説明

光受信方法、光受信装置及びビート雑音推定器

【課題】本発明は、ビットパターンのゆらぎによる影響を小さくすることにより、ビート雑音推定器の推定誤差を小さくすることができる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のビート雑音推定器13は、光電変換器11が出力する受信電気信号91に時間遅延を与える遅延子21と、遅延子21が時間遅延した受信電気信号91から最尤判定器12が出力する信号成分推定値92を減算して受信電気信号91から信号成分を除去した雑音信号95を出力する減算器22と、減算器22が出力する雑音信号95と最尤判定器12が出力する信号成分推定値92との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、最尤判定器12が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値92の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値93として出力する相関器23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号受信時に発生するビート雑音の影響を低減する光受信方法、光受信装置及びこれに備えられるビート雑音推定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の光を同時に光電変換した場合、それぞれの光の周波数差(波長間隔)に依存して周期的に変動するビート雑音が発生する。この変動は、光の位相差をパラメータとする正弦波の形で表せる。また、3つ以上の複数の光を同時に光電変換した場合には、その光位相差に応じて複数のビート雑音が発生することになる。ビート雑音の振幅は、信号成分の振幅以上の値をとることもあり、ビット誤り率(Bit Error Rate、以下、「BER」と呼ぶ)を大幅に増加させる。
【0003】
複数のビート雑音が同時に発生した場合でも判定性能を向上させることができる光受信方法、光受信装置及びこれに備えられるビート雑音推定器が、特許文献1及び非特許文献1に開示されている。図1に従来技術の光受信装置の機能を説明するブロック図を示す。
【0004】
図1の光受信装置は、光電変換器11、ビート雑音推定器13及び最尤判定器12を備える。光電変換器11は、受信した送信光信号90を光電変換して受信電気信号91を出力する。ビート雑音推定器13は、光電変換器11からの受信電気信号91に含まれるビート雑音を推定し、推定したビート雑音をビート雑音推定値93として出力する。最尤判定器12は、光電変換器11からの受信電気信号91とビート雑音推定器13からのビート雑音推定値93とから、事後確率が最大となるビットパターンを送信光信号90のビットパターンであると最大尤度判定し、光電変換器11からの受信電気信号91に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値92として出力する。
【0005】
ビート雑音推定器13は、光電変換器11からの受信電気信号91と最尤判定器12からの信号成分推定値92とからビート雑音推定値93を推定する。ビート雑音推定器13は、遅延子21、減算器22及び相関器23を有する。遅延子21は、光電変換器11が出力する受信電気信号91に時間遅延を与える。減算器22は、遅延子21が時間遅延した受信電気信号91から最尤判定器12が出力する信号成分推定値92を減算して受信電気信号91から信号成分を除去した雑音信号95を出力する。相関器23は、減算器22が出力する雑音信号95と最尤判定器12が出力する信号成分推定値92との相関関係からビート雑音を推定し、ビート雑音推定値93として出力する。
【0006】
相関器23は、演算回路31、信号変換器32、乗算器33及び高周波数成分除去器(Low Pass Filter、以下、「LPF」と呼ぶ)34を有する。演算回路31は、最尤判定器12から出力される信号成分推定値92に対し、特定のビート雑音成分を取り出すために所定の方法で信号を分類する。信号変換器32は、演算回路31で分類された信号に対し、所定の条件の下で振幅を変換する。乗算器33は、減算器22からの雑音信号95と信号変換器32から出力される信号との相関を取る。LPF34は、乗算器33の出力を平均化することによって、乗算器33から出力される信号に含まれる特定のビート雑音以外の雑音成分を低減する。
【0007】
次に、最尤判定器12で判定される信号成分の推定値が3チャネルある場合を例として相関器23の説明をする。まず相関器23の出力を特定のビート雑音だけにするために、演算回路31は、発生するビート雑音の種類に基づいて、入力される信号成分推定値92のビットパターンを3種に分類する。そして、信号変換器32は、特定のビート雑音成分以外の雑音成分の平均が0になるよう、信号に乗算する係数を設定する。
【0008】
