説明

光ファイバ心線

【課題】離型着色層から最外被覆層を容易に取り除くことができる除去性と、突き出し量の増加を抑制できる程度の2層間の密着性とを、バランスよく備えた光ファイバ心線を提供する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ心線は、光ファイバ裸線11と前記光ファイバ裸線の外周面に配される内側被覆層12とからなる光ファイバ素線13、及び、前記光ファイバ素線の外周面に積層して配される離型着色層14と最外被覆層15、から構成される光ファイバ心線10であって、前記離型着色層に対する前記最外被覆層の密着力が、2.0〜4.5[N]の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線に係り、より詳細には、光ファイバ素線の口出し作業が容易であり、かつ、この口出しにより得られた光ファイバ素線の突き出し量の増加を抑制できる光ファイバ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、架空光ケーブルと宅内引き込み光ケーブルとの間で使用される光ファイバ心線として、従来のφ0.25mmより太いφ0.50mmの構造が提案されている。その目的は、光ファイバ心線の視認性や取扱い性の向上を図り、工場以外の接続現場である光開通工事において、光ファイバ素線の口出し作業の簡易性を改善することにある。
【0003】
このような光ファイバ素線の口出し作業の簡易性を確保するため、図1に示す構造の光ファイバ心線が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この構造からなる光ファイバ素線は、離型着色層の存在により、光ファイバ心線の視認性や取扱い性の向上が図れるとともに、最外被覆層を離型着色層から容易に除去しやすくなり、光ファイバ素線の口出し作業を確実に行うことができる。ゆえに、光ファイバ素線の外側面に離型着色層を介して最外被覆層を設けてなる構造の光ファイバ素線は、最外被覆層を除去することにより、光ファイバ素線の太さを例えば0.50mmから0.25mmに変換する作業性(以下、変換特性と呼ぶ)に優れている。
【0004】
しかしながら、上記構造を採用した光ファイバ素線には、次に述べるような課題があることを本発明者は見出した。
【0005】
第一の課題は、上記構造による変換特性は、およそ10〜30℃の環境下において有効性が確保される点である。例えば氷点下となる寒冷地屋外などにおける工事を想定した場合、離型着色層へのシリコーン離型材の含有量を規定するだけでは、最外被覆層の容易な除去性を常に確保することは難しい。
【0006】
第二の課題は、変換特性の改善を優先させるあまり、離型着色層と最外被覆層との間の密着性が疎かになる。一方、最外被覆層は長期的に収縮する傾向にあり、離型着色層と最外被覆層との密着性が確保されていないと、離型着色層以下の光ファイバ心線が末端から突き出す現象がある。この突き出し量が1mmを越えるような場合には、メカニカルスプライス接続をした端末加工部あるいはその近傍において、光ファイバ心線に曲部が発生しやすくなり、ひいては接続損失の増加をまねく原因となる。
【0007】
そこで、離型着色層からの最外被覆層の除去性を備えつつ、離型着色層と最外被覆層との間の密着性も確保できる光ファイバ心線の開発が期待されていた。
【特許文献1】特開平10−115737号公報
【特許文献2】特開2002−182080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、離型着色層から最外被覆層を容易に取り除くことができる除去性と、突き出し量の増加を抑制できる程度の2層間の密着性とを、バランスよく備えた光ファイバ心線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る光ファイバ心線は、光ファイバ裸線と前記光ファイバ裸線の外周面に配される内側被覆層とからなる光ファイバ素線、及び、前記光ファイバ素線の外周面に積層して配される離型着色層と最外被覆層、から構成される光ファイバ心線であって、前記離型着色層に対する前記最外被覆層の密着力が、2.0〜4.5[N]の範囲であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係る光ファイバ心線は、請求項1において、前記最外被覆層の弾性率が、50〜250[MPa]の範囲であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係る光ファイバ心線は、請求項1において、前記離型着色層に占めうる離型材の含有量が、5〜10[重量%]の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光ファイバ心線は、光ファイバ裸線と前記光ファイバ裸線の外周面に配される内側被覆層とからなる光ファイバ素線、及び、前記光ファイバ素線の外周面に積層して配される離型着色層と最外被覆層、から構成されており、前記離型着色層に対する前記最外被覆層の密着力を2.0〜4.5[N]の範囲とすることにより、離型着色層から最外被覆層を容易に取り除くことができる除去性と、突き出し量の増加を抑制できる程度の2層(離型着色層、最外被覆層)間の密着性とを、バランスよく備えることができる。
