説明

光ドロップケーブル

【課題】セミによる光ファイバの断線を確実に防止することができ、しかも、製造が容易であって、コスト高や心線取り出し性が低下するなどの不都合のない光ドロップケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバ心線11と、この光ファイバ心線11の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体12a、12bと、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被13を備えたケーブル本体10と、このケーブル本体10を支持する支持線21を備えた支持線部20とを有する光ドロップケーブル100において、ケーブル本体10の外被13表面の光ファイバ心線11を挟んだほぼ対角の位置に、それぞれの先端が光ファイバ心線11近傍に達する第1および第2のスリット状ノッチ14a、14bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線系ケーブルから一般加入者宅内へ引き込み配線するために使用される光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットなどの通信サービスの普及に伴い、通信事業者から一般加入者宅までの全区間を光ファイバで結ぶFTTH(Fiber To The Home)が急速に拡大してきている。このようなFTTHにおいて、加入者宅近傍の光配線網は、電柱を用いた架空配線が一般的であり、電柱に架渉した配線ケーブルから光ドロップケーブルを用いて加入者宅に引き落とす方式が主に採用されている。
【0003】
図11は、このような光ドロップケーブルの一例を示したものである。同図に示すように、この光ドロップケーブルは、1本の単心光ファイバ心線1を挟んでその上下に抗張力体2、2を配置し、さらにその上に支持線3を配置し、これらの外周にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を一括押出被覆して外被4を設けた構造を有する。このケーブルの支持線3と抗張力体2の間には、ケーブルを支持線部5とケーブル部6に分割する連結部(首部)7が設けられており、また、ケーブル部6の外被4の両側面のほぼ中央部分には、引き裂き用の2つの傾斜面からなる断面V字形のノッチ8、8が設けられている。
【0004】
かかる光ドロップケーブルにおいては、支持線3が設けられているため、架空布設が可能であり、また、連結部7が設けられているため、ケーブル部6を支持線部5から分離させて屋内配線することができる。さらに、引き裂き用のノッチ8が設けられているため、これらのノッチ8部分で外被4をケーブルの幅方向に引き裂いて内部の光ファイバ心線1を容易に取り出すことができる。
【0005】
ところで、この種の光ドロップケーブルにおいて、夏季に光ファイバが断線する事例が報告され、その後の調査で、ケーブル外被4の側面に設けたノッチ8部分にセミ(クマゼミ)が産卵管を突き刺し、中の光ファイバを損傷させたことが、断線の原因であることが判明した。クマゼミの産卵管は、直径約0.4mmで先端が尖っており、一方、ノッチ8は、断面が入口幅約0.5mm、深さ約0.5mmのV字形状と産卵管が挿入しやすい形状で、かつ、挿入しやすい位置に設けられており、このことが光ファイバの断線事故につながったと考えられる。
【0006】
そこで、このようなセミの害から光ドロップケーブルを保護するため、例えば、(1)光ファイバ心線の外側にケーブル外被より硬い保護部材を設ける(例えば、特許文献1参照。)、(2)ノッチの開口部両縁に山形の突起を長さ方向に連続的に設ける(例えば、特許文献2参照。)、(3)ノッチの頂点を光ファイバ心線の位置からずらし、万一、ノッチにセミの産卵管が突き刺されても光ファイバ心線を損傷させないようにする(例えば、特許文献3、4参照。)、(4)ノッチの断面形状を、ケーブル外被の表面でほぼ閉口しているスリットを形成した菱形、レンズ型などとする(例えば、特許文献5参照。)、(5)光ファイバ心線取り出し用のノッチの他に、該ノッチに平行に複数条のノッチを設け、光ファイバ心線取り出し用のノッチにセミが産卵管を挿入する可能性を低下させる(例えば、特許文献6参照。)、(6)ノッチ開口部を剥離可能な材料で塞ぐ(例えば、特許文献7参照。)、(7)光ファイバ心線両側の抗張力体を挟んだ位置の外被表面にノッチを設け、セミの産卵管が抗張力体によってブロックされるようにする(例えば、特許文献8参照。)など、ケーブル構造自体に様々な対策を施したものが提案されている。
【0007】
