説明

光ファイバ出射回路及びファイバレーザ

【課題】本発明は、ファイバレーザの信頼性を下げることなく余剰励起光を再利用することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ出射回路は、コア21の周囲に複数層の第1クラッド22を有し、励起光が入射されると励起光よりも長波長の放射光を出射する希土類添加光ファイバ11と、希土類添加光ファイバの端面に融着され、径方向に屈折率分布をもつGRINレンズ12と、を備え、GRINレンズ12は、0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長を有し、かつ、軸方向の開放された端部に励起光の波長を選択的に反射する反射フィルタ24が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加光ファイバを用いたファイバレーザ出射回路及び当該ファイバレーザ出射回路を備えるファイバレーザに関し、特に希土類添加光ファイバからの余剰励起光を再利用するファイバレーザ出射回路及びファイバレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
コアの周囲のクラッドに励起光を伝搬させることで光を増幅するダブルクラッドファイバ(DCF:Double Clad Fiber。以下、「DCF」と略記する)を用いたファイバレーザが利用されている。このクラッド励起構成では、クラッド内の励起光強度が一定の密度まで減少すると、希土類元素に反転分布が形成されなくなる。そのため、コアを伝搬する被増幅光の利得と吸収の収支が逆転して、光―光の変換効率が低下してしまう。
【0003】
上記変換効率の低下を防ぐための技術が提案されている。例えば、第1の従来例では、励起光を選択的にDCF内に反射させる多層膜ミラーを、DCFの先端に設けている(例えば、特許文献1参照。)。第2の従来例では、では、透明円盤の周囲に光ファイバを巻きつけ、さらに外周に励起光を反射させる部材を配置している(例えば、特許文献2参照。)。このように、従来は、DCF伝搬後の励起光を直接反射して、再度DCFに入射させることで、光―光の変換効率の低下を防いでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−121836号公報
【特許文献2】特開2007−115968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、第1の従来例では、被増幅光が多層膜ミラーに入射する。そのため、被増幅光が高強度の場合、多層膜ミラーが損傷する可能性があった。
【0006】
一方、第2の従来例では、光ファイバの被覆を通じて励起光がDCFに導入されることとなる。第2の従来例では光ファイバの被覆にはアクリルなどの透明樹脂が用いられるが、透明樹脂は光ファイバの成分である石英に比べると、耐ハイパワー特性が低い。そのため、透明樹脂が焼損する可能性があり、信頼性に劣る。
【0007】
そこで、本発明は、ファイバレーザの信頼性を下げることなく余剰励起光を再利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る光ファイバ出射回路は、コアの周囲に複数層のクラッドを有し、励起光が入射されると前記励起光よりも長波長の放射光を出射する希土類添加光ファイバと、前記希土類添加光ファイバの端面に融着され、径方向に屈折率分布をもつGRIN(Graded−Index)レンズと、を備え、前記GRINレンズは、0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長を有し、かつ、軸方向の開放された端部に前記励起光の波長を選択的に反射する反射フィルタが設けられていることを特徴とする。
【0009】
希土類添加光ファイバのクラッドからGRINレンズに入射された励起光は、反射フィルタで反射される。このとき、励起光は、GRINレンズ内を往復するので、希土類添加光ファイバのクラッドに再び入射する。これにより、励起光を効率よく再利用することができる。また、希土類添加光ファイバのうちの励起光を透過しない層への入射が防げるので、希土類添加光ファイバとGRINレンズの境界で生じる発熱及び当該発熱による損傷を防ぐことができる。
GRINレンズに入射された被増幅光は、レンズ長に合わせた出射径でGRINレンズの出射端から出射される。このとき、レンズ長が0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長を有するので、反射フィルタにおける被増幅光のパワー密度差を緩和することができる。これにより、被増幅光による反射フィルタの損傷を防ぐことができる。
希土類添加光ファイバの先端にGRINレンズが融着接続されているので、希土類添加光ファイバとGRINレンズとの間での接続損失が少ない。これにより、被増幅光及び励起光の利用効率を向上することができる。また、希土類添加光ファイバとGRINレンズの境界で生じる発熱及び当該発熱による損傷を防ぐことができる。
