説明

光ファイバテープ心線及び光モジュール

【課題】曲げによる伝送損失の低減を抑えつつ、曲げ方向の自由度を確保できる光ファイバテープ心線、及びこれを用いた光モジュールを提供する。
【解決手段】光ファイバテープ心線11では、第1の湾曲部21及び第2の湾曲部22における光ファイバ素線12の曲げ半径がテープ被覆部14によって規定され、曲げ状態の変動によって生じる伝送損失を低減できる。一方、光ファイバテープ心線11では、第1の湾曲部21と第2の湾曲部22との間の中間部23がテープ被覆部14に覆われておらず、複数の光ファイバ素線12が露出している。これにより、光ファイバ素線12の曲げ半径を規定したままの状態で光ファイバテープ心線11を様々な方向に曲げることが可能となり、曲げ方向の自由度の確保によって実装時の作業性を十分に担保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバテープ心線及びこれを用いた光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光モジュールとして、例えば特許文献1に記載された光モジュールのように、外部機器と接続可能なコネクタと、複数の光電素子からなる光素子ユニットと、光電素子と光接続される光ファイバケーブルの導入部とを備えたものがある。また、光モジュールに適用される光ファイバテープ心線としては、例えば特許文献2に記載の多心モールド光ファイバがある。この従来の光ファイバでは、並列配置された複数本の光ファイバ素線の全体を樹脂モールドによって一体的に被覆することで、光ファイバ素線の曲げ半径を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−133940号公報
【特許文献2】特開2007−233144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、光ファイバテープ心線において、光ファイバ素線の曲げ半径を規定することは、曲げ状態の変動によって生じる伝送損失を低減できる点で有用である。しかしながら、上述した従来の構成のように、並列配置された複数本の光ファイバ素線の全体を樹脂モールドによって一体的に被覆する場合、配列方向と直交する方向に光ファイバテープ心線を屈曲させることは可能であるが、配列方向に光ファイバテープ心線を屈曲させることは困難である。
【0005】
これは、配列方向に光ファイバテープ心線を屈曲させると、曲げの内側と外側とで光ファイバ素線の曲げ半径が異なり、被覆部内で一部の光ファイバに過剰な応力がかかってしまうためである。光ファイバテープ心線を実装する際には、光ファイバテープ心線が様々な方向に曲げられることが想定されるが、曲げ方向の自由度が制限されると、実装時の作業性が低下することが考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、曲げによる伝送損失の低減を抑えつつ、曲げ方向の自由度を確保できる光ファイバテープ心線、及びこれを用いた光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係る光ファイバテープ心線は、並列配置された複数の光ファイバ素線を樹脂の被覆部によって被覆してなる光ファイバテープ心線であって、複数の光ファイバ素線は、互いに離間して設けられた基端側の第1の湾曲部及び先端側の第2の湾曲部と、第1の湾曲部と第2の湾曲部との間の中間部とを有し、第1の湾曲部と第2の湾曲部とは、被覆部によって覆われており、中間部は、被覆部によって覆われずに複数の光ファイバ素線が露出していることを特徴としている。
【0008】
この光ファイバテープ心線では、並列配置された複数の光ファイバ素線に第1の湾曲部及び第2の湾曲部が設けられており、これらの湾曲部が樹脂の被覆部によって覆われている。したがって、第1の湾曲部及び第2の湾曲部における光ファイバ素線の曲げ半径が被覆部によって規定され、曲げ状態の変動によって生じる伝送損失を低減できる。一方、この光ファイバテープ心線では、第1の湾曲部と第2の湾曲部との間の中間部が被覆部に覆われておらず、複数の光ファイバ素線が露出している。これにより、光ファイバ素線の曲げ半径を規定したままの状態で光ファイバテープ心線を様々な方向に曲げることが可能となり、曲げ方向の自由度の確保によって実装時の作業性を十分に担保できる。
【0009】
また、中間部は、直線状となっていることが好ましい。これにより、光ファイバテープ心線を実装する際の位置ずれ誤差を中間部で好適に調整することができる。
【0010】
また、第1の湾曲部よりも基端側に第1の直線部を有し、第1の湾曲部と第1の直線部とは、被覆部によって一体的に覆われていることが好ましい。これにより、第1の湾曲部よりも基端側に光コネクタを容易に接続できる。
