説明

光トモグラフィ装置及び光トモグラフィ装置による解析方法

【課題】測定対象物の断層情報をより高い精度で得ることができる。
【解決手段】光トモグラフィ装置1では、MR情報取得部10によりMR撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部構造を示すMR情報を取得し、解析部40ではMR情報に基づいて測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布が解析される。この解析部40による解析では、格納部30に格納される各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によって規定される範囲に含まれる散乱係数及び吸収係数を支配方程式である輸送方程式に適用することで計算値を算出し、これと測定部20による測定値とを比較部42において比較し、その結果が所定の閾値よりも小さくなるまで、散乱係数又は吸収係数を修正部43による修正及び計算値算出部41による計算値の算出を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光トモグラフィ装置及びこの光トモグラフィ装置による解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の断層情報を得るための方法として、生体に対して安全であり且つ透過性の高い近赤外光を使用した拡散光トモグラフィが知られている。この拡散光トモグラフィで用いられる近赤外光は、X線と異なって生体に対する侵襲性が非常に低いことや、生体内の物質はその近赤外光の周波数帯域における分光特性が物質により大きく異なるために酸素を始めとする生体物質の様々な代謝情報を高い時間分解能で収集することができること等の利点がある。また、この拡散光トモグラフィを用いた測定装置は、装置自身が小型且つ安価であり、さらに、測定対象者に対して測定時に姿勢の維持が要求されない等、測定対象者にとっても負担も少ないため、生体機能のより詳細な分析への応用が期待されて種々の研究が進められており、近赤外光を測定対象物に照射することで得られる結果から生体の断層情報を得るための解析方法等が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−528291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近赤外光は、生体内での吸収・散乱が大きいために、生体内に入射した光が生体内から出射されるまでの間に拡散してしまい、測定対象物である生体から出射された光の受光結果から得られる空間情報が少ないことから、近赤外光の受光結果から生体内の各部位の支配方程式内パラメータ(散乱係数や吸収係数など)を算出するための解析のために必要な時間が長く、且つ、解析結果の精度も低くなる可能性がある。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、測定対象物の断層情報をより高い精度で得ることができる光トモグラフィ装置及びこの光トモグラフィ装置による解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る光トモグラフィ装置は、測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する光トモグラフィ装置であって、測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を部位毎に格納する格納部と、撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得するMR情報取得部と、測定対象物に対して光を入射し、この光の入射に伴って当該測定対象物から出射する光を受光することで、当該測定対象物からの光についての測定値を取得する測定部と、測定部で取得された測定値と、MR情報取得部で取得されたMR情報と、格納部で格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数とに基づいて、測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する解析部と、を備え、解析部は、MR情報により特定される測定対象物の内部の構造と、格納部に格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によってそれぞれ規定される範囲に含まれる各部位の散乱係数及び吸収係数と、を測定対象物での光伝搬を支配する支配方程式に用いることで、測定部によって測定対象物に光を入射させた場合に測定対象物から出射する光に係る情報についての計算値を算出する計算値算出部と、計算値算出部により算出された計算値と、測定部により取得された測定値とを比較し、計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する比較部と、比較部により計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合に、計算値算出部において用いる各成分の散乱係数及び吸収係数のうち一以上の係数を修正する修正部と、を有し、比較部において計算値と測定値との差が所定の閾値以下であると判断されるまで、計算値算出部、比較部、及び修正部による測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布の解析を繰り返すことを特徴とする。
