説明

光学フィルタ、及びこれを用いたプラズマディスプレイパネル

【課題】優れた電磁波シールド性及び近赤外線吸収性を維持することができる光学フィルタを提供する。
【解決手段】透明基材110上に、パターン状の電磁波シールド層120、接着樹脂層130、及び近赤外線吸収層140がこの順で積層された光学フィルタであって、
前記接着樹脂層130が、エチレン酢酸ビニル共重合体、及び受酸剤を含むことを特徴とする光学フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収性及び電磁波シールド性を有する光学フィルタ、及びこの光学フィルタを備えたディスプレイ、特にプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)、及びCRTディスプレイなどの電子ディスプレイが、表示装置として広く普及している。
【0003】
近年、電子ディスプレイは大画面表示が主流となり、次世代の大画面表示デバイスとしてPDPが一般的になってきている。しかしながら、このPDPでは表示のため発光部に高周波パルス放電を行っているため、不要な電磁波や赤外線の輻射の恐れがある。電磁波や赤外線は、人体への悪影響や、赤外線リモコンおよび精密機器等への誤動作の原因ともなり得る。そこで、電磁波や赤外線を遮蔽するために、透明基板の一方の面に、電磁波シールド層や近赤外線吸収層が設けられたディスプレイ用光学フィルタが提案されている(特許文献1)。
【0004】
この光学フィルタの電磁波シールド層としては、例えば、(1)金属粒子を含む透明導電薄膜、(2)金属線又は導電性繊維を網状にした金属メッシュ、(3)銅箔等の層を網状にエッチング加工して開口部を設けた金属メッシュ、(4)導電性インクをメッシュ状に印刷したものなどが知られている。これらのなかでも前記(2)及び(3)の金属メッシュからなる電磁波シールド層は、高い光透過性及び電磁波シールド性を有する。
【0005】
一方、近赤外線吸収層としては、一般的にはバインダ樹脂中に近赤外線吸収色素を分散させた層が用いられる。近赤外線吸収層の形成は、一般的に、近赤外線吸収色素を含む樹脂組成物をプラスチックフィルム上に塗工した後、乾燥させることにより行われる。
【0006】
光学フィルタでは、例えば、透明基材上に配置された電磁波シールド層と近赤外線吸収層とは、接着樹脂層を介して積層させることにより一体化される。接着樹脂層には、安価であり、透明性や接着性に優れるエチレン酢酸ビニル共重合体が好適に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−315240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような光学フィルタは、優れた近赤外線吸収性を長期間に亘り維持することができず、十分な耐久性を有していなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、優れた近赤外線吸収性を維持することができる光学フィルタを提供することである。
【0010】
さらに、本発明の他の目的は、優れた近赤外線吸収性及び電磁波シールド性を維持することができる光学フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
近赤外線吸収性の低下は、接着樹脂層に用いられるエチレン酢酸ビニル共重合体が原因であることが考えられる。光学フィルタが長期間に亘って使用されると、接着樹脂層に含まれるエチレン酢酸ビニル共重合体が経時的に加水分解して酢酸を生じる。この酢酸は、近赤外線吸収層に用いられる近赤外線吸収色素を劣化させ、これにより光学フィルタの近赤外線吸収性が低下すると考えられる。
【0012】
本発明者は、このような知見に鑑み種々の検討を行った結果、接着樹脂層に受酸剤を用いることにより、近赤外線吸収色素の劣化を抑制できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、透明基材上に、パターン状の電磁波シールド層、接着樹脂層、及び近赤外線吸収層がこの順で積層された光学フィルタであって、
前記接着樹脂層が、エチレン酢酸ビニル共重合体、及び受酸剤を含むことを特徴とする光学フィルタにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着樹脂層に受酸剤を用いることにより、近赤外線吸収色素の劣化が抑制され、優れた耐久性を有する光学フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態である光学フィルタの断面図を示す。
【図2】本発明の他の一実施形態である光学フィルタの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学フィルタは、透明基材上に、パターン状の電磁波シールド層、接着樹脂層、及び近赤外線吸収層がこの順で積層された構成を有する。このような光学フィルタの断面図を図1及び2に示す。
【0017】
光学フィルタは、図1に示すように、透明基材110上に配置された電磁波シールド層120と、近赤外線吸収層140とが接着樹脂層130を介して接着一体化された構成を有する。近赤外線吸収層140は、取扱性に優れることから、予めプラスチックフィルム150上に形成されたものを用いるのが好ましい。
【0018】
受酸剤を含む接着樹脂層130は、酢酸の発生が抑制され、近赤外線吸収色素の劣化を高く防止することができる。さらに、受酸剤を含む接着樹脂層130は、近赤外線吸収色素の劣化だけでなく、電磁波シールド層120に含まれる金属の腐食をも防止することが可能となる。したがって、本発明の光学フィルタは、高い近赤外線吸収性及び電磁波シールド性の双方を長期間に亘って維持することが可能となる。
【0019】
接着樹脂層は、電磁波シールド層と近赤外線樹脂層との間に少なくとも配置される。しかしながら、接着樹脂層を、透明基材と電磁波シールド層との間にさらに配置して、透明基材と電磁波シールド層が接着一体化させてもよい。
【0020】
