説明

光学フィルタ及びそれを有する撮像装置

【課題】 環境変化に強い薄型で、かつ高品質な光学フィルタ及びそれを有する撮像装置を得ること。
【解決手段】 撮像光学系1の光路中に配置する光学フィルタ4であって、
フィルム状に構成された有機物材料より成る光学的異方性部材42,44と、無機物材料より成る無機物基板41,43とが、いずれも2以上交互に接合されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮像素子を使用して画像を形成するときに光路中に配置する光学フィルタに関し、例えばデジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CCDやCMOS等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、高い周波数成分を持った被写体を撮像したときに撮像素子のサンプリング周波数に依存して発生する偽信号を低減させることを目的とした光学ローパスフィルタが種々と提案されている。
【0003】
光学ローパスフィルタとしては、水晶の一軸性単結晶の複屈折作用を利用して被写体光を常光線と異常光線に分離させ、この分離幅に相当する空間周波数成分に対するレスポンスを低下させるというものがあって、現在でもこの性質を種々応用したものが広く一般的に用いられている(従来例1)。
【0004】
また水晶以外の一軸性結晶、例えばニオブ酸リチウムの単結晶板の複屈折作用を利用したものがある(従来例2)。
【0005】
従来例2は従来例1と同様に一軸性単結晶の複屈折作用を利用したものであるが、ニオブ酸リチウムの単結晶では常光線の屈折率と異常光線の屈折率の差(ΔN)が大きいために、従来例1の構成と比較したとき同等の分離巾を得るために必要となる基板の厚さを薄くすることができる。
【0006】
単結晶基板を複屈折材料として使用するもの以外では、液晶性材料などの有機物の複屈折作用を利用することによって光学ローパスフィルタを構成するものも種々と提案されている(特許文献1、2、3参照)。
【0007】
特許文献1、2、3では各々電界や磁界を印加することによって液晶性材料の分子の配向を所定方向として複屈折性を持つようにするという材料の製作方法とこの材料を光学ローパスフィルタとして使用する旨を開示している。
【0008】
光学ローパスフィルタにおいて、被写体像を分離する機能のために使用する材料の従来例としては、以上説明したものが挙げられるわけだが、実使用上はこれらを複数枚使用して光学ローパスフィルタを実現するのが一般的となっている。
【0009】
CCD、CMOS等の撮像素子が2次元状に規則的に配列された画素とカラーフィルタを持つものであるため、少なくとも2方向の空間周波数のレスポンスを適切に制御するように構成することが望ましい。このような背景から撮像素子の一般的な配列方向となっている水平、垂直の2方向についてレスポンスを制御するように第1の水晶複屈折板と、水晶位相板と、第2の水晶複屈折板をこの順に配置した光学ローパスフィルタが知られている(従来例3)。
【0010】
従来例3の第1の水晶複屈折板は、その光学軸を入射面の法線に対して所定の角度(最も効率的となる45°に設定されることが多い)だけ傾け、かつその基板入射面への正射影が空間周波数に対するレスポンスを低下させる第1の方向(ここでは水平方向)を向くように構成している。第1の水晶複屈折板では、入射光を所定の振動面を持った直線偏光状態の常光線と異常光線に分離させ、このうちの異常光線のみを撮影画面の水平方向に所定量だけ移動させる機能を持っている。また水晶位相板は、その光学軸を入射面と直交する方向(即ち基板の面内)に配置し、かつ第1の水晶複屈折板の光学軸の基板入射面への正射影に対して45°だけ回転した方向(ここでは水平方向から45°回転した方向)を向くように構成している。水晶位相板では、第1の水晶複屈折板から射出した1組の直線偏光状態の光線の位相を変換する作用を持ち、位相板の厚さと光線の波長によって決定される位相差の分だけ位相を変化させて射出させている。
【0011】
