説明

光反射体用ポリエステル系樹脂組成物及び光反射体

【課題】
樹脂成形品に直接光反射金属膜を蒸着した場合でも、良好な輝度感、高反射率及び良好な金属密着性を有し、更には、高温度雰囲気下でも、反射体の良好な外観を長期間維持でき、耐熱性、離型性にも優れた光反射体用の樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)吸油量が60ml/100g以上の微粉末フィラーを1〜50重量部含む光反射体用ポリエステル系樹脂組成物、及び、これを溶融成形してなる成形品の少なくとも一部に、金属膜が形成されてなる光反射体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射体用のポリエステル系樹脂組成物に関し、更には該樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品の少なくとも一部に、金属膜が形成されてなる光反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ランプ用部材であるハウジング、リフレクター及びエクステンションや家電照明器具等の光反射体には、ランプ光源の方向性、反射性のために、高い輝度感、平滑性、均一な反射率、更には高い耐熱性等が要求されている。最近は、従来使用されてきた金属製(板金)のものや、熱硬化性樹脂に金属メッキ加工や金属薄膜を蒸着したもの等に代えて、成形加工性や生産性に優れる熱可塑性樹脂に金属膜を蒸着したものが主流となってきている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂から得られる光反射体の製造方法としては、樹脂を成形して得られた成形品にアンダーコート等の前処理(下塗り処理)を行った後に、真空蒸着などの手法で光反射金属層を形成する方法から、よい経済的な方法、即ち、下塗り処理を行わずに成形品に直接蒸着する直接蒸着法への改良が求められている。直接蒸着法により成形品の一部に光反射層が付与された反射体が、高い輝度感や均一な反射率を有するためには、蒸着前の樹脂成形品自体が良好な表面平滑性を有し、且つ、高い光沢性及び輝度感を有することが必要である。
【0004】
一般に、成形品の輝度感を高めるために、成形時に用いる金型の表面を著しく研磨すると、成形時に成形品を取り出す際の型離れ(離型性)が悪くなり、成形サイクルが低下する傾向があった。また、自動車用ランプや家電照明器具等の用途向けには、樹脂の耐熱性も重要であるが、耐熱性を付与するためタルクやマイカ等の無機充填材を添加した場合には、これらフィラーの浮き出しが顕著となる傾向があった。
【0005】
光反射体用の熱可塑性樹脂として使用されているポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と称することがある)は、その速い結晶化速度のため、金型内での固化が速く、一般に良好な鏡面転写性を得るのが難しい。そこで、直接金属蒸着性に優れ、高光沢感、良表面性を有する成形品を得る方法として、例えば、特許文献1〜4には、ポリエステル樹脂に、ポリアリレート樹脂やポリカーボネート樹脂等の非晶性ポリマーを配合し、更に、無機充填材を配合した樹脂組成物を用いることにより、直接蒸着性に優れる光反射体が得られることが開示されている。
【0006】
これらの特許文献において、非晶性ポリマーは、樹脂組成物の結晶化速度を下げて金型転写性を向上させると共に、フィラーの浮き出しを抑制するために配合されている。しかし、これらの非晶性ポリマーは耐熱性が低いため、高温使用下において、非晶性ポリマーに起因して表面性や輝度感の低下を招き、光反射体としての耐熱性レベルを低下させる原因となっている。また、高いガラス転移温度を有するポリカーボネート樹脂等の非晶性ポリマーは、PBT樹脂との相溶性が悪く、良好な表面性を得にくいという傾向があった。
【0007】
また、これらの特許文献に記載の方法では、成形時に揮発分のガスが発生するため、成形品表面に曇り(ヘイズ)状の外観不良を生じ、連続的に良好な成形品を得ることができず、金型の磨きや拭き取り等の新たな対策が必要となっていた。更に、高温度雰囲気下に曝した場合には、反射金属表面を犯してしまい、曇りが発生するという問題があった。
【0008】
従って、樹脂成形品に直接光反射金属膜を蒸着した場合でも、良好な輝度感、高反射率及び良好な金属密着性を有し、更には、高温度雰囲気下でも反射体の良好な外観を長期間維持でき、耐熱性、離型性にも優れた光反射体用の樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開平11−293099号公報
【特許文献2】特開平11−241005号公報
【特許文献3】特開2005−41977号公報
