説明

光コネクタ

【課題】ガイド穴へのガイドピンの挿入嵌合時の摩耗粉の発生を抑制し、着脱が頻繁に行われる使用条件でも接続損失が増大しないようにし、かつ清掃を不要とする。
【解決手段】複数の光ファイバ15を保持した一対のフェルール11の端面11aが2本のガイドピン14により位置決めされ、互いに突き合わされて、それら一対のフェルール11の光ファイバ15が互いに接続される光コネクタであり、端面11a同士を互いに押し付ける付勢部材を備え、端面11aに斜め研磨を施し、端面11aに開口してガイドピン14が嵌合されるガイド穴12とガイドピン14とのすきまを0.004mmより大きく、0.008mm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は光コネクタに関し、特にJIS C 5981に規定されているMT形光コネクタなどのガイドピンを用いた位置決め方式を採用する光コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
JIS C 5981に規定されているMT形光コネクタは、ガイドピンを用いた位置決め方式により、精密に位置決めして突き合わせ接続を行うものとなっている。図6AはこのMT形光コネクタの構成を示したものであり、フェルール11はその端面11aに開口する一対のガイド穴12と、それら一対のガイド穴12間に位置する光ファイバ孔13を有するものとなっている。
【0003】
一対のガイドピン14は一方のフェルール11のガイド穴12に挿入嵌合されて図6Aに示したように端面11aから突出され、この突出したガイドピン14を他方のフェルール11のガイド穴12に挿入嵌合して、一対のフェルール11の端面11a同士を突き合わせることで、両フェルール11の端面11aに光ファイバ孔13に収容されて精密に位置決めされている光ファイバ15同士が突き合わせ接続される。
【0004】
板ばね材よりなるクランプスプリング16は一対のフェルール11を挟み込むように取り付けられ、これにより一対のフェルール11の端面11a同士が所要の押し付け力で互いに押し付けられる。図6Bはクランプスプリング16が取り付けられ、光コネクタの接続が完了した状態を示す。なお、図6A,B中、17は複数(例えば、8本)の光ファイバ(光ファイバ心線)15が樹脂等により固定一体化されてなる光ファイバテープを示し、フェルール11はこの光ファイバテープ17の端末に取り付けられている。
【0005】
一方、図7は特許文献1に記載されている光コネクタの構成を示したものである。この光コネクタはJIS C 5981に規定されているMT形光コネクタに準ずる構造を有しており、図6と対応する部分には同一符号を付してある。
【0006】
この図7に示した光コネクタは、一対のフェルール11の互いに突き合わされる端面11aに逃げ面11bが形成されたものとなっている。逃げ面11bは曲面をなし、光ファイバ孔(図示せず)が形成されている部分を除いて(光ファイバ孔が形成されている部分の周囲に)形成されており、ガイド穴12はこの逃げ面11bに開口されている。
【0007】
フェルール11同士の突き合わせ接続において、フェルール11の端面11aにごみやほこりなどの異物が付着していると、光ファイバの接続損失が増大する原因となるため、異物を清掃、除去する必要がある。しかしながら、ガイドピン14の周囲に付着した異物はガイドピン14がじゃまとなって清掃しずらく、残ってしまう可能性がある。
【0008】
図7に示した光コネクタはこの問題に対処するものであって、ガイド穴12が逃げ面11bに開口されているため、ガイドピン14の周囲に図7に示したように、ごみやほこりなどの異物21が残ってしまっても、異物21の影響を受けることなく、フェルール11の端面11aの、光ファイバが位置する部分を隙間なく、突き合わせ接続することができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−45966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図6に示したようなMT形光コネクタは、従来においては一般に公衆通信回線網などの幹線系で使用されていたが、近年、光信号を用いる電子機器間の信号接続等にも使用されるようになってきており、その使用分野が拡大してきている。
