説明

光バイオセンサーマトリックス

【課題】光バイオセンサーの1成分として用いられる検出セルを提供すること。
【解決手段】検出セル(2)を、透明な基材プレート(8)及びこの基材プレート上の試料プレート(4)を含むように構成する。試料プレートは、その内部に延在する複数個のウエル(6)のマトリックスを有していて、それぞれのウエルで試料を収容する。基材プレートは、薄膜導波路及び回折格子手段を含んでいて、入射光の領域をウエルの下方の薄膜導波路中に入り結合して回折光の領域を発生させ、よって、薄膜導波路の有効屈折率の変化の検出を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光バイオセンサーの分野、そして、自動化分析を可能とするための標準的な生化学分析の方法及び装置と特に組み合わせた、生化学分析に対する光バイオセンサーの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
光バイオセンサーは、光の屈折性及び結合性(カプリング性)を使用して、ある表面上における物質の存在を検出可能とする装置である。通常、集積型の光バイオセンサーは、特定の反射率を有する薄膜導波路を有していて、この導波路が、供試物質が接触するところの表面を形成している。この薄膜導波路に、薄膜導波路よりも低い屈折率を有している基材シートが接触する。次いで、格子カプラー又はプリズムカプラーを、前記基材シートと共働して、そのカプラーを介して基材シートに入射する光を入り結合(イン・カプリング)するように位置決めする。次いで、カプラーを介して前記基材シートに光を入射させ、そして入り結合及び出結合(アウト・カプリング)の光を監視する。薄膜導波路に対する分子のバインディングによって引き起こされるその薄膜導波路の屈折率の変化を、放出される出結合の光の角度の変化を観察することによって、検出することができる。試料中の特定の物質の存在を検出するために、薄膜導波路に、その第一の物質に特異的にバインディングする相補的物質を塗布することができる。
【0003】
格子カプラーを使用したバイオセンサーの一例は、特許文献1において開示されている。このバイオセンサーは、薄膜導波路に結合せしめられた基材シートを含んでいて、一緒に結合した前記シート及び薄膜の表面が格子カプラー又はブラッグ(Bragg)カプラー中に形成されている。この格子カプラーは、単回折又は多回折の構造体であることができる。薄膜導波路の屈折率は、基材シートのそれよりも大である。薄膜導波路上には、その導波路のうち試料が接触せしめられる領域において、化学感応物質が塗布される。選ばれた入射角で前記格子カプラーに対して単色光を照射するため、レーザーが用いられる。次いで、レーザー又は格子カプラーの位置を変更して、光が薄膜導波路中に入り結合するまで、その光の入射角を変化させる。薄膜導波路に対する分子バインディングによって引き起こされる有効屈折率になんらかの変化があると、入り結合の条件を妨害することになり、また、これを補正するため、光の入射角を変化させなければならない。したがって、入り結合光を維持するために必要な光の入射角の変化(これは、また、格子カプラーに対してのレーザーの位置に直接的に関係している)を監視する。次いで、入射角におけるこれらの変化を化学感応物質の表面にバインディングした分子の量の変化に関係づける。
【0004】
このバイオセンサーの場合、試料中の物質の存在及び量を検出するための極めて便宜な手段がもたらされるということが理解されるであろう。しかし、この装置の欠点は、レーザー又は格子カプラーを連続的に移動させなければならないということである。
【0005】
別の光バイオセンサーは、特許文献2において開示されており、また、この光バイオセンサーは、可動部材を使用することなしに結合光を監視することを可能としている。このバイオセンサーは、導波構造体に入り結合しかつそれから出結合することのできる扇形の単色光領域を使用することに依存している。出結合の光領域を1点に集中させ、そしてその点の位置を決定することができる。この点の位置における移動が、導波構造体の有効反射率における変化を指示することになる。
【0006】
光バイオセンサーは、高価な試薬や標識化技術を使用することなく物質の存在を検出する非常に便利な手段である。しかしながら、現在、光バイオセンサーは、特定の検出セルに収容しなければならない単一の試料を検査するために使用することができるだけである。したがって、研究所の技術者は、試料を光バイオセンサーに移送し、そのバイオセンサーに試料を入れ、そして監視しなければならない。その後、バイオセンサーを清浄にしなければならない。このことが、光バイオセンサーの適用を厳しく制限している。
【0007】
【特許文献1】欧州特許第226604号明細書
