説明

光変換用セラミックス複合体を用いた発光装置

【課題】異方性の配光を容易に得ることができ、高出力化に極めて好適な発光装置を低コストで提供すること。
【解決手段】少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、該酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する結晶相である凝固体からなる光変換用セラミックス複合体と発光素子からなる発光装置において、前記光変換用セラミックス複合体の光出射面において表面テクスチャーが異なる部位を含み、表面テクスチャーが異なる部位における発光素子からの光出射率が2%以上異なることを特徴とする発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ、照明、バックライト光源等に利用できる発光ダイオード等の発光装置に関し、詳しくは、照射光を利用して蛍光を得る光変換部材である光変換用セラミックス複合体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色発光素子を発光源とする白色発光装置の開発研究が盛んに行われている。特に青色発光ダイオードを用いた白色発光ダイオードは軽量で、水銀を使用せず、長寿命であることから、今後、需要が急速に拡大することが予測されている。青色発光素子の青色光を白色光へ変換する方法として最も一般的に行なわれている方法は、青色と補色関係にある黄色を混色することにより擬似的に白色を得るものである。例えば特許文献1に記載されているように、青色光を発光する発光ダイオードの前面に、青色光の一部を吸収して黄色光を発する蛍光体を含有するエポキシ等の樹脂からなるコーティング層を設け、その先に光源の青色光と蛍光体からの黄色光を混色するモールド層等を設けることで、白色発光ダイオードを構成することができる。蛍光体としてはセリウムで付活されたYAG(Y3Al512)粉末等が用いられる。
【0003】
また、本願出願人は、先に、少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、該酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する結晶相である凝固体からなる光変換用セラミックス複合体を光変換用に用いることを開示している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】WO04―065324号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした白色発光ダイオードの性能は年々向上してきており、その適用分野も従来の携帯電話用バックライトから、ディスプレイ用バックライト、照明機器へと大きく広がりをみせてきている。それに伴い、白色発光ダイオードの配光性にも様々な要求が出てきており、例えばバックライトでは幅の狭い広がった光という異方性の配光が求められている。またより一層の高出力化も求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に代表される、現在一般的に用いられている白色発光ダイオードの構造では、発光素子からの光は蛍光体粉末により散乱されるため指向性が弱まり、異方性の配光を得るためには別に反射板等の部材を追加する必要がある。このため構造が複雑化し、部品点数、工程の増加によりコストが増大してしまう。
【0007】
また蛍光体粉末を用いる際に必要となる樹脂は金属やセラミックスに比べ耐熱性に劣るため、発光素子からの熱による変成で透過率低下を起こしやすく、白色発光ダイオードの高出力化へのネックとなっている。
【0008】
特許文献2に開示された光変換体部材は、上記の問題を一定程度解決するが、白色発光ダイオードをさらに高出力化すること、指向性を高めるあるいは調整することが望ましい。
【0009】
本発明の目的は、異なる配光性を容易に得ることができ、高出力化に極めて好適な発光装置を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、光変換用セラミックス複合体において光出射面の表面テクスチャーを変えると発光を強くできる(光出射率が高い)ことを見出し、光変換用セラミックス複合体の光出射面において表面テクスチャーが異なる部位を含むように構成すれば、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は下記にある。
【0011】