【0011】
また、第2の湾曲部よりも先端側に第2の直線部を有し、第2の湾曲部と第2の直線部とは、被覆部によって一体的に覆われていることが好ましい。これにより、第2の湾曲部よりも先端側に光コネクタを容易に接続できる。
【0012】
また、複数の光ファイバ素線が所定の本数に分岐する分岐部を有し、被覆部によって覆われた第1の湾曲部及び第2の湾曲部は、分岐部よりも先端側に設けられていることが好ましい。この場合、実装が複雑化して光ファイバテープ心線を曲げる箇所が増加した場合であっても、曲げによる伝送損失の低減を抑えつつ、曲げ方向の自由度を確保できる。
【0013】
また、分岐部よりも手前側では、複数の光ファイバ素線が複数段にわたって並列配置されており、この段数と分岐部における複数の光ファイバ素線の分岐数とが一致していることが好ましい。このような構成により、実装の際に必要な光ファイバテープ心線の曲げ量を予め低減させることができる。
【0014】
また、本発明に係る光モジュールは、上記光ファイバテープ心線と光電素子とを基板上に備えてなる光モジュールであって、光ファイバテープ心線の先端と基端とにそれぞれ多心光コネクタが接続され、当該多心光コネクタを介して光電素子と複数の光ファイバ素線とが光結合していることを特徴としている。
【0015】
この光モジュールでは、光ファイバテープ心線において並列配置された複数の光ファイバ素線に第1の湾曲部及び第2の湾曲部が設けられており、これらの湾曲部が樹脂の被覆部によって覆われている。したがって、第1の湾曲部及び第2の湾曲部における光ファイバ素線の曲げ半径が被覆部によって規定され、曲げ状態の変動によって生じる伝送損失を低減できる。一方、光ファイバテープ心線の第1の湾曲部と第2の湾曲部との間の中間部は被覆部に覆われておらず、複数の光ファイバ素線が露出している。これにより、光ファイバ素線の曲げ半径を規定したままの状態で光ファイバテープ心線を様々な方向に曲げることが可能となり、曲げ方向の自由度の確保によって実装時の作業性を十分に担保できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、曲げによる伝送損失の低減を抑えつつ、曲げ方向の自由度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る光モジュールの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した光モジュールの光結合部分の構成を示す側面図である。
【図3】本発明に係る光ファイバテープ心線の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】図3におけるA−A線断面図及びB−B線断面図である。
【図5】図3に示した光ファイバテープ心線の要部を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る光ファイバテープ心線及び光モジュールの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る光モジュールの一実施形態を示す斜視図である。また、図2は、図1に示した光モジュールの光結合部分の構成を示す側面図である。図1及び図2に示すように、光モジュール1は、回路基板2と、発光素子3と、受光素子4と、スペーサ5と、レンズブロック6と、光ファイバテープ心線11とを備えて構成されている。
【0020】
回路基板2は、例えばフレキシブルプリント基板である。回路基板2の表面には、発光素子3及び受光素子4に接続される配線パターンや、ICチップといった他の電子部品(不図示)等が実装されている。
【0021】
発光素子3は、例えば例えば垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)などの素子を並列に配置してなる光素子アレイであり、回路基板2の一面側の所定の位置に配置されている。受光素子4は、例えばフォトダイオードなどの素子を並列に配置してなる光素子アレイであり、回路基板2の他面側の所定の位置に配置されている。
【0022】
スペーサ5は、例えばセラミック基板である。スペーサ5は、発光素子3及び受光素子4から離間させてレンズブロック6を配置するための部材であり、回路基板2の一面側及び他面側において発光素子3及び受光素子4を囲うようにそれぞれ配置されている。
【0023】
レンズブロック6は、入射した光信号を略直角に屈曲させて出射させるガラス製のブロックである。このレンズブロック6は、凸状のレンズ7が並列配置された底面6aと、レンズ7と同様の凸状のレンズ8が並列配置された側面6bと、レンズブロック6内を伝播する光を底面6a側或いは側面6b側に反射させる反射面6cとを有している。
【0024】
