説明

光反射膜の製造方法

【課題】透明性が高く、光反射性に優れる、複数のコレステリック液晶層を有する光反射膜を安定的に製造可能な方法を提供する。
【解決手段】コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法であって、コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、第2の工程において、波長340nm以下の光の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して、前記硬化性の液晶組成物に、紫外線を照射する光反射膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコレステリック液晶相を固定してなる光反射層を積層した光反射膜であって、主に建造物及び車両等の窓の遮熱に利用される赤外線反射膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギーへの関心の高まりから省エネに関する工業製品へのニーズは高く、その一つとして住宅及び自動車等の窓ガラスの遮熱、つまり日光による熱負荷を減少させるのに効果のある、ガラス及びフィルムが求められている。日光による熱負荷を減少させるのには、太陽光スペクトルの可視光領域または赤外領域のいずれかの太陽光線の透過を防ぐことが必要である。
【0003】
断熱・遮熱性の高いエコガラスとしてよく用いられるのがLow−Eペアガラスと呼ばれる熱放射を遮断する特殊な金属膜をコーティングした複層ガラスである。特殊な金属膜は、例えば特許文献1に開示された真空成膜法により複数層を積層することで作製できる。真空成膜よって作製される、これらの特殊な金属膜のコーティングは反射性能に非常に優れるものの、真空プロセスは生産性が低く、生産コストが高い。また、金属膜を使うと、電磁波を同時に遮蔽してしまうために携帯電話等の使用では、電波障害を引き起こしたり、自動車に使用した場合にはETCが使えないなどの問題がある。
特許文献2には、金属微粒子を含有する層を有する熱線反射性透明基材が提案されている。金属微粒子を含有する膜は、可視光の透過性能に優れるものの、遮熱に大きく関与する波長700〜1200nmの範囲の光に対する反射率が低く、遮熱性能を高くできないという問題がある。
また、特許文献3には、赤外線吸収色素を含む層を有する熱線遮断シートが開示されている。赤外線吸収色素を利用すると、日射透過率を下げることができるものの、日射の吸収による膜面温度上昇と、その熱の再放出によって遮熱性能が低下するという問題がある。
【0004】
また、特許文献4には、所定の特性の位相差フィルムと反射型円偏光板とを有する、赤外線に対する反射能を有する積層光学フィルムが開示され、該位相差フィルムとして、コレステリック液晶相を利用した例が開示されている。
また、特許文献5には、可視光透過性サブストレートと赤外光反射性コレステリック液晶層とを備えた赤外光反射性物品が開示されている。
また、特許文献6には、複数のコレステリック液晶層を備えた偏光素子が開示されているが、この様な、コレステリック液晶層を積層してなる積層体は、主には、可視光領域の光を効率的に反射させる用途に供せられるものである。
【0005】
ところで、コレステリック液晶層を複数備えた積層体を作製する方法の一例として、以下の方法がある。まず、コレステリック液晶材料を基板等の表面に塗布し、その塗膜を乾燥・加熱して、コレステリック液晶相とし、紫外線を照射して硬化反応を進行させ、その配向を固定して1層を形成する。その後、これらの操作を繰り返して、複数層の積層体を製造する方法である。
また、特許文献7には、重合性液晶に紫外線を照射することによって硬化させてコレステリック液晶層を形成する方法では、紫外線の照度を調整することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−263486号公報
【特許文献2】特開2002−131531号公報
【特許文献3】特開平6−194517号公報
【特許文献4】特許第4109914号公報
【特許文献5】特表2009−514022号公報
【特許文献6】特許第3500127号公報
【特許文献7】特許第4008358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記積層体の製造方法例では、各層を形成するごとに、紫外線を照射して硬化反応を進行させるため、初期に形成された層には、繰り返し紫外線が照射されることになる。本発明者が検討した結果、この様な過剰な紫外線照射によって、層中の材料(主には液晶)の劣化が起こり、積層体全体の透明性が低下するという問題があることがわかった。上記した通り、特許文献7には、紫外線の照度を一定範囲内に調整することで、広領域のコレステリック液晶フィルムを作製する方法が開示されている。しかし、液晶相を固定してなる複数の層を有する積層体を作製する際には、紫外線の照度を調整するだけでは、層中の材料の劣化による透明性の低下を抑制するのは困難である。
【0008】
本発明は、上記諸問題に鑑みなされたものであって、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する光反射膜の製造において、紫外線照射によって生じる透明性の低下を防止することを課題とする。より具体的には、本発明は、透明性が高く、光反射性に優れる、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する光反射膜を、安定的に製造可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法であって、
コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び
前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、
第2の工程において、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する光反射膜の製造方法。
[2] コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法であって、
コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び
前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、
第2の工程において、波長340nm以下の光を含まない紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射する光反射膜の製造方法。
[3] 前記第2の工程において、波長340nm以下の光を含まず、且つ波長340nmを超え365nm以下の波長範囲の少なくとも一部に強度分布を有する紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射する[1]又は[2]の方法。
[4] 第2の工程において、波長340nm以下の紫外線をカットするフィルタを介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 第2の工程において、波長365nm以下の紫外線をカットするフィルタを介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する[1]又は[2]の方法。
[6] 第1の光反射層が、紫外線吸収能を有する基板上に存在し、第2の工程において、該基板を介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する[1]〜[5]のいずれかの方法。
[7] 前記紫外線吸収能を有する基板が、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層を少なくとも有する基板、又は紫外線吸収剤を含有する基板である[6]の方法。
[8] 前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である[7]の方法。
[9] 第2の光反射層の厚みが3μm以上である[1]〜[8]のいずれかの方法。
[10] 第1及び第2の光反射層が、互いに逆向きの旋回性のキラル剤を含有する[1]〜[9]のいずれかの方法。
[11] 基板の一方の表面上に、互いに逆方向の円偏光を反射する第1及び第2の光反射層を少なくとも有する光反射膜を製造する[1]〜[10]のいずれかの方法。
[12] 基板の双方の表面上に、互いに逆方向の円偏光を反射する第1及び第2の光反射層を少なくとも有する光反射膜を製造する[1]〜[10]のいずれかの方法。
[13] 反射する最大波長のピーク(極大値)が700nm以上に1つ以上ある光反射膜を製造する[1]〜[12]のいずれかの方法。
[14] 反射する最大波長のピーク(極大値)が800〜1300nmの範囲に1つ以上ある光反射膜を製造する[1]〜[13]のいずれかの方法。
[15] 建造物又は車両の窓に使用される遮熱用の光反射膜を製造する[1]〜[14]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する光反射膜の製造において、層中の材料が劣化することによって生じる透明性の低下を防止することができる。より具体的には、本発明は、透明性が高く、光反射性に優れる、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する光反射膜を、安定的に製造可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法によって製造される光反射膜の一例の断面図である。
【図2】本発明の製造方法によって製造される光反射膜の他の例の断面図である。
【図3】本発明の製造方法によって製造される光反射膜の他の例の断面図である。
【図4】本発明に使用可能な紫外線吸収剤の紫外線吸収曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明は、コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法に関する。本発明の製造方法によって製造される光反射膜の例を図1〜図3にそれぞれ示す。
図1に示す光反射膜10は、基板12の一方の表面上に形成された、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層14a及び14bを有し、図2に示す光反射膜10’は、さらにその上に、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層16a及び16bを有する。また、図3に示す光反射膜10”も光反射膜10’と同様、4つの光反射層を有するが、光反射膜10”では、基板の双方の表面上に2層ずつ配置されていて、即ち、図3に示す光反射膜10”は、基板12の一方の表面上に、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層14a及び14bと、並びに他方の表面上に、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層16a及び16bとを有する。
【0013】
図1〜図3中にそれぞれ示す光反射膜10、10’及び10”は、各光反射層が、コレステリック液晶相を固定してなるので、当該コレステリック液晶相の螺旋ピッチに基づいて、特定の波長の光を反射する光選択反射性を示す。例えば、隣接する光反射層(14aと14b、16aと16b)が、同程度の螺旋ピッチを有するとともに、互いに逆向きの旋光性を示していると、同程度の波長の左及び右円偏光のいずれも反射することができるので好ましい。例えば、図1の光反射膜10の一例として、光反射層14a及び14bのうち、光反射層14aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、光反射層14bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、光反射層14a及び14bで、螺旋ピッチが同程度d14nmである例が挙げられる。また、図2及び図3の光反射膜10’及び10”のそれぞれの一例として、光反射層14a及び14bの関係が光反射膜10の上記例と同様であり、光反射層16aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、光反射層16bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、光反射層16a及び16bで螺旋ピッチが同程度d16nmであり、及びd14≠d16を満足する例が挙げられる。この条件を満足する光反射膜10’及び10”は、上記光反射膜10の例と同様の効果を示すとともに、さらに、光反射層16a及び16bによって、反射される光の波長帯域が拡張し、広帯域の光反射性を示す。
