説明

光パターン表示媒体、光パターン算出方法及び光認証システム

【課題】本発明は、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示可能な光パターン表示媒体、その光パターンを瞬時に観測可能な光パターン算出方法及び光認証システムを提供することを課題とする。
【解決手段】側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料にクマリン又はその誘導体からなる発光材料を分散させてなる板状部材22と、板状部材22の一面22aに配置された第1の導電部材24と、板状部材22の他面22bに配置された第2の導電部材21とを有し、第1の導電部材24は複数の光透過部23cが互いに等間隔となるように配置された金属基板23であり、光透過部23cの最大径dが前記発光材料の最大発光ピーク波長の1/2以下である光パターン表示媒体10を用いることによって、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パターン表示媒体、光パターン算出方法及び光認証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発光可能な有機分子をホスト材料に分散させた板状部材に光照射することにより、前記有機分子を発光させることができる。板状部材内にランダムに配置された個々の有機分子は、その振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた複雑多様な光パターンを発現する。なお、振動ダイポールモーメントは、光を発生する元になる分子などの内部での電気の偏りである。
【0003】
前記光パターンは各板状部材同士で同一となることがほとんどないので、各板状部材を光パターン表示媒体として用いることができる。
しかし、今まで、個々の分子からの発光を個別かつ同時に検出する方法は存在せず、個々の分子からの複雑多様な発光パターンを瞬時に(1秒以内に)認識し識別する技術は存在しなかった。
なお、分子を励起することにより、隣接する分子に励起が移動し、最終的に励起が移動した分子から近接場効果により、励起状態からの発光を観測する概念が開示されている(非特許文献6)。更に、分子の励起が隣接した分子間で効率よく伝達するために、周囲の電磁場環境の揺らぎが貢献していることが理論的に記載されている(非特許文献7)。
【0004】
非特許文献1、2には、近接場光を用いて物質表面を観測した一例が開示されている。近接場光とは、微小開口によって視野が制限されたときに得られる光であり、光の波長よりも微小な物質構造に光を当てた際に、その物質構造の表面に発生するが遠くへ伝搬してゆくことがない、特殊な光である。つまり、近接場光は、発光点近くでのみ存在し、遠くでは減衰する。
【0005】
近接場光を用いることによって、伝搬光では得られない、物質表面の微細な構造や、1分子レベルの発光の環境依存性などを測定することができる。しかし、非特許文献1、2に開示された例はレーザースキャンを用いるシステムなので、ある時刻において検出点が1点であり、一定面積内を検出する際には、時間がかかることが問題である。
【0006】
本研究者は、ポルフィリン分子を炭素繊維材料に分散させた板状部材に2次元ホールアレイを有する金属基板を取り付け、ポルフィリン分子を光励起発光させると、ホールに相当すると推測される場所およびホール以外の場所と推測される場所に励起光を照射したことによりポルフィリン分子の蛍光スペクトルの形状に場所依存性が発現することを見出した(非特許文献3)。しかし、ランダムな個々の有機分子の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた光パターンは見られなかった。
なお、カーボンナノチューブを分散する溶媒の種類により、カーボンナノチューブからの発光波長がシフトすることが実験的に示され、材料からの発光に電磁場環境が影響することが開示されている(非特許文献8)。
【0007】
更に、本研究者は、この板状部材を電子励起発光させ、光パターン蛍光スペクトルの測定を試みたが、非特許文献発表時点では各種の理由から(非特許文献4、5)、この場合も、ランダムな個々の有機分子の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた光パターンは見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−66011号公報
【特許文献2】特開2010−66018号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Manuel J.Romero et al.Physical Review B 80,115432(2009)
【非特許文献2】Z.C.Dong,X.−L.Zhnag,H.Y.Gao,Y.Luo,C.Zhang,L.G.Chen,R.Zhang,X.Tao,Y.Zhang,J.L.Yang,and L.G.Hou,Nature photonics.vol.4,No.1,pp.50−54(2009)
【非特許文献3】H.Nejo et al.,“The fourth general meeting of ACCMS−VO”、68ページ
【非特許文献4】H.Nejo et al.,ナノ学会第8回大会予稿集、96ページ
【非特許文献5】H.Nejo et al.,ナノオプティクス研究会予稿集、PP.20−25
【非特許文献6】堀裕和、応用物理 第70巻pp.976−983 (2001)
【非特許文献7】S.M.Vlaming and R.J.Silbey,Journal of Chemical Physics,136,055102−1−10(2012)
【非特許文献8】Y.Ohno,S.Iwasaki,Y.Murakami, S.Kishimoto,S.maruyama and T.Mizutani,phys.stat.sol(b)244,4002−4005(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示可能な光パターン表示媒体、その光パターンを瞬時に観測可能な光パターン算出方法及び光認証システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本研究者は、クマリン又はその誘導体からなる有機分子(発光材料)を炭素繊維材料に分散させた板状部材に2次元ホールアレイを有する金属基板を取り付け、電子励起発光させることにより、ランダムな個々の有機分子の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示可能であることを見出した。この光パターンは、様々な異なる局所場の影響を受けた有機分子の発光に基づくものであり、それぞれ全く異なるものであった。