ここで、ビート雑音成分を推定する場合について説明する。チャネルpとチャネルqによって発生するビート雑音をbpqと表すことにする。例えば、b12は、チャネル1とチャネル2から発生するビート雑音を示している。具体的に、特定のビート雑音成分b12を推定する場合を説明する。なお、この例では強度変調を前提とし、{1}は光あり、{0}は光なしとする。3ビット信号の組み合わせのうち、ビート雑音が発生する場合を解析すると、ビート雑音は{1}の信号が2つ以上のチャネルで同時に存在する場合に発生するため、{1}の数が2、3と増えるごとにビート雑音の数もその相互関係より1(b12)、3(b12,b13,b23)と増える。推定する特定のビート雑音(b12)と信号成分の推定値の相関を取るために、以下の動作ルール例を導入する。
【0009】
(1)ビットパターンが{1,1,0}の場合、パターン1とする。
(2)ビットパターンが{1,1,1}の場合、パターン2とする。
(3)ビットパターンが上記(1)、(2)以外の場合、パターン3とする。
(4)ビート雑音成分b12だけを取り出すために、パターン1,2,3についてそれぞれ、信号変換器32で乗算係数20/3,4/3,−4/3に従い、振幅値を変換する。
【0010】
上記のルール例を3ビット信号パターンに適用した場合、減算器22、信号変換器32、乗算器33の各出力は図7のように表せる。xはビート雑音以外の雑音を表す。ビート雑音以外の雑音とは、例えば、ガウス雑音である。乗算器33の出力全パターンの合計は、8b12となることから、{0,1}信号が等確率に発生することを前提として乗算器出力を平均化すると、特定のビート雑音成分b12のみが取り出され、b12以外の雑音成分は全てキャンセルされ0になる。
【0011】
このように、信号成分、ガウス雑音成分、ビート雑音成分を含む信号は、ビート雑音推定器13によってビート雑音成分のみを有する信号に変換され、ビート雑音推定が達成される。上記説明は、3チャネルの場合であるが、n(n≧4)チャネルの場合でも信号変換器32の乗算係数を適切に設定することにより、特定のビート雑音を推定することができる。ビート雑音推定器13がビート雑音成分を推定し、その推定値を用いて事後確率を求め最大尤度判定するため、最尤判定器12は受信信号が有する多くの尤度情報を事後確率の演算に取り入れることができ、高い最大尤度判定性能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−171274号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Maximum likelihood detection with beat noise estimation for minimizing bit error rate in OCDM−based system”,Optics Express,vol.17,pp.12433−12443,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1及び非特許文献1のビート雑音推定器13によるビート雑音推定方法は、最尤判定器12によって推定された送信ビットパターンの発生頻度が全てのビットパターンで等しいという仮定の下に推定する方法である。よって、実システムのようにビットパターンの発生頻度が必ずしも一律ではなくゆらぎがある場合は、相関関係に歪みが生じ、ビート雑音の推定誤差に影響を及ぼす場合がある。
【0015】
実システムのようにビットパターンの発生頻度が必ずしも一律ではなくゆらぎがある場合を考察するにあたり、相関器23中のLPF34における時定数に注目する。ビート雑音推定器13で推定するビート雑音は、低周波である位相雑音も含めて推定する必要があるため、LPF34のカットオフ周波数をなるべく高く設定する、つまり時定数を短くすることが望まれる。また、時定数を長く取るとビート雑音推定器13の出力においてタイムラグが発生するという理由からも時定数は短く設定することが望ましい。一方、時定数を短くすると平均化する際のサンプル数が減るため、ビットパターンに偏りが生じ、ゆらぎによる推定誤差が大きくなる。これらを図8にまとめる。以上より、ビットパターンのゆらぎによる影響を小さくすることができれば、LPF34の時定数を短く設定したとしても、ビート雑音推定器13の推定誤差を小さくすることが可能である。
【0016】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、ビットパターンのゆらぎによる影響を小さくすることにより、ビート雑音推定器の推定誤差を小さくすることができる、光受信方法、光受信装置及びビート雑音推定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、ビート雑音推定器は、雑音信号と信号成分推定値とから算出した補正前のビート雑音推定値を、ビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力することとした。
【0018】
