説明

光ファイバ及びその製造方法

【課題】
光信号の伝送特性を向上させ、且つ断線時における海水侵入箇所の交換コストの削減が可能な光ファイバ及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
中心軸領域に設けられたコア2と、コア2の外周に設けられ、コア2よりも小さい屈折率を有する内部クラッド層3と、内部クラッド層3の外周に設けられ、複数の長孔状の気泡5を有する気泡層4と、内部クラッド層3の外周に設けられ、コア2と同等の若しくはコア2より小さい屈折率を有する外部クラッド層6とを有し、気泡5の長さが200m以下であることを特徴とする光ファイバ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形現象を抑制した光ファイバに関し、特に光海底ケーブルに好適な光ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット等の急速な普及に伴い、情報を伝送する伝達媒体に対する大容量化が進められている。伝送容量の大容量化を目的とする技術の中で現在有望視されているものに、波長多重(以下、WDMという。)伝送方式がある。しかし、前記WDM伝送方式の大容量化をすると、光ファイバの伝送特性の劣化を招く非線形効果現象が発生する可能性が高くなる。そこで近年、前記WDM伝送方式の大容量化には不可欠な非線形効果現象の発生を抑制する光ファイバの開発が進められている。また、前記伝送特性を向上するためには、曲げによる光信号損失の低減も必要である。そのため、実効断面積が大きく、且つ曲げによる光信号の損失の少ない光ファイバの開発が進められている。上記の目的を達成する光ファイバに、コア部の外径を大きくし、該コア部と該コア部の外周に設けられたクラッド層に屈折率差を設けることで実効断面積を大きくし、且つ前記クラッド層に長手方向全長に貫通した気孔や気泡を設けることにより、曲げによる光信号の損失の少なくしたものがある(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
また、現在インターネット等の情報網は全世界各国まで及んでいる。そのため、大陸間を結ぶ光海底ケーブルシステムのような長距離大容量伝送路へ前記WDM伝送方式を導入することが進められている。しかし、例えば特許文献1に開示されているような長手方向全長に亘る気孔部を有する光ファイバを光海底ケーブルに使用し、当該光ファイバが海底において断線した場合は、断線箇所から当該光ファイバに設けられている気孔部へ毛細管現象により海水が浸入する。この時、海水が浸入した前記気孔部が当該光ファイバの伝送特性に悪影響を及ぼす。特に光海底ケーブルでは8000m級の深海に敷設される場合がある。その場合、毛細管現象のほかに海水の水圧により気孔部への海水の侵入長が長距離に及ぶ可能性がある。また、前記気孔部に侵入した海水を除去するのは事実上不可能であるので、断線箇所の前記光ファイバのみならず光海底ケーブル自体を交換しなくてはならない。そのため、海底において光ファイバが断線した際に、光海底ケーブルの交換長が短くて済む光ファイバの開発が必要であった。
【0004】
特許文献2に開示されている光ファイバは、前記クラッド層に設けられているのは気泡である。そのため、当該光ファイバが海底で断線した場合、海水の浸入はあるものの、気泡により海水の侵入長はある程度で止められる。それが結果として、光海底ケーブルの海水侵入箇所の交換長を短くすることが可能である。
【0005】
特許文献3に開示されている光ファイバは、当該光ファイバの内部に軸心に沿って管状の気孔が複数形成された光ファイバであって、前記気孔の両端に、又は前記気孔の長手方向に亘って所定の間隔で仕切り壁が設けられているものである。当該光ファイバが海底で断線した場合、海水の浸入はあるものの、前記仕切り壁により海水の侵入をある程度止められる。それが結果として、光海底ケーブルの海水侵入箇所の交換長を短くすることが可能であり、海水侵入箇所の交換コストの削減が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−226540号公報
【特許文献2】特開2009−69238号公報
【特許文献3】特開2003−202431号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「光海底ケーブル通信」P78〜79 平成3年12月20日 KDDエンジニアリング・アンド・コンサルティング(KEC)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されている光ファイバは、前記気泡によって、海水の侵入はある程度で止められるものの、前記気泡の長さに関しては触れられていない。つまり、光ファイバ母材を線引きする前における気泡の大きさによっては線引きした際に、当該気泡は長距離に及ぶ可能性がある。その場合、前記光ファイバを光海底ケーブルに用いると、当該光ファイバの断線時に海水の侵入長が長くなってしまう。その結果、海水侵入箇所の交換コストが削減が効果的に成されないという問題があった。
