説明

光ファイバレーザおよび光ファイバ増幅器

【課題】低コストかつ簡易に単一偏波のレーザ光を出力できる光ファイバレーザ、および低コストかつ簡易に単一偏波の光をその偏波状態を維持したまま増幅できる光ファイバ増幅器を提供すること。
【解決手段】長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有するとともに光増幅物質が添加されたコア部と、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有するとともに該コア部の屈折率よりも低い屈折率を有する多角形クラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバと、前記複屈折増幅光ファイバの各端部にそれぞれ接続し、長手方向に沿って複屈折率差を有する直交軸が形成されたコア部を備え、該コア部の長手方向の一部に所定の反射帯域を有するグレーティング部を形成した2つの複屈折光ファイバグレーティングと、前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給する励起光源と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一偏波のレーザ光を出力する光ファイバレーザおよび単一偏波の光をその偏波状態を維持したまま増幅する光ファイバ増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光増幅物質としてイットリビウム(Yb)やエルビウム(Er)等の希土類元素をコア部に添加した増幅光ファイバを増幅媒体にし、この増幅光ファイバの両端に光ファイバグレーティングを接続して形成されるファブリペロー型の光共振器を備えた光ファイバレーザにおいて、単一偏波のレーザ光を出力する構造としたものが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1、2に開示される光ファイバレーザは、増幅光ファイバおよびその両端の光ファイバグレーティングが複屈折性を有する偏波保持型の光ファイバからなるものである。これらの光ファイバグレーティングは、屈折率が互いに異なる直交軸(複屈折軸)が形成されているので、反射波長帯域も複屈折軸間で異なっている。そして、この光ファイバレーザにおいては、一方の光ファイバグレーティングが有する2つの反射波長帯域のいずれか1つと、他方の光ファイバグレーティングが有する2つの反射波長帯域のいずれか1つを重畳させ、他の反射波長帯域を重畳させないようにしている。その結果、複屈折軸のうち反射波長帯域が重畳している方の軸に平行な偏波方向を有する直線偏波の光のみがレーザ発振し、単一偏波のレーザ光を出力することができる。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6167066号明細書
【特許文献2】特開2007−273600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示される光ファイバレーザを製造する際には、所望の単一偏波でのレーザ発振を実現するために、少なくとも複屈折光ファイバである増幅光ファイバと光ファイバグレーティングとを、互いの複屈折軸の方向を一致させて接続する必要がある。
【0006】
ところで、複屈折光ファイバの構造には、応力付与型、楕円コア型等の種類がある。応力付与型とは、光ファイバのクラッド部内においてコア部を挟んで対向する位置に応力付与部材を配置した構造のものである。一方、楕円コア型とは、コア部の断面形状が楕円形を有する構造のものである。応力付与型の複屈折光ファイバは、製造時において、クラッド部内に応力付与部材を配置するために光ファイバ母材に穿孔加工等をする必要がある。一方、楕円コア型の複屈折光ファイバは、穿孔加工等の工程が不要であるため、より低コストで製造できるものである。
【0007】
ここで、特許文献1、2に開示される光ファイバレーザにおいて、増幅光ファイバと光ファイバグレーティングとが、応力付与型のものであれば、応力付与部材の配置をもとに複屈折軸の方向が容易に判別できるので、複屈折軸の方向を一致させるように調整して接続することは容易に実現可能である。
【0008】
ところが、増幅光ファイバと光ファイバグレーティングとの少なくとも一方が楕円コア型のものである場合には、その光ファイバには応力付与部材が存在しないので、応力付与部材の配置をもとにした複屈折軸の方向の判別は不可能である。特に、コア部の扁平率が小さい場合には、複屈折軸の方向の判別が困難であり、複屈折軸の方向を高精度に一致させるような調整も困難となる。したがって、楕円コア型の複屈折光ファイバを用いた場合、複屈折光ファイバの一端に既知の偏波状態の光を入力して、他端から出力される光の偏波状態を実際に測定し、この測定結果をもとに複屈折軸の方向を判別するという煩雑な作業が必要であった。それゆえ、良好な単一偏波でのレーザ発振を容易に実現することは困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低コストかつ簡易に単一偏波のレーザ光を出力できる光ファイバレーザ、および低コストかつ簡易に単一偏波の光をその偏波状態を維持したまま増幅できる光ファイバ増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバレーザは、長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有するとともに光増幅物質が添加されたコア部と、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有するとともに該コア部の屈折率よりも低い屈折率を有する多角形クラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバと、前記複屈折増幅光ファイバの各端部にそれぞれ接続し、長手方向に沿って複屈折率差を有する直交軸が形成されたコア部を備え、該コア部の長手方向の一部に所定の反射帯域を有するグレーティング部を形成した2つの複屈折光ファイバグレーティングと、前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給する励起光源と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバレーザは、上記発明において、前記複屈折増幅光ファイバは、前記多角形クラッド部の外周に形成され該多角形クラッド部の屈折率よりも低い屈折率を有する外側クラッド部をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバレーザは、上記発明において、前記2つの複屈折光ファイバグレーティングの間に介挿された偏光子をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光ファイバレーザは、上記発明において