説明

光ファイバケーブル

【課題】 本発明の目的は、断面形状が弧状に反った防護テープを用いても、クマゼミに対する防御効果を保持しながら、特性上問題のない光ファイバケーブルを提供することにある。
【解決手段】 本発明の光ファイバケーブルは、複数本の光ファイバ素線1を平面状に並行に並べこれに一括被覆を施してなる光ファイバテープ心線2と、光ファイバテープ心線2に施されたシース3と、シース3内にあって光ファイバテープ心線2の両側に光ファイバテープ心線2と並行に配置された一対のテンションメンバー6、6と、シース3内にあって光ファイバテープ心線2の両側に光ファイバテープ心線2と並行に配置された一対の防護テープ5、5とを有する光ファイバケーブルにおいて、防護テープ5は、断面形状が弧状であり、光ファイバテープ心線2と反対側に弧の中心が位置するように配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に光ファイバテープ心線を有する光ファイバケーブル、特に架空用に用いられる光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ガラス光ファイバの外周に紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂等からなる被覆を有する、いわゆる光ファイバ心線と、テンションメンバーや支持線とに、一体的にシースを施した光ファイバケーブルが種々製造され、使用されている。
【0003】
ところでこれらの光ファイバケーブルが架空布設された場合、経時的に原因不明の特性劣化が発生することがあった。近年になって漸くこの原因が夏季に発生するセミ、特にクマゼミの光ファイバケーブルへの産卵行動に起因することが判ってきた。
具体的には、クマゼミが架空に布設された光ファイバケーブルを木の幹や枝と誤って、シースに産卵管を突き刺し、内部に産卵する行動が原因である、というものである。
【0004】
このようにシースに産卵管が差し込まれると、開けられた孔から雨水等の水分がケーブル内部に侵入し易くなる。そしてこのように水分がケーブル内に侵入すると、この水分が原因となって光ファイバに伝送損失増加を引き起こす危険性が急激に高まる。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に記載されているように、シースで被覆された光ファイバテープ心線の少なくとも一部を覆うように、シースの内部または外表面に防護テープを配置せしめた光ファイバケーブルが提案されている。
このような光ファイバケーブルを用いれば、仮にクマゼミがシースの薄肉部分に産卵管を突き刺しても、産卵管の先が防護テープにより遮られ、内部の光ファイバまでは届かず、前述した危険、すなわち、光ファイバの伝送損失増加の危険性を低下せしめることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−195109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この防護テープは、厚みの薄い断面略矩形ないし楕円形のものであり、概して弧状に反り易い性質を持っている。したがって、製造される防護テープの中には、弧状に反った形状のものがある頻度で製造されるが、この反りが光ファイバケーブルの特性にどのように影響するのかは判っていなかった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、断面形状が弧状に反った防護テープを用いても、クマゼミに対する防御効果を保持しながら、特性上問題のない光ファイバケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の光ファイバケーブルは、複数本の光ファイバ素線を平面状に並行に並べこれに一括被覆を施してなる光ファイバテープ心線と、該光ファイバテープ心線に施されたシースと、該シース内にあって前記光ファイバテープ心線の両側に光ファイバテープ心線と並行に配置された一対のテンションメンバーと、前記シース内にあって前記光ファイバテープ心線の両側に光ファイバテープ心線と並行に配置された一対の防護テープとを有する光ファイバケーブルにおいて、前記防護テープは、断面形状が弧状であり、前記光ファイバテープ心線と反対側に弧の中心が位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにしてなる本発明によれば、断面形状が弧状に反った防護テープを用いてもクマゼミに対する防御効果を維持しつつ、特性上問題のない光ファイバケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の光ファイバケーブルの一実施例を示す横断面図である。光ファイバテープ心線2は、例えば、石英ガラス製の外径125μmの一般的な光ファイバに、紫外線硬化性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂等の樹脂被覆を施した光ファイバ素線1を複数本有するものである。