図2に示す光学フィルタは、透明基材210上に接着樹脂層230Aを介して接着された電磁波シールド層220と、プラスチックフィルム250上に形成された近赤外線吸収層240とが、接着樹脂層230Bを介して接着一体化されている構成を有している。このような構成によれば、近赤外線吸収色素の劣化を高く防止するとともに、電磁波シールド層220の透明基材側に含まれる金属の腐食をも高く防止することができる。
【0021】
[接着樹脂層]
接着樹脂層は、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及び受酸剤を含む。受酸剤は、酸を吸収及び/又は中和する機能を有する。このような受酸剤を含むことにより、接着樹脂層において加水分解等によりEVAから生じた酢酸を吸収及び/又は中和することができる。
【0022】
受酸剤としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物又は複合金属水酸化物が用いられ、発生する酢酸の量、及び用途に応じ適宜選択することができる。受酸剤としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、四酸化三鉛(Pb34)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、カルボジイミド化合物、及びハイドロタルサイトを用いるのが好ましい。これらの受酸剤は、受酸性能に優れる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
カルボジイミド化合物として具体的には、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、4,4'−ジシクロへキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N'−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N'−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N−メチル−N'−ブチルカルボジイミド、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N'−ジフェニルカルボジイミド、N,N'−ビス(2,2'−6,6'−テトライソプロピルジフェニル)カルボジイミド、1−メチル−3,5−ジエチルベンゼン−2,4−ポリカルボジイミドなどが好ましく挙げられる。
【0024】
ハイドロタルサイトとしては、Mg4.3l2(OH)12.6CO3・mH2O(協和化学工業株式会社製 DHT−4A)などが挙げられる。
【0025】
なかでも受酸剤としては、水酸化マグネシウム、カルボジイミド化合物が特に好適に用いられる。これらの受酸剤は、受酸性能に特に優れ、電磁波シールド層の腐食や近赤外線吸収色素の劣化を特に高く防止することができる。
【0026】
受酸剤の平均粒子径は、0.1〜4.0μm、特に0.1〜0.9μmであるのが好ましい。このような平均粒子径を有する受酸剤は、接着樹脂層において高分散することができ、高い受酸性能を発揮することができる。
【0027】
接着樹脂層における受酸剤の含有量は、エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.01〜5質量部、特に0.1〜1質量部であるのが好ましい。このような含有量で受酸剤を含む接着性樹脂層であれば、電磁波シールド層の腐食や近赤外線吸収色素の劣化を特に高く防止することができる。
【0028】
エチレン酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量は、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。酢酸ビニル含有量が、23質量部未満であると、高温で架橋硬化させる場合に得られる樹脂の透明度が充分でない恐れがあり、38質量部を超えると加水分解により生じる酢酸量が増大する恐れがある。
【0029】
接着樹脂層は、架橋剤として有機過酸化物を含むのが好ましい。有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも併用することもできる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0030】
この有機過酸化物の例としては、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
【0031】
接着樹脂層における有機過酸化物の含有量は、EVA100質量部に対して、1〜10質量部、特に1〜5質量部であるのが好ましい。
【0032】
接着樹脂層には、さらに必要に応じて、架橋助剤、接着向上剤などの種々の添加剤を含有させることができる。
【0033】
架橋助剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、さらに前述のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを挙げることができる。
【0034】
接着向上剤としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、EVA100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0035】
接着樹脂層は、膜の種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物を含んでいることが好ましい。
【0036】
アクリロキシ基含有化合物及びメタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドルフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプオピル基を挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。
【0037】
エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)5グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0038】