具体的には、本発明は、光電変換器が、受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力し、ビート雑音推定器が、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれるビート雑音を推定し、推定したビート雑音をビート雑音推定値として出力し、最尤判定器が、前記光電変換器からの受信電気信号と前記ビート雑音推定器からのビート雑音推定値とから、事後確率が最大となるビットパターンを前記送信光信号のビットパターンであると最大尤度判定し、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する、光受信方法であって、前記ビート雑音推定器は、遅延子、減算器及び相関器を有しており、前記遅延子は、前記光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与え、前記減算器は、前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から前記最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力し、前記相関器は、前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力することを特徴とする光受信方法である。
【0019】
また、本発明は、受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力する光電変換器と、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれるビート雑音を推定し、推定したビート雑音をビート雑音推定値として出力するビート雑音推定器と、前記光電変換器からの受信電気信号と前記ビート雑音推定器からのビート雑音推定値とから、事後確率が最大となるビットパターンを前記送信光信号のビットパターンであると最大尤度判定し、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する最尤判定器と、を備える光受信装置であって、前記ビート雑音推定器は、前記光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与える遅延子と、前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から前記最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力する減算器と、前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する相関器と、を有することを特徴とする光受信装置である。
【0020】
また、本発明は、受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力する光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与える遅延子と、前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して、受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力する減算器と、前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する相関器と、を備えることを特徴とするビート雑音推定器である。
【0021】
雑音信号と信号成分推定値とから算出したビート雑音推定値は、補正前のビート雑音推定値である。ビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出したビート雑音推定値は、擬似的なビート雑音推定値である。ここで、補正前のビート雑音推定値は、補正後のビート雑音推定値及びビットパターンのゆらぎの影響を反映した係数の乗算値である。そして、擬似的なビート雑音推定値は、既知の振幅のビート雑音及びビットパターンのゆらぎの影響を反映した係数の乗算値である。補正前のビート雑音推定値を擬似的なビート雑音推定値で補正することにより、ビットパターンのゆらぎの影響を反映した係数はキャンセルされ、補正後のビート雑音推定値を既知の振幅のビート雑音で除することと同様の結果を得る。当該結果及び既知の振幅から、正確なビート雑音推定値を算出することができ、ビート雑音推定器の推定誤差を小さくすることができる。ビート雑音推定器として、相関器を利用することができる。
【0022】
また、本発明は、前記送信光信号は、送信側からの送信データが周波数領域にて符号化する光符号分割多重方式で多重化されており、光分離器が、前記送信光信号を周波数成分毎に複数の光信号に分離し、前記光分離器で分離された光信号の数だけ備えられた前記光電変換器が、分離された光信号毎に光電変換して受信電気信号を出力し、前記ビート雑音推定器が、受信電気信号のビート雑音を推定し、前記最尤判定器が、受信電気信号の復号と最大尤度判定を行うことを特徴とする光受信方法である。
【0023】