このレンズブロック6は、発光素子3の出射面及び受光素子4の受光面と底面6aのレンズ7とが位置合わされた状態でスペーサ5上に固定されている。また、レンズブロック6の側面6bには、後述する多心光コネクタ13のガイドピンが嵌合する嵌合孔が設けられている。この嵌合孔にガイドピンを嵌合させることにより、多心光コネクタ13の端面に露出する光ファイバ素線12の端面と側面6bのレンズ8とが位置合わせされた状態で、レンズブロック6と光ファイバテープ心線11とが固定されている。
【0025】
このような構成により、発光素子3から出射した光は、底面6aのレンズ7によってコリメートされ、反射面6cで反射した後、側面6bのレンズ8によって集光して光ファイバテープ心線11に入射する。また、光ファイバテープ心線11から出射した光は、側面6bのレンズ8によってコリメートされ、反射面6cで反射した後、底面6aのレンズ7によって集光して受光素子4に入射する。
【0026】
続いて、光ファイバテープ心線11の構成について説明する。
【0027】
図3は、本発明に係る光ファイバテープ心線の一実施形態を示す斜視図である。また、図4は、図3におけるA−A線断面図及びB−B線断面図である。同図に示すように、光ファイバテープ心線11は、並列配置された複数本(ここでは12本)の光ファイバ素線12と、光ファイバ素線12の端部にそれぞれ接続された多心光コネクタ13と、複数の光ファイバ素線12を一括して被覆する樹脂製のテープ被覆部14とを備えている。なお、以下の説明では、便宜上、光モジュール1に接続される端部を先端と称し、その反対側の端部を基端と称する。
【0028】
光ファイバ素線12は、図4に示すように、コア及びクラッドからなる裸ファイバ16と、裸ファイバ16を覆うように紫外線硬化樹脂等で形成された心線被覆部17とによって構成されている。また、隣り合う光ファイバ素線12,12同士は、例えば裸ファイバ16の半径程度の間隔で互いに離間した状態となっている。
【0029】
光ファイバテープ心線11の中間部分には、光ファイバ素線12が2分岐する分岐部18が形成されている。分岐部18よりも基端側の分岐元18aでは、図4(a)に示すように、6本の光ファイバ素線12が上下2段に配列されている。これに対し、分岐部18よりも先端側の各分岐端18b,18bにおいては、図4(b)に示すように、6本の光ファイバ素線12がそれぞれ配列されている。
【0030】
また、光ファイバ素線12は、図5に示すように、互いに離間して設けられた基端側の第1の湾曲部21及び先端側の第2の湾曲部22と、第1の湾曲部21と第2の湾曲部22との間の中間部23とを有している。第1の湾曲部21は、各分岐端18b,18bにおいて分岐部18にほぼ隣接して形成され、第2の湾曲部22は、各分岐端18b,18bにおいて先端側の多心光コネクタ13の近傍に形成されている。
【0031】
また、光ファイバ素線12は、第1の湾曲部21よりも基端側に第1の直線部24を有し、第2の湾曲部22よりも先端側に第2の直線部25を有している。第1の直線部24は、分岐部18を挟んで第1の湾曲部21と反対側に位置するように分岐元18aに形成され、基端側の端部まで延在している。第2の直線部25は、各分岐端18b,18bにおいて第2の湾曲部22に隣接して形成され、先端側の端部まで延在している。第1の直線部24及び第2の直線部25は、例えば10mm〜50mm程度であることが好ましい。
【0032】
テープ被覆部14は、例えばシリコーンゴムなどの樹脂によって形成されている。テープ被覆部14は、光ファイバ素線12の各部位のうち、第1の湾曲部21と第1の直線部24とを分岐部18を含んで連続的に覆い、また、各分岐端18b,18bにおいて第2の湾曲部22と第2の直線部25とを連続的に覆っている。一方、テープ被覆部14は、中間部23には設けられておらず、中間部23では、光ファイバ素線12が露出した状態となっている。
【0033】
なお、テープ被覆部14を形成する場合には、例えば上述した第1の湾曲部21、第2の湾曲部22、第1の直線部24、第2の直線部25、中間部、及び分岐部18の形状に応じた溝を有する金型に光ファイバ素線12を配列し、溝内に樹脂を流し込むことによって樹脂モールドを行えばよい。
【0034】
以上説明したように、光ファイバテープ心線11では、並列配置された複数の光ファイバ素線12に第1の湾曲部21及び第2の湾曲部22が設けられており、これらの湾曲部21,22が樹脂製のテープ被覆部14によって覆われている。したがって、第1の湾曲部21及び第2の湾曲部22における光ファイバ素線12の曲げ半径がテープ被覆部14によって規定され、曲げ状態の変動によって生じる伝送損失を低減できる。
【0035】