接着樹脂層の厚さは、50μm〜2mm、特に400μm〜1mmであるのが好ましい。
【0039】
接着樹脂層を作製するには、エチレン酢酸ビニル共重合体、受酸剤、及び必要に応じて架橋剤などのその他の成分を含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形して層状物を得る方法などを用いることができる。組成物の混合は、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。
【0040】
[近赤外線吸収層]
近赤外線吸収層は、近赤外線吸収色素及びバインダ樹脂を含む。近赤外線吸収色素は、一般に800〜1200nmの波長に吸収極大を有するもので、例としては、フタロシアニン系色素、金属錯体系色素、ニッケルジチオレン錯体系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、アントラキノン系色素、を挙げることができる。これらの色素は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0041】
なかでも、接着樹脂層に含まれる受酸剤により劣化が高く抑制されることから、シアニン系色素と、フタロシアニン系色素又はジイモニウム系色素とを組合わせて用いることが好ましく、シアニン系色素とジイモニウム系色素とを組合わせて用いるのが特に好ましい。
【0042】
近赤外線吸収層に、ネオン発光の吸収機能を付与することにより色調の調節機能を持たせても良い。このために、近赤外線吸収層がネオン発光の選択吸収色素を含んでいてもよい。
【0043】
ネオン発光の選択吸収色素としては、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポリアゾ系色素、アズレニウム系色素、ジフェニルメタン系色素、トリフェニルメタン系色素を挙げることができる。このような選択吸収色素は、585nm付近のネオン発光の選択吸収性とそれ以外の可視光波長において吸収が小さいことが必要であるため、吸収極大波長が575〜595nmであり、吸収スペクトル半値幅が40nm以下であるものが好ましい。
【0044】
バインダ樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0045】
近赤外線吸収層の近赤外線吸収特性としては、850〜1000nmの透過率を、20%以下、さらに15%するのが好ましい。また選択吸収性としては、585nmの透過率が50%以下であることが好ましい。特に前者の場合には、周辺機器のリモコン等の誤作動が指摘されている波長領域の透過度を減少させる効果があり、後者の場合は、575〜595nmにピークを持つオレンジ色が色再現性を悪化させる原因であることから、このオレンジ色の波長を吸収させる効果があり、これにより真赤性を高めて色の再現性を向上させたものである。
【0046】
近赤外線吸収層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜50μmであればよい。
【0047】
近赤外線吸収層は、図1及び2に示すように、製造が容易となり、取扱性にも優れることから、プラスチックフィルム上に形成さているのが好ましい。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。プラスチックフィルムの厚さは、10〜400μm、特に20〜200μmであるのが好ましい。
【0048】
近赤外線吸収層を作製するには、近赤外線吸収色素、バインダ樹脂、及び必要に応じてその他の色素などを溶剤中に分散又は溶解させた塗料を、プラスチックフィルムなどの適当な基材上に塗布し、乾燥させることにより行われる。
【0049】
[電磁波シールド層]
パターン状の電磁波シールド層は、金属を含み導電性を有する。電磁波シールド層に含まれる金属もEVAから生じた酢酸により腐食され、結果として電磁波シールド層の電気抵抗値を低下させる場合がある。しかしながら、接着樹脂層が受酸剤を含むことにより、このような金属の腐食も高く防止することができる。
【0050】
電磁波シールド層としては、(1)金属繊維及び金属被覆繊維をパターン状にした層、(2)銅などの金属をパターン状にした層、(3)透明基材上に導電性インクをパターン状に印刷した層などを挙げることができる。なかでも、電磁波シールド層(1)及び(2)、特に(2)は、優れた電磁波シールド性及び光透過性を有することから、好ましく用いられる。
【0051】
電磁波シールド層(1)の場合、金属繊維及び金属被覆繊維の線幅は1μm〜1mm、特に10〜500μmであるのが好ましい。金属繊維及び金属被覆有機繊維の金属としては、銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステン、スズ、亜鉛、鉄、銀、炭素、又はこれらの合金、好ましくは銅、ステンレス、ニッケルが用いられる。
【0052】
金属被覆有機繊維の有機材料としては、ポリエステル、ナイロン、塩化ビニリデン、アラミド、ビニロン、セルロースなどが用いられる。
【0053】
電磁波シールド層(2)の場合、金属としては、銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、鉄、真鍮、或いはこれらの合金、好ましくは銅、ステンレス、アルミニウムが用いられる。
【0054】
電磁波シールド層(2)を作製するには、まず、スパッタリング、イオンプレーティング、電子ビーム蒸着、真空蒸着、化学蒸着等の気相製膜法や、印刷、塗工などの方法を用いて透明基板などの適当な基材上に金属からなる金属箔を形成し、その後、金属箔をエッチングして開口部を設けることによりパターン状にする方法など、公知の方法を用いて行えばよい。
【0055】
電磁波シールド層(2)を作製するには、上記方法の他にも、透明基板などの適当な基材上に、溶剤に対して可溶な材料によってドットを形成し、フィルム面に溶剤に対して不溶な導電材料からなる導電材料層を形成し、フィルム面を溶剤と接触させてドット及びドット上の導電材料層を除去する方法を用いても良い。このような方法は、例えば、特開2001−332889号公報などに記載されている。