、前記2つの複屈折光ファイバグレーティングは、それぞれ前記直交軸に平行な各偏波方向の光に対して中心波長が互いに異なる2つの反射帯域を有しており、一方の前記複屈折光ファイバグレーティングの2つの反射帯域のいずれか1つと、他方の前記複屈折光ファイバグレーティングの2つの反射帯域のいずれか1つとが重畳しており、前記励起光源が前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給することによって、前記重畳した反射帯域内の発振波長を有する単一偏波のレーザ光を出力することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバレーザは、上記発明において、前記2つの複屈折率光ファイバグレーティングの少なくとも一方は、前記コア部の外周に形成されたクラッド部と、該クラッド部内の該コア部を挟んで対向する位置に配置された応力付与部材とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る光ファイバレーザは、上記発明において、前記2つの複屈折光ファイバグレーティングの少なくとも一方は、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有する多角形クラッド部を備え、前記コア部が長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る光ファイバ増幅器は、長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有するとともに光増幅物質が添加されたコア部と、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有するとともに該コア部の屈折率よりも低い屈折率を有する多角形クラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバと、前記複屈折増幅光ファイバの各端部にそれぞれ接続し、長手方向に沿って複屈折率差を有する直交軸が形成されたコア部を備えた2つの複屈折光ファイバと、前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給する励起光源と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバ増幅器は、上記発明において、前記複屈折増幅光ファイバは、前記多角形クラッド部の外周に形成され該多角形クラッド部の屈折率よりも低い屈折率を有する外側クラッド部をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、楕円形のコア部と多角形のクラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバを用いることによって、楕円形のコア部であっても複屈折軸の方向を一致させる調整が従来よりも容易になるため、低コストかつ簡易に単一偏波のレーザ光を出力できる光ファイバレーザ、および低コストかつ簡易に単一偏波の光をその偏波状態を維持したまま増幅できる光ファイバ増幅器を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバレーザおよび光ファイバ増幅器の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る光ファイバレーザ100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、この光ファイバレーザ100は、単一偏波のレーザ光を出力するものであって、nを1以上の整数として、半導体レーザ11〜1nを備えた励起光源1と、マルチモード光ファイバ21〜2nと、TFB(Tapered Fiber Bundle)3と、マルチモード光ファイバ4と、屈折率が周期的に変化する構造を有するグレーティング部51が形成された複屈折光ファイバグレーティング5と、複屈折増幅光ファイバ6と、両端に複屈折シングルモード光ファイバ7a、7bが接続された偏光子7と、グレーティング部81が形成された複屈折光ファイバグレーティング8と、複屈折シングルモード光ファイバ9aを有する光コネクタ等の出力端子9とを備える。
【0021】
マルチモード光ファイバ21〜2nは、半導体レーザ11〜1nが出力する励起光を導波するように接続されている。また、TFB3は、マルチモード光ファイバ21〜2nが導波した各励起光を結合し、マルチモード光ファイバ4から出力させるように構成されている。また、複屈折光ファイバグレーティング5は、マルチモード光ファイバ4と接続点C1において融着接続している。また、複屈折増幅光ファイバ6は、複屈折光ファイバグレーティング5と接続点C2において融着接続している。また、偏光子7に接続した複屈折シングルモード光ファイバ7aは接続点C3において複屈折増幅光ファイバ6と融着接続し、複屈折シングルモード光ファイバ7bは接続点C4において複屈折光ファイバグレーティング8と融着接続している。また、出力端子9の複屈折シングルモード光ファイバ9aは、複屈折光ファイバグレーティング8と接続点C5において融着接続している。すなわち、偏光子7は、複屈折光ファイバグレーティング5、8の間に介挿されている。
【0022】
図2は、図1に示す複屈折増幅光ファイバ6の長手方向に垂直な断面における模式的な断面図である。複屈折増幅光ファイバ6は、ゲルマニウムおよび光増幅物質としてのYbイオンを添加したシリカガラスからなるコア部6aと、コア部6aの外周に形成され、コア部6aよりも低屈折率のシリカガラスからなる多角形クラッド部6bと、多角形クラッド部6bの外周に形成され、多角形クラッド部6bよりも低屈折率の樹脂からなる外側クラッド部6cとを備えるダブルクラッド型の増幅光ファイバである。ここで、コア部6aは、扁平率がたとえば0.38程度の楕円形の断面形状を有しているので、長手方向に沿って長軸方向の屈折率が短軸方向の屈折率よりも高くなっており、長短軸を複屈折軸とする複屈折率性を有している。その結果、この複屈折増幅光ファイバ6は偏波保持型の光ファイバとなっている。一方、多角形クラッド部6bは、六角形の断面形状を有している。また、コア部6aと多角形クラッド部6bとは、コア部6aの長軸の延長線上に多角形クラッド部6bの一辺の中点が位置するような位置関係となっている。以下、コア部6aにおいて、屈折率が低い短軸を複屈折軸のFast軸、屈折率が高い長軸を複屈折軸のSlow軸と定義する。
【0023】
