説明

光トランシーバおよびその調整方法

【課題】高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる光トランシーバおよびその調整方法を提供する。
【解決手段】2つの光トランシーバ1,2は、互いに同じ構成を有していて、送信部10,受信部20および制御部30を備える。光トランシーバ1,2それぞれの送信部10は、CDR部11,LDD部12,送信用分散等化部13およびレーザダイオード14を含む。光トランシーバ1,2それぞれの受信部20は、フォトダイオード21,TIA部22,受信用分散等化部23およびCDR部24を含む。電気信号ライン,レーザダイオード14およびフォトダイオード21それぞれにおける波形歪は送信用分散等化部13により等化され、光トランシーバ間の光ファイバにおける波形歪は受信用分散等化部23により等化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を送受信する光トランシーバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムは、送信部から送出された光信号を光ファイバ伝送路により伝送させ受信部により受信するものであり、大容量の情報を高速に送受信することができる。また、光通信システムでは、送信部および受信部を備える光トランシーバが用いられる。
【0003】
例えば数km以下の比較的短距離であって例えば数百Mbps以下の比較的低速の光通信システムでは、光ファイバ伝送路としてマルチモード光ファイバが用いられ、送信部に含まれる発光部として発光ダイオードが用いられる。一方、長距離で高速の光通信システムでは、光ファイバ伝送路としてシングルモード光ファイバが用いられ、送信部に含まれる発光部としてレーザダイオードが用いられる。また、受信部に含まれる受光部としてフォトダイオードが用いられる。
【0004】
実際、伝送速度125Mbpsで伝送距離2kmの場合の光通信規格を定めた国際標準FDDIでは、光ファイバ伝送路としてマルチモード光ファイバの一種であるコア径62.5μmのグレイデッドインデックス型光ファイバが採用されている。また、622Mbps,2.5Gbpsおよび10Gbpsのように更に高速な伝送を行う国際標準SDHや、1Gbps以上のイーサネット(登録商標)規格では、光ファイバ伝送路としてシングルモード光ファイバが採用され、送信部に含まれる発光部としてレーザダイオードが採用されている。
【0005】
ところで、伝送されるべきデータ量の増大に伴い、低速通信用途として既に敷設されているマルチモード光ファイバを、レーザダイオードを用いた高速通信でも活用することができないかが検討されはじめている。マルチモード光ファイバは、コア径が大きいので、発光部から多くの光をコア内に取り込みやすく、光源とコアとの結合が容易で、少々軸ずれしても大きなロスが出ないことからコネクタ製造も容易であるで、低コストという利点がある。その一方で、マルチモード光ファイバは、コア内を多くのモードの光が伝送し、各モードのファイバ内伝播遅延時間が異なるので、光波形が歪みやすく、高速信号伝送が困難という欠点がある。
【0006】
そこで、マルチモード光ファイバ内のモード間の伝搬遅延時間を補正するために、受信部において、光信号から電気信号へ変換した後、その電気信号に対して分散等化部により分散等化処理をする技術が知られている(非特許文献1を参照)。この分散等化部は、電気のデジタルフィルタである。このような分散等化部を採用することで、10Gbpsの高速伝送を実現することができるとされている。なお、分散等化は分散補償と呼ばれる場合もある。また、このように受信部に分散等化部を設けるとともに、光ファイバ伝送路で生じる光信号の波形歪を送信部において予め補正する技術(pre-emphasis技術)を採用することが提案されている(特許文献1を参照)。さらに、光ファイバ伝送路で生じる光信号の波形歪を逆算し、送信部から送出される光信号の波形を決める電気式のpre-compensation技術も検討されている(非特許文献2を参照)。
【特許文献1】米国特許第7,147,387号明細書
【非特許文献1】H. Bulow, et al. "Electron Equalization of TransmissionImpairments", Technical Digest of OFC 2002, TuE4
【非特許文献2】K. Roberts, et al, "Electronic Precompensation of OpticalNonlinearity", IEEE Photonics Technology Letters,Vol.18, No.2, pp.403-405, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば10Gbpsを超えるような超高速伝送では、マルチモード光ファイバやシングルモード光ファイバのような光ファイバの種類に限らず、光ファイバにより伝送される間に発生する光信号の波形歪に加えて、光トランシーバ内の電気信号ラインの帯域不足やレーザダイオードおよびフォトダイオードの帯域不足など様々な要因によって電気信号の波形歪が発生し、これらが伝送上の深刻な問題となる。
