説明

光ファイバケーブル

【課題】コストを極力抑えつつ良好な曲げ対策が施された光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】直径0.20mm以上のガラスのコア22aの外周にプラスチックのクラッド22bを有するプラスチッククラッドファイバ22の外周に被覆層23が設けられた光ファイバ心線21と、光ファイバ心線21の周囲に設けられた外被26とを備えた光ファイバケーブル11であって、外被26は、ヤング率E、内径d1及び外径d2の間に、E・(d2−d1)≧70000(N・mm)の関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線を外被で覆った光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルは、コア及びクラッドからなる光ファイバを被覆層で覆った光ファイバ心線を有しており、この光ファイバ心線の外周側をさらに外被によって覆った構成を有する。
このような光ファイバケーブルとして、先端に取り付けられた光コネクタからの引出し部分の外周に、径方向に対して弾性係数が大きい曲げ抑制弾性筒体と、曲げ抑制弾性筒体の外周に装着された可撓性を有する補強筒体とで構成された光ファイバ保護体が装着されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、外周側が線状の補強パイプによって覆われ、補強パイプの一端側がブーツの挿通孔の途中部に固定されており、補強パイプの他端側がブーツから外側に伸長して光ファイバケーブルを保護しており、補強パイプのブーツからの伸長長さがブーツにおける挿通孔の入口部での光ファイバケーブルの屈曲曲がりを抑制し得る長さを有しているものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、光コネクタに固定するカシメリング近傍を被覆する光コネクタブーツの外面に周回する溝を有し、光ファイバケーブルに曲げ荷重が加えられた場合、光ファイバケーブルの曲がった方向の溝が挟まることで光ファイバケーブルの曲げ半径を規制するものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−45537号公報
【特許文献2】特開2007−33661号公報
【特許文献3】特開2007−65569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ファクトリーオートメーション(FA)システムに用いるシーケンサ等の各種機器の配線にも、光ファイバを有する光ファイバケーブルが使用されつつあり、この光ファイバケーブルとしては、機器との接続の容易性から大口径のコアを有する光ファイバを備えたものが用いられている。このように配線される光ファイバケーブルは、配管内に通されて保護されるが、機器との接続箇所近傍では外部に露出されている。このため、システムのメンテナンス等の際に、光ファイバケーブルの光コネクタが機器に対して抜き差しされると、光ファイバケーブルが露出部分において急峻に曲げられることがある。
【0007】
光ファイバのクラッド部分がプラスチックなどの樹脂から形成された大口径コアを有するプラスチッククラッドタイプの光ファイバを備えた光ファイバケーブルは、曲げられた際に大きな歪が生じ、断線に至るおそれがある。
このような大口径コアを有するプラスチッククラッドタイプの光ファイバを備えた光ファイバケーブルに対して、コアが小口径であり、コア及びクラッドのいずれも石英ガラスから形成されたオールガラスファイバ(AGF)を備えた光ファイバケーブルに対する曲げ防止対策である上記の特許文献1から3の技術を適用しても、曲げによる不具合を十分に防止することができない。
【0008】
また、FAシステムでは、電線によって配線する場合と同程度の設備コストに抑えることが要求されているが、上記の特許文献1から3の曲げ防止対策では、曲げ抑制弾性筒体、補強筒体あるいは複雑形状のブーツなどの高価な補強部材を多数用いるため、設備コストが嵩んでしまう。
【0009】
本発明の目的は、コストを極力抑えつつ良好な曲げ対策が施された光ファイバケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバケーブルは、直径0.20mm以上のガラスのコアの外周にプラスチックのクラッドを有するプラスチッククラッドファイバの外周に被覆層が設けられた光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線の周囲に設けられた外被とを備えた光ファイバケーブルであって、
前記外被は、ヤング率E、内径d1及び外径d2の間に、E・(d2−d1)≧70000(N・mm)の関係を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の光ファイバケーブルにおいて、当該光ファイバケーブルの長手方向の一部が配管内に布設され、前記外被における前記配管から露出した部分が前記関係を有することが好ましい。
【0012】
本発明の光ファイバケーブルにおいて、前記外被の一部として、前記関係を有する補強部材が装着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ファイバケーブルによれば、プラスチッククラッドファイバを備えた構造であっても、高価な補強部材を多数用いることなく、外被が折れ曲がりにくく、湾曲による光ファイバの断線等の不具合を防止することができる。つまり、コストを極力抑えつつ良好な曲げ対策が施された光ファイバケーブルとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバケーブルを配線に用いた機器の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光ファイバケーブルを配線に用いた機器の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光ファイバケーブルの断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光ファイバケーブルの側面図である。
