説明

光モジュールの製造方法

【課題】気密封止の作業性を向上させた光モジュールの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る光モジュールの製造方法は、光ファイバ3と、光ファイバ3を挿通させる光ファイバ挿通パイプ2とを備える光モジュール10を製造する方法であって、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する封止工程を含んでいる。上記封止工程は、ガイド5を、光ファイバ挿通パイプ2の側面に設置する設置工程と、光ファイバ挿通パイプ2を加熱して、ガイド5内の糸半田を溶融する加熱工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを備えた光モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光モジュールは、発光素子(LDやLEDなど)が筐体内に収容され、当該発光素子と光学的に結合した光ファイバが光ファイバ挿通パイプを介して上記筐体外に引き出された構造を有している。
【0003】
このような光モジュールに関して、光モジュール外に引き出された光ファイバを固定する方法が特許文献1に開示されている。特許文献1では、まず、側方に穴を設けられた光ファイバ挿通パイプを用意し、この光ファイバ挿通パイプに光ファイバの端部を挿入する。その後、上記穴に半田片を詰めてレーザ溶接または高周波誘導加熱により半田付けし、これによって光ファイバを固定している。この時、光ファイバの半田固定部は、半田との接合をとるため、通常、金属皮膜処理が施されている。この方法は、従来あった接着剤固定と異なり、経年劣化のおそれが無く、また短時間で作業可能であるため量産に適している。
【0004】
ところで、発光素子は外部から侵入する湿気、埃等に大変弱く動作異常又は信頼性を著しく損ねることがある。したがって、光モジュールを製造する際には、発光素子と外部とを完全に遮断するために、光モジュールを気密封止することが必要不可欠となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−64608号公報(1990年3月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、光モジュールを好適に製造するために、光モジュールを気密封止する工程の作業性を向上させることに着目し、そのために特許文献1に記載された半田供給方法が有用であることに想到した。
【0007】
そこで、本発明者らは、光ファイバ挿通パイプに光ファイバを挿通した後、光ファイバ挿通パイプの側方に設けられた穴(以下、供給孔と称する)に半田を供給することによって、光ファイバ挿通パイプを気密封止する方法について鋭意検討した。その結果、単に供給孔に半田を供給しようとする方法では、実用的な気密封止を行うことができないことを見出した。
【0008】
具体的には、まず本発明者らは、気密封止のために供給する半田材料としては、一般的な糸半田を用いることが好ましいと考えた。糸半田を用いた気密封止工程では、例えば高周波誘導加熱により光ファイバ挿通パイプを加熱しながら、光ファイバ挿通パイプの供給孔に糸半田を入れる。供給孔に入った糸半田が溶融して光ファイバ挿通パイプ内に充填されれば、光ファイバ挿通パイプの気密封止が行われる。しかしながら、糸半田を供給孔に近づけたとき、糸半田は、加熱された光ファイバ挿通パイプから伝導した熱によって、その温度が上昇し、柔らかくなったり溶融したりしてしまう。柔らかくなった糸半田は曲がり易く、供給孔に向けて押し込む力が伝わり難いため、その供給が難しい。また溶融した糸半田を正確に供給することは困難である。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、気密封止の作業性を向上させた光モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光モジュールの製造方法は、上記の課題を解決するために、光ファイバと、上記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備える光モジュールを製造する、光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、少なくとも1つの開口を有する、糸半田を収容するための糸半田収容部材を、当該開口が上記光ファイバ挿通パイプの側面に設けられた供給孔に対向するように、上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置する設置工程と、上記光ファイバ挿通パイプを加熱して、上記設置工程において設置した上記糸半田収容部材に収容されている糸半田を溶融する加熱工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
