説明

光ファイバ素線

【課題】
ボビン巻き時の作業性が良好で、低温下の長期間使用に対しても、被覆層内における結晶析出による伝送損失増加を生じない光ファイバ素線を提供する。
【解決手段】
少なくとも2層からなる被覆層を有し、前記被覆層のうち少なくとも一つが直鎖型ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含む紫外線硬化樹脂からなる被覆であり、前記被覆層のいずれにおいても前記直鎖型ポリオキシアルキレン構造が、前記ポリエーテルポリウレタン分子中の50重量%以下であり、前記ポリエーテルポリウレタンが、直鎖型ポリエーテルジオール、ジイソシアネート、及びエチレン性不飽和基含有化合物のみを反応させて製造されており、前記直鎖型ポリエーテルジオールがポリテトラメチレングリコールであることを特徴とする光ファイバ素線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信等に使用される光ファイバ素線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、ケーブルとして光通信等に使用されるため、様々な温度、湿度等の外的環境における長期間の使用に対して、安定した伝送特性を保つことが必要とされる。
【0003】
一般に光ファイバ素線は、石英系ガラス光ファイバに紫外線硬化樹脂を被覆してなっており、このような樹脂被覆層は、外力に対して光ファイバを保護し、伝送損失の増加を防ぐために、通常は軟質な一次被覆層(内層、バッファ層)と硬質の二次被覆層(外層、保護層)の2層で構成される。
【0004】
このような紫外線硬化樹脂としては、例えば特公平7−113104号公報に開示されているように、従来ポリテトラメチレングリコール(PTMG)のような直鎖型ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含有するものが用いられてきた。しかしながら、直鎖型ポリオキシアルキレンは10℃以下という低温で結晶化(シーディング)を起こしやすいため、従来の紫外線硬化樹脂は、樹脂液を長期保管すると結晶が析出し、使用できなくなることがあった。また、従来の紫外線硬化樹脂を用いて光ファイバ素線を製造した場合、その光ファイバ素線を低温で長期間放置すると被覆内で結晶が析出してしまい、発生した析出物が光ファイバに歪みを与えて光ファイバの伝送損失が増加することがあった。
【0005】
この問題の解決のため、例えば特開2002−220261号公報にて、結晶性の高いポリテトラメチレングリコール(PTMG)のような直鎖型ポリオキシアルキレン構造の代わりに、アルキル基を側鎖として有しポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含有する紫外線硬化樹脂からなる樹脂被覆層を備えることを特徴とする光ファイバ素線が提案されている。
【0006】
このようなポリエーテルポリウレタンは、側鎖の存在が物理的な障害となってポリエーテルポリウレタンの凝集及び結晶化を防止する。しかし、このような非晶性のポリエーテルポリウレタン系紫外線硬化型樹脂を外層に用いた場合、表面摩擦係数が大きく増加し、ボビン巻き時のOTDR段差ロスの発生が著しく増加し、作業性を損なう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−113104号
【特許文献2】特開2002−220261号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ボビン巻き時の作業性が良好で、低温下の長期間使用に対しても、被覆層内における結晶析出による伝送損失の増加を生じない光ファイバ素線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、光ファイバ素線の被覆中に含有される紫外線硬化樹脂を構成するポリエーテルポリウレタン分子中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の分子全体に対する重量%を一定以下とすることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の光ファイバ素線の第1の態様は、少なくとも2層からなる被覆層を有し、前記被覆層のうち少なくとも一つが直鎖型ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含む紫外線硬化樹脂からなる被覆であり、前記被覆層のいずれにおいても前記直鎖型ポリオキシアルキレン構造が、前記ポリエーテルポリウレタン分子中の50重量%以下であり、前記ポリエーテルポリウレタンが、直鎖型ポリエーテルジオール、ジイソシアネート、及びエチレン性不飽和基含有化合物のみを反応させて製造されており、前記直鎖型ポリエーテルジオールがポリテトラメチレングリコールであることを特徴とする光ファイバ素線である。
【0011】
本発明の光ファイバ素線の第2の態様は、前記紫外線硬化樹脂が、反応性希釈モノマーおよび光重合開始剤を更に含有していることを特徴とする光ファイバ素線である。
【0012】
本発明の光ファイバ素線のその他の態様においては、光ファイバを被覆する一次被覆層と、一次被覆層を被覆する二次被覆層とを備えていることが好ましく、このような一次被覆層及び二次被覆層の双方が前記本発明に係る紫外線硬化樹脂からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ファイバ素線によれば、低温で長期間放置しても被覆層における結晶の析出が十分に防止され、これにより、発生した析出物が被覆中の異物となって光ファイバに歪みを与えることによる伝送損失の増加を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光ファイバ素線について詳細に説明する。