【0007】
上記の光トモグラフィ装置によれば、MR情報取得部により撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得し、解析部では、このMR情報に基づいて測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する。そして、この解析部による解析では、格納部に格納される各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によって規定される範囲に含まれる散乱係数及び吸収係数を支配方程式に適用することで、計算値を算出し、これと測定部による測定値とを比較し、その結果が所定の閾値よりも小さくなるまで散乱係数又は吸収係数を修正し、計算値の算出を繰り返す。このように、撮像時に発生する誤差を補正した精度の高いMR情報を用いて、散乱係数及び吸収係数の算出を行うため、測定対象物の断層情報をより高い精度で求めることができる。また、測定対象物の内部構造が特定されたMR情報を用いて散乱係数及び吸収係数の算出が行われることから、この散乱係数及び吸収係数の算出をより高速に行うことから可能となる。
【0008】
また、本発明に係る光トモグラフィ装置による解析方法は、測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する光トモグラフィ装置による解析方法であって、測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を部位毎に格納部に格納する格納ステップと、撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得するMR情報取得ステップと、測定対象物に対して光を入射し、この光の入射に伴って当該測定対象物から出射する光を受光することで、当該測定対象物からの光についての測定値を取得する測定ステップと、測定ステップにおいて取得された測定値と、MR情報取得ステップにおいて取得されたMR情報と、格納ステップにおいて格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数とに基づいて、測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する解析ステップと、を備え、解析ステップは、MR情報により特定される測定対象物の内部の構造と、格納部に格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によってそれぞれ規定される範囲に含まれる各部位の散乱係数及び吸収係数と、を測定対象物での光伝搬を支配する支配方程式に用いることで、測定ステップにおいて測定対象物に光を入射させた場合に測定対象物から出射する光に係る情報についての計算値を算出する計算値算出ステップと、計算値算出ステップにおいて算出された計算値と、測定ステップにおいて取得された測定値とを比較し、計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する比較ステップと、比較ステップにおいて計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合に、計算値算出ステップにおいて用いる各成分の散乱係数及び吸収係数のうち一以上の係数を修正する修正ステップと、を有し、比較ステップにおいて計算値と測定値との差が所定の閾値以下であると判断されるまで、計算値算出ステップ、比較ステップ、及び修正ステップによる測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布の解析を繰り返すことを特徴とする。
【0009】
上記の光トモグラフィ装置を用いた解析方法によれば、MR情報取得ステップにおいて撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得し、解析ステップにおいて、このMR情報に基づいて測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する。そして、この解析ステップでの解析では、格納部に格納される各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によって規定される範囲に含まれる散乱係数及び吸収係数を支配方程式に適用することで、計算値を算出し、これと測定部による測定値とを比較し、その結果が所定の閾値よりも小さくなるまで散乱係数又は吸収係数を修正し、計算値の算出を繰り返す。このように、撮像時に発生する誤差を補正した精度の高いMR情報を用いて、散乱係数及び吸収係数の算出を行うため、測定対象物の断層情報をより高い精度で求めることができる。また、測定対象物の内部構造が特定されたMR情報を用いて散乱係数及び吸収係数の算出が行われることから、この散乱係数及び吸収係数の算出をより高速に行うことから可能となる。