【特許文献4】特開2005−146103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決手段は、樹脂成形品に直接光反射金属膜を蒸着した場合でも、良好な輝度感、高反射率及び良好な金属密着性を有し、更には、高温度雰囲気下でも、発生ガスを抑制できるため、反射体の良好な外観を長期間維持でき、耐熱性、離型性にも優れた光反射体用の樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、微粉末フィラーの吸油量に着目し、PBT樹脂に特定の吸油量を有する微粉末フィラーを配合することにより、良好な輝度感、高反射率及び良好な金属密着性を有し、更には、高温度雰囲気下でも、発生ガスを抑制できるため、反射体の外観を維持でき、耐熱性、離型性にも優れた光反射体用の樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)吸油量が60ml/100g以上の微粉末フィラーを1〜50重量部含むことを特徴とする光反射体用ポリエステル系樹脂組成物、及び、これを溶融成形してなる成形品の少なくとも一部に、金属膜が形成されてなることを特徴とする光反射体、に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、輝度感、曇りの有無、反射像の鮮明性等で表される成形後の表面外観に優れていることから、直接金属蒸着性に優れる。加えて高温度雰囲気下においても、良好な表面外観や高反射率、金属密着性等の特性が損なわれることがないため、自動車ランプ用途や家電照明器具用途等として好適に用いることができ、特には自動車ランプ部材であるハウジング、リフレクター及びエクステンションとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂
本発明における(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、単独のポリアルキレンテレフタレート樹脂の他、アルキレンテレフタレートのコポリエステル、複数種類のポリアルキレンテレフタレート樹脂の混合物などが挙げられる。
【0015】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂は、ジオール成分とテレフタル酸とを主成分とするポリエステル樹脂である。ジオール成分としては、エチレングリコール、1、4ーブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2’−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。ポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、好ましくは、ポリブチレンテレフタレート及び/又はポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0016】
アルキレンテレフタレートのコポリエステルとしては、アルキレンテレフタレート単位を主構成単位とするコポリエステルであり、2種以上のジオール成分とテレフタル酸からなるコポリエステルの他、ジオール成分、テレフタル酸、及びテレフタル酸以外のジカルボン酸からなるコポリエステルなどが挙げられる。テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸などが挙げられる。アルキレンテレフタレートのコポリエステルの具体例としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートなどが挙げられる。
【0017】
複数種類のポリアルキレンテレフタレート樹脂の混合物としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート以外の他のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、ポリブチレンテレフタレートと上述したアルキレンテレフタレートのコポリエステルとの混合物などが挙げられる。中でも、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとの混合物、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート/イソフタレートとの混合物が好ましく、特には、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートの混合物が好ましい。このような混合物を用いることにより、単独の樹脂を用いる場合に比べて、光反射体の初期外観、加熱処理後の外観及び反射率に、更に優れるというメリットがある。ポリアルキレンテレフタレート樹脂の混合物を用いる場合には、他の樹脂成分と溶融混練する際に、各ポリアルキレンテレフタレート樹脂を一緒に混合して樹脂組成物を製造するのが良い。
【0018】
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)の混合物を用いる場合の、PBTとPETの重量比(PBT/PET)は、好ましくは100〜40/0〜60であり、より好ましくは95〜55/5〜45である。また、(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂として、PBTとPBT/イソフタレートの混合物を用いる場合の重量比(PBT/(PBT−イソフタレート))は、好ましくは100〜50/0〜50であり、より好ましくは95〜55/5〜45である。混合物中のPBTの割合が上記範囲内であると、表面性や耐熱性が向上する傾向にある。これらの混合物は溶融混練時および成形時にエステル交換などを起こし、耐熱性が低下する場合があるので、これを抑制するために、有機リン酸エステル化合物などの熱安定剤を配合するのがよい。
【0019】