【0015】
本発明の光ファイバ素線の被覆を構成する紫外線硬化樹脂に含まれる直鎖型ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンは A:直鎖型ポリエーテルジオールとB:ジイソシアネートとC:エチレン性不飽和基含有化合物を反応させる方法で製造される。
【0016】
A,B,Cの配合割合は、例えば基本的な配合の場合には
当量比(反応基の数の比)で
A(水酸基):B(イソシアネート基):C(水酸基など)=1:2:1となる。
一方、ポリエーテルポリウレタン分子中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の重量%は以下の式で求められる。
直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子に対する重量%
=Aの重量/(A+B+Cの重量)×100
上記配合割合の場合、重量比は Aの分子量:Bの分子量×2:Cの分子量×2となるので、
直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子に対する重量%
=Aの分子量/(Aの分子量+Bの分子量×2+Cの分子量×2)
但し、当量比は種々の割合をとり得るのでこの限りではない。
【0017】
上記式より、直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子に対する重量%を50重量%以下とするには、下記の方法が挙げられる。但し、これら方法に限定されない。
・分子量が小さい直鎖型ポリエーテルジオールを使用する。具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)としては分子量が4000、2000、1000等のものがあるが、分子量が比較的小さい1000以下のものを使用することが好ましい。その他の直鎖型ポリエーテルジオールにおいても、分子量が1000以下のものを使用することが好ましい。
・分子量の大きなジイソシアネート又は及びエチレン性不飽和基含有化合物を使用する。具体的には、分子量250以上のジイソシアネートを用いることが好ましく、分子量250以上のエチレン性不飽和基含有化合物を用いることが好ましい。
・ポリエーテルポリウレタン分子中の直鎖型ポリエーテルジオール成分の割合を低減させる。具体的には、直鎖型ポリエーテルジオールを、ジイソシアネートを介して結合させた構造を骨格成分とする。
【0018】
上記製法で用いられる直鎖型ポリエーテルジオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリデカメチレングリコール等が挙げられ、これらは1種用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、分子量は重合度によって決まり、種々の分子量をとり得る。直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子中の重量%を小さくするには、分子量が小さい直鎖型ポリエーテルジオールを使用することが好ましく、例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)としては分子量が4000、2000、1000等のものがあるが、分子量が比較的小さい1000以下のものを使用することが好ましい。その他の直鎖型ポリエーテルジオールにおいても、分子量が1000以下のものを使用することが好ましい。
【0019】
上記製法で用いられるジイソシアネートとしては、例えば2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フエニレンジイソシアネート、p−フエニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチルフエニレンジイソシアネート、4,4′−ビフエニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフオロンジイソシアネート、水添ジフエニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジクロロビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジイソシアネート−3,3′−ジメチルフエニルメタン等が挙げられる。これらは1種用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子中の重量%を小さくするには、分子量の大きいジイソシアネートを用いることが好ましく、より好ましくは分子量250以上のジイソシアネートを用いることが好ましい。たとえば、3,3′−ジクロロビフェニル−4,4′−ジイソシアネート(分子量:305)、3,3′−ジメチル−4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート(分子量:278)、4,4′−ジイソシアネート−3,3′−ジメチルフエニルメタン(分子量:278)を用いることが好ましい。
【0021】
上記製法で用いられるエチレン性不飽和基含有化合物としては、例えば水酸基、アミノ基、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、エポキシ基等を有する、ビニル系、(メタ)アクリル系、(メタ)アクリルアミド系、ビニルエーテル系、ビニルスルフイド系等のエチレン性不飽和基含有化合物を挙げることができる。
【0022】
具体的には、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、カプロラクトンアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート等が挙げられる。これらは1種用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