【0010】
ここで、上記の光トモグラフィ装置において用いられる支配方程式は、輸送方程式である態様とすることができる。また、支配方程式は、拡散方程式であってもよい。
【0011】
また、本発明に係る解析方法では、支配方程式は、輸送方程式である態様であってもよく、また、支配方程式は、拡散方程式である態様としてもよい。
【0012】
このように、輸送方程式や拡散方程式を支配方程式として用いることで、より高い精度での断層情報の解析を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定対象物の断層情報をより高い精度で得ることができる光トモグラフィ装置及びこの光トモグラフィ装置による解析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る光トモグラフィ装置の構成を説明する図である。
【図2】光トモグラフィ装置の測定部について説明する図である。
【図3】格納部に格納される情報の例を示す図である。
【図4】光トモグラフィ装置で取得されるMR情報に用いられるMR画像の撮像を行うMR撮像装置の構成を説明する図である。
【図5】光トモグラフィ装置による解析方法について説明するシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る光トモグラフィ装置の構成を説明する図である。光トモグラフィ装置1は、測定対象物に対して近赤外光を照射し、その結果、測定対象物から出射される光を受光して解析を行い、この解析結果に基づいて測定対象物の断層画像を構成して出力する機能を有する。図1に示すように、本実施形態に係る光トモグラフィ装置1は、MR情報取得部10、測定部20、格納部30、解析部40及び出力部50を含んで構成される。
【0017】
MR情報取得部10は、撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得する。具体的には、MR画像(3次元MR画像)を撮像すると共にこのMR画像を補正し、補正後のMR画像に基づいて測定対象の内部構造を特定するMR撮像装置から、測定対象物の内部の構造が特定されたMR情報(3次元構造情報)を取得する。本実施形態の光トモグラフィ装置1により測定を行う測定対象物は、例えば生体の頭部が挙げられ、生体の頭部を測定対象物とする場合には、MR情報としてこの測定対象物の内部の頭部の内部構造を特定する情報が取得される。測定対象物が生体の頭部である場合、MR情報には、頭部の外観形状を特定する情報と、表皮、頭蓋骨、脳脊髄液、脳実質(灰白質、白質)、血管構造(動脈、静脈)等の頭部の内部組織の空間分布を特定する情報と、が含まれる。また、MR情報を取得する際には、撮像時の歪みや信号ムラを補正したMR画像が用いられる。この使用するMR画像としては、3次元T1強調画像やMRアンギオ画像、磁化率強調画像、Balanced−SSFP(Steady-State Free Precession)画像等が挙げられる。MR画像の歪みや信号ムラの補正については後述する。MR情報取得部10により取得されたMR情報は解析部40へ送られる。
【0018】
測定部20は、測定対象物に対して光を入射し、この光の入射に伴って当該測定対象物から出射する光を受光することで、当該測定対象物からの光についての測定値を取得する。この測定部20の構成の一例を図2に示す。図2(A)は、測定部20に含まれるモジュール20Aの構成を説明する図であり、図2(B)は複数のモジュール20Aによって構成される測定部20について説明する図である。図2に示すように、測定部20は、光ファイバ22と、光ファイバヘッド21と、RF受信コイル105と、を含んで構成されるモジュール20Aが複数個連結されたものである。
【0019】
そして、図2(A)に示すように、1つのモジュール20Aにおいて、光ファイバ22と光ファイバヘッド21とが光学的に接続されている。光ファイバヘッド21は、光源から出射されて光ファイバ22を伝播した光を測定対象物に対して出射する出射端21Aか、出射端21Aから出射されて測定対象物に対して光が照射されることで測定対象物から出射される光を入射する入射端21Bのいずれかとしての機能を有する。光ファイバヘッド21が入射端21Bとして機能する場合には、光ファイバ22は受光部と光学的に接続されていて、入射端21Bから光ファイバ22に入射した光は光ファイバ22を伝播して受光部で受光される。この光ファイバヘッド21の出射端21Aから測定対象物に対して出射される光は近赤外領域のパルス光である。なお、この各モジュール20AにはそれぞれRF受信コイル105がさらに取り付けられている。このRF受信コイル105は後述のMR撮像に用いられるコイルである。本実施形態に示すモジュール20Aでは、MR撮像に用いられるRF受信コイル105と光トモグラフィ測定に用いる光ファイバヘッド21とが一体化されていることにより、RF受信コイル105により得られるMR情報と光ファイバヘッド21により得られる光トモグラフィ測定結果との対応関係が明確になる。RF受信コイル105を用いたMR撮像については後述する。