(1)発光素子と光変換用セラミックス複合体からなる発光装置において、前記光変換用セラミックス複合体が少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、該酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する結晶相である凝固体からなり、前記光変換用セラミックス複合体の光出射面において表面テクスチャーが異なる部位を含み、表面テクスチャーが異なる部位における光出射率が2%以上異なることを特徴とする発光装置。
【0012】
(2)前記表面テクスチャーが異なる部位の算術平均表面粗さ(Ra)の差が0.1μm以上であることを特徴とする、上記(1)に記載の発光装置。
【0013】
(3)前記表面テクスチャーが表面凹凸であり、凹凸の段差が0.5μm以上異なることを特徴とする、上記(1)に記載の発光装置。
【0014】
(4)前記表面凹凸がセラミックス複合体を構成する酸化物相ごとの凹凸であることを特徴とする、上記(3)に記載の発光装置。
【0015】
(5)前記光変換用セラミックス複合体が、光入射面と、第1の光出射面と、第1の光出射面以外の第2の光出射面を有し、第1の光出射面と第2の光出射面において、表面テクスチャーが異なり、発光素子からの光出射率が2%以上異なることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の発光装置。
【0016】
(6)第1の光出射面が光入射面と対向している、上記(5)に記載の発光装置。
【0017】
(7)光出射面の表面テクスチャーが漸進的に変化する部位を含むことを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の発光装置。
【0018】
(8)前記発光装置がバックライトであり、光変換用セラミックス複合体が主面を有する板状であり、発光素子から光変換用セラミックス複合体の板の側面に横方向から光が入射され、光変換用セラミックス複合体の板の主面から出射されるバックライトであり、光変換用セラミックス複合体の光出射される主面において光入射部位から遠ざかるに従い表面テクスチャーが漸進的に変化して、主面からの光出射の光量が同等にされることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の発光装置。
【0019】
(9)前記光変換用セラミック複合体が、組成成分として少なくともY元素、Al元素とCe元素を含むことを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の発光装置。
【0020】
(10)発光素子が発光ダイオードであることを特徴とする、上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の発光装置。
【0021】
(11)前記光変換用セラミック複合体が波長530〜580nmにピークを有する蛍光を発し、前記発光素子が波長400nm〜520nmにピークを有する光を発することを特徴とする、上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の発光装置は、用いる光変換用セラミックス複合体の表面テクスチャーを各部分で最適な状態に調整することにより、求められる異なる配光性を容易に得ることができる。求める方向の発光(光出射)を高めることができるので、発光素子としての発光効率を高めることもできる。このため配光性を制御するための特別な部品の必要がなく、コスト増を避けることができる。さらに本光変換用セラミックス複合体は、耐熱性に優れ、それ自身がバルク体であるため、白色発光装置の構成に必ずしも樹脂を必要としない。このため、発光装置の配光性を容易に制御することができ、熱に弱い樹脂を必要としない高出力化に極めて好適な白色発光装置を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の発光装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の発光装置を液晶等のバックライトに応用する別の実施形態を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の光変換用セラミックス複合体の組織構造の一例を示す実施例1の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の光変換用セラミックス複合体の蛍光特性の一例を示す実施例1の蛍光スペクトル図である。
【図5】実施例1を評価するために作成した発光装置の模式断面図である。
【図6】実施例2,3の実験の様子を説明する模式図である。
【図7】実施例2、3の発光状態を示す写真である。