この光パターンを、本研究者がこれまで開発研究してきたイメージ分光器(特許文献1、2)の技術と組み合わせることにより、従来技術では不可能であった2次元ナノメータースケールで瞬時に光パターン認識ができ、光パターンを鍵(暗号)、事前に記憶しておいた光パターンを鍵穴として用いることにより、高度認証システムに応用できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0012】
本発明の光パターン表示媒体は、側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料にクマリン又はその誘導体からなる発光材料を分散させてなる板状部材と、前記板状部材の一面に配置された第1の導電部材と、前記板状部材の他面に配置された第2の導電部材とを有し、前記第1の導電部材は複数の光透過部が互いに等間隔となるように配置された金属基板であり、前記光透過部の最大径が前記発光材料の最大発光ピーク波長の1/2以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の光パターン表示媒体は、前記光透過部が平面視格子状に設けられていることが好ましい。
本発明の光パターン表示媒体は、前記炭素繊維材料がカーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンであることが好ましい。
本発明の光パターン表示媒体は、前記官能基がスルホン酸又はスルホン酸誘導体であることが好ましい。
【0014】
本発明の光パターン算出方法は、先に記載の光パターン表示媒体を電子励起発光させる工程と、光学レンズ部と、前記光学レンズ部側に一端が向けられた複数の光ファイバーがバンドル状に備えられた光ファイバー部と、前記光ファイバー他端が接続される光検出素子が備えられた光検出部とを有する発光測定装置を用いて、前記電子励起発光を測定する工程と、前記電子励起発光の光強度を、測定領域を同一面積で区画する単位発光部ごとに分け、各単位発光部の位置とその位置における光強度で表される光パターンを算出する工程を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の光パターン算出方法は、前記光パターンを、測定波長ごとに算出することが好ましい。
本発明の光パターン算出方法は、200〜1050nmの波長域における一の波長の光強度をパラメーターxとし、他の波長の光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとすることが好ましい。
本発明の光パターン算出方法は、200〜1050nmの波長域における更に他の波長の光強度をパラメーターzとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとすることが好ましい。
【0016】
本発明の光認証システムは、先に記載の光パターン表示媒体の光パターンを算出し、前記光パターンをナンバリングし、前記光パターンとその番号を登録する工程と、前記光パターン表示媒体からの電子励起発光を測定し、前記電子励起発光から算出した光パターンからその番号を引き出す工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光パターン表示媒体は、側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料にクマリン又はその誘導体からなる発光材料を分散させてなる板状部材と、前記板状部材の一面に配置された第1の導電部材と、前記板状部材の他面に配置された第2の導電部材とを有し、前記第1の導電部材は複数の光透過部が互いに等間隔となるように配置された金属基板であり、前記光透過部の最大径が前記発光材料の最大発光ピーク波長の1/2以下である構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示させた媒体を提供できる。
【0018】
個々の有機分子からの発光の差を捕らえることができ、ナノメータースケールで2次元発光機構差同時計測が可能となる。
本技術は、トンネル電子注入発光の手法を発展させ、電磁エネルギー散逸と励起伝送機構の直接観測技術である。なお、トンネル電子注入は、分子などの中にトンネルバリアーの高さより低いエネルギーで電子を注入する手法である。具体的には、基板上に担持した発光有機分子と2次元ホールアレイから成るトンネル二重接合を形成し、2次元分光の手法によって、分子発光計測を通じて局所環境に依存する散逸過程を検出する技術である。なお、トンネル二重接合とは、中間電極を外部電極の間に挿入しトンネルバリアーが二重にできた構造である。
【0019】
本発明の光パターン算出方法は、先に記載の光パターン表示媒体を電子励起発光させる工程と、光学レンズ部と、前記光学レンズ部側に一端が向けられた複数の光ファイバーがバンドル状に備えられた光ファイバー部と、前記光ファイバー他端が接続される光検出素子が備えられた光検出部とを有する発光測定装置を用いて、前記電子励起発光を測定する工程と、前記電子励起発光の光強度を、測定領域を同一面積で区画する単位発光部ごとに分け、各単位発光部の位置とその位置における光強度で表される光パターンを算出する工程を有する構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
【0020】
本発明の光認証システムは、先に記載の光パターン表示媒体の光パターンを算出し、前記光パターンをナンバリングし、前記光パターンとその番号を登録する工程と、前記光パターン表示媒体からの電子励起発光を測定し、前記電子励起発光から算出した光パターンからその番号を引き出す工程と、を有する構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを瞬時にかつ容易に認証できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光パターン表示媒体の一例を示す図である。
【図2】本発明の光パターン表示媒体の板状媒体の一例を示す断面模式図である。
【図3】側壁にスルホン酸誘導体を取り付けたカーボンナノチューブの構造図である。
【図4】光パターン算出装置の一例を示す模式図である。
【図5】実施例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイの平面電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイを用いた電子励起実験模式断面図である。
