説明

光偏向装置

【課題】1枚の液晶セルで、入射光の直交する両偏光成分に対して、光の進行方向を変える光偏向を行うことができる光偏向装置を提供する。
【解決手段】光偏向装置は、誘電率異方性が正で、カイラル剤が添加された液晶層と、相互に対向配置され、液晶層を挟持する第1及び第2の透明基板と、第1及び第2の透明基板の、液晶層側上方にそれぞれ形成され、液晶層に電圧を印加する第1及び第2の透明電極と、第1及び第2の透明基板の一方の、液晶層側上方に形成されたプリズム層と、第1及び第2の透明基板の少なくとも一方の、液晶層側上方に形成された垂直配向膜とを有し、液晶層は、電圧オフ状態でフォーカルコニック状態を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の進行方向を変える光偏向を行う光偏向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のヘッドライト等における配光切り替え技術として、液晶光学素子を用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1は、一対の基板の一方の内面にプリズムを形成した液晶セルを用いて、光偏向を行う技術を開示する。電圧オフ状態と電圧オン状態とを切り替えて、液晶層の屈折率を変化させることにより、光の進行方向を変える。しかし、特許文献1が開示する技術では、液晶セルへの入射光の、偏光方向が相互に直交する2つの偏光成分うち、一方の偏光成分しか偏向させない。
【0004】
特許文献2は、偏光方向ごとに用意した2枚の液晶セルにより、両方の偏光成分を偏向させる技術を開示する。
【0005】
1枚の液晶セルで、入射光の両方の偏光成分を偏向させられる技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−147377号公報
【特許文献2】特開2009−26641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、1枚の液晶セルで、入射光の直交する両偏光成分に対して、光の進行方向を変える光偏向を行うことができる光偏向装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、誘電率異方性が正で、カイラル剤が添加された液晶層と、相互に対向配置され、前記液晶層を挟持する第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板の、前記液晶層側上方にそれぞれ形成され、前記液晶層に電圧を印加する第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の、前記液晶層側上方に形成されたプリズム層と、前記第1及び第2の透明基板の少なくとも一方の、前記液晶層側上方に形成された垂直配向膜とを有し、前記液晶層は、電圧オフ状態でフォーカルコニック状態を示す光偏向装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
液晶層への電圧印加により、液晶層の屈折率を、フォーカルコニック状態の屈折率からホメオトロピック状態の屈折率に変化させて、プリズムによる光偏向方向を変えることができる。フォーカルコニック状態とホメオトロピック状態を用いることにより、基板法線方向からの入射光の直交する両偏光成分を偏向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の第1実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。
【図2】図2は、プリズム層の概略斜視図、及びプリズムの断面形状の拡大図である。
【図3】図3は、ガラス基板上のプリズム層の概略平面図である。
【図4】図4は、第1実施例の光偏向液晶セルの電圧オン時と電圧オフ時の写真である。
【図5】図5は、応用例の照明装置を概略的に示す横方向断面図(上面断面図)である。
【図6】図6A及び図6Bは、それぞれ、電圧オン時と電圧オフ時の投影像を概略的に示すスケッチである。
【図7】図7は、第2実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の第1実施例による光偏向液晶セルの構造及び作製方法について説明する。
【0012】
図1は、第1実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。透明電極が形成された一対のガラス基板(透明電極2が形成されたガラス基板1、及び、透明電極12が形成されたガラス基板11)を用意した。ガラス基板1、11は、無アルカリガラスであり、厚さはそれぞれ0.7mmtである。透明電極2、12は、インジウムスズ酸化物(ITO)であり、厚さはそれぞれ150nmである。
【0013】
透明電極2、12は、所望の平面形状にパターニングされていることが望ましい。ITO膜は、例えば第二塩化鉄を用いたウエットエッチングや、レーザで不要なITO膜を除去する方法でパターニングできる。
【0014】
片側のガラス基板1の透明電極2上に、プリズム層3を形成した。プリズム層3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば2μm〜30μm程度である。
【0015】
