説明

光ファイバ沈下計

【課題】磁石の位置、すなわち、埋め立て地盤の地層の位置を検知する。
【解決手段】埋め立て地層に磁石12を埋め込み、その磁場の位置を検知することで、地層の沈下を検知する地盤沈下計において、磁場の位置を検知する手段として、光ファイバ11中を伝搬する光に対する磁場の偏光回転の効果(ファラデー効果)を利用し、かつ、OTDRの技術に偏光感知能力をもたせたPOTDR13により、偏光が回転した位置を、すなわち埋め立て地盤の地層の位置を正確に検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め立て地盤などの沈下を計測する沈下計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化テルビウムなどを含むガラスは、磁界の中で光の偏光面を回転させる(ファラデー効果)ことができることが知られている。この材料によりファイバを作成し、偏光感知型光学的時間ドメイン反射計(POTDR)による計測に適用すると、光ファイバの途中に磁場があると、その磁場の位置を偏光の回転情報から同定することができる。
【0003】
そこで、この原理を応用し、全自動の高性能地盤沈下計を発明した。この発明は、空港など埋め立てにより造成された土地は工事中もさることながら、工事終了後も沈下が続いており、特に空港などでは広い平面を維持するために精密な計測が長期間実施されるが、地盤沈下の状況の計測は自動化されていないため、多くの人手を要する他、連続的な計測が困難となっていることに鑑みてなされたものである。
【0004】
昨今、光ファイバを応用した計測が盛んとなり、引っ張り力に感度を有する光ファイバブラッググレーティング(FBG)やブリリアン散乱(BOTDR)を利用した計測技術を応用しようとする試みがなされているが、土中に光ファイバを埋設する場合、地下で破断する可能性があり、このような場合、運用中の滑走路の使用を停止して掘り返して修復することは許されないことを考えれば、この方法は沈下計のセンサ技術として使うには難がある。また、既に空港滑走路には現有の沈下計が埋設されており、これらを撤去して新しい技術を導入することも煩わしいという問題がある。そこで、過去の技術資産を引き継ぎ、かつ、未来においても適用可能な新技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特許第3702461号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】 http://books.google.com/books?id=BODqielg8VkC&pg=PT304&lpg=PT304&dq=%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%A9%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9&source=bl&ots=XqH7−9KKXf&sig=PBmOcX81vJQqX1UmNb407oNpxxU&hl=ja&ei=VHLIStW−Ds2jkAWNOpGeAQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=OCBIQ6AEwBDgU# http://www.newglass.jp/nglass/ng18.html http://www.kowa−net.co.jp/kowaHPnew/pdf/chinka.pdf http://keytech.ntt−at.co.jp/optic1/prd_1025.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、光ファイバをセンサとして利用する地盤沈下計において、光ファイバが地下で破断する可能性がないこと、また、万が一にも破断する事故があっても容易に修復することができること。さらに、現有の沈下計を撤去せずに連続して今後も利用可能とすることである。しかも、測定を自動化して、常時監視可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、現有の層別沈下計が磁場を利用した計測方法を採っていることに鑑み、従来の電気的な磁気センサに代えて、光ファイバにより磁場を検知する方法とすることで、これらの課題を解決しようとするものである。つまり、現有の層別沈下計測においては、埋め立ての地層毎に磁石を埋設し、その磁場の位置を計測して地層ごとの地盤沈下を計測している。このとき磁石は、土中に縦に設置された細い円筒の外側に配置されており、円筒の内部は空洞になっていることから、この空洞を利用して上述の磁場センサ光ファイバを設置する。
【発明の効果】
【0009】
このことで多くの利点が生まれる。1つは、土中に光ファイバを埋設するのではなく、空洞を利用して光ファイバを設置するので、光ファイバに過大な張力が付与される危惧がないので、破断する可能性がないこと、また、もし万が一不測の事態で破断しても、空洞にある光ファイバを交換修復することは容易である。このことで、将来長期にわたる保守を保証することができる。
【0010】
さらに、現有の沈下計設備を踏襲して利用することができるので、撤去する必要がないこと。また、過去のデータも連続的に利用でき、しかも、未来のデーターとの連続性も保証できる。さらに、光ファイバを延長すれば、遠隔から自動計測することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は光ファイバにより磁場を検知する原理を示した説明図である。
【図2】図2は光ファイバ方式地盤沈下計測の実施方法を示した説明図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0012】
光は外部の磁場により偏光角が回転することは、ファラデー効果として知られており、これを実現するものがファラデー素子である。そこで、図1に示すように、ファラデー素子に使われると同等の磁場感度を持ったガラスにより作成した光ファイバ1をリング形状の磁石2の中央を貫通することで、磁場3の中を光が通ることとなり、当初垂直方向に設定した入射光4は、磁石の位置で偏光角が回転し、回転したままの出射光5が得られる。この回転偏光を検光子6を通すことで、回転する前の光振幅のコサイン成分となり、これを光パワーメータ7で計量すれば、磁石の設置の前後を比較することで、偏光が回転した事実が検知できる。
【0013】
本発明では偏光が回転した位置を検知することで、各地層ごとの沈化を測定する。この原理を図2を用いて説明すると、光パルス発生器10より、一定の偏光角の光パルス8を発射し、光ファイバ中のあらゆる地点で発生するレーリー散乱光の後方散乱成分9の偏光回転の有無を図1で説明した原理により計測するものである。光パルスが発射されてから、散乱光が検出されるまでの時間遅れは光が散乱ポイントまでの距離(L)を往復する時間であり、光速が既知であるので、Lが計算できる。
【0014】
このとき、散乱光が元の偏光角と同等であれば、偏光が回転していないこと、すなわち磁場を通っていないことを意味する。もし、光が磁石を通過すると偏光の回転が起こるので、それ以後で発生する散乱光の偏光角は回転したものとなる。つまり、観測点Lの位置を走査して行くと、磁石が存在する位置で散乱光の偏光角の急変が観測されることとなるから、そのLの位置が磁石の位置であり、すなわち、埋め立て地層の位置である。
ここに、図2において破線で囲った部分を以下では、偏光感知型光ドメイン反射計(POTDR)と呼ぶ。
【0015】
磁石が埋設されていない場合であっても、ボーリングにより、磁石を埋め込み地層に固定すれば同様の測定が可能である。
【実施例1】
【0016】
図3は、本発明装置の実施例であって、図1、図2と同様光ファイバ11がリング型磁石12を貫通している。該磁石は埋め立て工事の進捗とともに、各地層ごとに設置埋設され、地層の位置を表している。本装置では上述の偏光感知型光ドメイン反射計(POTDR)13を用いて偏光が回転した位置を検知することで、各地層ごとの沈化を測定する原理を達成する。
【0017】
ちなみに、深い位置からの散乱光ほど多くの磁場を往復通過しているので、偏光の回転角が積算され、検出される光パワーは減衰している可能性があっても、光パワーの変化は大きくなり、SN比の低下が抑制される。
【実施例2】
【0018】
図4は地面にボーリングにより孔けた穴にリング型磁石を設置する方法を図示したものである。図のように、バルーンにより連結した磁石をボーリング孔に押し込むというものである。バルーンはリング磁石の外径と同じ程度に高圧空気もしくは水圧を加えて膨らませたものである。押し込んだ後磁石を18の方向に回転させて装着されている爪を地盤に喰い込ませて磁石を地盤に設置固定することができる。
【0019】
その後、高圧空気、水圧を開放してバルーンを縮小させてからバルーンを抜き取り、次に、光ファイバを挿入するための塩化ビニール管などのプラスチック管を磁石を貫通するように差し込み、その内部に光ファイバを挿入して完成する。19は固定した磁石を解除する回転方向であるが、押し込むときは、この方向に捻りながら行う。
【0020】
埋め立て地盤の各層に埋設された磁石によってこれらの情報が光ファイバにより検知することができるので、これをPOTDR13に接続されたコンピュータ14により自動計測システムが実現できる。また、すでに5mmの距離分解を持ったPOTDRが市販されており、これを用いることで、本発明は実現できる。また、可動部分は一切なく、さらに、計測に関わり消耗されるものはなく、また、人的経費も必要ない。測定は完全に受動的に行われ、長期的に安定な計測が可能である。
【0021】
一般に磁場の強さと偏光の回転角(旋光角)の関係は分かっており、表1において、材料との関係を例示する。
【0022】
【表1】