【図7】電子励起スペクトルの光ファイバー配置(1、1)におけるスペクトルである。
【図8】電子励起スペクトルの光ファイバー配置(2、1)におけるスペクトルである。
【図9】電子励起スペクトルの光ファイバー配置(10、7)におけるスペクトルである。
【図10】比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイを用いた光励起実験模式断面図である。
【図11】比較例1の光パターン表示媒体の光励起時の顕微鏡写真である。
【図12】比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外したものの光励起の場所1〜3を示す写真である。
【図13】比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外したものの光励起の蛍光スペクトルである。
【図14】テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリンのジオキサン溶媒中の蛍光スペクトルである。
【図15】比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外さないものの光励起の場所1〜3を示す写真である。
【図16】比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外さないものの光励起の蛍光スペクトルである。
【図17】比較例1の光パターン表示媒体の25点のレーザースキャン位置を包含する領域の蛍光画像スペクトルである。挿入図は、2次元ホールアレイの平面電子顕微鏡写真である。
【図18】レーザースキャン位置1番及び20番におけるスペクトルである。
【図19】光パターンを示すグラフである。
【図20】光パターンを示すグラフである。
【図21】光パターンを示すグラフである。
【図22】光パターンを示すグラフである。
【図23】CCD検出器の量子効率を示す図である。
【図24】電子励起スペクトルの光ファイバー配置(2、1)における補正後のスペクトルである。
【図25】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【図26】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【図27】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【図28】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【図29】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【図30】実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である光パターン表示媒体、光パターン算出方法及び光認証システムについて説明する。
【0023】
<光パターン表示媒体>
図1は、本発明の実施形態である光パターン表示媒体の一例を示す模式図である。
図1に示すように、光パターン表示媒体10は、板状部材22と、板状部材22の一面22aに配置された第1の導電部材24と、板状部材22の他面22bに配置された第2の導電部材21と、からなる。
【0024】
図2は、板状部材22の断面模式図である。
図2に示すように、板状部材22は、炭素繊維材料が互いに密に絡まるように凝集して概略構成されている。炭素繊維材料は側壁に官能基を有しており、前記官能基にクマリン(Coumarin)又はクマリン誘導体からなる発光材料が接合されている。
【0025】
炭素繊維材料は、カーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンであることが好ましい。カーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンは強固な繊維なので、板状部材22を強固で安定した構造とすることができる。また、カーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンは導電性なので、マクロ電極として用いる第1、第2の導電部材24、21に電気的に接続することにより、ナノ電極として利用できる。
【0026】
カーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンが第1、第2の導電部材に吸着するときに場所ごとにすべて幾何学的形状が異なる。これにより、第1、第2の導電部材24、21に電圧を印加すると、ナノ電極たるカーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンは場所ごとに異なった電磁場を発生する。
なお、局所環境とは、分子などの1ナノメートルほどの物体の周囲の電磁状態を表す物理状態である。また、電磁場環境とは、注目する分子にとって周囲の電磁場の異同を示す物理量であり、これにより、分子の発光の仕方が異なる環境である。
【0027】
図3に示すように、炭素繊維材料は、その側面に官能基が取り付けられている。
前記官能基をスルホン酸又はスルホン酸誘導体とすることにより、クマリン又はその誘導体の電子供与性の酸素原子と相互作用させて、強固かつ安定な接合を形成できる。クマリン又はその誘導体の酸素原子由来の電子供与性とスルホン酸又はスルホン酸誘導体との相互作用により、クマリン又はその誘導体は選択的にかつ的確にスルホン酸又はスルホン酸誘導体に吸着する。これにより、複数の有機分子が結合し、有機分子間で励起伝送できる分子架橋構造が形成される。
しかし、前記官能基は、電子供与性の酸素原子と強く相互作用するものであればよく、強固に接合可能であれば、他の官能基を用いてもよい。
【0028】
前記炭素繊維材料の側面の官能基の位置は非周期性を有する。
例えば、官能基としてスルホン酸誘導体を用いた場合には、カーボンナノチューブにおける官能基の位置は合成上の制約からカーボンナノチューブの長軸に沿って周期的に配置することはなく、非周期性を有する。
【0029】
発光材料は、クマリン又はその誘導体からなる発光材料である。
クマリン又はその誘導体は、電子励起により効率よく発光させることができ、近接場光の光パターンを明確に表示できる。また、その化学構造をチューニングすることにより、所望の波長の光を発光させることができ、近接場光の光パターンのバリエーションを増加させることができる。
なお、発光材料は、クマリン又はその誘導体と無機物質の結合物としてもよい。無機物質としては、シリコンなどの元素で構成された無機材料を用いることができる。
【0030】