【0013】
したがって、本発明は、光開通工事における光ファイバ素線の口出し作業を簡易に行うことが可能であり、かつ、突き出し量の増加に起因する接続損失の増大を回避することもでき、ひいては光信号伝送の長期信頼性に優れた、光ファイバ心線の提供に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下では、本発明に係る光ファイバ心線の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る光ファイバ心線の一例を示す模式的な断面図である。図1の光ファイバ心線10は、光ファイバ裸線11と前記光ファイバ裸線11の外周面に配される内側被覆層12とからなる光ファイバ素線13、及び、前記光ファイバ素線13の外周面に積層して配される離型着色層14と最外被覆層15、から構成されている。
【0016】
光ファイバ素線13としては、例えば、径125μmの光ファイバ裸線11の外側面に変性シリコーン樹脂からなる内側被覆層12を配して、径を0.4mmとしたシリコーン樹脂被覆光ファイバ素線、あるいは径125μmの光ファイバ裸線11の外側面に紫外線硬化型樹脂からなる内側被覆層11bを配して、径を0.25mmとした紫外線硬化型被覆光ファイバ素線が挙げられる。
【0017】
光ファイバ素線13を構成する内側被覆層11bの外側面には、まず離型着色層14が設けられている。この離型着色層14は、シリコーン系離型材などの離型材を5〜10重量%の範囲で添加し、さらに種々の着色料を添加した紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂からなるインクを塗布し、硬化したものである。離型着色層14に占める離型材の含有量が、5重量%未満では添加効果が得られず、10重量%を越えると過剰となり、離型着色層14自体の光ファイバ素線13への密着力および光ファイバ素線13と最外被覆層15との密着力が低下する。
【0018】
この離型着色層14の外側面にはさらに最外被覆層15が配されて、本実施態様の光ファイバ心線10となっている。この最外被覆層15は、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂や、可塑化ポリ塩化ビニル、ナイロン11、ナイロン12、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、を押出被覆法によって離型着色層14の外側面上に被覆したものである。なお、最外被覆層15自体に離型性を付与するため、必要に応じて上記樹脂にシリコーン離型材を含有させてもよい。この最外被覆層15の厚さは、光ファイバ素線13の径および光ファイバ心線10の径によって異なるが、通常は仕上外径が0.5mmあるいは0.9mmとなるように定められている。
【0019】
この最外被覆層15の弾性率は、離型着色層14に対する最外被覆層15の密着力に大きな影響を及ぼす。最外被覆層15の弾性率を増加させると、変換成功率が増減する傾向を示し、最外被覆層15の弾性率を50〜250[MPa]の範囲としたとき、99%を越える変換成功率が得られるので好ましい。
【0020】
このような構成の光ファイバ心線10にあっては、光ファイバ素線13と最外被覆層15との間に離型着色層14が設けられているので、上述したように離型着色層14に占める離型材の含有量により、離型着色層14と最外被覆層15との間の密着力を自由に設計、制御することが可能となる。離型着色層14に対する最外被覆層15の密着力としては、2.0〜4.5[N]が好適な範囲である。
【0021】
密着力が2.0[N]より小さい場合には、光ファイバ心線に対してヒートサイクル試験を行った後(後述する評価条件4を参照)の突き出し量が1mmを越えてしまう。一方、密着力が4.0[N]より大きい場合には、光ファイバ心線を低温放置した後(後述する評価条件2を参照)の変換成功率が99%を下回ってしまう。ゆえに、離型着色層14に対する最外被覆層15の密着力は、2.0〜4.5[N]の範囲が好ましい。
【0022】
なお、本明細書においては、以下に説明する条件1〜4を施した後、密着力、変換成功率、および突き出し量の各評価を行った。
条件1(エージングレス常温条件)は、エージング処理が施されていない光ファイバ心線を用い、23℃の常温環境下にて行う試験条件であり、密着力の評価に適用した。