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の固有粘度[η]は、通常、0.5〜1.5dl/gである。ここで、固有粘度の測定は、フェノールとテトラクロクエタンの1:1(重量比)の溶媒中、30℃の温度において測定される。具体的には、ポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、0.6〜1.4dl/g、更には0.7〜1.0gl/gが好ましく、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.5〜1.0dl/g、更には0.55〜0.8dl/gが好ましく、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレートの固有粘度は、0.8〜1.3dl/g、更には0.9〜1.2dl/gが好ましい。固有粘度が低すぎると、機械的強度が十分でなく、一方大きすぎると溶融成形時の流動性が低下し、光反射体としての高輝度を発揮するのが困難となる傾向がある。
ポリアルキレンテレフタレート樹脂の混合物を用いる場合には、各々の樹脂の固有粘度が上記範囲であればよい。
【0020】
また、(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、通常60eq/トン以下、好ましくは10〜50eq/トンである。末端カルボキシル基量が60eq/トンより高いと、樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすく、また、末端カルボキシル基量が過度に低いポリアルキレンテレフタレート樹脂の製造は、生産性が悪くなるという傾向がある。本発明において末端カルボキシル基量の測定は、ベンジルアルコール25mlにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解させ、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより行う。末端カルボキシル基量の調整は、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法などにより行うことができる。
【0021】
(B)微粉末フィラー
本発明の微粉末フィラーとは、平均粒径が、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下の微粉末からなる充填材である。ここで、平均粒径は、例えば、微粉末フィラーを、3%中性洗剤水溶液に適量加え、攪拌して得られた分散液について、(株)堀場製作所製LA−700を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して求めた値である。下限は特に制限されないが、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上であるのがよい。上記の範囲内の平均粒径を有していれば、(B)微粉末フィラーの形状は、繊維状、針状、粒状のいずれであってもよい。
【0022】
本発明においては、この(B)微粉末フィラーとして、吸油量が60ml/100g以上のものを使用することを特徴とし、これにより、得られる光反射体の初期外観、加熱処理後の外観、反射率及び金属膜の密着性等に優れるというメリットがある。ここで、吸油量とは、JIS K5101−13−2に準拠して測定される値である。
(B)微粉末フィラーの吸油量は、好ましくは80〜1000ml/100gであり、より好ましくは100〜800ml/100g、更に好ましくは150〜600ml/100g、特に好ましくは200〜450ml/100gである。吸油量が小さいと、溶融成形時および高温度雰囲気下で発生するガスのトラップが不十分となる傾向があり、光反射体の曇りの防止効果が十分でない場合がある。一方、過度に大きい吸油量の微粉末フィラーの使用は、溶融成形の際に流動性が悪化する傾向があり、また機械的強度の低下も懸念される。
【0023】
該(B)微粉末フィラーとしては、有機フィラー及び無機フィラーのいずれでもよいが、中でも、シリカ、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト、石英、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、雲母、黒鉛、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化珪素、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム等から選ばれる無機フィラーが好ましい。更には、光反射体の初期外観、加熱処理後の外観、反射率及び金属膜の密着性の点から、シリカ、焼成カオリン、ゼオライト、タルク、マイカ、炭酸カルシウム及び硫酸バリウムが好ましく、特には、シリカ、焼成カオリン及びゼオライトが好ましい。中でも、BET比表面積が150〜500m/g、更には180〜400m/gの微粉末フィラーが好ましい。また、これら微粉末フィラーの2種以上を併用して用いることもできる。更に、微粉末フィラーは、必要に応じて表面処理が施されていてもよい。
【0024】
(B)微粉末フィラーの配合量は、(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、1〜50重量部である。該配合量が1重量部未満であると、溶融成形時および高温度雰囲気下で発生するガスのトラップ効果が生じにくい傾向がある。一方、50重量部を越えると、微粉末フィラーが成形品表面に相対的に多く浮き出してくるため、金属蒸着後の光沢性が不十分となる傾向がある。微粉末フィラーの配合量は、好ましくは2〜40重量部であり、より好ましくは3〜30重量部である。