【0020】
そして、図2(B)に示すように、測定部20は、n個のモジュール20A〜20Aが、n個の光ファイバヘッド21〜21が並列するように連結されたものである。図2(B)では、n個のモジュール20Aは、光ファイバヘッド21が測定対象物に対して光を出射する出射端21Aであるものと、測定対象物からの光を入射する入射端21Bとなるものとが交互に配置されるように連結されている。このように直列状に連結されたn個のモジュール20A〜20Aはn個の光ファイバヘッド21〜21が測定対象物の特定の断面(断層画像において取得したいスライス画像に対応する断面)に沿って配置される。
【0021】
このようにn個のモジュール20A〜20Aが測定対象物に対して取り付けられ、測定対象物に対して近赤外光を照射することで測定対象物から出射される光を受光し、この受光された光の測定値等の測定結果は、測定部20から解析部40に送られる。そして、解析部40によって測定結果の解析を行うことで、測定対象物の内部の吸収係数及び散乱係数の分布が求められる。
【0022】
格納部30は、測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を部位毎に格納する。格納部30に格納される情報の例を図3に示す。図3に示すように、格納部30では、測定対象物の内部に含まれる可能性のある内部組織(部位)(図3では、表皮、頭蓋骨、脳脊髄液…)と、この部位が取り得る散乱係数及び吸収係数の範囲を規定するための最大値及び最小値が部位毎に格納されている。例えば、測定対象物が生体の頭部である場合には、表皮、頭蓋骨、脳脊髄液、脳実質(灰白質、白質)、血管構造(動脈、静脈)等の各組織が内部に含まれる可能性があるので、これらの組織と、各組織の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値が、組織に対応付けて格納されている。この格納部30に格納される情報は、解析部40からの要求に応じて適宜解析部40に対して提供される。
【0023】
解析部40は、測定部20により得られた測定値と、MR情報取得部10により取得されたMR情報と、格納部30で格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数とに基づいて、測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する。この解析部40は、計算値算出部41、比較部42及び修正部43が含まれる。
【0024】
計算値算出部41は、MR情報により特定される測定対象物の内部構造と、格納部30に格納された測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によってそれぞれ規定される範囲に含まれる各部位の散乱係数及び吸収係数と、を測定対象物での光伝搬を支配する支配方程式に用いることで、測定部20によって測定対象物に光を入射させた場合に測定対象物から出射する光に係る情報についての計算値を算出する。この計算値算出部41により用いられるMR情報は、MR情報取得部10により取得されたものであり、撮像時に発生する誤差を補正したものである。この撮像時に発生する誤差の補正については、後述する。この計算値算出部41において算出された計算値は、比較部42へ送られる。
【0025】
比較部42は、計算値算出部41により算出された計算値と、測定部20により取得された測定値とを比較し、計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する。比較部42による比較の結果、計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合には、この結果が修正部43に対して送られる。
【0026】
修正部43は、比較部42により計算値と測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合に、計算値算出部41において用いる各成分の散乱係数及び吸収係数のうち一以上の係数を修正する。上記の計算値算出部41、比較部42及び修正部43による解析方法については後述する。
【0027】
そして、出力部50は、解析部40による解析結果を外部に出力する。解析結果を外部に出力する方法としては、モニタ等の表示デバイスに対して表示させる方法や、プリンタ等に対して出力する方法、電子データとして出力する方法等が挙げられる。
【0028】
ここで、MR情報取得部10により取得されるMR情報を生成するMR撮像装置と、MR情報について説明する。図4は、MR撮像装置100の構成を説明する図である。図4に示すように、MR撮像装置100は、静磁場マグネット部102、傾斜磁場コイル部103、RF照射コイル104、RF受信コイル105、RF駆動部111、勾配駆動部112、データ収集部113、制御部114、データ処理部115、操作部116、及び表示部117を有する。
