光ファイバケーブル
【課題】 細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる光ファイバケーブルを得る。
【解決手段】 光ファイバ心線3と、光ファイバ心線3に沿う抗張力体5と、抗張力体5を覆う接着剤層7と、光ファイバ心線3、及び抗張力体5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9とを具備する光ファイバケーブル1において、接着剤層7に、低摩擦材層9よりも高い難燃性を付与した。接着剤層9は、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加して形成することができる。低摩擦材層9は、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて形成できる。
【解決手段】 光ファイバ心線3と、光ファイバ心線3に沿う抗張力体5と、抗張力体5を覆う接着剤層7と、光ファイバ心線3、及び抗張力体5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9とを具備する光ファイバケーブル1において、接着剤層7に、低摩擦材層9よりも高い難燃性を付与した。接着剤層9は、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加して形成することができる。低摩擦材層9は、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて形成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電話配管内への追加布設に用いて好適な光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
既設集合住宅の各戸まで光化(FTTH;Fiber to the Home)する場合、加入者の発生に応じ電話配管内に光ファイバケーブルを追加布設することが行われる。図9は既設集合住宅各戸までの光ファイバケーブル追加布設経路を表す概念図である。既設集合住宅(マンション等)500の屋内には主配電盤であるMDF(Main Distributing Frame)が設けられ、MDFは各階の中間配電盤であるIDF(Intermediate Distributing Frame)へ縦系の電話配管501にて接続される。なお、図中、501aは横系の電話配管を示す。
【0003】
図10は電話配管の通線状況を表す断面図である。
追加布設では、電話配管501には既設電話線503を除く空間505に、複数の光ファイバケーブル507を通線するため、光ファイバケーブル507は細く、低摩擦であることが望まれる。例えば電話配管501がφ22であれば30本、電話配管501がφ28であれば50本程度の光ファイバケーブル507が挿通されることから、光ファイバケーブル507には細径化が求められる。光ファイバケーブル507は、複数階500a,500b,500c,500dを貫通する縦系に布設されるため、難燃試験(JIS C3005)の傾斜試験と同等以上の高難燃性が求められる。また、外被材料はハロゲンガスを発生しないノンハロゲン材料が望まれる。このような場所に使用される光ファイバケーブルとしては、例えば特許文献1に開示される図11に示す構造の光ファイバケーブル507が挙げられる。
【0004】
図11は従来の光ファイバケーブルの断面図である。
光ファイバケーブル507は、光ファイバ心線509の両側に抗張力体511を配置し、これらを一括して熱可塑性樹脂により被覆513を施し、抗張力体511と被覆513との間に、抗張力体511と被覆513との接着性を高めることができる接着剤層515を介在させている。接着剤層515は、石油生成物からなる可燃性材料であるため、被覆513にはかなり高難燃のノンハロゲン材料を用いなければならない。
【0005】
図12は従来の他の光ファイバケーブルの断面図である。
また、同特許文献1に開示される図12に示す光ファイバケーブル517は、光ファイバ心線519を収納する収納部521を2分割するためのV字形状のノッチ部523を設け、難燃ポリオレフィンから成形されたケーブルシース525と、ケーブルシース525の収納部521の近傍に設けられ伸長方向の張力を吸収する抗張力体527とを備え、ケーブルシース525のノッチ部先端を除く外面に低摩擦樹脂529を被覆している。
【特許文献1】特開2004−205979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に高難燃のノンハロゲン材料は摩擦係数が高く、摩擦係数が低い硬質の材料を用いると多量の難燃剤を添加することができず難燃性が低くなってしまう相反関係にある。このため、低摩擦で高難燃性を有する細径な光ケーブルはこれまでなかった。また、図12に示す光ファイバケーブル517は、収納部521及び抗張力体527を覆うケーブルシース525の外面を、さらに低摩擦樹脂529にて被覆する2層被覆のため、高価な押出機が2台必要になった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる光ファイバケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 光ファイバ心線と、該光ファイバ心線に沿う抗張力体と、該抗張力体を覆う接着剤層と、前記光ファイバ心線、及び前記抗張力体を前記接着剤層ごと被覆する低摩擦材層と、を具備した光ファイバケーブルであって、
前記接着剤層が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【0008】
この光ファイバケーブルによれば、抗張力体が難燃性を有する接着剤層にて覆われ、外部からの炎によって抗張力体が燃焼し難くなる。接着剤層にて抗張力体が低摩擦材層へ高強度に固定される。接着剤層にて密に抗張力体が覆われるので、抗張力体にアラミド繊維等の繊維材料が使用されても抗張力体の内部空気が燃焼に寄与し難くなる。コード内部から空気が流出することによる燃焼継続が生じず、低摩擦材層のみの燃焼による自己消炎が可能となる。抗張力体を覆う難燃層が接着剤層にて形成できるので、接着剤層の形成においてはディップコーティング法等の簡易な設備を用いることが可能となる。
【0009】
(2) (2)の光ファイバケーブルにおいて、
前記接着剤層が、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加したことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0010】
この光ファイバケーブルによれば、入手容易な市販の接着性樹脂に添加剤である金属酸化物又は赤リンを添加することで、難燃性のないベース材料に難燃性が付与される。
【0011】