【0009】
特許文献3に開示されている光ファイバは、前記仕切り壁によって、海水の侵入はある程度止められるものの、前記仕切り壁は気孔部ではないために、曲げによる光信号の損失は大きいものとなる。詳しくは、当該光ファイバを曲げる際、当該光ファイバの曲げ領域にちょうど前記仕切り壁が位置すると、前記仕切り壁から光信号が逃げてしまい、光信号の損失が大きくなるという問題があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み成されたものであり、光信号の伝送特性を向上させ、且つ断線時における海水侵入箇所の交換コストの削減が可能な光ファイバ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み成されたものであり、中心軸領域に設けられたコアと、前記コアの外周に設けられ、前記コアよりも小さい屈折率を有する内部クラッド層と、前記内部クラッド層の外周に設けられ、複数の長孔状の気泡を有する気泡層と、前記気泡層の外周に設けられ、前記コアと同等の若しくは前記コアより小さい屈折率を有する外部クラッド層と、を有し、前記気泡の長さが200m以下であることを特徴とする光ファイバを提供するものである。前記気泡の長さは10m〜200mであることが好ましい。前記気泡層は、前記気泡層の中心軸方向の任意の断面において、外径が1μm以下の前記気泡を有していても良い。
【0012】
前記コア内を伝搬する伝搬光の波長における前記コアの実効断面積が80μm以上であることが好ましい。前記実効断面積が80μm〜200μmであっても良い。
【0013】
前記気孔層は、中心軸から前記コアを伝搬する伝搬光の波長におけるモードフィールド径を半径とする円周内側領域に位置することが好ましい。
【0014】
コア母材の外周に内部クラッド層母材を設ける製造工程と、前記内部クラッド層母材の外周に気泡層母材を設ける製造工程と、前記気泡層母材の外周に設けられる外部クラッド層母材によって、前記コア母材及び前記気泡層母材を一体に成型し、光ファイバ母材を製造する製造工程と、前記光ファイバ母材を線引きする線引き工程と、を有し、前記気泡層母材は、前記内部クラッド層母材と略同質の素材をHeガス及びNガスの混合ガス雰囲気中において加熱処理することにより、前記気泡層母材内に外径が1.2mm以下のNガス気泡を生成させることにより製造されることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0015】
前記気泡層母材は、Heガス及びNガスの混合比He:N=(90%〜30%):(10%〜70%)の混合ガス雰囲気中において加熱処理することにより製造されても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光信号の伝送特性を向上させ、且つ断線時における海水侵入箇所の交換コストの削減が可能な光ファイバ及びその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の中心軸方向の断面図。
【図2】本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の斜視図。
【図3】本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の製造方法において、加熱処理に用いた電気炉21を説明する説明図。
【図4】本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の中心軸方向の断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好適な実施形態に関して、添付図に従って説明する。
【0019】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る光ファイバの中心軸方向の断面図である。図2は、本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の側断面図である。
【0020】
本発明の好適な実施形態は、光海底ケーブル用の光ファイバ1であって、中心軸領域に設けられたコア2と、コア2の外周に設けられ、コア2よりも小さい屈折率を有する内部クラッド層3と、内部クラッド層2の外周に設けられ、複数の長孔状の気泡5を有する気泡層4と、気泡層4の外周に設けられ、コア2と同等の若しくはコア2より小さい屈折率を有する外部クラッド層6と、を有し、光ファイバの長手方向における気泡5の長さが200m以下であることを特徴とする光ファイバ1である。
【0021】