【0008】
また、低コスト化を図るために、実際に伝送する信号速度に対し伝送帯域が狭くとも安価なレーザダイオードまたはフォトダイオードを使う場合もあるが、このような場合にも伝送上の問題が発生する。
【0009】
そこで、非特許文献1には、光トランシーバの受信側に分散等化部を備えることが提案されている。しかし、この場合、分散等化部には、電気信号ラインで生じた歪、光ファイバで生じた歪、および、レーザダイオードやフォトダイオードで生じた歪など、全ての歪が蓄積された波形の電気信号が入力される。それ故、分散等化部の分散等化能力を超えやすいという問題が発生する。
【0010】
また、特許文献2では、送信側の波形の特性を見ながらプリエンファシス(pre -emphasis)を行う技術が開示されているが、このpre-emphasis技術と受信側の分散等化部との関係や、光ファイバで生じる歪についての考慮が開示されていない。すなわち、この文献には、当業者が実施できる程度に発明が開示されてはいない。
【0011】
さらに、非特許文献2で示されている送信側でのpre-compensation技術の場合、全ての歪をpre-compensationで補正する必要があり、pre-compensationに大きな歪補償能力が要求される。一方、pre-compensationを行う際に最適な係数を求めるためには波形歪を逆算する大きな演算能力が必要とされる。小型化高速化が求められる中で発熱問題が大きな課題となっている送信部で高速演算処理を行うことは放熱の観点から好ましくない。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる光トランシーバおよびその調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光トランシーバは、(1) 入力される電気信号に対して分散等化処理をして当該処理後の電気信号を出力する送信用分散等化部と、この分散等化部から出力される電気信号に基づいて光信号を生成して出力する発光部と、を含む送信部と、(2) 入力される光信号に基づいて電気信号を生成して出力する受光部と、この受光部から出力される電気信号に対して分散等化処理をして当該処理後の電気信号を出力する受信用分散等化部と、を含む受信部と、(3) 送信用分散等化部および受信用分散等化部を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
更に、本発明に係る光トランシーバでは、(a) 送信用分散等化部および受信用分散等化部それぞれが、入力される電気信号に対して遅延を与える縦続接続された複数の遅延部と、これら複数の遅延部それぞれから出力される電気信号の値に対しタップ係数を乗じて当該乗算後の電気信号を出力する複数の乗算部と、これら複数の乗算部それぞれから出力される電気信号の値の総和を求め当該総和値を表す電気信号を出力する総和部と、を含み、(b) 制御部が、自己の受信用分散等化部のタップ係数を調整するとともに、自己または他の同じ構成を有する光トランシーバの受信用分散等化部のタップ係数に基づいて自己の送信用分散等化部のタップ係数を調整する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光トランシーバ調整方法は、上記の本発明に係る光トランシーバと同じ構成を有する第1光トランシーバおよび第2光トランシーバそれぞれの送信用分散等化部のタップ係数および受信用分散等化部のタップ係数を調整する方法であって、(1) 第1光トランシーバの発光部と第2光トランシーバの受光部とを光学的に互いに接続し、第1光トランシーバの送信用分散等化部における分散等化処理を停止させ、第1光トランシーバの送信部から第2光トランシーバの受信部へ光信号が送られている状態で、第2光トランシーバの受信用分散等化部のタップ係数を制御部により調整させ、(2) その調整後に、第2光トランシーバの受信用分散等化部のタップ係数に基づいて、第1光トランシーバの送信用分散等化部のタップ係数を制御部により調整させる、ことを特徴とする。
【0016】