一方、図3は、図1に示す複屈折光ファイバグレーティング3の長手方向に垂直な断面における模式的な断面図である。図3に示すように、複屈折光ファイバグレーティング5は、ゲルマニウムを添加したシリカガラスからなるコア部5aと、コア部5aの外周に形成され、コア部5aよりも低屈折率のシリカガラスからなる内側クラッド部5bと、内側クラッド部5bの外周に形成され、内側クラッド部5bよりも低屈折率の樹脂からなる外側クラッド部5cとを備えるダブルクラッド型の光ファイバグレーティングである。さらに、複屈折光ファイバグレーティング5は、内側クラッド部5b内のコア部5aを挟んで対向する位置に配置された、ボロンを添加したシリカガラスからなる2つの応力付与部材5dを備える。これらの応力付与部材5dはコア部5aに軸対称でない応力を与える。その結果、複屈折光ファイバグレーティング5は、長手方向に沿って、コア部5aおよび2つの応力付与部材5dの各中心軸を結ぶ方向が複屈折軸のSlow軸となり、それと直交する方向がFast軸となるような複屈折率性を有する偏波保持型の光ファイバグレーティングとなっている。また、複屈折光ファイバグレーティング5の長手方向の一部には、グレーティング部51が形成されている。このグレーティング部51は、複屈折増幅光ファイバ6のコア部6aに添加された光増幅物質であるYbイオンの発光帯域内の所定の波長、たとえば1064nm近傍の波長を中心とした反射帯域を有するようにピッチ等が設定されている。なお、グレーティング部51の最大反射率は約100%である。また、グレーティング部51のピッチは、Slow軸とFast軸との両方に対して同じであるが、Slow軸とFast軸とでは屈折率が互いに異なるため、反射帯域の中心波長も互いに異なっている。
【0024】
また、図4は、図1に示す複屈折光ファイバグレーティング8の模式的な断面図である。この複屈折光ファイバグレーティング8は、複屈折光ファイバグレーティング5と同様の反射帯域を有するグレーティング部81が形成された偏波保持型の光ファイバグレーティングであるが、ダブルクラッド型ではない。すなわち、図4に示すように、コア部8aと、1層のクラッド部8bと、2つの応力付与部材8dとを備え、外側クラッド部の代わりに光ファイバのガラス部分の保護のための樹脂被覆8eを備えている。なお、グレーティング部81の最大反射率は約10〜30%である。
【0025】
また、複屈折シングルモード光ファイバ7a、7b、9aも、複屈折光ファイバグレーティング8と同様の断面構造を有する偏波保持型の光ファイバとなっている。また、マルチモード光ファイバ21〜2n、4はコア部とクラッド部とを備えた通常の構造を有し、コア部のコア径がたとえば105μmのマルチモード光ファイバであり、励起光の波長の光をマルチモードで伝搬するように構成されている。なお、マルチモード光ファイバ4として、ダブルクラッド型の光ファイバを用いてもよい。
【0026】
つぎに、この光ファイバレーザ100における、複屈折光ファイバグレーティング5と複屈折増幅光ファイバ6との接続関係について説明する。図5は、複屈折光ファイバグレーティング5と複屈折増幅光ファイバ6との接続関係を説明する説明図である。なお、図5においては、簡略化のため外側クラッド部5c、6cの記載を省略している。
【0027】
図5に示すように、複屈折光ファイバグレーティング5と複屈折増幅光ファイバ6とは、接続点C2において、互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。
【0028】
ここで、複屈折増幅光ファイバ6は楕円コア型の複屈折光ファイバであり、応力付与部材が存在しないので、コア部6aの複屈折軸の方向の判別が困難である。
【0029】
しかしながら、この複屈折増幅光ファイバ6は、多角形クラッド部6bが六角形の断面形状を有しているので、多角形クラッド部6bの角の位置と、予め知られたコア部6aの長短軸と多角形クラッド部6bの角との位置関係とから、コア部6aの長短軸すなわち複屈折軸の方向が容易に判別される。その結果、複屈折光ファイバグレーティング5と複屈折増幅光ファイバ6とは、高精度に、互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。
【0030】
同様に、この光ファイバレーザ100において、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折シングルモード光ファイバ7aとは、接続点C3において、互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。上述したように、複屈折増幅光ファイバ6は、コア部6aの複屈折軸の方向が容易に判別される。したがって、複屈折増幅光ファイバ6とシングルモード光ファイバ7aとは、上記と同様に、高精度に、互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。
【0031】
他方、複屈折シングルモード光ファイバ7b、複屈折光ファイバグレーティング8、複屈折シングルモード光ファイバ9aは、いずれも図3に示すような応力付与型の光ファイバであるから、従来と同様に各接続点C4、C5において、互いのSlow軸とFast軸同士が高精度で平行になるように接続している。
【0032】
その結果、この光ファイバレーザ100は、複屈折光ファイバグレーティング5から複屈折シングルモード光ファイバ9aまでの各光ファイバについて、互いのSlow軸とFast軸同士が高精度で平行になっている。
【0033】
つぎに、この光ファイバレーザ100の動作について説明する。励起光源1が備える半導体レーザ11〜1nが915nm近傍の波長の励起光を出力すると、マルチモード光ファイバ21〜2nが各励起光を導波し、TFB3が導波した各励起光を結合してマルチモード光ファイバ4に出力する。マルチモード光ファイバ4は結合した励起光をマルチモードで伝搬する。その後、複屈折光ファイバグレーティング5がマルチモード光ファイバ4を伝搬した励起光を透過して、複屈折増幅光ファイバ6に到達させる。
【0034】
複屈折増幅光ファイバ6に到達した励起光は、複屈折増幅光ファイバ6の多角形クラッド部6b内をマルチモードで伝搬しながら、複屈折増幅光ファイバ6のコア部6aに添加したYbイオンを光励起し、所定の波長帯域を有する無偏光状態の蛍光を発生させる。なお、この多角形クラッド部6bは断面形状が多角形であるため、励起光は、コア部6aをより頻繁に通過するように多角形クラッド部6bと外側クラッド部6cとの界面で反射されるため、Ybイオンが一層効率よく励起される。
【0035】
ここで、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折光ファイバグレーティング8との間に介挿された偏光子7は、複屈折増幅光ファイバ6等のSlow軸に平行な偏波方向の光のみを透過するようにその角度が調整されている。その結果、複屈折増幅光ファイバ6において発生した蛍光のうち、複屈折光ファイバグレーティング5、8の反射帯域内の波長であり、かつSlow軸方向に平行な直線偏波を有する蛍光のみが、複屈折光ファイバグレーティング5、8のグレーティング部51、81を反射鏡とする光共振器内の各コア部をシングルモードで往復しながら、Ybイオンの誘導放出作用により増幅されてレーザ発振する。発振したレーザ光は反射率が低い複屈折光ファイバグレーティング8側から出力する。その結果、この光ファイバレーザ100は、出力端子9からレーザ光L1を出力する。上述したように、この光ファイバレーザ100においては、複屈折光ファイバグレーティング5から複屈折シングルモード光ファイバ9aまでの各複屈折光ファイバが、互いのSlow軸とFast軸同士が高精度で平行になるように接続している。したがって、出力するレーザ光L1は、複屈折増幅光ファイバ6のSlow軸に平行な偏波方向を有する良好な単一偏波のレーザ光となる。