【0029】
測定対象物となる被検者200の測定対象物が生体の頭部である場合、測定対象物は例えば0.5Tの均一な静磁界を発生する静磁場マグネット部102のほぼ中心に配置されている。この測定対象物の測定部位を静磁場マグネット部102のほぼ中心に配置するために寝台110は移動可能とされている。静磁場マグネット部102の内側には互いに直交する3軸(X,Y,Z軸。Z軸は静磁場マグネット部102により作られる静磁場の方向と一致する。なお、この3軸は図示していない)の方向に最大傾斜磁界例えば10mT/mを発生する傾斜磁場コイル103が組み込まれていて、この傾斜磁場コイル103は、静磁場マグネット部102により形成された静磁場内の測定対象物に対して傾斜磁場を印加させる。この傾斜磁場の印加によって、RF受信コイル105により受信されるMR信号に対して位置情報が付加される。
【0030】
傾斜磁場コイル103の内側には、撮影領域101内のプロトンのスピンを励起するための高周波磁場を発生させる照射用高周波(RF)照射コイル104と、RF照射コイル104により発生された磁場によって励起されたプロトンからのMR信号を検出する受信用RFコイル105が組み込まれている。なお、本実施形態のRF受信コイル105はRF照射コイル104とは別体からなり、図2に示すように、光トモグラフィ装置1の測定部20を構成する光ファイバヘッド21及び光ファイバ22と一体化されて、光トモグラフィ装置1の測定部20として機能する構成とされているが、このRF照射コイル104とRF受信コイル105とは一つのRFコイルを共用してもよい。上記のRF照射コイル104により構成される高周波磁場はRF駆動部111により制御される。また、傾斜磁場コイル103により構成される傾斜磁場の制御は傾斜磁場駆動部112により制御される。
【0031】
そして、データ収集部113は、制御部114からの制御信号に基づいて、RF受信コイル105により受信されるMR信号を収集する。そして、データ収集部113により収集されたMR信号がデータ処理部115に対して送られる。RF駆動部111、傾斜磁場駆動部112、及びデータ収集部113は、制御部114からの制御信号に基づいて上記の動作を行う。
【0032】
データ処理部115は、オペレータによる操作部116からの操作指示を制御部114に対して出力すると共に、この操作指示に基づいて、データ収集部113において収集されたMR信号を取得し、この取得したMR信号に対して画像再構成処理を行うことで画像データを生成する機能を有する。また、出力部117は、データ処理部115により生成された画像データを表示デバイス等に表示すると共に、この画像処理に用いたデータを外部の装置(例えば、本実施形態の光トモグラフィ装置1等)に対して出力する機能を有する。
【0033】
ここで、データ処理部115によるデータ処理について説明する。データ処理部115では、MR撮像装置100のRF受信コイル105により受信されたMR信号からMR画像を生成する際に補正が行われる。MR撮像装置100による測定対象物のMR撮像時には、種々の誤差が発生することが知られている。例えば、静磁場マグネット部102により形成される静磁場の不均一性や、傾斜磁場コイル103により形成される傾斜磁場の非直線性に由来して、空間的な歪みが発生する。また、信号ノイズ比の向上や撮像の高速化を目的として近年RF受信コイル105として一般的に用いられているフェイズドアレイコイル(Phased array coil)は、感度分布が空間的に不均一であるため、得られたMR画像上にも空間的なムラが生じる。このように、MR撮像装置100では種々の歪みや誤差を含む画像が撮像されるため、データ処理部115においてMR画像の補正が行われる。
【0034】
具体的には、このMR撮像装置100を用いて予めファントムを撮像することで、撮像時に発生する傾斜磁場コイル103由来の歪みやRF受信コイル105由来の信号ムラを計測しておき、測定対象物の撮像結果に対して、ファントム撮像時に発生した歪みや信号ムラを取り消す補正を行う方法等が挙げられる。このように、データ処理部115では、MR撮像装置100において発生する誤差を補正し、この補正後のMR画像から得られる測定対象物の内部構造に係る情報をMR情報として出力部117から光トモグラフィ装置1に対して送信することで、光トモグラフィ装置1のMR情報取得部10では、撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいたMR情報が取得される。
【0035】
次に、上記の光トモグラフィ装置1による解析方法について、図5を用いて説明する。図5は、光トモグラフィ装置による解析方法について説明するシーケンス図である。まず、光トモグラフィ装置1による測定対象物の測定及び測定結果の解析を行う前提として、格納部30には、測定対象物の内部に含まれる各部位について、部位毎に散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を対応付けた表が格納されている(S01、格納ステップ)。この部位毎の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値に係る情報は、測定対象物が変わる度に格納部30に対して格納する態様としてもよいし、予め測定を行う可能性のある測定対象物についての情報を全て格納部30に格納しておく態様としてもよい。