したがって、本発明に係る光ファイバ出射回路は、ファイバレーザの信頼性を下げることなく余剰励起光を再利用することができる。
【0010】
本発明に係る光ファイバ出射回路では、前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍±0.15ピッチの範囲内であることが好ましい。
本発明により、反射フィルタでの被増幅光のパワー密度を0.5ピッチのときの1/10程度にすることができる。
【0011】
本発明に係る光ファイバ出射回路では、前記複数層のクラッドのうちの前記コアと接する第1クラッドの断面形状は、不等L角形(Lは3以上の整数)又は正M角形(Mは3以上の奇数)であることが好ましい。
また、本発明に係る光ファイバ出射回路では、前記複数層のクラッドのうちの前記コアと接する第1クラッドの断面形状は、正N角形(Nは4以上の偶数)であり、前記GRINレンズは、0.5ピッチの1/Nの整数倍を除くレンズ長であることが好ましい。
本発明により、希土類添加光ファイバ内でスキューモードの光として伝搬した励起光を、コアに結合し易い伝搬状態に変換して希土類添加光ファイバのクラッドに入射させることができる。
【0012】
本発明に係る光ファイバ出射回路では、前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍±0.03ピッチの範囲内であることが好ましい。
本発明により、反射フィルタで反射された励起光の希土類添加光ファイバへの結合効率を向上することができる。
【0013】
本発明に係る光ファイバ出射回路では、前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍+0.02ピッチであることが好ましい。
本発明により、GRINレンズからの出射光をコリメート光として効率よく長距離空間伝搬させることができる。
【0014】
本発明に係るファイバレーザは、本発明に係る光ファイバ出射回路と、前記光ファイバ出射回路に前記励起光を供給する励起光源と、前記希土類添加光ファイバの離れた2点に配置され、前記励起光源からの励起光をレーザ発振させる1組の反射ミラーと、を備えることを特徴とする。
本発明により、信頼性を下げることなく余剰励起光を再利用するファイバレーザを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ファイバレーザの信頼性を下げることなく余剰励起光を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るファイバレーザの構成概略図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバ出射回路の構成概略図である。
【図3】スキューモードの光の伝搬経路の一例であり、(a)は第1クラッドの各辺で1回ずつ反射される場合を示し、(b)は第1クラッドの各辺で2回ずつ反射される場合を示す。
【図4】第1クラッドの断面形状が正M角形(Mは3以上の奇数)の場合のスキューモードの光の伝搬経路の第1例であり、(a)はGRINレンズへの入射前、(b)は0.25ピッチの奇数倍よりも短いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(c)は0.25ピッチの奇数倍のレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(d)は0.25ピッチの奇数倍よりも長いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後を示す。
【図5】第1クラッドの断面形状が正N角形(Nは4以上の偶数)の場合のスキューモードの光の伝搬経路の第2例であり、(a)はGRINレンズへの入射前、(b)は0.25ピッチの奇数倍よりも短いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(c)は0.25ピッチの奇数倍のレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(d)は0.25ピッチの奇数倍よりも長いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係るファイバレーザの構成概略図である。本実施形態に係るファイバレーザは、希土類添加光ファイバ11と、GRINレンズ12と、複数の励起光源13と、励起光コンバイナ14と、1組の反射ミラー15a及び15bと、を備える。希土類添加光ファイバ11及びGRINレンズ12によって光ファイバ出射回路が構成される。
【0019】