上記設置工程において、例えば糸半田収容部材が1つの開口を有する容器状である場合、糸半田収容部材に糸半田を入れた後に当該糸半田収容部材を設置してもよい。あるいは、例えば糸半田収容部材が2つの開口を有する筒状である場合、上記設置工程において設置された糸半田収容部材に対して、光ファイバ挿通パイプに対向する開口とは反対側の開口から糸半田を入れてもよい。上記設置工程によれば、糸半田収容部材の内部が上記供給孔を介して光ファイバ挿通パイプ内と連通し、当該糸半田収容部材は、光ファイバ挿通パイプに対して糸半田を供給するための供給路(ガイド)になる。
【0012】
上記加熱工程では、光ファイバ挿通パイプを加熱することによって、当該光ファイバ挿通パイプの温度を半田溶融温度にまで上昇させる。糸半田収容部材に収容されている糸半田は、光ファイバ挿通パイプの熱を受けて溶融し、供給孔を介して光ファイバ挿通パイプ内に供給される。ここで、光ファイバ挿通パイプ内に入る前の糸半田が、光ファイバ挿通パイプからの熱を受けて溶融したとしても、当該糸半田は糸半田収容部材に収容されているため、光ファイバ挿通パイプの外部に付着することなく、供給孔に正確に供給される。その後、溶融して光ファイバ挿通パイプ内に供給された半田は、その濡れ性によって光ファイバ挿通パイプの内壁と光ファイバとの間に充填される。
【0013】
したがって、上記方法によれば、糸半田を正確に供給することによって気密封止の作業性を向上させ、光モジュールを効率よく製造することができる。
【0014】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記加熱工程では、誘導加熱により、上記光ファイバ挿通パイプを加熱することが好ましい。
【0015】
誘導加熱による加熱は、加熱の立ち上がりが速く、均一に加熱することができる。それゆえ、誘導加熱によって上記光ファイバ挿通パイプを加熱することにより、上記糸半田を短時間で確実に溶融させることができる。
【0016】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において上記糸半田収容部材は両端に開口を有する筒状であり、上記加熱工程では、糸半田が収容されている上記糸半田収容部材内に、上記供給孔に対向している側とは反対側から棒を挿入し、当該棒によって当該糸半田を押さえることが好ましい。
【0017】
上記方法によれば、棒が糸半田に対して供給孔に向かう力を加えるため、溶融した糸半田の上記供給孔への供給を促進することができる。
【0018】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記糸半田収容部材は、上記設置工程において上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置されたとき、上記光ファイバ挿通パイプに接し、上記光ファイバ挿通パイプからの熱を吸収することが好ましい。
【0019】
上記方法によれば、上記加熱工程において、糸半田収容部材は、加熱された光ファイバ挿通パイプから熱を受け取り、当該光ファイバ挿通パイプの温度が過度に上昇することを防ぐ。これによって、光ファイバ挿通パイプ内に入った半田が不適切な部位にまで濡れ広がることを抑え、光ファイバ挿通パイプの内壁と光ファイバとの間に半田を充填して、気密封止を好適に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記糸半田収容部材は、上記設置工程において上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置されたとき、上記光ファイバ挿通パイプに接し、上記光ファイバ挿通パイプからの熱を吸収する熱吸収部を備えていることが好ましい。
【0021】
上記方法によれば、上記加熱工程において、熱吸収部は、加熱された光ファイバ挿通パイプから熱を受け取り、当該光ファイバ挿通パイプの温度が過度に上昇することを防ぐ。これによって、光ファイバ挿通パイプ内に入った半田が不適切な部位にまで濡れ広がることを抑え、光ファイバ挿通パイプの内壁と光ファイバとの間に半田を充填して、気密封止を好適に行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記熱吸収部は、セラミック、または、少なくとも上記光ファイバ挿通パイプに接する表面が絶縁性材料に被覆された金属材料から構成されていることが好ましい。