クマリン又はその誘導体は電子供与性の酸素原子を有し、その酸素原子をスルホン酸又はスルホン酸誘導体の官能基と相互作用して、強固に接合する。各官能基の位置は非周期性を有するので、クマリン又はその誘導体の位置も非周期性を有する。この非周期性によって、各クマリン又はその誘導体の局所環境はそれぞれ異なる。
【0031】
クマリン又はその誘導体は、ナノ電極たるカーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンがナノメータースケールの局所ごとに発生する異なった電磁場に配置され、この非常に多様な電磁場環境に応じて、各クマリン又はその誘導体もすべて異なる励起をされる。ナノメータースケール場所ごとに異なる励起状態から、異なる蛍光ピーク波長を有し、異なる形状の発光スペクトルが得られる。
【0032】
クマリン又はその誘導体は最大径2nmサイズである。よって、最大径dが100nm〜500nmの光透過部23cから観測すると、それぞれ異なる局所環境を有するクマリン又はその誘導体を観測できる。
【0033】
クマリン又はその誘導体は、第1、第2の導電部材24、21に直接吸着せず、カーボンナノチューブの側壁のスルホン酸誘導体に吸着する。これにより、励起状態の急速緩和および電磁エネルギー散逸を防ぐことができる。なお、励起状態の急速緩和とは、分子の内部エネルギーが急速に失われる現象であり、これが起こると適切に発光しない。また、電磁エネルギー散逸とは、励起状態の有機分子の内部エネルギーが周囲に電磁エネルギーを与えて失われる現象である。
【0034】
第1の導電部材24は、金属基板23に複数の平面視円形状の光透過部23cが設けられている。光透過部23cの最大径dは、前記発光材料の発光最大波長の1/2以下である。発光材料の発光最大波長を300nmとした場合には、光透過部23cの最大径dを、150nm以下とする。
【0035】
第1の導電部材24の厚さは、特に限定されない。例えば、100nm〜500nmとする。100nm未満では、光を完全には遮蔽できない場合が発生するとともに、板状部材22上に均一に接するように配置するのに取り扱いが困難となる。10μm超でも、板状部材22上に均一に接するように配置するのに取り扱いが困難となる。
金属基板23の材料としては、例えば、金(Au)を用いる。金を用いることにより、表面プラズモンを効果的に発生させることができ分子に対して電磁場環境を提供する。
【0036】
光透過部23cは、互いに等間隔となるように配置されている。
光透過部23cが、平面視格子状に設けられていることが好ましい。光透過部23cの配置の対称性を向上させることにより、近接場光を効率的に発生させることができる。
なお、光透過部23cの形状は、平面視円形状に限られない。平面視多角形状としてもよい。
光透過部23cの中心の間隔(ピッチ)pは、例えば、200nm〜1000nmとする。これにより、200nm〜1000nmの範囲の近接場光の発生効率をより向上させることができる。
【0037】
光透過部23cは、貫通孔により構成できる。これにより、光を効率よく透過させることができ、近接場光の発生効率を向上させることができる。なお、前記貫通孔に光透過性の高いガラス又はプラスチックが嵌合して、光透過部を構成してもよい。これによっても、光を効率よく透過させ、近接場光の発生効率を向上させることができる。
【0038】
金属基板23に設けられ、発光材料の発光最大波長の1/2以下の最大径dを有する複数の光透過部23cからなる2次元周期配列を2次元ホールアレイと呼称する。
2次元ホールアレイにより、金属の表面プラズモンを効率よく発生させることができ、近接場光を容易に発生させることができる。これにより、通常の方法で区別できない2次元配列蛍光分子からの発光をそれぞれ区別でき、ナノスケールで分子蛍光スペクトルを測定できる。
【0039】
第2の導電部材21は、金属基板、酸化インジウムすず(ITO)基板、IZO基板等を用いることができる。いずれも電気伝導度が高く、板状部材22に所望の電圧を印加できる。
なお、貫通部のない平坦な板状部材を用いても、格子状の貫通部が備えられたグリッド基板を用いてもよい。
【0040】
光パターン表示媒体は、側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料と、クマリン又はその誘導体を含む発光材料とを有機溶媒に分散させて、溶液を調製する工程と、前記溶液を第2の導電部材21に滴下してから、前記有機溶媒を揮発させ、第2の導電部材21の一面に炭素繊維材料に前記発光材料が分散させてなる板状部材22を作製する工程と、金属基板23に複数の光透過部23cが互いに等間隔となるように配置され、光透過部23cの最大径dが前記発光材料の発光最大波長の1/2以下である第1の導電部材24を板状部材22の一面22aに配置する工程と、からなる製造工程により製造できる。
有機溶媒の揮発は、大気中で放置することにより可能だが、オーブン等を用いてもよい。
これにより、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを発現させた媒体を容易に製造できる。
【0041】
<光パターン算出方法>
本発明の光パターン算出方法は、電子励起発光工程S1と、光パターン観測工程S2とからなる。
電子励起発光工程S1は、光パターン表示媒体10の光パターン算出方法であって、光パターン表示媒体10中の発光材料を電子励起発光させる工程であり、光パターン観測工程S2は、光パターン算出装置を用いて、光パターン表示媒体10からの光パターンを観測する工程である。
【0042】
(電子励起発光工程S1)
図4は、光パターン算出装置の一例を示す模式図である。
図4に示すように、光パターン算出装置37は、電子励起発光部32と、光学レンズ部42と、光ファイバー部43と、光検出部44と、情報処理装置60とを有して概略構成されている。
電子励起発光部32と、光学レンズ部42は、真空チャンバー55内に設置されている。電子励起発光部32からの光は光学レンズ部42を介して、窓56から真空チャンバー55外の光ファイバー部43へ伝達され、光ファイバー部43から光検出部44へ伝達される。更に、光検出部44で光情報から電子情報に変換され、電子情報が情報処理装置60に伝達され、光パターンが算出される構成とされている。
【0043】
電子励起発光部32は、光パターン表示媒体10と、電源部26とから概略構成されている。光パターン表示媒体10の第1、第2の導電部材21、23はそれぞれ配線27、28を介して電源部26に接続されている。電源部26を制御して第1、第2の導電部材21、23の間の板状部材22に所定の電圧を印加できる構成とされている。これにより電子励起でき、板状部材22内の発光材料を効率よく発光させることができる。
【0044】