【特許文献2】国際公開第93/1487号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、1つの面において、本発明は、光バイオセンサーの1成分として使用するための検出セルを提供する。この検出セルは、透明な基材プレートと、該基材プレート上の試料プレートとを含んでいる。前記試料プレートは、それぞれが試料を収容するための該プレート内を延在するウエルのマトリックスを有しており、また、前記基材プレートは、薄膜導波路及び、ウエルの下方の薄膜導波路中に入射光領域を入り結合させて回折光領域を発生させ、よって、薄膜導波路の有効屈折率における変化の検出を可能とするための回折格子手段を含んでいる。
【0009】
好ましくは、前記検出セルは、微量滴定プレートと同一の寸法を有しており、そしてそれと同一の数のウエルを含有している。通常、微量滴定プレートは、6個、24個又は96個のウエルを有しており、但し、ウエルの数は、必要に応じて変更することが可能である。そのために、この検出セルは、分析実験室に置いてある標準的な流体取り扱い装置と組み合わせて使用することが可能であるという顕著な利点を奏することができる。流体取り扱い装置は、検出セルを清浄にし、試料を検出セル中に滴下し、そして検出セルをある位置から別の位置に移動させるために使用することができる。この検出セルが1成分を構成するところの光バイオセンサーは、次いで、それぞれのウエルの内容物を分析するために使用することができる。明らかなように、本発明の検出セルは、標準的な数のウエルを有することは不必要であり、いかなる数のウエルでも使用することができる。
【0010】
基材プレートは、基材シートから形成することができて、この基材シートには、その基材シートよりも大きな屈折率を有する薄膜導波路を被覆することができる。回折格子手段は、基材シート中、基材シートと薄膜導波路の中間又は薄膜導波路中に形成することができる。好ましくは、回折格子手段は、薄膜導波路と基材シートの間の界面に形成せしめられる。
【0011】
基材プレートは、それを試料プレートから取り外し、そして交換できるようにするため、試料プレートに着脱可能に固着させてもよい。
【0012】
それぞれのウエルの下方に独立した回折格子手段を設けてもよく、さもなければ、基材プレート全体を実質的にカバーして延在する単一の回折格子手段を設けてもよい。
【0013】
好ましくは、薄膜導波路は、金属酸化物を主体とする材料、例えば、Ta25 、TiO2 、TiO2 −SiO2 、HfO2 、ZrO2 、Al23 、Si34 、ZrO2 、HfON、SiON、酸化スカンジウム又はその混合物から構成することができる。また、適当なシリコンナイトライド又はオキシナイトライド(例えば、HfOxy )を使用してもよい。しかしながら、特に適当な材料は、Ta25 、HfO2 、Si34 、ZrO2 、Al23 、酸化ニオブ又はSiO2 及びTiO2 の混合物あるいはオキシナイトライドHfON又はSiONの一員、特にTiO2 である。好ましくは、薄膜導波路は、1.6〜2.5の範囲の屈折率を有している。また、薄膜導波路の膜厚は、20〜1000nm、好ましくは30〜500nmの範囲にわたって変更することができる。格子カプラーは、好ましくは、1000〜3000ライン/mm、例えば1200〜2400ライン/mmのライン密度を有している。
【0014】
基材シートは、好ましくは、ガラス又はプラスチックス(ポリカーボネート)から構成することができ、そして、好ましくは、1.3〜1.7、例えば1.4〜1.6の屈折率を有している。
【0015】
薄膜導波路の自由表面には、好ましくは、カプリング層に対するウエル中の特定の物質の選択的結合を可能にするためのカプリング層が被覆されている。この手法により、不精確度を低減することができる。カプリング層は、それと特定の物質との間で反応が発生して共有結合を生じるようなものであってもよく、さもなければ、ある種のその他の形の選択的カプリング、例えば抗体/抗原バインディングに依存していてもよい。明らかなように、薄膜導波路は、もしも特定の物質のその導波路に対する物理的吸着(例えば)が十分な選択度をもたらすのであるならば、カプリング層を有していなくてもよい。
【0016】
もう1つの面において、本発明は、上記したような検出セル、及び
(i)少なくとも1つの入射光領域を発生しかつその光領域を前記検出セルのウエルの下方の回折格子手段上に衝突させ、よって、薄膜導波路においてモード励起を発生させるための少なくとも1つの光源、
(ii)前記ウエルの下方の薄膜導波路から回折した光領域を集めるための少なくとも1つの集光手段、及び
(iii )集められた光領域の位置を監視するための少なくとも1つの位置感知デテクタを含む読み取りユニット、
を含んでなる分析装置(システム)を提供する。