【0036】
なお、複屈折増幅光ファイバ6は、楕円コア型であるので、製造時において、クラッド部内に応力付与部材を配置するための穿孔加工等が不要である。したがって、製造工程が簡略化されるため、より低コストで製造できるものである。さらに、一般に増幅光ファイバは、コア部にYbイオン等の光増幅物質を多量に添加しており、通常の光ファイバのコア部よりも不純物が多く含有されている。不純物が多くなるにつれて、穿孔加工を行なう場合にその加工の際に発生する応力によってコア部に割れが生じやすくなる。しかしながら、本実施の形態1に係る複屈折増幅光ファイバ6は、そのような割れが発生するおそれが全く無いので、製造歩留まりが高く、さらに低コストで製造できるとともに、Ybイオン等の光増幅物質の添加量を一層多くすることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態1に係る光ファイバレーザ100は、低コストかつ簡易に良好な単一偏波のレーザ光を出力できる光ファイバレーザとなる。
【0038】
なお、本実施の形態1に係る光ファイバレーザ100において、偏光子7が、複屈折増幅光ファイバ6等のFast軸に平行な偏波方向の光のみを透過するようにその角度が調整されたものであれば、出力するレーザ光L1は、複屈折増幅光ファイバ6のFast軸に平行な偏波方向を有する良好な単一偏波のレーザ光となる。
【0039】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る光ファイバレーザについて説明する。図6は、本実施の形態2に係る光ファイバレーザ200の構成を示すブロック図である。なお、図6において、図1に示すものと同一構成部分には同一符号を付して示している。図6に示すように、この光ファイバレーザ200は、単一偏波のレーザ光を出力するものであって、図1に示す光ファイバレーザ100において、偏光子7および複屈折シングルモード光ファイバ7a、7bを削除し、複屈折光ファイバグレーティング8に換えてグレーティング部101が形成された複屈折光ファイバグレーティング10を備えた構成を有している。
【0040】
この複屈折光ファイバグレーティング10は、複屈折光ファイバグレーティング8と同様に、コア部と、1層のクラッド部と、2つの応力付与部材と、樹脂被覆とを備えている。また、複屈折光ファイバグレーティング10は、複屈折増幅光ファイバ6とは接続点C6において融着接続しており、複屈折シングルモード光ファイバ9aとは接続点C7において融着接続している。なお、複屈折光ファイバグレーティング10のグレーティング部101の反射帯域については後述する。
【0041】
つぎに、この光ファイバレーザ200における、複屈折増幅光ファイバ6と各複屈折光ファイバグレーティング5、10との接続関係について説明する。図7は、複屈折増幅光ファイバ6と各複屈折光ファイバグレーティング5、10との接続関係を説明する説明図である。なお、図7においては、簡略化のため外側クラッド部5c、6c、および複屈折光ファイバグレーティング10の樹脂被覆の記載を省略している。また、図7においては、方向の説明のためXY直交軸を定義している。
【0042】
図7に示すように、この光ファイバレーザ200においても、図5に示す光ファイバレーザ100の場合と同様に、複屈折光ファイバグレーティング5と複屈折増幅光ファイバ6とは、接続点C2において、互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。
【0043】
一方、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折光ファイバグレーティング10とは、接続点C6において、一方のSlow軸と他方のFast軸とが平行になり、一方のFast軸と他方のSlow軸とが平行になるように接続している。
【0044】
この光ファイバレーザ200は、上記のような接続関係を有するので、励起光源1が複屈折増幅光ファイバ6に励起光を供給した場合に、以下のように動作する。すなわち、複屈折増幅光ファイバ6において発生した蛍光のうち、後述する所定の波長であり、かつX軸方向に平行な直線偏波を有する蛍光のみが、複屈折光ファイバグレーティング5、10のグレーティング部51、1011を反射鏡とする光共振器内の各コア部をシングルモードで往復しながら、Ybイオンの誘導放出作用により増幅されてレーザ発振する。その結果、光ファイバレーザ100のように偏光子を用いなくても、出力端子9から出力するレーザ光L2は、その偏波成分がX軸方向の直線偏波のみである単一偏波のレーザ光となっている。以下、レーザ光L2が単一偏波となる理由について具体的に説明する。
【0045】
図8は、各複屈折光ファイバグレーティング5、10の反射スペクトルと、レーザ光の出力スペクトルとの関係を示す図である。図8の上段に示すものが複屈折光ファイバグレーティング5の反射スペクトルである。複屈折光ファイバグレーティング5は、Slow軸に平行な直線偏波の光に対しては、波長λ1sを中心波長とする最大で約100%の反射率の反射スペクトルS1sを有し、Fast軸に平行な直線偏波の光に対しては、波長λ1fを中心とする最大で約100%の反射率の反射スペクトルS1fを有する。
【0046】
一方、図8の中段に示すものが複屈折光ファイバグレーティング10の反射スペクトルである。複屈折光ファイバグレーティング10は、Slow軸に平行な直線偏波の光に対しては、波長λ2sを中心とする最大で約10〜30%の反射率の反射スペクトルS2sを有し、Fast軸に平行な直線偏波の光に対しては、波長λ2fを中心とする最大で約10〜30%の反射率の反射スペクトルS2fを有する。
【0047】
ここで、図8に示すように、複屈折光ファイバグレーティング5、10の反射帯域は、複屈折光ファイバグレーティング5のFast軸の反射スペクトルS1fと複屈折光ファイバグレーティング10のSlow軸の反射スペクトルS2sとが重畳するように設定されており、かつ、複屈折光ファイバグレーティング5のSlow軸の反射スペクトルS1sと複屈折光ファイバグレーティング10のFast軸の反射スペクトルS2fとは重畳しないように設定されている。なお、この反射帯域の設定は、グレーティング部51、101のピッチやコア部の屈折率の調整等によって適宜設定できる。
【0048】
その結果、再び図7を参照すると、複屈折増幅光ファイバ6において発生した蛍光のうち、X軸方向に平行な直線偏波を有するものについては、複屈折増幅光ファイバ6内をその偏光方向を維持したまま伝搬する。そして、複屈折光ファイバグレーティング5内に入射すると、Fast軸方向の偏光方向を維持したまま伝搬し、グレーティング部51によって、反射スペクトルS1f内の波長の光だけが反射される。