他の本発明に係る光トランシーバ調整方法は、上記の本発明に係る光トランシーバの送信用分散等化部のタップ係数および受信用分散等化部のタップ係数を調整する方法であって、(1) 発光部と受光部とを光学的に互いに接続し、送信用分散等化部における分散等化処理を停止させ、送信部から受信部へ光信号が送られている状態で、受信用分散等化部のタップ係数を制御部により調整させ、(2) その調整後に、受信用分散等化部のタップ係数に基づいて、送信用分散等化部のタップ係数を制御部により調整させる、ことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、電気信号ライン,発光部および受光部それぞれにおける波形歪は送信用分散等化部により等化され、光トランシーバ間の光ファイバにおける波形歪は受信用分散等化部により等化される。このように、送信用分散等化部と受信用分散等化部とに等化機能が分散されるので、送信部および受信部の一方のみに設けられた分散等化部により歪を補償する場合に比べて、より厳しい波形歪に対しても良好な伝送を行うことが可能となり、高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
【0021】
先ず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る光トランシーバの構成およびその調整方法を説明する図である。この図には、2つの第1光トランシーバ1および第2光トランシーバ2が示されている。これら2つの光トランシーバ1,2は、互いに同じ構成を有していて、送信部10,受信部20および制御部30を備える。
【0022】
光トランシーバ1,2それぞれの送信部10は、CDR部11,LDD部12,送信用分散等化部13およびレーザダイオード14を含む。CDR(clock data recovery)部11は、電気信号を入力し、その電気信号のデータを復元して、データ復元後の電気信号をLDD部12へ出力する。LDD(laser-diode driver)部12は、CDR部11から出力される電気信号を入力し、その入力した電気信号に基づいてレーザダイオード14を駆動するための電気信号を生成して、その生成した電気信号を送信用分散等化部13へ出力する。送信用分散等化部13は、LDD部12から出力される電気信号を入力し、その電気信号に対して分散等化処理をして、当該処理後の電気信号をレーザダイオード14へ出力する。また、レーザダイオード14は、発光部として作用するものであり、送信用分散等化部13から出力される電気信号を入力し、その電気信号に基づいて光信号を生成して、その光信号を出力する。
【0023】
光トランシーバ1,2それぞれの受信部20は、フォトダイオード21,TIA部22,受信用分散等化部23およびCDR部24を含む。フォトダイオード21は、受光部として作用するものであり、光信号を入力し、その光信号に基づいて電気信号を生成して、その生成した電気信号をTIA部22へ出力する。TIA(trans-impedance amplifier)部22は、フォトダイオード21から出力される電気信号を電流として入力し、この入力した電気信号を電圧としての電気信号に変換して、この変換後の電気信号を受信用分散等化部23へ出力する。受信用分散等化部23は、TIA部22から出力される電気信号を入力し、その電気信号に対して分散等化処理をして、当該処理後の電気信号をCDR部24へ出力する。また、CDR部24は、受信用分散等化部23から出力される電気信号を入力し、その電気信号のデータを復元して、データ復元後の電気信号を出力する。
【0024】
第1トランシーバ1のレーザダイオード14と第2トランシーバ2のフォトダイオード21とは光ファイバ41により互いに光学的に接続される。また、第2トランシーバ2のレーザダイオード14と第1トランシーバ1のフォトダイオード21とは光ファイバ42により互いに光学的に接続される。光トランシーバ1,2それぞれの制御部30は、送信用分散等化部13および受信用分散等化部23を制御する。この詳細については後述する。
【0025】
これら第1光トランシーバ1および第2光トランシーバ2を含むシステムの概略動作は以下のとおりである。
【0026】
第1光トランシーバ1では、CDR部11に入力される電気信号はCDR部11によりデータが復元されて、そのデータ復元後の電気信号がCDR部11から出力されLDD部12に入力される。LDD部12では、CDR部11から出力される電気信号に基づいてレーザダイオード14を駆動するための電気信号が生成されて、その生成された電気信号が送信用分散等化部13へ出力される。送信用分散等化部13では、LDD部12から出力される電気信号が入力され、その電気信号に対して分散等化処理がなされて、当該処理後の電気信号がレーザダイオード14へ出力される。そして、レーザダイオード14では、送信用分散等化部13から出力される電気信号が入力され、その電気信号に基づいて光信号が生成されて、その光信号が光ファイバ41へ出力される。第1光トランシーバ1のレーザダイオード14から出力された光信号は、光ファイバ41により伝送されて、第2光トランシーバ2のフォトダイオード21へ入力される。