【図8】実施例5で得られた光変換用セラミックス複合体表面の断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の発光装置は光変換用セラミックス複合体と発光素子から構成される装置であり、発光素子からの光を光変換用セラミックス複合体に照射し、光変換用セラミックス複合体を透過した光および、発光素子からの光が光変換用セラミックス複合体により波長変換された蛍光を利用することを特徴とする。
【0026】
図1は、本発明の発光装置の一実施形態を示した模式的断面図である。本光変換用セラミックス複合体2は、少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有する凝固体であり、これら酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する結晶相である。図1の光変換用セラミックス複合体2は、直方体であるが、底面が発光素子1に対面して装置本体の取付部材5に取り付けられ、底面2a以外の5面2b、2c、2d等が外部に露出して、光出射面(光放射面)を構成している。発光素子1からの光は一部が光変換用セラミックス複合体2内で蛍光に変換され、これらの光が光変換用セラミックス複合体から合わせて放出される。そして光変換用セラミックス複合体の光を放出する部分2b、2c、2d等の表面テクスチャーを部位により変えることにより発光装置の配光性を制御することができる。表面状態によって、光が光変換用セラミックス複合体から外へ放出される際の光取り出しの効率が異なるため、光の取り出し効率が良く光の放出が強く部分と、光の取り出し効率が悪く光の放出が弱い部分とを組み合わせることにより発光装置の配光性を制御することができる。図1において、3はリードワイヤー、4はリード電極、5は固定部材である。
【0027】
本発明の光変換用セラミックス複合体は、表面テクスチャーが異なる部位であることにより、光の取り出し効率が高い部位と光の取り出し効率が低い部位を有することを特徴とする。本発明において、表面テクスチャーとは、表面粗さ、表面凹凸など、光出射率を変える表面の微細形状、微細構造をいう。表面が鏡面であると、屈折率の高い複合セラミックス内部から鏡面を通って出射しようとする光は、複合セラミックスの屈折率と外部の屈折率により決まる臨界角以上で鏡面に入射する場合には、全反射するが、表面が粗面化されていたり表面凹凸が存在すると、表面に向う光が仮想鏡面(粗面や凹凸を無視して鏡面と考える仮想表面)に対しては臨界角以上の角度で入射しても、表面のテクスチャーにより局所的には臨界角未満で入射することができ、その結果として複合セラミックスからの光出射率がその表面テクスチャー(表面粗さが大きい、凹凸段差が大きいなど)に応じて高くなることを見出した。
【0028】
本発明の複合セラミックスは表面テクスチャーが異なる部位を有するが、その目的は部位により光出射率を変え、配向性を変えることである。本発明の発光装置において複合セラミックスの表面テクスチャーが異なる部位は、限定するものではないが、発光素子からの光出射率に少なくとも2%の差を付けることができるものである。ここに光出射率は同じ面積での出射率の比較である。好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%の差をつける。場合によっては10%以上の差をつけることが可能である。
【0029】
本発明において複合セラミックスの表面テクスチャーが異なる部位は、たとえば、表面粗さが部位により異なり、好ましくは算術平均表面粗さ(Ra)が少なくとも0.1μm、より好ましくは0.3μm以上、さらには0.5μm以上、さらには0.7μm以上、特に1.0μm以上異なる。表面粗さ以外でも、光の取り出し効率を変える表面テクスチャーとして、表面に凹凸を形成することができ、ここで凹凸とは、例えば、フォトリソ等を用いてパターンニングをおこない形成した凹凸をはじめとして、より簡便に光変換用セラミックス複合体を形成する各酸化物相の種類毎に高さ段差をつけることにより形成される凹凸をあげることができる。後者の凹凸の場合、凹凸の高さ段差が部位により異なり、好ましくは高さ段差の差が0.5μm、より好ましくは1μm、さらには3μm以上異なる。セラミックス複合体を形成する各酸化物相の種類毎に段差を設ける場合には、凹凸の寸法は各酸化物相の寸法であるから、限定されないが、典型的には1〜20μm程度である。フォトリソ等を用いてパターンニングして凹凸を形成する場合も、同様の寸法であることができるが、この場合には1μm以下に小さくしてもよい。
【0030】
たとえば、図1の上方に光を取り出したい場合には、上方面(頂面)2b面を粗面化し、その他の面2c等を鏡面化することで、上面2bからの発光強度を高く、その他の面2c、2d等からの発光強度を低くすることで、全体として上方向への発光効率を高くできる。