【0049】
この反射した光は、複屈折増幅光ファイバ6内をその偏光方向を維持したまま伝搬し、複屈折光ファイバグレーティング10に入射すると、Slow軸方向の偏光方向を維持したまま伝搬し、グレーティング部101によって、反射スペクトルS2s内の波長の光だけが反射される。すなわち、X軸方向に平行な直線偏波を有する光に対しては、グレーティング部51、101が光共振器を構成することになる。したがって、上記の反射が繰り返される結果、図8の下段に示すような、波長λ1f(=λ2s)を中心波長とする出力スペクトルS3を有し、X軸方向に平行な直線偏波を有する光がレーザ発振する。
【0050】
一方、複屈折増幅光ファイバ6において発生した蛍光のうち、Y軸方向に平行な直線偏波を有するものについては、複屈折光ファイバグレーティング5内に入射すると、Slow軸方向の偏光方向を維持したまま伝搬し、グレーティング部51によって、反射スペクトルS1s内の波長の光だけが反射される。この反射した光は、複屈折増幅光ファイバ6を経由して複屈折光ファイバグレーティング10に入射すると、Fast軸方向の偏光方向を維持したまま伝搬するが、図8に示す反射スペクトルからも明らかなようにグレーティング部101を透過してしまうため、この光はレーザ発振しない。したがって、光ファイバレーザ200は、X軸方向に平行な直線偏波を有する単一偏波のレーザ光のみを出力する。
【0051】
また、複屈折増幅光ファイバ6は、多角形クラッド部6bが六角形の断面形状を有しているので、実施の形態1の場合と同様に、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折光ファイバグレーティング10とは、高精度に、一方のSlow軸と他方のFast軸とが平行になり、一方のFast軸と他方のSlow軸とが平行になるように接続している。その結果、この光ファイバレーザ200が出力するレーザ光L2は、良好な単一偏波のレーザ光となる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態2に係る光ファイバレーザ200は、簡易に良好な単一偏波のレーザ光を出力できるとともに、偏光子を用いなくてもよいので、光学部品点数が削減され、さらに低コストの光ファイバレーザとなる。
【0053】
つぎに、本発明の実施例として、図6に示す実施の形態2と同様の構造を有する光ファイバレーザを作製した。なお、用いた複屈折増幅光ファイバのコア部のサイズは、長径が約6.3μm、短径が約3.5μmであった。また、複屈折増幅光ファイバの長さは約60mであった。また、複屈折光ファイバグレーティングの反射特性は、図8中の符号を用いて説明すると、波長λ1s、λ1fの波長間隔、および波長λ2s、λ2fの波長間隔はいずれも約0.3nmであり、波長λ1f、λ2sの値はいずれも約1064nmであり、反射スペクトルS1s、S1f、S2s、S2fの半値全幅はいずれも約0.05nmであった。また、用いた半導体レーザの発振波長は915nm近傍であり、その数は3個である。
【0054】
図9は、本実施例に係る光ファイバレーザにおける、励起光強度と、出力端子から出力する波長1064nmのレーザ光の出力強度(レーザ光出力)と、励起光からレーザ光出力へのパワーの変換効率との関係を示す図である。なお、図9中の励起光強度は、図6の接続点C2における励起光の強度を示している。図9に示すように、励起光強度とレーザ光出力はほぼ比例しており、励起光強度が14.5Wの場合、レーザ光出力は8.18Wであり、変換効率は56.4%であった。また、出力したレーザ光の偏波消光比としては、15.4dBが実現され、良好な単一偏波特性を有することが確認された。
【0055】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態3に係る光ファイバ増幅器は、入力端子から入力した単一偏波の光をその偏波状態を維持したまま増幅できる光ファイバ増幅器である。
【0056】
図10は、本実施の形態3に係る光ファイバ増幅器300の構成を示すブロック図である。図10に示すように、この光ファイバ増幅器300は、複屈折シングルモード光ファイバ11aを有する光コネクタ等の入力端子11と、両端に複屈折シングルモード光ファイバ12a、12bが接続された光アイソレータ12と、複屈折シングルモード光ファイバ13と、TFB14と、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15と、複屈折増幅光ファイバ6と、複屈折シングルモード光ファイバ9aを有する出力端子9と、半導体レーザ11〜1nを備えた励起光源1と、マルチモード光ファイバ21〜2nとを備えている。なお、図10において、図1に示すものと同一構成部分には同一符号を付して示している。
【0057】
そして、複屈折シングルモード光ファイバ12aは、接続点C8において入力端子11の複屈折シングルモード光ファイバ11aと融着接続し、複屈折シングルモード光ファイバ12bは、接続点C9において複屈折シングルモード光ファイバ13と融着接続している。一方、マルチモード光ファイバ21〜2nは、半導体レーザ11〜1nが出力する励起光を導波するように接続されている。また、TFB14は、マルチモード光ファイバ21〜2nが導波した励起光と、複屈折シングルモード光ファイバ13がシングルモードで導波した光と結合し、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15から出力させるように構成されている。また、複屈折増幅光ファイバ6は、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15と接続点C10において融着接続している。また、シングルモード光ファイバ16aは、接続点C11において複屈折増幅光ファイバ6と融着接続し、シングルモード光ファイバ16bは、接続点C12においてシングルモード光ファイバ9aと融着接続している。
【0058】
複屈折シングルモード光ファイバ11a、12a、12b、13、16a、16bは、図4に示す複屈折光ファイバグレーティング8と同様の断面構造を有する偏波保持型の光ファイバとなっている。また、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15は、図3に示す複屈折光ファイバグレーティング3と同様の断面構造を有するダブルクラッド型かつ偏波保持型の光ファイバとなっている。
【0059】
また、複屈折シングルモード光ファイバ11aから複屈折シングルモード光ファイバ9aまでの光ファイバは、すべて互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。なお、実施の形態1、2と同様に、複屈折増幅光ファイバ6は、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15および複屈折シングルモード光ファイバ16aと、高精度で互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続している。