印加電圧は、HOMO−LUMOギャップの値以上であればよい。発光材料の種類、板状部材22の厚さ等の条件に応じて適宜設定できる。例えば、4Vとするが、これに限定される訳ではない。なお、HOMOとは、分子の最高占有軌道であり、LUMOとは、分子の最低非占有軌道であり、発光材料は、HOMO−LUMOギャップの値の電圧を印加することでLUMOの電子をHOMOに励起し電子が再びLUMOに緩和する際に光を放出する。
【0045】
(光パターン観測工程S2)
光パターン表示媒体10の2次元ホールアレイ上に光学レンズ部42が配置されている。光学レンズ部42は2次元ホールアレイに垂直な方向に作動可能とされている。光学レンズ部42を作動させ、2次元ホールアレイからの近接場光を光ファイバー部43で結像させることができる。
光学レンズ部42は、例えば、100倍対物レンズ51、結像レンズ52及びミラー53とから構成されている。
【0046】
光ファイバー部43は、複数の光ファイバーからなる2次元ファイバーバンドルとして構成されている。近接場光の結像位置に2次元ファイバーバンドルからなる光ファイバー部43を保持することにより、2次元ホールアレイからの近接場光を位置ごとに各光ファイバーで取り込むことができる。
例えば、14本×14本の光ファイバーからなる2次元光ファイバーバンドルとすることができる。これにより、光パターン表示媒体10の2次元ホールアレイ上の196箇所のスペクトルを同時に測定することができる。なお、バンドルとは、束にした構造のことであり、光ファイバーバンドルとは、光ファイバーの束の意味である。
しかし、光ファイバーの数はこれに限られるものではなく、100本×100本としてもよい。本数が多くなるほどより多くの空間点を同時に検出できる。
【0047】
光検出部44は、複数の光検出素子が備えられて構成されている。各光検出素子はそれぞれ、前記各光ファイバーに接続されている。これにより、各光ファイバーからの光情報を各光検出素子で取り込むことができる。
光検出素子としては、CCD素子又はCMOS素子等を用いることができる。CCD素子又はCMOS素子等により、光パターン表示媒体10の発光材料からの電子励起発光と2次元ホールアレイとから得られる近接場光の光パターンを検出することができる。
【0048】
なお、光パターンは、光パターン表示媒体10の任意の領域を平面視同一面積に区画して、複数の単位発光部を構成し、前記単位発光部の発光の発光波長と発光強度とをパラメーターとして形成する。例えば、ある発光波長で、単位発光部の発光強度が一定の発光強度以上の場合1、それ未満の場合0と、二値化して、光パターンを形成する。この光パターンを発光波長ごとに形成することにより、多数の光パターンを形成できる。
また、200〜1050nmの波長域における一の波長の光強度をパラメーターxとし、他の波長の光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしてもよい。
この構成にすることにより、多様な2次元の光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
更にまた、200〜1050nmの波長域における更に他の波長の光強度をパラメーターzとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしてもよい。
この構成にすることにより、多様な3次元の光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
【0049】
以上の工程により、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを瞬時にかつ容易に検出できる。
本技術を用いることにより、個々の分子からの発光の差を捕らえることができ、ナノメータースケールで2次元発光機構差同時計測が可能となる。
本技術は、トンネル電子注入発光の手法を発展させ、電磁エネルギー散逸と励起伝送機構の直接観測技術である。具体的には、基板上に担持した発光分子と2次元ホールアレイから成るトンネル二重接合を形成し、2次元分光の手法によって、分子発光計測を通じて局所環境に依存する散逸過程を検出する技術である。
【0050】
<光認証システム>
本発明の実施形態である光認証システムは、光パターン表示媒体10の光パターンを算出し、前記光パターンをナンバリングし、前記光パターンとその番号を登録する工程と、前記光パターン表示媒体からの電子励起発光を測定し、前記電子励起発光から算出した光パターンからその番号を引き出す工程と、を有する。
【0051】
光パターンは各板状部材同士で同一となることがほとんどないので、各光パターン表示媒体はそれぞれ異なる番号をナンバリングできる。これにより、光パターン表示媒体及びその番号を鍵として用いて、その光パターンを検出したときに、記憶した光パターンの中から当該光パターンと番号を照合し、認証を行うシステムとして利用できる。
【0052】
本発明の実施形態である光パターン表示媒体10は、側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料にクマリン又はその誘導体からなる発光材料を分散させてなる板状部材22と、板状部材22の一面22aに配置された第1の導電部材24と、板状部材22の他面22bに配置された第2の導電部材21とを有し、第1の導電部材24は複数の光透過部23cが互いに等間隔となるように配置された金属基板23であり、光透過部23cの最大径dが前記発光材料の最大発光ピーク波長の1/2以下である構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示させた媒体を提供できる。
【0053】
本発明の実施形態である光パターン表示媒体は、前記光透過部が平面視格子状に設けられている構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示させた媒体を提供できる。
【0054】
本発明の実施形態である光パターン表示媒体10は、前記炭素繊維材料がカーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンである構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示させた媒体を提供できる。
【0055】
本発明の実施形態である光パターン表示媒体10は、前記官能基がスルホン酸又はスルホン酸誘導体である構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示させた媒体を提供できる。
【0056】
