説明

光ファイバドロップケーブル

【課題】風圧等により大きな力でケーブルが引っ張られた際にも、支持線部のシースが破れずに、中の支持線が露出することのない光ファイバドロップケーブルを提供する。
【解決手段】ケーブル部10と支持線部20と首部30とを有し、ケーブル部が、光ファイバ心線11と抗張力体12と樹脂製のシース13とを備え、支持線部20が、支持線22と樹脂製のシース15とを備える光ファイバドロップケーブル1Aにおいて、支持線部におけるシース15が互いに異なる樹脂よりなる内層14と外層13Aの2層構造として形成され、内層14が引張弾性率350MPa以上の樹脂による0.11mm以上の厚さの層により構成され、外層13Aが引張弾性率250MPa以下の樹脂による0.17mm以上の厚さを有する層によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱間に架空配線された光ファイバケーブルから各ユーザー宅などへ光ファイバを引き落とす際に使用される光ファイバドロップケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の発展により、各ユーザー宅などへの光ファイバの配線が頻繁に行われるようになってきた。その際、電信柱の近傍に配設された架空クロージャから各ユーザー宅への配線には、主に、特許文献1に記載されているような光ファイバドロップケーブルが使用されている。
【0003】
図3は光ファイバドロップケーブルの構造の一例を示す断面図である。この光ファイバドロップケーブル101は、ケーブル部110と、ケーブル部110を支持する支持線部120と、ケーブル部110と支持線部120を一体に連結する首部130とを有している。
【0004】
ケーブル部110は、光ファイバ心線111と、この光ファイバ心線111の両側に光ファイバ心線111の長手方向に沿って配置された抗張力体112と、光ファイバ心線111及び抗張力体112を被覆する樹脂製のシース113とを備えている。支持線部120は、抗張力体としての支持線(一般には鋼線)122と、この支持線122を被覆する樹脂製のシース113とを備えている。
【0005】
ケーブル部110のシース113と支持線部120のシース113と首部130は、一体成形された1種類の樹脂によって構成されている。この場合の樹脂としては、一般的にポリオレフィン(PO)が使用されている。また、ケーブル部110内の光ファイバ心線111及び抗張力体112と、支持線部120内の支持線122と、樹脂だけの首部130は、ケーブル長手方向に垂直な面内(断面)において一直線上に並ぶように配されている。また、ケーブル部110のシース113の両外側面には、シース113を破って中の光ファイバ心線111の引き出しを容易にするためのノッチ118が形成されている。
【0006】
一般に、架空クロージャから建物まで光ファイバドロップケーブル101を引き落とす場合、図4(a)に示すように、光ファイバドロップケーブル101の支持線部120を屋外線引留具150により引き留めた状態で、ケーブル部110のみを屋内に引き込んでいる。
【0007】
このとき使用される屋外線引留具150は、図4(b)に示すように、引留具本体151に円筒状の巻掛部152を設けたもので、引留具本体151に取り付けた金具153を建物に固定し、円筒状の巻掛部152に光ファイバドロップケーブルの支持線部120を巻き付けることで、支持線部120を支持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−69900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このような配線に利用される光ファイバドロップケーブル101は、敷設後の風圧等により大きな力でケーブルが引っ張られた際に、支持線部120のシース113に亀裂や割れが発生して、中の支持線122が露出してしまうことがあった。そうなると、雨水等により支持線122である鋼線が腐食して、支持線122が破断しやすくなってしまうおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、風圧等により大きな力でケーブルが引っ張られた際にも、支持線部のシースが破れずに、中の支持線が露出することのない光ファイバドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、ケーブル部と、該ケーブル部を支持する支持線部と、前記ケーブル部と支持線部を一体に連結する首部とを有し、前記ケーブル部が、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に該光ファイバ心線の長手方向に沿って配置された抗張力体と、前記光ファイバ心線及び抗張力体を被覆する樹脂製のシースとを備え、前記