【0023】
上記熱吸収部が導電性を有している場合、光ファイバ挿通パイプにおいて誘導された電流が当該光ファイバ挿通パイプに接する上記熱吸収部に流れ、熱が発生することがある。上記熱吸収部が上記材料から構成されていれば、上述したような電流が光ファイバ挿通パイプから熱吸収部に流れることを防ぐことができる。よって、熱吸収部と光ファイバ挿通パイプとの接触箇所における局所的な加熱を避け、熱吸収部による光ファイバ挿通パイプの熱引きについて好適に行うことができる。したがって、上記方法によれば、気密封止の作業性をより向上させることができる。
【0024】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記供給孔は、溶融前の上記糸半田を通さない形状または大きさを有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0025】
上記方法によれば、上記加熱工程において、溶融前の糸半田が光ファイバ挿通パイプ内の光ファイバに接することなく、当該光ファイバが傷つくことを防止することができる。
【0026】
また、本発明に係る光モジュールの製造方法において、上記供給孔の形状は真円形または楕円形であり、溶融前の上記糸半田の直径は、上記供給孔の直径または短径よりも大きいことが好ましい。
【0027】
上記方法によれば、溶融前の糸半田が光ファイバ挿通パイプ内の光ファイバに接することがないように、供給孔の形状と糸半田とのサイズとの関係を好適に設定することができる。それゆえ、光ファイバの傷つきを首尾よく防止することができる。
【0028】
また、上記封止工程を含む、光ファイバが挿通している光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止方法もまた、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る方法は、光ファイバと、上記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備える光モジュールを製造する、光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、少なくとも1つの開口を有する、糸半田を収容するための糸半田収容部材を、当該開口が上記光ファイバ挿通パイプの側面に設けられた供給孔に対向するように、上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置する設置工程と、上記光ファイバ挿通パイプを加熱して、上記設置工程において設置した上記糸半田収容部材に収容されている糸半田を溶融する加熱工程とを含む。したがって、半田を正確に供給することができるため、気密封止の作業性を向上させ、光モジュールを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る光モジュール製造方法における気密封止工程を説明するための断面図である。
【図2】図1に示す封止工程における半田押さえ工程を説明するための断面図である。
【図3】(a)は図1に示す光モジュールにおける光ファイバ挿通パイプを示す側面図であり、(b)はその上面図である。
【図4】図1に示す封止工程に用いられるガイドの変形例を説明するための断面図である。
【図5】(a)は図1に示す封止工程に用いられるガイドの他の変形例を説明するための部分断面図であり、(b)は(a)における断面と垂直な平面での断面図である。
【図6】(a)は図1に示す封止工程に用いられるガイドの他の変形例を説明するための部分断面図であり、(b)は、(a)における断面と垂直な平面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0032】
〔光モジュール10について〕
まず、本実施形態に係る光モジュール製造方法において、気密封止工程のために準備される光モジュール10について図1を参照して説明する。図1は、気密封止工程を説明するための断面図である。
【0033】
図1に示すように、光モジュール10は、発光素子12、筐体1、光ファイバ挿通パイプ2、および光ファイバ3を備える。
【0034】
筐体1は、発光素子12を収容および固定する機能を有する光素子パッケージであり、その側面には光ファイバ挿通パイプ2が設けられている。
【0035】