直鎖型ポリオキシアルキレン構造のポリエーテルポリウレタン分子中の重量%を小さくするには、分子量の大きいエチレン性不飽和基含有化合物を用いることが好ましく、より好ましくは、分子量250以上のエチレン性不飽和基含有化合物を用いることが好ましい。たとえば、カプロラクトンアクリレート(分子量:344)、ポリプロピレングリコールアクリレート(分子量約450:日本油脂製ブレンマーAP400、分子量約610:日本油脂製ブレンマーAP550、分子量約830:日本油脂製ブレンマーAP800)を用いることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る紫外線硬化樹脂は、通常、上記ポリエーテルポリウレタンに加えて更に反応性希釈モノマー及び光重合開始剤を含有している。
【0025】
このような反応性希釈モノマーとしては、一官能モノマー及び多官能モノマーがあり、中でも一官能ビニルモノマー及び多官能ビニルモノマーが好ましい。このような一官能ビニルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フエノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートが挙げられ、また、多官能ビニルモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、ビスフエノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフエニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フエニルアセトフエノン、アセトフエノン、ベンゾフエノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフエニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフエノン、4−クロロベンゾフエノン、4,4′−ジメトキシベンゾフエノン、4,4′−ジアミノベンゾフエノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフエニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フエニルプロパン−1−オン、チオキサントン系化合物、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フエニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフエニルフオスフインオキサイド等が挙げられる。これらは1種用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
更に上記以外の各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、保存安定剤、可そ剤、滑剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を必要に応じて配合することも可能である。
【0028】
被覆層の直鎖型ポリオキシアルキレン構造をポリエーテルポリウレタン分子中の50重量%以下とすると結晶が析出しない理由は以下のように考えられる。結晶析出は結晶性構造の部分が規則的に並ぶことで起こる。一方、非結晶性の部分は結晶化を阻害する要因となる。したがって、ポリエーテルポリウレタン分子中の結晶性構造の部分である直鎖型ポリオキシアルキレン構造の重量%が下がれば、相対的に非結晶性の部分の構成比が増加して、より結晶化を阻害することによると考えられる。
【0029】
本発明の光ファイバ素線は、上記紫外線硬化樹脂を光ファイバに被覆せしめてなるものであり、用いられる光ファイバは特に制限されず、石英系ガラス光ファイバが一般的に使用される。
【0030】
本発明の光ファイバ素線においては、上記紫外線硬化樹脂を光ファイバに被覆するが、その方法は特に制限されず、公知の被覆方法が適宜採用される。
【0031】
また、光ファイバに被覆される樹脂被覆層の数や厚さは特に制限されず、単層でも複数層でもよいが、光ファイバを被覆する一次被覆層(バッファ層)とその一次被覆層を被覆する二次被覆層(保護層)とを備えていることが好ましい。また、内層の一次被覆層は、光ファイバの外周表面に塗布され、紫外線により硬化されて、外径180μm〜200μmとなるように被覆されることが好ましく、また外層の二次被覆層は、外径240〜250μmとなるように被覆されることが好ましい。
【0032】
一般に二次被覆層は取り扱い環境温度で硬い状態であることが好ましいため、二次被覆層のガラス転移温度(Tg)は室温より高いものが使用される。また、結晶析出は樹脂被覆層のTgより高い温度で生じる。このため、上記本発明に係る紫外線硬化樹脂は、一次被覆層に用いられればその層における異物析出が防止されるが、被覆層中で結晶物は自由に移動することができるので一次被覆層及び二次被覆層の双方が前記紫外線硬化樹脂からなるものであることが特に好ましい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の内容を、実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(ポリエーテルポリウレタン1〜5の調整)
様々な分子量の前記直鎖型ポリエーテルジオールとジイソシアネートとエチレン性不飽和基含有化合物を組み合わせて反応させ、種々のポリエーテルポリウレタンを得た。得られたポリエーテルポリウレタン分子中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の重量%は、表1に示すように30重量%〜70重量%であった。
