説明

光学フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】 大画面サイズのテレビ等に用いた際にも良好な光学特性、機械特性、寸法安定性を有する光学フィルム、またそれを用いた偏光子を提供する。また、環境負荷の高いハロゲン系溶剤を用いずに、高性能の光学フィルムを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】 主として酢酸イソ酪酸セルロース、または酢酸ピバリン酸セルロースからなることを特徴とする光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースエステルを用いた光学フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルムは、その高い透明性・低複屈折性などから、写真用ネガフィルムの支持体や、液晶ディスプレイに用いられる偏光子を保護するフィルムなどに用いられてきた。
【0003】
液晶ディスプレイは、その奥行きの薄さ、軽さから近年大幅に生産量が増大しており、需要が高くなっている。また液晶ディスプレイを用いたテレビは、薄く軽いという特徴を生かして、ブラウン菅を用いたテレビでは達成されなかったような大型のテレビが生産されるようになっており、それに伴って液晶ディスプレイを構成する偏光子、偏光子保護フィルムも大型化が求められている。また、カーナビゲーションシステムなどのような、自動車内への液晶ディスプレイの搭載も広がっている。
【0004】
しかし偏光子を大型化していくと、温度や湿度などといった環境変動により影響を受けやすくなるため、偏光子の端部などが劣化してディスプレイの黒表示が明るくなり、コントラストが低下するといった問題が起きやすくなることが新たな課題となっている。車中の用途のような、温度変化が激しい用途も同様である。
【0005】
このような偏光子の劣化は、偏光子保護フィルムの収縮に起因する寸法変化が原因であるといわれている。
【0006】
ところで、偏光子保護フィルムとして用いられるセルロースエステルフィルムは、これまで専ら溶液流延法によって製造されてきた。溶液流延法とは、セルロースエステルを溶媒に溶解した溶液を流延してフィルム形状を得た後、溶媒を蒸発・乾燥させてフィルムを得るといった製膜方法である。
【0007】
このような製膜方法では、溶媒乾燥時にフィルムの収縮が発生するが、表面の平面性を保つためにテンションをかけながら乾燥する必要がある。その結果、若干ながら内部応力が残留してしまい、長期間の経時では収縮が発生する原因となっていた。
【0008】
また、セルロースエステルの溶解性から、溶剤は塩化メチレンのようなハロゲン系溶剤を使用しており、環境負荷が大きいことも課題となっていた。
【0009】
これに対し、セルロースエステルフィルム以外のプラスチックフィルム(PETフィルム等)では、溶融流延法によって製膜が行われることが多い。溶融流延法では、プラスチックを熱溶融して製膜するために溶剤が不要であり、乾燥時の収縮・内部応力の残存といった問題が少ない製膜方法である。また乾燥ラインや溶媒の回収・再生装置等の製造設備が不要であるためにフィルム幅の大型化が容易であり、かつ環境負荷も大きく低減することができるため、好ましい製造方法である。
【0010】
しかしこれまで光学用フィルムの原料セルロースエステルであるトリアセチルセルロース(TAC)は、溶融開始温度が分解開始温度より高い高分子であるため、溶融流延法を用いて光学フィルムを得ることは今まで達成されていない。
【0011】
セルロースエステルフィルムを分解温度以下の低温で溶融できるようにするためには、(i)可塑剤を多量に添加する方法、(ii)セルロースを置換する有機酸を、酢酸以上に長い直鎖状有機酸とする方法(非特許文献1参照。)などが知られている。
【0012】
しかし可塑剤を添加する量としては、ある程度以上の添加量となると、経時でセルロースエステルフィルムから析出して劣化したりするため、実質的には可塑剤の添加量は10〜20質量%程度が限界である。この程度の添加量であると、融点を低下させる効果はまだ不充分であり、溶融時にセルロースエステルの分解を完全に防ぐまでには至らない。
【0013】
他方、セルロースエステルの置換基を長くするといった方法によると、セルロースを置換する有機酸を酢酸よりも長い酸とすると急激に融点が低下し、C8カルボン酸であるカプリル酸で最も低い温度(86℃)に達することが報告されている。
【0014】
しかし、セルロースを置換する有機酸の長さを長くすると同時に、セルロースエステルの引張り強さも低下することが報告されており、トリカプリルセルロースでは引張り強さがトリアセチルセルロースの約10分の1にまで低下すると報告されている。