図2は、プリズム層3の概略斜視図、及びプリズム3aの断面形状の拡大図である。各プリズム3aは、頂角75°、底角が15°及び90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(プリズム幅方向)に並んでいる。プリズム3aの高さは約5.2μmであり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は20μmである。
【0016】
プリズム層3の好適な材料について説明する。プリズム層3上に、後の工程で、ポリイミド等の垂直配向膜4が形成される。信頼性の高い垂直配向膜を形成するためには、160℃〜220℃程度(例えば180℃)の高温での熱処理を行うことが望ましい。そこで、高温の熱処理で特性が劣化しにくいプリズム材料が望まれる。
【0017】
本願発明者は、複数のプリズム材料に対し、220℃で2時間ずつの熱処理を行い、熱処理前後での可視光領域の透過率の違いを評価した。その結果、アクリル系の紫外線(UV)硬化性樹脂が、短波長側でごく僅かに透過率の低下が見られるものの、ほぼ全可視波長域において熱処理前と同等の透過率を示し、特性(透過率)変化を少なくできることがわかった。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化が少ない」とは、可視光領域(波長380nm〜780nm)での特性(透過率)変化が、熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。
【0018】
アクリル系UV硬化性樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に、金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、実施例によるプリズム材料として好適であることがわかった。なお、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、プリズム材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0019】
図3は、ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。プリズム層3の作製方法について説明する。ガラス基板1の透明電極2上に、アクリル系UV硬化性樹脂3Rを滴下し、その上の所定位置に、プリズム層3の型が形成された金型(全体の大きさ:縦80mm×横80mm)を置き、厚手の石英部材などをガラス基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行った。UV硬化性樹脂3Rの滴下量は、プリズムの大きさ(プリズム形成領域の広さ)に合わせて調整した。
【0020】
プレスして1分以上放置し、UV硬化性樹脂を十分広げた後、ガラス基板1の裏側から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させた。紫外線の照射量は20J/cmとした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、ITOは紫外線を吸収するため、透明電極の膜厚が変われば紫外線照射量も変える必要があろう。なお、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。
【0021】
次に、プリズム層3の形成されたガラス基板1を、洗浄機で洗浄した。アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、及び赤外(IR)乾燥を順に行った。洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄等を行うこともできる。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。もう一方のガラス基板11の透明電極12上に、ポリイミド等により垂直配向膜13を形成した。ここでは、日産化学製のSE−4811をフレキソ印刷で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行った。
【0023】
また、ガラス基板1のプリズム層3上に、ポリイミド等により垂直配向膜4を形成した。ここでは、日産化学製のSE−4811をフレキソ印刷で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行った。なお、垂直配向膜4、13の形成方法として、インクジェット、スピンコート、スリットコート、スリットアンドスピンコート等を用いることもできる。
【0024】
次に、プリズム層3側のガラス基板1上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜5wt%含んだメインシール剤を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。プリズム3aの高さを含んだ(プリズムのベース層3bからの)液晶層15の厚さが、例えば10μm〜20μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択した。
【0025】