支持線部が、抗張力体としての支持線と、この支持線を被覆する樹脂製のシースとを備え、前記ケーブル部のシースと前記支持線部のシースと前記首部とが、一体成形された樹脂によって構成されると共に、前記光ファイバ心線と前記抗張力体と前記支持線と前記首部とが、ケーブル長手方向に垂直な面内で一直線上に配置された光ファイバドロップケーブルにおいて、前記支持線部におけるシースが、互いに異なる樹脂よりなる内層と外層の2層構造として形成され、前記外層が、前記ケーブル部のシース及び前記首部と同一の樹脂で構成されており、前記内層は、引張弾性率350MPa以上の樹脂による0.11mm以上の厚さの層により構成され、その外側の前記外層は、引張弾性率250MPa以下の樹脂による0.17mm以上の厚さを有する層によって構成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、前記内層が、HDPE(高密度ポリエチレン)を50%以上含む樹脂の層よりなることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、前記外層が、LDPE(低密度ポリエチレン)を10%以上含む樹脂の層よりなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ファイバケーブルによれば、ケーブル敷設後の状態において、風圧等により大きな力でケーブルが引っ張られた際にも、支持線を被覆するシースの強度が高まることで、支持線部のシースが破れるのを有効に防止することができ、中の支持線が露出するのを防ぐことができる。従って、本発明によれば、耐久性を向上させることができ、寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図3】従来の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図4】(a)は光ファイバドロップケーブルの建物への引き込み要領の説明図、(b)はそのときに使用する屋外線引留具の概略説明図である。
【図5】光ファイバドロップケーブルの支持部の引張試験の説明図である。
【図6】光ファイバドロップケーブルの衝撃試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明の実施形態の光ファイバドロップケーブルを得るに当たっては、実際のケーブル敷設状況における条件(風圧等)を考慮して、2つの強度試験をケーブルに課している。そして、その2つの試験をクリアするものを、所定の強度を持った、実施形態の光ファイバドロップケーブルとしている。
【0018】
この2つの強度試験とは、実際のケーブル使用状況を擬して条件を決定した引張試験と衝撃試験である。この種の光ファイバドロップケーブルは、敷設時に、支持線を内装した支持線部を屋外線引留具150(図4参照)の円筒状の巻掛部152に巻き付けることで支持される。従って、そのような実際の敷設状態において、風圧等に対して十分に耐えることができるような所定の強度を持っていなくてはならない。そのため、ここでは、次のような引張試験と衝撃試験をケーブルに課して、満足すべき強度を有しているか否かを確かめている。満足すべき強度を有しているか否かは、支持線部のシースの中の支持線(鋼線)の露出の有無によって判定している。
【0019】
まず、引張試験を行う場合は、図5に示すように、光ファイバドロップケーブル101の一端を把持手段160により固定すると共に、ケーブル途中の支持線部を直径20mmの円筒状の巻掛部152に巻き付ける。そして、光ファイバドロップケーブル101の他端側に引張荷重F=700Nを加えて、その状態での光ファイバドロップケーブル101の変化を確認する。
【0020】
また、衝撃試験を行う場合は、図6に示すように、両端を引っ張った状態の光ファイバドロップケーブル101を用意し、その光ファイバドロップケーブル101の長手方向の中間部に、1mの高さHから300gの錘161を落として衝撃荷重を加える。そして、その状態での光ファイバドロップケーブル101の変化を確認する。この際、錘161は、光ファイバドロップケーブル101の上に載せた当板162に当たるようにし、当板162に設けてある直径20mmの打撃面162により、錘161からの衝撃荷重が光ファイバドロップケーブル101に加えられるようにしている。
【0021】
本発明の実施形態の光ファイバドロップケーブルは、上述した2つの試験によっても、支持線が露出しない強度を有するものであり、図1あるいは図2に示すように構成されている。
【0022】
「第1実施形態」
まず、第1実施形態の光ファイバドロップケーブル1Aは、縦a及び横bを断面略長方形状としたケーブル部10と、このケーブル部10を支持する断面円形の支持線部20と、これらケーブル部10と支持線部20を一体に連結するくびれ状の首部30とを有している。
