説明

光ファイバ融着接続方法

【課題】光ファイバの端面の角部の融解量を低減し、孔あき光ファイバの先端部の孔を効果的に透明化して、コア調心を可能とした光ファイバ融着接続方法を提供する。
【解決手段】クラッド部に軸方向に沿って多数の孔を有する孔あき光ファイバ11,12を他の光ファイバと放電加熱により融着接続する光ファイバ融着接続方法であって、孔あき光ファイバ11の端面11aの温度より後方側の温度が高くなるように第1の放電加熱を行い、孔あき光ファイバ11の先端領域11cを透明化してコア部調心を行い、その後、第2の放電加熱により融着接続する。前記の第1の放電加熱は、放電電極を孔あき光ファイバの端面より、後方側に位置させた状態で行う。なお、第1の放電加熱は、放電加熱時間が200〜400ミリ秒であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方の光ファイバが、クラッド部に軸方向に沿って多数の孔を有する孔あき光ファイバを放電加熱により融着する光ファイバ融着接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
孔あき光ファイバは、中心のコア部を囲うクラッド部に軸方向に沿って多数の微細な孔を規則的あるいはランダムに形成して、クラッド部の屈折率を変化させコア部に対して屈折率差をつけるようにしたものである。この孔あき光ファイバは、クラッド部にドーパントを添加することなくダイナミックに屈折率を変えることができ、クラッド部の一部に同心状に多数の孔を有するもの、クラッド部の全体に多数の孔を有するもの等、種々の形態のものがある。
【0003】
例えば、図6(A)に示すように、コア101を囲むクラッド102は、孔のない内側領域102aの外側に多数の微細な孔103を有する中間領域102b、その外側に孔のない外側領域102cを同心状に設けた形状のものがある。この孔あき光ファイバ100の融着接続は、通常の光ファイバの融着接続と同様に、図6(C)に示すように、互いに融着接続される一対の光ファイバ100a,100bの軸方向と直交するように配した一対の放電電極104によるアーク放電の熱により、光ファイバの端面105aと105bを溶融し、突き合わせて行われる。
【0004】
しかし、図6(B)に示すように、孔あき光ファイバ100は、ファイバ側面から照明光を当てて光学的に観察する場合、多数の微細な孔103の存在によってコア101を検知することができない。このため、コア調心による位置合わせを行うことができず、精度のよい融着接続ができない。これを解決する融着接続方法として、特許文献1には、光ファイバの先端部分の孔を潰して透明化し、コアを光学的に検出する方法が開示されている。
【0005】
光ファイバの先端部分の孔を潰し透明化する例として、融着のための放電加熱とは別に、放電電極104を用いて溶融突合せに先立って光ファイバ100a,100bの先端面105aと105bを互いに離した状態で放電加熱している。この放電加熱により、光ファイバ100a,100bの先端部分の孔103を潰し、コアが光学的に検知可能な状態(光学的に透明な状態)にしている。この後、コアを光学的に識別することでコア調心して位置合わせし、互いの光ファイバの端面105aと105bを突き合わせて放電加熱により融着接続することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−509641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の融着接続に先立って行われる光ファイバの先端部に対する放電加熱の形態は、具体的には図7に示すような形態で行われる。すなわち、一対の放電電極104の中心を通る軸線Yに対して、孔あき光ファイバ100a,100bの先端面105aと105bは距離Lだけ離間した状態で放電加熱される。加熱温度は、軸線Yを通る位置が最も高温で光ファイバの後方に向かって低温となる。したがって、光ファイバとしては、先端面105a,105bの部分が最も高温に曝されて周囲の角部が融解し、比較的に大きな曲率半径Rを有する形状となる。
【0008】
光ファイの端面105a,105bの角部の曲率半径Rが大きくなると、軸ずれや接続部の細りにより融着接続の融着面積が少なくなり、接続不良や接続損失の増加が生じやすくなる。一方、曲率半径Rが大きくならないように放電加熱量を少なくすると、光ファイバの孔の潰れが不十分となってコア位置の検出ができず、コア調心を行うことが困難となる。