【0017】
入射光領域は、好ましくは、レーザーによって発生せしめられる。また、好ましくは、1つよりも多くの入射光領域が提供され、そして、その際、検出セルのマトリックスのそれぞれの行について入射光領域が提供される。もしも1つよりも多くの入射光領域が提供されるのであるならば、それらの光領域は、(i)1個よりも多くの光源を用意すること、(ii)単一の光源の領域を分割すること、又は(iii )光領域を拡大すること、によって発生させることができる。同様に、1つよりも多くの光デデクタを用意して、それぞれの光領域に1つの光デテクタを付与してもよい。
【0018】
分析装置は、また、前記検出セルをその検出セルのウエルに充填を行う充填ステーションから読み取りユニットと共働可能な位置まで移送するための移送手段を有していてもよい。
【0019】
移送手段は、前記検出セルを所望とするそれぞれの場合に前記読み取りユニットに関して精確に同一の位置に固着することができるようにするために、位置固着手段を含んでいてもよい。しかし、検出セルを読み取りユニットに関して移動させる一方で、出結合光領域を交互に走査してもよい。
【0020】
別の一面において、本発明は、光バイオセンサーを使用して試料を自動化分析するための方法であって、上記したような検出セルのウエルにキャリヤ流体を充填すること、前記検出セルを、上記したような読み取りユニットと共働する位置まで移送すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視し、そして出結合光を参照値の提供のために記録すること、前記検出セルを滴定ステーションまで移送し、そしてそれぞれのウエルに試料を滴下すること、前記検出セルを移送して読み取りユニットまで戻し、そして検出セル内の回折格子手段上に光を照射すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視すること、及び得られた結果を前記参照値に対比すること、を含んでなる、自動化分析方法を提供する。
【0021】
さらに別の面において、本発明は、試料中の変化の動力学を測定するための方法であって、上記したような検出セルのウエルに試料を充填すること、前記検出セルを、上記したような分析装置の読み取りユニットと共働可能な位置まで移送すること、及びそれぞれのウエルからの異なる回折光領域を別々の間隔で繰り返し監視し、その際、あらゆるウエルのそれぞれの別々の間隔の時間を前記変化に要した時間よりも短くすること、を含んでなる、測定方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次いで、本発明の態様を、ほんの一例であるけれども、図面を参照して説明する:
図1は、検出プレートの斜視図であり、
図2は、図1の線分A−A’の断面図であり、
図3は、図2の領域Bの拡大図であり、
図4は、検出セル及び読み取りユニットを含むバイオセンサーシステムの説明図であり、
図5(a)〜(h)は、ウエルの下方の回折格子手段のいくつかの形状を図示したものであり、
図6(a)及び(b)は、出結合の絶対角を決定することのできる形状を図示したものであり、そして
図7図(a)〜(g)は、回折格子手段のいくつかの形状を図示したものである。
【0023】
図1及び図2を参照すると、検出セル2は、標準的なマイクロタイター(微量滴定)プレート(本例の場合、96ウエルのプレート)に同様な形状及び外観を有している。検出セル2は、試料プレート4から構成されており、また、この試料プレート4は、矩形の表面を有しておりかつその内部をその上部表面から下部表面にかけて延在する96個のウエル6を備えている。ウエル6は、8行及び12列のマトリックス(行列)からなっていて、それぞれの列は、その隣の列から等間隔で離れており、また、それぞれの行は、その隣の行から等間隔で離れている。試料プレート4の下部表面には基材シート8が取り付けられていて、ウエル6の底の部分を密閉している。基材シート8は、好ましくは、試料プレート4からそのものを取り外しできるようにするため、試料プレート4に着脱可能に取り付けられている。このように構成することによって、基材シート8をより良好に洗浄及び処理すること、あるいは必要に応じて交換することが、可能となる。
【0024】
基材シート8及び薄膜導波路12から構成される基材プレートは、また、試料プレート4に対して逆転不可能に取り付けることもできる。このようなことは、例えば、基材プレートと試料プレート4を一緒に超音波溶接する場合に達成される。薄膜導波路12はプラスチック材料から形成されていないけれども、超音波溶接を行うことは可能である。
【0025】
