説明

光子検出器

単一光子を検出するように構成された光子検出器と、光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である第1の部分と第2の部分とに分周する信号分周器と、第2の部分を第1の部分に対して遅延させる遅延手段と、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分とを、遅延させた第2の部分が出力信号の第1の部分における周期的変動を打ち消すために使用されるように合成する合成器とを備える光子検出システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一光子の有無を検出するように構成された光子検出器および光子を検出する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
単一光子を検出することのできる検出器、いわゆる単一光子検出器は、量子暗号の原理を使用して動作するシステムのいずれにおいても重要な構成要素である。かかるシステムは、不可分の単一粒子、この場合は光子としてのデータビットの伝送に依拠するものである。
【0003】
また、単一光子検出は、飛行時間測距実験、分光学、医用画像または天文学のための低レベル光検出手段としても有用である。医療用途でも天文学用途でも、高エネルギー光子(X線など)または高エネルギー粒子はシンチレータにおいて多く(10〜100)の低エネルギー光子に変換される。次いでこれらの低エネルギー光子が、アバランシェフォトダイオードまたは光電子増倍管によって検出される。生成される低エネルギー光子は空間において散乱するため、きわめて高感度の広範囲検出器が求められる。また、かかる検出器の配列は、元の光子に関する情報を得るために低エネルギー光子の空間的分布を獲得することも可能にする。
【発明の概要】
【0004】
多くの単一光子検出器が被る1つの問題は、単一光子の検出により出力される信号は弱いことが多く、検出器出力の他のアーチファクトと区別するのが困難な場合もあることである。
【0005】
例えば、特に一般的な種類の単一光子検出器が、ゲートモードで動作するアバランシェフォトダイオード(APD)である。ゲートモードでは、光子を検出するために、APDの両端に、ダイオードの降伏電圧より上の高逆バイアスが短期間にわたって印加される。吸収された光子がAPDにおいて電子−正孔対を生じさせ、これは分離の際に過剰キャリヤの電子なだれを引き起こすことができる。この過剰キャリヤの電子なだれは、APDを流れる巨視的な検出可能な電流を生じさせる。
【0006】
この巨視的電流は、検出可能であるが、普通は、バイアスゲートに反応してAPDのキャパシタンスによって生じるAPDの出力信号のアーチファクトに埋もれる。この問題に対する1つの解決策は、アバランシェ電流が検出器の出力を決定する程度までAPDにバイアスをかけるものである。しかしこれには、APDを比較的低い周波数で動作させる必要があるという欠点がある。
【0007】
この問題に対処する別のやり方は、コンデンサによって、または第2のAPDによってAPDの応答を模倣するというものであった(Tomita et al. オプティクスレターズ、第27巻、1827〜1829頁、2002年(Optics Letters 27 1827 to 1829 (2002)))。これらのシステムはどちらも、第1のAPDの出力を正確に再現し、第1のAPDの出力とコンデンサまたは第2のAPDの出力とを実際に合成するに際して問題を生じる。
【0008】
本発明は上記問題に対処しようとするものであり、第1の態様では、単一光子を検出するように構成された光子検出器と、光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である第1の部分と第2の部分とに分周する信号分周器と、第2の部分を第1の部分に対して遅延させる遅延手段と、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分とを、遅延させた第2の部分を使用して出力信号の第1の部分における周期的変動が打ち消されるように合成する合成器とを備える光子検出システムを提供する。
【0009】
検出器の出力を2つの部分に分周し、ある期間からの信号を後の期間からの信号と合成することにより、検出器の出力における周期的変動が除去される。検出器出力が検出器出力自体を修正するために使用されるため、検出器出力を複製しようと試みる従来技術の問題が回避される。
【0010】
好ましくは、光子検出器はアバランシェフォトダイオードとするが、他の光子検出器とすることもできる。
【0011】
好ましくは、検出器は周期的信号を受け取り、上記遅延手段は信号の第2の部分を上記周期の整数倍だけ遅延させるように構成される。しかしシステムは、信号の第2の部分から単一周期または周期の倍数を分離し、この分離信号を繰り返し使用して、信号の第1の部分における周期的変動を打ち消すことも可能である。例えば、波形の周期がデジタル方式で格納され、次いで格納した波形を使用して、デジタルプロセスを使った打ち消し合いが実行されてもよい。
【0012】
システムは、好ましくは、上記検出器に周期的ゲート信号を印加する手段を備える。ゲート信号は、方形波信号や、正弦波信号などとすることができる。
【0013】
本発明は、検出器の両端に必要とされるバイアスを増大させずに単一光子による信号の存在を強調するため、本発明の検出器は、従来技術の周波数より高い周波数で動作することができる。したがって本発明は、50MHz以上、好ましくは70MHz以上、さらに好ましくは100MHz以上の周波数のゲート信号を有し得る。
【0014】
本発明は、より高いゲート周波数で使用され得るため、準連続動作を実現することができる。準連続動作では、光子の発生源と検出器の間の同期が必要とされない。準連続動作が可能なのは、非常に高いゲート周波数では、検出器が光子を検出することのできない期間により検出効率全体が抑制されることがないからである。
【0015】
準連続動作を改善するために、ゲート信号の周期を変動させて検出窓を広げることも可能である。周期は、無作為に変動させてもよく、または雑音として変動させてもよい。
【0016】
一般には合成器に到達した2つの信号が平衡化される。しかしシステムはさらに、合成器に到達した2つの信号の振幅を平衡化する手段を備えていてもよい。例えばシステムはさらに同調可能減衰器を備えていてもよい。
【0017】
またシステムは、信号の一方の部分を他方の部分に対して反転させる手段も備えることができる。反転は、分周器、合成器で行われても、または分周器と合成器の間の転送時に行われてもよい。反転は、多くの方法により、例えば、分周/合成および反転を実行するハイブリッド結合器などを使用して行われ得る。