【0027】
第2光トランシーバ2では、光ファイバ41により伝送されて到達した光信号がフォトダイオード21により受光され、そのフォトダイオード21により、その光信号に基づいて電気信号が生成されて、その生成した電気信号がTIA部22へ出力される。TIA部22では、フォトダイオード21から出力される電気信号が電流として入力され、この入力した電気信号が電圧としての電気信号に変換されて、この変換後の電気信号が受信用分散等化部23へ出力される。受信用分散等化部23では、TIA部22から出力される電気信号が入力され、その電気信号に対して分散等化処理がなされて、当該処理後の電気信号がCDR部24へ出力される。そして、CDR部24では、受信用分散等化部23から出力される電気信号が入力され、その電気信号のデータが復元されて、データ復元後の電気信号が出力される。
【0028】
以上に説明したのは第1光トランシーバ1の送信部10から第2光トランシーバ2の受信部20へ光信号を伝送する場合の動作であるが、第2光トランシーバ2の送信部10から第1光トランシーバ1の受信部20へ光信号を伝送する場合の動作も同様である。
【0029】
図2は、第1実施形態に係る光トランシーバに含まれる受信用分散等化部23の構成を示す図である。光トランシーバ1,2それぞれに含まれる受信用分散等化部23は、M個の遅延部51〜51、(N+1)個の遅延部52〜52、(M+1)個の乗算部53〜53、(N+1)個の乗算部54〜54、総和部55、サンプラ部56、スライサ部57、減算部58およびタップ係数制御部59を含む。ここで、M,Nは1以上の整数である。また、以下に登場するmは1以上M以下の各整数であり、nは0以上N以下の各整数である。
【0030】
M個の遅延部51〜51は、この順に縦続接続されており、入力される電気信号に対して時間Tだけ遅延を与えて出力する。(N+1)個の遅延部52〜52も、この順に縦続接続されており、スライサ部57から入力される電気信号に対して時間Tだけ遅延を与えて出力する。なお、時間Tは、CDR部11により電気信号が復元される際に得られるクロック信号の周期である。
【0031】
乗算部53は、入力される電気信号にタップ係数cを乗じて、当該乗算後の電気信号を総和部55へ出力する。乗算部53は、遅延部51から出力される電気信号にタップ係数cを乗じて、当該乗算後の電気信号を総和部55へ出力する。乗算部54は、遅延部52から出力される電気信号にタップ係数dを乗じて、当該乗算後の電気信号を総和部55へ出力する。総和部55は、(M+1)個の乗算部53〜53および(N+1)個の乗算部54〜54それぞれから出力される電気信号の値の総和を求め、当該総和値を表す電気信号を出力する。
【0032】
サンプラ部56は、総和部55から出力される電気信号を入力し、その入力した電気信号を時間T毎にサンプリングしホールドして、そのホールドした電気信号をスライサ部57へ出力する。スライサ部57は、サンプラ部56から出力される電気信号を入力し、その入力した電気信号の値と所定の閾値とを大小比較して、その比較結果を表す値を有する電気信号を遅延部52へ出力する。減算部58は、サンプラ部56から出力される電気信号を入力するとともに、スライサ部57から出力される電気信号を入力して、これら2つの電気信号の値の差を誤差信号としてタップ係数制御部59へ出力する。タップ係数制御部59は、減算部58から出力される誤差信号を入力して、この誤差信号の絶対値が小さくなるようにタップ係数c〜c,d〜dを制御する。
【0033】
このように構成される受信用分散等化部23において、遅延部51〜51,乗算部53〜53および総和部55は、フィードフォワード等化部を構成している。また、遅延部52〜52,乗算部54〜54,総和部55,サンプラ部56およびスライサ部57は、フィードバック等化部を構成している。なお、受信用分散等化部23は、構成を簡略化する場合には、フィードフォワード等化部のみを有する構成としてもよい。
【0034】
この受信用分散等化部23は、タップ係数c〜c,d〜dそれぞれが適切な値に設定されることにより、入力される電気信号に対して分散等化処理をして、当該処理後の電気信号を出力することができる。受信用分散等化部23における分散等化処理の特性は、タップ係数c〜c,d〜dそれぞれの値により決定される。
【0035】
この受信用分散等化部23は、減算部58から出力される誤差信号の絶対値が小さくなるようにタップ係数c〜c,d〜dをタップ係数制御部59により制御することができるので、入力される電気信号の波形歪が変動する場合にも、その電気信号に対して適切な分散等化処理をすることができる。
【0036】