基材シート8は、適当な透明材料、例えばガラス又はプラスチックス(例えば、ポリカーボネート)からできており、そしてそれぞれのウエル6の下方に回折格子10を有している。回折格子10は、図3に最良の形態で示されるように、基材シート8と薄膜導波路12との間ののこぎり歯(ギザギザ)状の界面部分によって形成される。薄膜導波路12は、約2.43の屈折率(基材シート8のそれよりも大きい)を有しており、そしてTiO2 からできている。その他の適当な材料、例えば、Ta25 、TiO2 、TiO2 −SiO2 、HfO2 、ZrO2 、Al23 、Si34 、酸化ニオブ、酸化スカンジウム、オキシナイトライド(例えばHfOXY )及びその混合物を使用してもよい。薄膜導波路12の膜厚は、20〜500nmの範囲である。回折格子10の格子の密度は、好適には、約1000〜3000ライン(本)/mmである。
【0026】
回折格子10は、リソグラフィ、エンボス加工技術又は射出成形によって製造することができる。
【0027】
それぞれのウエル6の底部には、特定の物質だけが選択的にバインディングするようなカプリング層14を被覆することができる。例えば、カプリング層14は、特定の抗原に対して有効性が高い抗体から調製することができる。そのために、抗原は、もしもその抗原がウエル6内の試料中に存在していると、カプリング層中の抗体にバインディングするであろう。しかしながら、試料中のその他の抗原及び物質は、カプリング層14に対してバインディングすべきではない。このカプリング層14は、薄膜導波路12上に予め被覆されていてもよく、あるいは、使用前に、技術者によって被覆されてもよい。また、カプリング層14は、永久的なものであっても、あるいは除去可能なものであってもよい。
【0028】
次いで、図4を参照しながら、検出セル2の一例について説明する。最初に、選択されたカプリング層14を有しているかもしくは有していない検出セル2を選択する。この検出セル2に、常法では微量滴定プレートを併用する流体取扱い装置を使用してキャリヤ流体を充填し、そしてレーザー16の上を例えば矢印Cの方向に移動させる。適当なレーザーは、He−Neレーザー(632.8nm)又はレーザーダイオードである。レーザー16からの光のビームは、検出セル2が移動する時、1つの行内の第1のウエル6の回折格子10に衝突する。この光のビームが薄膜導波路12に入り結合し、そしてその出結合ビームが検出器18に向けられ、この検出器においてビームの位置の検出と記録が行われる。適当な検出器は、CCDアレイ又は位置感知デテクタである。国際公開第93/1487号パンフレットに開示されているようなレーザー及びデテクタシステムを使用することができる。検出器18上の1点に出結合ビームを集めるため、フーリエレンズを使用するのが適当である。
【0029】
検出セル2を移動させ、回折格子10を走査し、そして出結合光の位置を記録することの操作は、同一の行内のそれぞれのウエル6について実施する。すべての行の走査を行うため、それぞれの行に読み取りユニット(光領域及びデテクタを含む)を配備してもよい。別法に従えば、検出プレート2を移動させてマトリックス内の次の列を持ってくる前に、マトリックス内のその列に沿って読み取りユニットを移動させてもよい。適当なマイクロプロセッサを使用して結果の分析と保存を行ってもよい。また、検出プレート2の代わりに読み取りユニットを移動させることも可能である。
【0030】
ウエル6の全部の走査が完了した後、検出プレート2をもとに戻し、そして常法では微量滴定プレートを併用する流体取扱い装置を使用して試料をウエル6中に滴下する。次いで、検出セル2を読み取りユニットの所まで戻して、上記したようにウエル6の全部についての走査を行う。次いで、試料の添加後にそれぞれのウエル6について得られた読み取り値を試料の添加以前に得られたものと比較する。もしも試料中の物質がカプリング層14かもしくは薄膜導波路12の自由表面にバインディングしているならば、得られた読み取り値が変化を示すであろうし、また、このことを通じて、その物質が存在していることが示されるであろう。
【0031】
ある適用形態では、検出セル2を読み取りユニットの所まで戻す前に、特定のウエル中の試料をキャリヤ流体で置換することができる。このような置換を通じて、カプリング層14の屈折率の変化によって引き起こされるところの、読み取り値について認められる変化(参照読み取り値に関して)を検出することも可能となるであろう。
【0032】
光バイオセンサーは、また、試料における変化の動力学、例えば反応速度論についての情報を提供するために使用することができる。この場合には、カプリング層14の選択を、特定の反応生成物がその層にバインディングするようにして行う。次いで、反応体をウエル中に導入し、そして反応生成物の形成を監視する。好適には、この操作を1個よりも多数のウエル中で同時に行うことができ、その際、それぞれのウエルを別々の時間で監視し、そしてその後、最初のウエルに戻って再びその監視を行う前、次のウエル及びその続きのウエルの監視を行う。しかし、いずれかのウエルに回帰するに要する時間は、反応が完結するに要する時間よりも短時間(好ましくはかなりの短時間)でなければならない。また、いくつかのウエルを同時に監視するため、複数の入射光領域を使用することも可能である。このようにすれば、複数個のウエル間での循環の必要性がなくなるであろう。