複数の励起光源13は、希土類元素の励起光を希土類添加光ファイバ11に供給する。励起光コンバイナ14は、複数の励起光源13から出射する励起光を希土類添加光ファイバ11の第1クラッドに結合する。希土類添加光ファイバ11の第1クラッドを伝搬する励起光は、コアを横切る際に希土類イオンに吸収され、励起光よりも長波長の放射光が希土類イオンから放射される。励起光及び放射光の一部は、希土類添加光ファイバ11の端部に配置された反射ミラー15aと反射ミラー15bで反射されてレーザ発振する。このとき、誘導放出現象により希土類添加光ファイバ11にて放射光が増幅される。レーザ発振した光の一部は、反射ミラー15bを透過し、反射ミラー15bと光ファイバで接続されているGRINレンズ12から出力される。
【0020】
ここで、反射ミラー15a及び15bは、例えばファイバブラッググレーティングである。図1では、反射ミラー15a及び15bは、希土類添加光ファイバ11の端部に配置される例を示したが、離れた2点に配置されていればよい。また、反射ミラー15bとGRINレンズ12との間に光ファイバが接続される例を示したが、これに限定されない。例えば、反射ミラー15bとGRINレンズ12が直接接続されていてもよいし、反射ミラー15bとGRINレンズ12の間に他の光学部品が接続されていてもよい。
【0021】
また、図1に示す光ファイバ出射回路では、図1に示す共振器を確実に反射ミラー15a及び15b間で形成するために、反射ミラー15bの反射率をGRINレンズ12における反射フィルタの反射率よりも高く設定する必要がある。GRINレンズ12を使用せずに、希土類添加光ファイバ11のビーム出射端に、励起光を選択的に反射する反射フィルタを直接成膜する方法も考えられる。しかし、そのような方法ではGRINレンズ12によるビーム径拡大効果が得られないので、反射フィルタを通る被増幅光のパワー密度が高くなり、反射フィルタの焼損が起こる可能性がある。そのため、出射端に反射フィルタを設けたGRINレンズ12を接続して被増幅光のビーム径を拡大することで、反射フィルタの焼損を防止することができる。
【0022】
本実施形態に係るファイバレーザは、希土類添加光ファイバ11及びGRINレンズ12を備える光ファイバ出射回路を備えることで、希土類添加光ファイバ11の終端部から余剰励起光を再利用し、光―光の変換効率を向上させ、さらには発熱による部品の寿命低下や焼損などの悪影響を低減する。以下、光ファイバ出射回路の詳細について説明する。
【0023】
一般的に用いられる光ファイバのビーム出射端に誘電体多層膜の反射フィルタを設け、反射フィルタの対パワー特性について、簡単な実験で確認した。シングルモード光の平均強度が75kW/mmの条件では高確率で反射フィルタが焼損したのに対し、15kW/mmまで平均強度を低減させることで反射フィルタの焼損確率を数%以下にすることができた。反射フィルタの成膜条件やレーザの使用条件にもよるが、好ましくは平均強度を7.5kW/mm以下にすることで、高エネルギー光による反射フィルタの焼損のほとんどを防ぐことができると考えられる。
【0024】
ビーム出射端で被増幅光のパワー密度を1/10以下にするためには、GRINレンズ12の入射端における被増幅光のビーム径に対して、GRINレンズ12の出射端における被増幅光のビーム径を3.5倍以上にする必要がある。仮に被増幅光の平均強度が75kW/mmの条件で0.25レンズ長で被増幅光を10倍に拡大できるGRINレンズを用いた場合には、レンズ長が0.1〜0.4ピッチの範囲であれば、十分に端面焼損を防げる計算になる。5倍のGRINレンズを用いた場合でも、0.15〜0.35ピッチの範囲で端面焼損を防げる計算になる。
【0025】
特に、GRINレンズ12のレンズ長が0.25ピッチの奇数倍に近い領域では入射光の径が拡大されるので、希土類添加光ファイバ11から直接レーザを出力する構成に比べて、端部での被増幅光のパワー密度を低減することができる。そのため、高強度光による端面損傷の確率を格段に下げることができる。
【0026】
図2は、本実施形態に係る光ファイバ出射回路の構成概略図である。希土類添加光ファイバ11は、コア21に希土類元素を含むことによって、励起光が入射されると励起光よりも長波長の放射光を出射する。希土類元素は例えばYbである。コア21の周囲のクラッドは、クラッドにも導波構造を持たせるため、複数層になっている。図2では簡単のため、複数層のクラッドのうちのコアと接する第1クラッド22のみを記載した。第1クラッド22と被覆23との間のクラッドは1層であってもよいし、2層以上あってもよい。第1クラッド22と被覆23との間のクラッドが1層であれば、希土類添加光ファイバ11は、第1クラッド22と第2クラッドを備えるダブルクラッドファイバとなる。
【0027】
GRINレンズ12は、径方向に屈折率分布をもつ。このため、レンズ長PLを調節することで、GRINレンズ12から出射する被増幅光のビーム径及び出射角を設定することができる。例えば、レンズ長PLを0.25ピッチの奇数倍にすれば、被増幅光のビーム径を拡大してコリメート光として出射することができる。レンズ長PLを0.5ピッチの整数倍にすれば、被増幅光のビーム径を入射光と同じ径に集光することができる。