【0031】
本発明の光変換用セラミックス複合体の光を放出する部分の表面テクスチャー(たとえば、表面粗さ)を変える部位は、一面単位である必要はなく、一面の中で部分によって表面テクスチャーを変えることができる。たとえば、図1の上方面(頂面)2bの中央領域を粗面化し、その中央領域を取り囲む周囲領域を鏡面にすることができる。あるいは斑模様に表面テクスチャー(表面粗さ)を変えてもよい。
【0032】
さらに、本発明の光変換用セラミックス複合体の光を放出出射する部分の表面テクスチャーを変える部位は、表面テクスチャーが一定である必要はない。一つの面の表面テクスチャーが漸進的に変化して、その面の或る部位と他の部位とで発光効率が変化してもよい。とりわけ、図2を参照すると、バックライトのための光散乱体20の発光面20bに対して横方向20Aから反対方向20Bに向って光Lが入射され、光散乱体20内を導光され発光面20bから液晶層などへ発光(出射)される場合、発光面20bの表面テクスチャー(たとえば、表面粗さ)が側面20Aから反対側面20Bの方向に向って漸進的に大きくなることで、光Lが進行とともに弱くなる場合にも発光面20bの発光(出射)強度が一様化される効果を得ることができる。
【0033】
光の取り出し効率の良し悪しは、配光に関しては相対的であるので絶対値で規定することは困難である。光変換用セラミックス複合体は空気より屈折率が高く、こうした屈折率が高い物質から低い物質に光が進む場合、光はその界面において透過(屈折)、反射、散乱をおこす。光の取り出し効率が良い表面テクスチャーとは、透過・散乱が支配的な場合であり、例えば凹凸が形成された面、表面粗さが粗い面等がこれにあたる。光の取り出し効率が悪い表面テクスチャーとは、反射が支配的な場合であり、例えば鏡面等がこれにあたる。
【0034】
本発明の光変換用セラミックス複合体は、光の取り出し効率が高い部位と光の取り出し効率が低い部位を持つことを特徴とする。典型的には、表面粗さを部位により異なるようにすることができるが、表面粗さ以外でも、光の取り出し効率を変える表面テクスチャーとして、たとえば、表面に凹凸を形成することができることは先に述べた。
【0035】
本光変換用セラミックス複合体を構成する酸化物相は、組成成分および凝固体の製造条件により変化し特に限定されないが、組成成分として少なくともY元素、Al元素とCe元素を含む場合、Al23(サファイア)相、(Y、Ce)3Al512相等が挙げられ、こうした酸化物相が少なくとも2相以上含まれる。それぞれの酸化物相のうち少なくとも2相は、連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った構造をしている。一部の酸化物相は他の酸化物相が形成する相互に絡み合った構造中に粒状に存在する場合もある。いずれにおいても各相の境界は、アモルファス等の境界層が存在せず、酸化物相同士が直接接している。このため光変換用セラミックス複合体内での光の損失が少なく、光透過率も高い。
【0036】
蛍光を発する結晶相も組成成分および凝固体の製造条件により変化し特に限定されないが、組成成分として少なくともY元素、Al元素とCe元素を含む場合、前記酸化物相の内(Y、Ce)3Al512相等が挙げられ、こうした蛍光を発する結晶相が少なくとも1相含まれる。これら蛍光を発する結晶相を含む酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った構造をとり、全体として各酸化物相が光変換用セラミックス複合体内に均一に分布するため、部分的な偏りのない均質な蛍光を得ることができる。
【0037】
前記Al23相と(Y、Ce)3Al512相の組み合わせは、容易に両者が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った構造が得られる。また(Y、Ce)3Al512相は、400〜520nmの励起光で、ピーク波長530〜560nmの蛍光を発することから、白色発光装置用光変換部材として好適である。このことから、組成成分として少なくともY元素、Al元素とCe元素を含むことは好ましい。加えてGd元素を含むと蛍光体相として(Y、Gd、Ce)3Al512相が生成し、より長波長側のピーク波長540〜580nmの蛍光を発することができる。
【0038】
本発明の光変換用セラミックス複合体を構成する凝固体は、原料酸化物を融解後、凝固させることで作製される。例えば、所定温度に保持したルツボに仕込んだ溶融物を、冷却温度を制御しながら冷却凝結させる簡単な方法で凝固体を得ることができるが、最も好ましいのは一方向凝固法により作製されたものである。一方向凝固をおこなうことにより含まれる結晶相が単結晶状態で連続的に成長し、部材内での光の減衰が減少するためである。