【0018】
また、差動増幅器などの差動部品を使用して信号を合成することも可能である。
【0019】
第2の態様において本発明は、パルス放射の発生源、および上記放射パルスに関する情報を符号化する符号器を備える送信機と、本発明の第1の態様による検出システムを備える受信機とを備える、量子通信システムを提供する。
【0020】
量子通信システムは、QKDプロトコルのために構成されていてもよく、例えば、上記符号化手段は、2つ以上の非直交基底から無作為に選択される符号化基底を使用してパルスを符号化するように構成されていてもよい。
【0021】
発生源は常に一定の間隔で放射するため、どのQKD用途でも同調動作が好ましい。しかし、例えば後述するDPSKプロトコルやストゥッキ(Stucki)プロトコルなど、プロトコルの中には隣り合うパルスのコヒーレンスを必要とするものもあり、これには普通、GHz周波数で動作する発生源が必要である。本発明の検出システムの高速動作はこれらのプロトコルに特に有利である。
【0022】
本発明は、いわゆる一方向型弱コヒーレントプロトコル(D Stucki et al. アプライドフィジックスレターズ、第87巻、194108、2005年(Applied Physics Letters 87, 194108(2005))において特に有用である。よって、別の実施形態では、送信機はコヒーレント源を備えていてもよく、上記符号器は、1光子未満の平均強度を有するパルスを選択的に送信することによって情報を符号化し、空のパルスには光子がない。
【0023】
また、検出システムの高速動作は有利には、差動位相偏移プロトコル(Takesue et al. ニュージャーナルオブフィジックス、第7巻、232頁、2005年(New Journal of Physics 7 (2005) 232)においても使用され得る。よって、別の実施形態では、送信機はコヒーレント源を備えていてもよく、上記符号化手段は第1の位相または第2の位相で光子を符号化するように構成されており、第1の位相と第2の位相の差は180°であり、受信機は、あるパルスからの光子と後続のパルスの光子とを干渉させるように構成されている。
【0024】
第3の態様において本発明は、光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である第1の部分と第2の部分とに分周する信号分周器と、第2の部分を第1の部分に対して遅延させる遅延手段と、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分とを、遅延させた第2の部分を使用して出力信号の第1の部分における周期的変動が打ち消されるように合成する合成器とを備える、光子検出器の出力を調整する、調整回路を提供する。
【0025】
本発明の第1の態様による検出システムは、準連続モードで動作させることもできるが、ゲート制御し、周期的発生源の出力と同期させることもできる。第4の態様において本発明は、周期的発生源と、本発明の第1の態様による検出システムであり、上記検出器をゲート制御して発生源からの最高強度信号の到達時に検出を行うように構成されたゲート信号をさらに備える、検出システムとを備えるシステムを提供する。
【0026】
上記システムは、有利には、例えば、物体の距離を測定するための飛行測距実験や、単一光子を検出できる能力が、検査対象の物体から反射されるパルスを測定することによって物体の寸法の正確な測定を行うことを可能にすることによる工業検査や、複合材の化学的処方を決定するための時間分解発光実験などにおいて使用され得る。
【0027】
第5の態様において本発明は、単一光子を検出するように構成された光子検出器を設けることと、上記光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である第1の部分と第2の部分とに分周することと、第2の部分を第1の部分に対して遅延させることと、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分とを、遅延させた第2の部分を使用して出力信号の第1の部分における周期的変動が打ち消されるように合成することとを含む、光子検出方法を提供する。
【0028】
次に、添付の非限定的実施形態を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1aは、アバランシェフォトダイオード(APD)を使用した従来技術の検出システムを示す回路図である。図1bは、図1aのAPDの入力信号の時間に対する電圧を示す概略的グラフである。図1cは、出力信号を図1aの検出システムの時間に対する電圧として示すグラフである。
【図2】従来技術による、アバランシェフォトダイオードおよびコンデンサを組み込んだ検出システムを示す図である。
【図3】相互に打ち消し合うように配置された2つのAPDを備える従来技術による検出システムを示す回路図である。
【図4】図4aは、本発明の一実施形態による、アバランシェフォトダイオードを備える検出システムを示す回路図である。図4bは、図4aの装置への入力信号を示すグラフである。図4cは、図4aのAPDの出力信号から引き出された第1の部分を示すグラフである。図4dは、遅延させてある、図4aのAPDの出力信号から引き出された第2の部分を示すグラフである。図4eは、図4aの装置によって生成された自己差動出力信号を示すグラフである。
【図5】図5aは、図4aの装置の一変形を示す図である。図5bは、図5aの装置の出力信号の第1の部分を示すグラフである。図5cは、図5aのAPDの出力信号の遅延させた第2の部分を示すグラフである。図5dは、図5aの検出システムの出力信号を示すグラフである。
【図6】図6aは、図4aの検出システムの別の変形を示す回路図である。図6bは、図6aの検出システムへの入力信号を示すグラフである。
【図7】図4aの検出システムの一変形である検出システムを示す回路図である。
【図8】図4aの検出システムの、光子検出効率に対する暗計数確率を示すグラフである。
【図9】本発明の準連続検出動作を示す、毎秒の光子束に対する計数率を示すグラフである。
【図10】図10aは、前述の図4aによる検出システムを有する量子通信システムを示す図である。図10bは、図10aの量子通信システムのクロック信号を示すグラフである。図10cは、図10aの送信側システムの出力レーザパルスを示すグラフである。図10dは、図10aの検出システムの検出器に到達する信号を示すグラフである。図10eは、図10aで使用される検出器のための電位ゲート制御システムを示すグラフである。
【図11】図11aは、隣接するパルス間の位相コヒーレンスに基づくプロトコルを使用する量子通信システムを示す略図である。図11bは、図11aのシステムを使用して送ることのできるパルスシーケンスを示すグラフである。図11cは、図11aの検出器のゲート制御要件を示す図である。