そして第2の水晶複屈折板は、その光学軸を入射面の法線に対して所定の角度(最も効率的となる45°に設定されることが多い)だけ傾け、かつその基板入射面への正射影が空間周波数に対するレスポンスを低下させる第2の方向(ここでは垂直方向)を向くように構成している。第2の水晶複屈折板では、入射光を所定の振動面を持った直線偏光状態の常光線と異常光線に分離させ、このうちの異常光線のみを撮影画面の水平方向に所定量だけ移動させる機能を持っている。
【0012】
このように従来例3では、3枚の水晶基板を組み合わせて構成し、各々の水晶基板の光学軸の方位を適切に設定して配置することによって、被写体像を水平、及び垂直方向の4つの像に分離させ、その分離巾に対応する水平、及び垂直方向の空間周波数のレスポンスを低下させている。
【0013】
尚、ここで使用する水晶位相板は、可視波長域の中間的な波長である550nm付近の波長を中心に可視波長域全般の光線に対して位相をλ/4だけ変換して円偏光状態にしようとすると、その厚さを15μm程度とすることが必要となる。
【0014】
そこで水晶位相板の厚さを十分に厚くして位相板から射出する光線の位相の波長依存性を十分に大きくすることによって、所定の波長域を持った一般的な被写体像がほぼ等しい強度の4つの像に分離するように構成するという手法が用いられている。
【0015】
また従来例3においては、偏光解消機能を十分に厚くした水晶位相板で実現するものとしたが、水晶位相板の代わりに光学的異方性を持ったフィルム状の有機物材料を使用する光学ローパスフィルタが提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平6−317776号公報
【特許文献2】特開平8−122708号公報
【特許文献3】特開平11−305168号公報
【特許文献4】特開2002−303826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来例や特許文献4の光学ローパスフィルタでは、水晶の一軸性単結晶の複屈折板、及び位相板を用いるものであるため比較的低価格で安定して材料の生産と基板、加工ができるという利点はある。しかしながら常光線と異常光線の屈折率の差があまり大きくないために単結晶基板を最も効率的に使用した場合でも、所望の光線の分離巾を得るために必要となる単結晶基板の厚さが厚くなりカメラの機構構成が難しくなるという問題点があった。
【0017】
また一般にCCDやCMOS等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、撮影レンズの像側の撮像面までの空間には、光学ローパスフィルタの他にも視感度補正フィルタと撮像素子の保護のためのカバーガラス等が配置されており、これらの平板は撮影レンズの光線収差を少なからず変化させるという問題点を持っている。
【0018】
そのため銀塩フィルムを用いることを想定して設計された交換可能なレンズを撮影レンズとして流用することを想定し、撮像素子を使用する一眼レフカメラを構成するとき、この問題は無視できないものとなっていた。
【0019】
常光線と異常光線の分離巾は、単結晶材料そのものの常光線および異常光線の屈折率と、単結晶基板の結晶軸に対する方位、それに基板の厚さによって決定されるが、単結晶基板の結晶軸に対する方位を効率的に設定する前提とすれば、概ね単結晶材料そのものの常光線および異常光線の屈折率によって決定される。
【0020】
従来例2では単結晶基板が、水晶と比較して常光線と異常光線の屈折率の差の大きいニオブ酸リチウムを使用しているため、常光線と異常光線の分離巾を同等とした場合でも従来例1の水晶を使用する場合と比べて光学ローパスフィルタ全体を薄く構成することができる。
【0021】
しかしながらニオブ酸リチウムの単結晶材料は、逆に薄く加工して使用する必要があるという点や、材料そのものの硬度等に依存して研磨基板の加工が難しく、また屈折率の高い材料であるために高度な反射防止処理も必要となって製造が難しいという問題点がある。
【0022】
特許文献1、2、3は液晶等に使用されるある種の有機物材料が、電界や磁界の引加によってその分子の配向方向を変更するという作用に着目し、かつその配向方向が一様となる状態としたときには、この材料が従来例1,2で使用される単結晶材料と類似の異方性を示すという特徴を光学ローパスフィルタに応用している。
【0023】
このうち特許文献1では、電界の引加によって材料の一様性を変化させて光学ローパスフィルタとしての作用を可変としているが、電圧の印加部等の付加構成が必要となって薄型化には適さない。