【0039】
本発明の光変換用セラミックス複合体を構成する凝固体は、少なくとも1つの酸化物相が蛍光を発する結晶相であることを除き、本願出願人が先に特開平7−149597号公報、特開平7−187893号公報、特開平8−81257号公報、特開平8−253389号公報、特開平8−253390号公報および特開平9−67194号公報並びにこれらに対応する米国出願(米国特許第5,569,547号、同第5,484,752号、同第5,902,963号)等に開示したセラミック複合材料と同様のものであることができ、これらの出願(特許)に開示した製造方法で製造できるものである。これらの出願あるいは特許の開示内容はここに参照して含めるものである。
【0040】
本発明の発光装置の一実施形態である白色発光装置は、波長400nm〜520nmにピークを有する光を発する発光素子と、該発光素子から発する光によりピーク波長530〜580nmの蛍光を発する上記光変換用セラミックス複合体とからなる。発光素子からの光を、その波長に合わせて白色が得られるように蛍光ピーク波長の調整をおこなった光変換用セラミックス複合体に入射する。それによって励起された蛍光を発する結晶相からの蛍光と、蛍光を発さない結晶相を透過した入射光が、酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合う構造により、均質に混合されることで、色むらが小さい白色光を得ることができる。
【0041】
本発明の発光装置の色調は、光変換用セラミックス複合体の厚みにより容易に制御することができる。
【0042】
本発明の発光装置に用いる光変換用セラミックス複合体は、切断・研削・研磨・エッチング等の加工法により板状等の適切な形状および表面状態に作製される。本光変換用セラミックス複合体は、そのまま単独で部材として使用することが可能で封入樹脂が必要なく、熱・光による劣化がないため、高出力の紫〜青色発光素子と組み合わせて使用することができ、発光装置の高出力化が可能である。
【0043】
本発明の発光装置に用いる発光素子は、発光ダイオード素子、レーザー光を発生する素子などが挙げられるが、発光ダイオード素子が小型で安価に得られるため好ましい。
【0044】
本発明により、特別に部品を追加することなく発光装置の配光性を容易に制御することができる。また熱や光に弱い樹脂を用いることなく発光装置を構成することができる。このため異方性の配光性を有し、かつ熱や光による劣化がない高出力化に極めて好適な白色発光装置を低コストで提供することができる。
【実施例】
【0045】
以下、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0046】
(実施例1)
α−Al23粉末(純度99.99%)をAlO3/2換算で0.82モル、Y23粉末(純度99.9%)をYO3/2換算で0.175モル、CeO2粉末(純度99.9%)を0.005モルとなるよう秤量した。これらの粉末をエタノール中、ボールミルによって16時間湿式混合した後、エバポレーターを用いてエタノールを脱媒して原料粉末を得た。原料粉末は、真空炉中で予備溶解し一方向凝固の原料とした。
【0047】
次に、この原料をそのままモリブデンルツボに仕込み、一方向凝固装置にセットし、1.33×10-3Pa(10-5Torr)の圧力下で原料を融解した。次に同一の雰囲気においてルツボを20mm/時間の速度で下降させ、Al23(サファイア)相、(Y、Ce)3Al512相、CeAl1118相の3つの酸化物相からなる凝固体を得た。
【0048】
凝固体の凝固方向に垂直な断面組織を図3に示す。Aの黒い部分がAl23(サファイア)相、Bの白い部分が(Y、Ce)3Al512相、わずかに存在するCの灰色の部分がCeAl1118相である。各酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有していることがわかる。組織はサイズが微細な部分とそれを取り巻くやや大きな部分とからなるが、巨視的には(Y、Ce)3Al512相が均一に分布していることが分かる。このため均質な蛍光を得ることができる。
【0049】
得られた凝固体からφ16mm×0.2mmの円盤状試料を切り出し、日本分光製固体量子効率測定装置で蛍光特性の評価をおこなった。真のスペクトルを求めるために補正を副標準光源を用いておこなった。蛍光スペクトルを図4に示す。波長460nmの励起光により、547nmにピーク波長を持つブロードな蛍光スペクトルが得られた。
【0050】