【0014】
本発明の製造方法によって製造される光反射膜の一例は、反射する最大波長のピーク(極大値)が、700nm以上である、いわゆる赤外線反射膜である。赤外線反射膜は、反射する光の波長のピークが、800〜1300nmの範囲に1つ以上あるのが好ましい。例えば、図2及び図3中に示す光反射膜の様に、4層以上の光反射層を有する態様では、右旋光性及び左旋光性の光反射層14a及び14bと、右旋光性及び左旋光性の光反射層16a及び16bとが、螺旋ピッチが互いに逆であると、800〜1300nmの範囲に、光反射層14a及び14bによって反射される光のピークと、光反射層16a及び16bによって反射される光のピーク、即ち当該範囲に反射する光の波長ピークを2つ(例えば、1000nmと1200nm)有する赤外線反射膜とすることができる。波長700nm以上の光に対する選択反射性は、一般的には、螺旋ピッチが500〜1350nm程度(好ましくは500〜900nm程度、より好ましくは550〜800nmnm程度)であり、及び厚みが1μm〜8μm程度(好ましくは3〜8μm程度)のコレステリック液晶層によって達成される。層の形成に用いる材料(主には液晶材料及びキラル剤)の種類及びその濃度等を調整することで、所望の螺旋ピッチの光反射層を形成することができ、また、キラル剤又は液晶材料そのものを選択することで、所望の旋光性のコレステリック液晶相とすることができる。また層の厚みは、塗布量を調整することで所望の範囲とすることができる。
【0015】
本発明は、図1〜図3に示す光反射膜の様に、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する光反射膜の製造方法に関する。当該光反射層は、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相とした後に、紫外線を照射して硬化反応を進行させて、当該配向状態を固定して形成される。各層を形成するたびに、硬化性液晶組成物の塗布、乾燥、及び紫外線照射、の工程を繰り返すので、初期に形成される層(例えば図1〜図3では、光反射層14a)は、その後、他の光反射層(例えば、図1〜図3では、光反射層14b)を形成するたびに、紫外線の照射を受けてしまう。この様な過度な紫外線の照射は、層中に含有される材料(主には液晶材料)を劣化させ、それに起因して、層及び光反射膜全体の透明性が低下する。本発明の製造方法によれば、初期に形成される光反射層が、その後、他の光反射層の形成工程の際に、繰り返し紫外線の照射を受けても、透明性を過度に低下させず、高い透明性を維持するとともに、複数の光反射層を積層することで優れた光反射性を示す、光反射膜を製造することができる。
【0016】
なお、本発明の製造方法が、図1〜図3に示す態様の光反射膜、及び上記詳細に説明した例の製造方法に限定されないことは言うまでもなく、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を2以上有する光反射膜のいずれの製造にも利用することができる。
【0017】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明の光反射膜の製造方法は、コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、第2の工程において、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して、前記硬化性の液晶組成物に、紫外線を照射することを特徴とする。
【0018】
本発明の製造方法に従って、図1に示す光反射膜10の態様を製造する例について説明する。
まず、ガラス板又はポリマーフィルム等からなる基板12の表面に、光反射層14aを形成する。光反射層14aは、例えば、基板12の表面に、硬化性の液晶組成物を塗布し、乾燥してコレステリック液晶相とし、その後、紫外線を照射して硬化反応を進行させて、コレステリック液晶相を固定して、形成することができる。前記硬化性液晶組成物は、コレステリック液晶相を示すために、右旋回性又は左旋回性のキラル剤、及び/又は、不斉炭素原子を有する液晶材料を含有する。
なお、光反射層14aは、同様の操作で仮支持体上に形成した層を、基板12上に転写して形成した層であってもよい。
【0019】
次に、光反射層14aの表面に、光反射層14bを形成するために、硬化性液晶組成物を塗布する。当該硬化性液晶組成物も、光反射層14aと同様、コレステリック液晶相を示すために、右旋回性又は左旋回性のキラル剤、及び/又は、不斉炭素原子を有する液晶材料を含有する。特に、光反射層14aの形成に用いられるキラル剤と異なる方向の旋回性のキラル剤、例えば、光反射層14aの形成に用いられる液晶組成物が右旋回性のキラル剤を含有する態様では、左旋回性のキラル剤を、及び光反射層14aの形成に用いられる液晶組成物が左旋回性のキラル剤を含有する態様では、右旋回性のキラル剤を、含有しているのが好ましい。上記硬化性の液晶組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、液晶組成物をノズルから吐出して、光反射層14aの表面に塗布することもできる。
【0020】
次に、光反射層14aの表面に塗布され、塗膜となった硬化性液晶組成物を、コレステリック液晶相の状態にする。前記硬化性液晶組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、コレステリック液晶相の状態にすることができる場合がある。また、コレステリック液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、コレステリック液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的にコレステリック液晶相の状態にすることができる。液晶層14bの形成に用いる、前記硬化性液晶組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。なお、前記硬化性液晶組成物に利用可能な種々の材料については後述する。