【0060】
また、光アイソレータ12、16は、いわゆる偏波依存型および偏波無依存型のいずれのものも用いることができる。光アイソレータ12、16として偏波依存型の光アイソレータを用いる場合は、複屈折シングルモード光ファイバ12a、12b、または複屈折シングルモード光ファイバ16a、16bのSlow軸に平行な直線偏波の光のみを図中の矢印の方向へ透過するような角度で接続する。
【0061】
つぎに、この光ファイバ増幅器300の動作について説明する。励起光源1が備える半導体レーザ11〜1nが915nm近傍の波長の励起光を出力すると、マルチモード光ファイバ21〜2nが各励起光を導波し、TFB14が導波した各励起光を結合して複屈折ダブルクラッド光ファイバ15に出力する。複屈折ダブルクラッド光ファイバ15は結合した励起光をその内側クラッド部においてマルチモードで伝搬し、複屈折増幅光ファイバ6に到達させる。その結果、複屈折増幅光ファイバ6においては、励起光によってYbイオンが光励起された状態となる。
【0062】
一方、入力端子11は、Ybイオンの発光帯域内の所定の波長を有する、増幅すべき光L3の入力を受け付ける。ここで、光L3は複屈折シングルモード光ファイバ11aのSlow軸に平行な直線偏波を有する単一偏波の状態で入力するものとする。複屈折シングルモード光ファイバ11a、光アイソレータ12、複屈折シングルモード光ファイバ13、TFB14、複屈折ダブルクラッド光ファイバ15は、入力した光L3を、その偏波状態を維持したまま順次伝搬させ、複屈折増幅光ファイバ6に到達させる。なお、光アイソレータ12として偏波依存型のものを用いた場合は、これによって入力した光L3の消光比を高めることができる。
【0063】
つぎに、複屈折増幅光ファイバ6は、光励起されたYbイオンの誘導放出作用によって光L3を光増幅させ、かつその偏波状態を維持したまま伝搬させる。さらに、光アイソレータ16、複屈折シングルモード光ファイバ9aは、増幅された光L3を、その偏波状態を維持したまま順次伝搬させ、出力端子9は、増幅された光L3を光L4として出力する。なお、光アイソレータ16として偏波依存型のものを用いた場合は、これによって出力する光L4の消光比を高めることができる。
【0064】
すなわち、この光ファイバ増幅器300は、入力端子11から入力した単一偏波の光L3を、その偏波状態を維持したまま増幅できるものとなる。上述したように、複屈折増幅光ファイバ6を含め、各光ファイバは高精度で互いのSlow軸とFast軸同士が平行になるように接続しているため、出力される増幅された光L4は良好な単一偏波の光となる。また、この光ファイバ増幅器300は、楕円コア型の複屈折増幅光ファイバ6を用いているので、低コストで製造できるものとなる。
【0065】
以上説明したように、本実施の形態3に係る光ファイバ増幅器300は、低コストかつ簡易に単一偏波の光をその偏波状態を良好に維持したまま増幅できる光ファイバ増幅器となる。
【0066】
なお、本実施の形態3に係る光ファイバ増幅器300において、光アイソレータ12、16を、偏波無依存型、あるいは、複屈折シングルモード光ファイバ12a、12b、または複屈折シングルモード光ファイバ16a、16bのFast軸に平行な直線偏波の光のみを図中の矢印の方向へ透過するような偏波依存型の光アイソレータとし、光L3を、複屈折シングルモード光ファイバ11aのFast軸に平行な直線偏波を有する単一偏波の状態で、入力端子11に入力してもよい。この場合も、この光ファイバ増幅器300は、入力端子11から入力した単一偏波の光L3を、その偏波状態を維持したまま増幅できる。
【0067】
ところで、上記実施の形態に係る複屈折増幅光ファイバ6と他の複屈折光ファイバとを融着接続する際には、複屈折増幅光ファイバ6と他の複屈折光ファイバとを長手方向の周りに回転させて複屈折軸の方向を調整するが、その調整方法は以下のようにして行うことができる。以下、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折光ファイバグレーティング10とを融着接続する場合を例として、複屈折軸の方向の調整方法を説明する。
【0068】
図11は、複屈折増幅光ファイバ6と複屈折光ファイバグレーティング10とを融着接続する融着接続機400の要部の模式図である。この融着接続機400は、応力付与型の複屈折光ファイバを融着接続するための市販の融着接続機と同様の構成を有しており、図11に示すように、左光ファイバホルダ401、右光ファイバホルダ402、左光ファイバ撮像用光源403a、左光ファイバ撮像用カメラ403b、右光ファイバ撮像用光源404a、右光ファイバ撮像用カメラ404bを備えている。
【0069】
また、図12は、図11に示す要部をZ軸方向から見た模式図である。図12に示すように、この融着接続機400は、対向配置される2本の放電電極405aをさらに備えている。なお、図11、12においては、各光ファイバのコア部の中心軸に沿ったZ軸と、Z軸に直交するXY軸を定義している。
【0070】
左光ファイバホルダ401は、端面近傍の外側クラッド部6cを除去した複屈折増幅光ファイバ6を保持し、XYZ軸方向に平行移動するとともに、Z軸の回りに回転できるように構成されている。一方、右光ファイバホルダ402は、端面近傍の樹脂被覆を除去した複屈折光ファイバグレーティング10を保持し、XYZ軸方向に平行移動するとともに、Z軸の回りに回転できるように構成されている。
【0071】
左光ファイバ撮像用光源403a、左光ファイバ撮像用カメラ403bは、X軸に沿って配置されている。左光ファイバ撮像用光源403aは、複屈折増幅光ファイバ6に側方から平行光を照射する白色光源である。左光ファイバ撮像用カメラ403bは、平行光を照射された複屈折増幅光ファイバ6を撮像するCCDカメラやC−MOSカメラ等の撮像手段である。一方、右光ファイバ撮像用光源404a、右光ファイバ撮像用カメラ404bは、Y軸に沿って配置されている。右光ファイバ撮像用光源404aは、複屈折光ファイバグレーティング10に側方から平行光を照射し、右光ファイバ撮像用カメラ404bは、平行光を照射された複屈折光ファイバグレーティング10を撮像する。また、放電電極405aは、Z軸に直交させて対向配置されており、電極間のアーク放電を利用して光ファイバの端面同士を融着接続するために用いる。
【0072】
融着接続機400は、図11、12に示した各構成要素を制御する制御部を備えている。この制御部は、左光ファイバ撮像用カメラ403b、右光ファイバ撮像用カメラ404bが撮像した各光ファイバの画像を画像処理し、この画像処理したデータに基づいて各光ファイバのXYZ軸方向の位置および複屈折軸の方向を検出し、左光ファイバホルダ401、右光ファイバホルダ402を制御して各光ファイバの位置の移動と回転を行って各光ファイバの位置関係と複屈折軸方向の関係とを調整して最適化する。制御部はその後、放電電極405a、405b間にアーク放電を発生させて光ファイバ同士の融着接続を行なう。