【0024】
また特許文献2、3に開示されるように電界または磁界を引加した状態で液晶性の有機物材料を固め、均質な複屈折性を持ったフィルム状の有機物材料を光学ローパスフィルタとして用いたとき、大多数の有機物材料は、光学ガラスや光学単結晶材料などの無機物材料と比較したとき、線膨張係数がおよそ10倍程度大きい。このため外界の温度変化に対して膨張または収縮しやすい傾向にある。そのため一般に有機物材料と無機物材料の接合を行なう場合には温度変化に際して接合部付近での歪みや接合の剥がれが発生しないように接着剤や接合方法を工夫することが必要となってくる。
【0025】
有機物材料で構成され、所定波長の光線のみを透過する光学的作用を持った波長選択性部材や、位相変換作用を持った光学部材で光学フィルタを構成するとき、有機物材料によって構成された波長選択性部材は、一般に有機物材料の吸水性から外界の湿度変化によって波長選択特性を変化させやすいといった問題点がある。
【0026】
本発明は環境変化に強く薄型で、かつ高品質な光学フィルタ及びそれを有する撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の光学フィルタは、
撮像光学系の光路中に配置する光学フィルタであって、
フィルム状に構成された有機物材料より成る光学的異方性部材と、無機物材料より成る無機物基板とが、いずれも2以上交互に接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば有機物材料の薄さという利点を活用しつつ環境変化が強く薄型で、かつ高品質の光学フィルタが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
まず本実施例の概要について説明する。
【0030】
本実施例は撮像素子としてモザイク状にカラーフィルタを配置して構成した1つの撮像素子によってカラー画像を形成するカメラ(撮像装置)に好適な光学フィルタを実現している。
【0031】
撮像素子としてモザイク状にカラーフィルタを配置して構成した1つの撮像素子によってカラー画像を形成するカメラであって、銀塩フィルムを使用する一眼レフカメラにも装着するべく構成された撮影レンズを適用可能としたカメラにおいては、一般にカラーフィルタの配列が所定の規則性を持つように構成されていて、当該するカラーフィルタの配置されない画素の輝度信号は、その周囲に存在し当該カラーフィルタの配置された画素の輝度信号を用いて適宜補間することによって形成するように構成している。この際、補間によって形成される信号は、補間のピッチに応じた比較的高い空間周波数において偽信号を発生することになり、カラーフィルタの配列によって決定される偽の色信号として画像に表れることになる。この偽の色信号は、2次元状に画素およびカラーフィルタの配列された撮像素子では、その配列に規則性のある方向、一般には水平、垂直、斜め方向の特定の空間周波数において発生することになる。
【0032】
そこで、撮像素子を用いる撮像系には、このような偽の色信号の強度を低減させる目的でこれらの2次元的方位の空間周波数に対してレスポンスを低下させるべく光学ローパスフィルタを具備することが求められる。このように2次元状にレスポンスを低下させるためには、撮影レンズから撮像素子に至る光線を2次元的に操作することが必要となる。
【0033】
本実施例においては、フィルム状に構成した有機物材料より成る2枚以上の光学部材(光学的異方性部材)を、基板状に構成した無機物材料よりなる光学部材(単結晶基板)(無機物基板)の両側に配置する構成としている。これにより撮影レンズから撮像素子に至る光線を2次元的に分離することによって、2次元状に所定の空間周波数に対するレスポンスを低下させる光学ローパスフィルタを十分に薄く構成している。さらにその外側(光入射側)(物体側)に波長選択作用を持った光学部材(波長選択性部材)を配置する構成にすることによって好適な光学フィルタを実現している。
【0034】