【0028】
GRINレンズ12は、希土類添加光ファイバ11の端面に融着されている。光回路において、通常、最も損傷を受け易いのは光回路の不連続点となる端部である。そのなかでもさらに損傷を受け易いのは被増幅光のパワー密度が最大となる出射端であり、図2中の希土類添加光ファイバ11の端面に相当する。この最も損傷を受け易い希土類添加光ファイバ11の端面にGRINレンズ12を融着接続することで、光回路の不連続点をなくすことができ、高強度光によって損傷する確率を大幅に低減することができ、光回路の信頼性を向上することができる。なお、GRINレンズ12と希土類添加光ファイバ11の融着接続は、GRINレンズ12と希土類添加光ファイバ11が直接接続されている場合に限らず、GRINレンズ12と希土類添加光ファイバ11の間にフィルタなどの他の光学部品が配置されていてもよい。
【0029】
光回路の不連続点をなくすため、GRINレンズ12と希土類添加光ファイバ11の材質は同じことが好ましい。この場合、両者の間に熱膨張率の差がなくなるので、異なる材質間の融着接続と比べて容易に融着接続することができる。
【0030】
GRINレンズ12は、軸方向の開放された端部に励起光の波長を選択的に反射する反射フィルタ24が設けられている。反射フィルタ24が励起光を反射するので、希土類添加光ファイバ11から出射した余剰励起光を希土類添加光ファイバ11に再入射することができる。一方、反射フィルタ24は被増幅光(信号光)を透過し、軸方向の開放された端部から被増幅光(信号光)を出射する。ここで、被増幅光は励起光よりも長波長となるので、反射フィルタ24は、特定の波長よりも長波長の光成分を透過し、短波長の光成分を反射する長波長透過フィルタであってもよい。反射フィルタ24の具体例としては、誘電体多層膜がある。
【0031】
希土類添加光ファイバ11を増幅用ファイバとして用いるファイバレーザでは、波長915nm、940nm、976nmのLD(Laser Diode)を励起光源として、1060nmから1100nmの光を増幅する構成が多い。そのため、GRINレンズ12の端面に配置した反射フィルタ24の特性は、990nmよりも短波長の光を反射し、1040nmよりも長波長の光を透過する特性を持たせることが好ましい。これにより、被増幅光を透過し、余剰励起光を反射する特性を持たせることができる。
【0032】
本実施形態で必要最低限となるGRINレンズ12の径は、希土類添加光ファイバ11の開口数(NA)と第1クラッド22の径に依存し、希土類添加光ファイバ11の第1クラッド22のNAよりも大きいNAをもつGRINレンズ12を用いる必要がある。
【0033】
GRINレンズ12は、0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長PLを有することが好ましい。GRINレンズ12のレンズ長PLが0.5ピッチの整数倍の場合、反射フィルタ24の位置で被増幅光が光軸に収束する。この状態で高出力の被増幅光を出射すると、反射フィルタ24が破損する可能性がある。そこで、0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長PLとすることで、反射フィルタ24の破損を防ぐことができる。
【0034】
具体的には、GRINレンズ12のレンズ長PLは、0.25ピッチの奇数倍±0.15ピッチの範囲内であることが好ましい。0.1ピッチ以上0.4ピッチ以下となるレンズ長PLとすることで、反射フィルタ24での被増幅光のパワー密度を0.5ピッチのときの1/10にすることができる。
【0035】
反射フィルタで反射した励起光と希土類添加光ファイバ11との結合効率を考慮すると、最も結合効率がよいのはGRINレンズ12のレンズ長PLが0.25ピッチの奇数倍となる場合である。そこで、実範囲を90%程度の結合効率と考えると、GRINレンズ12のレンズ長PLは、0.25ピッチの奇数倍±0.03ピッチの範囲内であることが好ましい。
【0036】
また、レンズ長PLが0.25の奇数倍から少し長い領域、具体的には、0.25ピッチの奇数倍+0.02ピッチであることが好ましい。出射光をコリメート光として効率よく長距離空間伝搬させることができるため、別途コリメートレンズを用意する必要がなくなり、端面損傷の防止とコリメータとしての役割を一つの部品で達成することができる。
【0037】
次に、希土類添加光ファイバ11の第1クラッド22の断面形状に対して、GRINレンズ12のレンズ長をどのように設定するとスキューモードの光を低減できるかについて説明する。
図3は、第1クラッドの断面形状が5角形の場合のスキューモードの光の伝搬経路の一例である。図3(a)は第1クラッドの各辺で1回ずつ反射される場合を示し、図3(b)は第1クラッドの各辺で2回ずつ反射される場合を示す。スキューモードに結合した場合、励起光のほとんどは、コアを横切らないためコア21に添加された希土類元素に吸収されることなく、希土類添加光ファイバの出射端まで伝搬されることになる。そこで、図2に示すGRINレンズ12は、希土類添加光ファイバ内でスキューモードの光として伝搬した励起光を、コア21に結合し易い伝搬状態に変換して希土類添加光ファイバの第1クラッド22に入射させることが好ましい。これにより、余剰励起光を再利用することができる。