【0036】
次に、光トモグラフィ装置1のMR情報取得部10によりMR情報の取得が行われる(S02、MR情報取得ステップ)。このMR情報取得部10により取得されたMR情報は、解析部20に対して送られる。ここで解析部20に対して送られる情報には、測定対象物の外観形状を特定すると共に、その内部の組織界面を特定する情報(すなわち、内部の構造を特定する情報)が含まれる。次に、解析部40の計算値算出部41では、MR情報を参照し、後段の輸送方程式を用いた光伝搬のシミュレーションの際に用いる係数であってこの測定対象物の内部の各部位に応じた組織の散乱係数及び吸収係数に係る情報を格納部30から取得する(S03、係数の初期化)。ここで格納部30から取得される散乱係数及び吸収係数は、例えば最大値と最小値とによって規定される範囲のうちの中心値というように予め定めておくことができる。
【0037】
次に、測定部20では、測定対象物に対する光トモグラフィ測定が行われる(S04、測定ステップ)。ここでは、図2(B)に示す複数のモジュール20Aを測定対象物に対して取り付け、光ファイバヘッド21の出射端21Aから測定対象物に対して光を照射し、この光の照射によって測定対象物から出射される光を入射端21Bで受光することで測定が行われる。この測定部20による測定結果は、測定部20から解析部40へ送られる。
【0038】
次に、解析部40の計算値算出部41では、測定対象物における光伝搬のシミュレーションが行われ、具体的には、格納部30から取得した散乱係数及び吸収係数を輸送方程式に適用することで計算値を算出する(S05、計算値算出ステップ)。ここで、測定対象物の内部を構成する組織の散乱係数及び吸収係数を輸送方程式に対して適用する際には、MR情報に含まれる測定対象物の内部構成を特定する情報に基づいて、測定対象物の各部位に対応した散乱係数及び吸収係数が輸送方程式に対して適用される。計算値算出部41によって算出された計算値は、解析部40の比較部42へ送られる。
【0039】
次に、解析部40の比較部42では、計算値算出部41により算出された計算値と測定部20により得られた測定値との比較が行われる(S06、比較ステップ)。そして、計算値と測定値との差が所定の閾値以下であるかどうかが比較部42により判断される(S07、比較ステップ)。
【0040】
ここで、光トモグラフィ装置1の測定部20による測定対象物の測定の際に、測定対象物に入射した光の伝搬について説明すると共に、光トモグラフィ装置1の解析部40による測定結果の解析について説明する。測定対象物に光を入射させた場合の測定対象物内での光の伝搬は、輸送方程式という粒子運動を記述する方程式によって支配されていることが知られている。そして、この輸送方程式を用いることで、測定対象物内に入射させる光と、この光の入射によって測定対象物から出射される光との関係を正確にモデル化することができる。したがって、この輸送方程式に対して、各部位の組織に対応した散乱係数及び吸収係数の正しい値を適用することによって、特定の光を測定対象物に対して入射させたときに測定対象物から出射される光を正確に算出することができるはずである。
【0041】
しかしながら、測定対象物内の各部位における散乱係数及び吸収係数の分布を予め正確に把握していることはできない。したがって、格納部30に格納されている部位毎の散乱係数及び吸収係数の範囲から選ばれた値を輸送方程式に適用し、その結果(計算値)と、測定部20による実測値(測定値)とを比較部42において比較することで、輸送方程式に代入した散乱係数及び吸収係数が測定対象物内の各部位の散乱係数及び吸収係数と近い値であるか又は大きく異なる値であるかを確認することができる。このとき、比較部42において予め閾値を決めておき計算値と測定値との差がこの閾値以下である場合には、輸送方程式に代入した各部位の散乱係数及び吸収係数が実際の値に近い値であるとみなし、この計算値の算出に用いた各部位の散乱係数及び吸収係数が解析結果であると判断される。
【0042】
したがって、比較部42によって計算値と測定値との差が閾値以下であると判断された場合には、この結果は比較部42から出力部50に対して送られ、出力部50では、計算値の算出に用いられた散乱係数及び吸収係数を用いた解析結果を用いて測定対象物の断層画像を形成して出力する(S08)。
【0043】