一般的に正方形状の画素を有し、モザイク状のカラーフィルタを使用する撮像素子において、カラーフィルタの配列によって発生する偽の色信号の強度を低減させるための手法として、例えば撮影レンズから撮像素子に至る光線を水平、垂直の2方向にそれぞれ分離させ、4つの被写体像を撮像素子上に形成する機能を持った光学ローパスフィルタを具備するという手法が知られている。このような構成とすることによって水平、垂直、斜めの各方向で偽の色信号を発生させる特定の空間周波数に対して各々適切にレスポンスを低下させることが可能となる。
【0035】
あるいは別の手法として、光線を水平線に対して第1の斜め45°方向、第2の斜め45°方向の2方向にそれぞれ分離させ、やはり4つの被写体像を形成する機能を持った光学ローパスフィルタを具備するという手法も知られている。
【0036】
正方形状の画素を有し、モザイク状のカラーフィルタを使用する撮像素子においては、偽の色信号が強く発生する方向は、水平、垂直、及び斜め45°の両方向であるため、これらの偽の色信号を効率良く低減させるためには、上記2つの手法のように互いに直交する2方向に像を分離させる構成とすることが望ましい。
【0037】
CCDやCMOS等の固体撮像素子では、シリコンの光電変換作用を利用するため撮像素子そのものの詳細構造による相違はあるもののシリコンの光電変換特性によって概ね決定される分光感度を持っている。そのため撮影装置を構成する際には、撮像素子の分光感度と視感度の相違を補正するための視感度補正フィルタを具備することが必要となっている。そこで視感度補正のために主として近赤外線を遮断することを目的に色ガラスフィルタや誘電体蒸着膜を光学フィルタとして使用するのが一般的となっている。
【0038】
色ガラスフィルタのみによって有害波長域の光線を遮断しようとすると可視波長域の透過率の低下、即ち感度の低下を招き、誘電体蒸着膜のみによって遮断しようとすると有害光が反射光となってゴーストを発生させる場合がある。そこで色ガラスフィルタと誘電体蒸着膜を併用した波長選択性部材を使用することが望まれている。
【0039】
次に本実施例で使用するフィルムや基板の材料の線膨張係数に着目すると、ポリカーボネート樹脂等の有機物材料では、7.0×10−5/℃程度、一般的な光学ガラスや色ガラスフィルタ、水晶の単結晶基板等の無機物材料では、7.0×10−6/℃〜1.5×10−5/℃程度とおよそ5〜10倍程度異なる値を持っている。
【0040】
本実施例は、光学フィルタを薄く構成するためにフィルム状の有機物材料を使用することを想定した上で、このような材料の線膨張係数の相違に基づいた外界の温度変化に対して高い信頼性を維持できる構成を提案している。
【0041】
そこで本実施例では、光入射側(物体側)から順に、無機物材料である波長選択性部材(色ガラスフィルタ基板)、有機物材料でフィルム状の第1の光学的異方性部材、無機物材料である単結晶基板より構成した位相基板(光学的異方性部材)、有機物材料でフィルム状の第2の光学的異方性部材を配置してこの順に接合している。このとき第1、第2の光学的異方性部材は、所定の厚さを持った単結晶基板に挟み困れて固定されるか、あるいは単結晶基板の表面に接合されて固定している。
【0042】
本実施例では、このような構成として外界の温度変化が発生した際にも有機物材料の膨張、収縮を実質的に抑制するようにしている。
【0043】
尚、ここでは第2の光学的異方性部材より像面側の構成については特に規定しないが、空気層とすることも可能であるが、無機物材料の基板を接合すればより良好なものとすることができる。またカメラに搭載する際に撮像素子の表面上を保護する保護ガラスと接合して保持するという構成とすればさらに好適な実施例を実現することができる。
【0044】
この他、本実施例のさらなる特徴は以下の各実施例において記載される。
【実施例1】
【0045】
図1は本発明の実施例1の光学フィルタを有する一眼レフレックスカメラ(撮像装置)の要部断面図である。
【0046】
同図において1は交換可能な撮影レンズとしての撮影光学系、2は回動ミラー(QRミラー)であり、撮影時には回動して撮影光学系1の光路から退避している。3はフォーカルプレーンシャッタであり、露光時間を機械的に制限している。4は本発明に関わる光学フィルタであり、撮像光学系1の像面側の光路中に配置され、後述する複数の光学的異方性部材と無機物基板が接合されて構成されている。5は撮像手段としての撮像素子(CCDやCMOS等の固体撮像素子で構成される)であり、撮像光学系1の予定焦点面に配置されている。6は焦点板であり、被写体像が形成されている。7はファインダー光学系であり、焦点板6に形成される被写体像を反転する像反転手段としてのペンタダハプリズム8と接眼レンズ9等を有している。