本発明の実施形態である光パターン算出方法は、光パターン表示媒体10を電子励起発光させる工程と、光学レンズ部と、前記光学レンズ部側に一端が向けられた複数の光ファイバーがバンドル状に備えられた光ファイバー部と、前記光ファイバー他端が接続される光検出素子が備えられた光検出部とを有する発光測定装置を用いて、前記電子励起発光を測定する工程と、前記電子励起発光の光強度を、測定領域を同一面積で区画する単位発光部ごとに分け、各単位発光部の位置とその位置における光強度で表される光パターンを算出する工程を有する構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
【0057】
本発明の実施形態である光パターン算出方法は、前記光パターンを、測定波長ごとに算出する構成なので、より多様な光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
本発明の実施形態である光パターン算出方法は、200〜1050nmの波長域における一の波長の光強度をパラメーターxとし、他の波長の光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとする構成なので、更により多様な光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
本発明の実施形態である光パターン算出方法は、200〜1050nmの波長域における更に他の波長の光強度をパラメーターzとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとする構成なので、更により多様な光パターンを瞬時にかつ容易に算出できる。
【0058】
本発明の実施形態である光認証システムは、光パターン表示媒体10の光パターンを算出し、前記光パターンをナンバリングし、前記光パターンとその番号を登録する工程と、前記光パターン表示媒体からの電子励起発光を測定し、前記電子励起発光から算出した光パターンからその番号を引き出す工程と、を有する構成なので、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを瞬時にかつ容易に認証できる。
【0059】
本発明の実施形態である光パターン表示媒体、その光パターン算出方法及び光認証システムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
<光パターン表示媒体の製造>
まず、側面にスルホン酸誘導体が合成的に取り付けられたカーボンナノチューブと、φ2nmサイズの下記化学式(1)で表されるクマリンとを有機溶媒に分散させて、溶液を調製した。
【0061】
【化1】

【0062】
次に、前記溶液をグリッド基板に滴下してから、前記有機溶媒を揮発させ、グリッド基板の一面にカーボンナノチューブにクマリンが分散させてなる板状部材を作製した。
次に、複数の平面視円形状の貫通孔が互いに等間隔となるように配置され、前記貫通孔の直径d=150nm、ピッチ=500nmである金からなる金属基板(2次元ホールアレイ基板という。)を前記板状部材の一面に配置した。なお、図5は、2次元ホールアレイ基板の顕微鏡写真である。
以上により、実施例1の光パターン表示媒体を製造した。
【0063】
<光パターン表示媒体の光パターン検出>
図6は、実施例1の光パターン表示媒体の電子励起実験模式断面図である。
まず、100倍対物レンズと、縦14本×横14本の光ファイバーからなる2次元光ファイバーバンドルと、縦14個×横14個のCCD素子が備えられた光検出部とを有する光パターン算出装置の検出位置に実施例1の光パターン表示媒体10を配置した。なお、各光ファイバーは、縦14個×横14個の各CCD素子に接続されている。実施例1の光パターン表示媒体の金属基板とグリッド基板にそれぞれ配線を介して電源部を接続した。
【0064】
次に、電源部を制御して金属基板とグリッド基板の間の板状部材に4V印加して、板状部材内のクマリンを電子励起して、発光させ、近接場光を得た。
次に、2次元ホールアレイに垂直な方向に光学レンズ部を作動させ、2次元ホールアレイからの近接場光を2次元光ファイバーバンドルで結像させた。これにより、光パターン表示媒体10の2次元ホールアレイ上の196箇所の近接場光を14本×14本の各光ファイバーの内部を伝送し、各光ファイバーからの各位置の光情報を各CCD素子で同時に取り込んだ。
【0065】
図7〜9は、実施例1の光パターン表示媒体の異なる3箇所のスペクトル測定結果である。各図は、左上グラフ、右上グラフ、左下グラフ及び右下グラフの4つのグラフで構成されている。
左上グラフは、光ファイバー番号ごとのデータを示すグラフであって、縦軸が光ファイバー番号1〜196であり、横軸が波長である。
右上グラフは、任意の光ファイバー番号のデータであって、縦軸が光強度であり、横軸が波長である。
【0066】
左下グラフは、単位発光部ごとのデータを示すグラフであって、縦軸が測定領域の一方向の単位発光部の番号であり、横軸が測定領域の他方向の単位発光部の番号である。単位発光部は、ソフトウェアを用いて任意の測定領域を平面視同一面積に区画した領域であって、ここでは14本×14本に再配列した。
右下グラフは、任意の単位発光部のデータであって、縦軸が光強度であり、横軸が波長である。
【0067】
図7〜9の右下グラフに示すように、2次元ホールアレイを用いて蛍光を検出した本方法では、380〜820nmの広範な波長領域において発光が認められた。一方、2次元ホールアレイを用いない場合、およそ480nm付近に最大値を持つ比較的シャープなピークが得られた(図示略)。
図7と図8の左下グラフの十字印で示すように、図7と図8の右下グラフは隣接する位置の単位発光部の発光スペクトルである。
図7と図8の発光スペクトル形状は、740nmから820nmの間で差が大きかった。
【0068】
図7〜9の左下グラフの十字印で示すように、図9の右下グラフは、図7と図8の位置から大きく離れた位置の単位発光部の発光スペクトルである。
図9の発光スペクトル形状は、図7と図8の発光スペクトル形状と比較して、390nm〜820nmまですべての波長帯域において差があった。
【0069】
図7〜9の右下グラフに示すように、2次元ホールアレイを用いない場合には、決して得られない480nmより短波長側の発光が認められたことは、クマリン分子の蛍光ピークより大きなエネルギーのフォトンが放出されていることを示すものであり、この現象を利用することでさらに個々の分子の多様な発光検出が可能となることが分かった。
【0070】
(比較例1)
クマリンの代わりに下記化学式(2)で表されるテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリン(Tetrakis(pentafluorophenyl)prophrin)を用いた他は実施例1と同様にして、比較例1の光パターン表示媒体を製造した。