【図12】図12aは、本発明による検出器を使用した、差動位相偏移プロトコルに基づく量子通信システムを示す略図である。図12bは、送信機から検出器に送られたパルス列を示す図である。図12cは、受信側干渉計の短アームを通過するパルス列を示す図である。図12dは、受信側干渉計の長アームを通過するパルス列を示す図である。図12eは、図12aの検出器D1による可能な光子検出時刻を示す図である。図12fは、図12aの検出器D2による可能な光子検出時刻を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1aは、単一光子を検出するために使用され得る公知の検出システムの略図である。このシステムはアバランシェフォトダイオード1と抵抗器3とを備える。アバランシェフォトダイオード(APD)1は逆バイアスで構成されている。図1bに示すゲート信号として働く入力信号が、入力5と接地7の間に印加される。
【0031】
図1bに示す入力電圧は周期的な一連の方形電圧パルスであり、第1の値Vから第2の値Vの間で変動する。Vはアバランシェフォトダイオード1の降伏電圧VBRを上回るように選択される。かかる電圧がアバランシェフォトダイオードに印加されると、検出器は入ってくる光子を感知するようになる。吸収された光子はAPDにおいて電子−正孔対を発生させ、電子−正孔対はAPD内の電場によって隔てられる。APDのアバランシェ領域内の高電場により、電子または正孔が過剰キャリヤの電子なだれを誘発し、APDを流れる巨視的で検出可能な電流を生じさせる。
【0032】
巨視的な電流は普通、図1cに示す抵抗器3の両端の電圧降下を観測することによって検出される。電圧スパイク13は、光子が検出されていることを示す。しかし、APDのキャパシタンスには限界があり、典型的には1ピコファラドであるため、出力は、ゲートパルスの立ち上がりエッジに反応するときのAPDキャパシタンスの充電による充電パルス9も含み、この後にゲートパルスの立ち下がりエッジにおいて立ち下がりバイアスに反応するときのAPDキャパシタンスの放電による放電降下11が続く。充電パルスは正であり、しばしば光子により誘発される電子なだれを不明瞭にする。
【0033】
図1cに示す結果から、単一光子の吸収によるものであるピーク13を分離するのが困難であることは明らかである。光子吸収による電子なだれが検出可能であるための一方法は、アバランシェスパイクの振幅が充電パルスの振幅を上回るようにAPDバイアス電圧を増大させるものである。この場合、電子なだれは、すべての充電パルスのレベルを上回る弁別レベルを設定することによって検出することができる。しかし、かかる方法には重大な短所がある。APDは普通、結晶学的欠陥を含み、これらの欠陥が、検出イベント時に巨視的なアバランシェ電流からの電子を制限するトラップとして働く。捕捉された電子は、若干の遅延の後で自然に放出され、次のゲートが印加されるときに、第2のスプリアス電子なだれを引き起こす。かかるスプリアスパルスを「アフターパルス」といい、これの確率はアバランシェ電流の大きさに依存する。アフターパルスの発生する確率を制限するために、バイアス法を使用して充電パルスより大きい電子なだれが実現される場合には、典型的にはAPDを低いゲート周波数(最大で数MHzまで)で動作させる。
【0034】
APD動作周波数を増大させるには、充電パルス9の振幅を除去し、または制限する必要がある。
【0035】
このための1つの試みが図2に示されている。不要な繰返しを避けるために、図1の参照番号と類似の参照番号を使って類似の特徴を表わすことにする。図2もやはりアバランシェフォトダイオード1と抵抗器3とを有する。コンデンサ21および別の抵抗器23が、抵抗器3と抵抗器23とが連続して接続されるように、アバランシェフォトダイオード1および抵抗器3と直列に形成されている。
【0036】
この回路から、APDにはVとVの間で変動するAPDのDCとパルスバイアスの合成されたものが印加され、コンデンサには(VとVの間で変動する)パルス信号だけが印加される。コンデンサ21からの出力信号は、光子の吸収が生じない場合には、APD1からの出力信号と同様になる。次いで、APD1とコンデンサ21からの出力がハイブリッド結合器25において合成される。ハイブリッド結合器25はこれの2つの入力の一方の位相を反転させる。したがってハイブリッド結合器25は、APD1とコンデンサ21の両方からの出力信号を、これらがほぼ打ち消し合うように180°の位相差で合成する。これにより充電9ピークと放電11ピークの一部を打ち消すことができる。
【0037】
図2の構成には、コンデンサがAPDの応答を模倣するのが困難であるという点で問題がある。また、APD1とコンデンサ21の両方からのパルス出力信号から、厳密に同時刻にハイブリッド結合器25に到達する必要もある。さらに、APD1の出力とコンデンサ21の出力とが等しい振幅を有する必要もある。
【0038】
図3に、コンデンサ21が第2のAPD23で置換されている、図2のシステムの別の改善例を示す。
【0039】
不要な繰返しを避けるために、類似の参照番号を使用して類似の特徴を表わすことにする。
【0040】
図2の第2の抵抗器23およびコンデンサ21と同じ位置に第2の抵抗器31および第2のAPD33が設けられている。この場合、第1のAPD1と第2のAPD33の出力は、これらの成分が相互に打ち消し合うように、ハイブリッド結合器35において180°の位相差で合成される。次いでハイブリッド結合器の出力が弁別器37(不図示)に供給され、そこでさらに単一光子検出によるピークの有無を判定する。
【0041】
図3の装置には図2に示すシステムの問題の多くが生じる。さらに、同様の特性を有するAPDを選択することは、高くつく装置のキャラクタリゼーションを伴う。特に、同一の電気特性を有する2つのAPDを見つけることは、装置を慎重に選択したとしても非常に困難である。APDは異なるキャパシタンスを有する可能性が高く、これはこれらのAPDの出力信号の打ち消し合いがうまくいかないことを意味する。
【0042】
図4aに、本発明の一実施形態によるシステムを概略的に示す。前述のように、装置は抵抗器53と直列に設けられたアバランシェフォトダイオードを備える。
【0043】