【0021】
次に、コレステリック液晶相の状態となった塗膜に、紫外線を照射して、硬化反応を進行させるが、本発明では、この工程において、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して、前記塗膜に、紫外線を照射する。紫外線照射に利用される光源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ等が挙げられる。これらは通常、波長200〜450nm程度の光を放射する。水銀ランプは、365nmを主波長とし、254nm、303nm、313nmの紫外線を効率よく放射するランプである。メタルハライドランプ及びハイパワーメタルハライドランプは、いずれも200nm〜450nmまで広範囲にわたり紫外線スペクトルを放射し、水銀ランプに比べ300〜450nmの長波長紫外線の出力が高いのが特長である。本発明では、いずれの光源を用いても、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して照射するので、340nm〜200nmの光の強度が少なくとも低下、好ましくはカットされた、紫外光が照射されることになる。一般的には、短波長になるほどエネルギーは高いので、材料の劣化等に影響するのは、短波長側、即ち波長300nm未満の短波長の紫外線であると考えられていた。しかし、本発明者が鋭意検討した結果、驚くべきことに、波長300nm以下の光を全てカットした紫外線や、波長240nm以下の光を全てカットした紫外線を硬化反応に利用しても、当該紫外線が複数回照射された光反射層は、不透明化してしまうことがわかった。さらに検討を重ねた結果、従来、材料の劣化にはあまり影響されていないと考えられていた、300nmを越える比較的長波長の紫外線の照射が、液晶材料の劣化に大きく影響していることがわかった。この知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、材料の劣化による不透明化には、波長340nm近傍の紫外線が照射されたか否かが大きく影響することがわかった。さらに検討した結果、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下する、好ましくはカットする、フィルタや紫外線吸収層等の部材を介して、紫外線を照射すると、繰り返し紫外線が照射されても、層中の材料(特に液晶材料)の劣化を防止でき、透明性を高く維持できるとともに、光反射層として充分な強度及び光反射特性を有する層を、安定的にしかも迅速に形成できることを見出した。
【0022】
本発明の他の態様では、この工程において、波長340nm以下の光を含まない紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射する。光源として、波長340nmを超える波長範囲にのみ放射分布を有する光源を用いることによって実施することができる。また、波長340nm以下の波長範囲に放射分布を有する光源を用いる場合であっても、上記と同様340nm以下の光をカットするフィルタ等の部材を介して照射することで、波長340nm以下の光を含まない紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射することができる。
【0023】
この工程では、紫外線を照射することによって、前記液晶組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層14bが形成される。光反射層14bを形成するために紫外線を照射すると、すでに形成されている光反射層14aにも紫外線の一部が照射される。本発明では、波長340nm以下の紫外線の強度が少なくとも低下している紫外線を照射して、又は波長340nm以下の光を含まない紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射して、光反射層14bの硬化反応を進行させるので、上記した通り、光反射層14a中の材料(主には液晶材料)の劣化を抑制できる。また、波長340nm以下の紫外線の強度を低下しても、例えば、エチレン性重合性基を有する重合性成分を含有する液晶組成物の重合反応は、迅速にしかも安定的に進行するので、高い透明性を有するとともに、光反射性及び強度も良好な光反射層14bを迅速に且つ安定的に形成することができる。
【0024】
この工程の一例では、紫外線カットフィルタが用いられる。上記した通り、通常、紫外線用光源ランプから出射する紫外光の波長範囲は、200〜450nm程度である。本発明では、光源から出射される上記波長範囲の紫外線のうち、波長340nm以下の紫外線をカットする紫外線カットフィルタであれば、いずれも用いることができる。例えば、波長340nm以下の紫外線をカットする紫外線カットフィルタ、及び波長365nm以下の紫外線をカットする紫外線カットフィルタ等が挙げられる。例えば、市販品としては、DUVカットフィルタ(ウシオ電機製;波長340nm以下のカットフィルタ)を挙げることができる。また、前記性質を有するものであれば、市販品を用いることもできる。一方、波長300nm以下の紫外線、波長240nm以下の紫外線、をカットするフィルタを使用しても、上記した通り、紫外線照射による光反射層の不透明化を防止することはできないので、これらの紫外線カットフィルタは、本発明の方法には適さない。一方、紫外線カットフィルタとしては、より長波長の紫外線もカットするフィルタを使用すると、硬化反応が遅延化し、膜強度が不十分になったり、または選択反射特性が不十分になる場合がある。本発明では、波長365nmを超える紫外線にはなんら影響を与えない、紫外線カットフィルタ、又は後述する紫外線吸収層等の部材を利用するのが好ましく、340nm以下の波長をカットするフィルタを用いるのが最も好ましい。言い換えれば、本発明では、前記工程において、340nm以下の波長の光を含まない紫外線を照射する。膜強度の観点からは、340nm以下の波長の光を含まず、且つ340nmを超え365nm以下の波長範囲の少なくとも一部に強度分布を有する紫外線を利用するのがより好ましい。
【0025】