【0071】
【化2】

【0072】
次に、電子励起の代わりに光励起を用いた他は比較例1と同様にして、比較例1の光パターン表示媒体の光パターンの検出を行った。
比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイの光透過部を介して、2次元ホールアレイに垂直方向から、カーボンナノチューブとポルフィリン分子誘導体からなる板状部材に走査レーザー光を照射してテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリンを光励起した。
【0073】
図10は、比較例1の光パターン表示媒体の光励起実験模式断面図である。
図10に示すように、励起波長λ=405nmのレーザー光を2次元ホールアレイの貫通孔から入射して、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリンを励起した後、再び貫通孔から検出した。分解能353nmφの顕微鏡を用いた。
【0074】
まず、2次元ホールアレイ基板の効果をみるために、比較例1の光パターン表示媒体で、2次元ホールアレイ基板をそのまま取り付けた場合と、取り外した場合で、光励起実験を行った。互いに数10μm離れている3箇所(場所1〜3と設定した。)で、比較例1の光パターン表示媒体の光励起蛍光スペクトルを測定した。
図11は、比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外した場合で、光励起時の顕微鏡写真である。グリッド基板の格子状に配列された複数の正方形のグリッドが観察されている。ランダムな個々の有機分子の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた光パターンは見られなかった。
【0075】
図12は、比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外したものの光励起の場所1〜3を示す写真である。部分的に明瞭な格子状部分を基準として、丸印で示した部分が光励起部分である。
図13は、比較例1の光パターン表示媒体から2次元ホールアレイ基板を取り外したものの光励起蛍光スペクトルであって、場所1〜3におけるものである((a)〜(c))。
場所1〜3で、蛍光スペクトルピーク660nmおよび710nmを含むスペクトル形状に差はなかった。これにより、分子の電磁場環境は3箇所で差がないと判断した。これらのスペクトルは、図14に示すテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリンのジオキサン溶媒中の蛍光スペクトルと類似形状であった。
【0076】
図15は、比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外さないものの光励起の場所1〜3を示す写真である。部分的に明瞭な格子状部分を基準として、丸印で示した部分が光励起部分である。
図16は、比較例1の光パターン表示媒体の2次元ホールアレイ基板を取り外さないものの光励起の蛍光スペクトルであって、場所1〜3におけるものである((a)〜(c))。
場所1〜3で、蛍光スペクトルピーク660nmおよび710nmを含むスペクトル形状に明瞭な差があった。これにより、個々の分子を区別することが可能であると判断した。
【0077】
図17は、比較例1の光パターン表示媒体の25点のレーザースキャン位置を包含する領域の蛍光画像スペクトルである。ホールアレイのホール内部とホール外部から得られるスペクトル差の詳細な比較である。挿入図は、2次元ホールアレイの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図17の挿入図である走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、2次元ホールアレイは、貫通孔の直径d=150nmφ、ピッチp=500nmである。
図17の蛍光画像スペクトルには、この2次元ホールアレイの蛍光画像を示すように2次元ホールアレイの上25点において蛍光スペクトルを測定したときのホールとレーザー照射点の関係を示されている。スペクトル収集中心d=φ125nm、ピッチp=125nm及びエリア=500nmの測定条件にてホールアレイの任意の場所を測定したときに、25点のうち少なくとも1点はホールを通った分子の蛍光を測定することになる。
【0078】
図18は、図17におけるレーザースキャン位置1番でのスペクトル(a)及び20番でのスペクトル(b)である。
図17におけるレーザースキャン位置2番〜18番及び21番〜25番のスペクトルの形状は、ほとんど1番のスペクトルの形状と同じであった。一方、19番と20番は1番のスペクトルの形状とわずかに相異するものであった。
蛍光スペクトルのピークは660nmであり、一方、金の表面プラズモンに由来するスペクトルピークは700nmであることがすでにわかっている。この情報から25点のスペクトルを探索すると、19及び20番の位置のスペクトルが分子に由来するピークが見られる一方、2次元ホールアレイの表面プラズモンに由来するピークが減少していることが見てとれ、この2点おいてホールを通して分子の蛍光を観測したと推測される。
また、分子に由来するスペクトル形状が異なっていることから分子の相互作用が異なっている状態を観測したのではないかと推測される。
【0079】
図19〜22は図24に示す補正後のスペクトル等から得られた光強度に基づき、算出した光パターンを示すグラフである。図24は、図8に示した測定結果を図23に示すCCD検出器の量子効率で補正することにより得られた電子励起スペクトルの光ファイバー配置(2、1)における補正後のスペクトルである。
図19は、392.16nmの光強度をパラメーターxとし、601.99nmの光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしたものである。
図19に示すように、2048×2048=4194304個のランダムな点からなるパターンが得られた。
なお、図8の測定領域を上から5つの領域に分け、一番上の領域のデータを図19では白丸でプロットした。同様に、上から二番目の領域のデータを薄灰色丸、上から三番目の領域のデータを灰色丸、上から四番目の領域のデータを濃灰色丸、一番下の領域のデータを黒丸でプロットした。
【0080】
図20は、602.2nmの光強度をパラメーターxとし、808.4nmの光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしたものである。