【0033】
光バイオセンサーは角度の僅かな変化を検出するので、検出セル2に関して、そのウエルに試料を充填した後に、充填の前と精確に同一の立体及び角位置(読み取りユニットに関して)に戻すことが必要である(もしもその他の工程を採用しないのならば)。もしもこの操作を行わないと、得られた測定値を参照の測定値と対比することができない。
【0034】
光ビームを回折格子に関して精確に位置決めすることの必要性は、(i)単回折性又は多回折性であってもよい延在せる格子構造体を使用すること(このことは、図5(a)及び図5(b)に示されている)又は(ii)入射光ビームに関して連続的に移動せしめられる別個の回折格子構造体(逆もまた同様)によって回避することができる。入り結合の格子に対して入射光領域の衝突がある場合には、モード励起が発生する。次いで、位置感知デテクタ18で出結合光ビームの位置を、好ましくは最大の入り結合の位置で、測定する。この手法に従うと、光ビームに関して精確に同一の位置の所まで検出セル2を戻すことの必要性を回避することができる。
【0035】
検出セルの角位置における僅かな不精確を防止するため、読み取りユニットは、好ましくは、対向せる伝達方向においてモード励起を誘導する2つの入射光領域を用いてそれぞれのウエルの照明を行うようなものである。また、2つの出結合光領域のそれぞれの監視を、出結合光領域の角位置の測定を行うための独立した位置感知光デテクタを用いて実施する。次いで、位置感知デテクタから得られた2つの読み取り値を比較することによって出結合の絶対角を決定することができる。出結合の絶対角を計算するのに適当な方法は、以下で、図6を参照しながら説明することにする。
【0036】
入り結合格子のライン密度は、前方向及び後方向におけるモード励起を扇形の入射光領域1つによって引き起こすことができるように、選択することができる。光ビームの一部分で前方向のモード励起を引き起こし、そしてその他の部分で後方向のモード励起を引き起こすのである(この点は、図5(a)及び図5(c)に示されている)。
【0037】
図5(a)及び図5(b)において、扇形の入射光ビーム(30)が、連続した格子を有する薄膜導波路12に対して、前及び後方向で入り結合している。前方向における出結合光を前部デテクタ32で検出し、そして後方向における出結合光を後部デテクタ34で検出する。検出セル2は、それぞれのウエル6の下方において独立した回折格子10を有しなくてもよい。実際、試料プレート4の下部表面の大半を横断する形で延在する単一の回折格子手段を使用することができる。格子のライン密度は、所望に応じて容易に変更することができ、また、上記したような密度でなくてもよい。また、別々の回折格子構造体は、それら自体、好ましくは異なるライン密度を有する別々の格子から構成されていてもよい(このことは、図5(c)〜(h)において説明する)。
【0038】
図5(c)及び図5(d)において、扇形の入射光ビーム(30)が、2つの出結合格子GO の中間に配置された入り結合格子Gi を有する薄膜導波路12に対して、前及び後方向で入り結合している。前方向における出結合光を前部デテクタ32で検出し、そして後方向における出結合光を後部デテクタ34で検出する。2つの出結合格子GO を単一の大型格子に置き換えてもよい。この場合には、2つの格子を入り結合領域中に存在せしめることとなるであろう。入り結合格子Gi のために高ライン密度を選択することを通じて、妨害のもとである自由回折光を最低にすることができる。
【0039】
図5(e)及び図5(f)において、扇形の入射光ビーム(30)が、出結合格子GO の近傍に配置された2つの入り結合格子Gi を有する薄膜導波路12に対して、前及び後方向で入り結合している。前方向における出結合光を前部デテクタ32で検出し、そして後方向における出結合光を後部デテクタ34で検出する。説明を簡単にするために、前部及び後部の状態を別々に示してあるけれども、2つの異なる扇形光ビームを使用して、2つの入り結合格子Gi を同時に照明するのが好ましい。入り結合及び出結合格子は、同一のライン密度を有していてもよく、また、1つの大型の独立した回折格子を構成していてもよい。
【0040】