条件2(エージングレス低温条件)は、エージング処理が施されていない光ファイバ心線を用い、−20℃の低温環境下にて行う試験条件であり、密着力および変換成功率の評価に適用した。
条件3(エージング後常温条件)は、85℃の高温環境下に1ヶ月間放置(エージング)した光ファイバ心線を用い、23℃の常温環境下にて行う試験条件であり、密着力の評価に適用した。
条件4(ヒートサイクル後常温条件)は、エージング処理が施されていない光ファイバ心線を用い、−40〜85℃のヒートサイクル(1サイクル/日)環境下に1ヶ月間放置(エージング)した光ファイバ心線を用い、23℃の常温環境下にて行う試験条件であり、突き出し量の評価に適用した。
【0023】
以下では、最外被覆層15として、シリコーン離型材を2[重量%]以上添加した紫外線硬化型樹脂を適用した例について詳細に述べる。ここでは、光ファイバ心線の外径は0.50±0.05[mm]、光ファイバ素線の外径は0.25[mm]、心線の偏心量が25[μm]としたものを用いた。
【0024】
<離型着色層に占める離型材の含有量>
離型着色層に占める離型材の含有量を1〜15[重量%]の範囲で変えて、他の構成は同一とした光ファイバ心線(実験例A1〜A7)を作製した。その際、離型着色層に含有させる離型材としては反応性シリコーンを用い、これを所望の含有量となるようにエポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂に添加して離型着色層を形成した。
【0025】
これらの光ファイバ心線に対して、上述した条件1〜3をそれぞれ施した後、離型着色層に対する最外被覆層の密着力を評価した。また、条件2を施した後、変換成功率を調べた。さらに、条件4を施した後、突き出し量を測定した。表1に、これらの結果を纏めて示した。
【0026】
ここで、離型着色層に対する最外被覆層の密着力とは、0.5mmから0.25mmに変換(最外被覆層の剥離処理を指す)できる汎用除去工具マイクロストリップ(Micro Electronics 社製、型番:MS1-16S-021-FS)を引張試験機に固定し、50mm長を引張速度500mm/minで除去したときの最大降伏点を意味する。
【0027】
変換成功率とは、上記の汎用除去工具マイクロストリップを用い、1600個の試料について最外被覆層の除去処理を施し、これにより着色層の破壊、ガラスの露出、あるいは断線状態が生じたものを変換が失敗したと定義し、それ以外の外傷がない状態にあるものを変換が成功したと定義し、成功した試料数を総数(1600)で除し、百分率で表示した数値である。量産性を考慮すると、変換成功率は99%以上が好ましい。
【0028】
突き出し量は、試料の両端部からの光ファイバ心線の突き出し量である。メカニカルプライスの設計上、この突き出し量が1mmを越えると光ファイバ心線に曲げが発生し、マイクロベンドによるロス(損失)や、接続調芯ズレによる接続ロス(損失)が増える傾向にある。よって、突き出し量は1mm以下に抑えることが望ましい。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、以下の点が明らかとなった。
(1a)離型材の含有量の増加に伴い、離型着色層−最外被覆層間の密着力[N]は、いずれの放置条件においても減少する傾向を示す。
(1b)離型材の含有量が多いほど、変換成功率は高くなる。特に、5重量%以上のとき99%以上の変換成功率が安定して得られる。
(1c)離型材の含有量の増加に伴い、突き出し量は増加傾向を示し、15重量%では1.8mmとなってしまう。突き出し量を1mm以下に抑えるためには、10重量%以下とする必要がある。
以上より、離型着色層に占める離型材の含有量を5〜10[重量%]の範囲とすれば、量産面から良好な99%以上の変換成功率とともに、突き出し量を光ファイバ心線に曲げが発生しない1mm以下に抑制できる、光ファイバ心線が得られることが分かった。
【0031】
<最外被覆層の弾性率>
最外被覆層の弾性率を20〜700[MPa]の範囲で変えて、他の構成は同一とした光ファイバ心線(実験例B1〜B10)を作製した。その際、最外被覆層に含有させる離型材としては非反応性シリコーンを用い、これをウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂に添加して最外被覆層を形成した。また、最外被覆層に占める離型材の含有量は2[重量%]に固定した。
【0032】
これらの光ファイバ心線に対して、上述した条件1〜3をそれぞれ施した後、離型着色層に対する最外被覆層の密着力を評価した。また、条件2を施した後、変換成功率を調べた。表2に、これらの結果を纏めて示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、以下の点が明らかとなった。
(2a)最外被覆層の弾性率の増加に伴い、離型着色層−最外被覆層間の密着力[N]は、いずれの放置条件においても増加する傾向を示す。