(3) (1)又は(2)の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0012】
この光ファイバケーブルによれば、低密度ポリエチレンなど一般に光ケーブル外被に使用されている樹脂に比べて低摩擦が得られる。また、高密度ポリエチレンやポリプロピレンなど硬質樹脂は摩耗性に優れるため、外被表面に削れが生じ難くなる。
【0013】
(4) (1)〜(3)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線を挟んで一対の前記抗張力体が設けられ、
該一対の抗張力体間の低摩擦材層表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチが形成されることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0014】
この光ファイバケーブルによれば、溝内が開放されるV字形状のノッチと異なり、溝内面同士が接してノッチが開放されなくなり、外部からの炎が光ファイバ心線に伝わり難くなる。
【0015】
(5) (1)〜(4)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有する難燃層にて覆われたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0016】
この光ファイバケーブルによれば、光ファイバ心線が難燃層によって覆われ、外部からの炎に光ファイバ心線が影響を受け難くなる。難燃層にて光ファイバ心線が覆われるので、燃焼時に炎が低摩擦材層の内部に達した場合であっても、光ファイバ心線の挿通空間内部から空気が放出され難くなり、内部空気が燃焼促進剤とならない。
【0017】
(6) (1)〜(5)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記抗張力体が、撚鋼線であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0018】
この光ファイバケーブルによれば、外部からの炎によって抗張力体が影響を受け難くなる。表面の凹凸に低摩擦材層が一体化して、抗張力体が低摩擦材層に接着しやすくなる。
【0019】
(7) (1)(6)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層表面に、フッ素樹脂がコーティングされたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0020】
この光ファイバケーブルによれば、フッ素樹脂が表面にコーティングされることで摩擦係数を低くすることが可能となる。フッ素樹脂はそれ自体が難燃性を有するので、低摩擦材層の難燃性が高まる。
【0021】
(8) (1)〜(7)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層は、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂を含浸して成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0022】
この光ファイバケーブルによれば、低摩擦材層に、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂が含浸されることで、低摩擦材層自体が難燃性を有することとなり、しかも、フッ素コートと異なり通線時にコート材の剥がれることがない。なお、フッ素樹脂としては、平均粒子径が2〜10μmのポリテトラフルオロエチレンが望ましい。
【0023】
(9) (1)〜(7)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層の表面が、高難燃樹脂の表面を架橋又は焼付けして成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0024】
この光ファイバケーブルによれば、低摩擦材層が高難燃樹脂からなり、その表面が架橋又は焼付けされることで硬くなり、摩擦係数が低減する(一般に表面硬化により摩擦係数は低くなる)。これにより、低摩擦性で高難燃性の低摩擦材層が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る光ファイバケーブルによれば、ファイバ心線、及び抗張力体を接着剤層ごと被覆する低摩擦材層を具備し、内側の接着剤層が、外側の低摩擦材層よりも難燃性を有するので、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る光ファイバケーブルの好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る光ファイバケーブルの第1の実施の形態を表す断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1は、少なくとも1本の光ファイバ心線3と、この光ファイバ心線3に沿う抗張力体5,5と、抗張力体5,5を覆う接着剤層7と、光ファイバ心線3、及び抗張力体5,5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9とを具備してなる、所謂インドアケーブルと呼ばれるものである。
【0027】
光ファイバ心線3の両側に平行に配置された抗張力体5は、ケーブルの伸長方向の張力を吸収する。抗張力体5としては、金属線としての例えば撚鋼線、非導電性の抗張力繊維のケブラー(商標)などのアラミド繊維、エンプラ(エンジニアリングプラスチック)などが用いられる。本実施の形態では鋼線が用いられている。
【0028】
光ファイバ心線3、接着剤層7を覆う低摩擦材層9は、断面矩形状に形成される。低摩擦材層9の外形寸法は、例えば横1.9mm、縦1.5mmに形成される。低摩擦材層9は、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成る。これにより、低密度ポリエチレンなど一般に光ケーブル外被に使用されている樹脂に比べ、低摩擦が得られる。また、高密度ポリエチレンやポリプロピレンなど硬質樹脂は摩耗性に優れるため、外被表面に削れが生じ難くなる。また、低摩擦層9の難燃性を高めるために高密度ポリエチレン又はポリプロピレンに水酸化マグネシウム等の難燃剤を配合しても良い。
【0029】
低摩擦材層9の上下辺部には光ファイバ心線3を挟んでV字溝(切り裂きノッチ)11,11がケーブル長手方向に沿って形成されている。切り裂きノッチ11,11のそれぞれに上下逆方向の力を加えて低摩擦材層9を引き裂いて2分割することにより、光ファイバ心線3を容易に取り出すことができるようになっている。
【0030】
