説明

光ファイバの製造方法

【課題】走行する光ファイバの異常部分を安価にマーキング表示することができ、且つ視覚により容易に検出することが可能な光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】走行する光ファイバの異常部分を検出し、検出された異常部分の始端部分と終端部分の光ファイバの被覆層の表面に、にボビンへの巻き取り状態で1ターン以上10ターン以下の範囲に、着色剤を塗布する。なお、着色剤に磁性体を含有しているものを用いるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材から線引きされたガラスファイバの外周に樹脂を被覆し、その後ボビンに巻き取る光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光ファイバは、一般に、石英ガラスからなる光ファイバ母材を、線引き炉に挿入し、光ファイバ母材の下端を加熱溶融して、細径のガラスファイバを連続的に垂下させて形成される。線引きされた細径のガラスファイバは、冷却手段により冷却された後、ガラスファイバの外周に樹脂により保護被覆(1層または2層被覆)が施され、ボビン等に一旦巻き取られる。ボビンに巻き取られた光ファイバ(通常、光ファイバ素線という)は、この後必要に応じて、着色、こぶ検、スクリーニング、分割、補強被覆などの処理を行うために巻き替えられる。
【0003】
上記した光ファイバ母材からの線引き工程において、光ファイバの品質を保証するために、ファイバ外径や被覆の偏肉等をモニタし、正常値になるように制御することが行われている。このとき、異常個所となった部分は、線引きされた光ファイバ中での異常部位置を記録装置等で記録しておき、後日、上記した着色やスクリーニング時のときにその異常部位置を読み出して、異常個所を分離除去することが知られている。
【0004】
しかし、光ファイバの線引きは数十キロ〜数百キロにわたるため、巻き替え時の計尺誤差等を見込んで、余裕(余長)をもたせて除去する必要があり、歩留まりを低下させる要因となっていた。これを改善する方法として、例えば、特許文献1には、光ファイバの異常個所を検出した際、光ファイバ外表面に異常個所を示すマークを付与するマーキングを行うことが開示されている。なお、このマーキング表示は、インクジェット装置等を用いて着色インク、発光インク、磁気インクなどで形成するとしている。また、特許文献2には、光ファイバの異常個所の被覆外径を変化させることについても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−208264号公報
【特許文献2】特開2005−75664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているように、着色インク等の着色剤を用いて、光ファイバの異常個所をマークキング表示することにより、異常個所を目視により確認することができる。しかし、着色長さが短いと、高速で回転するボビンからはマークキング位置を視認することが難しい。また、異常箇所が長距離にわたり、その異常個所の全長に対して着色すると、着色インクの使用量が多くなり、廃棄処分する光ファイバに対して無駄にコストを掛けることになる。また、特許文献2に開示されているように、光ファイバの異常個所の被覆外径を正常値と異ならせるようにした場合、視覚ではこれを検出することができず、外径測定器を用いることになるが、外径差が小さいと異常個所の検出漏れが生じるため高価な外径測定器を用いる必要がある。
【0007】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、走行する光ファイバの異常部分を安価にマーキング表示することができ、且つ視覚により容易に検出することが可能な光ファイバの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光ファイバの製造方法は、走行する光ファイバの異常部分を検出し、検出された異常部分の始端部分と終端部分の光ファイバの被覆層の表面に、ボビンへの巻き取り状態で1ターン以上10ターン以下の範囲に、着色剤を塗布することを特徴とする。なお、着色剤に磁性体を含有しているものを用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着色されたマーキングが1ターン以上あるため、巻き取りボビンが高速で回転している状態であってもマーキング部を容易に識別することができ、異常個所の検出を視覚により行うことができる。また、異常部分の始端部分と終端部分のみにマーキングされているので、着色剤の使用を削減することができ、コスト増を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を実施する設備の概略を説明する図である。