図1に示す実施例では、光ファイバ素線1を、例えば4本、平面状に並行に並べ、これに紫外線硬化性樹脂等からなる一括被覆を施し、幅が1.1mm、厚さが0.32mmの光ファイバテープ心線2を用いている。
【0012】
図1に示す光ファイバケーブルでは、上記した光ファイバテープ心線2を2枚用意し、これらの端部を揃えて積層してある。そして積層した2枚の光ファイバテープ心線2の厚さ方向両側には、この光ファイバテープ心線2、2をサンドイッチ状に挟み込むようにしながら光ファイバテープ心線2と並行に、かつこの光ファイバテープ心線2、2の幅方向全体を覆うように2枚のポリアミド系樹脂またはポリエステル系の樹脂テープ等からなる防護テープ5、5が配置されている。さらにこの防護テープ5、5は断面が弧状に反っていて、その反りが光ファイバテープ心線2、2と反対側になるように位置決めされている。換言すると、反っている弧の中心が光ファイバテープ心線2の反対側に位置するように位置決めされている。
【0013】
尚、本実施例で用いた防護テープ5、5は、幅1.6mm、厚さ0.2mm、反り量30μmである。この反り量とは、図2に示すように、防護テープ5を水平面に置いたときの垂直方向における最大高さaと防護テープ5の厚みbとの差(a―b)により定義される。
反り量の許容範囲は、製造される光ファイバケーブルの構造や寸法等によって異なるが、本実施例の光ファイバケーブルにおいては40μm以下が好ましい。
【0014】
このように2枚の光ファイバテープ心線2を積層し、その厚さ方向両側からこれを挟み込むように、かつ光ファイバテープ心線2と反対側に反った樹脂製の防護テープ5、5を介在させ、これらに、例えば、ノンハロゲン難燃性ポリエチレン等からなるシース3を施した。
また、この防護テープ5の幅は、光ファイバテープ心線2の幅方向(図1における上下方向)を全体的に覆うことのできる大きさになっている。具体的には、幅1.1mmの光ファイバテープ心線2を、弧状になっている状態で両側から覆っている。この実施例に用いられている幅1.1mmの光ファイバテープ心線2の幅方向全体を覆うには、弧状になっている状態で長径側の長さが1.3〜1.7mmになるような防護テープ5を用いることが好ましい。
【0015】
その結果、光ファイバテープ心線2、2の厚さ方向(図1に左右方向)から、シース3にクマゼミが産卵管を刺し込んだとしても、産卵管のさらなる侵入を防護テープ5、5が阻止し、光ファイバに障害が及ばないようになっている。
【0016】
尚、図1において、符号6、6は、防護テープ5、5が配されている方向と直交する方向、すなわち、光ファイバテープ心線2の幅方向両側(図1にあっては上下方向)に、光ファイバテープ心線2とほぼ等間隔を置いて、しかもその中心が2枚の光ファイバテープ心線2同士の接触面と略同一平面上になるように位置決めされた、例えば、強化繊維としてアラミド繊維を用いたFRP(繊維強化プラスチック)からなる外径0.5mmのテンションメンバーである。
このテンションメンバー6、6は、機械的強度に劣る光ファイバが、その長手方向に外力を受けた場合、これを保護するために用いられている。
【0017】
また、符号7、7はシース3の対向する両面に必要に応じて設けた切欠である。この切欠7を設けておくと、ケーブル布設の際、シース3を容易に切り裂くことができ、内部の光ファイバテープ心線2を簡単に取り出せ、便利である。
【0018】
また、符号8は必要により設けたFRPや亜鉛メッキ鋼線等からなる支持線で、支持線8の中心は、テンションメンバー6、6の各中心と略同一平面上に存在するように位置決めされている。このような光ファイバケーブルは、いわゆる自己支持型の光ファイバケーブルと呼ばれているものである。因みに、極めて短い距離間に布設されるようなケーブルにあっては、支持線8のない光ファイバケーブルとすることもできる。
このようにして得られた光ファイバケーブルの寸法は、一例として、長辺寸法(支持線部は含まない)が3.7mm、短辺寸法が2.0mmになっている。
【0019】
図1に示す本発明の光ファイバケーブルの長期信頼性を確認するために、図3に示すような水走り評価試験を行った。
図3に示すように長さ40mの光ファイバケーブル20の一端にホース21を繋いでこれを直立させ、このホース21内にその水頭長が1mになるように人工塩水22を入れた。この状態で240時間経過後、人工塩水を加えた光ファイバケーブル20の端部から人口塩水がどの長さまでケーブル内に侵入しているか、その侵入長を調べた。