【図5】図4に示した光ファイバケーブルの変形例を示す分解側面図である。
【図6】図5に示した光ファイバケーブルの側面図である。
【図7】光ファイバケーブルの断線試験の様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光ファイバケーブルの実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、光ファイバケーブル11は、例えば、ファクトリーオートメーション(FA)システムに用いるシーケンサ等の機器12と工作機器(図示省略)との配線として用いられる。この光ファイバケーブル11には、その端部に光コネクタ13が設けられており、この光コネクタ13が機器12に接続される。
この光ファイバケーブル11は、機器12との接続箇所の近傍を除く部分が配管14に通されている。配管14内では、光ファイバケーブル11の周囲に抗張力線が添わされてさらにその周囲に被覆層が設けられた大径の光ファイバケーブルとなっていてもよい。
【0016】
図3に示すように、光ファイバケーブル11は、その中心に、光ファイバ心線21を有している。この光ファイバ心線21は、プラスチッククラッドファイバ(PCF)22の周囲を紫外線硬化型樹脂からなる被覆層23で覆ったものである。プラスチッククラッドファイバ22は、コア22aが石英ガラスから形成されクラッド22bがプラスチックから形成されたものであり、好ましくは、クラッド22bが硬質プラスチックから形成された高硬度プラスチックから形成されたハードプラスチッククラッドファイバ(H−PCF)である。PCF、H−PCFの何れも、折れ曲がり(キンク)に強く断線しにくい光ファイバである。光ファイバ心線21の寸法の一例として、コア22aの外径が0.2mm、ガラスファイバ22の外径が0.23mm、被覆層23の外径が0.5mmである。このように、光ファイバケーブル11に用いられる光ファイバ心線21としては、コア22aの外径が0.2mm以上である大口径のものが用いられる。
【0017】
光ファイバ心線21の外周側には、補強材25が設けられ、さらに、その外周側には、外被26が設けられている。補強材25としては、例えば、アラミド繊維などを用いるのが好ましい。外被26は、例えば、難燃ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの樹脂から形成されている。
【0018】
図4に示すように、光ファイバケーブル11は、配管14内に収容される部分が配線部11aとされ、機器12との接続箇所近傍部分である光コネクタ13と配管14との間が、配管14に収容されず外部に露出される露出部11bである。なお、配線部11aにおける露出部11b側は、露出部11b側へ向かって次第に拡径された拡径部11cである。
【0019】
配線部11aでは、外被26の外径は3.0mmであり、この配線部11aの周囲に例えば抗張力線や被覆層が設けられて全体の外径が約8.0mm程度のケーブルとなって配管14内に収容される。露出部11bでは、外被26の外径は4mmであり、配管14から円弧状に曲げられて機器12に導かれる(図1及び図2参照)。この露出部11bは、その長さ寸法が約150mmであり、配管14と機器12との間で、半径50mm程度の円弧状に曲げられる。なお、外被26は、その内径が1.5mmである。
【0020】
この光ファイバケーブル11は、その露出部11bにおいて、外被26のヤング率E(N/mm)、外被26の内径d1(mm)及び外被26の外径d2(mm)の間に次式(1)の関係を有する。
E・(d2−d1)≧70000(N・mm)…(1)
【0021】
好ましい具体例としては、外被26のヤング率Eが300N/mm、外被26の内径d1が1.5mm、外被26の外径d2が4.0mmである。
【0022】
機器12との接続箇所近傍で露出された光ファイバケーブル11の露出部11bは、システムのメンテナンス等の際に、光コネクタ13が機器12に対して抜き差しされて曲げられることがある。このように光ファイバケーブル11が曲げられると、内部の光ファイバ心線21にも大きな曲げ(曲率半径の小さな曲げ)による外力が付与され、光ファイバ心線21が断線する等の不具合が生じるおそれがある。
【0023】
本実施形態の光ファイバケーブル11は、露出部11bにおいて、外被26のヤング率E、外被26の内径d1及び外被26の外径d2の間に上式(1)の関係を有するように構成している。それにより、硬く折れ曲がりにくい外被26とすることができる。このような外被26により、光ファイバケーブル11の露出部11bでは、光ファイバ心線21が外被26によって確実に補強される。そして、FAシステムのメンテナンス等の際に、光コネクタ13が機器12に対して抜き差しされても光ファイバ心線21の曲げが極力抑えられ、光ファイバ心線21の断線等の不具合が確実に防止される。
【0024】
このように、本実施形態に係る光ファイバケーブル11によれば、大口径のコア22aを有するプラスチッククラッドタイプの光ファイバ心線21を備えた構造であっても、高価な補強部材を多数用いることなく、曲げによる光ファイバ心線21の断線等の不具合を防止することができる。つまり、コストを極力抑えつつ良好な曲げ対策が施された光ファイバケーブル11とすることができる。
【0025】
これにより、FAシステムのメンテナンス等のために光ファイバケーブル11の光コネクタ13が機器12に対して抜き差しされ、光ファイバケーブル11が露出部11bにおいて急峻に曲げられたとしても、光ファイバ心線21の断線等の不具合をなくすことができ、システムを円滑に運営することができる。
【0026】