【0009】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、光ファイバの端面の角部の融解量を低減し、孔あき光ファイバの先端部の孔を効果的に透明化して、コア調心を可能とした光ファイバ融着接続方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による孔あき光ファイバの融着接続方法は、クラッド部に軸方向に沿って多数の孔を有する孔あき光ファイバを他の光ファイバと放電加熱により融着接続する光ファイバ融着接続方法であって、孔あき光ファイバの端面の温度より後方側の温度が高くなるように第1の放電加熱を行い、孔あき光ファイバの先端領域を透明化してコア部調心を行い、その後、第2の放電加熱により融着接続することを特徴とする。前記の第1の放電加熱は、放電電極を孔あき光ファイバの端面より、後方側に位置させた状態で行う。
なお、第1の放電加熱は、放電加熱時間が200〜400ミリ秒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、孔あき光ファイバの端面の角部の融解量を少なくして先端領域を透明化することができ、コア部を観察して調心することが可能となり、高品質で低損失の融着接続を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で使用される孔あき光ファイバの一例を示す図である。
【図2】本発明で使用される融着接続装置の一例を示す図である。
【図3】本発明による孔あき光ファイバの融着接続方法のフローを示す図である。
【図4】図3のクリーニング放電加熱の作業状態を示す図である。
【図5】図4のクリーニング放電加熱の加熱状態を説明する図である。
【図6】従来技術を説明する図である。
【図7】従来技術の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の融着接続方法が適用される孔あき光ファイバの一例を示す図である。図1(A)の孔あき光ファイバ1は、図6(A)で説明したのと同様な光ファイバのクラッド部の一部に微細な孔を同心状に設けた例である。この孔あき光ファイバ1は、中央にコア部2を有し、このコア部を囲むクラッド部3は、孔のない内側領域3aの外側に多数の微細な孔4を有する中間領域3b、その外側に孔のない外側領域3cを同心状に設けた形状の例である。また、図1(B)の孔あき光ファイバ1’は、中央にコア部2を有し、このコア部を囲むクラッド部3’の全領域に多数の微細な孔4を設けた例である。
【0014】
孔あき光ファイバ1,1’は、例えば、シングルモードファイバとして形成され、ファイバ被覆が施されていない裸のガラスファイバの外径は標準的な125μmであり、コア部2の径は、例えば、7〜10μm程度で形成されている。また、ガラスファイバの外面には、通常の光ファイバと同様にファイバ被覆(図示省略)が施され、ガラス表面の保護と機械的強度が高められている。
【0015】
図2は、光ファイバの融着接続装置の一例を示し、上述の孔あき光ファイバの融着接続に使用される。互いに融着接続される光ファイバ11と12は、双方が孔あき光ファイバであってもよく、いずれか一方が孔のない通常の光ファイバであってもよい。すなわち、少なくとも、一方の光ファイバが孔あき光ファイバであればよいが、以下の説明では、互いに融着接続される光ファイバ11と12の双方が、孔あき光ファイバである例で説明する。
【0016】
図2に示すように、一対の孔あき光ファイバ11と12は、融着接続に際して、先端部側のファイバ被覆11b,12bを所定量除去してガラスファイバ部分が露出され、双方の光ファイバのファイバ被覆11b,12bの端部分が被覆クランプ15で固定され、ガラスファイバ部分がV溝14およびガラスクランプ(図示せず)で保持固定される。双方の光ファイバの先端部の端面11aと12aは、軸方向に対して直角にカットするか又は信号光の反射防止のために所定の角度でカットして対向配置される。また、光ファイバの先端部の位置および端面11a,12aの状態は、互いに直交するように配された投光器17x、17yと撮像カメラ16x、16y(図示されず)により、2方向から画像観察機構により観察される。
【0017】