抗張力体5と低摩擦材層9を接着固定する接着剤層7は、低摩擦材層9よりも高い難燃性を有している。接着剤層7は、低摩擦層9よりも多量の難燃剤を添加することが可能であるため、低摩擦層9よりも高い難燃性を付与することができる。接着剤層7は、接着性樹脂(接着剤)に、金属酸化物又は赤リンを添加してなる。接着剤としては、例えば無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂[三井化学製「アドマーVF500」]が挙げられる。これは非常によく燃える可燃物であるため、水酸化マグネシウムのような金属酸化物や赤リンを添加する。接着剤と添加物の混和性をよくするため、金属酸化物や赤リンが添加されたポリエチレン、ポリオレフィンやポリプロピレンと接着剤とを配合してもよい。
【0031】
このように、接着剤層7は、入手容易な市販の接着性樹脂に添加剤である金属酸化物又は赤リンを添加することで、難燃性のないベース材料(接着剤)に難燃性が付与されている。
【0032】
無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂は、融点が60〜80℃程度と、外被のポリオレフィンやポリプロピレンなどの樹脂よりも低く、低粘度のため接着剤を溶融させた容器内に抗張力体を通しダイスで成形するという簡易な塗布法(ディップコーティング法等)で抗張力体5に被覆できる。これにより、高価な押出機は、低摩擦材層9の成形のみに使用する1台で済むメリットが生じる。
【0033】
このように光ファイバケーブル1では、抗張力体5が難燃性を有する接着剤層7に覆われ、外部からの炎によって抗張力体5が燃焼し難くなる。接着剤層7にて抗張力体5が低摩擦材層9へ高強度に固定される。低摩擦材層9と抗張力体5が高強度に固定されることで、ヒートサイクルによっても光ファイバ心線3に伝送損失(マイクロベンドロス)が発生し難くなる。
【0034】
また、接着剤層7にて密に抗張力体5が覆われるので、抗張力体5にアラミド繊維等の繊維材料が使用されても抗張力体5の内部空気が燃焼に寄与し難くなる。コード内部から空気が流出することによる燃焼継続が生じず、低摩擦材層9のみの燃焼による自己消炎が可能となる。抗張力体5を覆う難燃層が接着剤層7にて形成できるので、難燃樹脂を専用に被覆するための高価な押出機を不要にし、接着剤層7の形成においてはディップコーティング法等の簡易な設備を用いることが可能となる。
【0035】
したがって、上記構成の光ファイバケーブル1によれば、光ファイバ心線3、及び抗張力体5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9を具備し、内側の接着剤層7が、外側の低摩擦材層9よりも難燃性を有するので、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる。
【0036】
次に、本発明に係る光ファイバケーブルの種々の実施の形態を説明する。
図2は第2の実施の形態を表す接着剤層を広げた光ファイバケーブルの断面図である。なお、以下の各実施の形態において、図1に示した部材と同等の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Aは、難燃接着剤の領域をできるだけ広げるため、接着剤層7Aの断面形状を非円形化(正方形状、矩形状、長円・楕円形状)している。
この光ファイバケーブル1Aによれば、接着剤層7Aの厚みを増大でき、より高い難燃性を得ることができる。
【0037】
図3は第3の実施の形態を表す線状の切り裂きノッチを形成した光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Bは、光ファイバ心線3を挟んで一対の抗張力体5,5が設けられ、この一対の抗張力体5,5間の低摩擦材層9表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチ11A,11Aが形成される。
この光ファイバケーブル1Bによれば、溝内が開放されるV字形状の切り裂きノッチ11と異なり、溝内面同士が接してノッチが開放されなくなり、外部からの炎が光ファイバ心線3により伝わり難くなる。
【0038】
図4は第4の実施の形態を表す光ファイバ心線を難燃層で覆った光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Cは、光ファイバ心線3が、低摩擦材層9よりも難燃性を有する難燃層13にて覆われる。難燃層13としては、上記の接着剤層7と同一の材料を用いることができるが、それ以外の難燃材料が用いられてもよい。難燃材料は、ベース材料に難燃剤を添加して得る。ベース材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、PPS樹脂、PVC樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられ、難燃剤としては、臭素系難燃剤、窒素系難燃剤、リン酸系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。
【0039】
この光ファイバケーブル1Cによれば、光ファイバ心線3が難燃層13によって覆われ、外部からの炎に光ファイバ心線3が影響を受け難くなる。難燃層13にて光ファイバ心線3が覆われるので、燃焼時に炎が低摩擦材層9の内部に達した場合であっても、光ファイバ心線3の挿通空間内部から空気が放出され難くなり、内部空気が燃焼促進剤とならない。
【0040】
図5は第5の実施の形態を表す抗張力体に撚鋼線を用いた光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Dは、抗張力体5A,5Aが、撚鋼線から成る。
この光ファイバケーブル1Dによれば、材質的な特性により、外部からの炎によって抗張力体5A,5Aが影響を受け難くなる。表面の凹凸に低摩擦材層9が一体化して、抗張力体5A,5Aが低摩擦材層9へ高強度に固定され、接着剤層7の接着力が弱くても接着可能となる。また接着剤層7を省略することもできる。剛性の高い抗張力体5A,5Aで側圧を支えるため、光ファイバ心線3におけるマイクロベンドロスの発生を抑止できる。
【0041】
図6は第6の実施の形態を表すフッ素樹脂をコーティングした光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Eは、低摩擦材層9の表面に、フッ素樹脂15がコーティングされる。
この光ファイバケーブル1Eによれば、フッ素樹脂15が表面にコーティングされることで摩擦係数をより低くすることが可能となる。フッ素樹脂15はそれ自体が難燃性を有するので、低摩擦材層9の難燃性を高めることができる。なお、フッ素樹脂15は、切り裂き性を良好とするため、切り裂きノッチ11,11内には設けないことが好ましい。
【0042】