【図2】本発明により製造された光ファイバがボビンに巻き取られている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図により本発明の実施の形態を説明する。図において、10は光ファイバ母材、11は線引き炉、12は加熱ヒータ、13はガラスファイバ、13aは被覆保護された光ファイバ(光ファイバ素線)、13b、13cはマーキング部分、14は冷却装置、15は被覆樹脂塗布用のダイス、16は被覆樹脂、17は紫外線照射装置、18a,18bは外径測定器、19は制御装置、20は着色剤吹き付けノズル、21は案内ローラ、22はキャプスタン、23はダンサローラ、24はガイドローラ、25は巻き取りボビンを示す。
【0012】
本発明における光ファイバの製造方法の基本構成は、図1に示すように、従来とほぼ同じである。すなわち、光ファイバ母材10が線引き炉11内にセットされた後、加熱ヒータ12により順次加熱溶融されて、ガラスファイバ13が線引きされる。光ファイバ母材10は、製造される光ファイバが所定の光伝送特性が得られるように、例えば、GeOが添加されたコア部と、コア部の外周に設けられた高純度の石英ガラスからなるクラッド部とを有している。そして、ガラスファイバ13は、通常、標準外径125μmとなるように線引きされる。
【0013】
次いで、線引き直後のガラスファイバ13は、冷却装置14により所定の温度まで冷却される。この後、ガラスファイバ13が被覆樹脂塗布用のダイス15を通ることにより、ガラスファイバ13の表面に被覆樹脂16が塗布される。ガラスファイバ13を保護する被覆樹脂16には、例えば、紫外線硬化型のウレタンアクリレート樹脂等が用いられ、その硬化後の被覆層の外径が250μm程度となるように塗布成形される。
【0014】
紫外線硬化樹脂等の被覆樹脂16が塗布された状態の光ファイバは、紫外線照射装置17により樹脂が硬化されて、被覆層で保護された光ファイバ素線13aとされる。この光ファイバ素線13aは、案内ローラ21を経てキャプスタンローラ19により引取られる。キャプスタンローラ22により引取られた光ファイバ素線13bは、ダンサローラ23、ガイドローラ24等を経て巻き取りボビン25により巻き取られる。
【0015】
線引きされた直後のガラスファイバ13は、外径測定器18aによりガラスファイバ外径が測定され、制御装置19に入力される。また、ガラスファイバ13の外周に被覆樹脂が塗布され、紫外線照射装置17により硬化された状態の光ファイバ素線13aの外径(被覆層外径)も、外径測定器18bで測定される。なお、外径測定器18bによる被覆層の外径を測定する他に、被覆層の偏肉状態や気泡の混入状態等が測定される場合もある。これらの測定データは、外径測定器18bの測定データと共に制御装置19に入力される。
【0016】
制御装置19に入力されたガラスファイバ、被覆層の外径データは、線引き炉11の炉温制御、線引き速度、被覆樹脂の供給制御等にフィードバックされ、適正なガラスファイバ外径、及び被覆層外径となるように制御される。また、所定の許容範囲を超えて異常とされた部分は、光ファイバの長手方向の位置とともに異常内容が記録保持され、線引き終了後に製造データの一つとして提供される。
【0017】
本発明においては、上述の線引きされた光ファイバで異常部分が検出された際に、光ファイバ素線の被覆層の表面に着色剤を塗布し、視覚による識別が可能なマーキングを行う。特に、異常部分が検出された始端部分と、異常部分がその後の制御により正常に戻った終端部分で、巻き取りボビンに巻き取った状態で、1〜10ターン程度の範囲にマーキングされていることを特徴とする。
【0018】
着色剤(または着色インク)によるマーキングは、例えば、図1に示すように着色剤吹き付けノズル20を用い、吹き付けにより形成することができる。この他、刷毛塗りや着色液槽に浸すなどの方法を用いてもよい。なお、図では省略してあるが、マーキングされた着色剤は、直ちに乾燥または硬化された状態で巻き取る必要があるので、吹き付けノズル20の下流に着色剤の乾燥または硬化手段が設置されることが望ましい。
【0019】
マーキングのための着色剤吹き付けノズル20は、ガラスファイバ13に被覆層が形成された後で、被覆層の外径測定器18bから以降の下流であれば、どの位置に設置されてもよい。図では、キャプスタン22とダンサローラ23との間に設置した例を示しているが、キャプスタン22の上流に設置してよく、ダンサローラ23の下流に設置してもよい。
【0020】