光ファイバ挿通パイプ2は、筐体1の側面に設けられた筒状のパイプであって、筐体1の内部および外部に向かって開口している。また、光ファイバ挿通パイプ2の側面には糸半田6用の供給孔4が設けられている。光ファイバ挿通パイプ2の材料は、例えばコバール等、後述する高周波誘導加熱により効果的に加熱される材料であることが好ましい。
【0036】
光ファイバ3は、光ファイバ挿通パイプ2を介して筐体1内に挿通され、発光素子12と光軸調芯を行われた上で光学的に接続されている。光ファイバ3は、マウント11によって筐体1内で保持されていてもよい。光ファイバ3としては、メタライズファイバを好適に用いることができる。
【0037】
発光素子12としては、例えばLDチップなどを用いることができる。発光素子12は、外部から筐体1内に挿入されたリード13に、配線を介して接続されていてもよい。
【0038】
なお、上述した各部材は、上記以外の形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、光モジュール10の用途、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0039】
〔製造方法〕
本実施形態に係る光モジュールの製造方法は、上述した光モジュール10において、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する封止工程を含んでおり、上記封止工程は、少なくとも1つの開口を有するガイド(糸半田収容部材)5を、当該開口が光ファイバ挿通パイプ2の側面に設けられた供給孔4に対向するように、光ファイバ挿通パイプ2に設置する設置工程と、光ファイバ挿通パイプ2を加熱して、上記設置工程において設置されたガイド5に収容されている糸半田6を溶融する加熱工程とを含めばよい。加熱工程において溶融された糸半田6は、供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2内に供給され、光ファイバ挿通パイプ2を気密封止する。
【0040】
次に、上記封止工程に含まれる上記の各工程について図1を参照して説明する。
【0041】
〔設置工程〕
上記設置工程においては、ガイド5を、その開口が供給孔4に対向するように光ファイバ挿通パイプ2に設置する。
【0042】
ガイド5は、一つの開口を有する容器であってもよく、二つの開口を有する筒であってもよい。なお、図1を参照した説明では筒状のガイド5を用いている。この場合、ガイド5に糸半田6を入れた後にこのガイド5を設置してもよいし、ガイド5が設置された後に糸半田6を入れてもよい。
【0043】
ガイド5の内部は円柱状の空間であることが好ましく、その開口の直径は、糸半田6を好適に供給するために、糸半田6の直径よりも大きく、かつ、光ファイバ挿通パイプ2の直径よりも小さいことが好ましい。
【0044】
ガイド5の材料としては、例えば、銅、アルミ、セラミックスまたはガラス等、誘導加熱され難い材料であることが好ましい。このような材料からなるガイド5を用いることにより、後述の加熱工程において、ガイド5が誘導加熱されることを抑制し、光ファイバ挿通パイプ2に供給される前の糸半田6がガイド5内で溶融してしまうことを抑制する。このため、糸半田6を好適に供給することができる。
【0045】
上記設置工程によれば、ガイド5は、糸半田6を光ファイバ挿通パイプ2に供給するための供給路として設置される。
【0046】
〔加熱工程〕
上記加熱工程においては、光ファイバ挿通パイプ2を加熱して、上記設置工程において設置されたガイド5に収容されている糸半田6を溶融する。
【0047】
光ファイバ挿通パイプ2の加熱に関しては、高周波誘導加熱装置を利用することが好ましい。高周波誘導加熱装置は、基本的に、AC電源及びワークコイルを備えており、被加工材料に渦電流を誘導して発熱せしめる装置である。高周波誘導加熱を利用すれば、被加工材料(本明細書では光ファイバ挿通パイプ2)を正確に短時間で加熱することができる。
【0048】
なお、光ファイバ挿通パイプ2の加熱に関して、本発明は高周波誘導加熱に限られるものではなく、他の加熱方法を用いてもよい。
【0049】
糸半田6としては、一般的で安価なものを利用することができる。糸半田6は、気密封止のために必要な一回分の量を有する長さにカットされたものでもよいし、数回分の量を有する長さにカットされたものでもよい。
【0050】
図1に示すように、供給孔4が光ファイバ挿通パイプ2の上側に設けられている場合、ガイド5内の糸半田6はその自重によって供給孔4に向かって進む。また、後述するように、ガイド5内の糸半田6に対して供給孔4側に力を加えてもよい。
【0051】
