説明

光学シート

【課題】光拡散性、屈折性、散乱性などの光学特性の改善にあり、具体的な用途としては、交通標識や工事標識等に用いることのできる再帰反射シートおよび液晶表示装置のバックライトに用いる導光板、拡散板に用いることのできるプリズムシートを提供する。
【解決手段】光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が少なくとも1種類以上搭載された素子層が基材層の少なくとも1面に設置された樹脂製のシートにおいて、該光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層によって構成されていることを特徴とする光学シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が少なくとも1種類以上搭載された素子層が基材層の少なくとも1面に設置された樹脂製のシートに関する。
【0002】
詳しくは、光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が少なくとも1種類以上搭載された素子層が基材層の少なくとも1面に設置された樹脂製のシートであって、該光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層によって構成されていることを特徴とする光学シートに関する。
【0003】
さらに詳しくは、上記光学シートであって、改善された光拡散性、屈折性、散乱性などの光学特性をもつ光学シートの供給に関する。
【背景技術】
【0004】
従来より、光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が搭載された素子層が基材層に設置された樹脂製の光学シートはよく知られている。
【0005】
例えば、バーンズらのUS5,606,761(特許文献1)には、ポリマーマトリックス、染料及びヒンダードアミン光安定剤を含む持続性のある着色及び/又は蛍光特性を示す製品であって、前記染料が、チオキサントン化合物、ペリレンイミド化合物及びチオインジゴイド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の染料を含み、そして前記ポリマーマトリックスがポリカーボネートを含む製品が記載されており、図1に1層からなるプリズム層が記載されている。
【0006】
例えば、バーンズらのUS5,387,458(特許文献2)には、第1および第2側面を有する着色層と該着色層の第1側面に設けられたスクリーン層とを有することを特徴とする蛍光性製品であって、a)該着色層がポリマーマトリックス中に溶解された日光蛍光性染料を含有し、該蛍光性染料がチオキサンテン染料、チオインジゴイド染料、ベンズオキサゾールクマリン染料またはペリレンイミド染料の1種以上を包含し; 該マトリックスがポリカーボネート、ポリアクリルイミド、ポリエステルまたはポリスチレンの1種以上であり; そしてb)該スクリーン層が可視光に対して実質的に透明であり、入射紫外線の実質的な部分を遮ぎる手段を有する;蛍光性製品が記載されており、図1に1層の表面層(18)と1層のプリズム層(12)からなる再帰反射シートが記載されている。
【0007】
例えば、川俣らの特願2007−090751号(特許文献3)には、多数のキューブコーナー型再帰反射素子からなる再帰反射素子層を有する再帰反射シートにおいて、該再帰反射素子層を構成する再帰反射素子基材に、金属酸化物微粒子を添加したことを特徴とする再帰反射シートが記載されている。
【0008】
また、川俣らの特願2007−090752号(特許文献4)には、多数のキューブコーナー型再帰反射素子からなる再帰反射素子層を有する再帰反射シートにおいて、該再帰反射素子層を構成する再帰反射素子基材に、屈折率調節材を添加したことを特徴とする再帰反射シートが記載されている。
【0009】
しかしながら、上記特許において提案されている再帰反射シートの素子層は、1種類の樹脂から構成されており、光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層で構成されることに関する記載も示唆もされていない。
【0010】
【特許文献1】US5,605,761
【特許文献2】US5,387,458
【特許文献3】特願2007−090751号
【特許文献4】特願2007−090752号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとしている課題は、光拡散性、屈折性、散乱性などの光学特性の改善にある。
【0012】
特に、優れた光拡散性、屈折性、散乱性などの光学特性をもつ光学シートを提供することである。
【0013】
具体的な用途としては、交通標識や工事標識等に用いることのできる再帰反射シートおよび液晶表示装置のバックライトに用いる導光板、拡散板に用いることのできるプリズムシートの提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に用いることのできる光学素子は、光線を透過、屈折、散乱または反射する光学素子を用いる事ができる。本発明による光学シートに用いられる光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層によって構成されているために、各複層の界面では光線が透過、屈折、散乱をする。
【0015】
また、入射した光線は内部全反射条件を満たすような条件においては内部全反射を行う。あるいは、光学素子の表面には鏡面反射層を設置して鏡面反射を行わせることも出来る。
【0016】
光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が少なくとも1種類以上搭載された素子層が基材層の少なくとも1面に設置された樹脂製のシートにおいて光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層によって構成されている。即ち、複数の副層は基材層の片面にのみ設置されても、両面に設置されていても良い。
【0017】
また、両面に設置された態様においては、副層の数は同じであっても異なっていても良い。
【0018】
さらに、副層の厚さはそれぞれ同じであっても異なっていても良い。
【0019】
いずれの態様においても第n番目の副層の厚みをdn、素子の高さをhとしたときに、
dn≦h/10 (式1)
であることが好ましい。
【0020】
さらに好ましくは副層の厚みをd、素子の高さをhとしたときに、