【0011】
MT形光コネクタの幹線系での使用においては、基本的にMT形光コネクタの着脱を繰り返すといった状況はほとんど発生しないものの、電子機器間の接続というような一般民生用の分野においては、着脱を頻繁に繰り返すといったことが充分想定されうる。
【0012】
このように着脱が頻繁に繰り返されるといった使用条件を前提として、JIS C 5981に基づくMT形光コネクタの着脱を繰り返したときの接続損失の変化を調べた。JIS C 5981においては、MT形光コネクタのガイド穴径及びガイドピン径は下記のように規定されている。
【0013】
・ガイド穴径 φ0.700 ± 0.001mm
・ガイドピン径 φ0.698 ± 0.001mm
着脱試験では使用するフェルールのガイド穴径及びガイドピン径を実測し、実測値としてガイド穴径φ0.700mmの一対のフェルール及びピン径φ0.698mmの2本のガイドピンを使用した。また、クランプスプリングによる接続方式を採用し、着脱の繰り返し回数は2000回とした。
【0014】
図1は着脱試験結果を示したものであり、接続損失は安定せず、頻繁に増大(悪化)した。なお、接続損失が増大した場合は、その都度、フェルール11の端面11aの清掃を実施し、清掃後、着脱試験を継続して行った。
【0015】
図1より着脱回数100回にほぼ1回程度の割合で、接続損失の増大が発生していることがわかり、接続性能を損うような極めて大きな接続損失も突発的に発生していることがわかる。
【0016】
このような接続損失の変動が発生する要因を調べた結果、ガイドピンとガイド穴はすきまが極めて小さく、高精度な嵌合となっているため、ガイド穴へのガイドピンの挿入嵌合時に摩耗粉が発生し、これが光ファイバ端面に付着したり、あるいは嵌合不良を引き起こすことに起因していることが判明した。
【0017】
前述した特許文献1に記載されている光コネクタでは、フェルール11の互いに突き合わされる端面11aに逃げ面11bを設け、ガイド穴12を逃げ面11bに開口させることで、特にガイドピン14の周囲のごみやほこりなどの異物21の付着・清掃残りによる突き合わせ不良・接続損失の増大を回避するものとなっている。
【0018】
しかしながら、特許文献1では、ガイド穴へのガイドピンの挿入嵌合時の摩耗粉の発生については何ら言及されておらず、また特許文献1ではJIS規格に基づくガイドピン、ガイド穴を使用することから、繰り返し着脱による摩耗粉の発生は避けられないものとなっている。
【0019】
このような摩耗粉の発生に起因する接続損失の増大を回避するためには、例えばフェルールの端面を頻繁に清掃するといったことが必要となるが、清掃を頻繁に行うことは面倒であり、またそのような清掃を必要とすること自体、民生用として一般の人に用いられる光コネクタとしては適切ではなく、使用条件として清掃を課すことは難しい。
【0020】
この発明の目的はこのような問題に鑑み、ガイド穴へのガイドピンの挿入嵌合時の摩耗粉の発生を大幅に抑制することができるようにし、よって着脱が頻繁に行われるといった使用条件でも接続損失が増大せず、かつ清掃を不要とすることが可能な光コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1の発明によれば、複数の光ファイバを保持した一対のフェルールの端面が2本のガイドピンにより位置決めされ、互いに突き合わされて、それら一対のフェルールの光ファイバが互いに接続される光コネクタは、前記端面同士を互いに押し付ける付勢部材を備え、前記端面に斜め研磨が施され、前記端面に開口してガイドピンが嵌合されるガイド穴とガイドピンとのすきまが0.004mmより大きく、0.008mm以下とされる。
【0022】
請求項2の発明では請求項1の発明において、ガイドピン径がφ0.694±0.001mmとされる。
【0023】