【0015】
セルロースエステルを用いた偏光子保護フィルムとしては、引張り強さや弾性率のような力学的な強度が高いことも重要な物性である。偏光子(PVAフィルム)は、製造時に4〜5倍程度の延伸を受けるためにフィルム中に内部応力が残存するが、引張り強さや弾性率の低い保護フィルムを用いると、偏光子の内部応力に負けて変形しやすく、偏光子の劣化が起きやすくなるため、融点が低くても引張り強さや弾性率が低いセルロースエステルは偏光子保護フィルムとして用いることはできない。
【0016】
また、セルロースには各繰り返し単位あたりに3つまで置換することのできる水酸基があるため、特許文献1によって開示されているように、酢酸とプロピオン酸の混合セルロースエステルによって、弾性率をある程度調節することができる。また弾性率はセルロースエステルフィルムを延伸することによっても向上させることができることが知られている。
【0017】
また、特許文献2では、セルロースの置換基をアセチル基とプロピオニル基によって特定の割合で置換されたセルロースエステルを用いて溶融製膜した後、延伸を行うことでネガフィルム用支持体に適用可能なセルロースエステルフィルムを得ているが、光学フィルムとして重要な物性値である複屈折、寸法安定性、弾性率については何ら記載がない。
【0018】
また、特許文献3でもアセチル基とプロピオニル基、ブチリル基等の脂肪酸セルロースエステルを用いた偏光子保護フィルムが開示され、寸法安定性の良好な偏光子保護フィルム、偏光子、液晶ディスプレイが得られているが、作成されたディスプレイは15インチであり、近年の30インチ以上のような大型液晶ディスプレイへの適用は試みられていない。
【0019】
したがって本発明の目的は、大画面サイズのテレビ等に用いた際にも良好な光学特性、機械特性、寸法安定性を有する光学フィルム、またそれを用いた光学特性、機械特性、寸法安定性に優れた偏光子を提供することにある。また、環境負荷の高いハロゲン系溶剤を用いずに、上記のような高性能の光学フィルムを製造する製造方法を提供することにある。
【特許文献1】特開平10−45804号公報
【特許文献2】特表平6−501040号公報
【特許文献3】特開2000−352620号公報
【非特許文献1】Industrial and Engineering Chemistry,vol.43−3(1951),p688−691
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって本発明の目的は、大画面サイズのテレビ等に用いた際にも良好な光学特性、機械特性、寸法安定性を有する光学フィルム、またそれを用いた光学特性、機械特性、寸法安定性に優れた偏光子を提供することにある。また、環境負荷の高いハロゲン系溶剤を用いずに、上記のような高性能の光学フィルムを製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0022】
(請求項1)
主として酢酸イソ酪酸セルロース、または酢酸ピバリン酸セルロースからなることを特徴とする光学フィルム。
【0023】
(請求項2)
前記酢酸イソ酪酸セルロースまたは酢酸ピバリン酸セルロースが、下記式(1)および(2)を満たすセルロースエステルであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【0024】
式(1) 2.4≦X+Y≦2.9
式(2) 0.3≦Y≦2.0
(式中、Xは酢酸による置換度であり、Yはイソ酪酸又はピバリン酸による置換度を表す。)
(請求項3)
前記セルロースエステルの重量平均分子量が、20万以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルム。
【0025】
(請求項4)
前記酢酸イソ酪酸セルロースまたは酢酸ピバリン酸セルロースを含有するフィルム形成材料を、150℃以上250℃以下の溶融温度で加熱溶融し、溶融流延法によって製造したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0026】
(請求項5)
前記フィルム形成材料中に、1%質量減少温度Td(1.0)が、250℃以上である可塑剤を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0027】
(請求項6)
前記フィルム形成材料中に、安定化剤として、1%質量減少温度Td(1.0)が、250℃以上である酸捕捉剤または酸化防止剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0028】