【0025】
(C)離型剤
本発明の樹脂組成物においては、金型からの離型性を高めるという点から、更に、(C)離型剤を配合することが好ましい。該(C)離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、金属膜密着性を阻害しにくいという点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0026】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、ポリオレフィン系化合物の分散が良好であるという点から、重量平均分子量が、700〜10,000、更には900〜8,000のポリエチレンワックスが好ましい。
【0027】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物などが挙げられ、中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸で構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。
【0028】
また、シリコーン系化合物としては、樹脂との相溶性などの点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端および/または片末端に有機基を導入したシリコーンオイルなどが挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などが挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
上述した(C)離型剤の中でも、得られた成形品と金属蒸着膜との接着性を低下させないという点から、脂肪酸エステル系化合物が特に好ましい。
【0029】
(C)離型剤の配合量は、(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.05〜2重量部である。該配合量が0.05重量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、2重量部を越えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、さらに金属蒸着時に未反応物の浮き出しが生じ、成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤の配合量は、好ましくは0.07〜1.5重量部、更に好ましくは0.1〜1.0重量部である。
【0030】
本発明においては、更に酸化防止剤又は熱安定剤を添加することができる。これらの添加剤は、押出し時や成形機内での溶融熱安定性の向上効果があり、ガスの付着による表面曇りの発生が少なく、良好な外観や表面平滑性を有する成形品を連続的に長時間生産する上で有用である。更に、光反射体が高温度条件下におかれた場合でも、樹脂から発生するガスや分解物等の生成を抑制し、良好な外観や表面平滑性を維持する上でも特に有用である。本発明で使用できる酸化防止剤又は熱安定剤としては、既知のものが使用できるが、中でも、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類及び有機リン化合物類から選ばれる少なくとも1種が好ましく、更には有機リン化合物類が好ましい。
【0031】
有機リン化合物類としては、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物等が挙げられ、中でも、好ましくは有機ホスフェート化合物である。
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは下記一般式(1)で表される長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物等が挙げられる。
【0032】
【化1】

(一般式(1)中、R1 及びR2 は、各々独立に、炭素原子数8〜30のアルキル基を示す。)
【0033】
1 及びRの具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物の具体例としては、ジオクチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソオクチルホスフェート、ジノニルホスフェート、ジイソノニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジトリデシルホスフェート、ジイソトリデシルホスフェート、ジミリスチルホスフェート、ジパルミチルホスフェート、ジステアリルホスフェート、ジエイコシルホスフェート、ジトリアコンチルホスフェート等が挙げられる。好ましくは、ジステアリルホスフェート、ジパルミチルホスフェート、ジミリスチルホスフェートが選ばれる。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、更にポリカーボネート樹脂などの樹脂や通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料等を含有することができる。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、上述した各成分(A)〜(C)、及び必要に応じて用いられる各種添加成分を配合し、溶融混練することにより得ることができる。各成分の配合方法は、通常用いられる装置、例えば、リボンブレンダー、ヘンセルミキサー、ドラムブレンダー等を用いて行われる。溶融混練法としては、各種押出機、ブラベンダーブラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサー等が使われる。溶融混練に際しての加熱温度は、通常230〜290℃である。