本発明の方法では、上記特性の紫外線カットフィルタを、紫外線の光源(例えばランプ)の出射面に直接取り付けてもよいし、又はルーバー及びカバー等の付帯設備に取り付けてもよい。
【0026】
この工程の他の例では、上記フィルタに代えて、又は上記フィルタとともに、紫外線吸収能を示す基板を利用することができる。具体的には、基板12として、紫外線吸収性基板を用い、硬化性液晶組成物からなる塗膜に対して、当該紫外線吸収性基板を介して、より具体的には図1中の基板12の裏面(光反射層14aが形成されていない側の面)から、紫外線を照射することで実施することができる。紫外線吸収性基板の例には、紫外線吸収層を有するガラス板及びポリマーフィルム等の基板、及びガラス板及びポリマーフィルム等の基板そのものが紫外線吸収剤を含有し、そのものが紫外線吸収能を有する基板のいずれもが含まれる。前記紫外線吸収性基板は、波長340nm以下の光を吸収して、強度を低下させる(好ましくは完全に吸収してカットする)作用を有することが好ましい。そのためには、基板に付加される紫外線吸収層、又は基板そのものが、後述する紫外線吸収剤を含有しているのが好ましい。
【0027】
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm〜800mJ/cm程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
【0028】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、コレステリック液晶相が乱れないように、コレステリック液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。紫外線照射によって進行される硬化反応(例えば重合反応)の反応率は、層の機械的強度の保持等や未反応物が層から流出するのを抑える等の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。反応率を向上させるためには照射する紫外線の照射量を増大する方法や窒素雰囲気下あるいは加熱条件下での重合が効果的である。また、一旦重合させた後に、重合温度よりも高温状態で保持して熱重合反応によって反応をさらに推し進める方法や、再度紫外線を照射する(ただし、本発明の条件を満足する条件で照射する)方法を用いることもできる。反応率の測定は反応性基(例えば重合性基)の赤外振動スペクトルの吸収強度を、反応進行の前後で比較することによって行うことができる。
【0029】
本発明の製造方法によって製造される光反射膜の一例は、波長700nm以上(より好ましくは800〜1300nm)に少なくとも1つの反射ピークのある選択反射特性を示す、いわゆる赤外線反射膜である。赤外線反射特性は、上記した通り、螺旋ピッチを500〜1350nm(より好ましくは500〜900nm、更に好ましくは、550〜800nm)程度とし、層の厚みを1〜8μm(より好ましくは3〜8μm)にすることで達成できる。即ち、赤外線反射膜の態様では、光反射層にはある程度の厚みが必要であるので、紫外線の照射がより過度になる傾向がある。よって、本発明の製造方法は、この様に、光反射層にある程度の厚み(例えば、3μm以上)が必要とされる、赤外線反射膜の製造方法として特に有用である。
【0030】
上記工程では、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層14bが形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、コレステリック液晶相の配向状態を固定する。よって光反射層の形成に用いる液晶組成物は、硬化性である。紫外線照射によって進行する硬化反応の例には、重合反応、及び架橋反応が含まれる。一例では、重合開始剤、及び重合成分(液晶化合物、キラル剤等であってもよいし、別途添加された重合性モノマーであってもよい)を含有する重合性の液晶組成物を、光反射層14aの表面に塗布し、コレステリック液晶相形成温度まで加熱し配向させた後、紫外線照射により重合反応を進行させて、当該配向状態を固定化して、光反射層を形成することができる。
なお、本発明においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に光反射層中の液晶組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、液晶組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0031】
この様にして、光反射層14a及び光反射層14bを有する、図1に示す構成の光反射膜10を作製することができる。さらに、上記工程を繰り返すことで、図2及び図3に示す様な、4層以上の光反射層を有する光反射膜を作製することができる。
本発明の製造方法に従って、図2に示す光反射膜10’を作製する一例では、上記した方法で、基板12上に、光反射層14a、及び光反射層14bを作製した後、光反射層14bと同様にして、光反射層14bの表面に、硬化性液晶組成物を用いて光反射層16aを形成し、さらに同様にして、光反射層16aの表面に、硬化性液晶組成物を用いて光反射層16bを形成することができる。本態様では、光反射層16a及び16bをそれぞれ形成する際に行う紫外線照射を、上記所定の条件で行うので、すでに形成されている光反射層14a及び14bに紫外線が繰り返し照射されても、層中の材料の劣化を抑制でき、高い透明性を維持できる。
【0032】
本発明の製造方法に従って、図3に示す光反射膜10”を作製する一例では、上記した方法で、基板12上に、光反射層14a、及び光反射層14bを作製した後、基板12の裏面に、光反射層14bと同様にして、硬化性液晶組成物を用いて光反射層16aを形成し、さらに同様にして、光反射層16aの表面に、硬化性液晶組成物を用いて光反射層16bを形成することができる。本態様では、光反射層16a及び16bをそれぞれ形成する際に行う紫外線照射を、上記所定の条件で行うので、すでに形成されている光反射層14a及び14bに紫外線が繰り返し照射されても、層中の材料の劣化を抑制でき、高い透明性を維持できる。特に、光反射層16a及び16bの形成時に照射する紫外線を、上記特性のフィルタを介して照射するとともに、基板12として紫外線吸収性基板を用い、その裏面(即ち、光反射層16aを形成する側の面)側から照射すると、フィルタの作用のみならず、基板12の紫外線吸収性によっても、すでに存在する光反射層14a及び14bが紫外線によって劣化してしまうのを、さらに抑制することができる。勿論、基板12として紫外線吸収性のない基板を用いても、所定の特性のフィルタを用いることで、又は、フィルタを用いなくても、紫外線吸収性基板を用いることで、高い透明性の光反射膜を製造することができる。