詳しくは以下の通りである。図1に図示するように、光ファイバ1の内部クラッド層3の外周には、コア2から所定の距離をもって、コア2上を取り囲むように中心軸から同心円状に複数の長孔状の気泡5を有する気泡層4が設けられている。気泡層4が内部クラッド層3を介してコア2から所定の距離をもって設けられる理由は、気泡層4をコア2に近接した場所に設けようとすると、気泡層4内に気泡5を設ける製造工程において、気泡5がコア2付近で発泡してしまい、コア2の外形を歪めてしまう恐れがあるからである。そのため、その結果として生じる光ファイバ1の伝送特性の劣化を防止するため、気泡層4はコア2から所定の距離をもって設けられる。
【0022】
更に、気泡層4の外周には外部クラッド層6が設けられる。以上のような構成の光ファイバ1の外径は125μmであった。気泡5は、光ファイバ1を曲げた際に生じる曲げ損失を低減するために設けられる。また、気泡5は、光ファイバ1を海底に敷設した際、光ファイバ1の断線時において光ファイバ1に侵入する海水の浸入長を低減するために、図2に図示するように、光ファイバ1の長手方向において非貫通であり、その長さは200m以下である。
【0023】
気泡の長さを200m以下とする理由について、非特許文献1を用いて説明する。非特許文献1は、光海底ケーブルを1000m及び5500mの海底に敷設した際において、光海底ケーブルの断線時における水走り時間と水走り距離の関係について述べたものである。ここで言う、1000mとは、海底において浅瀬に対応する深長であり、5500mとは海底において深海に対応する深長である。非特許文献1に述べられているように、光海底ケーブルが断線した際の1000m及び5500mの海底における水走り距離は2週間で、200m及び1000m程度である。
【0024】
光海底ケーブルは当然のように、浅瀬領域から深海領域まで敷設される。そのため、気泡5の長さを5500mにおける水走り距離に対応させて1000mとすると、深長が1000m程度である浅瀬で光海底ケーブルが断線した場合において、当該光海底ケーブル自体の水走り距離は200m以下であるのにも拘わらず、気泡5が1000mであるために当該光海底ケーブルの断線箇所の交換長が長距離化してしまう。その結果、光海底ケーブル交換にかかるコストが増大する。そのため、気泡5の長さを浅瀬における水走り距離に対応させて200m以下とすることにより、交換長を最低限に抑えることができ、交換にかかるコストを低減することができる。
【0025】
また、気泡5の長さは、線引きする前の気泡5の大きさ、又は線引きする機械の性能上、10m〜200mであれば良い。本実施形態においては、光ファイバ1が断線した際における海水の侵入長をより短くするために、気泡5の長さを100m程度とした。また、気泡5の少なくとも一部は、光ファイバ1の任意の断面において、その外径が1μm以下となるようにする。これにより、気泡層4を形成する複数の気泡5は任意の断面において、気泡5の外径は任意で良いことを示しており、気泡5の形成状態を揃える必要がない。よって、光ファイバ1の製造が容易となる。
【0026】
コア2は石英から成り、コア2には屈折率を大きくするための添加物をコア2全体に所定量加えた。当該添加物としては石英に対して屈折率を上昇させる酸化ゲルマニウムを加えた。当該添加物は、Ti又はEr等の希土類元素であっても良い。
【0027】
コア2の外径は、所望の実効断面積(以下、Aeffとする。)、シングルモード伝送を可能にするカットオフ波長及びコア2の内部クラッド層3に対する非屈折率差(Δn)の組み合わせによって定められる。現在、最も使用されている光ファイバである1.3μm帯シングルモードファイバ(SMF)の波長1.3μmでのAeffは60μm程度である。しかし、伝送容量を増大させるのに伴い、信号光強度を大きくすると非線形効果現象により伝送損失が増大してしまう。この非線形効果現象を低減するためには、Aeffの増大が効果的である。そのため、Aeffは光ファイバ1の伝送損失をもたらす非線形効果現象の発生を抑制するために、コア2内を伝搬する伝搬光の波長におけるコア2のAeffが80μm以上であることが好ましい。
【0028】
また、カットオフ波長を1.3μm帯伝送の際に必要となる1.26μm以下にすることが困難であるという点を解決するために、コア2内を伝搬する伝搬光の波長におけるコア2のAeffは80μm〜200μmとすることがなお好ましい。本実施形態においては、Aeffを170μmとした。Aeff=170μmとするために、酸化ゲルマニウムをコア2全体に所定量加え、コア2と内部クラッド層3との比屈折率差をΔn=0.18%とし、またコア2の外径を15μmとした。この時、コア2内を伝搬する伝搬光の波長が1.55μmである場合における光ファイバ1のモードフィールド径(MFD)は15.3μmであった。
【0029】
また、気泡層4は、中心軸からコア2を伝搬する伝搬光の波長におけるモードフィールド径を直径とする円周内側領域に位置することが好ましい。つまり、本実施形態に係る光ファイバ1のコア2に波長1.55μmの伝搬光を伝搬させるとすると、気泡層4は、中心軸から15.3μmを直径とする円周内側領域に位置させると良い。こうすることにより、曲げ損失をより低減することが可能となり、高耐応力性を向上させることができる。
【0030】