【0036】
上述した各成分は、任意成分を含め、溶融混練機に一括して供給することもできるし、順次供給することもできる。また、任意成分を含めた各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくこともできる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、既知の種々の成形方法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等の方法により、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野等の成形品を得ることができる。特に好ましい成形方法は、流動性の良さから射出成形法であり、射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。また、使用する金型表面の鏡面処理は、標準的な処理でかまわないが、表面の十点平均粗さRzが、0.2以下、好ましくは0.1以下の金型を使用するのが好ましい。
【0038】
本発明においては、上述した方法により得られた成形品の表面の少なくとも一部に、金属膜を直接蒸着することにより光反射体を得ることができる。金属蒸着の方法としては、例えば、真空中で金属を蒸発させ、その蒸気を成形品の表面に付着、固化させて金属薄膜を形成する方法が挙げられる。蒸着する金属としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられ、好ましくはアルミニウムである。蒸着される金属膜の膜厚は、通常1〜1000nmであり、10〜500nmが好ましく、100〜200nmが更に好ましい。また、成形品と金属膜との接着力を上げるために、蒸着に先立ち成形品の表面を洗浄、脱脂してもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、離型性に優れており、得られる成形品の表面は、平滑で良好であるため、プライマー処理を施さず、直接金属膜を蒸着しても、金属蒸着体との接着性に優れ、良好な光沢表面を得ることができる。また、高温度条件下で長時間使用した場合でも、90%以上の良好な反射率を維持することができ、好ましくは93%以上、更に好ましくは94%以上の反射率を維持することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[原材料]
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製5008、[η]=0.85、末端カルボキシル基量=20eq/t
(a−2)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂):三菱化学社製GS385、[η]=0.65
【0042】
(B)微粉末フィラー
(b−1)湿式シリカ:トクヤマ社製 商品名ファインシールE−50、平均粒径=2μm(コールターカウンター法による測定値)、吸油量=250ml/100g
(b−2)乾式シリカ:トクヤマ社製 商品名レオロシールMT−10、吸油量=250ml/100g
(b−3)ゼオライト:東ソー社製 商品名HSZ−320NAA、平均粒径=6μm、吸油量=380ml/100g(BET比表面積による換算値)
(b−4)焼成カオリンA:ENGELHARD社製 商品名ウルトレックス98、平均粒径=2.3μm、吸油量=90ml/100g
【0043】
(b−5)焼成カオリンB:ENGELHARD社製 商品名SATINTONE W、平均粒径=3.1μm、吸油量=50ml/100g
(b−6)カオリン:ENGELHARD社製 商品名ASP170、平均粒径=0.4μm(沈降法による測定値)、吸油量=40ml/100g
(b−7)タルク:林化成社製 商品名ミクロンホワイトPKC、平均粒径=11μm、吸油量=30ml/100g
(b−8)タルク:林化成社製 商品名ミクロンホワイト5000S、平均粒径=2.8μm、吸油量=50ml/100g
【0044】
(C)離型剤
(c−1)脂肪酸エステル(グリセリンモノステアレート):理研ビタミン社製 商品名リケマールS100A
(c−2)エポキシ変性シリコーンオイル:信越シリコン社製、KF102、粘度=4000cST
(D)他の添加剤
(d−1)ステアリン酸ホスフェート:旭電化(株)製、商品名AX−71
【0045】
[光反射体の特性評価方法]
以下の評価において行った熱風乾燥機による加熱処理は、光反射体の実際の使用態様である高温度雰囲気下の条件を想定して行ったものである。
(1)外観
