説明

光学フィルター手段を有する撮像装置

【課題】 広いダイナミックレンジでかつ被写体の明るさに応じて分光特性を変え、撮影することができる光学フィルター手段を有する撮像装置を得ること。
【解決手段】 撮像素子21と、撮影光学系10から前記撮像素子に至る光の光路中に対して、複数の光学素子を選択的に挿脱する光学フィルター手段20を有する撮像装置であって、前記複数の光学素子は、赤外カット作用とND作用とを併せ持つハイブリッド赤外カットフィルターL2を含んでおり、前記光学フィルター手段は、前記複数の光学素子を1つの駆動手段で駆動すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルター手段を有する撮像装置に関し、赤外カットフィルター、NDフィルターなどの各種の光学フィルターが搭載されたデジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、監視用カメラ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
CCD等の撮像素子の露出感度領域は、銀塩フィルムのそれに比べて狭い。このため従来、CCD等の撮像素子を用いる撮像装置では、被写体の明るさに応じてNDフィルターを光路中から挿脱させる機構を用いて露出ダイナミックレンジを広くとることが行われている(特許文献1、2)。
【0003】
また多くの撮像装置では、カラー画像を得るのに有害光である近赤外光をカットするための赤外カットフィルターを撮像素子の光入射側に配置している。
【0004】
赤外カットフィルターを用いると撮像素子に入射する光量が少なくなる。このため被写体が暗いときは、カラー画像のカラーバランスを犠牲にして、赤外カットフィルターを光路中から退避させて撮像素子に多くの光が入射するようにしている。
【0005】
これによって光量を十分確保して暗所での撮影を可能にしてダイナミックレンジを広げた撮像装置が知られている(特許文献3、4)
【特許文献1】特開平10−90748号公報
【特許文献2】特開2000−122109号公報
【特許文献3】特開平11−98390号公報
【特許文献4】特開2002−189238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の撮像装置では、広いダイナミックレンジを有し、かつ被写体の明るさに応じて分光特性を変えて撮影するため赤外カットフィルターとNDフィルターを各々有していた。
【0007】
そして赤外カットフィルターを光路中から挿脱させる駆動手段とNDフィルターを光路中から挿脱させる駆動手段を別々に有していた。このため駆動手段及びその配置スペースが2ヶ所必要となり、装置全体が複雑に成る傾向があった。
【0008】
本発明は複数の光学フィルターのうち任意の1つの光学フィルターの光路中からの挿脱を簡易な駆動手段で行うことができ、広いダイナミックレンジでかつ被写体の明るさに応じて分光特性を変え、撮影することができる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学フィルター手段を有する撮像装置は、
撮像素子と、撮影光学系から前記撮像素子に至る光の光路中に対して、複数の光学素子を選択的に挿脱する光学フィルター手段を有する撮像装置であって、
前記複数の光学素子は、赤外カット作用とND作用とを併せ持つハイブリッド赤外カットフィルターを含んでおり、
前記光学フィルター手段は、前記複数の光学素子を1つの駆動手段で駆動することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば被写体光量に応じて赤外カット作用とND作用を有するハイブリッド赤外カットフィルターの挿脱を一つの駆動手段で行うことができる。さらに本発明によれば撮影時の広いダイナミックレンジを確保しつつ装置全体の小型化を図ることができる光学フィルター手段を有する撮像装置を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の光学フィルター装置を有したデジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置の実施例1の要部概略図である。
【0013】
図1において、10は被写体からの光(撮影光)を撮像素子に導く撮影光学系であり、レンズ部L1、開口絞り(虹彩絞り)SP、レンズ部L2を有している。撮影光学系10は単一焦点距離の撮影レンズまたはズームレンズ等であって、後述する撮像素子21の物体側(光入射側)に配置されている。
【0014】
20は光学フィルター手段である。光学フィルタ手段20は複数の光学フィルター(光学素子)L1、L2、L3を有している。L1は赤外カット作用を有する赤外カットフィルターで、L2は赤外カット作用とND作用を有するハイブリッド赤外カットフィルターで、L3は可視域と赤外域において透明な平行平板である。L3は赤外光も可視光もカットしない場合に光路に挿入される透明な平行平板(ガラス平板)であって、光学フィルターL1やL2を挿入した際と光路長が変わらないようにするための、光路長調整用の光学素子である。