図4bに示すような入力信号が印加され得る。この信号は図1bを参照して説明した入力信号と同じものである。抵抗器53の両端で降下した電圧がまず電力分配器55に入力される。電力分配器55は出力信号を、図4cに示す第1の部分と、図4cに示す第1の部分と同一の第2の部分とに分周する。次いで、これらの2つの信号が、電力分配器55のポート57とポート59を介して出力される。ポート59を介して出力される信号は、ゲート期間に等しい持続期間だけ信号を遅延させるように働く遅延線56に入る。遅延させた信号を図4dに示す。次いで、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分がハイブリッド結合器61に供給される。ハイブリッド結合器61は、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分を180°の位相偏移で合成して、図4eに示す出力をもたらす。
【0044】
図4cからわかるように、APD51による光子の検出は、アバランシェ信号73を発生させる。次いでこのアバランシェ信号が、図4dのトレースとして1周期後に繰り返される。4cと4dを組み合わせると、光子の有無を示す図4eのトレースにピーク77とディップ75が見られる。正のピークとこの後に続く負のディップ(または、装置の構成によっては、負のディップとこの後に続く正のピーク)が与えられることにより、光子の検出を示す明らかなシグネチャが可能になる。
【0045】
1つの好ましい検出モードは、出力信号における正のピーク77と負のディップ75の両方の有無を調べるものである。しかし代替として、正のピークの有無だけ、または負のディップの有無だけを調べる方がより好都合な場合もある。ピークまたはディップは、弁別法を使用して検出されてもよい。弁別法では弁別器レベルを使用する。上記の弁別器レベルより大きい電圧信号が光子の検出によるものであると想定される。
【0046】
電力分配器55は、ミニサーキット(Mini-circuits)社から部品番号ZFRSC−42+として販売されている種類のものとすることができ、ハイブリッド結合器も、やはりミニサーキット社から部品番号ZFSCJ−2−4として入手可能である。厳密な遅延は、電力分配器とハイブリッド結合器をつなぐ長さの異なる2本の同軸ケーブルを使用して実現することができる。電力分配器55、遅延線56およびハイブリッド結合器61を組み合わせたものが、単一のプリント回路基板上に組み込まれてもよいことに留意すべきである。
【0047】
図5に、図4を参照して説明した装置の一変形を示す。図5aの装置は、APDおよび抵抗器(不図示)からの出力を取り込み、これをハイブリッド結合器81に提供する。ハイブリッド結合器81はこの出力を第1の部分に分配し、第2の部分は図4aの電力分配器55を参照して説明する。しかし、ハイブリッド結合器81は、信号の第1の部分と第2の部分の間に180°の位相偏移も導入する。信号の第1の部分は出力83を介して出力され、第2の部分は出力85を介して遅延線87に送られる。
【0048】
信号の第1の部分は図5bに示されており、信号の第2の部分は図5cに示されており、これは遅延線87を通過しており、反転され1クロック周期だけ遅延させてあること以外は、図5bと同一のものである。
【0049】
次いで、図5bおよび図5cに示す2つの信号を合成して図5dの出力信号が生成される。これらの信号は、電力合成器89において合成され、信号の一方に対する位相偏移がハイブリッド結合器81によってすでに行われているため、電力合成器89はこれを行う必要がない。
【0050】
図4aおよび図5aの各システムは、どちらも、電力分配器/合成器およびハイブリッド結合器の組み合わせを使用している。しかし、ハイブリッド結合器は、移相器と電力合成器を組み合わせたもので置き換えられてもよい。例えば、電力合成器および180°移相器や、90°の位相偏移を有する2つの電力合成器/分配器などである。
【0051】
図4aおよび図5aのシステムの別の変形では、2つの信号が等しい振幅でハイブリッド結合器または電力合成器に到達するようにするために、ハイブリッド結合器61(図4a)または電力合成器89(図5a)への入力において使用され得る、同調可能RF減衰器が設けられる。
【0052】
典型的には、すべてのハイブリッド結合器および電力分配器/合成器が有限な応答周波数範囲を有する。例えば、ハイブリッド結合器であるミニサーキット社製ZFSCJ−2−4は、50MHzから1GHzまでの周波数範囲を有する。このハイブリッド結合器は、信号がこの範囲外の周波数成分を含むときにはうまく働かず、打ち消し合いが不完全になることもある。信号対雑音比を改善するために、別の帯域フィルタを使用してこれらの周波数成分を除去してもよい。図4aでは、例えば、ハイブリッド結合器出力の後に低帯域フィルタなどが配置され得る。
【0053】
図6に、図4および図5を参照して説明したシステムの別の変形を示す。
【0054】
図6aのシステムは、図4aを参照して説明したようなアバランシェフォトダイオード51と抵抗器53とを有する。さらに、抵抗器53の両端で降下した電圧が電力分配器55に取り込まれ、電力分配器55が信号を第1の部分と第2の部分とに分配する。第1の部分は出力57を介して出力され、第2の部分は出力59を介して遅延線56に出力される。次いで、信号の第1の部分と遅延させた第2の部分がハイブリッド結合器61に供給され、そこで信号の2つの部分を180°の位相差で合成する。
【0055】
しかし、図6aの装置では、入力電圧信号は図6bに示すように正弦波電圧信号であり、図1bに示すような周期的な方形パルス列ではない。電子なだれ降伏の閾値の上下でAPDにバイアスをかけるために十分な電圧振幅が正弦波信号にある限り、この信号を用いて図6aの検出システムにバイアスをかけることが可能である。実際、検出器にはどんな周期的電圧信号を用いてバイアスをかけてもよい。
【0056】
正弦波ゲート電圧に応答して、APD出力も正弦波になる。正弦波出力には、光子検出による不定期のアバランシェスパイクが重畳される。アバランシェスパイクの振幅は、典型的には、正弦波出力の振幅よりずっと小さい。しかし、図4aを参照して上述したように、電力分配器、遅延線およびハイブリッド結合器を使用することにより、正弦波成分の大部分を打ち消すことができ、アバランシェスパイクがはっきり見えるようになる。
【0057】
さらに、正弦波信号の小さい残りの成分があっても、正弦波信号の周波数に同調された帯域阻止フィルタ63によってハイブリッド結合器61の出力から除去され得る。信号は増幅器65に、次いで、出力信号における光子誘導スパイクの有無を判定するために弁別器67に渡される。
【0058】
図7に、図4のシステムの別の変形を示す。構成は、図4a、図5aおよび図6aを参照して説明したものと同じである。出力信号はこの場合、電力分配器101に供給される。電力分配器101は信号を第1の部分と第2の部分に分配する。第1の部分は出力103を介して出力され、第2の部分は出力105を介して出力され、さらに遅延線107に供給される。次いで、信号の2つの部分は差動増幅器109に供給される。増幅器109の構成により、2つの入力の差だけが増幅される。出力信号は図示していないが、図4eに示した出力信号と同様のものになる。