図5(g)及び図5(h)において、扇形の入射光ビーム(30)が、2つの出結合格子GO の近傍に配置された2つの入り結合格子Gi を有する薄膜導波路12に対して、前及び後方向で入り結合している。前方向における出結合光を前部デテクタ32で検出し、そして後方向における出結合光を後部デテクタ34で検出する。説明を簡単にするために、前部及び後部の状態を別々に示してある。オフ−ラインインキュベーションの適用(微量滴定プレートを使用する場合又は使用しない場合)のすべての場合、センサの絶対信号(例えば、出結合の絶対角)の測定が必要である。1つの格子を使用した前方向及び後方向の伝達モードの出結合は、SPIE、Vol.1141、192〜200に記載されている。1つの格子を使用した前方向及び後方向の伝達モードの出結合は、また、国際公開第93/1487号パンフレットに記載されている。
【0041】
出結合の絶対角を測定するための別の可能な方法は、2つの別々の出結合格子を使用するかもしくは単一の延在型出結合格子の最低2つの異なる領域を使用することからなっている。
【0042】
図6に一例を示す。この図において、前方及び後方伝達モードの出結合のため、2つの異なる出結合格子GO (又は1つの出結合格子の2つの異なる部分)を使用する。入射した扇形の光領域の回折によって入り結合が発生し、また、これによって、前及び後方向に伝達する2つの導波モードを同時に励起することが可能になる。2つの出結合格子GO はセンサ格子として作用し、そしてカプリング層14が被覆されている。図6(a)から理解することができるように、参照測定及びインキュベーション後の測定の間、同一の格子領域を前方伝達モード(又は後方伝達モード、それぞれ)によって説明することができる。
【0043】
2つの位置感知デテクタ32、34上の集束せしめられた光スポットの位置X- 、X+ から出結合角を算出する(図6(a)を参照されたい)。フーリエレンズを使用するので、位置感知デテクタ32、34のx方向における横方向の変位が読み取りユニットに関して僅かに存在しても、位置X- 、X+ の変化を生ずるものではない。しかし、位置感知デテクタをa軸に関してチルトさせると、位置X- 、X+ における変化が引き起こされる。図6(a)に示した形状において、まず、次式によって規定される絶対位置Xabc を測定することによって絶対出結合角を算出する。
【0044】
abc =|X± −(X+ −X- )/2|
【0045】
ここで、X+ 及びX- は、2つの位置感知デテクタの平均位置であるx=0に関しての測定値である。次いで、次式から絶対出結合角aabc を求める。
【0046】
abc =(Xabc −D)/f
【0047】
ここで、Dは2つのフーリエレンズの光軸間の距離であり、そしてfはそれらのレンズの焦点距離である。
【0048】
図6(b)において、ビームをより大きな角度をあけて分離する配置が示されている。そのために、より近づけて格子を配置することが可能である。
【0049】
回折格子構造体は、2方向、好ましくはノーマル(法線)方向で格子を含有していてもよい。1つの方向の格子は、それとは反対の方向の格子と同一のライン密度を有している必要はない。
【0050】
図7(a)〜図7(e)において、隣接せるウエルの下方にある格子は別々となっている。図7(a)において、ウエルの一部の下方にある格子はそれらの隣の下方にあるものに直角で延在している。図7(b)において、端部にあるウエルの下方にある格子はそれらに隣接する端部ウエルの下方にあるものに直角で延在している。図7(c)において、ウエルの一部の下方にある格子は2つの垂直な方向で延在している。図7(d)において、端部に一列又は一行で存在するウエルの下方にある格子は2つの垂直な方向で延在しており、そして残りのウエルの下方に存在する格子は1方向にのみ延在している。図7(e)において、一列又は一行で存在するすべてのウエルの下方にある格子はそれらに隣接する列又は行に存在するウエルの下方にあるものに直角で延在している。図7(f)において、一列又は一行で存在するすべてのウエルの下方にある格子はそれらに隣接する列又は行に存在するウエルの下方にあるものに直角で延在しており、しかし、これらの格子はその列又は行において連続している。図7(g)において、2種類の垂直な格子がすべてのウエルの下方に連続的に延在している。回折格子が互いに垂直に配向していると、2つの法線方向における自動コリメーションの角度及びしたがって基材シート8のチルトを決定することが可能になる。
【0051】
回折格子構造体は、基材シート8と薄膜導波路12の中間の界面に配置することの必要性はないというものの、基材シート8の内部
又は薄膜導波路8の内部に配置することができる。
【0052】
もう1つの態様において、基材シート8と薄膜導波路12の中間に低屈折率のバッファ層を配置し、基材シート8に格子を集積してもよい。また、薄膜導波路12とは反対側の表面上に格子を位置させてもよい。
【0053】