【0015】
光学フィルター手段20が有する光学フィルター(光学素子)は、上述の限りでは無く、ローパスフィルター、色フィルター、色温度変換フィルター等であっても良い。但し、光学フィルター手段20が有する複数の光学フィルター(光学素子)は、その光学特性が互いに異なる複数の光学フィルターであることが望ましい。
【0016】
21は撮像素子で、22は、光学フィルター手段の一部の駆動手段(勿論、光学フィルター手段とは別であっても構わない)である。ここで、光学フィルター手段20のうち1つのフィルターが撮影光学系10の光路中に選択的に配置されるように光学フィルター手段20を矢印の方向に往復駆動している。ちなみに、ここで言う「1つの駆動手段」とは一つのモータであることが望ましい。しかしながら、一つの部材(本実施例でのフィルター保持枠23)を移動させたり、一つの軸を回転させたり、一つのターレットを回転させたりするために、実質的に同じ機能を果たす複数のモータであっても構わない。
【0017】
本実施例では、赤外カット作用を持つ赤外カットフィルターと、赤外カット作用の他にもう一つの波長特性を併せ持つハイブリッド赤外カットフィルターとを、一つの駆動手段(モータ等)で駆動している。本実施例においては、ハイブリッド赤外カットフィルターが持つもう一つの波長特性は、可視波長範囲において均一に透過率を減ずることができるND作用である。
【0018】
図2は図1に示した各フィルターL1、L2、L3の分光特性の説明図である。曲線SL1は赤外カットフィルターL1の分光特性である。曲線SL2はハイブリッド赤外カットフィルターL2の分光特性である。曲線L3は光学フィルターL3の分光特性である。
【0019】
ここで赤外カット作用とは波長400nm〜620nmにおける透過率が90%以上で、波長720nm〜900nmにおける透過率が1%以下のことをいう。
【0020】
このような赤外カット作用は薄膜を積層した多層膜がある。
【0021】
ND作用とは波長400nm〜700nmにおいて均一(透過率の差が15%以内、好ましくは10%以内)に透過率を低下させる光学作用のことである。ND作用を有するフィルターとしては、所謂Newtral Densityフィルター(灰色フィルター)がある。
【0022】
図3、図4は各々本発明に係わるハイブリッド赤外カットフィルターL2の概略図である。図3は赤外カットフィルターとNDフィルターを貼り合わせたものであり、図4は赤外カットフィルターとNDフィルターを1つのユニットとしたものである。
【0023】
図4のハイブリッド赤外カットフィルターL2は、赤外カット作用を有する赤外カットフィルター(光学部材)にND効果を持たせるため金属元素(Cu、Ti)をドープした構成またはTiO、TiO、ZnO等の吸収成分を含む誘電体膜を蒸着したものである。ここで言う赤外カットフィルターとは、可視光を透過し、赤外光を吸収、或いは反射する光学部材のことである。
【0024】
図5は図1の光学フィルター手段20の要部概略図である。光学フィルター手段20はフィルター保持枠23にハイブリッド赤外カットフィルターL2と、赤外カットフィルターL1そして光学フィルターL3を直線的に配置して構成している。
【0025】
図5ではハイブリッド赤外カットフィルターL2が撮影光学系10の光軸10a上に位置している場合を示している。
【0026】
本実施例では通常の可視光線領域において被写体を撮影するときは駆動手段22により光学フィルター手段20を駆動して赤外カットフィルターL1が光路中に位置するようにする。即ち、有害光となる赤外光をカットして撮像素子21に赤外光が入射しないようにしている。
【0027】
被写体側の照度(輝度)が非常に大きい(明るい)ときは、ハイブリッド赤外カットフィルターL2が光路中に位置するようにする。これによって赤外光をカットすると共にND効果によって可視光の透過量を制限し、撮像素子21に入射する入射量を制限する。このとき赤外カットフィルター効果も併せ持っているため撮像素子21で得られる被写体像のカラーバランスが変わることはない。
【0028】
被写体側の照度が非常に小さく暗いときは、光学フィルターL3が光路中に位置するようにする。このとき撮像素子21に赤外光線が入射し、カラーバランスが多少低下するが、被写体像を先鋭に映し出すことができる。
【0029】
本実施例における各フィルターは、表面反射を防ぐための反射防止コートを施していても良く、これによれば更に高い光学性能を発揮することができる。
【0030】
以上のように本実施例によれば被写体光量に応じて赤外カット作用とND作用を有するハイブリッド赤外カットフィルターの挿脱を一つの駆動手段で行なうことができ、撮影時の広いダイナミックレンジを確保しつつ装置全体の小型化を図ることができる。