請求項3の発明では請求項1の発明において、ガイド穴径がφ0.704±0.001mmとされる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、ガイド穴へのガイドピンの挿入嵌合時の摩耗粉の発生を大幅に抑制することができる。よって、着脱が頻繁に行われるといった使用条件でも接続損失が増大(悪化)せず、安定した接続性能を得ることができ、かつ清掃を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】着脱回数に対する従来の接続損失の変動を示すグラフ。
【図2】この発明による光コネクタの一実施例の構成・接続状態を説明するための図。
【図3】ガイドピン径を変えたときの着脱回数と接続損失の関係を示すグラフ。
【図4】この発明による光コネクタの一実施例の着脱回数に対する接続損失の変動を示すグラフ。
【図5】この発明が一対象とするMPO形光コネクタの構成を示す分解斜視図。
【図6】AはMT形光コネクタの接続前の状態を示す斜視図、Bはその接続後の状態を示す斜視図。
【図7】光コネクタの従来例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明では、例えば前述の図6に示したMT形光コネクタのような複数のマルチモード光ファイバ(コア径50μm)を保持した一対のフェルールの端面が2本のガイドピンにより位置決めされ、互いに突き合わされて、それら一対のフェルールの光ファイバが互いに接続される構造を有する光コネクタにおいて、フェルールの互いに突き合わされる端面に斜め研磨を施し、かつガイドピンが嵌合されるガイド穴とガイドピンとのすきまを従来より大きくする。
【0027】
以下、MT形光コネクタを例に説明する。
【0028】
図2はMT形光コネクタの一対のフェルール11の端面11aに斜め研磨がそれぞれ施され、それら端面11aがガイドピン14により位置決めされ、互いに突き合わされて接続された状態を示したものである。
【0029】
一対のフェルール11は図2では図示を省略しているが、クランプスプリング(図6参照)により挟み込まれ、端面11a同士が押し付けられるように押し付け力が作用するため、両フェルール11は図2中、矢印で示した方向にずれて接続される。つまり、斜め研磨を施すことで、両フェルール11に保持されている光ファイバの光軸のずれ方向が矢印で示した特定の方向に規制される。
【0030】
これに対し、従来のMT形光コネクタにおいては、フェルール11の端面11aは光軸に対し、直角に研磨されているため、位置ずれの自由度は大きく、光軸は端面11aを構成するxy平面内の任意の方向にずれうる。よって、斜め研磨を施すことによって、直角研磨に比し、光軸ずれを小さくすることができ、その分、MT形光コネクタの繰り返し着脱における接続損失の変動を小さくすることができる。斜め研磨の角度は例えば8度とされる。なお、このように斜め研磨を施すことで、従来、端面11a間に介在させていたマッチングオイルは不要となる。
【0031】
図3はガイドピン径を変えたときのMT形光コネクタの着脱回数と接続損失の関係を調べた結果を示したものである。一対のフェルール11のガイド穴径はJIS C 5981の規格寸法とし、ガイド穴径が実測値でφ0.700mmのフェルール11を用いた。また、端面11aには斜め研磨を施した。一方、ガイドピン径は実測値でφ0.690mm、φ0.692mm、φ0.696mm及びφ0.698mm(JIS規格寸法)の4種類とし、これらガイドピン14を用いて接続損失を調べた。実測に使用した光の波長は850nmである。接続はクランプスプリングによる接続方式を採用した。
【0032】
JIS C 5981では接続損失は1.2dB以下と規定されており、図3よりガイドピン径をφ0.692mmとした場合、φ0.698mmやφ0.696mmに比べ、接続損失は大きくなるものの、JIS規格を満足していることがわかる。
【0033】
図4は実測値でピン径φ0.694mmのガイドピン14を使用し、ガイド穴径は実測値でφ0.700mmのフェルール11を使用して、着脱回数と接続損失の関係を、着脱回数を5000回まで増やして調べた結果を示したものであり、図4より接続損失の変動は少なく、安定しており、接続性能を損うような(JIS規格を満たさないような)接続損失の大きな変動も発生していないことがわかる。
【0034】
この図4に示した結果は、ガイドピン14を細径化し、ガイド穴12とガイドピン14とのすきまを大きくした結果、ガイドピン14のガイド穴12への挿入嵌合時の摩耗粉の発生が大幅に抑制されたことによるものである。
