また、切断後の粗巻き紐は、押え巻きテープと一体となって除去できるので、切断屑となってスペーサ等に絡みつくことはなく、ケーブルの解体を効率よく、より短時間で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による光ケーブルの概略を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係る粗巻き紐の構成例を説明する図である。
【図3】従来技術による溝付きスペーサ型ケーブルの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1,2により本発明の実施の形態を説明する。図中、1は光ケーブル、2はスペーサ、2aは溝、3はテンションメンバ、4は光ファイバ心線、6は押え巻きテープ、7はケーブル外被、8は粗巻き紐、9aは第1の繊維、9bは第2の繊維を示す。
【0018】
光ケーブル1は、図1に示すように中心にテンションメンバ(抗張力体ともいう)3を埋設一体化し、複数の溝2aを設けたポリエチレン等のプラスチック材からなるスペーサ2を有する。スペーサ2の溝2aは、螺旋状またはSZ状に形成され、溝2a内には複数本の光ファイバ心線又はテープ状の光ファイバ心線4が収納される。光ケーブル1の製造過程で、光ファイバ心線4が溝2a内に収納された後、溝2aから脱落する(特に、SZスペーサの場合)のを防止するために、粗巻き紐8が直ちにスペーサ2の外周に巻き付けられる。さらに、その上に押え巻きテープ6、ケーブル外被7が施されている。
【0019】
従来の粗巻き紐5(図3参照)は、上述したようにナイロン等の繊維を紐状に束ねたもので、太さが1260デニール程度のものが用いられている。また、100心程度の光ケーブルで、スペーサ外径が9mm程度の場合は、粗巻き紐5は20mmピッチで2条の紐を巻きつけて(10mmピッチとなる)形成される。なお、従来の粗巻き紐5には、押え巻きテープ6を施す前に光ファイバ心線4が溝2aから脱落しない程度に保持されていればよく、繊維を束ねただけの安価な繊維束が用いられている。
【0020】
これに対して本発明では、押え巻きテープ6と接着する粗巻き紐8を用いて、押え巻きテープ6と粗巻き紐8を一体化させることにより、解体が容易な光ケーブルとしている。
図2は、本発明の実施形態に係る粗巻き紐8の構成を説明する図である。粗巻き紐8は、複数本の糸を合糸してなっている。合糸は、複数の糸を束ねて1本にまとめるもので、複数の糸を単に平行に引き揃えたものであってもよく、これを撚ったものであってもよい。
【0021】
複数の糸は、2種類の繊維9a,9bからなっている。2種類の繊維9a,9bは、互いに融点の異なる繊維であって、相対的に低い融点の繊維(第1の繊維とする)9aは、その融点が80〜140℃の範囲にある。また、相対的に高い融点の繊維(第2の繊維とする)9bはその融点が220℃以上の範囲にある。上記の融点温度範囲をもつ材料は限定されるものではないが、一例として、第1の繊維9aには低融点ナイロンによるポリアミド繊維を使用し、第2の繊維9bには、融点が180℃以上の標準ナイロンによるポリアミド繊維を用いることができる。低融点ナイロンとしては、例えば、東レ株式会社のエルダー(商品名)、ユニチカファイバー株式会社のフロールM(商品名)等が使用できる。また、この他、第1の繊維9aとして融点が110℃程度の低融点ポリエステル繊維を用い、第2の繊維9bとして、融点が250℃程度の標準ポリエステル繊維を用いることもできる。
【0022】
低融点の第1の繊維9aは、ケーブル外被7の押出被覆成形時にケーブル外被7の樹脂温度によって溶融し、熱融着により押え巻きテープ6に接着する。ケーブル外被7には、一般にポリエチレン等の樹脂材料が用いられる。ケーブル外被7の押出被覆工程では、押出機で溶融された樹脂材料の樹脂温度は180〜220℃になる。溶融した樹脂材料が押え巻きテープ6の周囲に被覆されると、その溶融樹脂の熱が押え巻きテープ6を介して粗巻き紐8に伝わり、融点が80〜140℃の範囲にある第1の繊維9aを溶融させる。押し出されたケーブル外被7の樹脂材料の熱により第1の繊維9aを溶融させるためには、第1の繊維9aの融点は140℃以下である必要がある。また、第1の繊維9aの融点が低すぎると、粗巻き紐8の保管中に雰囲気温度によって粗巻き紐8が自己融着する恐れがあるため、下限は80℃以上とすることが好ましい。