しかしながら、このようなケーブルでは、断線防止効果が十分ではない、新たな部材を必要とするためコスト高となる、製造が困難である、心線の取り出し性が低下するなどの改善すべき点があった。
【0008】
また、上記方法以外にも、例えば、布設後に光ドロップケーブル全体をスパイラルチューブやホースなどで覆うなどの対策が考えられるが、既に布設された電柱上の光ドロップケーブルにスパイラルチューブなどを取り付ける作業は容易ではなく、多大な労力を要し、また、費用もかかる。
【特許文献1】特開2002−90591号公報
【特許文献2】特開2002−90592号公報
【特許文献3】特開2002−90593号公報
【特許文献4】特開2002−328276号公報
【特許文献5】特開2002−90594号公報
【特許文献6】特開2002−90595号公報
【特許文献7】特開2002−90596号公報
【特許文献8】特開2002−90597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の課題に対処してなされたもので、セミによる光ファイバの断線を確実に防止することができ、しかも、製造が容易であって、コスト高や心線取り出し性が低下するなどの不都合のない光ドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願の第1の発明の光ドロップケーブルは、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えた光ドロップケーブルであって、前記外被表面の前記光ファイバ心線を挟んだほぼ対角の位置に、それぞれの先端が前記光ファイバ心線近傍に達する第1および第2のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする。
【0011】
本願の第2の発明の光ドロップケーブルは、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被を備えたケーブル本体と、前記ケーブル本体を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、前記ケーブル本体の外被表面の前記光ファイバ心線を挟んだほぼ対角の位置に、それぞれの先端が前記光ファイバ心線近傍に達する第1および第2のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする。
【0012】
本願の第3の発明の光ドロップケーブルは、1本もしくは複数本の光ファイバ心線からなる心線部と、この心線部の両側に間隔をおいて並行にそれぞれの中心と前記心線部の中心がほぼ同一平面上に位置するように配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えた光ドロップケーブルであって、前記外被表面の前記心線部を挟んだほぼ対角の位置に第1および第2のノッチが設けられ、前記各ノッチは、前記平面に対しほぼ垂直な面と前記平面に対し傾斜した面の2つの面からなる断面V字形であり、前記垂直面が前記心線部の位置からずれ、前記傾斜面が前記心線部に位置していることを特徴とする。
【0013】
本願の第4の発明の光ドロップケーブルは、1本もしくは複数本の光ファイバ心線からなる心線部と、この心線部の両側に間隔をおいて並行にそれぞれの中心と前記心線部の中心がほぼ同一平面上に位置するように配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えたケーブル本体と、前記ケーブル本体を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、前記外被表面の前記心線部を挟んだほぼ対角の位置に第1および第2のノッチが設けられ、前記各ノッチは、前記平面に対しほぼ垂直な面と前記平面に対し傾斜した面の2つの面からなる断面V字形であり、前記垂直面が前記心線部の位置からずれ、前記傾斜面が前記心線部に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ドロップケーブルによれば、セミなどによる光ファイバの断線をほぼ確実に防止することができるうえ、製造が困難になることはなく、また、コスト高や心線取り出し性が低下するなどの不都合が生じることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明の光ドロップケーブルの第1の実施形態を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の光ドロップケーブル100は、ケーブル本体10と支持線部20とこれらを連結する連結部30とから構成されている。