【0059】
図8は、625.1MHzで動作する方形波で駆動されるAPDを使用した、図4aの検出システムの出力のグラフである。光子検出効率に対する1ゲート当たりの暗計数確率が表わされている。APDは−40℃で冷却される。検出効率を測定するために、APDを、波長1550nm、持続期間100ps、繰返し率9.76MHz、および1パルス当たり平均0.1光子の強度を有するレーザパルスを用いて照明した。
【0060】
測定に際しては、ハイブリッド結合器61(図4a)の出力を、まず広帯域増幅器に供給し、次いで、個別アバランシェスパイクを識別し、スパイクをTTLパルス出力に変換する弁別器に供給した。次いでTTLパルスをパルスカウンタによって計数する。APDゲート信号は8Vの振幅を有する方形波であり、典型的にはAPDのアバランシェ降伏電圧より2V下回るDCバイアス電圧(47V)に重畳される。図8の各点は、DCバイアスレベルを変動させることにより記録した。DCバイアスが高いほど検出効率が高くなる。しかし、入力光がない場合の出力確率として定義される検出器の検出器暗計数確率も、やはりDCバイアスと共に増大する。
【0061】
図8の結果は、APDが625.1MHzの周波数で駆動されているため、驚くほどによい。これは、典型的には数MHzである通常のAPDのゲート周波数よりかなり高い。同時に、低周波数動作と比べて、同装置の効率および暗計数確率には悪化がほとんど見られない。この周波数でAPDを駆動することが可能になるのは、本発明で説明している自己差分法によるものである。
【0062】
本発明が可能にする高いゲート周波数は、検出システムが準連続的に動作し得ることを意味する。準連続動作では、光子の発生源と検出器の間で同期をとる必要がない。準連続動作が可能なのは、非常に高いゲート周波数では、検出器のバイアスがAPDの降伏電圧を下回るために検出器が光子を検出することができない期間により、検出効率全体が抑制されることがないからである。
【0063】
発生源と検出器との意図しない同期を回避するためには、APDをゲート制御するために使用される信号の周波数を変動させることが望ましく、例えば、駆動周波数は、周波数の何らかの雑音を加えることにより無作為に変動させてもよい。
【0064】
かかる方式では、信号の第1の部分と第2の部分の間に時間遅延を導入する遅延線は一定のままである。しかし、ゲート周波数は、例えば50kHzなど、少量だけ変動させることもでき、これにより基本的に検出器が単一光子を検出することのできる時間窓が広がる。
【0065】
図9に、図8を参照して説明したのと同様のバイアス条件を使用して準連続モードで動作する検出器のグラフを示す。測定される計数率、すなわち毎秒受け取られる光子の数は、光子束の関数として測定される。光子は、1550nmで動作するcwレーザダイオードによって放出させた。各光子の放出時間は非決定的であり、APDは入ってくる光子と同期することができなくなる。したがって測定結果は、連続モードで使用された検出器の性能を示すものである。
【0066】
実際に測定された計数率を黒い四角で示す。三角は、測定された光子計数率から暗計数率を差し引いた正味の光子計数率を示すものである。暗計数は、照明がない場合の検出器の出力を測定することにより求められる。
【0067】
図9のグラフから、高い光子計数率は10MHz近辺で達成されることがわかり、これは主に電子回路の不感時間によって限定される。検出器は、40dBの範囲にわたる線形応答、および1.2%の検出効率を示す。
【0068】
図4から図9までに示す検出システムは、例えば図10のシステムなどの量子暗号システムにおいて使用することができる。
【0069】
図10aでは、送信機(アリス)201が受信機(ボブ)203に光子を送る。送信機と受信機とは光ファイバ205でつながっている。
【0070】
アリスは単一光子を発生させ、これを符号化して、クロック信号として働く明るいレーザパルスと共にボブに送る。
【0071】
アリスの装置は単一光子発生源207を備える。単一光子発生源は、パルスレーザダイオード209と減衰器211でできている。レーザは、繰返し周期Tclockで各クロック信号ごとに単一光パルスを発生させる。典型的には、各レーザパルスは、dlaser=50psの持続期間を有する。減衰のレベルは、アリスによって送られる1パルス当たりの平均光子数が1よりずっと少なく(μ≪1)、例えば、典型的にはμ=0.1になるように設定される。代替として、英国特許第2404103号明細書に記載されているように、減衰のレベルをパルスごとに変動させてもよい。
【0072】
レーザ209には、バイアス電子回路210によってクロック信号が提供される。バイアス電子回路は、タイミングユニットと、信号レーザ209用のドライバと、後述するクロックレーザ227用のドライバと、後述する位相変調器223用のドライバとを備えていてもよい。
【0073】
光子発生源207からの光子パルスは次いで不均衡マッハ−ツェンダ(Mach-Zender)型干渉計213に供給される。干渉計213は、入口ファイバ結合器215と、光遅延を生じさせるように設計された遅延ファイバループ219を備える長アーム217と、位相変調器223を備える短アーム221と、それぞれ長アームと短アームからのファイバ217とファイバ221とをつなぐ出口ファイバ結合器225とからなる。長アームと短アームの長さの差はtdelayの光伝搬遅延に対応する。典型的には、遅延ループ219の長さは、tdelay〜0.5nsの遅延を生じるように選択される。長アームを進む光子は、短アーム221を進む光子より、干渉計213の出口において時間tdelayだけ遅くなる。
【0074】
アリスの干渉計213の出力は、WDM結合器229において明るいクロックレーザ227からの出力を用いて多重化される。クロックレーザ227は、バイアス回路210の制御下で動作する。クロックレーザ227は、ボブの側203においてこれらを分離しやすいように、信号レーザ209の波長とは異なる波長で放射する。例えば、信号レーザ209は、1.3μmで、クロックレーザ227は1.55μmで動作し、またはこの逆で動作し得る。
【0075】
多重化された信号およびクロックパルスは、光ファイバリンク205に沿って受信者ボブ203に送信される。
【0076】
ボブの装置203はアリスの装置201と同様のものである。ボブの装置203は、アリス201から受け取った信号を逆多重化して、アリスの明るいクロックレーザ227からの信号と、アリスの信号レーザ209からのパルスにするために使用される、WDM結合器231を備える。
【0077】