図7は第7の実施の形態を表す低摩擦材層にフッ素樹脂を添加した光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Fは、低摩擦材層9Aが、高難燃性、且つ低摩擦係数のフッ素樹脂を含浸して成る。
この光ファイバケーブル1Fによれば、低摩擦材層9Aに、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂が含浸されることで、低摩擦材層9A自体が難燃性を有することとなり、しかも、フッ素コートと異なり通線時にコート材の剥がれることがない。なお、フッ素樹脂としては、平均粒子径が2〜10μmのポリテトラフルオロエチレンの用いられることが望ましい。
【0043】
図8は第8の実施の形態を表す外被表面を架橋又は焼付けした光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Gは、低摩擦材層9Bが、高難燃樹脂17の表面17aを架橋又は焼付けした材料から成る。
この光ファイバケーブル1Gによれば、低摩擦材層9Bが高難燃樹脂17からなり、その表面17aが架橋又は焼付けされることで硬くなり、摩擦係数が低減する(一般に表面硬化により摩擦係数は低くなる)。これにより、低摩擦性で高難燃性の低摩擦材層9Bが得られる。
【実施例】
【0044】
第1の実施の形態に係る構成の光ファイバケーブルを試作した。接着剤とポリオレフィンの重量比を変えた条件で1〜10種の光ファイバケーブルを得た。得られた試作光ファイバケーブルのそれぞれについて、酸素指数及び抗張力体(TM)引抜力を求め、JIS C3005の難燃試験(傾斜試験)を行い、着火30秒で自然消炎するか否かの判定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
ケーブル構造は、TMがφ0.4mmの鋼線を2本、TM上の接着剤層の外径が0.7mm、外寸が1.5mm×1.9mm。ノッチは線状の切り裂きノッチとした。
【0047】
なお、接着剤は、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂[三井化学製「アドマーVF500」]を使用。難燃材としては、水酸化マグネシウム(水マク゛)が添加された酸素指数(OI)32の難燃ポリエチレンを用いた。
【0048】
また、酸素指数は、プラスチック等の難燃性評価尺度の一種で、酸素と窒素の混合ガス気流中で試験片が燃焼し続けるのに要する最低酸素濃度を意味し、容積%で表示される。一般的に酸素指数が小さいほど、低い酸素濃度でよく燃え、21%より小さい場合は一旦火がつけば空気中で燃え続けるとされる。通常、酸素指数22%以上のものが難燃性とされる。
【0049】
難燃試験(傾斜試験)は、JIS C3005に準拠し、1本のケーブルを規定されたトレイの中に水平軸から60度の角度に傾けて設置し、トレイ下方より規定のバーナにより光ファイバケーブルを燃焼させ、トレイ上方への延焼性を評価した。なお、着火時間は30秒とした。
【0050】
表1から分かるように、試料1,2はTM引張力が0.5kg/cm以下となり、強度不足により不合格であり、試料9,10は難燃試験(傾斜試験)を満足せず、不合格とした。したがって、水酸化マグネシウムが添加された酸素指数32の難燃ポリエチレンの場合、接着剤層は、接着剤5〜50%の重量比であれば、TM引張力及び難燃試験(傾斜試験)とも満足するものが得られることを知見できた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る光ファイバケーブルの第1の実施の形態を表す断面図である。
【図2】第2の実施の形態を表す接着剤層を広げた光ファイバケーブルの断面図である。
【図3】第3の実施の形態を表す線状の切り裂きノッチを形成した光ファイバケーブルの断面図である。
【図4】第4の実施の形態を表す光ファイバ心線を難燃層で覆った光ファイバケーブルの断面図である。
【図5】第5の実施の形態を表す抗張力体に撚鋼線を用いた光ファイバケーブルの断面図である。
【図6】第6の実施の形態を表すフッ素樹脂をコーティングした光ファイバケーブルの断面図である。
【図7】第7の実施の形態を表す低摩擦材層にフッ素樹脂を添加した光ファイバケーブルの断面図である。
【図8】第8の実施の形態を表す外被表面を架橋又は焼付けした光ファイバケーブルの断面図である。
【図9】既設集合住宅各戸までの光ファイバケーブル追加布設経路を表す概念図である。
【図10】電話配管の通線状況を表す断面図である。
【図11】従来の光ファイバケーブルの断面図である。
【図12】従来の他の光ファイバケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 光ファイバケーブル
3 光ファイバ心線
5 抗張力体
5A 抗張力体(撚鋼線)
7 接着剤層
9 低摩擦材層
11A 線状の切り裂きノッチ
13 難燃層
15 フッ素樹脂
17 高難燃樹脂
17a 低摩擦材層表面
【技術分野】
【0001】
本発明は、電話配管内への追加布設に用いて好適な光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
既設集合住宅の各戸まで光化(FTTH;Fiber to the Home)する場合、加入者の発生に応じ電話配管内に光ファイバケーブルを追加布設することが行われる。図9は既設集合住宅各戸までの光ファイバケーブル追加布設経路を表す概念図である。既設集合住宅(マンション等)500の屋内には主配電盤であるMDF(Main Distributing Frame)が設けられ、MDFは各階の中間配電盤であるIDF(Intermediate Distributing Frame)へ縦系の電話配管501にて接続される。なお、図中、501aは横系の電話配管を示す。
【0003】
図10は電話配管の通線状況を表す断面図である。
追加布設では、電話配管501には既設電話線503を除く空間505に、複数の光ファイバケーブル507を通線するため、光ファイバケーブル507は細く、低摩擦であることが望まれる。例えば電話配管501がφ22であれば30本、電話配管501がφ28であれば50本程度の光ファイバケーブル507が挿通されることから、光ファイバケーブル507には細径化が求められる。光ファイバケーブル507は、複数階500a,500b,500c,500dを貫通する縦系に布設されるため、難燃試験(JIS C3005)の傾斜試験と同等以上の高難燃性が求められる。また、外被材料はハロゲンガスを発生しないノンハロゲン材料が望まれる。このような場所に使用される光ファイバケーブルとしては、例えば特許文献1に開示される図11に示す構造の光ファイバケーブル507が挙げられる。
【0004】
図11は従来の光ファイバケーブルの断面図である。