【0056】
電磁波シールド層のパターン形状は、ストライプ状及びメッシュ状(格子状を含む)、特にメッシュ状であるのが好ましい。これらのパターンを有する電磁波シールド層は、パターン部分により導電性(電磁波シールド性)を確保でき、開口部によって光の透過を確保できる。
【0057】
メッシュ状の電磁波シールド層の線で囲まれた開口部の形状は、円、楕円、角形(4角形、6角形)など任意の形状とすることができるが、一般に角形であり、特に正方形であることが好ましい。また線は網状であるが、格子状とすることが好ましい。
【0058】
電磁波シールド層におけるメッシュパターンの形状には特に制限はなく、例えば四角形の開口部が形成された格子状や、円形、六角形、三角形又は楕円形の開口部が形成されたパンチングメタル状などが挙げられる。また、開口部は規則的に並んだものに限らず、ランダムパターンとしても良い。
【0059】
メッシュ状(格子状を含む)の電磁波シールド層の線幅は、一般に20μm以下、好ましくは1〜15μm、特に1〜12μmである。線のピッチは200μm以下が好ましい。また、開口率は75〜95%であることが好ましく、特に80〜95%である。なお、電磁波シールド層の開口率とは、当該電磁波シールド層の投影面積における開口部分が占める面積割合を言う。
【0060】
電磁名シールド層の厚さは、1〜15μmとするのが好ましい。
【0061】
電磁波シールド層は、透明基材上に直接形成されてもよいし、別途作製した後に接着樹脂層を介して透明基材と一体化してもよい。
【0062】
電磁波シールド層に黒化処理を行うことにより防眩性能を付与しても良い。黒化処理は、例えば、硫化処理、酸化処理、ニッケル合金(好ましくはニッケル及び亜鉛の合金、又はニッケル及びスズの合金)の黒色メッキ処理などにより行うことができる。
【0063】
[透明基材]
透明基材としては、透明度及び可とう性を備え、その後の処理に耐えるものであれば特に制限はない。透明基材の材質としては、例えば、ガラス、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、アクリル樹脂(例、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等を挙げることができる、これらの中で、加工処理(加熱、溶剤、折り曲げ)による劣化が少なく、透明性の高い材料であるガラス、PET、PC、PMMAが好ましい。透明基材としてガラス基板を用いた場合には、プラズマディスプレイパネルのディスプレイに直接使用することができる。透明基材は、これらの材質からなるシート、フィルム、または板として用いられる。
【0064】
透明基材の厚さは、特に制限されないが、6〜250μm、特に6〜150μm程度であるのが好ましい。
【0065】
本発明の光学フィルタを作製するには、まず、透明基材上に配置された電磁波シールド層と、プラスチックフィルム上に形成された近赤外線吸収層とを、接着樹脂層を介して積層させる。また、透明基材上に接着樹脂層を介して電磁波シールド層を配置する場合には、透明基材上に接着樹脂層を介して配置された電磁波シールド層と、プラスチックフィルム上に形成された近赤外線吸収層とを、別の接着樹脂層を介して積層させればよい。
【0066】
次に、得られた積層体を真空下で加熱加圧することにより、接着樹脂層を架橋硬化させるのが好ましい。これにより、各層が接合一体化された光学フィルタを得ることができる。この時、電磁波シールド層の開口部は接着樹脂層で埋められる。
【0067】
各積層体を真空下で加熱加圧するには、積層体を80〜150℃で5〜30分間、特に100〜120℃で10〜20分間、1〜10kPaの圧力で減圧しながら行うのが好ましい。
【0068】
本発明の光学フィルタでは、接着樹脂層に用いられたエチレン酢酸ビニル共重合体から生じる酢酸を受酸剤により無害化することができる。したがって光学フィルタを長期間に亘り使用しても、近赤外線吸収色素の劣化や電磁波シールド層の腐食、さらには接着樹脂層の接着力の低下を抑制することができる。このような光学フィルタの優れた耐久性は、高温下や高湿度下であっても長期間に亘り発揮することができる。
【0069】
本発明の光学フィルタは、電磁波シールド性、近赤外線吸収性、及び光透過性が要求される用途、例えば電磁波を発生する各種電気機器のLCD、PDP、CRT等のディスプレイ装置のディスプレイ面、又は施設や家屋の透明ガラス面や透明パネル面に好適に適用される。この他にも、タッチパネル、光透過スイッチ、などのパネルスイッチ、ノイズ対策部品、発熱体、有機エレクトロルミネッセンス用電極、バックライト用電極などにも適用できる。なかでも、高い光透過性及び電磁波シールド性を有しているので、前述したディスプレイ装置、特にPDPのディスプレイ用フィルタとして好適に用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
1.接着樹脂層の作製
下記の配合を原料としてカレンダ成形法により接着樹脂層(厚さ50μm)を製膜した。なお、配合物の混練は80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0072】
配合;
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニル含有量25質量部)100質量部、
架橋剤(2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン)
3質量部、
架橋助剤(トリアリルイソシアネート)1質量部、
受酸剤(水酸化マグネシウム、平均粒子径2μm)0.5質量部。
【0073】
2.近赤外線吸収層の作製
シアニン系色素(住友精化株式会社製 SD50−E05N)0.5質量部、イモニウム系色素(日本カーリット株式会社製 CIR−RL)0.5質量部、メチルエチルケトン900質量部、ポリメチルメタアクリレート樹脂(綜研化学株式会社製 製品名フォレットM−80)100質量部を含む組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100μm)上に、バーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥させることにより、近赤外線吸収層(厚さ5μm)を作製した。