【0023】
ケーブル部10は、1心の光ファイバ心線11と、この光ファイバ心線11の両側に光ファイバ心線11の長手方向に沿って配置されたK−FRP(ケブラ繊維)製の抗張力体12と、光ファイバ心線11及び抗張力体12を被覆する樹脂製のシース13とを備えている。また、支持線部20は、抗張力体としての鋼線よりなる支持線22と、この支持線22を被覆する内層14と外層13Aの2層構造の樹脂よりなるシース15とを備えている。なお、光ファイバ心線11と2本の抗張力体12と支持線22と首部30は、ケーブル長手方向に垂直な面内(断面)において一直線上に配置されている。
【0024】
また、支持線部20のシース15を構成する内層14は、引張弾性率350MPa以上のHDPE(高密度ポリエチレン)による0.11mm以上の厚さの樹脂層によって構成されている。また、内層14の外側の外層13Aは、引張弾性率250MPa以下のPO(ポリオレフィン)による0.17mm以上の厚さを有する樹脂層によって構成されている。この外層13Aは、ケーブル部10のシース13や首部30を構成する樹脂と同一の樹脂(PO)からなり、ケーブル部10のシース13や首部30と一体に成形されている。
【0025】
ここで、HDPEよりなる内層14は、ケーブル1Aに耐引張性を持たせる役割を果たす。即ち、図5のような引張試験に際して、光ファイバドロップケーブル1A(図5では、符号101としてある)の支持線部20を、円筒状の巻掛部152に巻き付けて、700Nの力で引っ張った場合、支持線部20のシース15が変形して、シース15に亀裂が生じる可能性がある。そこで、そのような変形に耐えられるように、内層14を構成する高弾性率の樹脂として、引張弾性率350MPa以上のHDPEを使用している。そして、それにより、ケーブル1Aに耐引張性を持たせている。
【0026】
また、POよりなる外層13Aは、ケーブル1Aに耐衝撃性を持たせる役割を果たす。即ち、図6のような衝撃試験に際して、300gの錘を1mの高さより落とすと、瞬間的に大きな力がケーブル1Aにかかる。そこで、その衝撃による亀裂の発生を防ぐために、変形して衝撃を吸収することのできる低弾性率の樹脂として、外層13に引張弾性率250MPa以下のPOを使用している。そして、それにより、ケーブル1Aに耐衝撃性を持たせている。
【0027】
このような樹脂材の選定により、支持線部20のシースを割れ難くして、支持線22の寿命を延ばすことができ、安定した光ファイバによる通信環境を確保することができる。
【0028】
「第2実施形態」
図2に示す第2実施形態の光ファイバドロップケーブル1Bは、光ファイバ心線11Bとして、第1実施形態の光ファイバドロップケーブル1Aの1心の光ファイバ心線の代わりに、8心の光ファイバテープ心線を用いている。それ以外は、第1実施形態と同じであるので、同一構成要素に同一符号を付して説明を省略する。
【0029】
次に、上記実施形態の光ファイバドロップケーブル1A、1Bの支持線部20のシース15を構成するHDPE製の内層14とPO製の外層13Aに、上述の引張弾性率を持たせた根拠と、上述した厚さを持たせた根拠について調べた実験の内容について述べる。
【0030】
第1の実験では、断面略長方形状のケーブル部10の縦寸法(短辺)aと横寸法(長辺)bの寸法を2.0×3.1mmとした光ファイバドロップケーブルを実験対象品として用いている。また、HDPEの内層14とPOの外層13Aの引張弾性率は、それぞれ350MPa、100MPaとなっている。そして、内層14と外層13Aの厚みをそれぞれ変化させて、耐引張特性と耐衝撃性の両方を調べた。
【0031】
その結果を表1、表2に示す。表1は耐引張特性の被覆厚依存性について調べた結果を示し、表2は耐衝撃性の被覆厚依存性について調べた結果を示している。表中の「○」印は鋼線(支持線)の露出が無しの場合、つまり合格の場合、「×」印は鋼線の露出が有りの場合、つまり不合格の場合を示す。
【表1】

【表2】

【0032】
また、第2の実験では、HDPEの内層14の厚みを0.11mm、POの外層13Aの厚みを0.17mmで固定し、それぞれの引張弾性率を変化させて、耐引張特性と耐衝撃性を調べた。その結果を表3、表4に示す。表3は耐引張特性の引張弾性率依存性について調べた結果を示し、表4は耐衝撃性の引張率依存性について調べた結果を示している。「○」と「×」は上述したのと同様である。
【表3】

【表4】

【0033】
これらの表1〜4に示す結果より、HDPEの内層14の厚みが0.11mm以上、引張弾性率が350MPa以上であり、POの外層13Aの厚み0.17mm以上、引張弾性率が250MPa以下の条件を満たすように設定すれば、引張試験と衝撃試験の両方で、支持線の露出を無くすことができることが分かった。
【0034】