【0047】
本実施例において撮像光学系1によって結像される被写体像は、回動ミラー2がその光路内に配置されているときには焦点板6に形成されファインダー光学系6よりファインダー像として観察されており、不図示のレリーズスイッチによって撮影動作が開始されると、回動ミラー2が撮影光学系1の光路外に退避し、フォーカルプレーンシャッタ3が開放動作を行うことによって、光学フィルタ4を介して撮像素子5の撮像面上に形成される。そして撮像素子5からは撮像信号が出力され、不図示のメモリーに格納される。
【0048】
図2(A)、(B)は各々図1に示した光学フィルタ4の説明図であり、同図(A)は光学フィルタ4の要部断面図、同図(B)は光学フィルタ4の分解斜視図である。
【0049】
図2(A)、(B)において、41は基板状に構成された無機物材料より成る無機物基板である。無機物基板41は波長選択性部材としての色ガラスフィルタ基板(フィルタ基板)より成り、その基板の表面に近紫外線及び近赤外線の有害光を遮断する光学薄膜(誘電体蒸着膜)が蒸着されている。
【0050】
42は第1の光学的異方性部材であり、光学的異方性を有し、フィルム状に構成された有機物材料より成っている。
【0051】
43は水晶位相板(フィルタ基板)であり、基板状に構成された無機物材料より成り、単結晶の水晶(単結晶基板)を位相変換作用(または複屈折作用)を持つように所定の方位に切り出して形成されている。
【0052】
44は第2の光学的異方性部材であり、光学的異方性を有し、フィルム状に構成された有機物材料より成っている。
【0053】
本実施例では第1の光学的異方性部材42、水晶位相板43、そして第2の光学的異方性部材44をこの順に配置することによって、所定の空間周波数に対するレスポンスを低下させる光学ローパスフィルタを構成している。また色ガラスフィルタ基板41によって不要な波長域の光線を遮断している。
【0054】
第1の光学的異方性部材42は、液晶化合物を表面に対して特性の角度を持って分子を配向させて形成したフィルム状の有機物であって、複屈折作用によって入射光を所定の振動面を持った直線偏光状態の常光線と異常光線に分離させ、このうちの異常光線のみを撮影画面の水平方向に所定量だけ移動させる機能を持っている。
【0055】
水晶位相板43は、光学軸をフィルム面内で水平線から45°だけ回転させて配置した位相板より成り、位相差変換作用(または複屈折作用)によって第1の光学的異方性部材42から射出する直線偏光状態の光線をさまざまな偏光状態に変換する機能を持っている。
【0056】
第2の光学的異方性部材44は、第1の光学的異方性部材42と同一の材料であって、複屈折作用によって入射光を所定の振動面を持った直線偏光状態の常光線と異常光線に分離させ、このうちの異常光線のみを撮影画面の垂直方向に所定量だけ移動させる機能を持っている。
【0057】
本実施例では、このように第1の光学的異方性部材42、水晶位相板43、第2の光学的異方性部材44を組み合わせて構成することによって、入射光を水平方向及び垂直方向に各々所定量だけ離れた位置に略等しい強度を持った4つの射出光に変換して射出する機能を持つようにして、所定の空間周波数のレスポンスを低下させる光学ローパスフィルタを実現している。
【0058】
尚、本実施例の第1、第2の光学的異方性部材42、44の線膨張係数は7.0×10−5/℃程度、水晶位相板43の線膨張係数は結晶軸方向とその直交方向で異なるが、7.0×10−6/℃〜1.2×10−5/℃程度となっている。
【0059】
本実施例の光学フィルタ4は、光学ローパスフィルタ作用を有する光学的異方性部材に所定の波長域の光を吸収する作用を持った材料を配合した無機物材料の色ガラスフィルタ基板41を接合させて構成している。尚、本実施例の色ガラスフィルタ基板の線膨張係数は1.5×10−5/℃程度となっている。
【0060】
本実施例の光学フィルタ4は、上記の如く光入射側(物体側)から順に、無機物材料より成る基板(無機物基板)の色ガラスフィルタ基板41、有機フィルム材料の第1の光学的異方性部材42、無機物材料より成る位相基板43、有機物材料より成る第2の光学的異方性部材44を組み合わせた構成となっている。即ち、本実施例では、無機物材料の光学部材と有機物材料の光学部材を交互に接合した構成となっている。