明るいクロックレーザ227の信号は、ボブがアリスと同期をとるクロック信号を回復するために光受信機233に送られる。光受信機233はこの信号をバイアス回路255に転送する。バイアス回路255は、ボブの装置203の様々な部分を同期させる。
【0078】
信号パルスは、元の偏光を復元するために、偏光制御器235に供給される。
【0079】
次いで信号パルスは、ボブの干渉計237を通過する。ボブの干渉計237はアリスの干渉計と同様のものであり、光ファイバ遅延ループ241と可変ファイバ遅延線243とを備える長アーム239を有する。干渉計39の短アーム45は、位相変調器247を備える。位相変調器247は、クロックレーザ227から受け取られる信号に従いバイアス回路255によって制御される。
【0080】
干渉計の長アーム239および短アーム245は50/50ファイバ結合器249に接続されており、ファイバ結合器249の各出力アームには単一光子検出器251、253が取り付けられている。結合器249の一方のアームに取り付けられた単一光子検出器251を検出器Aと呼び、出力結合器249の他方のアームに取り付けられた単一光子検出器253を検出器Bと呼ぶことにする。光子検出器251および253は、クロックレーザ227から受け取られる信号に従い、バイアス回路255によって制御される。
【0081】
ボブの干渉計の可変遅延線243は、干渉計の2つのアーム239と245の間の光遅延を、アリスの干渉計213のアーム間の光遅延tdelayと同一にするように調整されている。
【0082】
アリスの信号レーザ209からボブの単一光子検出器251および253まで進む信号パルスには以下の4つの可能なパスがある。
【0083】
i)アリスの長アーム217/ボブの長アーム239(長/長)、
ii)アリスの短アーム221/ボブの長アーム239(短/長)、
iii)アリスの長アーム219/ボブの短アーム245(長/短)、および
iv)アリスの短アーム221/ボブの短アーム245(短/短)。
【0084】
ボブの干渉計237は、パス(ii)およびパス(iii)を取る光子が、ボブの干渉計の出口結合器249にほぼ同時に到達するように可変遅延243を調整することによって、平衡が保たれる。ほぼ同時とは信号レーザコヒーレンス時間内を意味し、これは半導体分布帰還型(DFB)レーザダイオードでは典型的には数ピコ秒である。
【0085】
図10bは、レーザ209から受信機203に出力されるクロックのトレースである。典型的には、クロック信号は1GHzの繰返しを有する。図10cは、信号パルスを発生させるために使用されるレーザパルスのトレースである。
【0086】
図10dは、受信機203の検出器251および253から見た光信号のグラフである。パス(ii)および(iii)を取る光子は、図10dの大きな中央ピークに対応する。パス(ii)および(iii)と比べて、パス(i)を取る光子は正の遅延tdelay(遅い到達時刻)を有し、パス(iv)を取る光子は負の遅延tdelay(早い到達時刻)を有する。これらは、図10dのより小さいサテライトピークを形成する。図10dに示す中央ピークにおいて到達する光子だけが干渉を受け、アリスとボブの両方によって符号化される。よって、これらの光子だけが対象となる。
【0087】
図10eは、図10bに示すクロックバイアスと同期しているゲートバイアスのグラフである。ボブは、中央ピークにおける光子だけを記録し、前後のサテライトピークにおける光子は記録しないように、自分の検出器251、253をゲート制御する。
【0088】
各自の位相変調器223および247に印加される電圧を制御することにより、アリスとボブは、パス(ii)およびパス(iii)が、検出器A251および検出器B253において強め合う干渉を受けるか、それとも弱め合う干渉を受けるかを相前後して決定する。
【0089】
可変遅延243は、アリスの位相変調器とボブの位相変調器の位相差が0の場合、検出器A251では強め合う干渉(よって検出器B253では弱め合う干渉)が生じるように設定することができる。よって、アリスの変調器とボブの変調器の位相差が0であり、100%の可視度を有する完全な干渉計の場合、検出器B253では無視できるほど小さい計数率が生じ、A251では有限な計数率が生じる。
【0090】
他方、アリスの変調器とボブの変調器の位相差が180°である場合、検出器A251では弱め合う干渉(よって無視できるほど小さい計数率)が生じ、検出器B253では強め合う干渉が生じるはずである。アリスとボブの2つの変調器の他の位相差では、光子が検出器A251または検出器Bにおいて出力し得る有限確率が生じることになる。
【0091】
BB84ともいう4状態プロトコルでは、アリスが自分の位相変調器上の電圧を、0°、90°、180°および270°の位相偏移に対応する4つの異なる値のうちの1つに設定する。位相0°と180°は第1の符号化基底におけるビット0とビット1とに関連付けられ、90°と270°は第2の符号化基底におけるビット0とビット1とに関連付けられる。第2の符号化基底は、第1の符号化基底と非直交になるように選択される。位相偏移は各信号パルスごとに無作為に選択され、アリスは各クロックサイクルごとに適用される位相偏移を記録する。
【0092】
他方ボブは、自分の位相変調器に印加される電圧を、0°と90°に対応する2つの値の間で無作為に変動させる。これは、それぞれ第1の測定基底と第2の測定基底から選択することを意味する。ボブは、各クロックサイクルごとに、適用される位相偏移と、測定結果(すなわち、検出器A251における光子、検出器B253における光子、検出器A251および検出器B253における光子、または光子が検出されなかったこと)を記録する。
【0093】
BB84プロトコルでは、アリスとボブは、ボブの測定が行われた後で従来の通信路で通信することにより、共有鍵を形成することができる。ボブはアリスに、どのクロックサイクルで光子を測定し、どの測定基底を使用したかを知らせるが、測定の結果は知らせない。次いでアリスがボブに同じ符号化基底を使用したクロックサイクルを知らせ、アリスとボブは、それらの結果だけを保持することに同意し、この場合は、ボブが符号化光子に関する決定的測定を行っていることになる。これに続いて誤り訂正が行われて、共有鍵における誤りがあれば除去され、盗聴者に知られている情報があればそれを除外するためのプライバシー増幅が行われる。
【0094】
図10aの受信機203の検出器251および253は、図4から図9を参照して論じた検出システムによって都合よく提供することができる。
【0095】
図10aは、公知のBB84プロトコルまたはB92プロトコルに使用され得る量子通信システムである。最近は、別のプロトコルを使用する他の量子通信システムも開発されている。より高い周波数でのゲート制御動作または準連続動作を有する本発明の検出器は、これら新しい種類の量子通信システムでは特に有利である。