【0018】
ケーブル本体10は、単心光ファイバ心線11と、この単心光ファイバ心線11の上方および下方にこれらの各中心がほぼ同一平面上に位置するように間隔をおいて並行に配置された鋼線、FRP(繊維強化プラスチック)などからなる抗張力体12a、12b(以下、単心光ファイバ心線11上方の抗張力体12aを第1の抗張力体、単心光ファイバ心線11下方の抗張力体12bを第2の抗張力体と称する。)と、これらの外側に一括して押出被覆されたポリエチレンや塩化ビニル樹脂などのプラスチックからなる外被13とを備えている。外被13は断面が矩形状に形成されている。
【0019】
また、支持線部20は、鋼線などからなる支持線21と、その外周にケーブル本体10の外被13および連結部30と一体に押出被覆された被覆22とから構成されている。被覆22は断面が円形状に形成されている。
【0020】
そして、本実施形態においては、ケーブル本体10の外被13の表面に、引き裂き用のスリット状のノッチ14a、14bが、単心光ファイバ心線11を中心として点対称に設けられている。一方のスリット状ノッチ14a(以下、第1のノッチと称する。)は、単心光ファイバ心線11の第1の抗張力体12a側の外被13表面に開口部15aを有し、また、他方のスリット状ノッチ14a(以下、第2のノッチと称する。)は、単心光ファイバ心線11の第2の抗張力体12a側の外被13表面に開口部15bを有している。さらに、これらの第1および第2のスリット状ノッチ14a、14bは、いずれも中間部分で、ケーブル本体10の中心に向けて屈曲しており、先端が単心光ファイバ心線11の近傍にまで達している。なお、スリット状ノッチ14a、14bの各開口部15a、15bの幅は、0.1〜0.5mmであることが好ましく、0.1mm未満では、外被13の引き裂き性が劣り、内部の単心光ファイバ心線11を取り出すことが困難となる。また、逆に、0.5mmを超えると、外被13の強度が低下し、外部から受ける応力で外被13の引き裂き事故が発生するおそれがある。
【0021】
上記単心光ファイバ心線11は、特に限定されるものではなく、光ファイバの外周にシリコーン樹脂や紫外線硬化型樹脂などを被覆したもの、その外周にさらにナイロン樹脂や着色剤配合の熱可塑性エラストマ、例えばポリブチレンナフタレート系熱可塑性エラストマやポリブチレンテレフタレート系熱可塑性エラストマなどを被覆したものなどが使用される。
【0022】
また、ケーブル本体10の外被13、支持線部20の被覆22および連結部30を構成する材料としては、ポリエチレンや塩化ビニル樹脂の他、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体などが使用される。これらの樹脂には、難燃剤や着色剤などが配合されていてもよい。
【0023】
さらに、第1および第2の抗張力体12a、12bを構成する材料としては、鋼線やFRPの他、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維などのアラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル系繊維、ナイロン繊維、これらの繊維をポリエステル−アクリレート樹脂などで収束し結着させた複合材などが挙げられる。
【0024】
本実施形態の光ドロップケーブル100においては、ノッチ14a、14bの形状がスリット状でセミの産卵管をガイドし難い形状であるうえ、単心光ファイバ心線11の第1の抗張力体12a側の外被13表面および第2の抗張力体12b側の外被13表面というセミが産卵管を挿入し難い位置にノッチ14a、14bの開口部15a、15bを有するため、セミの産卵管の挿入が従来の光ドロップケーブルに比べ抑制される。そのうえ、この実施形態では、スリット状ノッチ14a、14bが中間部分で屈曲しているため、万一、セミの産卵管が開口部15a、15bから挿入されることがあっても、セミの産卵管はノッチ14a、14bの屈曲点で屈曲することなく外被13に突き刺さるため、産卵管の先端が単心光ファイバ心線11に達することはない。したがって、セミの産卵管による光ファイバの断線をほぼ確実に防止することができる。
【0025】
一方、単心光ファイバ心線11を取り出す際には、スリット状ノッチ14a、14bに沿って外被13を引き裂くようにすれば、単心光ファイバ心線11を容易に取り出すことができる。また、製造が困難になることはなく、新たな部材を必要とすることもないため、製品価格の上昇を招くこともなない。
【0026】
図2は、上記第1の実施形態の変形例を示す断面図である。この例に示す光ドロップケーブル101は、引き裂き用のスリット状のノッチ14a、14bが屈曲部を持たず、かつ、外被13の互いに対角をなすほぼ角部にそれぞれの開口部15a、15bを有している点を除いて、図1に示す光ドロップケーブル100と同様に構成されている。