一対の放電電極13は、互いに融着接続される孔あき光ファイバ11と12の軸方向と直交するように、光ファイバの端面11a,12aを挟んで対向配置される。光ファイバの融着接続は、放電電極13によるアーク放電の熱により、左右の光ファイバの端面11aと12aを溶融し、突き合わせて行われるが、通常、光ファイバを融着接続する前に接続端となる先端部を光ファイバが溶融しない程度のクリーニング放電加熱(スパッタリング放電加熱ともいう)が行われる。このクリーニング放電加熱により、光ファイバの先端部の端面11a,12aおよびその近傍の水分、ごみ、ファイバ切断時の切削屑等の不純物の除去が行われる。
【0018】
上記のクリーニング放電加熱は、通常の孔のない光ファイバの融着接続においては、光ファイバの端面11aと12a間が所定の間隙で対向するようにセットし、放電電極13によるアーク放電の中心が光ファイバの端面11aと12a間の間隙の中心を通るように行われる。これにより、双方の光ファイバ11,12の先端部が同時に加熱され、クリーニングされる。
【0019】
本発明においては、後述するように、上述のクリーニング放電加熱(第1の放電加熱)を行うに際して、互いに融着接続される光ファイバ11,12の先端部の孔を加熱により潰して透明化し、光ファイバのコア部の画像観察を可能とする。なお、本発明において、「透明化する」とは、光ファイバの側面側からコア部が光学的に識別可能な程度に透明中実化することであり、完全な中実化状態を意味するものではない。また、本発明における光ファイバ11,12の先端部のクリーニング放電加熱は、後述するように左右の光ファイバで個別に行い、かつ、光ファイバの先端面11aと12aより後方の位置をアーク放電の中心が通るようにして行われる。
【0020】
次に、図3のフロー図および図4の作業図により、本発明による孔あき光ファイバの融着接続方法の概略を説明する。なお、図4は、図3のステップS1〜S5およびS10の作業状態を示している。
【0021】
まず、投光器17x、17yと撮像カメラ16x、16yにより光ファイバの端面11a,12aの状態、端面位置を観察しつつ、ステップS1で一対の孔あき光ファイバ11,12が、図2で説明した融着接続装置にセットされる。次いで、ステップS2において、右の光ファイバ12を後退させ、左の光ファイバ11を端面11aが放電電極13の中心から右側に所定量突き出す位置まで前進させる。この状態で、次のステップS3において、放電電極13により左の光ファイバ11の先端部をクリーニング放電加熱(第1の放電加熱)する。この加熱により、左の光ファイバ11の先端部の孔が融解して潰され、先端領域11cが透明化された状態となる。
【0022】
続いて、ステップS4で、クリーニング放電加熱の処理を終えた左の光ファイバ11を後退させ、右の光ファイバ12を端面12aが放電電極13の中心から左側に所定量突き出す位置まで前進させる。この状態で、次のステップS5において、放電電極13により右の光ファイバ12をクリーニング放電加熱する。この加熱により、右の光ファイバ12の先端部の孔が融解して潰され、先端領域12cが透明化された状態となる。
【0023】
なお、ステップS2とS4において、光ファイバの端面11a,12aが放電電極13の中心から突き出す距離は、光ファイバの種類や孔の数等のより調整される。また、後退させる光ファイバは、クリーニング放電加熱の影響を受けない位置まで後退させる。
ステップS3とS5のクリーニング放電加熱の放電加熱時間も同様に、光ファイバの種別、孔の大きさや数によっても異なるが、後述するように、光ファイバの端面11a,12aの角部が大きく融解はしない程度の温度となるように設定される。
【0024】
ステップS1〜S5で、融着接続に先立つクリーニング放電加熱を終えた後、最初のセット状態に戻し、ステップS6で光ファイバ11,12の粗調心を行う。この粗調心は、図2の融着接続装置で、被覆クランプ15およびV溝14を移動させてファイバ外径等でおおよその融着接続位置が定められる。次のステップS7で、光ファイバの端面11a,12aの状態、端面位置を確認し、特に異常がなければ、次のステップS8に進み、光ファイバの融着接続に適した予め設定された光ファイバの端面11aと12aの間隔が調整される。
【0025】
次いで、ステップ9において左右の光ファイバ間のコア調心が行われる。このコア調心は、光学的に透明化された光ファイバ11,12の先端部を、投光器17x、17yと撮像カメラ16x、16yにより撮像し、ファイバ軸方向の複数個所におけるファイバ断面の輝度分布を画像処理してコア位置およびコアの傾きを検出する。そして、光ファイバ11,12のコア部が一致するように、被覆クランプ15およびV溝14等の位置を微調整してコア調心を行う。