図3は、第1実施形態に係る光トランシーバに含まれる送信用分散等化部13の構成を示す図である。光トランシーバ1,2それぞれに含まれる送信用分散等化部13は、M個の遅延部51〜51、(N+1)個の遅延部52〜52、(M+1)個の乗算部53〜53、(N+1)個の乗算部54〜54、総和部55、サンプラ部56、スライサ部57およびタップ係数制御部59を含む。
【0037】
図2に示された受信用分散等化部23の構成と比較すると、この図3に示される送信用分散等化部13は、減算部58を備えていない点で相違する。また、タップ係数制御部59は、誤差信号に基づいてタップ係数c〜c,d〜dを制御する必要はなく、タップ係数c〜c,d〜dそれぞれの値を固定値としてよい。送信用分散等化部13でも、構成を簡略化する場合には、フィードフォワード等化部のみを有する構成としてもよい。
【0038】
この送信用分散等化部13でも、タップ係数c〜c,d〜dそれぞれが適切な値に設定されることにより、入力される電気信号に対して分散等化処理をして、当該処理後の電気信号を出力することができる。送信用分散等化部13における分散等化処理の特性は、タップ係数c〜c,d〜dそれぞれの値により決定される。
【0039】
制御部30は、自己の受信用分散等化部23のタップ係数を調整するとともに、自己または他の同じ構成を有する光トランシーバの受信用分散等化部23のタップ係数に基づいて自己の送信用分散等化部13のタップ係数を調整する。なお、制御部30は、送信用分散等化部13のタップ係数制御部59と一体であってもよいし別体であってもよく、また、受信用分散等化部23のタップ係数制御部59と一体であってもよいし別体であってもよい。
【0040】
以下では、第1実施形態に係るトランシーバの送信用分散等化部13のタップ係数および受信用分散等化部23のタップ係数を調整する方法について説明する。第1実施形態では、制御部30により、第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23のタップ係数が調整されるとともに、この第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23のタップ係数に基づいて第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13のタップ係数が調整される。また、第1光トランシーバ1の受信用分散等化部23のタップ係数が調整されるとともに、この第1光トランシーバ1の受信用分散等化部23のタップ係数に基づいて第2光トランシーバ2の送信用分散等化部13のタップ係数が調整される。
【0041】
第1実施形態の光トランシーバ調整方法では、図1に示されるように、互いに同じ構成を有する第1光トランシーバ1と第2光トランシーバ1とが互いに光学的に接続される。当初は、第1トランシーバ1のレーザダイオード14と第2トランシーバ2のフォトダイオード21とを互いに光学的に接続する光ファイバ41は、累積波長分散の絶対値が小さい単尺のものが用いられる。
【0042】
また、第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13では、タップ係数c〜cのうち何れか1つのタップ係数のみが値1とされる一方で他のタップ係数が値0とされ、また、タップ係数d〜dが値0とされて、分散等化処理が停止される。そして、第1光トランシーバ1の送信部10から光ファイバ41を経て第2光トランシーバ2の受信部20へ光信号が送られている状態とする。この状態で、第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23において適応等化処理が行われ、第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23のタップ係数c〜c,d〜dの各値が調整される。
【0043】
その調整後に、第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23のタップ係数c〜c,d〜dの各値は、第2光トランシーバ2の制御部30および第1光トランシーバ1の制御部30を経て、第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13へ送られ、第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dとして設定される。
【0044】
このように累積波長分散の絶対値が小さい単尺の光ファイバ41で接続された状態で第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dが設定されることで、第1光トランシーバ1の送信用分散等化部13は、第1光トランシーバ1の送信部10における電気信号ラインの歪およびレーザダイオード14の歪、ならびに、第2光トランシーバ2の受信部20における電気信号ラインの歪およびフォトダイオード21の歪を、等化することができる。