ここでは、ギャップコントロール剤として径が30μmの積水化学製のプラスチックボールを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤16とした。
【0026】
もう一方のガラス基板11上には、ギャップコントロール剤14として径が17μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布した。
【0027】
次に、両ガラス基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行った。
【0028】
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成した。液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布して封止した。封止後、120℃で1時間の熱処理を行い、液晶分子の配向状態を整えた。このようにして、第1実施例の光偏向液晶セルを作製した。なお、液晶層の形成方法は真空注入に限らず、例えばOne Drop Fill(ODF)法を用いてもよい。
【0029】
実施例では、液晶として誘電率異方性Δεが正の大日本インキ化学工業製のもの(Δn=0.298)を用い、メルク社製のカイラル剤S−811を添加した。カイラル剤を母液晶に対し9.4wt%添加したときのカイラルピッチは、1μm程度であった。
【0030】
カイラル剤の添加濃度を変化させることにより、カイラルピッチは変えることができる(カイラル剤の添加濃度が低いほど、カイラルピッチは長くなる)。カイラルピッチが、1μm、2μm、3μm、5μm、及び9μmのサンプルを作製した。
【0031】
実施例の液晶セルは、電圧オフ時、垂直配向膜とカイラル剤の作用により、ヘリカル軸が基板と平行なフォーカルコニック状態を示すと考えられる。電圧オフ時の光散乱の度合いは、カイラルピッチにより異なった。カイラルピッチ1μmでは、弱い散乱を示し、カイラルピッチ2μm以上では、ほとんど散乱が無くなった。
【0032】
フォーカルコニック状態のヘリカル軸は、基板と平行であるが、配向処理を実施しない垂直配向であるため、ヘリカル軸の方位は基板面内でランダムになる。従って、電圧オフ時、基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、使用する液晶材料の常光線屈折率noと異常光線屈折率neの平均的な値(2no+ne)/3になる。
【0033】
この値はごく微小領域では液晶分子はある方向を向いており偏光に対しそれぞれ異なった分子配向状態を持っているが、非常に短い周期(光の波長以下)でその分子方向が異なるため、液晶のダイレクタ(光の屈折率が出てくる大きさ)レベルではほぼ平均化され偏光による依存性はなくなる。
【0034】
一方、充分な電圧の印加時は、正の誘電率異方性により、ほぼ全ての液晶分子が基板垂直方向に立ち上がったホメオトロピック状態を示すので、基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、偏光に依存せずに常光線屈折率noとなる。ホメオトロピック状態は、透明な外観を示す。
【0035】
実施例の液晶材料の常光線屈折率noは1.525であり、異常光線屈折率neは1.823である。従って、基板法線方向に進行する光の屈折率は、偏光方向に依らず、電圧オフ時のフォーカルコニック状態の液晶層で1.624となり、電圧オン時のホメオトロピック状態の液晶層で1.525となると見積もられる。また、実施例のプリズム材料の屈折率は、1.51である。
【0036】
実施例の液晶セルは、電圧オフ時には、液晶層とプリズム層の屈折率が異なるので、プリズムの作用で入射光を偏向する。一方、電圧オン時には、液晶層とプリズム層の屈折率がほぼ等しくなり、入射光をそのまま直進させる。
【0037】
図4は、第1実施例の光偏向液晶セル(カイラルピッチ2μmのサンプル)の電圧オン時の写真(上側)と電圧オフ時の写真(下側)を並べて示し、光偏向液晶セルを通して直線を観察している状態を示す。
【0038】
枠で示す領域内が、プリズムが形成され電圧オフ時にフォーカルコニック状態を示した部分である(以下の説明の評価対象部分)。この領域の上側は、プリズムが形成されていない部分であり、この領域の下側は、プリズムは形成されているが電圧オフ時にフォーカルコニック状態を示さずに散乱してしまった部分である(垂直配向による規制力が弱かったものと思われる)。
【0039】
図4の上側に示す電圧オン時は、光がそのまま直進透過するので、直線がそのまま観察されている。図4の下側に示す電圧オフ時は、プリズム形成部分で光が曲げられて像が横にずれている。電圧オフ時のフォーカルコニック状態に起因する像の散乱は見られるが、僅かである。
【0040】
第1実施例の光偏向液晶セルを光源と組み合わせて、車両のヘッドライトを想定した応用例の照明装置を作製した。
【0041】
図5は、応用例の照明装置を概略的に示す横方向断面図(上面断面図)である。光源21として、高輝度放電(HID)ランプを用いた。光源21から放出された光線が、楕円型リフレクタ22で反射され、楕円型リフレクタ22の焦点に配置されたシェード23に集光される。シェード23を透過した光線が、レンズ24でほぼ平行光にされて、第1実施例の光偏向液晶セル25に入射する。光偏向液晶セル25を経て、照明装置から光が出射される。光偏向液晶セル25への印加電圧を、制御装置26が切り替える。
【0042】