(請求項7)
前記セルロースエステルの置換度が、下記式(3)、(4)を満たすセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【0029】
式(3) 2.5≦X+Y≦2.7
式(4) 0.5≦Y≦1.0
(式中、X,Yは前記式(1),(2)における各々X,Yと同義である。)
(請求項8)
前記可塑剤が、多価アルコールエステルであることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0030】
(請求項9)
前記フィルム形成材料中に、前記安定化剤としてさらに、Td(1.0)が250℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0031】
(請求項10)
前記溶融流延法によって製造された光学フィルムのセルロースエステルの重量平均分子量が15万以上であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の光学フィルム。
【0032】
(請求項11)
請求項1〜10の何れか1項に記載の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
【0033】
(請求項12)
液晶表示セルの両面に請求項11に記載の偏光板が配置されたことを特徴とする液晶表示装置。
【0034】
(請求項13)
マルチドメイン型の垂直配向モードであることを特徴とする請求項12に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0035】
大画面サイズのテレビ等に用いた際にも良好な光学特性、機械特性、寸法安定性を有する光学フィルム、及びそれを用いた光学特性、機械特性、寸法安定性に優れた偏光子を提供することができた。また、環境負荷の高いハロゲン系溶剤を用いずに、高性能の光学フィルムを製造する製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
従来、偏光子保護フィルムの材料としてセルロースエステル樹脂を用いてフィルム製造する場合、該樹脂を溶媒に溶解した溶液を流延し、次いで溶媒を蒸発し乾燥することによって製膜する所謂溶液流延法が行われている。溶液流延法は、フィルム内部に残存する溶媒を除去しなければならないため、内部応力の発生といったフィルム物性への影響だけでなく、乾燥ライン、乾燥エネルギー、及び蒸発した溶媒の回収及び再生装置等、製造ラインへの設備投資及び製造コストが膨大になっており、これらを削減することが重要な課題となっている。
【0038】
そこで製膜時に蒸発及び乾燥させる溶媒がなければ、溶液流延法で抱えている課題を回避できることが期待できる。
【0039】
本発明は、セルロースエステルを熱溶融することによって製膜する方法を究明するためになされたもので、特定のセルロースエステルを最適な温度で溶融・流延することによってフィルム状に製膜することにより光学フィルムを提供することができ、これらを光学補償フィルムや偏光子保護フィルムとして用いて偏光板化することで、表示品質が改善された液晶表示装置を提供することができた。尚、本発明者らは、本発明に用いられる特定のセルロースエステルを溶液流延法に用いても優れた性能の光学フィルムを形成し得ることを見いだしている。
【0040】
以下、本発明を詳述する。
【0041】
本発明は、溶融流延によって形成されセルロースフィルムを光学フィルムとして用いることを特徴とする。前記溶液流延のように溶媒に溶解させることなしに、フィルム構成材料を加熱することにより流動可能な状態として流延することを、本発明においては溶融流延と定義する。
【0042】
加熱溶融する成形法は、更に詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度などに優れる光学フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。
【0043】
ここでフィルム形成材料を加熱し、その流動性を発現させた後ドラム上またはエンドレスベルト上に押出し製膜する方法を溶融流延製膜法として本発明の溶融流延法に含まれる。
【0044】
(セルロースエステル)
本発明の光学フィルムは、下記のセルロースエステルを80質量%〜99質量%含有するフィルム形成材料を用いて形成されたことを特徴とする。
【0045】