【0073】
ここで、複屈折光ファイバグレーティング10は応力付与型であるから、制御部は公知の応力付与型複屈折光ファイバ用の融着接続機と同様に、応力付与部材の位置をもとにその複屈折軸方向を検出する。一方、複屈折増幅光ファイバ6は楕円コア型であり応力付与部材を有さないので、制御部はたとえば以下のようにして、コア部6aの複屈折軸方向すなわち長短軸方向の検出を行う。
【0074】
なお、図13は、複屈折増幅光ファイバ6の側方から平行光L5を照射している状態を示す図である。以下の説明では、図13に示すように、平行光L5の進行方向と垂直方向を基準方向A1として、基準方向A1からの複屈折増幅光ファイバ6の回転角度を角度θとする。なお、符号A2はコア部6aの長軸方向を示している。また、複屈折増幅光ファイバ6の外側クラッド部6cは端面近傍において除去されている。
【0075】
図14は、左光ファイバ撮像用カメラ403bにより撮像された画像を画像処理して求められた光強度分布を示す図である。なお、図14において、横軸は複屈折増幅光ファイバ6のコア部6aの中心軸をゼロとした半径方向の位置を示し、縦軸は照度を示す。
【0076】
図14に示す光強度分布は、中央に位置する照度が大きい明部Sb1と、明部Sb1の外側に位置する照度が小さい暗部Sdと、暗部Sdの外側に位置する照度が大きい明部Sb2とを有する。明部Sb2は、複屈折増幅光ファイバ6の内側クラッド部6bを透過せずにその両側を通過する平行光L5によって生ずる部分である。一方、明部Sb1は、内側クラッド部6bがこれを透過した光をレンズのように集光することによって生ずる部分である。他方、暗部Sdは、平行光L5が内側クラッド部6bにより遮られて生ずる部分である。従って、図14中の符号Codは内側クラッド部6bの外縁の幅に対応する。
【0077】
ここで、複屈折増幅光ファイバ6をZ軸の回りに回転させると、内側クラッド部6bが円形ではなく六角形であるので、内側クラッド6bの外縁の幅Codは回転角度に応じて変化する。また、回転により内側クラッド6bのレンズとしての集光の仕方も変化するので、明部Sb1の中心位置やその幅も回転角度に応じて変化する。
【0078】
図15は、一例として、複屈折増幅光ファイバ6の内側クラッド6bと同様に六角形の断面形状を有するが、複屈折増幅光ファイバ6とは異なりコア部を有さないコアレスファイバを、Z軸の回りに回転させたときの光強度分布の変化を示した図である。なお、角度θは図13において定義した角度θであり、図15では0°から50°まで変化させている。図15に示すように、コアレスファイバの光強度分布において、外縁の幅、および中央の明部の中心位置と幅とが回転角度に応じて変化しており、たとえばθが0°から20°になると外縁の幅および中央の明部の幅が狭くなり、明部の中心位置が正の方向に移動している。コアレスファイバと同様に六角形の断面形状を有する内側クラッド6bにおいてもこのように光強度分布は変化する。
【0079】
したがって、図14に示すように、明部Sb1の中心位置Cbと外縁の幅Codの中心位置Cdとの差(Cb−Cd)をディストーションDiと定義すると、ディストーションDiを測定することによって複屈折増幅光ファイバ6の相対的な回転角度を検出できる。なお、複屈折増幅光ファイバ6をZ軸の回りに360°回転させた場合に、内側クラッド6bは六角形であるから、ディストーションDiは30°周期で変化する。
【0080】
一方、再び図14を参照すると、明部Sb1に照度の低い強度低下部B1、B2が存在するが、この強度低下部B1、B2は、コア部6aの存在に起因して発生するものであることが知られている。また、この強度低下部B1、B2の曲線形状は、平行光L5の進行方向に対するコア部6aの長短軸の方向によって変化する。
【0081】
コア部6aは楕円形であるから、複屈折増幅光ファイバ6をZ軸の回りに回転させたときに、強度低下部B1、B2の曲線形状は180°周期で変化する。したがって、強度低下部B1、B2の曲線形状を測定することによって、コア部6aの長短軸の方向を検出することができるはずであるが、実際には曲線形状の変化はわずかであり、この変化だけで長短軸の方向を高精度に検出するのは困難である。しかしながら、ディストーションDiの変化と強度低下部B1、B2の曲線形状の変化とを組み合わせて用いることによって、予め知られた内側クラッド6bの角とコア部6aの長短軸方向との位置関係から、コア部6aの長短軸方向をより容易かつ高精度に検出することができる。なお、強度低下部B1、B2の形状は、たとえば強度低下部B1、B2の形状を2次曲線で近似して、この近似曲線の2次の係数によって評価することができる。
【0082】
なお、上記実施の形態において、複屈折増幅光ファイバはダブルクラッド型であった。しかし、複屈折増幅光ファイバはダブルクラッド型に限られず、1層の多角形クラッドを備えたものでもよい。
【0083】
また、上記実施の形態において、複屈折増幅光ファイバの断面形状は六角形であるが、多角形であれば特に限定されない。また、複屈折増幅光ファイバの断面形状は正多角形でなくてもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、複屈折増幅光ファイバ6のコア部6aにYbイオンを添加しているが、Erイオンを添加したり、YbイオンとErイオンとを共添加したりしてもよい。この場合、励起光の波長はたとえば980nmとする。また、レーザ発振波長については、1064nmに限られず、複屈折光ファイバグレーティングの反射波長特性を調整すれば所望の発振波長を実現できる。
【0085】
また、上記実施の形態において、複屈折光ファイバグレーティング等については、応力付与型の光ファイバに換えて楕円コア型のものを用いてもよい。この場合、内側クラッド部またはクラッド部の断面形状は多角形とする。
【0086】
また、上記実施の形態2では、複屈折光ファイバグレーティング5のFast軸の反射スペクトルS1fと複屈折光ファイバグレーティング10のSlow軸の反射スペクトルS2sとが重畳するようにしている。しかし、本発明はこれに限らず、複屈折光ファイバグレーティング5のSlow軸の反射スペクトルS1sと複屈折光ファイバグレーティング10のFast軸の反射スペクトルS2fとが重畳するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施の形態1に係る光ファイバレーザの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す複屈折増幅光ファイバの長手方向に垂直な断面における模式的な断面図である。
【図3】図1に示す複屈折光ファイバグレーティングの長手方向に垂直な断面における模式的な断面図である。