【0027】
このように構成される光ドロップケーブル101においても、ノッチ14a、14bの形状がスリット状でセミの産卵管をガイドし難い形状であって、セミが産卵管を挿入し難い位置にノッチ14a、14bの開口部15a、15bが形成されているため、セミの産卵管の挿入が従来の光ドロップケーブルに比べ抑制される。さらに、図1に示す光ドロップケーブル100のように、各ノッチ14a、14bは中間部分で屈曲されていないものの、ノッチ先端までの距離が長いため、セミの産卵管が単心光ファイバ心線11に到達するおそれは少ない。したがって、セミの産卵管による光ファイバの断線を従来に比べ、より確実に防止することができる。
【0028】
そして、この光ドロップケーブル101においても、スリット状ノッチ14a、14bに沿って外被13を引き裂くことにより、単心光ファイバ心線11を容易に取り出すことができるとともに、製造は容易であり、価格の上昇を招くこともなない。
【0029】
なお、光ファイバ心線の取り出し性を確認するため、以下に示すように、図1および図2に示す光ドロップケーブル100、101を試作し、光ファイバ心線の取り出しを試みたところ、いずれも良好な結果が得られた。
【0030】
すなわち、単心光ファイバ心線11と抗張力体12a、12bと支持線21とを図1に示すように平行に並べた状態で押出し機に導入し、その外周にノンハロゲン難燃ポリエチレン(日本ユニカー社製 商品名 NUC9739)を一括押出被覆して、全体の幅が約2.2mm、同高さが約5.7mmであって、開口部幅約0.3mm、深さ(全長)約1.6mm、開口部縁から屈曲点までの長さ約1.0mmのスリット状ノッチ14a、14bを有する図1に示す光ドロップケーブルを製造した。同様にして、全体の幅が約2.1mm、同高さが約5.7mmであって、開口部幅約0.3mm、深さ(全長)約1.5mmのスリット状ノッチ14a、14bを有する図2に示す光ドロップケーブルを製造した。なお、単心光ファイバ心線11には、外径250μmの単心光ファイバ心線を用い、ケーブル本体10の抗張力体12a、12bには、外径0.4mmのアラミドFRPを用い、支持線21には、外径1.2mmの亜鉛めっき鋼線を用いた。
【0031】
得られた各光ドロップケーブルは、手で外被を引き裂くことにより、容易に光ファイバ心線を取り出すことができた。
【0032】
なお、本発明においては、図3に例示するように、ケーブル本体10内に収容する単心光ファイバ心線11の数は2本またはそれ以上であってもよい。図3に示す光ドロップケーブル102は、図1に示す実施形態において、単心光ファイバ心線11を2本配置したものである。
【0033】
また、図4に例示するように、単心光ファイバ心線11に代えて、1枚乃至複数枚の光ファイバテープ心線111を使用してもよい。図4に示す光ドロップケーブル103は、図1に示す実施形態において、1本の単心光ファイバ心線11に代えて、4本の光ファイバ素線を並列させ、その外周に一括被覆を施した光ファイバテープ心線111を1枚配置したものである。
【0034】
さらに、本発明は、図示は省略したが、支持線部20を持たない光ドロップケーブルに適用することも可能である。すなわち、上記実施形態におけるケーブル本体10のみで構成されていてもよい。
【0035】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。
【0036】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る断面図であり、図1〜図4に共通する部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0037】
図5に示すように、本実施形態に係る光ドロップケーブル104は、単心光ファイバ心線11に代えて、4本の光ファイバ素線を並列させ、その外周に一括被覆を施した光ファイバテープ心線111が用いられているとともに、スリット状のノッチ14a、14bに代えて次述するような断面V字形のノッチ16a、16bが設けられている点を除いて、図1に示す光ドロップケーブル100と同様に構成されている。
【0038】
すなわち、本実施形態において、引き裂き用のノッチ16a、16bは、光ファイバテープ心線111と第1および第2の抗張力体12a、12bの中心を通る平面に対しほぼ垂直な面Sとこの垂直な面Sに対し傾斜した面Sの2つの面からなる断面V字形で、一方のノッチ16a(以下、第1のノッチと称する。)は垂直な面Sが光ファイバテープ心線111の位置から上方にずれるとともに、光ファイバテープ心線111全体が傾斜面Sに位置するように設けられている。また、他方のノッチ16b(以下、第2のノッチと称する。)は垂直な面Sが光ファイバテープ心線111の位置から下方にずれるとともに、光ファイバテープ心線111全体が傾斜面Sに位置するように設けられている。