本発明に用いられるセルロースエステルは、アセチル基の置換度をXとし、イソ酪酸又はピバリン酸の置換度をYとしたとき、下記式(1)及び(2)を同時に満たすセルロースエステルである。
【0046】
式(1) 2.4≦X+Y≦2.9
式(2) 0.3≦Y≦2.0
即ち、セルロースエステルのアシル基として酢酸とイソ酪酸或いは酢酸とピバリン酸とのセルロースエステルを用いることにより、溶融流延法において優れた光学フィルムが得られることを見いだしたものである。従来技術として、酢酸とプロピオン酸のセルロースエステル(CAP)や酢酸と酪酸のセルロースエステル(CAB)が溶融流延法により製膜し得るものであることは知られていたが、本発明は一方のアシル基のアルキル基を分岐アルキル基とすることにより、より溶融流延法に適し、優れた光学フィルムが得られることを見いだしたものである。
【0047】
有機酸の総置換量(X+Y)が2.4より大きく2.9より小さいの範囲が、もっともセルロースエステルを低温で溶融できる範囲の置換度であり、この範囲から外れるといずれも溶融温度が高くなり、得られるセルロースエステルフィルムの物性が溶融プロセスによって低下してしまう。より好ましくは2.5以上2.7以下の範囲である。
また分岐鎖有機酸による置換度であるYの値は、0.1より大きく2.0より小さい範囲が好ましい。0.1以下ではセルロースエステルの溶融温度低下の効果が小さく、2.0以上では得られるセルロースエステルの力学強度が不足する。より好ましくは0.5以上1.0以下の範囲である。
【0048】
尚、本発明においては、イソ酪酸とピバリン酸の両方を含有しているセルロースエステルであってもよい。例えば、酢酸による置換度が1.8、イソ酪酸による置換度が0.4、ピバリン酸による置換度が0.4であるようなセルロースエステルなどである。
【0049】
また、セルロースを有機酸が置換する位置は、グルコースユニットの2位、3位、6位があり、2位と3位は2級の水酸基、6位は1級の水酸基であり、分岐鎖有機酸がどの位置を置換するかによってセルロースエステルの高次構造や物性が多少変化することがあるが、本発明の光学フィルムにおいては分岐鎖有機酸がいずれの置換位置にあるセルロースエステルでも好ましく用いることができる。
【0050】
更に、溶融製膜の原料となるこれらのセルロースエステルは、重量平均分子量が20万以上であることが必要であり、好ましくは25万以上であり、更に好ましくは30万以上である。特に上限はないが、通常100万以下の範囲である。なお50万以上であると溶融時の粘度が高くなりすぎ、得られる光学フィルムの平面性が悪化することがある。また溶融流延法により形成された光学フィルムを構成するセルロースエステルは熱溶融による分解をできるだけ低く押さえることが好ましく、その溶融プロセス後の重量平均分子量としては15万以上であることが好ましい。
【0051】
上記のセルロースエステルは公知の方法で合成することができる。
【0052】
フィルム形成材料中のセルロースエステルを80質量%〜99質量%の範囲とすることにより、後述する安定化剤、可塑剤および紫外線吸収剤の存在下で優れた溶融流延性と安定性を示し、得られたフィルムは光学フィルムとしての優れた性能を付与することができる。セルロースエステルの含有量が80質量%以下であると、添加剤がブリードアウトしたり、フィルムの弾性率が低くなってしまうために好ましくない。また光学フィルムとして必要な他の添加剤の添加量が1.0質量%以下であると(セルロースエステルの含有量が99%以上であると)、要求される物性を満たすことが難しい。より好ましくはセルロースエステルの含有量は85〜95質量%である。
【0053】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
【0054】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0055】
本発明において、フィルム形成材料には、可塑剤、安定化剤をセルロースエステルの加熱溶融前または加熱溶融時に添加することで、より好ましい光学フィルムを得ることができる。
【0056】
(安定化剤)
安定化剤とは、高分子が熱や酸素、水分、酸などによって分解されることを化学的な作用によって抑制する材料のことである。本発明の光学フィルムは、200℃程度の高温下で成形されるため、高分子の分解・劣化が起きやすい系であり、安定化剤をフィルム形成材料中に含有させることが好ましい。
【0057】