そこで、上述の実施形態の条件が決定され、次のような実施例の光ファイバドロップケーブルが提供されている。
【実施例1】
【0035】
第1実施例の光ファイバドロップケーブルは、図1に示すような1心の光ファイバ心線を使用したもので、ケーブル部10の縦寸法(短辺)a×横寸法(長辺)bのサイズが2.0×3.1mmとなっている。また、支持線部20のシース15の外層13Aは、引張弾性率50MPaのPOの厚さ0.2mmの樹脂層として構成されている。また、内層14は、引張弾性率500MPaのHDPEの厚さ0.16mmの樹脂層として構成されている。また、支持線22は、直径1.2mmの鋼線よりなる。
【実施例2】
【0036】
第2実施例の光ファイバドロップケーブルは、図2に示すような8心の光ファイバテープ心線を使用したもので、ケーブル部10の縦寸法(短辺)a×横寸法(長辺)bのサイズが2.0×3.7mmとなっている。また、支持線部20のシース15の構成については、実施例1と同様である。
【0037】
この他、本発明の光ファイバドロップケーブルでは、上記実施形態において支持線部20のシース15の内層14をHDPE100%で構成したが、HDPEを50%以上含む樹脂の層として構成してもよい。この場合の光ファイバドロップケーブルでも同様に、支持線部20のシース15の耐引張特性と耐衝撃特性を満足させることができ、シース15の割れによる支持線(鋼線)22の露出を防止することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、支持線部20のシース15の外層13Aとケーブル部10のシース13と首部30を、POで構成した場合を示したが、LDPE(低密度ポリエチレン)を10%以上含む樹脂の層として構成してもよい。この場合の光ファイバドロップケーブルでも同様に、支持線部20のシース15の耐引張特性と耐衝撃特性を満足させることができ、シース15の割れによる支持線(鋼線)22の露出を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、架空配線された光ファイバケーブルから各ユーザー宅などへ光ファイバを引き落とすのに適した光ファイバケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1A,1B…光ファイバドロップケーブル
10…ケーブル部
11…光ファイバ心線
12…抗張力体
13…シース
13A…外層
14…内層
15…シース
22…支持線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル部と、該ケーブル部を支持する支持線部と、前記ケーブル部と支持線部を一体に連結する首部とを有し、
前記ケーブル部が、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に該光ファイバ心線の長手方向に沿って配置された抗張力体と、前記光ファイバ心線及び抗張力体を被覆する樹脂製のシースとを備え、
前記支持線部が、抗張力体としての支持線と、この支持線を被覆する樹脂製のシースとを備え、
前記ケーブル部のシースと前記支持線部のシースと前記首部とが、一体成形された樹脂によって構成されると共に、
前記光ファイバ心線と前記抗張力体と前記支持線と前記首部とが、ケーブル長手方向に垂直な面内で一直線上に配置された光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記支持線部におけるシースが、互いに異なる樹脂よりなる内層と外層の2層構造として形成され、前記外層が、前記ケーブル部のシース及び前記首部と同一の樹脂で構成されており、
前記内層は、引張弾性率350MPa以上の樹脂による0.11mm以上の厚さの層により構成され、
その外側の前記外層は、引張弾性率250MPa以下の樹脂による0.17mm以上の厚さを有する層によって構成されていることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記内層が、HDPEを50%以上含む樹脂の層よりなることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項3】
請求項1に記載の光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記外層が、LDPEを10%以上含む樹脂の層よりなることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−47956(P2012−47956A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189748(P2010−189748)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】