得られた凝固体から2mm×2mm×2mmの立方体を切出し、その6面の内、対向した2つの面が表面粗さRa=1.5μmの粗面、残りの4つの面が表面粗さRa=0.03μmの鏡面である、表面状態が異なる光変換用セラミックス複合体を作製した。得られた光変換用セラミックス複合体と波長463nmの発光素子を図5に示すように配置し発光装置とした。すなわち、発光素子1に対して、光変換用セラミックス複合体2の底面2aを対向させて、光変換用セラミックス複合体2の底部を固定部材5にて固定し、頂面2bを光進行方向(0°方向)、側面2c、2d、2e等を光進行方向に直角方向(90°)の光放射面(光出射面)とした。この時、光変換用セラミックス複合体の上面をRa=1.5μmの面、側面をRa=0.03μmの面とした。この時の光強度を0°方向(上面方向)、90°方向(側面方向)についてそれぞれ測定した。後述する同一形状で6つの面が全て表面粗さRa=1.5μmの粗面である光変換用セラミックス複合体を用いた発光装置の0°方向の光強度を1.0とすると、本実施例の光強度は0°方向で1.2、90°方向で0.8となり、側面への光放出が抑えられた配光が得られていることがわかる。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で作製した凝固体から、2mm×2mm×2mmの立方体で全ての面が表面粗さRa=1.5μmの粗面である光変換用セラミックス複合体を作製した。そして実施例1と同様な発光装置を構成し、光強度を0°方向(上面方向)、90°方向(側面方向)についてそれぞれ測定した。得られた光強度は0°方向、90°方向共に1.0であり、異方性のない配光となっていることがわかる。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例2、3)
実施例1で得られた凝固体から2mm×2mm×0.2mmの直方体を切出し、その6面の内、対向した2つの主面(2mm×2mmの面)を鏡面とし、残りの4側面を表面粗さRa=1.5μmの粗面にした実施例2の光変換用セラミックス複合体と、6面の全部を表面粗さRa=1.5μmの粗面にした実施例3の光変換用セラミックス複合体を作成した。これらの光変換用セラミックス複合体は図7に示すように主面の下半分を光不透過材料でマスクした。
【0054】
そして、図6及び図7に示すように、直方体の下面から波長463nmの光を入射し、放射状態を観察した。図7は、その観察写真である。図7(a)は、実施例2の主面が鏡面のものであり、図7(b)は実施例3の主面が粗面のものである。図7(a)の鏡面より、図7(b)の粗面の場合に放射される光が明るい(発光強度が高い)。また、図7(a)及び図7(b)の両方の場合、マスクに近い部分(入射面に近い部分)で発光強度が高く、マスクより遠ざかると発光強度が低下するが、図7(a)の主面が鏡面のものでは光入射面に対向する頂面(図の上方)の発光強度が図7(b)の対応する発光強度より高いことが観察される。これは、図7(b)では主面においてより多くの光が放射されたのに対して、図7(a)では主面における放射が抑止された結果、頂面における放射が増加したものである。
【0055】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で作製した凝固体から2mm×2mm×2mmの立方体を切出し、その6面の内、対向した2つの面が凹凸の高さ段差3.5μm、幅2μmの市松模様の凹凸面、残りの4つの面が高さ段差0.1μmの面である、表面状態が異なる光変換用セラミックス複合体を作製した。市松模様の凹凸面はフォトリソ技術を利用してパターンエッチングで形成した。そして実施例1と同様な発光装置を構成し、光変換用セラミックス複合体の上面を高さ段差3.5μmの凹凸面、側面を高さ段差0.1μmの面とした。この時の光強度を0°方向(上面方向)、90°方向(側面方向)についてそれぞれ測定した。前述した比較例1の発光装置の0°方向の光強度を1.0とすると、本実施例の光強度は0°方向で1.15、90°方向で0.8となり、実施例1と同様に側面への光放出が抑えられた配光が得られていることがわかる。
【0056】
(実施例5)
実施例1において得られた凝固体から2mm×2mm×0.15mmの板状で、2mm×2mmの面の表面粗さがRa=0.04μmの鏡面である試料を作製し、硫酸:リン酸=1:1(容積比)の混合酸中で200℃×1hの熱処理をおこない、表面が酸化物相毎に高さが異なる凹凸面である光変換用セラミックス複合体を得た。得られた光変換用セラミックス複合体表面の断面を図8に示す。黒い部分がAl23(サファイア)相、白い部分が(Y、Ce)3Al512 相であり、(Y、Ce)3Al512 相がAl23相より約7μm低い凹凸面が形成されている。
【0057】