【0026】
この後、ステップS10において、所定の放電パワーと放電時間により光ファイバの端面11a,12aを融着放電加熱(第2の放電加熱)して溶融し、一方の端面を他方の端面に押し付けて突き合わせることにより融着接続される。次いで、ステップS11により透明化された光ファイバの先端部および融着状態を投光器17x、17yと撮像カメラ16x、16yにより撮像し、コア軸ずれ量の計測と全体の観察を行う。そして、最終的にはステップS12に進んで、コア軸ずれ等をもとに推定ロスを算出し、これを表示する。
【0027】
図5は、図4のステップS3の作業状態を拡大して示した図である。クリーニング放電加熱する際に、光ファイバ11の端面11aが放電電極13の中心を通るラインYに対して距離Dだけ突き出た状態で行われる。すなわち、クリーニング放電加熱のアーク放電は、光ファイバ11の端面11aの後方位置を横切る形となる。この結果、光ファイバ11の端面11aの温度は、アーク放電の中心が通る後方位置の温度より低い温度となる。言い換えると、光ファイバ端面の温度より後方側の温度が高くなるように加熱する。そして、光ファイバの端面温度を、孔あき光ファイバの孔を潰すことが可能な温度となるように設定することで、端面11aの角部の溶融を最小にして、溶融により曲率半径Rを小さくすることが可能となる。
【0028】
なお、光ファイバの先端部で光学的に観察することが可能な領域、すなわち透明化される先端領域11cは、光ファイバの端面から100μm〜200μm程度あることが好ましい。したがって、クリーニング放電加熱で、光ファイバの端面11aが放電電極13の中心から突き出す距離Dは、上記の観察領域が得られるように、その1/2の50μm〜100μm位で設定するのが望ましい。
【0029】
また、クリーニング放電加熱の放電加熱時間は、光ファイバの端面11a,12aの角部の融解による生じる曲率半径Rは、15μm以下に抑えられることが望ましい。このためには、放電加熱時間は400ミリ秒以下とするのが好ましい。また、あまり、放電加熱時間が少ないと孔の潰れが少なく透明化が不十分となるので、200ミリ秒以上とするのが好ましい。なお、図7の従来技術の方法によれば、放電加熱時間は500ミリ秒〜1250ミリ秒を要し、曲率半径Rは20μm〜25μ程度となる。
【符号の説明】
【0030】
1、1’…光ファイバ、2…コア部、3,3’ …クラッド部、4…孔、11,12…光ファイバ(孔あき光ファイバ)、11a,12a…端面、11b,12b…ファイバ被覆、11c,12c…先端領域、13…放電電極、14…V溝、15…被覆クランプ、16x,16y…撮像カメラ、17x、17y…投光器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド部に軸方向に沿って多数の孔を有する孔あき光ファイバを他の光ファイバと放電加熱により融着接続する光ファイバ融着接続方法であって、
前記孔あき光ファイバの端面の温度より後方側の温度が高くなるように第1の放電加熱を行い、前記孔あき光ファイバの先端領域を透明化し、コア調心した後、第2の放電加熱により融着接続することを特徴とする光ファイバ融着接続方法。
【請求項2】
前記第1の放電加熱は、放電電極を前記孔あき光ファイバの端面より、後方側に位置させた状態で行うことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ融着接続方法。
【請求項3】
前記第1の放電加熱は、放電加熱時間が200〜400ミリ秒であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ融着接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83635(P2012−83635A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231177(P2010−231177)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000110309)SEIオプティフロンティア株式会社 (80)
【Fターム(参考)】