【0045】
上記と同様にして、累積波長分散の絶対値が小さい単尺の光ファイバ42で接続された状態で第2光トランシーバ2の送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dが設定されることで、第2光トランシーバ2の送信用分散等化部13は、第2光トランシーバ2の送信部10における電気信号ラインの歪およびレーザダイオード14の歪、ならびに、第1光トランシーバ1の受信部20における電気信号ラインの歪およびフォトダイオード21の歪を、等化することができる。
【0046】
以上のようにして、第1光トランシーバ1および第2光トランシーバ2それぞれの送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dが設定された後、実際の光ファイバ伝送路として用いられる光ファイバ41,42が第1光トランシーバ1と第2光トランシーバ2との間に接続される。このとき、第1光トランシーバ1の受信用分散等化部23は光ファイバ41における光信号の波形歪のみを等化すればよく、また、第2光トランシーバ2の受信用分散等化部23は光ファイバ42における光信号の波形歪のみを等化すればよい。
【0047】
この光トランシーバ調整方法によれば、電気信号ライン,レーザダイオード14およびフォトダイオード21それぞれにおける波形歪は送信用分散等化部13により等化され、光トランシーバ間の光ファイバにおける波形歪は受信用分散等化部23により等化される。このように、送信用分散等化部13と受信用分散等化部23とに等化機能が分散されるので、送信部および受信部の一方のみに設けられた分散等化部により歪を補償する場合に比べて、より厳しい波形歪に対しても良好な伝送を行うことが可能となり、高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる。
【0048】
(第2実施形態)
【0049】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態に係る光トランシーバの構成およびその調整方法を説明する図である。この図には、1つの光トランシーバ3が示されている。この光トランシーバ3は、既に説明した光トランシーバ1,2と同じ構成を有している。送信用分散等化部13および受信用分散等化部23それぞれも、既に説明した光トランシーバ1,2に含まれるものと同じ構成を有している。
【0050】
第2実施形態では、制御部30により、光トランシーバ3の受信用分散等化部23のタップ係数が調整されるとともに、この受信用分散等化部23のタップ係数に基づいて送信用分散等化部13のタップ係数が調整される。
【0051】
第2実施形態の光トランシーバ調整方法では、図4に示されるように、当初は、レーザダイオード14とフォトダイオード21との間は、累積波長分散の絶対値が小さい単尺の光ファイバ43により互いに光学的に接続される。
【0052】
また、送信用分散等化部13では、タップ係数c〜cのうち何れか1つのタップ係数のみが値1とされる一方で他のタップ係数が値0とされ、また、タップ係数d〜dが値0とされて、分散等化処理が停止される。そして、送信部10から光ファイバ43を経て受信部20へ光信号が送られている状態とする。この状態で、受信用分散等化部23において適応等化処理が行われ、受信用分散等化部23のタップ係数c〜c,d〜dの各値が調整される。
【0053】
その調整後に、受信用分散等化部23のタップ係数c〜c,d〜dの各値は、制御部30を経て送信用分散等化部13へ送られ、送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dとして設定される。
【0054】
このように累積波長分散の絶対値が小さい単尺の光ファイバ43で接続された状態で光トランシーバ3の送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dが設定される。また、光トランシーバ3に対して光ファイバ伝送線路を介して接続される相手方の光トランシーバも、光トランシーバ3と同じ構成および特性を有している。このことから、光トランシーバ3の送信用分散等化部13は、光トランシーバ3の送信部10における電気信号ラインの歪およびレーザダイオード14の歪、ならびに、相手方の光トランシーバの受信部20における電気信号ラインの歪およびフォトダイオード21の歪を、等化することができる。
【0055】
以上のようにして、光トランシーバ3および相手方の光トランシーバそれぞれの送信用分散等化部13のタップ係数c〜c,d〜dが設定された後、実際の光ファイバ伝送路として用いられる光ファイバが2つの光トランシーバの間に接続される。このとき、光トランシーバ3の受信用分散等化部23は光ファイバにおける光信号の波形歪のみを等化すればよい。
【0056】