また、露出部11bにおいてのみ、外被26を上式(1)の関係を有する形状としたので、他の配線部11aでは、外径が細く、取り扱い性及び配管14等への配線の容易性を確保することができる。
【0027】
なお、上記の実施形態では、露出部11bにおいて、上式(1)の関係を有する外被26を設けたが、長手方向の全長にわたって上式(1)の関係を有する外被26を設けても良い。
【0028】
また、上記の実施形態では、全長にわたって設けられた外被26の長手方向の一部に、上式(1)の関係を有する部分を設けたが、上式(1)の関係を有する外被となる別部品の部材を装着しても良い。
【0029】
図5及び図6に示す光ファイバケーブル11Aは、配線部11a及び露出部11bを含む長手方向の全長にわたって、同一の外径(外径3mm)の外被31によって覆われている。また、露出部11bには、さらに、内径3mm、外径4mmの外被となる補強部材32が外被31の外周側に装着されている。これらの外被31及び補強部材32は、例えば、難燃ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの樹脂から形成されている。また、補強部材32としては、射出成形によって製造することが可能なゴムやウレタン等でも良い。なお、外被31と補強部材32とは、それぞれ異なる材質から形成しても良く、外被31は、補強部材32よりヤング率の低い材料から形成しても良い。
【0030】
この光ファイバケーブル11Aでは、システムへの配線後に、露出部11bとなる箇所へ管形状の補強部材32を装着することができる。この光ファイバケーブル11Aにおいて、露出部11bに装着される補強部材32及びその内側の外被31を合わせて、ヤング率E、内径d1及び外径d2の間には前述した式(1)の関係を有するように構成される。
【0031】
この光ファイバケーブル11Aの場合も、高価な補強部材を多数用いることなく、湾曲による光ファイバ心線21の断線等の不具合を防止することができる。特に、補強が必要な箇所である露出部11bに別部品の補強部材32を装着する構造であるので、補強が必要な箇所だけを容易に補強することができる。また、補強部材32を装着して露出部11bを補強する前では、外径が細い状態であるので、取り扱い性及び配管14等への配線の容易性を確保することができる。
【実施例】
【0032】
石英ガラスからなるコアの周囲をプラスチックのクラッドで覆ったプラスチッククラッドタイプの光ファイバ心線を各種の外被で補強した光ファイバケーブル11を作製した。作製した光ファイバケーブル11を、図7に示すように、それぞれU字状に曲げて両端部を固定して湾曲箇所に引張力Pを付与し、外被のヤング率E、外被の内径d1、外被の外径d2を変数として光ファイバ心線の断線の有無を調べた。
光ファイバケーブル11の固定間距離Wは5mmから20mmの間で変化させ、引張力Pは5Nから100Nの間で変化させた。
【0033】
作製した光ファイバケーブル11は、図3に示した断面構造を有し、コアの外径が0.2mm、クラッドの外径が0.23mm、被覆層の外径が0.5mmであり、被覆層の周囲に抗張力繊維を設け、その周囲を外被によって覆ったものである。
【0034】
断線試験の評価結果を表1に示す。なお、表1において、×は光ファイバ心線の断線があったことを示し、〇は光ファイバ心線の断線が無かったことを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から解るように、外被のヤング率E、外被の内径d1、外被の外径d2をパラメータとしたE・(d2−d1)が低いと光ファイバ心線が断線し易くなる傾向があることが解った。そして、このE・(d2−d1)が67000以上であれば、光ファイバ心線は断線することがなかった。したがって、光ファイバケーブルの耐用年数を考慮すると、ヤング率E、内径d1及び外径d2の間に、E・(d2−d1)≧70000(N・mm)の関係を有する外被を用いれば、湾曲される環境においても十分に耐用可能な光ファイバケーブルとすることができることが解った。
例えば、ヤング率Eが300N/mm、内径d1が1.5mm、外径d2が4.0mmの外被を用いた光ファイバケーブルでは、上記の評価で断線は生じなかった。
【符号の説明】
【0037】
11,11A:光ファイバケーブル、21:光ファイバ心線、22a:コア、22b:クラッド、22:プラスチッククラッドファイバ、23:被覆層、26:外被、32:補強部材、d1:内径、d2:外径、E:ヤング率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.20mm以上のガラスのコアの外周にプラスチックのクラッドを有するプラスチッククラッドファイバの外周に被覆層が設けられた光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線の周囲に設けられた外被とを備えた光ファイバケーブルであって、
前記外被は、ヤング率E、内径d1及び外径d2の間に、E・(d2−d1)≧70000(N・mm)の関係を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバケーブルであって、
当該光ファイバケーブルの長手方向の一部が配管内に布設され、前記外被における前記配管から露出した部分が前記関係を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ファイバケーブルであって、
前記外被の一部として、前記関係を有する補強部材が装着されていることを特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−14101(P2012−14101A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152902(P2010−152902)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】