【0061】
このような構成としたとき、線膨張係数が比較的大きい有機物材料は、フィルム状で体積が少なく、また隣接する線膨張係数の比較的小さい無機物材料に接着されていることから、外界の温度変化に対して接合の剥がれなどの問題を低減させることができる。
【0062】
また本実施例の光学フィルタ4は、最終的に上記説明のような構成とするものであるため、その製造工程において、有機フィルム材料である第1、第2の光学的異方性部材42、44が、無機物基板に接合すれば良く、接合加工工程上の難易度を高くすることなく製造することが可能となる。
【0063】
色ガラスフィルタ基板41は、近紫外線及び近赤外線を吸収する光学材料を基板とし、かつこの光透過面に近紫外線及び近赤外線を反射する光学薄膜を蒸着している。ここで近紫外線を遮断するのは有機物材料より成る第1、第2の光学的異方性部材42、44の化学変化を防止するためであり、また近赤外線を遮断するのは撮像素子5の分光感度を視感度に近似させるためである。
【0064】
光学的異方性を有するフィルム状の有機物材料としては、液晶性を持つ高分子材料が用いられるが、これらの材料は近紫外線の照射に対して化学変化によって黄変劣化を発生させるという問題点がある。そこで近紫外線が第1、第2の光学的異方性部材42、44に到達する前に遮断するような構成とすることが必要となる。
【0065】
一方、シリコンの光電変換作用を利用する一般的な撮像素子においては、撮像素子そのものの詳細構造による相違はあるもののシリコンの光電変換特性によって概ね決定される分光感度を持つことになる。ここで決定される分光感度は人間の目が持つ視感度と比べ、はるかに赤外波長域の感度が高くなる傾向にあるため撮像素子の出力を視感度と略同等とするために赤外波長域の光線を適切に遮断することが必要となる。
【0066】
本実施例の色ガラスフィルタ基板41は概略的に視感度に近い分光透過率特性を持った波長域の光線を透過させ、それ以外の光線を吸収する性質を持ったフィルタとしている。第1、第2の光学的異方性部材42、44が有害な近紫外線を遮断するのが不十分で、また撮影結果の色再現に有害となる近赤外線を遮断するのが不十分なときには、色ガラスフィルタ基板41の光透過面に所定の分光透過率特性を持った光学薄膜を蒸着して近紫外線及び近赤外線の有害光を反射させる構成とするのが良い。
【0067】
本実施例の光学フィルタ4の分光特性を図3に示す。同図において411は色ガラスフィルタ基板41そのものの分光透過率特性、412は色ガラスフィルタ基板41の物体側表面に蒸着された光学薄膜の分光透過率特性、413は色ガラスフィルタ基板41とその物体側表面に蒸着された光学薄膜を合成した光学フィルタ4全体の分光透過率特性を表している。この際、光学フィルタ4を構成するその他の光学部材及びその他の面における分光透過率の低下は少ないものとして無視している。
【0068】
本実施例では図3に示されるような分光透過率特性を持った光学フィルタ4を用いることによって、波長350nm付近以下の近紫外線波長域の透過率を低下させ、波長400nm付近から650nm付近までの可視波長域の透過率を高く維持し、波長700nm付近以上1100nm付近までの近赤外線波長域の透過率を低下させるようにしている。特に本実施例では色ガラスフィルタ基板41の物体側表面に蒸着する光学薄膜の分光透過率特性を図3の点線412に示したような特性として波長350nm付近以下の近紫外線波長域の光線を遮断して、有機物材料より構成される第1、第2の光学的異方性部材42、44の化学変化による劣化を防止している。
【0069】
尚、波長350nmにおいては、本実施例の色ガラスフィルタ基板41そのものの透過率は約58%、色ガラスフィルタ基板41の物体側表面に蒸着する光学薄膜の透過率は約0%であって、本実施例においては光学薄膜によって実質的に近紫外線を遮断する構成としている。
【0070】
本実施例の光学フィルタ4を透過した被写体光は撮像素子5に到達して像信号を出力する。このとき形成される被写体像の分光感度を図4に示す。
【0071】