光ファイバケーブル507は、光ファイバ心線509の両側に抗張力体511を配置し、これらを一括して熱可塑性樹脂により被覆513を施し、抗張力体511と被覆513との間に、抗張力体511と被覆513との接着性を高めることができる接着剤層515を介在させている。接着剤層515は、石油生成物からなる可燃性材料であるため、被覆513にはかなり高難燃のノンハロゲン材料を用いなければならない。
【0005】
図12は従来の他の光ファイバケーブルの断面図である。
また、同特許文献1に開示される図12に示す光ファイバケーブル517は、光ファイバ心線519を収納する収納部521を2分割するためのV字形状のノッチ部523を設け、難燃ポリオレフィンから成形されたケーブルシース525と、ケーブルシース525の収納部521の近傍に設けられ伸長方向の張力を吸収する抗張力体527とを備え、ケーブルシース525のノッチ部先端を除く外面に低摩擦樹脂529を被覆している。
【特許文献1】特開2004−205979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に高難燃のノンハロゲン材料は摩擦係数が高く、摩擦係数が低い硬質の材料を用いると多量の難燃剤を添加することができず難燃性が低くなってしまう相反関係にある。このため、低摩擦で高難燃性を有する細径な光ケーブルはこれまでなかった。また、図12に示す光ファイバケーブル517は、収納部521及び抗張力体527を覆うケーブルシース525の外面を、さらに低摩擦樹脂529にて被覆する2層被覆のため、高価な押出機が2台必要になった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる光ファイバケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 光ファイバ心線と、該光ファイバ心線に沿う抗張力体と、該抗張力体を覆う接着剤層と、前記光ファイバ心線、及び前記抗張力体を前記接着剤層ごと被覆する低摩擦材層と、を具備した光ファイバケーブルであって、
前記接着剤層が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【0008】
この光ファイバケーブルによれば、抗張力体が難燃性を有する接着剤層にて覆われ、外部からの炎によって抗張力体が燃焼し難くなる。接着剤層にて抗張力体が低摩擦材層へ高強度に固定される。接着剤層にて密に抗張力体が覆われるので、抗張力体にアラミド繊維等の繊維材料が使用されても抗張力体の内部空気が燃焼に寄与し難くなる。コード内部から空気が流出することによる燃焼継続が生じず、低摩擦材層のみの燃焼による自己消炎が可能となる。抗張力体を覆う難燃層が接着剤層にて形成できるので、接着剤層の形成においてはディップコーティング法等の簡易な設備を用いることが可能となる。
【0009】
(2) (2)の光ファイバケーブルにおいて、
前記接着剤層が、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加したことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0010】
この光ファイバケーブルによれば、入手容易な市販の接着性樹脂に添加剤である金属酸化物又は赤リンを添加することで、難燃性のないベース材料に難燃性が付与される。
【0011】
(3) (1)又は(2)の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0012】
この光ファイバケーブルによれば、低密度ポリエチレンなど一般に光ケーブル外被に使用されている樹脂に比べて低摩擦が得られる。また、高密度ポリエチレンやポリプロピレンなど硬質樹脂は摩耗性に優れるため、外被表面に削れが生じ難くなる。
【0013】
(4) (1)〜(3)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線を挟んで一対の前記抗張力体が設けられ、
該一対の抗張力体間の低摩擦材層表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチが形成されることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0014】
この光ファイバケーブルによれば、溝内が開放されるV字形状のノッチと異なり、溝内面同士が接してノッチが開放されなくなり、外部からの炎が光ファイバ心線に伝わり難くなる。
【0015】
(5) (1)〜(4)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有する難燃層にて覆われたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0016】
この光ファイバケーブルによれば、光ファイバ心線が難燃層によって覆われ、外部からの炎に光ファイバ心線が影響を受け難くなる。難燃層にて光ファイバ心線が覆われるので、燃焼時に炎が低摩擦材層の内部に達した場合であっても、光ファイバ心線の挿通空間内部から空気が放出され難くなり、内部空気が燃焼促進剤とならない。
【0017】
(6) (1)〜(5)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記抗張力体が、撚鋼線であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0018】
この光ファイバケーブルによれば、外部からの炎によって抗張力体が影響を受け難くなる。表面の凹凸に低摩擦材層が一体化して、抗張力体が低摩擦材層に接着しやすくなる。
【0019】
(7) (1)(6)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層表面に、フッ素樹脂がコーティングされたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【0020】
この光ファイバケーブルによれば、フッ素樹脂が表面にコーティングされることで摩擦係数を低くすることが可能となる。フッ素樹脂はそれ自体が難燃性を有するので、低摩擦材層の難燃性が高まる。
【0021】
(8) (1)〜(7)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層は、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂を含浸して成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0022】
この光ファイバケーブルによれば、低摩擦材層に、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂が含浸されることで、低摩擦材層自体が難燃性を有することとなり、しかも、フッ素コートと異なり通線時にコート材の剥がれることがない。なお、フッ素樹脂としては、平均粒子径が2〜10μmのポリテトラフルオロエチレンが望ましい。