【0033】
また、本発明の製造方法に従って、図3に示す光反射膜10”を作製する他の例では、まず、基板12の表面に光反射層14aを、及び基板12の裏面に光反射層16aを、順次又は同時に形成してもよく、その後、光反射層14a及び16aの表面に、光反射層14b及び16bを、順次又は同時に形成してもよい。
【0034】
次に、本発明の光反射膜の作製に利用可能な種々の材料について説明する。
1.光反射層形成用材料
本発明の光反射膜では、光反射層の形成に、硬化性の液晶組成物を用いる。前記液晶組成物の一例は、棒状液晶化合物、光学活性化合物(キラル剤)、及び重合開始剤を少なくとも含有する。各成分を2種以上含んでいてもよい。例えば、重合性の液晶化合物と非重合性の液晶化合物との併用が可能である。また、低分子液晶化合物と高分子液晶化合物との併用も可能である。更に、配向の均一性や塗布適性、膜強度を向上させるために、水平配向剤、ムラ防止剤、ハジキ防止剤、及び重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、前記液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を光学的性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0035】
(1) 棒状液晶化合物
本発明に使用可能な棒状液晶化合物の例は、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0036】
本発明に利用する棒状液晶化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0037】
(2) 光学活性化合物(キラル剤)
前記液晶組成物は、コレステリック液晶相を示すものであり、そのためには、光学活性化合物を含有しているのが好ましい。但し、上記棒状液晶化合物が不正炭素原子を有する分子である場合には、光学活性化合物を添加しなくても、コレステリック液晶相を安定的に形成可能である場合もある。前記光学活性化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。光学活性化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もカイラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。光学活性化合物(キラル剤)は、重合性基を有していてもよい。光学活性化合物が重合性基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性光学活性化合物と重合性棒状液晶合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、光学活性化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性光学活性化合物が有する重合性基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、光学活性化合物の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、光学活性化合物は、液晶化合物であってもよい。
【0038】
前記液晶組成物中の光学活性化合物は、併用される液晶化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。光学活性化合物の使用量は、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル剤として用いられる光学活性化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0039】
(3) 重合開始剤
前記光反射層の形成に用いる液晶組成物は、重合性液晶組成物であるのが好ましく、そのためには、重合開始剤を含有しているのが好ましい。本発明では、紫外線照射により硬化反応を進行させるので、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0040】
光重合開始剤の使用量は、液晶組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
(4) 配向制御剤
前記液晶組成物中に、安定的に又は迅速にコレステリック液晶相となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなり、また赤外領域での反射率が増大する。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、コレステリック液晶相の螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0042】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0043】
【化1】

【0044】
式中、R、R及びRは各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X、X及びXは単結合又は二価の連結基を表す。R〜Rで各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X、X及びXで各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、―NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0045】
【化2】

【0046】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R、R、及びRで表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0047】