この光トランシーバ調整方法によれば、電気信号ライン,レーザダイオード14およびフォトダイオード21それぞれにおける波形歪は送信用分散等化部13により等化され、光トランシーバ間の光ファイバにおける波形歪は受信用分散等化部23により等化される。このように、送信用分散等化部13と受信用分散等化部23とに等化機能が分散されるので、送信部および受信部の一方のみに設けられた分散等化部により歪を補償する場合に比べて、より厳しい波形歪に対しても良好な伝送を行うことが可能となり、高速伝送の際にも容易に分散等化をすることができる。
【実施例1】
【0057】
次に、第1実施形態に係る光トランシーバの構成およびその調整方法の実施例について、比較例と対比して説明する。これら実施例および比較例の何れにおいても、送信用分散等化部13および受信用分散等化部23それぞれは、フィードバック等化部を有しておらず、フィードフォワード等化部のみから構成されるとし、乗算部53〜53の個数が9(M値が8)であるとする。送信部10および受信部20それぞれの電気信号ラインの帯域が5GHzであるとし、光トランシーバ間の実際の光ファイバの伝送帯域が2.6GHzであるとする。また、電気信号のビットレートが10Gbpsであるとする。以下に示す信号波形は計算によるものである。
【0058】
比較例は、図1に示される構成から送信用分散等化部13が削除されたものであり、各光トランシーバの受信部20の受信用分散等化部23のみにより分散等化処理が行われる。図5は、比較例における各位置での信号波形を示す図である。同図(a)は、送信部10に入力される電気信号の波形(歪無し)を示す。同図(b)は、累積波長分散の絶対値が小さい単尺の光ファイバで接続されている場合の受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形を示す。同図(c)は、伝送帯域2.6GHzの光ファイバで接続されている場合の受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形を示す。また、同図(d)は、伝送帯域2.6GHzの光ファイバで接続されている場合の受信部20の受信用分散等化部23から出力される電気信号の波形を示す。
【0059】
比較例では、送信部10に入力される電気信号の波形(歪無し)は同図(a)に示されるものであるのに対し、送信部10および受信部20それぞれの電気信号ライン(帯域5GHz)により歪が生じて受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形は同図(b)に示されるものとなり、光ファイバ(帯域2.6GHz)による歪も加わって受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形は同図(c)に示されるものとなる。同図(c)に示されるTIA部22の出力波形が殆どつぶれているので、同図(d)に示されるように受信用分散等化部23により信号波形は復元され得ない。
【0060】
図6は、実施例における各位置での信号波形を示す図である。実施例では送信部10において送信用分散等化部13により電気信号に対して分散等化処理が行われる。このとき、タップ係数は、上記の第1実施形態の調整方法により設定され、c=0.001,c=-0.007,c=0.042,c=-0.270,c=1.701,c=-0.286,c=0.048,c=-0.008,c=0.001 である。同図(a)は、送信部10の送信用分散等化部13から出力される電気信号の波形を示す。同図(b)は、伝送帯域2.6GHzの光ファイバで接続されている場合の受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形を示す。また、同図(c)は、伝送帯域2.6GHzの光ファイバで接続されている場合の受信部20の受信用分散等化部23から出力される電気信号の波形を示す。
【0061】
実施例では、送信部10の送信用分散等化部13から出力される電気信号の波形は同図(a)に示されるものであり、光ファイバ(帯域2.6GHz)による歪も加わって受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形は同図(b)に示されるものとなる。比較例における図5(c)および実施例における図6(b)の何れも、光ファイバ(帯域2.6GHz)による光信号の伝送後に受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形を示すものである。しかし、実施例では、送信部10において送信用分散等化部13により電気信号に対して分散等化処理が行われて、送信部10および受信部20それぞれの電気信号ラインの歪が等化されるので、比較例(図5(c))と比べて実施例(図6(b))では、受信部20のTIA部22から出力される電気信号の波形の歪(アイの潰れ)が小さい。その結果、同図(c)に示されるように、受信部20の受信用分散等化部23から出力される電気信号の波形では、アイが良好に開いている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施形態に係る光トランシーバの構成およびその調整方法を説明する図である。