【0023】
(9) (1)〜(7)のいずれか1つの光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層の表面が、高難燃樹脂の表面を架橋又は焼付けして成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【0024】
この光ファイバケーブルによれば、低摩擦材層が高難燃樹脂からなり、その表面が架橋又は焼付けされることで硬くなり、摩擦係数が低減する(一般に表面硬化により摩擦係数は低くなる)。これにより、低摩擦性で高難燃性の低摩擦材層が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る光ファイバケーブルによれば、ファイバ心線、及び抗張力体を接着剤層ごと被覆する低摩擦材層を具備し、内側の接着剤層が、外側の低摩擦材層よりも難燃性を有するので、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る光ファイバケーブルの好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る光ファイバケーブルの第1の実施の形態を表す断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1は、少なくとも1本の光ファイバ心線3と、この光ファイバ心線3に沿う抗張力体5,5と、抗張力体5,5を覆う接着剤層7と、光ファイバ心線3、及び抗張力体5,5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9とを具備してなる、所謂インドアケーブルと呼ばれるものである。
【0027】
光ファイバ心線3の両側に平行に配置された抗張力体5は、ケーブルの伸長方向の張力を吸収する。抗張力体5としては、金属線としての例えば撚鋼線、非導電性の抗張力繊維のケブラー(商標)などのアラミド繊維、エンプラ(エンジニアリングプラスチック)などが用いられる。本実施の形態では鋼線が用いられている。
【0028】
光ファイバ心線3、接着剤層7を覆う低摩擦材層9は、断面矩形状に形成される。低摩擦材層9の外形寸法は、例えば横1.9mm、縦1.5mmに形成される。低摩擦材層9は、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成る。これにより、低密度ポリエチレンなど一般に光ケーブル外被に使用されている樹脂に比べ、低摩擦が得られる。また、高密度ポリエチレンやポリプロピレンなど硬質樹脂は摩耗性に優れるため、外被表面に削れが生じ難くなる。また、低摩擦層9の難燃性を高めるために高密度ポリエチレン又はポリプロピレンに水酸化マグネシウム等の難燃剤を配合しても良い。
【0029】
低摩擦材層9の上下辺部には光ファイバ心線3を挟んでV字溝(切り裂きノッチ)11,11がケーブル長手方向に沿って形成されている。切り裂きノッチ11,11のそれぞれに上下逆方向の力を加えて低摩擦材層9を引き裂いて2分割することにより、光ファイバ心線3を容易に取り出すことができるようになっている。
【0030】
抗張力体5と低摩擦材層9を接着固定する接着剤層7は、低摩擦材層9よりも高い難燃性を有している。接着剤層7は、低摩擦層9よりも多量の難燃剤を添加することが可能であるため、低摩擦層9よりも高い難燃性を付与することができる。接着剤層7は、接着性樹脂(接着剤)に、金属酸化物又は赤リンを添加してなる。接着剤としては、例えば無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂[三井化学製「アドマーVF500」]が挙げられる。これは非常によく燃える可燃物であるため、水酸化マグネシウムのような金属酸化物や赤リンを添加する。接着剤と添加物の混和性をよくするため、金属酸化物や赤リンが添加されたポリエチレン、ポリオレフィンやポリプロピレンと接着剤とを配合してもよい。
【0031】
このように、接着剤層7は、入手容易な市販の接着性樹脂に添加剤である金属酸化物又は赤リンを添加することで、難燃性のないベース材料(接着剤)に難燃性が付与されている。
【0032】
無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂は、融点が60〜80℃程度と、外被のポリオレフィンやポリプロピレンなどの樹脂よりも低く、低粘度のため接着剤を溶融させた容器内に抗張力体を通しダイスで成形するという簡易な塗布法(ディップコーティング法等)で抗張力体5に被覆できる。これにより、高価な押出機は、低摩擦材層9の成形のみに使用する1台で済むメリットが生じる。
【0033】
このように光ファイバケーブル1では、抗張力体5が難燃性を有する接着剤層7に覆われ、外部からの炎によって抗張力体5が燃焼し難くなる。接着剤層7にて抗張力体5が低摩擦材層9へ高強度に固定される。低摩擦材層9と抗張力体5が高強度に固定されることで、ヒートサイクルによっても光ファイバ心線3に伝送損失(マイクロベンドロス)が発生し難くなる。
【0034】
また、接着剤層7にて密に抗張力体5が覆われるので、抗張力体5にアラミド繊維等の繊維材料が使用されても抗張力体5の内部空気が燃焼に寄与し難くなる。コード内部から空気が流出することによる燃焼継続が生じず、低摩擦材層9のみの燃焼による自己消炎が可能となる。抗張力体5を覆う難燃層が接着剤層7にて形成できるので、難燃樹脂を専用に被覆するための高価な押出機を不要にし、接着剤層7の形成においてはディップコーティング法等の簡易な設備を用いることが可能となる。
【0035】
したがって、上記構成の光ファイバケーブル1によれば、光ファイバ心線3、及び抗張力体5を接着剤層7ごと被覆する低摩擦材層9を具備し、内側の接着剤層7が、外側の低摩擦材層9よりも難燃性を有するので、細径化しながらも、低摩擦で高難燃性を両立でき、しかも、簡易な設備を用い製造できる。
【0036】
次に、本発明に係る光ファイバケーブルの種々の実施の形態を説明する。
図2は第2の実施の形態を表す接着剤層を広げた光ファイバケーブルの断面図である。なお、以下の各実施の形態において、図1に示した部材と同等の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Aは、難燃接着剤の領域をできるだけ広げるため、接着剤層7Aの断面形状を非円形化(正方形状、矩形状、長円・楕円形状)している。
この光ファイバケーブル1Aによれば、接着剤層7Aの厚みを増大でき、より高い難燃性を得ることができる。
【0037】
図3は第3の実施の形態を表す線状の切り裂きノッチを形成した光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Bは、光ファイバ心線3を挟んで一対の抗張力体5,5が設けられ、この一対の抗張力体5,5間の低摩擦材層9表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチ11A,11Aが形成される。