【図4】図1に示す複屈折光ファイバグレーティングの長手方向に垂直な断面における模式的な断面図である。
【図5】複屈折光ファイバグレーティングと複屈折増幅光ファイバとの接続関係を説明する説明図である。
【図6】実施の形態2に係る光ファイバレーザの構成を示すブロック図である。
【図7】複屈折増幅光ファイバと各複屈折光ファイバグレーティングとの接続関係を説明する説明図である。
【図8】各複屈折光ファイバグレーティングの反射スペクトルと、レーザ光の出力スペクトルとの関係を示す図である。
【図9】実施例に係る光ファイバレーザにおける、励起光の強度と、出力端子から出力する波長1064nmのレーザ光の出力強度(レーザ光出力)と、励起光からレーザ光出力へのパワーの変換効率との関係を示す図である。
【図10】実施の形態3に係る光ファイバ増幅器の構成を示すブロック図である。
【図11】複屈折増幅光ファイバと複屈折光ファイバグレーティングとを融着接続する融着接続機の要部の模式図である。
【図12】図11に示す要部をZ方向から見た模式図である。
【図13】複屈折増幅光ファイバの側方から平行光を照射している状態を示す図である。
【図14】左光ファイバ撮像用カメラにより撮像された画像を画像処理して求められた光強度分布を示す図である。
【図15】コアレスファイバをZ軸の回りに回転させたときの光強度分布の変化を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
1 励起光源
1〜1n 半導体レーザ
1〜2n、4 マルチモード光ファイバ
3、14 TFB
5、8、10 複屈折光ファイバグレーティング
5a、6a、8a コア部
5b 内側クラッド部
5c、6c 外側クラッド部
5d、8d 応力付与部材
6 複屈折増幅光ファイバ
6b 多角形クラッド部
7 偏光子
7a、7b、9a、11a、12a、12b、13、16a、16b 複屈折シングルモード光ファイバ
8b クラッド部
8e 樹脂被覆
9 出力端子
11 入力端子
12、16 光アイソレータ
15 複屈折ダブルクラッド光ファイバ
51、81、101 グレーティング部
100、200 光ファイバレーザ
300 光ファイバ増幅器
400 融着接続機
401 左光ファイバホルダ
402 右光ファイバホルダ
403a 左光ファイバ撮像用光源
403b 左光ファイバ撮像用カメラ
404a 右光ファイバ撮像用光源
404b 右光ファイバ撮像用カメラ
405a 放電電極
A1 基準方向
A2 長軸方向
B1、B2 強度低下部
C1〜C12 接続点
Cb、Cd 中心位置
Cod 外縁の幅
Di ディストーション
L1、L2 レーザ光
L3、L4 光
L5 平行光
S1f、S1s、S2f、S2s 反射スペクトル
S3 出力スペクトル
Sb1 明部
Sb2 明部
Sd 暗部
θ 角度
λ1f、λ1s、λ2f、λ2s 波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有するとともに光増幅物質が添加されたコア部と、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有するとともに該コア部の屈折率よりも低い屈折率を有する多角形クラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバと、
前記複屈折増幅光ファイバの各端部にそれぞれ接続し、長手方向に沿って複屈折率差を有する直交軸が形成されたコア部を備え、該コア部の長手方向の一部に所定の反射帯域を有するグレーティング部を形成した2つの複屈折光ファイバグレーティングと、
前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給する励起光源と、
を備えたことを特徴とする光ファイバレーザ。
【請求項2】
前記複屈折増幅光ファイバは、前記多角形クラッド部の外周に形成され該多角形クラッド部の屈折率よりも低い屈折率を有する外側クラッド部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバレーザ。
【請求項3】
前記2つの複屈折光ファイバグレーティングの間に介挿された偏光子をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバレーザ。
【請求項4】
前記2つの複屈折光ファイバグレーティングは、それぞれ前記直交軸に平行な各偏波方向の光に対して中心波長が互いに異なる2つの反射帯域を有しており、
一方の前記複屈折光ファイバグレーティングの2つの反射帯域のいずれか1つと、他方の前記複屈折光ファイバグレーティングの2つの反射帯域のいずれか1つとが重畳しており、前記励起光源が前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給することによって、前記重畳した反射帯域内の発振波長を有する単一偏波のレーザ光を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバレーザ。
【請求項5】
前記2つの複屈折率光ファイバグレーティングの少なくとも一方は、前記コア部の外周に形成されたクラッド部と、該クラッド部内の該コア部を挟んで対向する位置に配置された応力付与部材とを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の光ファイバレーザ。
【請求項6】
前記2つの複屈折光ファイバグレーティングの少なくとも一方は、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有する多角形クラッド部を備え、前記コア部が長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の光ファイバレーザ。
【請求項7】
長手方向に垂直な断面において楕円形の断面形状を有するとともに光増幅物質が添加されたコア部と、前記コア部の外周に形成され長手方向に垂直な断面において多角形の断面形状を有するとともに該コア部の屈折率よりも低い屈折率を有する多角形クラッド部とを備えた複屈折増幅光ファイバと、
前記複屈折増幅光ファイバの各端部にそれぞれ接続し、長手方向に沿って複屈折率差を有する直交軸が形成されたコア部を備えた2つの複屈折光ファイバと、
前記複屈折増幅光ファイバに励起光を供給する励起光源と、
を備えたことを特徴とする光ファイバ増幅器。
【請求項8】
前記複屈折増幅光ファイバは、前記多角形クラッド部の外周に形成され該多角形クラッド部の屈折率よりも低い屈折率を有する外側クラッド部をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−177469(P2010−177469A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18744(P2009−18744)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】