【図2】第1実施形態に係る光トランシーバに含まれる受信用分散等化部23の構成を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る光トランシーバに含まれる送信用分散等化部13の構成を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る光トランシーバの構成およびその調整方法を説明する図である。
【図5】比較例における各位置での信号波形を示す図である。
【図6】実施例における各位置での信号波形を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1〜3…光トランシーバ、10…送信部、11…CDR部、12…LDD部、13…送信用分散等化部、14…レーザダイオード、20…受信部、21…フォトダイオード、22…TIA部、23…受信用分散等化部、24…CDR部、30…制御部、41〜43…光ファイバ、51〜51…遅延部、52〜52…遅延部、53〜53…乗算部、54〜54…乗算部、55…総和部、56…サンプラ部、57…スライサ部、58…減算部、59…タップ係数制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される電気信号に対して分散等化処理をして当該処理後の電気信号を出力する送信用分散等化部と、この分散等化部から出力される電気信号に基づいて光信号を生成して出力する発光部と、を含む送信部と、
入力される光信号に基づいて電気信号を生成して出力する受光部と、この受光部から出力される電気信号に対して分散等化処理をして当該処理後の電気信号を出力する受信用分散等化部と、を含む受信部と、
前記送信用分散等化部および前記受信用分散等化部を制御する制御部と、
を備え、
前記送信用分散等化部および前記受信用分散等化部それぞれが、入力される電気信号に対して遅延を与える縦続接続された複数の遅延部と、これら複数の遅延部それぞれから出力される電気信号の値に対しタップ係数を乗じて当該乗算後の電気信号を出力する複数の乗算部と、これら複数の乗算部それぞれから出力される電気信号の値の総和を求め当該総和値を表す電気信号を出力する総和部と、を含み、
前記制御部が、自己の前記受信用分散等化部のタップ係数を調整するとともに、自己または他の同じ構成を有する光トランシーバの前記受信用分散等化部のタップ係数に基づいて自己の前記送信用分散等化部のタップ係数を調整する、
ことを特徴とする光トランシーバ。
【請求項2】
請求項1記載の光トランシーバと同じ構成を有する第1光トランシーバおよび第2光トランシーバそれぞれの前記送信用分散等化部のタップ係数および前記受信用分散等化部のタップ係数を調整する方法であって、
前記第1光トランシーバの前記発光部と前記第2光トランシーバの前記受光部とを光学的に互いに接続し、前記第1光トランシーバの前記送信用分散等化部における分散等化処理を停止させ、前記第1光トランシーバの前記送信部から前記第2光トランシーバの前記受信部へ光信号が送られている状態で、前記第2光トランシーバの前記受信用分散等化部のタップ係数を前記制御部により調整させ、
その調整後に、前記第2光トランシーバの前記受信用分散等化部のタップ係数に基づいて、前記第1光トランシーバの前記送信用分散等化部のタップ係数を前記制御部により調整させる、
ことを特徴とする光トランシーバ調整方法。
【請求項3】
請求項1記載の光トランシーバの前記送信用分散等化部のタップ係数および前記受信用分散等化部のタップ係数を調整する方法であって、
前記発光部と前記受光部とを光学的に互いに接続し、前記送信用分散等化部における分散等化処理を停止させ、前記送信部から前記受信部へ光信号が送られている状態で、前記受信用分散等化部のタップ係数を前記制御部により調整させ、
その調整後に、前記受信用分散等化部のタップ係数に基づいて、前記送信用分散等化部のタップ係数を前記制御部により調整させる、
ことを特徴とする光トランシーバ調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−38769(P2009−38769A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203516(P2007−203516)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】