同図において413は図3に示した光学フィルタ4全体を透過する光線の分光透過率に対応する相対感度、511は撮像素子5の光電変換部の分光感度、512は光学フィルタ4全体の分光透過率413と撮像素子5の分光感度511の掛け合わせによって得られる本実施例の撮像装置の分光感度を表している。
【0072】
本実施例の光学フィルタ4は図4に示されるように波長700(nm)付近以上1100(nm)付近までの近赤外線波長域の透過率を低下させるように構成して、主としてシリコンの特性によって決定される撮像素子5と人間の目の感度との分光感度の相違の補正機能を併せ持つようにしている。
【0073】
本実施例の光学フィルタ4を適用した撮像装置の色信号の分光感度と人間の目のスペクトル3刺激値の比較を図5に示す。
【0074】
同図においてC−B、C−G、C−Rは各々本実施例を適用した撮像装置の3つの色信号の分光感度、E−B、E−G、E−Rは各々人間の目のスペクトル3刺激値を表している。同図に示されるように本実施例の光学フィルタ4では撮像装置の色信号の分光感度を人間の目と類似の特性を持つように良好な色再現を可能としている。
【0075】
以上説明したように本実施例では有機物材料の特性上の課題を考慮し、特にモザイク状にカラーフィルタを配置して構成した大面積の撮像素子を使用する一眼レフレックスカメラに好適となるように薄型で高品質の光学フィルタを実現している。
【実施例2】
【0076】
次に本発明の実施例2について説明する。
【0077】
本実施例において前述の実施例1と異なる点は、第2の光学的異方性部材44の撮像素子5側(光射出側)の面に無機物材料より成る基板(無機物基板)を接合して構成したことである。その他の構成及び光学的作用は実施例1と略同様であり、これにより同様な効果を得ている。
【0078】
即ち、前述の実施例1では光学フィルタ4の最も撮像素子5側では第2の光学的異方性部材44が空気層に面して配置される構成としたが、耐環境性をより向上させて使用する必要がある場合には、さらに別の無機物基板を接合する構成とすることが有効となる。もちろん、ここで新たに別の無機物基板を配置して接合する代わりに撮像素子5の撮像面を保護する目的で一般に用いられる撮像素子5の保護ガラスをこの無機物基板として兼用することが可能であれば望ましい。
【0079】
尚、前述の実施例1、2では位相変換作用を持った無機物材料として水晶の単結晶基板(水晶位相板)43を使用するものとしたが、位相変換作用の波長依存性の影響を実質的に低減し、基板の厚さをより薄いものとするためにニオブ酸リチウムの単結晶基板を使用しても良い。
【0080】
実施例1、2ではフィルム状に形成した有機物材料より成る光学部材と無機物材料より成る光学部材を実質的に交互に接合した構成を開示するものであるが、予めフィルム状の有機物材料を積層して構成した有機物フィルムを使用することも可能である。例えば、フィルム状に構成された有機物材料より成る2以上の光学的異方性部材と、該2以上の光学的異方性部材の光入射側及び光射出側に設けられ、無機物材料より成る2つの無機物基板で挟んだ構成も適用可能である。
【0081】
このような構成の場合には厳密な意味ではフィルム状の有機物材料より成る光学部材と無機物材料より成る光学部材を交互に組み合わせて接合した構成ではないが、このような実施例も本発明の技術思想の実施例である。
【0082】
また以上の実施例1、2においては使用可能な光学材料を表すものとして有機物材料及び無機物材料という表記をしたが、線膨張係数が大きく異なる材料を接合して光学フィルタを形成するという主旨であるため別の定義をする方が適切な場合も有り得る。
【0083】
即ち、実施例1、2の有機物材料としては線膨張係数が3.0×10−4/℃〜3.0×10−5/℃の範囲にある材料、また無機物材料としては線膨張係数が3.0×10−5/℃〜3.0×10−6/℃の範囲にある材料を実質的に意味するものである。
【0084】
このように実施例1、2では、CCDやCMOS等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、高い周波数成分を持った被写体によって発生する偽信号を低減させるローパスフィルタや有害光を遮断する波長選択フィルタといった光学フィルタを、カメラの撮影光学系の光路中の狭い空間に配置可能な薄型で高品質なものとすることができる。特に大面積の光学フィルタを必要とする大型の撮像素子を用いたレンズ交換式の撮像装置に性能面の他に製造コスト面でも好適となる光学フィルタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施例1の光学フィルタを用いた一眼レフレックスカメラの要部断面図