【0096】
図11に、別種の一方向型量子鍵配布方式のための量子通信装置を示す。送信側の装置301は、強度変調器305に連続パルスビームを出力するコヒーレントレーザ303を備える。強度変調器305は、パルスを送信し、またはパルスをほぼ完全に阻止する。次いで強度変調器305からの出力は減衰器307に渡され、そこで各パルスが平均1光子未満を含むようにビームを減衰する。次いで出力はファイバ309に沿って受信機311に渡される。
【0097】
受信機311において、ビームはまずビームスプリッター315に至る。ビームスプリッター315は、大部分の光子をパス317に沿って、残りの光子をパス319に沿って、干渉計320に渡すように構成されている。
【0098】
パス317は、図4から図9のいずれかを参照して説明したような検出システムである量子ビット検出器320まで延在している。パス319は、光子を50/50ビームスプリッター321に向けて送り、ビームスプリッター321は光子を長アーム323または短アーム325に沿って送る。長アーム323に沿って送られる光子は移相器327に至る。次いで、パス323と325からの光子は、ビームスプリッター329によって合成され、ビームスプリッター329は、光子間の位相相関に応じて、光子を検出器331または検出器333に出力する。
【0099】
図11bに、各ビットが送信機301によってどのように符号化され得るかを示す。各ビットは2つの「パルス」からなる。ビット0は、強度μを有する第1のパルスと強度0の第2のパルスを含むパルスシーケンスによって符号化されており、ビット1は、強度0を有する第1のパルスと強度μを有する第2のパルスとで符号化されている。ビット0またはビット1を送ることに加えて、強度μの2つのパルスを含むデコイ状態も送られる。
【0100】
レーザ303のコヒーレンスにより、任意の2つの隣り合う空でないパルスの間に明確に定義された位相関係が生じる。したがって、各デコイシーケンス内にはコヒーレンスが生じる。また、例えばビット0の後にビット1が続く場合などには、いくつかのシーケンスの間にもコヒーレンスが生じる。盗聴者がパルスを傍受した場合、隣接する空でないパルスのコヒーレンスが影響を受けることになる。このコヒーレンスの喪失は、干渉計320によって判定することができる。
【0101】
干渉計は、(適切な位相偏移および長アーム323と短アーム325の長さの適切な差を適用することにより)干渉が生じるときに、光子が2つの検出器331および333のうちの一方だけに出て行くように構成されている。よって、他方の検出器における計数率を観測することにより、盗聴を検知することが可能である。検出器331および検出器333については、図4から図9を参照して説明したものである。
【0102】
アリスは、図11bに示すようなパルスのストリームを送る。次いで受信機302はアリス301に、どのパルスについて量子ビット検出器320が作動したかを知らせる。次いでアリスはボブに、どのビットをデコイ状態によるものとして捨てるべきかを教える。ボブはアリスに、どのシーケンスにおいて計数が受け取られたかを知らせるにすぎず、これらのビットがビット0として測定されたか、それともビット1として測定されたかをアリスに知らせることはないことに留意すべきである。
【0103】
検出器331および333は、コヒーレンスを観測するために使用される。2つの隣接する空でないパルスが干渉計322を通過するとき、長アーム323を通過する早いパルスと短アーム325を通過する遅いパルスの間に干渉が生じる。干渉により、この特定の検出時間ビンにおいては、検出器331が作動する有限確率が生じるが、検出器333が作動する確率は無視できるほど小さいことが判定される。これが侵害されることはコヒーレンスの喪失を意味する。QKDでは、受信機が送信機に、いつ、検出器331および333のどちらが作動するかを知らせ、これにより送信機は、コヒーレンスが壊れたか否かを確定することができる。
【0104】
次いで送信機および受信機は、コヒーレンスの喪失に応じ、結果に対する当技術分野で公知の誤り訂正およびプライバシー増幅を実行して、秘密鍵を決定する。
【0105】
図4から図9において説明した検出システムは、好都合には、図11の通信システムと共に使用することができる。その理由は、これらの検出システムがより高速の動作を可能にし、またCWモードで働くこともできるからである。図11cには、検出システムのAPDに供給されるゲート電圧が示されている。ゲートパルスは、入ってくる各パルスの期待される到達時刻と同期される。このゲート制御システムは、図11aの受信機302の3つの検出器に適用されるはずである。
【0106】
図12に別の量子通信システムを示す。図12aの通信システムも、鍵をやり取りするために、隣接するパルス間のコヒーレンスを使用する。送信機401は、位相変調器405に出力するパルスコヒーレントレーザ403を備える。位相変調器は、0度または180度の位相変調を適用するように無作為に変化する。2つの位相偏移間の差が180になるような他の何らかの位相偏移を適用することも可能である。次いで信号は減衰器407によって減衰され、減衰器407は、1パルス当たり1光子未満が生じるようにする。次いでこれが、ファイバ409に沿って受信機411に送信される。受信機411は干渉計413を備える。干渉計413は、短アーム417または長アーム419に沿って光子を送る第1のビームスプリッター415を備える。長アーム419は移相器421を備える。長アーム419と短アーム417は、第2のビームスプリッター423において再結合されて、第2のビームスプリッター423がさらに第1の検出器425と第2の検出器427とに出力する。
【0107】
送信機401は、各パルスが0°の位相偏移または180度の位相偏移で変調されているパルス列を送る。これは図12bに示されている。受信機側において、受信されたパルス列は、2つのパス、すなわち短アーム417と長アーム419とに分配される。図12cに短アーム417におけるパルス列を示し、図12dに長アーム419におけるパルス列を示す。長アームのパルス列は厳密に1クロック周期だけ遅延されていることがわかる。干渉計413は、基本的に1ビットの遅延を導入するように、位相偏移または相対的長さまたはアーム417および419を変動させることにより構成されている。したがって干渉計413は、図12cに示すパルス列と図12dに示すパルス列とを干渉させるものと考えることができる。図12dのパルス列は図12cのパルス列と同じであるが、1ビットの遅延を有する。これにより、検出器425において図12eに示すパルスが検出され、検出器427において図12fに示すパルスが検出されることになる。
【0108】