【0023】
ケーブル外被7が被覆されると、第1の繊維9aが溶融し、第1の繊維9aと押え巻きテープ6とが融着する。その際に、粗巻き紐8を構成する第1の繊維9aとして、極性基を有するポリアミドやポリエステル等を使用すると、同じく極性基を有するポリエステルやポリアミド等の押え巻きテープ6と融着し一体化する。一方、極性基を有するポリアミドやポリエステル等は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の無極性樹脂によるスペーサ2とは一体化しない。従って、適用する樹脂材料の極性を利用することによって、融着対象を選択することができる。
【0024】
また、融点が220℃以上と高い第2の繊維9bは、ケーブル外被7の溶融樹脂が被覆されたときも溶融することなく維持される。このとき、第1の繊維9aと第2の繊維9bは合糸され束ねられているため、第1の繊維9aが押え巻きテープ6に融着したときに、第2の繊維9bも第1の繊維9aとともに押え巻きテープ6に一体的に固定される。
また、押え巻きテープ6には、ケーブル外被7の被覆工程で受ける熱よりも高融点のポリエステルやポリアミド等などが用いられているため、ケーブル外被7の被覆工程で溶けてしまうことはない。
【0025】
上記の粗巻き紐8を構成する第1及び第2の繊維9a,9bの比率は特に限定されるものではないが、第1の繊維9aの熱融着特性と、第2の繊維9bによる機械特性維持のとのバランスから比率を決定する。第2の繊維9bは、第1の繊維9aよりも高融点のものであり、第1の繊維9aの材料よりも機械的強度が高い材料を選択することができる。ここで第1の繊維9aの比率を高くすれば、ケーブル外被7の被覆工程における粗巻き紐8の熱融着特性が向上するが、第1の繊維9aの比率が過度に高くなると、粗巻き紐8の巻回時などの機械的強度が十分でなくなり、工程の安定化が図れない。粗巻き紐8と押え巻きテープ6間の接着強度は、解体処理時に両者間の接着が維持できる程度であればよく、第2の繊維9bの比率を適正に選択することで、接着強度を維持しつつ、粗巻き紐8の機械的強度を確保することができる。
【0026】
こうして、ケーブル外被7の被覆工程において、低融点の第1の繊維9aと高融点の第2の繊維9bとが合糸された粗巻き紐8のうち、低融点の第1の繊維9aと押え巻きテープ6とが熱融着により接着され、その結果、粗巻き紐8が押え巻きテープ6に融着して一体化する。
そして、ケーブル解体処理時には、押え巻きテープ6とともに確実に粗巻き紐8を切断することができる。また、切断後の粗巻き紐8は、押え巻きテープ6と一体となって除去できるので、切断屑となってスペーサ等に絡みつくことはなく、ケーブルの解体を効率よく、より短時間で行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1…光ケーブル、2…スペーサ、2a…溝、3…テンションメンバ、4…光ファイバ心線、5,8…粗巻き紐、6…押え巻きテープ、7…ケーブル外被、9a・・・第1の繊維、9b…第2の繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝付きスペーサの溝内に光ファイバ心線を収納し、前記スペーサの外周に粗巻き紐、押え巻きテープ、及びケーブル外被を順に施してなる光ケーブルであって、
前記粗巻き紐は、80〜140℃の融点を有する複数の第1の繊維と、220℃以上の融点を有する複数の第2の繊維とが合糸された繊維束からなり、
前記粗巻き紐の前記第1の繊維が前記押え巻きテープと接着されていることを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記第1の繊維及び前記第2の繊維は、互いに融点の異なるポリアミド樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−128236(P2012−128236A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280295(P2010−280295)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】