まず、実施例及び比較例において製造した光反射体について下記の基準により外観を評価した。次いで、この光反射体を、熱風乾燥機(ヤマト科学(株)製送風定温恒温器DN−43)を用い、(条件1)160℃で24時間、及び、(条件2)180℃で24時間の2条件で、各々加熱処理後の反射体について、下記の基準により評価を行った。
【0046】
A:高い輝度感を有し、曇りは無く、反射像が鮮明に映る。
B:高い輝度感を有するものの反射像は多少ぼやける。ガスによる曇りがややみられる。
C:高い輝度感を有するものの反射像はぼやける。ガスによる曇りがみられる。
D:表面が均一でなく、反射像は歪んで見える。ガスによる曇りがみられる。
E:表面が均一でなく、反射像を認識できない。曇りが酷く、表面が白くみえる。
【0047】
(2)加熱処理後の反射率
実施例及び比較例において製造した光反射体を、熱風乾燥機を用い、(条件2)180℃で24時間の条件下で加熱処理した反射体につき、コニカミノルタ 分光測色計 CM−3600dを用いて反射率を測定した。加熱処理後の反射率が90%以上であれば、通常光反射体としての機能を十分果たし良好である。
【0048】
(3)テープ剥離性
実施例及び比較例において製造した光反射体を、熱風乾燥機を用い、(条件2)180℃で24時間の条件下で加熱処理した反射体について、アルミを蒸着した表面にナイフで傷を入れて、その上からセロテープ(登録商標)を貼り付け、そのセロテープ(登録商標)をはがした時の接着性を下記の基準により評価した。
○:アルミ蒸着膜のはがれがほとんどみられない。
△:アルミ蒸着膜のはがれが多少みられる。
×:アルミ蒸着膜のはがれが著しい。
【0049】
[実施例1〜8及び比較例1〜5]
表1及び表2に記載の配合量となるように、PBT樹脂、微粉末フィラー、離型剤及びその他の添加剤を十分にドライブレンドした後、250℃に設定した2軸スクリュウ押出機を用い、15Kg/hrの押出速度でペレット化しPBTの樹脂組成物を得た。得られたペレットを射出成形前に120℃で6時間乾燥し、型締め力が75tonの射出成形機、及び成形品形状が100mm×100mm×3mmの鏡面金型を用いて、成形温度250℃、金型温度80℃の条件下で成形品を製造した。実施例においては、いずれも射出成形時の離型性は良好であり、無抵抗で成形品の取り出しが可能であった。成形品はプライマー処理を施すことなしに、直接アルミニウムを140nmの膜厚となるよう蒸着し、光反射体を得た。得られた反射体について、上述した各種評価を行った結果を表1及び表2に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

表1及び表2より次のことが判明する。
(1)本発明の特定の微粉末フィラーを使用した実施例1は、同一種類であるが吸油量が60ml/100g未満の微粉末フィラーを使用した比較例1に比べて、加熱処理後の光反射体の外観、反射率、テープ剥離性のいずれも優れることが分かる。
(2)ポリアルキレンテレフタレート樹脂として、PBTとPETの混合物を使用した実施例2〜8は、PBTのみを使用した実施例1に比べて、初期外観、加熱処理後の光反射体の外観、及び反射率が更に優れることが分かる。また、比較例2〜5においては、PBTとPETの混合物を使用しているが、吸油量が60ml/100g未満の微粉末フィラーを使用した場合には、初期外観、加熱処理後の外観、反射率、テープ剥離性に劣ることが分かる。
(3)微粉末フィラーとして、シリカ又はゼオライトを使用した実施例6〜8においては、配合量が低いにもかかわらず、初期外観、加熱処理後の外観、反射率及びテープ剥離性のすべての性能に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)吸油量が60ml/100g以上の微粉末フィラーを1〜50重量部含むことを特徴とする光反射体用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
該(B)微粉末フィラーの平均粒径が10μm以下である請求項1に記載の光反射体用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
該(B)微粉末フィラーが、シリカ、焼成カオリン及びゼオライトからなる群から選ばれるものである請求項1又は2に記載の光反射体用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
該(A)ポリアルキレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、更に(C)離型剤を0.05〜2重量部含む請求項1〜3のいずれかに記載の光反射体用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
該(C)離型剤が、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物からなる群から選ばれるものである請求項4に記載の光反射体用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の該樹脂組成物を溶融成形してなる成形品の少なくとも一部に、金属膜が形成されてなることを特徴とする光反射体。

【公開番号】特開2007−106877(P2007−106877A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298740(P2005−298740)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】