【化3】

【0048】
式中、R、R、R、R、R及びRは各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R、R、R、R、R及びRでそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(XI)におけるR、R及びRで表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0049】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0050】
前記液晶組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、液晶化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0051】
2. 基板
本発明の光反射膜は、基板上に形成することができる。基板としては、ガラス板及びポリマーフィルムのいずれも用いることができる。基板として用いるポリマーフィルムについては特に制限はない。用途によっては、可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムが好ましく用いられるであろう。可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。
【0052】
また、上記した通り、本発明の方法では、基板として紫外線吸収性の基板を用い、当該基板を介して、紫外線を照射してもよい。この態様に用いる紫外線吸収性基板は、波長340nm以下の紫外線に対して高い吸収性を示すのが好ましい。そのためには、当該波長域に吸収性を示す紫外線吸収剤を、基板として用いられるポリマーフィルム中に添加するのが好ましい。または当該紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層を有する基板を用いることもできる。支持体に、紫外線吸収性能を付与する手段については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。より具体的には、PETシート等の支持体として用いられるポリマーフィルム中に、又は支持体等のポリマーフィルム上に形成されるアンダー層もしくは透明樹脂層等に、紫外線吸収剤を添加する方法などが挙げられる。前記紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾジチオール系、クマリン系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。前記紫外線吸収剤の種類、配合量は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。特に好ましい前記紫外線吸収剤の例には、下記化合物及びその類縁体が挙げられる。下記化合物の吸収極大波長は、340nm以下である。図4にこれらの化合物の紫外線吸収曲線を示す。
【0053】
【化4】

【0054】
本発明の製造方法によって製造される光反射膜の一例は、波長700nm以上(より好ましくは800〜1300nm)に反射ピークのある選択反射特性を示す、いわゆる赤外線反射膜である。赤外線反射膜は、住宅、オフィスビル等の建造物、又は自動車等の車両の窓に、日射の遮熱用の部材として貼付される。又は、本発明の光反射膜をガラス板又はポリマーフィルム等の基板上に形成して作製した光反射板は、日射の遮熱用の部材そのもの(たとえば、遮熱用ガラス、遮熱用フィルム)として、その用途に供することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0056】
1.基板の準備
基板1として、富士フイルム(株)製PETフィルムを準備した。
また、後述する実施例8に用いたUV吸収性基板2を、以下の通り作製した。
下記に示す組成のUV吸収層用塗布液を調製した。
UV吸収層の塗布液組成:
・メチルエチルケトン 40質量部
・メトキシプロピルアセテート 10質量部
・アクリル樹脂(ダイヤナールBR−106、三菱レイヨン株式会社製)
10質量部
・下記式で表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(Tinuvin326、Cibaジャパン株式会社製) 2.5質量部
【0057】
【化5】

【0058】
上記塗布液を富士フイルム(株)製PETフィルム上にバー塗布し、120℃で7分間乾燥して、厚み30μmのUV吸収層を形成した。この様にして、UV吸収性基板2を作製した。
このUV吸収性基板2が有するUV吸収層は、波長365nm以下の波長の光の透過率を0.1%以下に低下させるものであった。
【0059】
また、後述する実施例9に用いたUV吸収性基板3を、以下の通り作製した。
ポリエチレンテレフタレート樹脂材料に、上記トリアゾール系紫外線吸収剤を1質量%混合して、温度260℃にて溶融混練し、溶融押し出し機(エクストルーダー)を用いて押出し成形して、PETフィルムを作製した。これをUV吸収性基板3として用いた。
このUV吸収性基板3は、波長365nm以下の波長の光の透過率を0.1%以下に低下させるものであった。
【0060】
2.反射層の形成
下記表に示す組成の塗布液(A)、(B)、(C)、及び(D)をそれぞれ調製した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
(1) 調製した各塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の乾膜の厚みが6μmになるように富士フイルム(株)製PETフィルム(基板1)上に、室温にて塗布した。
(2) 室温にて30秒間乾燥させてコレステリック液晶相とした後、125℃の雰囲気で2分間加熱し、その後95℃でフュージョン製Dバルブ(ランプ90mW/cm)にて、出力60%で6〜12秒間UV照射し、コレステリック液晶相を固定して、膜(光反射層)を作製した。紫外線照射時におけるフィルタの使用の有無、使用したフィルタについては、下記表に示した。
(3) 複数層を積層する場合には、コレステリック液晶相の膜を形成し、室温まで冷却した後、上記工程(1)及び(2)を繰り返した。
【0068】