一方、光ファイバテープ心線11では、第1の湾曲部21と第2の湾曲部22との間の中間部23がテープ被覆部14に覆われておらず、複数の光ファイバ素線12が露出している。これにより、光ファイバ素線12の曲げ半径を規定したままの状態で光ファイバテープ心線11を様々な方向に曲げることが可能となり、曲げ方向の自由度の確保によって実装時の作業性を十分に担保できる。また、中間部23が直線状になっていることで、光ファイバテープ心線11を回路基板2に実装する際の位置ずれ誤差を中間部23で好適に調整することができる。
【0036】
また、光ファイバテープ心線11では、第1の湾曲部21よりも基端側の第1の直線部24がテープ被覆部14によって第1の湾曲部21と一体的に覆われ、第2の湾曲部22よりも先端側の第1の直線部24がテープ被覆部14によって第2の湾曲部22と一体的に覆われている。これにより、光ファイバテープ心線11の端部に多心光コネクタ13を容易に接続できる。
【0037】
また、光ファイバテープ心線11では、複数の光ファイバ素線12が分岐する分岐部18を有し、テープ被覆部14によって覆われた第1の湾曲部21及び第2の湾曲部22が分岐部18よりも先端側に設けられている。また、分岐部18よりも手前側では、光ファイバ素線12が複数段にわたって並列配置されており、この段数と分岐部18における光ファイバ素線12の分岐数とが一致している。これにより、光モジュール1のように光ファイバテープ心線11を複数個所で曲げて回路基板2に実装する場合であっても、曲げによる伝送損失の低減を抑えつつ、曲げ方向の自由度を確保できる。また、実装の際に必要な光ファイバテープ心線11の曲げ量を予め低減させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1…光モジュール、2…回路基板、3…発光素子、4…受光素子、11…光ファイバテープ心線、12…光ファイバ素線、13…多心光コネクタ、14…テープ被覆部、18…分岐部、21…第1の湾曲部、22…第2の湾曲部、23…中間部、24…第1の直線部、25…第2の直線部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置された複数の光ファイバ素線を樹脂の被覆部によって被覆してなる光ファイバテープ心線であって、
前記複数の光ファイバ素線は、互いに離間して設けられた基端側の第1の湾曲部及び先端側の第2の湾曲部と、前記第1の湾曲部と前記第2の湾曲部との間の中間部とを有し、
前記第1の湾曲部と前記第2の湾曲部とは、前記被覆部によって覆われており、前記中間部は、前記被覆部によって覆われずに前記複数の光ファイバ素線が露出していることを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項2】
前記中間部は、直線状となっていることを特徴とする請求項1記載の光ファイバテープ心線。
【請求項3】
前記第1の湾曲部よりも基端側に第1の直線部を有し、
前記第1の湾曲部と前記第1の直線部とは、前記被覆部によって一体的に覆われていることを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバテープ心線。
【請求項4】
前記第2の湾曲部よりも先端側に第2の直線部を有し、
前記第2の湾曲部と前記第2の直線部とは、前記被覆部によって一体的に覆われていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光ファイバテープ心線。
【請求項5】
前記複数の光ファイバ素線が所定の本数に分岐する分岐部を有し、
前記被覆部によって覆われた前記第1の湾曲部及び前記第2の湾曲部が前記分岐部よりも先端側に設けられていることを特徴とする請求項1〜4記載の光ファイバテープ心線。
【請求項6】
前記分岐部よりも手前側では、前記複数の光ファイバ素線が複数段にわたって並列配置されており、この段数と前記分岐部における前記複数の光ファイバ素線の分岐数とが一致していることを特徴とする請求項5記載の光ファイバテープ心線。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の光ファイバテープ心線と光電素子とを基板上に備えてなる光モジュールであって、
前記光ファイバテープ心線の先端と基端とにそれぞれ多心光コネクタが接続され、当該多心光コネクタを介して前記光電素子と前記複数の光ファイバ素線とが光結合していることを特徴とする光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45018(P2013−45018A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183942(P2011−183942)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】