光偏向液晶セル25は、ヘッドライト正面から見て(地面に対して)プリズム長さ方向が水平になるようにセットされている。また、プリズム側が光源21側になるようにセットされている(なお、プリズム側を光源21と反対側にしても、光偏向作用は変わらない)。
【0043】
カイラルピッチが1μm、2μm、3μm、5μm、及び9μmの光偏向液晶セルで、それぞれ応用例の照明装置を作製して、電圧オフ時及びオン時の投影像を観察した。まず、カイラルピッチ2μmのサンプルの観察結果について説明する。
【0044】
図6A及び図6Bは、それぞれ、電圧オン時と電圧オフ時の投影像を概略的に示すスケッチである。図6Aに示すように、充分な電圧(例えば20V)の電圧オン時に、きれいなカットオフパターンが投影されていた(ロービームに相当)。迷光など余分な方向には光は散っていなかった。
【0045】
図6Bに示すように、電圧オフにより、投影像は、電圧オン時とほぼ同じ大きさのまま、上方向に3°程度移動した(ハイビームに相当)。電圧オン時のロービームと、電圧オフ時のハイビームとで、明るさは同程度であった。電圧オン時の投影像は残っておらず、光偏向液晶セルへの入射光はすべて偏向されていた。
【0046】
なお、実施例の光偏向液晶セルでは、偏向角度が3°程度となったが、プリズム斜面の角度(底角)を変化させることにより、偏向角度を変えることができる。
【0047】
なお、電圧を徐々に上げていく場合、投影像は、電圧オフ時の像から大きさを変えず連続的に移動するのではなく、途中は上下にやや広がり、充分高い電圧(20V以上・交流150Hz)で、ようやく同じ大きさでくっきり結像した。これは、基板上の透明電極と液晶層との間にプリズム層が介在しており、プリズム層は場所により厚さが異なるため、液晶層に実質的にかかる電圧(分圧)が場所により異なり、面内で屈折率の分布が生じるためと考えられる。
【0048】
なお、光偏向液晶セルをセットする向きを上下反転して、電圧オン時に相対的にハイビーム、電圧オフ時に相対的にロービームとすることもできる。なお、フェールセーフの観点からは、電圧オフ状態でロービームが保たれる方が望ましい。
【0049】
一方、オフ時の散乱の影響を避けて、カットオフパターンをきれいに出すという観点からは、電圧オンでロービームとする方が望ましい。
【0050】
次に、投影状態のカイラルピッチによる差について説明する。カイラルピッチ1μmでは、電圧オフ状態で弱い散乱が見られた。電圧印加により、投影像が移動するとともに、液晶セルの透明性が上がり、投影像のカットオフパターンが明瞭になった。
【0051】
カイラルピッチが3μm以上になると、電圧オフの状態で、部分的に投影像が曲げられていない部分が見られるようになった。このような部分は、カイラルピッチ3μmではごく一部であったが、カイラルピッチが5μmになると増え、カイラルピッチ9μmでは、曲げられていない部分の面積の方が大きくなった。これらの液晶セルにおいて、像が曲げられている部分は、電圧印加により移動したが、像が曲げられていなかった部分は、電圧を印加しても移動しなかった。
【0052】
カイラルピッチが長いほど、つまり、カイラル剤の濃度が低いほど、像が曲げられない部分が広くなることから、この現象について、以下のような原因が推測される。カイラルピッチが長くなるほど、カイラル剤が液晶分子の向きを捩る力が不足して、電圧オフ状態においても、液晶分子が垂直配向しやすくなると考えられる。つまり、像が曲げられていない部分は、電圧オフ時において既にホメオトロピック状態になっており、電圧を印加しても配向状態を変えないと推測される。
【0053】
電圧オフ状態での良好な光偏向という観点からは、カイラルピッチは、1μm及び2μmが良く、3μmも可であり、5μmは部分不良を示し、9μmは不可であり、カイラルピッチが長いほど、電圧オフ時の光偏向が難しいといえる。一方、電圧オフ状態での散乱という観点からは、カイラルピッチが1μmで弱い散乱が生じ、2μm以上でほぼ散乱は無くなり、カイラルピッチが短いほど、散乱が大きいといえる。従って、これらの結果をまとめると、カイラルピッチは1μm以上5μm未満が好ましく、1μm以上3μm以下がさらに好ましいといえる。
【0054】
以上説明したように、液晶セル内部にプリズム層を設け、フォーカルコニック状態とホメオトロピック状態とを電圧で切り替えることにより、液晶層の屈折率を変化させて、光の進行方向を変える光偏向セルとして機能させられる。フォーカルコニック状態とホメオトロピック状態を用いることにより、基板法線方向からの入射光の偏光方向に依らずに、光偏向を行うことができる。
【0055】
なお、応用例として、上下方向に光偏向を行う照明装置について説明したが、プリズム長さ方向を変えることにより、偏向方向を変えることができる。例えば、左右方向の光偏向を行いたい場合は、光偏向液晶セルを、ヘッドライト正面から見て(地面に対して)プリズム長さ方向が垂直になるようにセットすればよい。
【0056】
なお、実施例の光偏向液晶セルは、車両のヘッドライト以外にも、各種照明装置に応用することができる。光源として、HID以外にも、発光ダイオード(LED)、電界放出型(FE)光源、蛍光灯等を用いることができる。
【0057】
次に、第2実施例の光偏向液晶セルについて説明する。
【0058】