実施例8では、上記工程(1)において、上記で作製したUV吸収性基板2上(UV吸収層の表面)に、各塗布液を塗布し、それ以外は上記と同様にして、光反射板を作製した。但し、紫外線照射時に別途フィルタを用いず、PETフィルム上に形成したUV吸収層をフィルタとして利用した。
また、実施例9では、上記工程(1)において、上記で作製したUV吸収性基板3上(UV吸収層の表面)に、各塗布液を塗布し、それ以外は上記と同様にして、光反射板を作製した。但し、紫外線照射時に別途フィルタを用いず、UV吸収性基板3そのものをUV吸収層をフィルタとして利用した。
上記方法により、下記表に示す光反射膜を作製した。
3.評価
作製した各光反射膜について、反射極大波長、分光光度計を用いて可視光領域での透過率を測定し、評価した。また、各光反射膜のヘイズをヘイズメータで測定し、評価した。結果を下記表に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
4.膜強度評価
実施例1と実施例3について、膜強度をJIS G 0202に記載の方法に従って評価したところ、実施例1では光反射層の膜強度が2Hであり良好であったが、一方、実施例3の膜強度はHであり、実施例1と比較して劣っていた。そこで、実施例3については、照射時間を6秒から12秒に変更して照射時間を延長したところ、実施例1と同様の膜強度となった。
この結果から、本発明では、波長340nm以上の紫外線をカットするフィルタを利用して、波長340nm以下の紫外光を含まず、及び340nmを超え365nmの波長域範囲の少なくとも一部に強度分布を有する紫外線を利用すると、不透明化の軽減が達成できるのみならず、短時間で充分な膜強度の光反射膜を形成できることが理解できる。
【符号の説明】
【0071】
10、10’、10” 光反射膜
12 基板
14a、14b、16a、16b 光反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法であって、
コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び
前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、
第2の工程において、波長340nm以下の紫外線の強度を少なくとも低下させる作用のある部材を介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する光反射膜の製造方法。
【請求項2】
コレステリック液晶相を固定してなる、少なくとも2つの光反射層を有する光反射膜の製造方法であって、
コレステリック液晶相を固定してなる第1の光反射層の上で、硬化性の液晶組成物をコレステリック液晶相の状態にする第1の工程、及び
前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して第2の光反射層を形成する第2の工程を含み、
第2の工程において、波長340nm以下の光を含まない紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射する光反射膜の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、波長340nm以下の光を含まず、且つ波長340nmを超え365nm以下の波長範囲の少なくとも一部に強度分布を有する紫外線を、前記硬化性の液晶組成物に照射する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2の工程において、波長340nm以下の紫外線をカットするフィルタを介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第2の工程において、波長365nm以下の紫外線をカットするフィルタを介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
第1の光反射層が、紫外線吸収能を有する基板上に存在し、第2の工程において、該基板を介して、前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記紫外線吸収能を有する基板が、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層を少なくとも有する基板、又は紫外線吸収剤を含有する基板である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2の光反射層の厚みが3μm以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第1及び第2の光反射層が、互いに逆向きの旋回性のキラル剤を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
基板の一方の表面上に、互いに逆方向の円偏光を反射する第1及び第2の光反射層を少なくとも有する光反射膜を製造する請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
基板の双方の表面上に、互いに逆方向の円偏光を反射する第1及び第2の光反射層を少なくとも有する光反射膜を製造する請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
反射する最大波長のピーク(極大値)が700nm以上に1つ以上ある光反射膜を製造する請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
反射する最大波長のピーク(極大値)が800〜1300nmの範囲に1つ以上ある光反射膜を製造する請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
建造物又は車両の窓に使用される遮熱用の光反射膜を製造する請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−18037(P2011−18037A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132924(P2010−132924)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】