一方、比較部42によって計算値と測定値との差が閾値以下ではない(すなわち、閾値よりも大きい)と判断された場合には、この結果は比較部42から修正部43に対して送られ、修正部43において散乱係数及び吸収係数の少なくとも一つについての修正が行われる(S09、修正ステップ)。ここでは、計算値と測定値との差がより小さくなるように輸送方程式に対して適用した散乱係数及び吸収係数の値が修正される。そして、修正部43により修正された散乱係数及び吸収係数は計算値算出部41に対して送られると共に、計算値算出部41において修正後の値を用いて2回目の計算値の算出が行われ(S05)、この結果得られた2回目の計算値と測定値との比較が比較部42において行われ(S06、S07)、その比較した結果(計算値と測定値との差)が閾値よりも大きい場合には、係数の修正が再度行われる(S09)。このように、計算値の算出、計算値と測定値の比較及び係数の修正(S05〜S07,S09)は、計算値と測定値との差が所定の閾値よりも小さくなるまで繰返し行われる。そして、計算値と測定値との差が閾値以下となった場合には、その結果を用いて形成された断層情報が出力部50から出力される(S08)ことで、解析に係る一連の処理が終了される。
【0044】
このように、本実施形態に係る光トモグラフィ装置1又はこの光トモグラフィ装置1による解析方法によれば、MR情報取得部10によりMR撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得し、解析部40では、このMR情報に基づいて測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する。そして、この解析部40による解析では、格納部30に格納される各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によって規定される範囲に含まれる散乱係数及び吸収係数を支配方程式である輸送方程式に適用することで計算値を算出し、これと測定部20による測定値とを比較部42において比較し、その結果が所定の閾値よりも小さくなるまで散乱係数又は吸収係数を修正部43により修正し、計算値算出部41により計算値の算出を繰り返す。このように、光トモグラフィ装置1では、撮像時に発生する誤差を補正した精度の高いMR情報を用いて、散乱係数及び吸収係数の算出を行うため、測定対象物の断層情報をより高い精度で求めることができる。また、上記の光トモグラフィ装置1による解析では、測定対象物の内部構造が特定されたMR情報に基づいて格納部30に格納された散乱係数及び吸収係数の範囲の中から計算値に用いる散乱係数及び吸収係数を選択して計算値の算出が行われるため、散乱係数及び吸収係数の算出に係る処理を短時間で行うことから可能となる。
【0045】
なお、上記実施形態では、測定対象物の内部での光の散乱及び吸収を支配する支配方程式が輸送方程式であって、光トモグラフィ装置1の計算値算出部41においてこの輸送方程式に対して散乱係数及び吸収係数を適用することで計算値を算出する態様について説明したが、支配方程式として拡散方程式を用いることもできる。拡散方程式とは、媒体中での光の散乱が完全等方散乱であると仮定することで輸送方程式を簡略化したものである。この拡散方程式を支配方程式として用いた場合、輸送方程式と比較してその取扱いが容易であるため、計算値の算出及び算出結果に基づく係数の補正が容易となり、測定対象物の断層情報に係る解析をより少ない試行回数で行うことが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0047】
例えば、上記実施形態では、光トモグラフィ装置1の測定機構の一部(光ファイバヘッド22及び光ファイバ21)とMR撮像装置100の測定機構の一部(RF受信コイル105)がモジュール20Aとして一体化された場合について説明したが、光トモグラフィ装置1とMR撮像装置100とは互いに異なる装置とされていてもよいし、光トモグラフィ装置1及びMR撮像装置100の本体が一体化されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…光トモグラフィ装置、10…MR情報取得部、20…測定部、21…光ファイバヘッド、22…光ファイバ、30…格納部、40…解析部、41…計算値算出部、42…比較部、43…修正部、50…出力部、100…MR撮像装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する光トモグラフィ装置であって、
前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を部位毎に格納する格納部と、
撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた前記測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得するMR情報取得部と、
前記測定対象物に対して光を入射し、この光の入射に伴って当該測定対象物から出射する光を受光することで、当該測定対象物からの光についての測定値を取得する測定部と、
前記測定部で取得された前記測定値と、前記MR情報取得部で取得された前記MR情報と、前記格納部で格納された前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数とに基づいて、前記測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する解析部と、