また、検出セル2は、必要とされる多数個のウエル6を含有していてもよいことが理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、試料中の抗原又は抗体の存在を検出するために、そして、そのために、一部の種の標識化を必要とする通常のイムノアッセイの代わりとして、使用することができるということが理解されるであろう。また、本発明を、レセプタに対する抗原を検出するために、あるいはその反対を行うために使用することができる。別の用途においては、本発明を使用して試料中のヌクレオチド分子を定量することができ、そして、そのために、本発明をPCRプロセスで使用することができる。
【0055】
本発明は、試料の分析を、その大部分で常用の流体取り扱い装置を使用して、高度に自動化された迅速プロセスで実施できるという顕著な利点を奏することができる。さらに、光バイオセンサーに放射能標識又は多量の試薬を使用することが不必要であるので、もしも存在するとしても、有害な廃棄物が生成せしめられることはほとんど皆無である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】検出プレートの斜視図である。
【図2】図1の線分A−A’の断面図である。
【図3】図2の領域Bの拡大図である。
【図4】検出セル及び読み取りユニットを含むバイオセンサーシステムの説明図である。
【図5】ウエルの下方の回折格子手段のいくつかの形状を図示した模式図である。
【図6】出結合の絶対角を決定することのできる形状を図示した模式図である。
【図7】回折格子手段のいくつかの形状を図示した模式図である。
【符号の説明】
【0057】
2 検出セル
4 試料プレート
6 ウエル
8 基材プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光バイオセンサーの1成分として使用するための検出セルであって、透明な基材プレートと該基材プレート上の試料プレートとを含み、その際、前記試料プレートは、それぞれが試料を収容するための該プレート内を延在するウエルのマトリックスを有しており、そして前記基材プレートは、薄膜導波路及び、ウエルの下方の薄膜導波路中に入射光領域を入り結合させて回折光領域を発生させ、よって、薄膜導波路の有効屈折率における変化の検出を可能とするための回折格子手段を含んでいる、検出セル。
【請求項2】
微量滴定プレートと同一の寸法を有しており、そしてそれと同一の数のウエルを含有している、請求項1に記載の検出セル。
【請求項3】
薄膜導波路と基材プレートの間の界面に回折格子手段が形成されている、請求項1又は2に記載の検出セル。
【請求項4】
回折格子手段が2種類の格子を有しており、そしてある種類のもののラインが別のセットのラインに直角で配列されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の検出セル。
【請求項5】
それぞれのウエルの下方に別々の回折格子手段を有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出セル。
【請求項6】
薄膜導波路の自由表面にカプリング層を被覆して、そのカプリング層に対するウエル中の物質の選択的結合を可能にしている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出セル。
【請求項7】
薄膜導波路が二酸化チタンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検出セル。
【請求項8】
薄膜導波路が、酸化物Ta25 、HfO2 、Si34 、ZrO2 、酸化ニオブ、Al23 もしくはSiO2 及びTiO2 の混合物のいずれかであるかもしくはオキシナイトライドHfON又はSiONのいずれかである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の検出セル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の検出セル、及び
(i)少なくとも1つの光領域を発生しかつその光領域を前記検出セルのウエルの下方の回折格子手段上に衝突させ、よって、薄膜導波路においてモード励起を発生させるための少なくとも1つの光源、
(ii)前記ウエルの下方の薄膜導波路から回折した光領域を集めるための少なくとも1つの集光手段、及び
(iii )集められた光領域の位置を監視するための少なくとも1つの位置感知デテクタを含む読み取りユニット、