【0039】
本実施形態の光ドロップケーブル104においては、セミが産卵管を挿入しやすい位置に、挿入しやすい形状のノッチ16a、16bが設けられており、セミの産卵管はこれらのノッチ16a、16bにガイドされ、該部に突き刺される確率が高いものの、その断面形状は、光ファイバテープ心線111と第1および第2の抗張力体12a、12bの中心を通る平面に対しほぼ垂直な面Sとこの垂直な面Sに対し傾斜した面Sの2つの面からなるV字形で、垂直な面Sが光ファイバテープ心線111の位置から上方(または下方)にずれているとともに、光ファイバテープ心線111全体が傾斜面Sに位置するように設けられているため、突き刺されたセミの産卵管の先端が光ファイバテープ心線111に達する確率は非常に低い。そのうえ、この実施形態では、光ファイバテープ心線111全体が傾斜面Sに位置するように設けられているため、セミの産卵管がノッチ部分に挿入される確率は、光ファイバテープ心線111の一部が傾斜面Sに位置している場合に比べてより高い。すなわち、セミの産卵管は極めて高い確率でノッチ部分に突き刺される。したがって、セミの産卵管による光ファイバの断線をほぼ確実に防止することができる。
【0040】
また、垂直な面Sを存在させたことにより、ケーブル本体10の機械的特性(側圧強度など)とセミの産卵管による光ファイバの断線事故防止効果のバランスをとることができ、セミの産卵管による光ファイバの断線事故を十分に防止しつつ、ケーブル本体10の機械的特性の低下を抑制することができる。
【0041】
一方、光ファイバテープ心線111を取り出す際には、断面V字形のノッチ16a、16bを起点に外被13を引き裂くようにすれば、外被13はノッチ16a、16bの先端を結ぶ線に沿って引き裂かれるため、光ファイバテープ心線111を容易に取り出すことができる。また、製造が困難になることはなく、新たな部材を必要とすることもないため、製品価格の上昇を招くこともない。
【0042】
なお、ノッチ16a、16bの形状および位置は、図6に示すように、各ノッチ16a、16bを構成する垂直面Sの光ファイバテープ心線111の上端(または下端)からのずれ長(図6中、Aで示す)が0.4mm以上で、光ファイバテープ心線111と各ノッチ16a、16b間の最小離間距離(図6中、Cで示す)が0.4mm以下となるように設けることが好ましい。先述したようにクマゼミの産卵管の直径は一般に約0.4mmであるため、ずれ長Aを0.4mm以上とすることにより、垂直面Sに沿ってセミの産卵管が挿入された場合であっても、産卵管と光ファイバテープ心線111の接触を防止することができる。また、光ファイバテープ心線111と各ノッチ16a、16b間の最小離間距離Cを0.4mm以下とすることにより、心線の取り出し性をより高めることができる。
【0043】
図7は、上記第2の実施形態の変形例を示す断面図である。この例に示す光ドロップケーブル105は、第1および第2のノッチ16a、16bに対向して、幅、深さがともに第1および第2のノッチ16a、16bより小さい第3および第4のノッチ16c、16dが設けられている点を除いて、図5に示す光ドロップケーブル104と同様に構成されている。なお、このため、第1および第2のノッチ16a、16bの幅は、図5に示す光ドロップケーブル104のものより狭くなっている。つまり、各ノッチ16a、16bの垂直な面Sに対する傾斜面Sの傾斜角は、図5に示す光ドロップケーブル104より鋭角となっている。そして、第3および第4のノッチ16c、16dも、第1および第2のノッチ16a、16bと同様、光ファイバテープ心線111と第1および第2の抗張力体12aの中心を通る平面に対しほぼ垂直な面Sとこの垂直な面Sに対し傾斜した面Sの2つの面からなる断面V字形で、垂直な面Sが光ファイバテープ心線111の位置から上方(または下方)にずれ、傾斜面Sが光ファイバテープ心線111に位置するように設けられている。
【0044】
このように構成される光ドロップケーブル105においては、各ノッチ16a〜16dの傾斜面Sの傾斜角が、図5に示す光ドロップケーブル104のものよりさらに鋭角であるため、セミの産卵管の先端をより確実にノッチ16a〜16dの先端にガイドすることができ、セミの産卵管による光ファイバの断線をより確実に防止することができる。また、心線の取り出し性についても、第3および第4のノッチ16c、16dの深さが、第1および第2のノッチ16a、16bの深さより浅いため、外被13は、第1および第2のノッチ16a、16bの先端を結ぶ線に沿って引き裂かれる。このため、容易に光ファイバテープ心線111を取り出すことができる。さらに、図5に示す光ドロップケーブル104と同様、製造は容易であり、新たな部材を必要としないため、価格の上昇を招くこともなない。