この光ファイバケーブル1Bによれば、溝内が開放されるV字形状の切り裂きノッチ11と異なり、溝内面同士が接してノッチが開放されなくなり、外部からの炎が光ファイバ心線3により伝わり難くなる。
【0038】
図4は第4の実施の形態を表す光ファイバ心線を難燃層で覆った光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Cは、光ファイバ心線3が、低摩擦材層9よりも難燃性を有する難燃層13にて覆われる。難燃層13としては、上記の接着剤層7と同一の材料を用いることができるが、それ以外の難燃材料が用いられてもよい。難燃材料は、ベース材料に難燃剤を添加して得る。ベース材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、PPS樹脂、PVC樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられ、難燃剤としては、臭素系難燃剤、窒素系難燃剤、リン酸系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。
【0039】
この光ファイバケーブル1Cによれば、光ファイバ心線3が難燃層13によって覆われ、外部からの炎に光ファイバ心線3が影響を受け難くなる。難燃層13にて光ファイバ心線3が覆われるので、燃焼時に炎が低摩擦材層9の内部に達した場合であっても、光ファイバ心線3の挿通空間内部から空気が放出され難くなり、内部空気が燃焼促進剤とならない。
【0040】
図5は第5の実施の形態を表す抗張力体に撚鋼線を用いた光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Dは、抗張力体5A,5Aが、撚鋼線から成る。
この光ファイバケーブル1Dによれば、材質的な特性により、外部からの炎によって抗張力体5A,5Aが影響を受け難くなる。表面の凹凸に低摩擦材層9が一体化して、抗張力体5A,5Aが低摩擦材層9へ高強度に固定され、接着剤層7の接着力が弱くても接着可能となる。また接着剤層7を省略することもできる。剛性の高い抗張力体5A,5Aで側圧を支えるため、光ファイバ心線3におけるマイクロベンドロスの発生を抑止できる。
【0041】
図6は第6の実施の形態を表すフッ素樹脂をコーティングした光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Eは、低摩擦材層9の表面に、フッ素樹脂15がコーティングされる。
この光ファイバケーブル1Eによれば、フッ素樹脂15が表面にコーティングされることで摩擦係数をより低くすることが可能となる。フッ素樹脂15はそれ自体が難燃性を有するので、低摩擦材層9の難燃性を高めることができる。なお、フッ素樹脂15は、切り裂き性を良好とするため、切り裂きノッチ11,11内には設けないことが好ましい。
【0042】
図7は第7の実施の形態を表す低摩擦材層にフッ素樹脂を添加した光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Fは、低摩擦材層9Aが、高難燃性、且つ低摩擦係数のフッ素樹脂を含浸して成る。
この光ファイバケーブル1Fによれば、低摩擦材層9Aに、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂が含浸されることで、低摩擦材層9A自体が難燃性を有することとなり、しかも、フッ素コートと異なり通線時にコート材の剥がれることがない。なお、フッ素樹脂としては、平均粒子径が2〜10μmのポリテトラフルオロエチレンの用いられることが望ましい。
【0043】
図8は第8の実施の形態を表す外被表面を架橋又は焼付けした光ファイバケーブルの断面図である。
この実施の形態による光ファイバケーブル1Gは、低摩擦材層9Bが、高難燃樹脂17の表面17aを架橋又は焼付けした材料から成る。
この光ファイバケーブル1Gによれば、低摩擦材層9Bが高難燃樹脂17からなり、その表面17aが架橋又は焼付けされることで硬くなり、摩擦係数が低減する(一般に表面硬化により摩擦係数は低くなる)。これにより、低摩擦性で高難燃性の低摩擦材層9Bが得られる。
【実施例】
【0044】
第1の実施の形態に係る構成の光ファイバケーブルを試作した。接着剤とポリオレフィンの重量比を変えた条件で1〜10種の光ファイバケーブルを得た。得られた試作光ファイバケーブルのそれぞれについて、酸素指数及び抗張力体(TM)引抜力を求め、JIS C3005の難燃試験(傾斜試験)を行い、着火30秒で自然消炎するか否かの判定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
ケーブル構造は、TMがφ0.4mmの鋼線を2本、TM上の接着剤層の外径が0.7mm、外寸が1.5mm×1.9mm。ノッチは線状の切り裂きノッチとした。
【0047】
なお、接着剤は、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂[三井化学製「アドマーVF500」]を使用。難燃材としては、水酸化マグネシウム(水マク゛)が添加された酸素指数(OI)32の難燃ポリエチレンを用いた。
【0048】
また、酸素指数は、プラスチック等の難燃性評価尺度の一種で、酸素と窒素の混合ガス気流中で試験片が燃焼し続けるのに要する最低酸素濃度を意味し、容積%で表示される。一般的に酸素指数が小さいほど、低い酸素濃度でよく燃え、21%より小さい場合は一旦火がつけば空気中で燃え続けるとされる。通常、酸素指数22%以上のものが難燃性とされる。
【0049】
難燃試験(傾斜試験)は、JIS C3005に準拠し、1本のケーブルを規定されたトレイの中に水平軸から60度の角度に傾けて設置し、トレイ下方より規定のバーナにより光ファイバケーブルを燃焼させ、トレイ上方への延焼性を評価した。なお、着火時間は30秒とした。
【0050】
表1から分かるように、試料1,2はTM引張力が0.5kg/cm以下となり、強度不足により不合格であり、試料9,10は難燃試験(傾斜試験)を満足せず、不合格とした。したがって、水酸化マグネシウムが添加された酸素指数32の難燃ポリエチレンの場合、接着剤層は、接着剤5〜50%の重量比であれば、TM引張力及び難燃試験(傾斜試験)とも満足するものが得られることを知見できた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る光ファイバケーブルの第1の実施の形態を表す断面図である。
【図2】第2の実施の形態を表す接着剤層を広げた光ファイバケーブルの断面図である。
【図3】第3の実施の形態を表す線状の切り裂きノッチを形成した光ファイバケーブルの断面図である。