dn≦h/100 (式2)
であることが好ましい。
【0021】
このように厚みを持った副層の群は優れた光学特性を付与する事が出来る。例えば、このような副層の群は好ましい光拡散性、屈折性、散乱性を付与する事が出来る。
【0022】
本発明に採用できる副層は、隣接する副層を構成する樹脂の屈折率の違いが0.02以内である
【0023】
さらには、隣接する副層を構成する樹脂の屈折率の違いが0.01以内であることが、層の界面での過度の散乱性を抑えることができるので好ましい。
【0024】
さらに好ましくは、隣接する副層を構成する樹脂の屈折率の違いが0.02以内、好ましくは0.01以内で、且つ、最上層と最下層の樹脂の屈折率の違いが0.06以上、好ましくは0.1以上であることが、光学シートに好ましい光拡散性、屈折性、散乱性を付与する事が出来るので好ましい。
【0025】
本発明に採用できる光学素子は三角柱プリズム、三角錐プリズム、四角錐プリズム、半円柱レンズ、凸レンズ、凹レンズおよびフレネルレンズである。これらの光学素子は、従来より良く知られているが、本発明が提案するように光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層にすることで、これらの光学シートに好ましい光拡散性、屈折性、散乱性を付与する事が出来るので好ましい。
【0026】
本発明の光学シートを構成する副層を形成する樹脂はアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニール樹脂、ウレタン樹脂、および/または、ポリエチレンテレフタレート樹脂を採用する事が出来る。
【0027】
これらの樹脂は、透明性、耐候性、加工性に優れ、プリズムに成形した際の反射性や柔軟性にも優れているので本発明に好適に用いることができる。
【0028】
本発明の光学素子に用いられる副層の屈折率を上げる方法として、粒子径が1nm〜150nmの金属酸化物微粒子が5〜80重量部含せることも好ましい。
【0029】
粒子径や添加量は、上記の範囲内で副層の屈折率に合わせて適宜選択することができる。
【0030】
該金属酸化物微粒子の屈折率が1.45〜2.90であることを特徴とするものであることが、副層の屈折率を容易にコントロールすることができるので好ましい。
【0031】
該金属酸化物微粒子が酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化銅、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛であり、好ましくは酸化チタンまたは酸化チタン系複合体、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウム系複合体、酸化シリカまたは酸化シリカ系複合体をあげることができる。また、これら微粒子は、表面処理がなされていても良い。
【0032】
また、本発明においては、副層の屈折率を上げる方法として、金属酸化物微粒子以外のものも用いることができ、芳香族を含有した樹脂、フッ素以外のハロゲン原子を含有した樹脂、または硫黄原子を含有した樹脂等を用いることができる。
【0033】
本発明においては、屈折率の異なる2層以上の副層からなる素子層が基材層の少なくとも1面に設置されてなる複合樹脂シートを光学素子形状を有する金型によって加熱加圧成型し、光線を透過、屈折、散乱または反射する少なくとも1種類以上の光学素子が、シートの少なくとも1面に設置された光学シートの製造方法が加工の容易性、得られる光学シートの精度の点で好ましい。
【0034】
加熱加圧手段としては、エンボスロール又はエンボスロールに対して設置された1個以上の加圧ロールを例示することができる。加圧ロールは、金属製、ゴム製又は合成樹脂製のロールを使用することができる。
【0035】
加熱加圧成型は、公知の方法を利用することができ、例えば、形成した薄肉状のニッケル電鋳金型、所定の厚さの合成樹脂シート及びクッション材として厚さ5mm程度のシリコーンゴム製シートを所定の温度に加熱された圧縮成形プレスに挿入した後、成形圧の10〜20%の圧力下で30秒程度余熱を行った後、180〜250℃、10〜30Kg/cm程度の条件下で約2分間加熱加圧することにより行うことができる。しかる後、加圧状態のままで室温まで冷却して圧力を開放することが可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、光学シートに好ましい光拡散性、屈折性、散乱性を付与する事が出来、再帰反射性シートの広角性も付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明による光学シートの好ましい形態を、図を引用しつつ以下に説明を行う。
【0038】
図1は従来技術による単一の層から構成される光学シートを示す。この様な光学シートは1層の樹脂からなるシートを、光学素子形状を有する金型によって加熱加圧成型するなどの方法で形成することが出来る。
【0039】
図2は同じく従来技術による2つの層から構成される光学シートを示す。この様な光学シートは1層の樹脂からなるシートを、光学素子形状を有する金型によって加熱加圧成型するなどの方法で形成した後に他の層を積層することにより形成する事が出来る。あるいは、この様な光学シートは2層の樹脂からなるシートを、光学素子形状を有する金型によって加熱加圧成型するなどの方法で形成することが出来る。
【0040】
図1および図2に示される従来公知の光学シートにおいては、光学素子を形成する部分は単一の層から形成されており、屈折率や光透過率などの光学特性は均一である。
【0041】
図3〜図8は本発明による光学シートに搭載することが可能な三角柱プリズム、三角錐プリズム、四角錐プリズム、半円柱レンズ、凸レンズ、凹レンズおよびフレネルレンズなどの光学素子の例を示す。
【0042】
図3は本発明に好ましく採用できる光学素子の一態様である三角柱プリズムを示す。三角柱プリズムの断面は二等辺三角形の形状を示しており、該二等辺三角形の内角はその使用目的によって適宜選択できる。また、隣接する三角柱プリズムの高さと断面形状は同じであっても異なっていても良い。
【0043】
図4は本発明に好ましく採用できる光学素子の他の態様である三角柱プリズムを示す。三角柱プリズムの断面は不等辺三角形の形状を示しており、該不等辺三角形の内角はその使用目的によって適宜選択できる。また、隣接する三角柱プリズムの高さと断面形状は同じであっても異なっていても良い。