【0038】
図2に示すGRINレンズ12では、使用する第1クラッド22の断面形状によって、スキューモードの光の低減効果が異なる。例えば、第1クラッド22の断面形状が不等L角形(Lは3以上の整数)、正M角形(Mは3以上の奇数)の場合には、反射した余剰励起光は、GRINレンズ12のレンズ長PLが0.5ピッチの整数倍のときにスキューモードに結合する。そのため、0.5ピッチの整数倍となるレンズ長PLを避けることでスキューモードの光を低減することができる。
【0039】
一方、第1クラッド22の断面形状が正N角形(Lは4以上の偶数)の場合には、反射した余剰励起光は、さらに、GRINレンズ12のレンズ長PLが0.5ピッチの1/N倍のときにもスキューモードに結合する。そのため、0.5ピッチの1/Nの整数倍となるレンズ長PLも避けることでスキューモードの光を低減することができる。
【0040】
図4は、第1クラッドの断面形状が正M角形(Mは3以上の奇数)の場合のスキューモードの光の伝搬経路の第1例であり、(a)はGRINレンズへの入射前、(b)は0.25ピッチの奇数倍よりも短いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(c)は0.25ピッチの奇数倍のレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(d)は0.25ピッチの奇数倍よりも長いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後を示す。図4では、正M角形の一例として、M=5の場合の正5角形の場合について示した。
【0041】
時計回りに伝搬したスキューモードの励起光が、図4(a)に示すA点からGRINレンズへ入射する。このとき、GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、再び第1クラッド22のA点に結合する。そして、図4(a)に示すスキューモードの光の伝搬方向と逆方向となる時計回りに伝搬するスキューモードの光となる。
【0042】
GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍の場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図4(c)に示すように、第1クラッド22のうち、コア21を中心点とするA点と点対照のB点に結合する。GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍より短い場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図4(b)に示すように、B点よりも少し早い時点となるC点に入射する。GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍より長い場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図4(d)に示すように、B点よりも少し遅い時点となるD点に入射する。これらのとき、第1クラッド22に再入射した励起光の伝搬経路はスキューモードから外れる。
【0043】
したがって、第1クラッドの断面形状が正M角形(Mは3以上の奇数)の場合、GRINレンズのレンズ長を0.5ピッチの整数倍を避けるように構成することで、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光のスキューモードへの再結合を防ぐことができる。第1クラッド22の断面形状が不等L角形(Lは3以上の整数)の場合も同様の挙動を示す。
【0044】
図5は、第1クラッドの断面形状が正N角形(Nは4以上の偶数)の場合のスキューモードの光の伝搬経路の第2例であり、(a)はGRINレンズへの入射前、(b)は0.25ピッチの奇数倍よりも短いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(c)は0.25ピッチの奇数倍のレンズ長を有するGRINレンズへの入射後、(d)は0.25ピッチの奇数倍よりも長いレンズ長を有するGRINレンズへの入射後を示す。図5では、正N角形の一例として、N=6の場合の正6角形の場合について示した。
【0045】
GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、再び第1クラッド22のA点に結合する。そして、図5(a)に示すスキューモードの光の伝搬方向と逆方向となる時計回りに伝搬するスキューモードの光となる。
【0046】
GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍のとき、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図5(c)に示すように、第1クラッド22のうち、コア21を中心点とするA点と点対照のB点に結合する。そして、図5(c)に示すように、図5(a)に示すスキューモードの光の伝搬方向と逆方向となる時計回りに伝搬するスキューモードの光となる。
【0047】
GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍より短い場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図5(b)に示すように、B点よりも少し早い時点となるC点に入射する。GRINレンズのレンズ長が0.25ピッチの奇数倍より長い場合、GRINレンズから第1クラッド22へ再入射した励起光は、図5(d)に示すように、B点よりも少し遅い時点となるD点に入射する。これらのとき、第1クラッド22に再入射した励起光の伝搬経路はスキューモードから外れる。
【0048】
したがって、第1クラッドの断面形状が正N角形(Nは4以上の偶数)の場合、GRINレンズのレンズ長を0.25ピッチの奇数倍を避けるように構成することで、第1クラッド22に再入射した励起光のスキューモードへの再結合を防ぐことができる。
【0049】
GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの1/Nの整数倍のとき、第1クラッド22に再入射した励起光の伝搬経路は、図5(c)に示すコア21を中心としてA点を360°/Nだけ回転させたスキューモードとなる。例えば、GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの3/6倍となる0.25ピッチのとき、図5(c)に示すコア21を中心としてA点を180°だけ回転させたスキューモードとなる。GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの5/6倍となる0.42ピッチのとき、第1クラッド22に再入射した励起光の伝搬経路は、図5(c)に示すコア21を中心としてB点を60°反時計回りに回転したスキューモードとなる。GRINレンズのレンズ長が0.5ピッチの7/6倍となる0.58ピッチのとき、第1クラッド22に再入射した励起光の伝搬経路は、図5(c)に示すコア21を中心としてB点を60°時計回りに回転したスキューモードとなる。
【0050】
したがって、第1クラッドの断面形状が正N角形(Nは4以上の偶数)の場合、GRINレンズのレンズ長を0.5ピッチの1/Nの整数倍を避けるように構成することで、第1クラッド22に再入射した励起光のスキューモードへの再結合を防ぐことができる。
【実施例】
【0051】
本実施形態に係るファイバレーザの信頼性についての比較試験を行った。
図1に示す希土類添加光ファイバ11として、コア側から順に第1クラッド及び第2クラッドの層を有するダブルクラッドファイバを用いた。第1クラッドは、径が400μm、NAが0.46、断面形状がN=6の六角形であった。第2クラッドは、樹脂クラッドであった。COレーザを熱源とした融着接続器を使用し、希土類添加光ファイバ11とGRINレンズ12を同心で融着接続した。
【0052】
GRINレンズ12は、有効径がφ5mm、材質が石英、レンズ長が0.25ピッチの奇数倍+0.01ピッチとなる0.26レンズ長であった。このように、GRINレンズ12のレンズ長を0.5ピッチの1/Nの奇数倍となる0.25ピッチを避けた。
【0053】
一方、比較例として、実施例に係る希土類添加光ファイバ11のビーム出射端に直接反射フィルタを設け、GRINレンズ12を介さずに被増幅光を出射する構成を用意した。比較例においても、反射フィルタとして希土類添加光ファイバ11の出射端にARコートを施した。
【0054】
上記の実施例及び比較例に係るファイバレーザにおいて、平均強度75kW/mmの被増幅光を希土類添加光ファイバ11から出射した。GRINレンズ12の端面に設ける反射フィルタとして、990nmより短波長の光の透過率を0.1%以下とし、1040nmより長波長の光の透過率が98%以上となる特性の誘電体多層膜のARコートを直接成膜した。また、共振器を確実に反射ミラー15a及び15b間で形成するために、反射ミラー15bは反射率10%のものを使用した。
【0055】
その結果、比較例では、希土類添加光ファイバ11に設けられている反射フィルタは、90%以上の高確率で波長フィルタが焼損した。
これに対し、実施例では、GRINレンズ12に設けられている反射フィルタから出射される被増幅光の平均強度は、750W/mm以下となった。このように、GRINレンズ12からのビーム出射端での被増幅光のパワー密度を希土類添加光ファイバ11の出射端での平均強度の1/100に低減することができた。そのため、実施例では、GRINレンズ12に設けられている反射フィルタの損傷は発生しなかった。