図7は 第2実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。以下、第1実施例との違いについて説明する。第2実施例では、プリズム層3側のガラス基板31に、透明電極が形成されておらず、プリズム層3がガラス基板31上に直接形成される。プリズム層3は、第1実施例と同様にして形成できる。
【0059】
第2実施例では、プリズム層3の(液晶層側)上方に、透明電極32を形成する。まず、プリズム層3を形成したガラス基板31を、第1実施例と同様にして洗浄する。透明電極32(ITO膜)の密着性を向上させるため、プリズム層3上にSiO膜33を形成することができる。SiO膜33は、例えば、基板温度を80℃とし、スパッタリング(交流放電)で、厚さ50nm形成する。
【0060】
次に、SiO膜33上に、例えば、基板温度を100℃とし、スパッタリング(交流放電)で、厚さ100nmのITO膜を形成して、透明電極32とする。SUSマスク、高温耐熱テープ等で不要部分をマスクすることにより、所望の部分に選択的にITO膜を成膜することができる。なお、成膜方法として、スパッタリングの他に、真空蒸着、イオンビーム法、化学気相堆積(CVD)等を用いることもできる。
【0061】
次に、透明電極32を形成したガラス基板31を、洗浄機で洗浄する。例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、及び赤外(IR)乾燥を順に行う。洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄等を行うこともできる。
【0062】
次に、透明電極32上に、ポリイミド等により垂直配向膜4を形成する。例えば、日産化学製のSE−4811をフレキソ印刷で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行う。なお、垂直配向膜4の形成方法として、インクジェット、スピンコート、スリットコート、スリットアンドスピンコート等を用いることもできる。
【0063】
第1実施例と同様に、対向側のガラス基板11は、透明電極12が形成されたものであり、透明電極12上に垂直配向膜13を形成する。そして、第1実施例と同様に、両基板11、31を重ねて空セルを形成し、液晶層15を形成して、第2実施例の光偏向液晶セルを作製する。
【0064】
液晶層15は、第1実施例と同様なものであり、電圧によりフォーカルコニック状態とホメオトロピック状態とが切り替わる。プリズム側透明電極を、プリズム(液晶層側)上方に形成した第2実施例の光偏向液晶セルでも、第1実施例と同様に、光偏向を行うことができる。
【0065】
第2実施例では、プリズム側透明電極と液晶層との間にプリズム層が介在しない。これにより、プリズム層厚さの面内分布に起因した、屈折率の面内分布が低減すると考えられ、電圧を連続的に変えたとき、投影像が形状を変えずに移動することが期待される。また、投影像移動に要する駆動電圧の低下が期待される。
【0066】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0067】
1、11、31 ガラス基板
2、12、32 透明電極
3 プリズム層
3a プリズム
3b ベース層
4、13 垂直配向膜
14 ギャップコントロール剤
15 液晶層
16 メインシール剤
33 SiO
21 HIDランプ
22 楕円型リフレクタ
23 シェード
24 レンズ
25 光偏向液晶セル
26 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率異方性が正で、カイラル剤が添加された液晶層と、
相互に対向配置され、前記液晶層を挟持する第1及び第2の透明基板と、
前記第1及び第2の透明基板の、前記液晶層側上方にそれぞれ形成され、前記液晶層に電圧を印加する第1及び第2の透明電極と、
前記第1及び第2の透明基板の一方の、前記液晶層側上方に形成されたプリズム層と、
前記第1及び第2の透明基板の少なくとも一方の、前記液晶層側上方に形成された垂直配向膜と
を有し、
前記液晶層は、電圧オフ状態でフォーカルコニック状態を示す光偏向装置。
【請求項2】
前記垂直配向膜は、前記プリズム層の前記液晶層側上方に形成されている請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項3】
前記プリズム層は、アクリル系UV硬化性樹脂を材料とする請求項2に記載の光偏向装置。
【請求項4】
前記液晶層におけるカイラルピッチが、1μm以上5μm未満の範囲である請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の透明電極のうち、前記プリズム層側の電極は、前記プリズム層の前記液晶層側上方に形成されている請求項1に記載の光偏向装置。
【請求項6】
さらに、前記液晶層に光を入射させる光源を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光偏向装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−118039(P2011−118039A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273475(P2009−273475)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】