また、本発明は、前記送信光信号は、送信側からの送信データが周波数領域にて符号化する光符号分割多重方式で多重化されており、光分離器が、前記送信光信号を周波数成分毎に複数の光信号に分離し、前記光分離器で分離された光信号の数だけ備えられた前記光電変換器が、分離された光信号毎に光電変換して受信電気信号を出力し、前記ビート雑音推定器が、受信電気信号のビート雑音を推定し、前記最尤判定器が、受信電気信号の復号と最大尤度判定を行うことを特徴とする光受信装置である。
【0024】
この構成によれば、周波数領域において符号化する光CDM方式によって光多重伝送が行われる場合でもビート雑音の影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、ビットパターンのゆらぎによる影響を小さくすることにより、ビート雑音推定器の推定誤差を小さくすることができる、光受信方法、光受信装置及びビート雑音推定器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来技術の光受信装置の機能を説明するブロック図である。
【図2】実施形態1の光受信装置の機能を説明するブロック図である。
【図3】図1の光受信装置でのビート雑音推定値の出力特性を示した図である。
【図4】図2の光受信装置でのビート雑音推定値の出力特性を示した図である。
【図5】実施形態2の光受信装置の機能を説明するブロック図である。
【図6】図5の光受信装置でのデータ系列のBER特性を示した図である。
【図7】各ビットパターンでの減算器、信号変換器及び乗算器の出力を示す図である。
【図8】ビット雑音推定値の推定誤差の様々な原因を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0028】
(実施形態1)
図2に本実施形態の光受信装置の機能を説明するブロック図を示す。図2の光受信装置の動作を説明する。光通信路より伝送されてきた送信光信号90は、光電変換器11にて受信電気信号91に変換される。光電変換器11には一般的なフォトダイオード(Photo Diode:PD)などが適用される。受信電気信号91は分離され最尤判定器12及びビート雑音推定器13に入力される。受信電気信号91には信号成分の他にガウス雑音及びビート雑音が含まれる。最尤判定器12ではこれら雑音が含まれる受信電気信号91を、事後確率を用いて正しい信号成分だけ取り出すように最大尤度判定する。
【0029】
最大尤度判定は、ガウス雑音に対する確率密度分布とビート雑音推定器13によって推定されるビート雑音に対する確率密度分布を用いて事後確率を演算し、最も事後確率が大きくなるビットパターンを選択する判定方法である。最尤判定器12は、選択されたビットパターンを受信電気信号91に含まれる信号成分を推定し、信号成分推定値92を出力する。例えば、最尤判定器12が、光電変換器11からの受信電気信号91に含まれるガウス雑音に対する確率密度分布と光電変換器11からの受信電気信号91に含まれるビート雑音に対する確率密度分布とを用いてビットパターン全ての事後確率を演算し、最大の事後確率のビットパターンを送信光信号90のビットパターンであると最大尤度判定することとしてもよい。
【0030】
ビート雑音推定器13は、光電変換器11にて出力される受信電気信号91と最尤判定器12にて出力される信号成分推定値92を基に、所定の方法によりビート雑音の推定を行う。図2の光受信装置は、最尤判定器12の最大尤度判定とビート雑音推定器13の推定との組み合わせにより、受信電気信号91に対するビート雑音の影響を低減する。なお、複数のビート雑音が発生する場合、発生した全てのビート雑音を推定する必要があるため、受信装置は発生するビート雑音の数の分だけビート雑音推定器13を備える。
【0031】
最尤判定器12とビート雑音推定器13とは、各々互いの推定情報を利用しているため、初期状態では推定精度が低い、あるいは発散してしまう可能性がある。そこで初期状態の最尤判定器12は、通信開始時に送信される固定のプリアンブルパターンを出力するものとし、ビート雑音推定器13の精度が高くなった時点で、最大尤度判定結果の出力に切り替えるものとしてもよい。
【0032】
相関器23は、演算回路31、信号変換器32、乗算器33及びLPF34の他に、乗算器35、LPF36及びゆらぎ補正演算器37を有する。演算回路31は、最尤判定器12が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分について、信号成分推定値の乗算値を算出する。乗算器35は、ビットパターンのパターン1,2,3に応じて、演算回路31からの乗算値と信号変換器32からの係数を乗算する。LPF36は、乗算器35からの乗算値を平均化して、擬似的なビート雑音推定値を算出する。ゆらぎ補正演算器37は、LPF34からの補正前のビート雑音推定値を、LPF36からの擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する。
【0033】