を備え、
前記解析部は、
前記MR情報により特定される前記測定対象物の内部の構造と、前記格納部に格納された前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によってそれぞれ規定される範囲に含まれる各部位の散乱係数及び吸収係数と、を前記測定対象物での光伝搬を支配する支配方程式に用いることで、前記測定部によって前記測定対象物に光を入射させた場合に前記測定対象物から出射する光に係る情報についての計算値を算出する計算値算出部と、
前記計算値算出部により算出された計算値と、前記測定部により取得された前記測定値とを比較し、前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する比較部と、
前記比較部により前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合に、前記計算値算出部において用いる各成分の散乱係数及び吸収係数のうち一以上の係数を修正する修正部と、
を有し、
前記比較部において前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値以下であると判断されるまで、前記計算値算出部、前記比較部、及び前記修正部による前記測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布の解析を繰り返す
ことを特徴とする光トモグラフィ装置。
【請求項2】
前記支配方程式は、輸送方程式であることを特徴とする請求項1記載の光トモグラフィ装置。
【請求項3】
前記支配方程式は、拡散方程式であることを特徴とする請求項1記載の光トモグラフィ装置。
【請求項4】
測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する光トモグラフィ装置による解析方法であって、
前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値を部位毎に格納部に格納する格納ステップと、
撮像時に発生する誤差を補正したMR画像に基づいた前記測定対象物の内部の構造を示すMR情報を取得するMR情報取得ステップと、
前記測定対象物に対して光を入射し、この光の入射に伴って当該測定対象物から出射する光を受光することで、当該測定対象物からの光についての測定値を取得する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて取得された前記測定値と、前記MR情報取得ステップにおいて取得された前記MR情報と、前記格納ステップにおいて格納された前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数とに基づいて、前記測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布を解析する解析ステップと、
を備え、
前記解析ステップは、
前記MR情報により特定される前記測定対象物の内部の構造と、前記格納部に格納された前記測定対象物の内部の各部位の散乱係数及び吸収係数の最大値及び最小値によってそれぞれ規定される範囲に含まれる各部位の散乱係数及び吸収係数と、を前記測定対象物での光伝搬を支配する支配方程式に用いることで、前記測定ステップにおいて前記測定対象物に光を入射させた場合に前記測定対象物から出射する光に係る情報についての計算値を算出する計算値算出ステップと、
前記計算値算出ステップにおいて算出された計算値と、前記測定ステップにおいて取得された前記測定値とを比較し、前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値よりも大きいか否かを判断する比較ステップと、
前記比較ステップにおいて前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値よりも大きいと判断された場合に、前記計算値算出ステップにおいて用いる各成分の散乱係数及び吸収係数のうち一以上の係数を修正する修正ステップと、
を有し、
前記比較ステップにおいて前記計算値と前記測定値との差が所定の閾値以下であると判断されるまで、前記計算値算出ステップ、前記比較ステップ、及び前記修正ステップによる前記測定対象物の内部の散乱係数又は吸収係数の分布の解析を繰り返す
ことを特徴とする解析方法。
【請求項5】
前記支配方程式は、輸送方程式であることを特徴とする請求項4記載の解析方法。
【請求項6】
前記支配方程式は、拡散方程式であることを特徴とする請求項4記載の解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78448(P2011−78448A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230726(P2009−230726)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】