【図2】図1に示した光学フィルタの説明図
【図3】本発明の実施例1の光学フィルタの分光特性図
【図4】本発明の実施例1の撮像素子等の分光感度の説明図
【図5】本発明の実施例1の撮像装置の色信号の説明図
【符号の説明】
【0086】
1 撮影レンズ
2 QRミラー
3 フォーカルプレーンシャッタ
4 光学フィルタ
5 撮像素子
6 焦点板
7 ファインダー光学系
8 ペンタダハプリズム
9 接眼レンズ
41、42、43、44 光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像光学系の光路中に配置する光学フィルタであって、
フィルム状に構成された有機物材料より成る光学的異方性部材と、無機物材料より成る無機物基板とが、いずれも2以上交互に接合されていることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記2以上の光学的異方性部材のうち、少なくとも1つは分子の配向方向を均一として入射光を常光線と異常光線に分離させる複屈折作用を有することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記2以上の無機物基板は、所定波長域の光束の透過を制限する波長選択性基板と、単結晶材料を所定の方位に加工して形成した位相基板と、を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
最も外側には無機物基板が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記光学的異方性部材の線膨張係数は、前記無機物基板の線膨張係数より大きいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記波長選択性基板は、近紫外線及び近赤外線を吸収する基板と、該基板の光透過面に設けた近紫外線及び近赤外線を反射する光学薄膜とを有していることを特徴とする請求項3に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記2以上の光学的異方性部材のうち、少なくとも1つはフィルム状の有機物材料を積層して構成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
撮像光学系の光路中に配置する光学フィルタであって、
該光学フィルタは光の入射側より順に、所定波長域の光束の透過を制御する無機物材料より成る波長選択性基板、複屈折作用によって入射光を常光線と異常光線とに分離して出射するフィルム状の有機物材料より成る第1の光学的異方性部材、複屈折作用または位相変換作用によって入射光線の位相を変換する無機物材料で単結晶材料より成る位相基板、そして複屈折作用によって入射光を常光線と異常光線に分離させて出射するフィルム状の有機物材料より成る第2の光学的異方性部材を含むことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項9】
撮像光学系の光路中に配置する光学フィルタであって、
フィルム状に構成された有機物材料より成る2以上の光学的異方性部材と、該2以上の光学的異方性部材の光入射側及び光射出側に設けられ、無機物材料より成る2つの無機物基板とを有することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項10】
前記請求項1乃至9の何れか1項の光学フィルタを備えることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−154395(P2006−154395A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345821(P2004−345821)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】