【0074】
3.光学フィルタの作製
ポリエステル繊維を縦横に編んだメッシュを、無電解めっき法でニッケル及び銅めっきした電磁波シールド層を用意した。ガラス基材(厚さ25mm)上に、接着樹脂層、電磁波シールド層、接着樹脂層、近赤外線吸収層及びPETフィルムをこの順で積層した。得られた積層体を、温度120℃、15分間、5kPaの圧力で、減圧加熱することにより光学フィルタを作製した。
【0075】
(実施例2)
接着樹脂層の作製において、受酸剤として、水酸化マグネシウムに代えてビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドを0.25質量部用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。
【0076】
(実施例3)
近赤外線吸収層の作製において、シアニン系色素に代えて、フタロシアニン系色素(日本触媒株式会社製 IR−10A)を0.5質量部用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。
【0077】
(実施例4)
近赤外線吸収層の作製において、シアニン系色素に代えて、フタロシアニン系色素(日本触媒株式会社製 IR−10A)を0.5質量部用い、接着樹脂層の作製において、受酸剤として、水酸化マグネシウムに代えてビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドを0.5質量部用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。
【0078】
(比較例1)
接着樹脂層の作製において、受酸剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。
【0079】
(評価)
光学フィルタを、温度85℃、湿度85%RH環境下に120時間放置した。放置後の光学フィルタについて、下記手順に従って、近赤外線吸収性及び電磁波シールド層の腐食の発生を評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0080】
1.近赤外線吸収性
放置前と放置後の光学フィルタの厚み方向の波長830nmの光線透過率を、全自動直読ヘイズコンピューターHGM−2DP(スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。光線透過率の増加量が大きいものほど、近赤外線吸収色素が劣化していることを示す。表1において、放置前に対する放置後の光線透過率の増加量が、5%未満であったものを「◎」とし、5%以上10%未満であったものを「○」とし、10%以上であったものを「×」とした。
【0081】
2.電磁波シールド性
放置後の光学フィルタについて、電磁波シールド層が腐食することによって、電磁波シールド層の変色や発泡の発生の有無を目視により評価した。表1において、電磁波シールド層の変色や発泡が、発生していなかったものを「○」とし、発生していたものを「×」とした。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から、実施例1〜4の光学フィルタは、近赤外線吸収色素の劣化や電磁波シールド層の腐食が抑制され、優れた耐久性を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0084】
110、210 透明基材、
120、220 電磁波シールド層、
130 接着樹脂層、
230A、230B 接着樹脂層、
140、240 近赤外線吸収層、
150、250 プラスチックフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、パターン状の電磁波シールド層、接着樹脂層、及び近赤外線吸収層がこの順で積層された光学フィルタであって、
前記接着樹脂層が、エチレン酢酸ビニル共重合体、及び受酸剤を含むことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記接着樹脂層が、前記透明基材と前記電磁波シールド層との間にさらに配置されることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記受酸剤が、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、四酸化三鉛、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄(II)、炭酸カルシウム、カルボジイミド化合物、及びハイドロタルサイトよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記受酸剤の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.01〜5質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記近赤外線吸収層が、シアニン系色素及びイモニウム系色素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記近赤外線吸収層上にプラスチックフィルムを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
プラズマディスプレイ用光学フィルタであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とするプラズマディスプレイ用パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−29419(P2011−29419A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173857(P2009−173857)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】