上記加熱工程において、供給孔4に近づいた糸半田6は、加熱された光ファイバ挿通パイプ2からの熱を受けて溶融する。ここで、糸半田6はガイド5を通るため、溶融しても光ファイバ挿通パイプ2の外側に付着することなく、供給孔4に正確に到達することができる。供給孔4に到達した糸半田6は、溶融しながら供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2内に供給される。その後、溶融した糸半田は、光ファイバ挿通パイプ2内で濡れ広がり、光ファイバ挿通パイプ2の内壁と光ファイバ3との間に充填される。これによって、光ファイバ挿通パイプ2を作業性よく気密封止することができる。
【0052】
なお、気密封止が完了した後には、ガイド5を光ファイバ挿通パイプ2から取り外せばよい。
【0053】
以上のように気密封止が行われることによって、光モジュール10が完成する。
【0054】
〔半田押さえ工程〕
上述した加熱工程において、例えば糸半田6の重さが十分にない場合、その自重のみによっては糸半田6が供給孔4付近の光ファイバ挿通パイプ2との接触部から十分に熱伝導されず、糸半田6が溶融できずに気密封止できないことがある。
【0055】
そこで、上記加熱工程は、糸半田6が収容されたガイド5内に、供給孔4に対向している側とは反対側から押さえ棒7を挿入し、押さえ棒7によって糸半田6に押さえる半田押さえ工程を含んでいてもよい。本工程について図2を参照して説明する。図2は、上記半田押さえ工程を説明するための断面図である。
【0056】
上記半田押さえ工程によれば、押さえ棒7は、ガイド5内の糸半田6に対して図2中矢印の方向に力を加え、糸半田6が供給孔4に供給されることを促進する。また、光ファイバ挿通パイプ2の側面におけるどの位置に供給孔4が設けられていたとしても、押さえ棒7を糸半田6に突き当てながら糸半田6を供給することができる。
【0057】
押さえ棒7の材料は、例えば、ガラスまたはセラミック等、熱伝導性が悪い材料であることが好ましい。このような材料から構成することによって、押さえ棒7が、供給される糸半田6の熱を熱伝導によって奪ってしまうことを抑制することができる。
【0058】
一例として、円筒状のガイド5が、純銅の材質によって、外径2mm、内径1.5mm、長さ10cmに形成されている場合、押さえ棒7としては、例えば、ガラスの材質によって、外径1mmの円柱形状、長さ20cm、重さ1.5gに形成されたものを用いることができる。また、この場合における糸半田6としては、成分がAuSn90であって、外径1.2mm、長さ5.5mm、重さ0.05gのものを用いることができる。
【0059】
また、押さえ棒7は、糸半田6に突き当たる側の先端部(下端部とする)の形状が加工されていてもよい。例えば、押さえ棒7の下端部がR加工されている場合、糸半田6を光ファイバ挿通パイプ2内に全て押し込み、糸半田6が光ファイバ挿通パイプ2の外周から盛り上がって固まることのないようにすることができる。あるいは、押さえ棒の下端部が逆R加工されている場合、供給孔4の部分が光ファイバ挿通パイプ2の側面に沿った形状になるように糸半田6を固めることができる。
【0060】
また、押さえ棒7は単独で用いてもよいが、図2に示すように、上記下端部とは反対側においてガイド5から突出した位置に、ストッパ8が固定されていることが好ましい。ストッパ8は、押さえ棒7が図2中矢印の方向に進むとガイド5の縁に接触する構成を有し、押さえ棒7の下端部が供給孔4よりも先に進まないようにする役割を果たす。これによって、押さえ棒7が光ファイバ3を傷つけてしまうことを防止する。
【0061】
ストッパ8は高周波誘導加熱装置に対してリモート接続するタッチセンサ(図示しない)を備えていてもよい。例えば、ストッパ8がガイド5の縁に接触すると上記タッチセンサが働き、高周波誘導加熱装置に対して信号を送り、加熱をストップさせてもよい。
【0062】
(供給孔4の形状)
供給孔4の形状は、上記加熱工程において用いる糸半田6のサイズに基づいて条件を設定することができる。供給孔4の形状について図3を参照して説明する。図3(a)は、供給孔4付近を拡大して示す側面図であり、図3(b)は、供給孔4付近を拡大した上面図である。
【0063】
例えば、図3(a)(b)に示すように、供給孔4が楕円形である場合、供給孔4の短径Aは、糸半田6の直径Sよりも小さいことが好ましい。
【0064】
あるいは、供給孔4が真円形である場合、供給孔4の直径は、糸半田6の直径Sよりも小さいことが好ましい。
【0065】
なお、いずれの場合であっても、上記加熱工程において供給される糸半田6のサイズは、光ファイバ挿通パイプ2の直径Cよりも小さいことが好ましい。