次に、本実施形態に係る光ファイバ1の製造方法に関し、添付図に従って説明する。本実施形態に係る光ファイバ1は、光ファイバ1の任意の断面において外径が1μm以下の気泡5が少なくとも1つ存在し、気泡5の長さが100m以下である光ファイバ1の製造方法である。
【0031】
当該光ファイバ1の製造方法は、コア母材の外周に内部クラッド層母材を設ける製造工程と、前記内部クラッド層母材の外周に気泡層母材を設ける製造工程と、前記気泡層母材の外周に設けられる外部クラッド層母材によって、前記コア母材及び前記気泡層母材を一体に成型し、光ファイバ母材を製造する製造工程と、前記光ファイバ母材を線引きする線引き工程と、を有し、前記気泡層母材は、前記内部クラッド層母材と略同質の素材をHeガス及びNガスの混合ガス雰囲気中において加熱処理することにより、前記気泡層母材内に1.2mm以下のNガス気泡を生成させることにより製造されることを特徴とする光ファイバの製造方法である。
【0032】
以下に詳細を述べる。まず製造工程1について述べる。製造工程1は、コア2及び内部クラッド層3の一部に相当する層を備えたコアスート母材をVAD(Vapor phase Axial Deposition)法により製造する工程である。得られた前記コアスート母材の外径はφ80mmで、コア2の外径はφ40mmであった。また、前記コアスート母材10の長さは800mmであった。
【0033】
次に、製造工程2について述べる。製造工程2は、コアスート母材10に対してHeガス及びClガスを供給しながら加熱処理を行い、透明ガラス母材を作製する製造工程である。コアスート母材10を電気炉20を用いて、1600℃で加熱処理した。電気炉20は外気と遮断された石英マッフル21を備える。石英マッフル21には、Heガス、Clガス及びNガスが供給できる仕組みになっている。
【0034】
製造工程2における加熱処理は、石英マッフル21内にHeガス20リットル/分、Clガス0.5リットル/分を供給しながら行った。Heガスを供給しながら加熱処理を行う理由は、拡散係数が大きいというHeガスの性質により、前記コアスート母材を透明なガラスにしやすくするためである。また、同時にNガスを供給する理由としては、前記コアスート母材中に含有するOH基を除去し、前記コアスート母材から得られる光ファイバ1の伝送特性を向上するためである。このように製造工程2により製造された前記透明ガラス母材の寸法は、外径がφ40mm、コア2の外径がφ20mm、また長さは500mmであった。
【0035】
次に、製造工程3について説明する。製造工程3は前記透明ガラス母材を延伸してコア母材を製造する工程である。当該コア母材の寸法は、外径がφ30mm、長さは700mmであった。
【0036】
次に、製造工程4について説明する。製造工程4は、前記コア母材の外周にOVD(Outside Vapor Deposition)法により、内部クラッド層3の一部であり、気泡層4に相当する層を堆積させて外付けスート母材を製造する工程である。
【0037】
次に、製造工程5について説明する。製造工程5は、前記外付けスート母材に対してHeガス及びNガスを供給しながら加熱処理を行い、ガラス化母材を製造する工程である。前記外付けスート母材を、電気炉20を用いて、1600℃で加熱処理した。ここで、Heガス及びNガスを供給しながら加熱処理を行う理由について説明する。Nガスは拡散係数がHeに比べて小さい。そのため、前記ガラス化母材中に球状のNガス気泡が残留しやすい。その残留した前記Nガス気泡が線引き工程において、延伸されて直径1μm以下の独立した気泡5を形成し、その結果、気泡層4内において100m以下の気泡5を形成することが可能となる。
【0038】
しかし、Nガスのみを供給すると、残留する前記Nガス気泡の外径が大きくなりすぎてしまう。その結果として、線引きの際、任意の断面において外径1μm以上の気泡5の発生頻度が高くなり、所望の長さである100mを超える気泡5が発生してしまうからである。Heガス及びNガスの供給量の比は、He:N=(90%〜30%):(10%〜70%)であれば良く、この供給量の範囲であれば線引きした際における気泡5の長さが100mを超える気泡5はできない。本実施形態において供給量の比はHe:N=50%:50%とし、その供給量は10リットル/分づつとした。以上のようにして得られた前記ガラス化母材の外径はφ40mm、長さは700mmであった。
【0039】
次に製造工程6について説明する。製造工程6は、前記ガラス化母材を外径φ30mm、長さ1000mmに延伸し、その外周にOVD法により外部クラッド層6に相当する層を堆積して外付け母材を製造する工程である。この時、当該外付け母材の外径はφ200mmであった。
【0040】
次に製造工程7について説明する。製造工程7は、前記外付け母材を電気炉20よりも大型であるが性能等に関しては電気炉20と同様の電気炉で加熱処理することにより透明ガラス化を行い、透明全合成ガラス化母材を製造する工程である。製造工程7における加熱処理条件(透明ガラス化条件)は、処理温度を1600℃とし、炉内へのガス供給量はHeガス20リットル/分、Clガス0.5リットル/分とした。以上のように得られた前記透明全合成ガラス化母材の外径はφ120mmであり、長さは900mmであった。その後、前記透明全合成ガラス化母材を線引きし、外径φ125μm、長さ1000kmの光ファイバ1を製造した。