ビットパターンのゆらぎがビート雑音推定値にどのように影響するかを説明する。ビットパターンが{1,1,x}(xは{0}または{1})の発生頻度のゆらぎ成分としてα及びβを定義する。ゆらぎ成分α、βを用いると、ビットパターン{1,1,0}の発生頻度は1/8+αと表せ、ビットパターン{1,1,1}の発生頻度は1/8+βと表せる。LPF34からの補正前のビート雑音推定値b^12は数式(1)のようになる。ただし、a=20/3α+4/3βとする。
b^12={20/3(1/8+α)+4/3(1/8+β)}b12
={1+20/3α+4/3β}b12=(1+a)b12 (1)
【0034】
つまり、ビットパターンのゆらぎがなければ、乗算器35、LPF36及びゆらぎ補正演算器37による補正がなくても、a=0(α=0、β=0)となることから、ビットパターンのゆらぎ成分による推定誤差が0となり、ビート雑音推定値はb12となる。しかし、ビットパターンのゆらぎが大きいと、乗算器35、LPF36及びゆらぎ補正演算器37による補正がなければ、ビットパターンのゆらぎ成分による推定誤差が大きくなり、ビート雑音推定値はb12とは異なるb^12となる。
【0035】
そこで、実施形態1のビート雑音推定器13は、以下の説明のように動作する。演算回路31、信号変換器32、乗算器33及びLPF34は、従来技術と同様に補正前のビート雑音推定値を算出する。演算回路31、信号変換器32、乗算器35及びLPF36は、擬似的なビート雑音を算出する。ゆらぎ補正演算器37は、補正前のビート雑音推定値を擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する。
【0036】
演算回路31は、{1,1,0}及び{1,1,1}のビットパターンにおいて、ビート雑音推定対象であるチャネル1、2の信号成分について、それぞれ信号成分推定値の乗算値として1を算出する。そして、演算回路31は、{1,1,0}及び{1,1,1}以外のビットパターンにおいて、ビート雑音推定対象であるチャネル1、2の信号成分について、それぞれ信号成分推定値の乗算値として0を算出する。このように、演算回路31は、信号成分推定値の乗算値として1を算出することにより、振幅が実際とは異なり1である擬似的なビート雑音信号を生成しているのである。
【0037】
なお、本来のビート雑音信号は、数式(2)のように表せる。ここで、c1、c2は、チャネル1、2の送信ビット、A1、A2は、チャネル1、2の信号振幅、f1、f2は、チャネル1、2の光周波数、θ1、θ2は、チャネル1、2の位相雑音を表す。
c1×c2×A1×A2×cos(2π(f1−f2)t+θ1−θ2) (2)
【0038】
乗算器35は、{1,1,0}のビットパターンに応じて、演算回路31からの乗算値である1と信号変換器32からの係数である20/3を乗算し、乗算値として20/3を算出する。そして、乗算器35は、{1,1,1}のビットパターンに応じて、演算回路31からの乗算値である1と信号変換器32からの係数である4/3を乗算し、乗算値として4/3を算出する。さらに、乗算器35は、{1,1,0}及び{1,1,1}以外のビットパターンに応じて、演算回路31からの乗算値である0と信号変換器32からの係数である(−4/3)を乗算し、乗算値として0を算出する。
【0039】
ビットパターン{1,1,0}の発生頻度は1/8+αであり、ビットパターン{1,1,1}の発生頻度は1/8+βである。よって、LPF36は、乗算器35からの乗算値を平均化して、擬似的なビート雑音推定値を数式(3)のように算出する。
20/3(1/8+α)+4/3(1/8+β)
=1+20/3α+4/3β=1+a (3)
【0040】
数式(1)に記載したように、補正前のビート雑音推定値は(1+a)b12であり、数式(3)に記載したように、擬似的なビート雑音推定値は1+aである。よって、ゆらぎ補正演算器37は、補正前のビート雑音推定値を擬似的なビート雑音推定値で除する補正をした値b12を、補正後のビート雑音推定値として出力することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、対応する係数20/3の絶対値が大きく発生頻度のゆらぎの影響が支配的になるビットパターンに注目して、{1,1,x}の発生頻度のゆらぎα、βのみを補正の対象にしている。残りの{0,0,0}〜{1,0,1}の6パターンの発生頻度のゆらぎに対しても、本実施形態を拡張して適用することができる。
【0042】
全てのビットパターンの発生頻度のゆらぎを補正する場合、ビート雑音推定値は数式(4)のように表せる。ここで、行列aは、数式(1)のaに相当するビットパターンの発生頻度のゆらぎ、ベクトルb^は、数式(1)のb^12に相当するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての補正前のビート雑音推定値、ベクトルbは、数式(1)のb12に相当するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての補正後のビート雑音推定値、行列Iは、単位行列を表す。よって、数式(4)の両辺に左側から(I+a)−1という逆行列を乗算する補正をすることにより、ビート雑音推定対象である複数の信号成分についての補正後のビート雑音推定値bを算出することができる。