【0066】
仮に、供給孔4の直径または短径が糸半田6の直径よりも大きい場合、上記加熱工程において、溶融前の糸半田6が供給孔4を通って光ファイバ挿通パイプ2中に入る可能性がある。溶融前の糸半田6は非常に硬く、特に光ファイバ挿通パイプ2に挿通された光ファイバ3がベアファイバである場合には、糸半田6が光ファイバ3を傷つけ、最悪の場合、光ファイバ3が破断してしまう可能性がある。また、光ファイバ挿通パイプ2の直径Cよりも太い糸半田6を用いる場合、糸半田6は、光ファイバ挿通パイプ2の内部にうまく入っていかず、光ファイバ挿通パイプ2部の外側に溢れ出してしまう。
【0067】
ここで、供給孔4が上述のような形状であれば、上記加熱工程において、溶融前の糸半田6が、供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2の中に入ることはない。また、溶融後の糸半田6は、供給孔4を介して光ファイバ挿通パイプ2の内部に首尾よく入ることができる。
【0068】
なお、供給孔4の形状は楕円形または真円形に限られず、任意に設計可能である。この場合、供給孔4の形状または大きさは、溶融前の糸半田6を通過させることのないように設計されることが好ましい。
【0069】
(ガイド5の変形例)
次に、本発明に係る製造方法に用いられるガイド5は、上述した構成に限られない。以下、ガイド5の変形例についてする。
【0070】
まず、図4に示すように、容器状のガイド5aを用いてもよい。図4は、ガイド5aを用いた場合における封止工程を説明するための断面図である。この場合、上記設置工程では、気密封止に必要な量の糸半田6を予めガイド5a内に入れてから、ガイド5aを光ファイバ挿通パイプ2に設置すればよい。これにより、ガイド5aは、上述したガイド5と同様に、光ファイバ挿通パイプ2に対して糸半田6を供給するためのガイドになる。
【0071】
また、ガイド5は、光ファイバ挿通パイプ2に接して、光ファイバ挿通パイプ2からの熱を吸収する機能を有するものであってもよい。このためには、ガイド5の材料が、セラミック、銅などの、熱伝導性が高く誘導加熱されにくい材料から構成されることが好ましい。また、ガイド5の形状は、光ファイバ挿通パイプ2との良好な接触を可能にする形状であることが好ましい。
【0072】
また、図5(a)(b)に示すように、筒状のガイド本体とプレート部(熱吸収部)9とが一体的に構成されたガイド5bを用いてもよい。図5(a)は、ガイド5bを用いた場合における気密封止工程を説明するための部分断面図であり、図5(b)は、(a)に示す糸半田6の中心を通り、かつ、(a)における断面と垂直な平面での断面図である。
【0073】
あるいは、図6に示すように、容器状のガイド本体とプレート部9とが一体的に構成されたガイド5cを用いてもよい。図6(a)は、ガイド5cを用いた場合における気密封止工程を説明するための部分断面図であり、図6(b)は、(a)に示す糸半田6の中心を通り、かつ、(a)における断面と垂直な平面での断面図である。
【0074】
ガイド5bまたは5cのいずれを用いた場合であっても、上記設置工程において、プレート部9は、光ファイバ挿通パイプ2における筐体1とは反対側の端部2aに接する。すなわち、後に行われる上記加熱工程において、プレート部9は、加熱された光ファイバ挿通パイプ2の端部2aの熱引きを行い、光ファイバ挿通パイプ2の端部2aの温度が過度に上昇しないように抑制する。これによって、溶融した半田が光ファイバ挿通パイプ2の端部2aにまで濡れ広がってしまうことが抑制され、気密封止がより良好に行われる。
【0075】
なお、プレート部9を設ける位置、大きさは上述した位置に限定されず、糸半田6が濡れ広がる領域が適切なものとなるように、適宜設定することができる。
【0076】
プレート部9の材料は、上記熱引きが良好に行われるように、熱伝導性の高い材料であることが好ましい。ただし、金属材料が光ファイバ挿通パイプ2に直接接すると、金属同士が接触することになり、光ファイバ挿通パイプ2からプレート部9に電流が流れるときに接触抵抗によって接触箇所が局所的に発熱してしまう。このため、プレート部9の材料としては、セラミックや、少なくとも光ファイバ挿通パイプ2に接する表面に絶縁性の被膜(例えば酸化膜)を施された金属材料などを好適に用いることができる。
【0077】