を含んでなる分析装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの光源が、対向伝達方向においてモード励起を生じるために、2つの対称に配された扇形の光領域を発生して、該光領域を前記検出セルのウエルの下方の回折格子手段上に照射し、そして前記読み取りユニットが、回折された光領域を監視するため、2つの対称に配された位置感知光デテクタを有している、請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
前記検出セルのマトリックスのそれぞれの行に読み取りユニットを有している、請求項9又は10に記載の分析装置。
【請求項12】
前記検出セルをその検出セルのウエルに充填を行う充填ステーションから読み取りユニットと共働する位置まで移送するための移送手段をさらに有している、請求項9〜11のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項13】
前記移送手段が、前記検出セルを所望とするそれぞれの場合に前記読み取りユニットに関して精確に同一の位置に固着することができるようにするために、位置固着手段を含んでいる、請求項12に記載の分析装置。
【請求項14】
前記移送手段が、前記回折格子手段から回折された光領域を読み取りユニットで走査することを可能にするため、前記検出セルを前記読み取りユニットに関して連続的に移動させる、請求項12に記載の分析装置。
【請求項15】
光バイオセンサーを使用して試料を自動化分析するための方法であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の検出セルのウエルにキャリヤ流体を充填すること、前記検出セルを、請求項9〜11のいずれか1項に記載の分析装置の読み取りユニットと共働する位置まで移送すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視し、そして出結合光を参照値の提供のために記録すること、前記検出セルを滴定ステーションまで移送し、そしてそれぞれのウエルに試料を滴下すること、前記検出セルを移送して読み取りユニットまで戻し、そして検出セル内の回折格子手段上に光を照射すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視すること、及び得られた結果を前記参照値に対比すること、を含んでなる、自動化分析方法。
【請求項16】
光バイオセンサーを使用して試料を自動化分析するための方法であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の検出セルのウエルにキャリヤ流体を充填すること、前記検出セルを、請求項9〜11のいずれか1項に記載の分析装置の読み取りユニットと共働する位置まで移送すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視し、そして出結合光を参照値の提供のために記録すること、前記検出セルを滴定ステーションまで移送し、そしてそれぞれのウエルに試料を滴下すること、前記検出セルを移送して読み取りユニットまで戻し、そして検出セル内の回折格子手段上に光を照射すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視すること、前記試料をキャリヤ流体に置き換えること、前記検出セルを移送して読み取りユニットまで戻し、そして検出セル内の回折格子手段上に光を照射すること、それぞれのウエルからの出結合光を監視して第2の参照値を提供すること、及び前記試料の結果を前記参照値に対比すること、を含んでなる、自動化分析方法。
【請求項17】
試料中の変化の動力学を測定するための方法であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の検出セルのウエルに試料を充填すること、前記検出セルを、請求項9〜11のいずれか1項に記載の分析装置の読み取りユニットと共働可能な位置まで移送すること、及びそれぞれのウエルからの異なる回折光領域を別々の間隔で繰り返し監視し、その際、あらゆるウエルのそれぞれの別々の間隔の時間を前記変化に要した時間よりも短くすること、を含んでなる、測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−175826(P2008−175826A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33571(P2008−33571)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【分割の表示】特願2006−45281(P2006−45281)の分割
【原出願日】平成6年7月18日(1994.7.18)
【出願人】(590000031)オーツェー エルリコン バルツェルス アクチェンゲゼルシャフト (8)
【出願人】(506025202)
【Fターム(参考)】