b^=(I+a)・b (4)
【0043】
図3は、図1の従来技術の光受信装置でのビート雑音推定値の出力特性を示した図であり、図4は、図2の実施形態1の光受信装置でのビート雑音推定値の出力特性を示した図である。横軸は、ある時刻におけるビットタイムを示しており、縦軸は、ビート雑音信号の大きさを示しており、LPF34、36の時定数は、τ=40[bit time]である。ビート雑音信号は通常数式(2)のように正弦波信号となるため、入力信号はビート雑音信号が正弦波信号となるような信号を用いている。図3、4では、入力信号のビート雑音の大きさが、ビート雑音推定値の大きさと合わせて示されている。
【0044】
図1の従来技術の光受信装置では、ビート雑音の推定誤差が発生し、特にビート雑音が大きい場合にビート雑音の推定誤差もより大きくなっている。図2の実施形態1の光受信装置では、ビート雑音の推定誤差は発生するものの、その大きさは非常に小さくビート雑音の大きさによらずにビート雑音をほぼ推定できていることは明らかである。
【0045】
以上の動作によって、送信ビットパターンのゆらぎに依存しないビート雑音推定が達成される。上記は、3チャネルの場合を掲載しているが、n(n≧4)チャネルの場合でも係数を適切に設定することにより、特定のビート雑音を推定することができる。
【0046】
(実施形態2)
図5に本実施形態の光受信装置の機能を説明するブロック図を示す。図5の光受信装置と図2の光受信装置との違いは、送信光信号90を周波数成分毎に複数の光信号に分離する光分離器51と、光分離器51で分離された光信号の数の光電変換器を備えていることである。図5の光受信装置では、光分離器51が送信光信号90を3つの光信号に分離するため、光電変換器52a、光電変換器52b及び光電変換器52cを備えている。
【0047】
図5の光受信装置は、光CDM方式を前提とし、なかでも周波数領域において符号化する方式において、ユーザあるいはチャネル間で同一周波数を共有することから発生するビート雑音の影響低減を目的としている。
【0048】
具体的には、図5の光受信装置の光受信方法は、送信光信号90は、送信側からの送信データが周波数領域にて符号化する光符号分割多重方式で多重化されており、光分離器51が、送信光信号90を周波数成分毎に複数の光信号に分離し、光分離器51で分離された光信号の数だけ備えられた光電変換器52a〜52cが、分離された光信号毎に光電変換して受信電気信号91を出力し、ビート雑音推定器13が、受信電気信号91のビート雑音を推定し、最尤判定器53が、受信電気信号91の復号と最大尤度判定を行う。ここで、ビート雑音推定器13は全ての受信電気信号91のビート雑音を推定してもよく、最尤判定器53が、全ての受信電気信号91の復号と最大尤度判定を行ってもよい。
【0049】
図6は、図5の光受信装置を用いた場合の、データ系列のBER特性を示した図である。発明の効果を示すために、従来の光受信方法である硬判定により信号判定した結果も合わせて示す。ビート雑音の影響を考えない場合、硬判定によるBER特性は破線R1のようになる。ビート雑音の影響を考慮した場合、BER特性は破線R2のようになる。破線R1に比べBER特性は劣化し、ビート雑音の影響が非常に大きい。一方、図5の光受信装置で説明した光受信方法を適用すると実線R3のようになる。実線R3のBER特性は大幅に改善され、ビート雑音の影響が低減される。
【0050】
このように、図5の光受信装置は、周波数領域において符号化する光CDM方式によって光多重伝送が行われる場合でも、ビート雑音の影響を低減することが可能である。なお、本実施形態においては、ユーザ数及び使用周波数の数が限定されるということはない。よって、光電変換器52a〜52cの数も使用周波数の数に対応して変わることになる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
複数の光信号を同時に受信する光受信装置であれば、公衆通信網、専用網、LAN(Local Area Network)等に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
11:光電変換器
12:最尤判定器
13:ビート雑音推定器
21:遅延子
22:減算器
23:相関器
31:演算回路
32:信号変換器
33:乗算器
34:LPF
35:乗算器
36:LPF
37:ゆらぎ補正演算器
51:光分離器
52a、52b、52c:光電変換器
53:最尤判定器
90:送信光信号
91:受信電気信号
92:信号成分推定値
93:ビート雑音推定値
95:雑音信号
R1、R2:破線
R3:実線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換器が、受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力し、