【0045】
光ファイバテープ心線111の取り出し性を確認するため、以下に示すように、図5および図7に示す光ドロップケーブル104、105を試作し、光ファイバテープ心線111の取り出しを試みたところ、いずれも良好な結果が得られた。
【0046】
すなわち、幅1.1mm、厚さ0.3mmの4心光ファイバテープ心線111と抗張力体12a、12bと支持線21とを図3に示すように平行に並べた状態で押出し機に導入し、その外周にノンハロゲン難燃ポリエチレン(日本ユニカー社製 商品名 NUC9739)を一括押出被覆して、全体の幅が約2.5mm、同高さが約6.0mmであって、開口部幅約1.6mm、深さ約1.0mm、ずれ長A約0.5mm、最小離間距離C0.3mmの第1および第2のノッチ14a、14bを有する図5に示す光ドロップケーブルを製造した。同様にして、全体の幅が約2.5mm、同高さが約6.0mmであって、開口部幅約1.2mm、深さ約1.0mm、ずれ長A約0.5mm、最小離間距離C0.3mmの第1および第2のノッチ14a、14bと、開口部幅約0.7mm、深さ約0.6mmの第3および第4のノッチ16c、16dを有する図7に示す光ドロップケーブルを製造した。なお、ケーブル本体10の抗張力体12a、12bには、外径0.4mmのアラミドFRPを用い、支持線21には、外径1.2mmの亜鉛めっき鋼線を用いた。
【0047】
得られた各光ドロップケーブルは、手で外被を引き裂くことにより、容易に光ファイバテープ心線111を取り出すことができた。
【0048】
なお、ケーブル本体10内に収容する光ファイバテープ心線111の数は1枚に限らず、2枚またはそれ以上であってもよい。また、図8および図9に例示するように、光ファイバテープ心線111に代えて、1本乃至複数本の単心光ファイバテープ心線11を使用してもよい。図8に示す光ドロップケーブル106は、図5に示す実施形態において、1枚の光ファイバテープ心線111に代えて、単心光ファイバテープ心線11を1本配置したものであり、図9に示す光ドロップケーブル107は、単心光ファイバ心線11を8本集合し配置したものである。
【0049】
さらに、図示は省略したが、支持線部20を持たない光ドロップケーブルに適用することも可能である。すなわち、上記実施形態におけるケーブル本体10のみで構成されていてもよい。
【0050】
図10は、本発明の第3の実施形態に係る断面図であり、図1に共通する部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0051】
本実施形態に係る光ドロップケーブル108は、図1に示したような光ドロップケーブルを用いて光ファイバを加入者宅内に引き込む直前の電柱間に架設する、いわゆる架空集合ドロップケーブルとして使用されるものであり、図1に示す光ドロップケーブル100のケーブル本体10を複数条(図面の例では、8条)、図1に示す光ドロップケーブル100のそれより大径の支持線部20の周囲に、支持線部20と一体化することなく撚り合わせた構造となっている。図1に示す光ドロップケーブル100のケーブル本体10に代えて、図2、図3、図4、図5、図7、図8、図9などに示す光ドロップケーブル101〜107のケーブル本体10が使用されてもよい。
【0052】
本実施形態の光ドロップケーブル108においても、第1の実施形態の場合と同様、ノッチ形成部分からのセミの産卵管の挿入が抑制され、従来に比べてセミの害による光ファイバの断線事故の発生率を低減することができるとともに、心線の取り出し性も良好である。また、新たな部材を必要とすることもなく容易に製造することができ、価格の上昇を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図2】第1の実施形態の変形例を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【図4】第1の実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図6】図5の一部を拡大して示す断面図である。
【図7】第2の実施形態の変形例を示す断面図である。