セキュリティは、光子の検出時刻の不確実性を利用する。コヒーレンスにより、光子の波動関数はいくつかの隣接する時間ビンにわたって拡散される。盗聴者イブが光子を検出すると、光子の波動関数が崩壊して単一の時間ビンになり、イブは、2つの特定の時間ビンの位相差だけしか知ることができない。したがってイブは、いくつかの時間ビンにわたってコヒーレントな元の状態を再現することができない。これにより傍受/再送信攻撃が防止される。また、光子数分割攻撃に対しても本質的に安全である。イブがパルス列から光子を分割することができても、この光子は必ずしも、崩壊してボブが検出する時間ビンと同じ時間ビンになるとは限らない。
【0109】
これまでのやり方では、差動位相偏移QKDはCW検出器を使用して実施され、隣り合う時間ビン間の弁別は、10psの時間分解能での事後処理において行われる。かかる事後処理は、高度なハードウェアまたはソフトウェアによるデータ処理を必要とする。ゲートモードで動作する検出器を用いれば、時間弁別が自動化され、事後処理が不要になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一光子を検出するように構成された光子検出器と、前記光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である前記第1の部分と前記第2の部分とに分周する信号分周器と、前記第2の部分を前記第1の部分に対して遅延させる遅延手段と、前記信号の前記第1の部分と遅延させた第2の部分とを、前記遅延させた第2の部分が前記出力信号の前記第1の部分における周期的変動を打ち消すために使用されるように合成する合成器とを備える光子検出システム。
【請求項2】
前記光子検出器はアバランシェフォトダイオードである請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記検出器に周期的ゲート信号を印加する手段をさらに備える請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記遅延手段は、前記信号の前記第2の部分を前記周期の整数倍だけ遅延させるように構成されている請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記ゲート信号は方形波信号である請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記ゲート信号は50MHzを上回る周波数を有する請求項4または請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ゲート信号の前記周期を変動させる請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記合成器に到達する前記2つの信号の振幅を平衡化する手段をさらに備える請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記信号の一方の部分を前記信号の他方の部分に対して反転させる手段をさらに備える請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
パルス放射の発生源および前記放射パルスに関する情報を符号化する符号器を備える送信機と、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の検出システムを備える受信機とを備える量子通信システム。
【請求項11】
前記符号化手段は、2つ以上の非直交基底から無作為に選択される符号化基底を使用してパルスを符号化する請求項10に記載の量子通信システム。
【請求項12】
前記送信機はコヒーレント源を備え、前記符号器は、1光子未満の平均強度を有するパルスを選択的に送信することによって情報を符号化し、空のパルスには光子がない請求項10に記載の量子通信システム。
【請求項13】
前記送信機はコヒーレント源を備え、前記符号化手段は第1の位相または第2の位相で光子を符号化するように構成されており、前記第1の位相と前記第2の位相の差は180°であり、前記受信機はあるパルスからの光子と後続のパルスの光子とを干渉させるように構成されている請求項10に記載の量子通信システム。
【請求項14】
光子検出器の出力を調整する調整回路であって、光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である前記第1の部分と前記第2の部分とに分周する信号分周器と、前記第2の部分を前記第1の部分に対して遅延させる遅延手段と、前記信号の前記第1の部分と遅延させた第2の部分とを、前記遅延させた第2の部分が前記出力信号の前記第1の部分における周期的変動を打ち消すために使用されるように合成する合成器とを備える回路。
【請求項15】
周期的発生源と、請求項1から9のいずれか1項に記載の検出システムであり、前記検出器をゲート制御して前記発生源からの最高強度信号の到達時に検出を行うように構成されたゲート信号をさらに備える前記検出システムとを備えるシステム。
【請求項16】
単一光子を検出するように構成された光子検出器を設けることと、
前記光子検出器の出力信号を、第1の部分が第2の部分と実質的に同一である前記第1の部分と前記第2の部分とに分周することと、
前記第2の部分を前記第1の部分に対して遅延させることと、
前記信号の前記第1の部分と遅延させた第2の部分とを、前記遅延させた第2の部分が前記出力信号の前記第1の部分における周期的変動を打ち消すために使用されるように合成することと
を備える光子検出方法。
【請求項17】
前記検出器に周期的ゲート信号を印加することをさらに備える請求項16に記載の光子検出方法。
【請求項18】
前記遅延手段は、前記信号の前記第2の部分を前記周期の整数倍だけ遅延させるように構成されている請求項17に記載の光子検出方法。
【請求項19】
前記ゲート信号の前記周期を変動させる請求項17または18に記載の光子検出方法。
【請求項20】
前記信号の前記2つの部分を合成する前に、前記信号の一方の部分を前記信号の他方の部分に対して反転させることをさらに備える請求項16から19のいずれか1項に記載の光子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−520447(P2010−520447A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551272(P2009−551272)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000722
【国際公開番号】WO2008/104799
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】