ビート雑音推定器が、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれるビート雑音を推定し、推定したビート雑音をビート雑音推定値として出力し、
最尤判定器が、前記光電変換器からの受信電気信号と前記ビート雑音推定器からのビート雑音推定値とから、事後確率が最大となるビットパターンを前記送信光信号のビットパターンであると最大尤度判定し、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する、
光受信方法であって、
前記ビート雑音推定器は、遅延子、減算器及び相関器を有しており、
前記遅延子は、前記光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与え、
前記減算器は、前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から前記最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力し、
前記相関器は、前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力することを特徴とする光受信方法。
【請求項2】
前記送信光信号は、送信側からの送信データが周波数領域にて符号化する光符号分割多重方式で多重化されており、
光分離器が、前記送信光信号を周波数成分毎に複数の光信号に分離し、
前記光分離器で分離された光信号の数だけ備えられた前記光電変換器が、分離された光信号毎に光電変換して受信電気信号を出力し、
前記ビート雑音推定器が、受信電気信号のビート雑音を推定し、
前記最尤判定器が、受信電気信号の復号と最大尤度判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の光受信方法。
【請求項3】
受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力する光電変換器と、
前記光電変換器からの受信電気信号に含まれるビート雑音を推定し、推定したビート雑音をビート雑音推定値として出力するビート雑音推定器と、
前記光電変換器からの受信電気信号と前記ビート雑音推定器からのビート雑音推定値とから、事後確率が最大となるビットパターンを前記送信光信号のビットパターンであると最大尤度判定し、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する最尤判定器と、
を備える光受信装置であって、
前記ビート雑音推定器は、
前記光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与える遅延子と、
前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から前記最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力する減算器と、
前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する相関器と、
を有することを特徴とする光受信装置。
【請求項4】
前記送信光信号は、送信側からの送信データが周波数領域にて符号化する光符号分割多重方式で多重化されており、
光分離器が、前記送信光信号を周波数成分毎に複数の光信号に分離し、
前記光分離器で分離された光信号の数だけ備えられた前記光電変換器が、分離された光信号毎に光電変換して受信電気信号を出力し、
前記ビート雑音推定器が、受信電気信号のビート雑音を推定し、
前記最尤判定器が、受信電気信号の復号と最大尤度判定を行うことを特徴とする請求項3に記載の光受信装置。
【請求項5】
受信した送信光信号を光電変換して受信電気信号を出力する光電変換器が出力する受信電気信号に時間遅延を与える遅延子と、
前記遅延子が時間遅延した受信電気信号から、前記光電変換器からの受信電気信号に含まれる信号成分を推定して信号成分推定値として出力する最尤判定器が出力する信号成分推定値を減算して、受信電気信号から信号成分を除去した雑音信号を出力する減算器と、
前記減算器が出力する雑音信号と前記最尤判定器が出力する信号成分推定値との相関関係から算出した補正前のビート雑音推定値を、前記最尤判定器が出力するビート雑音推定対象である複数の信号成分についての信号成分推定値の乗算値から算出した擬似的なビート雑音推定値で補正した値を、補正後のビート雑音推定値として出力する相関器と、
を備えることを特徴とするビート雑音推定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−60359(P2012−60359A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200835(P2010−200835)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】