比較対象として、図5に示すように、防護テープ5が光ファイバテープ心線2側に反っているものも加えた。各々の光ファイバケーブルのサンプル数はn=5である。
【0020】
この結果、図5に示す防護テープ5が光ファイバテープ心線2の方に弧の内側を向けて反った光ファイバケーブルでは、5本すべてにおいて240時間後、ケーブル全長である40mに亘って水分が侵入していた。
一方、図1に示す本発明の光ファイバケーブルでは、5本の全てにおいて水分の侵入長は5m以下であった。これは、反りのない防護テープを用いた場合と同等の結果である。
【0021】
ところで、光ファイバケーブルが長期間架空状態で曝されていると、ケーブル端部から雨水等の水分が光ファイバケーブル内に侵入していく場合がある。このようにケーブル端部から水分が光ファイバケーブル内に侵入し、しかも図5に示すように防護テープ5と光ファイバテープ心線2との間に空隙10があり、この空隙10がケーブル長手方向に連通していると、この空隙10を介して短時間で水分がケーブル長手方向に走る(一般的に水走り、という)。その結果、この水分が徐々に光ファイバテープ心線2の表面から内部の光ファイバへと侵入し、光ファイバに伝送損失増加を引き起こす原因となり得る。
図5に示す光ファイバケーブルでも、まさにこのような原因で時間の経過とともに光ファイバ素線1に伝送損失増加が引き起こされたものと推測される。
【0022】
このように、反りを有する防護テープ5を用いても長期に亘って、ケーブル内で水分が走る危険性をより確実に低下させるためには、防護テープ5を図1に示す本発明の光ファイバケーブルのように、光ファイバテープ心線2と反対側、すなわち、断面形状が弧状の防護テープ5の弧の中心位置が光ファイバテープ心線2と反対側になるように配置する必要があることが判る。
因みに、図5に示す光ファイバケーブルでは、シース3を構成する樹脂が防護テープ5の裏側、すなわち、光ファイバテープ心線2側に回り込み難いがために、防護テープ5と光ファイバテープ心線2との間に空隙10ができ易く、その結果、この空隙10を介して外部から侵入した水分がケーブル長手方向に走り、長い間に光ファイバの伝送損失増加を引き起こしていた、と考えられる。
【0023】
図4は本発明の光ファイバケーブルの別の実施例を示す横断面図である。図1に示す光ファイバケーブルとの相違は、単にシース3内に光ファイバテープ心線2を1本だけ配している点のみである。
このように、光ファイバテープ心線2の本数は必要な通信量によって適宜決められる。
ところで、図1及び図4に示す本発明の光ファイバケーブルでは、防護テープ5の中央部が光ファイバテープ心線2の表面に接しているが、両者が離れていて、この防護テープ5と光ファイバテープ心線2との間に樹脂が回り込んだ構造のものであってももちろん本発明の光ファイバケーブルの範囲内である。
【0024】
以上に述べたように、本発明によれば、断面形状が弧状に反った防護テープを用いても、クマゼミに対する防御効果を維持しつつ、特性上問題のない光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の光ファイバケーブルの一実施例を示す横断面図である。
【図2】防護テープの反り量の定義を示す断面図である。
【図3】光ファイバケーブルにおける水走り評価試験の方法を示す概略図である。
【図4】本発明の光ファイバケーブルの別の実施例を示す横断面図である。
【図5】比較例の光ファイバケーブルの一例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 光ファイバ素線
2 光ファイバテープ心線
3 シース
5 防護テープ
6 テンションメンバー
7 切欠
8 支持線
20 光ファイバケーブル
21 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の光ファイバ素線を平面状に並行に並べこれに一括被覆を施してなる光ファイバテープ心線と、
該光ファイバテープ心線に施されたシースと、
該シース内にあって前記光ファイバテープ心線の両側に光ファイバテープ心線と並行に配置された一対のテンションメンバーと、
前記シース内にあって前記光ファイバテープ心線の両側に光ファイバテープ心線と並行に配置された一対の防護テープとを有する光ファイバケーブルにおいて、
前記防護テープは、断面形状が弧状であり、前記光ファイバテープ心線と反対側に弧の中心が位置するように配置されていることを特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−203794(P2008−203794A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43050(P2007−43050)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】