【0023】
上記の表に示した物質では光ファイバを作成することは困難であるが、最近の酸化テルビウム(Tb)などの新材料によるファラデーガラス(http://www.newglass.jp/nglass/ng18.html参照)の出現により可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
空港など埋め立てで造成した土地は地盤沈下監視のための計測が欠かせない。特に空港はその計測のために滑走路を一時閉鎖することも許されない。そこで、長期に安定でしかも自動で動作する計測装置が必要である。
【符号の説明】
【0025】
1 磁場感知光ファイバ
2 磁石
3 磁場
4 入射偏光
5 偏光回転出射光
6 検光子
7 光パワーメーター
8 入射光パルス
9 後方散乱(レーリ散乱)光成分
10 光パルス発生器
11 磁場感知光ファイバ
12 リング型磁石
13 偏光感知光ドメイン反射計(POTDR)
14 コンピューター
15 ボーリング孔
16 バルーン
17 磁石に装着されている爪
18 磁石を固定する回転方向
19 磁石の固定を解除する回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め立て地の沈下を測定する層別沈下計においては、堆積層ごとに永久磁石を設置埋設し、計測に当たっては、磁場センサを地中に挿入して堆積地盤の沈下量を評価しているが、磁石の位置を検知するにあたり、該磁石の磁場中を光ファイバを通すことによって光の偏波が回転するファラデー効果を利用して計測することを特徴とする層別沈下計。
【請求項2】
上記請求項1における、光ファイバ中で発生したファラデー効果による偏光回転を偏光感知型光ドメイン反射計(POTDR)を用いて磁場の位置、すなわち、埋め立て地盤地層の位置を計測することを特徴とする層別沈下計。
【請求項3】
上記請求項1における磁石の埋設にあたり、埋め立て後、ボーリングにより地層を貫く空洞を孔け、磁石を挿入固定することで、事後であっても、磁場検知による沈下計測を可能ならしめることを特徴とする沈下計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−102786(P2011−102786A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273934(P2009−273934)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(500487550)株式会社アドヴァンストテクノロジ (8)
【出願人】(594066017)
【Fターム(参考)】