【0081】
図21は、464.4nm、615.81nm、820.41nmの光強度をパラメーターx、y、zとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしたものである。
【0082】
図22は、814.55nm、615.81nm、403.46nmの光強度をパラメーターx、y、zとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとしたものである。
【0083】
図25〜30は、実施例1の光パターン表示媒体の顕微鏡写真である。
図25に示すように、グリッド基板の一面及び孔部にアイランド状形成物が存在しているのが観測できる。これは、クマリンを分散させたカーボンナノチューブである。
図26(a)は、図25の1部の暗視野像の拡大図である。
図26(b)は、図25の1部の明視野像の拡大図である。
図27(a)は、図26(a)の2部の暗視野像の拡大図である。
図27(b)は、図26(b)の2部の明視野像の拡大図である。
図28(a)は、図27(a)の3部の暗視野像の拡大図である。
図28(b)は、図27(b)の3部の明視野像の拡大図である。
図29(a)は、図28(a)の4部の暗視野像の拡大図である。
図29(b)は、図28(b)の4部の明視野像の拡大図である。
図30(a)は、図29(b)の5部の明視野像の拡大図である。
図30(b)は、図29(b)の6部の明視野像の拡大図である。
図25〜30に示すように、カーボンナノチューブの空間での分布は不均一である。図30からわかるようにミクロなレベルにおいてカーボンナノチューブは場所ごとにすべて異なる分布をしていた。これが電磁場環境の変化をもたらす原因となったと推察した。なお、これらカーボンナノチューブにCoumarin6分子が担持されていることは、別途レーザー励起による発光で確認した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の光パターン表示媒体、その光パターン算出方法及び光認証システムは、ランダムに配置された個々の発光材料の振動ダイポールモーメントの向き・強度に応じた近接場光からなる光パターンを表示可能な光パターン表示媒体、その光パターン算出方法及び光認証システムに係るものであり、光パターン表示媒体の製造産業、光パターン表示媒体を用いた光認証産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
10…光パターン表示媒体、20…2次元ホールアレイ、21…第2の導電基板、22…板状部材、22a…一面、22b…他面、23…金属基板、23c…光透過部、24…第1の導電部材、26…電源部、27、28…配線、31…電子励起発光部、32…光検出装置、42…光レンズ部、43…光ファイバー部、44…光検出部、51…対物レンズ、52…結像レンズ、53…ミラー、55…真空チャンバー、56…窓、60…情報処理装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に官能基が取り付けられた炭素繊維材料にクマリン又はその誘導体からなる発光材料を分散させてなる板状部材と、前記板状部材の一面に配置された第1の導電部材と、前記板状部材の他面に配置された第2の導電部材とを有し、前記第1の導電部材は複数の光透過部が互いに等間隔となるように配置された金属基板であり、前記光透過部の最大径が前記発光材料の最大発光ピーク波長の1/2以下であることを特徴とする光パターン表示媒体。
【請求項2】
前記光透過部が平面視格子状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光パターン表示媒体。
【請求項3】
前記炭素繊維材料がカーボンナノチューブ又はカーボンナノホーンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光パターン表示媒体。
【請求項4】
前記官能基がスルホン酸又はスルホン酸誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光パターン表示媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光パターン表示媒体を電子励起発光させる工程と、
光学レンズ部と、前記光学レンズ部側に一端が向けられた複数の光ファイバーがバンドル状に備えられた光ファイバー部と、前記光ファイバー他端が接続される光検出素子が備えられた光検出部とを有する発光測定装置を用いて、前記電子励起発光を測定する工程と、
前記電子励起発光の光強度を、測定領域を同一面積で区画する単位発光部ごとに分け、各単位発光部の位置とその位置における光強度で表される光パターンを算出する工程を有することを特徴とする光パターン算出方法。
【請求項6】
前記光パターンを、測定波長ごとに算出することを特徴とする請求項5に記載の光パターン算出方法。
【請求項7】
200〜1050nmの波長域における一の波長の光強度をパラメーターxとし、他の波長の光強度をパラメーターyとしてから、xy2次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとすることを特徴とする請求項5又は6に記載の光パターン算出方法。
【請求項8】
200〜1050nmの波長域における更に他の波長の光強度をパラメーターzとしてから、xyz3次元面上にプロットして得られるパターンを光パターンとすることを特徴とする請求項7に記載の光パターン算出方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光パターン表示媒体の光パターンを算出し、前記光パターンをナンバリングし、前記光パターンとその番号を登録する工程と、
前記光パターン表示媒体からの電子励起発光を測定し、前記電子励起発光から算出した光パターンからその番号を引き出す工程と、を有することを特徴とする光認証システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−238370(P2012−238370A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72254(P2012−72254)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業および平成23年度、科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム委託事業産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】