【0056】
誘電体多層膜のARコートは、通常は3層又は4層であるのに対して、長波長透過フィルタが50層程度必要になる。誘電体多層膜のハイパワー性は層数が増えるほど低下するが、実施例に係る構成を用いることで、層数が増えた場合であってもハイパワー性を維持することができる。したがって、実施形態に係る構成とすることによって、光ファイバ出射回路及びファイバレーザの信頼性を大幅に向上することができたといえる。
【0057】
比較例では余剰励起光によってビーム出力端付近の温度が局所的に150℃を超える部分があった。これに対し、実施例では、GRINレンズ12のビーム出力端付近の温度を60℃以下に抑えることができた。したがって、本実施形態に係る構成とすることによって、GRINレンズ12のビーム出力端付近での部品の寿命低下や焼損などの悪影響を防ぐことができたといえる。
【0058】
本実施例に係るファイバレーザの構成とすることで、励起光から被増幅光への変換効率を、67%から69%まで向上させることができた。第1クラッドの断面形状がN角形の希土類添加光ファイバ11に対して、GRINレンズ12のレンズ長を0.5ピッチの1/Nの整数倍を避け、かつ、0.25ピッチの奇数倍+0.01ピッチとすることで、希土類添加光ファイバ11へと再入射した励起光のスキューモードへの再結合を防ぐことができ、余剰励起光を効率的に再利用することができたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ファイバレーザの高出力化により加工用として利用できることから、電気機器産業や一般機械産業などの幅広い産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
11 希土類添加光ファイバ
12 GRINレンズ
13 励起光源
14 励起光コンバイナ
15a、15b 反射ミラー
21 コア
22 第1クラッド
23 被覆
24 反射フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの周囲に複数層のクラッドを有し、励起光が入射されると前記励起光よりも長波長の放射光を出射する希土類添加光ファイバと、
前記希土類添加光ファイバの端面に融着され、径方向に屈折率分布をもつGRIN(Graded−Index)レンズと、を備え、
前記GRINレンズは、0.5ピッチの整数倍を除くレンズ長を有し、かつ、軸方向の開放された端部に前記励起光の波長を選択的に反射する反射フィルタが設けられていることを特徴とする光ファイバ出射回路。
【請求項2】
前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍±0.15ピッチの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ出射回路。
【請求項3】
前記複数層のクラッドのうちの前記コアと接する第1クラッドの断面形状は、不等L角形(Lは3以上の整数)又は正M角形(Mは3以上の奇数)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ出射回路。
【請求項4】
前記複数層のクラッドのうちの前記コアと接する第1クラッドの断面形状は、正N角形(Nは4以上の偶数)であり、
前記GRINレンズは、0.5ピッチの1/Nの整数倍を除くレンズ長であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ出射回路。
【請求項5】
前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍±0.03ピッチの範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ファイバ出射回路。
【請求項6】
前記GRINレンズのレンズ長は、0.25ピッチの奇数倍+0.02ピッチであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光ファイバ出射回路。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光ファイバ出射回路と、
前記光ファイバ出射回路に前記励起光を供給する励起光源と、
前記希土類添加光ファイバの離れた2点に配置され、前記励起光源からの励起光をレーザ発振させる1組の反射ミラーと、を備えることを特徴とするファイバレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−124460(P2011−124460A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282387(P2009−282387)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】