外径測定器18aまたは18bのいずれか等により、光ファイバに異常が検出されると、制御装置19からの異常発生を通知する信号が発せられ、この信号を受けて光ファイバ素線13aに着色剤吹き付けノズル20により、異常部分の始端を示す着色剤が塗布される。この場合は、光ファイバの異常部分の始点部分を示すマーキングであり、着色剤の光ファイバ素線13aへの塗布長は、光ファイバ素線13aが巻き取りボビン25で巻き付けられた状態で、1ターン以上10ターン以下の長さとなるように塗布される。すなわち、異常部分が、長距離にわたる(例えば、数km)場合であっても、所定長さの着色剤塗布が行われた後は、一旦着色剤の塗布は中断される。
【0021】
この後、線引きの異常が解消され正常状態に戻ると、正常状態に戻ったことを通知する信号が発せられ、この信号を受けて再度光ファイバ素線13aに着色剤吹き付けノズル20により着色剤が塗布される。この場合は、光ファイバの異常部分の終了部分を示すマーキングであり、始点部分を示すマーキングと同様に、着色剤の光ファイバ素線13aへの塗布長は、異常発生時点と同様に、光ファイバ素線13aが巻き取りボビン25で巻き付けられた状態で、1ターン以上10ターン以下の長さとなるように塗布される。
【0022】
光ファイバの異常部分の始点部分と終点部分のマーキングで、着色剤の色を変えることにより、始点と終点の区別をするようにしてもよい。この場合、始点着色剤用と終点着色剤用の2つの吹き付けノズルを用いるとよい。また、始点部分を示すマーキングの塗布長と始点部分を示すマーキングの塗布長を、異ならせるようにしてもよい。この場合は、1つの吹き付けノズルでよい。
【0023】
図2は、マーキングされた光ファイバ素線の巻き取り状態を示した図で、光ファイバの異常部分の始点部分を示すマーキング部分13bと、終点部分を示すマーキング部分13cを示している。マーキング部分13b,13cは、巻き取りボビン25に巻き取られた状態で1ターン以上あれば、巻き取りボビンが高速で回転している状態であっても視覚的に容易に識別することができる。なお、光ファイバの異常部分の始点部分と終点部分のみがマーキングされているので、着色剤の塗布量は少なくて済む。
【0024】
上述のように、異常部分の始端部分及び終端部分を、1ターン以上10ターン以下の長さ、着色剤でマーキングして巻き取ることにより、巻き替え等の際に、異常部分の始端部分と終端部分を、走行中であっても視覚によって読み取ることができ、確実に異常部分の光ファイバを除去することができる。また、この着色された始端部分と終端部分のマーキングを画像処理等で読み取ることも可能で、視覚と自動読み取りの両方を用いることで、光ファイバの異常部分の抽出精度をさらに高め、異常部分の光ファイバを効率よく確実に除去することができる。
【0025】
また、着色剤として磁性材が混入されたものを用いるようにしてもよい。この場合も、マーキングの形成方法と、視覚による異常部分の読み取りは上記と同様である。しかし、巻き替え等の際に、巻き取られた光ファイバ素線の異常部分を自動的に読み取る場合には、高価な画像処理装置を用いなくても、比較的安価な磁気センサを用いることができ、視覚による読み取りとセンサにより自動読み取りで、より精度の高い読み取りが可能となる。
【0026】
なお、上記では線引き工程で異常部を検出し、着色剤を塗布する例について述べたが、着色工程や巻き替え工程で異常部を検出し、異常部の始端部分と終端部分の1ターン以上10ターン以下の範囲に、着色された色とは別の色の着色剤を塗布することとしても良い。このようにすることによっても、次の工程での異常個所の検出を、容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0027】
10…光ファイバ母材、11…線引き炉、12…加熱ヒータ、13…ガラスファイバ、13a…光ファイバ(光ファイバ素線)、13b,13c…マーキング部分、14…冷却装置、15…被覆樹脂塗布用のダイス、16…被覆樹脂、17は紫外線照射装置、18a,18b…外径測定器、19…制御装置、20…着色剤吹き付けノズル、21案…内ローラ、22…キャプスタン、23…ダンサローラ、24…ガイドローラ、25…巻き取りボビン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する光ファイバの異常部分を検出し、検出された前記異常部分の始端部分と終端部分の光ファイバの被覆層の表面に、ボビンへの巻き取り状態で1ターン以上10ターン以下の範囲に、着色剤を塗布することを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記着色剤に磁性体を含有していることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28505(P2013−28505A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166220(P2011−166220)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】