(2b)最外被覆層の弾性率が100〜250[MPa]の特定範囲においてのみ、99%以上の変換成功率が安定して得られる。
(2c)最外被覆層の弾性率が100[MPa]より低い場合には変換成功率は減少傾向を示す。また、最外被覆層の弾性率が250[MPa]を越えた場合にも変換成功率は減少傾向となり、特に580[MPa]以上では変換成功率がゼロとなってしまう。
以上より、最外被覆層の弾性率を100〜250[MPa]の範囲とすれば、量産面から良好な99%以上の変換成功率を備えた、光ファイバ心線が得られることが分かった。
【0035】
<離型着色層−最外被覆層間の密着力>
離型着色層−最外被覆層間の密着力を1.7〜4.5[N](すなわち、0.07〜0.19[N/mm])の範囲で変えて、他の構成は同一とした光ファイバ心線(実験例3、9〜14)を作製した。このように、離型着色層−最外被覆層間の密着力を狭い範囲で変更するために、最外被覆層を形成する際の製造線速、紫外線の照射量や照射方法を微調整した。その際、最外被覆層に含有させる離型材としては非反応性シリコーンを用い、これをウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂に添加して最外被覆層を形成した。また、離型着色層に占める離型材の含有量は10[重量%]に固定した。
【0036】
これらの光ファイバ心線に対して、上述した条件1を施した後、離型着色層に対する最外被覆層の密着力を評価した。また、条件2を施した後、変換成功率を調べた。さらに、条件4を施した後、突き出し量を測定した。表3に、これらの結果を纏めて示した。なお、変換成功率の判定欄に示した記号は、○印が99%以上の場合を、×印が99%より低い場合をそれぞれ表す。また、突き出し量の判定欄に示した記号は、○印が1mm以下の場合を、×印が1mmより長い場合をそれぞれ表す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3より、以下の点が明らかとなった。
(3a)離型着色層−最外被覆層間の密着力の増加に伴い、変換成功率は減少傾向を示す。密着力が1.7〜4.5[N]の範囲において99%以上の変換成功率が得られるのに対して、密着力が4.7[N]の場合には変換成功率が88.1となり、99%を大幅に下回ってしまう。
(3b)離型着色層−最外被覆層間の密着力が1.7[N]の場合は、突き出し量が1.7[mm]となり1[mm」を遙かに越えてしまう。密着力が2.0〜5.0[N]の範囲では、突き出し量を1mm以下に抑えることができる。
以上より、離型着色層−最外被覆層間の密着力を2.0〜4.0[N]の範囲とすれば、量産面から良好な99%以上の変換成功率とともに、突き出し量を光ファイバ心線に曲げが発生しない1mm以下に抑制できる、光ファイバ心線が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る光ファイバ心線は、その効用が離型着色層に対する最外被覆層の密着力を調整し、最外被覆層の除去と突き出し量の抑制とを制御する点にあることを考慮すると、その外径に依存することなく、0.5mm以外の光ファイバ心線においても広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る光ファイバ心線の一例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 光ファイバ心線、11 光ファイバ裸線、11a コア、11b クラッド、12 内側被覆層、13 光ファイバ素線、14 離型着色層、15 最外被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線と前記光ファイバ裸線の外周面に配される内側被覆層とからなる光ファイバ素線、及び、前記光ファイバ素線の外周面に積層して配される離型着色層と最外被覆層、から構成される光ファイバ心線であって、
前記離型着色層に対する前記最外被覆層の密着力が、2.0〜4.5[N]の範囲であることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記最外被覆層の弾性率が、50〜250[MPa]の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
前記離型着色層に占める離型材の含有量が、5〜10[重量%]の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−114490(P2007−114490A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305890(P2005−305890)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(399040405)東日本電信電話株式会社 (286)
【Fターム(参考)】