【0044】
図5は本発明に好ましく採用できる光学素子の一態様である三角錐プリズムを示す。三角錐プリズムの形状はその使用目的によって適宜選択する事が出来る。また三角錐プリズムはキューブコーナープリズムであっても良い。そのようなキューブコーナープリズムは再帰反射シートとして好ましく用いる事ができる。
【0045】
キューブコーナー素子がもつ光学軸は様々な方向に傾斜するように形成する事が出来る。そのような傾斜した光学軸をもつキューブコーナー素子は優れた光学特性、特に入射角特性に優れているので好ましい。
【0046】
図6は本発明に好ましく採用できる光学素子の他の態様である四角錘プリズムを示す。四角錘プリズムの断面は二等辺三角形または不等辺三角形の形状を示しており、該三角形の内角はその使用目的によって適宜選択できる。また、隣接する四角錘プリズムの高さと断面形状は同じであっても異なっていても良い。
【0047】
図7は本発明に好ましく採用できる光学素子の他の態様である半円柱レンズを示す。該半円柱レンズの断面形状は円または楕円の一部を形成する。
【0048】
図8は本発明に好ましく採用できる光学素子の他の態様である凸レンズを示す。該凸レンズの断面形状は円または楕円の一部を形成する。
【0049】
図9は、本発明の好ましい態様を示す断面図である。図9では、光学素子を構成する素子層がd1〜d3の3層の副層で構成されている。図9では、d1〜d3の順で屈折率が高くなっている。
【0050】
図10は、図9に示される本発明の光学シートを作成する原料シートの断面図である。表面層と光学素子を構成するための3層の副層が記載されている。この原料シートを加熱加圧成形することで、図9に記載の光学シートを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明における多層性の光学シートは様々な光学製品に用いることができる。
【0052】
本発明の光学シートの好ましい利用可能な光学製品の例としては、交通標識や工事標識等に用いることのできる再帰反射シートである。
【0053】
本発明の光学シートの好ましい利用可能な他の光学製品の例としては、液晶表示装置のバックライトに用いる導光板、拡散板に用いることのできるプリズムシートである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】従来技術による光学シート。
【図2】従来技術による光学シート。
【図3】光学素子の例。
【図4】光学素子の例。
【図5】光学素子の例。
【図6】光学素子の例。
【図7】光学素子の例。
【図8】光学素子の例。
【図9】本発明による光学シート。
【図10】本発明による光学シートを作成する原料シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線を透過、屈折、散乱または反射する多数の光学素子が少なくとも1種類以上搭載された素子層が基材層の少なくとも1面に設置された樹脂製のシートにおいて、該光学素子を構成する素子層が屈折率の異なる少なくとも2層以上の副層によって構成されていることを特徴とする光学シート。
【請求項2】
第n番目の副層の厚みをdn、素子の高さをhとしたときに
dn≦h/10 (式1)
であることを特徴とする請求項1に記載の光学シート。
【請求項3】
副層の厚みをdn、素子の高さをhとしたときに
dn≦h/100 (式2)
であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の光学シート。
【請求項4】
隣接する副層を構成する樹脂の屈折率の違いが0.02以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学シート。
【請求項5】
隣接する副層を構成する樹脂の屈折率の違いが0.02以内であり、最上層と最下層の樹脂の屈折率の違いが0.06以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学シート。
【請求項6】
該光学素子が三角柱プリズム、三角錐プリズム、四角錐プリズム、半円柱レンズ、凸レンズ、凹レンズおよびフレネルレンズであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学シート。
【請求項7】
該副層を形成する樹脂がアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニール樹脂、ウレタン樹脂、および/または、ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光学シート。
【請求項8】
該副層を形成する樹脂に、粒子径が1nm〜150nmの金属酸化物微粒子が5〜80重量部含まれていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光学シート。
【請求項9】
該金属酸化物微粒子が酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化銅、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛であり、好ましくは酸化チタンまたは酸化チタン系複合体、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウム系複合体、酸化シリカまたは酸化シリカ系複合体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光学シート。
【請求項10】
該金属酸化物微粒子の屈折率が1.45〜2.90であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光学シート。
【請求項11】
屈折率の異なる2層以上の副層からなる素子層が基材層の少なくとも1面に設置されてなる複合樹脂シートを光学素子形状を有する金型によって加熱加圧成型し、光線を透過、屈折、散乱または反射する少なくとも1種類以上の光学素子が、シートの少なくとも1面に設置された光学シートの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−98400(P2009−98400A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269824(P2007−269824)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】