【0035】
また、表1において、直鎖型ポリオキシアルキレン構造を含有しないポリエーテルポリウレタンを使用した紫外線硬化樹脂を用いた場合にはAと記載した。この紫外線硬化樹脂としては、ポリエーテルジオールとしてポリプロピレングリコールを使用し、他は前記と同様にして製造した。即ちAは、アルキル基を側鎖にもつポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含有する紫外線硬化樹脂である。
【0036】
(紫外線硬化樹脂の調整)
次に以下に示す比率でポリエーテルポリウレタンと反応性希釈モノマー(N−ビニルピロリドン)と光重合開始剤(ルシリンTPO:BASF社製)とを溶解槽で混合し、紫外線硬化樹脂を得た。
混合比率:ポリエーテルポリウレタン(60重量%)、反応性希釈モノマー(37重量%)、光重合開始剤(3重量%)
【0037】
(光ファイバ素線の製造)
線引装置を用いて次のようにして光ファイバ素線を製造した。すなわち、先ず光ファイバ母材の先端を加熱した線引炉に挿入し、溶融線引して、コア径が約10μm、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。これを一次被覆層用紫外線硬化樹脂を入れたダイスに通してその樹脂を光ファイバに塗布し、続いてこれに紫外線照射装置にて紫外線を照射して硬化させ、外径195μmとした。次に、一次被覆層を形成した光ファイバを、二次被覆層用紫外線硬化樹脂を入れたダイスに通してその樹脂を塗布し、続いてこれに紫外線照射装置にて紫外線を照射して硬化させ、外径250μmとした。
【0038】
(異物析出の評価)
得られた光ファイバ素線を0℃の条件下で2000時間放置し、その後の光ファイバ素線の被覆中における結晶析出の有無を0℃の条件下のまま顕微鏡によって観察した。得られた結果を表1に示す。尚、結晶析出がないものを○、あるものを×とした。
【0039】
【表1】


【0040】
実施例1から4より、ポリエーテルポリウレタン中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の含有率が、一次被覆層及び二次被覆層のそれぞれで50重量%以下であると、低温下で長時間放置しても、結晶の析出は生じないことがわかった。
【0041】
比較例1及び2及び4より、ポリエーテルポリウレタン中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の含有率が、一次被覆層及び二次被覆層のいずれかにおいて50重量%より大きいとき、低温下で長時間放置すると、被覆中に結晶が析出することがわかった。
【0042】
比較例3より、ポリエーテルポリウレタン中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の含有率が、一次被覆層及び二次被覆層のいずれでも50重量%より大きいとき、低温下で長時間放置すると、被覆中に結晶が析出することがわかった。
【0043】
実施例5及び6より、被覆層の一方をアルキル基を側鎖にもつポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンとし、もう一方をポリエーテルポリウレタン中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の含有率を50重量%以下とすると、低温下で長時間放置しても、結晶の析出は生じないことがわかった。
【0044】
比較例5より、被覆層の一方をアルキル基を側鎖にもつポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンとしても、もう一方の層においてポリエーテルポリウレタン中の直鎖型ポリオキシアルキレン構造の含有率が50重量%より大きいとき、低温下で長時間放置すると、被覆中に結晶が析出することがわかった。
【0045】
また、アルキル基を側鎖にもつポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含有する紫外線硬化樹脂を外層に使用した実施例5および比較例5では、ボビン巻き時のOTDR段差ロスの発生が著しく増加した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層からなる被覆層を有し、前記被覆層のうち少なくとも一つが直鎖型ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテルポリウレタンを含む紫外線硬化樹脂からなる被覆であり、前記被覆層のいずれにおいても前記直鎖型ポリオキシアルキレン構造が、前記ポリエーテルポリウレタン分子中の50重量%以下であり、
前記ポリエーテルポリウレタンが、直鎖型ポリエーテルジオール、ジイソシアネート、及びエチレン性不飽和基含有化合物のみを反応させて製造されており、前記直鎖型ポリエーテルジオールがポリテトラメチレングリコールであることを特徴とする光ファイバ素線。
【請求項2】
前記紫外線硬化樹脂が、反応性希釈モノマーおよび光重合開始剤を更に含有していることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ素線。


【公開番号】特開2009−265681(P2009−265681A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146444(P2009−146444)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【分割の表示】特願2004−145208(P2004−145208)の分割
【原出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】