ガイド5bまたは5cの材料は、ガイド本体とプレート部9とを一体的に構成するために、これらの両方の役割を鑑みた上で選択することが好ましい。例えば、ガイド5bまたは5cは、セラミックや、プレート部9に絶縁性被膜を施された銅から好適に構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、例えば光通信システムに用いる光モジュールの製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 筐体
2 光ファイバ挿通パイプ
3 光ファイバ
4 供給孔
5 ガイド(糸半田収容部材)
6 糸半田
7 押さえ棒(棒)
8 ストッパ
9 プレート部(熱吸収部)
10 光モジュール
12 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、上記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通パイプとを備える光モジュールを製造する、光モジュールの製造方法であって、上記光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止工程を含んでおり、
上記封止工程は、
少なくとも1つの開口を有する、糸半田を収容するための糸半田収容部材を、当該開口が上記光ファイバ挿通パイプの側面に設けられた供給孔に対向するように、上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置する設置工程と、
上記光ファイバ挿通パイプを加熱して、上記設置工程において設置した上記糸半田収容部材に収容されている糸半田を溶融する加熱工程とを含むことを特徴とする光モジュールの製造方法。
【請求項2】
上記加熱工程では、誘導加熱により、上記光ファイバ挿通パイプを加熱することを特徴とする請求項1に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項3】
上記糸半田収容部材は両端に開口を有する筒状であり、
上記加熱工程では、糸半田が収容されている上記糸半田収容部材内に、上記供給孔に対向している側とは反対側から棒を挿入し、当該棒によって当該糸半田を押さえることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記糸半田収容部材は、上記設置工程において上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置されたとき、上記光ファイバ挿通パイプに接し、上記光ファイバ挿通パイプからの熱を吸収することを特徴とする請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
上記糸半田収容部材は、上記設置工程において上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置されたとき、上記光ファイバ挿通パイプに接し、上記光ファイバ挿通パイプからの熱を吸収する熱吸収部を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項6】
上記熱吸収部は、セラミック、または、少なくとも上記光ファイバ挿通パイプに接する表面が絶縁性材料に被覆された金属材料から構成されていることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
上記供給孔は、溶融前の上記糸半田を通さない形状を有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
上記供給孔の形状は真円形または楕円形であり、
上記供給孔の直径または短径は、上記溶融前の糸半田の直径よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
光ファイバが挿通している光ファイバ挿通パイプを気密封止する封止方法であって、
少なくとも1つの開口を有する、糸半田を収容するための糸半田収容部材を、当該開口が上記光ファイバ挿通パイプの側面に設けられた供給孔に対向するように、上記光ファイバ挿通パイプの側面に設置する設置工程と、
上記光ファイバ挿通パイプを加熱して、上記設置工程において設置した上記糸半田収容部材に収容されている糸半田を溶融する加熱工程とを含むことを特徴とする封止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−209422(P2011−209422A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75379(P2010−75379)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】