【図4】第4の実施の形態を表す光ファイバ心線を難燃層で覆った光ファイバケーブルの断面図である。
【図5】第5の実施の形態を表す抗張力体に撚鋼線を用いた光ファイバケーブルの断面図である。
【図6】第6の実施の形態を表すフッ素樹脂をコーティングした光ファイバケーブルの断面図である。
【図7】第7の実施の形態を表す低摩擦材層にフッ素樹脂を添加した光ファイバケーブルの断面図である。
【図8】第8の実施の形態を表す外被表面を架橋又は焼付けした光ファイバケーブルの断面図である。
【図9】既設集合住宅各戸までの光ファイバケーブル追加布設経路を表す概念図である。
【図10】電話配管の通線状況を表す断面図である。
【図11】従来の光ファイバケーブルの断面図である。
【図12】従来の他の光ファイバケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 光ファイバケーブル
3 光ファイバ心線
5 抗張力体
5A 抗張力体(撚鋼線)
7 接着剤層
9 低摩擦材層
11A 線状の切り裂きノッチ
13 難燃層
15 フッ素樹脂
17 高難燃樹脂
17a 低摩擦材層表面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線と、該光ファイバ心線に沿う抗張力体と、該抗張力体を覆う接着剤層と、前記光ファイバ心線、及び前記抗張力体を前記接着剤層ごと被覆する低摩擦材層と、を具備した光ファイバケーブルであって、
前記接着剤層が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記接着剤層が、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加したことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1〜請求項3記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線を挟んで一対の前記抗張力体が設けられ、
該一対の抗張力体間の低摩擦材層表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチが形成されることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有する難燃層にて覆われたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記抗張力体が、撚鋼線であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項7】
請求項1〜請求項6記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層表面に、フッ素樹脂がコーティングされたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項8】
請求項1〜請求項7記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層は、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂を含浸して成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項9】
請求項1〜請求項7記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、高難燃樹脂の表面を架橋又は焼付けして成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項1】
光ファイバ心線と、該光ファイバ心線に沿う抗張力体と、該抗張力体を覆う接着剤層と、前記光ファイバ心線、及び前記抗張力体を前記接着剤層ごと被覆する低摩擦材層と、を具備した光ファイバケーブルであって、
前記接着剤層が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記接着剤層が、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着性樹脂に、少なくとも金属酸化物又は赤リンを添加したことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、少なくとも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの硬質樹脂を用いて成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1〜請求項3記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線を挟んで一対の前記抗張力体が設けられ、
該一対の抗張力体間の低摩擦材層表面に、長手方向に沿って線状の切り裂きノッチが形成されることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記光ファイバ心線が、前記低摩擦材層よりも難燃性を有する難燃層にて覆われたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記抗張力体が、撚鋼線であることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項7】
請求項1〜請求項6記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層表面に、フッ素樹脂がコーティングされたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項8】
請求項1〜請求項7記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層は、難燃性が高く且つ摩擦係数の低いフッ素樹脂を含浸して成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項9】
請求項1〜請求項7記載のいずれか1項記載の光ファイバケーブルにおいて、
前記低摩擦材層が、高難燃樹脂の表面を架橋又は焼付けして成ることを特徴とする光ファイバケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−282388(P2009−282388A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135576(P2008−135576)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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