【0041】
以上の製造方法により製造された実際の光ファイバ1の断面について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の好適な実施形態に係る光ファイバ1の中心軸方向の断面写真である。実際に製造された光ファイバ1は、図4に示すように、コア2の外周上にはコア2を取り囲むように外径1μm以下の気泡5を含む層圧10μmの気泡層4が存在していた。
【0042】
また、光ファイバ1の切断部を水槽に浸し、毛細管現象によって切断面から気泡5内に侵入する水の侵入長を調べた。光ファイバ1のサンプル10本について測定したところ、最大侵入長は35〜57mであった。次に、光ファイバ1の光学的特性について述べる。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、コア2内を伝搬する伝搬光の波長が1.55μmにおけるモードフィールド径(MFD)は15.3μmと大きく、実効断面積は所望の範囲内にある170μm程度である。よって、光ファイバ1は非線形効果現象を低減することが可能である。また、伝送損失も小さく、長距離伝送を可能とする。また曲げ損失に関しても、実用上十分な程度に抑えることが出来ている。
【0045】
以上により、光ファイバ1は光信号の伝送特性を向上させ、且つ断線時における海水侵入箇所の交換コストの削減が可能な光ファイバ及びその製造方法の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1 光ファイバ
2 コア
3 内部クラッド層
4 気泡層
5 気泡
6 外部クラッド層
10 コアスート母材
20 電気炉
21 石英マッフル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸領域に設けられたコアと、
前記コアの外周に設けられ、前記コアよりも小さい屈折率を有する内部クラッド層と、
前記内部クラッド層の外周に設けられ、複数の長孔状の気泡を有する気泡層と、
前記内部クラッド層の外周に設けられ、前記コアと同等の若しくは前記コアより小さい屈折率を有する外部クラッド層と、
を有し、前記気泡の長さが200m以下であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記気泡の長さが10m〜200mであることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記気泡層は、前記気泡層の中心軸方向の任意の断面において、外径が1μm以下の前記気泡を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コア内を伝搬する伝搬光の波長における前記コアの実効断面積が80μm以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記実効断面積が80μm〜200μmであることを特徴とする請求項3記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記気孔層は、中心軸から前記コアを伝搬する伝搬光の波長におけるモードフィールド径を半径とする円周内側領域に位置することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の光ファイバ。
【請求項7】
コア母材の外周に内部クラッド層母材を設ける製造工程と、
前記内部クラッド層母材の外周に気泡層母材を設ける製造工程と、
前記気泡層母材の外周に設けられる外部クラッド層母材によって、前記コア母材及び前記気泡層母材を一体に成型し、光ファイバ母材を製造する製造工程と、
前記光ファイバ母材を線引きする線引き工程と、を有し、
前記気泡層母材は、前記内部クラッド層母材と略同質の素材をHeガス及びNガスの混合ガス雰囲気中において加熱処理することにより、前記気泡層母材内に1.2mm以下のNガス気泡を生成させることにより製造されることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項8】
前記気泡層母材は、Heガス及びNガスの混合比He:N=(90%〜30%):(10%〜70%)の混合ガス雰囲気中において加熱処理することにより製造されることを特徴とする請求項7記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−95532(P2011−95532A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250018(P2009−250018)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】