【図8】第2の実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【図9】第2の実施形態の他の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図11】従来の光ドロップケーブルの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10…ケーブル本体、11…単心光ファイバ心線、12a,12b…抗張力体、13…外被、14a,14b…スリット状ノッチ、16a〜16d…断面V字形ノッチ、20…支持線部、21…支持線、22…被覆、30…連結部、100〜108…光ドロップケーブル、111…光ファイバテープ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えた光ドロップケーブルであって、
前記外被表面の前記光ファイバ心線を挟んだほぼ対角の位置に、それぞれの先端が前記光ファイバ心線近傍に達する第1および第2のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
前記第1および第2のスリット状ノッチは、それぞれ中間部分で屈曲されていることを特徴とする請求項1記載の光ドロップケーブル。
【請求項3】
前記第1および第2のスリット状ノッチは、前記光ファイバ心線の前記第1および第2の抗張力体がそれぞれ位置する側の外被表面に開口部を有することを特徴とする請求項1または2記載の光ドロップケーブル。
【請求項4】
光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被を備えたケーブル本体と、前記ケーブル本体を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、
前記ケーブル本体の外被表面の前記光ファイバ心線を挟んだほぼ対角の位置に、それぞれの先端が前記光ファイバ心線近傍に達する第1および第2のスリット状ノッチが設けられていることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項5】
前記第1および第2のスリット状ノッチは、それぞれ中間部分で屈曲されていることを特徴とする請求項4記載の光ドロップケーブル。
【請求項6】
前記第1および第2のスリット状ノッチは、前記光ファイバ心線の前記第1および第2の抗張力体がそれぞれ位置する側の外被表面に開口部を有することを特徴とする請求項4または5記載の光ドロップケーブル。
【請求項7】
1本もしくは複数本の光ファイバ心線からなる心線部と、この心線部の両側に間隔をおいて並行にそれぞれの中心と前記心線部の中心がほぼ同一平面上に位置するように配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えた光ドロップケーブルであって、
前記外被表面の前記心線部を挟んだほぼ対角の位置に第1および第2のノッチが設けられ、前記各ノッチは、前記平面に対しほぼ垂直な面と前記平面に対し傾斜した面の2つの面からなる断面V字形であり、前記垂直面が前記心線部の位置からずれ、前記傾斜面が前記心線部に位置していることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項8】
前記心線部全体が前記傾斜面に位置していることを特徴とする請求項7記載の光ドロップケーブル。
【請求項9】
1本もしくは複数本の光ファイバ心線からなる心線部と、この心線部の両側に間隔をおいて並行にそれぞれの中心と前記心線部の中心がほぼ同一平面上に位置するように配置された第1および第2の抗張力体と、これらを一括被覆する断面がほぼ矩形の外被とを備えたケーブル本体と、前記ケーブル本体を支持する支持線を備えた支持線部とを有する光ドロップケーブルであって、
前記外被表面の前記心線部を挟んだほぼ対角の位置に第1および第2のノッチが設けられ、前記各ノッチは、前記平面に対しほぼ垂直な面と前記平面に対し傾斜した面の2つの面からなる断面V字形であり、前記垂直面が前記心線部の位置からずれ、前記傾斜面が前記心線部に位置していることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項10】
前記心線部全体が前記傾斜面に位置していることを特徴とする請求項9記載の光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−163337(P2006−163337A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117143(P2005−117143)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【Fターム(参考)】