得られた光変換用セラミックス複合体に波長463nmの励起光を入射し、反対側で放射される光を積分球を用いて集め、放射された全光の積分値(全放射束)を求めた。透過した励起光と蛍光を合わせた全放射束は、同一厚みで表面に凹凸のない比較例を100とすると実施例5では109となり、光変換用セラミックス複合体表面を酸化物相毎に高さが異なる凹凸面とすることで、より多くの光を取り出すことができ、光取り出し効率に優れることがわかる。
したがって、このような凹凸面を特定の出射面とすることで、その特定の出射面において他の出射面より高い光出射率を実現することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 発光素子(発光ダイオード素子)
2 光変換用セラミックス複合体
2a 光変換用セラミックス複合体の底面(発光素子対向面)
2b 光変換用セラミックス複合体の頂面
2c、2d、2e 光変換用セラミックス複合体の側面
3 リードワイヤー
4 リード電極
5 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と光変換用セラミックス複合体からなる発光装置において、前記光変換用セラミックス複合体が少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合った組織を有し、該酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する結晶相である凝固体からなり、前記光変換用セラミックス複合体の光出射面において表面テクスチャーが異なる部位を含み、表面テクスチャーが異なる部位における光の出射効率が2%以上異なることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記表面テクスチャーが異なる部位の算術平均表面粗さ(Ra)の差が0.1μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記表面テクスチャーが表面凹凸であり、凹凸の段差が0.5μm以上異なることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記表面凹凸がセラミックス複合体を構成する酸化物相ごとの凹凸であることを特徴とする、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記光変換用セラミックス複合体が、光入射面と、第1の光出射面と、第1の光出射面以外の第2の光出射面を有し、第1の光出射面と第2の光出射面において、表面テクスチャーが異なり、発光素子からの光の出射効率が2%以上異なることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
第1の光出射面が光入射面と対向している、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
光出射面の表面テクスチャーが漸進的に変化する部位を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記発光装置がバックライトであり、光変換用セラミックス複合体が主面を有する板状であり、発光素子から光変換用セラミックス複合体の板の側面に横方向から光が入射され、光変換用セラミックス複合体の板の主面から出射されるバックライトであり、光変換用セラミックス複合体の光出射される主面において光入射部位から遠ざかるに従い表面テクスチャーが漸進的に変化して、主面からの光出射の光量が同等にされることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記光変換用セラミック複合体が、組成成分として少なくともY元素、Al元素とCe元素を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
発光素子が発光ダイオードであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項11】
前記光変換用セラミック複合体が波長530〜580nmにピークを有する蛍光を発し、前記発光素子が波長400nm〜520nmにピークを有する光を発することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−138589(P2012−138589A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26379(P2012−26379)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【分割の表示】特願2007−115903(P2007−115903)の分割
【原出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】