【0031】
尚、本実施例においては、撮像素子21と、光学フィルター手段20と、駆動手段22は、撮像装置本体(カメラ本体)の構成要素であるが、撮影光学系10は必ずしも撮像装置本体の構成要素で無くても構わない。つまり、撮影光学系10は、撮像装置本体に対して脱着可能な構成としても良い。
【実施例2】
【0032】
図6は本発明の光学フィルター手段を有する撮影装置の実施例2の要部概略図である。特に記載しない点に関しては、実施例1と同様である。
【0033】
図6のズームレンズZLは、物体側より像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群B1、負の屈折力の第2レンズ群B2、開口絞りSP、正の屈折力の第3レンズ群B3、正の屈折力の第4レンズ群B4より成っている。
【0034】
広角端から望遠端へのズーミングに関して、第2レンズ群B2が像側へ、第3レンズ群B3が物体側へ、各々移動している。
【0035】
20は光学フィルター手段であり、図1で示したのと同様の構成より成っている。21は撮像素子である。
【0036】
本実施例においても、光学フィルター手段20のうちの1つのフィルターを選択して、その選択された1つのフィルターを、1つの駆動手段22によってズームレンズZL中に挿脱している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の光学フィルター手段を有する撮影装置の実施例1の要部概略図
【図2】本発明に係わる各フィルターの分光特性の説明図
【図3】本発明に係わるハイブリッド赤外カットフィルターの構成図
【図4】本発明に係わるハイブリッド赤外カットフィルターの構成図
【図5】本発明に係わるハイブリッド赤外カットフィルターユニットの構成図
【図6】本発明の光学フィルター手段を有する撮影装置の実施例2の要部概略図
【符号の説明】
【0038】
10 撮影光学系
20 光学フィルター手段
21 撮像素子
22 駆動手段
23 フィルター保持枠
L1 赤外カットフィルター
L2 ハイブリッド赤外カットフィルター
L3 光学フィルター
ZL ズームレンズ
B1〜B4:第1〜4レンズ群
SP:絞り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子と、撮影光学系から前記撮像素子に至る光の光路中に対して、複数の光学素子を選択的に挿脱する光学フィルター手段を有する撮像装置であって、
前記複数の光学素子は、赤外カット作用とND作用とを併せ持つハイブリッド赤外カットフィルターを含んでおり、
前記光学フィルター手段は、前記複数の光学素子を1つの駆動手段で駆動することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記複数の光学素子は、赤外カットフィルターを含んでおり、
前記ハイブリッド赤外カットフィルターと前記赤外カットフィルターとは、前記1つの駆動手段によって前記光路中に挿脱されることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記複数の光学素子は、透明な平行平板より成る光学素子を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の撮像装置。
【請求項4】
前記ハイブリッド赤外カットフィルターは、赤外カット作用を有する光学部材に金属元素をドープしたもの又はTiO、TiO、ZnOのうち少なくとも1つを含む誘電体膜を蒸着したものであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の光学フィルター手段を有する撮像装置。
【請求項5】
前記撮像装置は、被写体からの光を前記撮像素子に導く撮影光学系を有することを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の撮像装置。
【請求項6】
撮像素子と、該撮像素子の光入射側に位置した複数の光学フィルターを含む光学フィルター手段と、該光学フィルター手段の複数の光学フィルターのうちの1つの光学フィルターを該撮像素子の光入射面上から挿脱させる1つの駆動手段と、を有する光学フィルター手段を有する撮像装置であって、
該光学フィルター手段は、赤外カット作用とND作用を有するハイブリッド赤外カットフィルターを有していることを特徴とする光学フィルター手段を有する撮像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−35199(P2008−35199A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206202(P2006−206202)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】