【0035】
以上の結果を踏まえ、この発明ではガイド穴14とガイドピン12とのすきまを大きくする。JIS C 5981では、
・ガイド穴径 φ0.700 ± 0.001mm
・ガイドピン径 φ0.698 ± 0.001mm
と規定されており、よってすきまは、0〜0.004mmの範囲となるが、この発明ではすきまCを、
0.004 < C ≦0.008 [mm]
とする。また、フェルール11の端面11aには斜め研磨を施し、クランプスプリングのような付勢部材で一対のフェルール11の端面11aが互いに押し付けられるようにする。
【0036】
上述したように、この発明ではガイド穴12とガイドピン14とのすきまをJIS規格よりも大きくする。これにより、接続損失は基本的には大きくなり、その点で初期の接続損失は若干犠牲になるものの、着脱が繰り返し行われるような使用条件でも摩耗粉の発生を抑制することができ、よって摩耗粉の発生に起因して接続損失が大きく変動する(悪化する)といった状況の発生を回避することができ、清掃を不要とすることができる。
【0037】
なお、ガイドピン径Dは例えばφ0.694±0.001mmとする。この場合、すきまCの範囲よりガイド穴径dはJIS規格にほぼ準じた下記寸法とすることができる。
【0038】
0.699 < d ≦0.701 [mm]
一方、ガイド穴径dを例えばφ0.704±0.001mmとした場合には、すきまCの範囲よりガイドピン径DはJIS規格にほぼ準じた下記寸法とすることができる。
【0039】
0.697 ≦ D <0.699 [mm]
以上、MT形光コネクタを例に説明したが、この発明が対象とする光コネクタはMT形光コネクタに限定されるものではない。例えば、JIS C 5982に規定されているMPO形光コネクタにもこの発明を適用することができる。
【0040】
図5はMPO形光コネクタの構成を各部に分解して示したものである。MPO形光コネクタはMT形光コネクタと同じフェルール11を使用し、2本のガイドピン14を用いるものとなっている。フェルール11は、光ファイバテープ17の端末に取り付けられている。図5中、31はハウジングを示し、32は2本のガイドピン14の一端側を保持するメタルクランプを示す。また、33はコイルスプリングを示し、34はストッパ、35はブーツを示す。このMPO形光コネクタではフェルール11はコイルスプリング33によって付勢され、押し付け力を得るものとなっている。
【符号の説明】
【0041】
11 フェルール 11a 端面
11b 逃げ面 12 ガイド穴
13 光ファイバ孔 14 ガイドピン
15 光ファイバ 16 クランプスプリング
17 光ファイバテープ 21 異物
31 ハウジング 32 メタルクランプ
33 コイルスプリング 34 ストッパ
35 ブーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバを保持した一対のフェルールの端面が2本のガイドピンにより位置決めされ、互いに突き合わされて、それら一対のフェルールの光ファイバが互いに接続される光コネクタであって、
前記端面同士を互いに押し付ける付勢部材を備え、
前記端面に斜め研磨が施され、
前記端面に開口して前記ガイドピンが嵌合されるガイド穴と前記ガイドピンとのすきまが0.004mmより大きく、0.008mm以下とされていることを特徴とする光コネクタ。
【請求項2】
請求項1記載の光コネクタにおいて、
前記ガイドピン径がφ0.694±0.001mmとされていることを特徴とする光コネクタ。
【請求項3】
請求項1記載の光コネクタにおいて、
前記ガイド穴径がφ0.704±0.001mmとされていることを特徴とする光コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−3294(P2013−3294A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133024(P2011−133024)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】