安定化剤としては、例えば、酸化防止剤、酸捕捉剤、ヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤、過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、などが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載がある。これらの中でも、本発明の目的のためには、安定化剤として酸化防止剤、酸捕捉剤の内少なくとも1種を、フィルム形成材料中に含むことが好ましい。
【0058】
フィルム形成材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等、解明できていない分解反応を含めて、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による揮発成分の生成を抑制するために安定化剤を用いる。
【0059】
本発明に用いられるフィルム形成材料中の安定化剤は、少なくとも1種以上選択でき、添加する量は、セルロースエステルの質量に対して、安定化剤の添加量は0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上3質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以上0.8質量%以下である。
【0060】
安定化剤の添加量が上記添加量の範囲よりも少ないと、熱溶融時の材料の安定化作用が低いために安定化剤の効果が得られず、また上記添加量の範囲よりも多いと樹脂への相溶性の観点から光学補償フィルムの支持体としての透明性の低下を引き起こし、またフィルムが脆くなることもあるために好ましくない。
【0061】
また、これらの安定化剤は熱的にはより高温において安定であることが好ましく、1%質量減少温度Td(1.0)が150℃以上、更に200℃以上、特に250℃以上が好ましい。空気下における1%質量減少温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することができる。
【0062】
フィルム形成材料は、材料の変質や吸湿性を回避する目的で、構成する材料が1種または複数種のペレットに分割して保存することができる。ペレット化は、加熱時の溶融物の混合性または相溶性が向上でき、または得られたフィルムの光学的な均一性が確保できることもある。
【0063】
フィルム形成材料を加熱溶融するとき、上述の安定化剤が存在することは、材料の劣化や分解に基づく強度や光学的透明性の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できる観点で優れている。
【0064】
フィルム構成材料が加熱により著しく劣化すると、着色が発生して光学フィルムとしては用いることができなくなってしまうことがある。また本発明の光学フィルムを光学補償フィルムとして用いる際には、リターデーション付与工程(延伸工程)が流延工程の次に実施されるが、フィルム構成材料が加熱により著しく劣化すると、形成されたフィルムが脆くなり、該延伸工程において破断が生じやすくなったり、目的の光学補償フィルムのリターデーション値が発現できなくなることがある。
【0065】
そこで、上述の安定化剤の存在は、加熱溶融時において可視光領域の着色物の生成を抑制すること、またはフィルムを構成する材料が分解して生じた揮発成分等によって生じる透過率やヘイズ値の低下といった光学フィルムとして好ましくない劣化を抑制または消滅できる点でも優れている。
【0066】
本発明において液晶表示装置の表示画像は、本発明の光学フィルムを用いるときヘイズ値が1%を超えると影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1%未満、より好ましくは0.5%未満である。また着色性の指標としては黄色度(イエローインデックス、YI)を用いることができ、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.0以下である。
【0067】
上述のフィルム形成材料の保存或いは製膜工程において、空気中の酸素あるいは水分による劣化反応が併発することがある。この場合、上記安定化剤の安定化作用とともに、空気中の湿度・酸素濃度を低減させることも本発明を具現化する上で好ましく併用できる。これは、公知の技術として不活性ガスとして窒素やアルゴンの使用、減圧〜真空による脱気操作、及び密閉環境下による操作が挙げられ、これら3者の内少なくとも1つの方法を上記安定剤を存在させる方法と併用することができる。フィルム構成材料が空気中の酸素と接触する確率を低減することにより、該材料の劣化が抑制でき、本発明の目的のためには好ましい。
【0068】
また、本発明の光学フィルムは、偏光子保護フィルムとして活用するため、本発明の偏光板及び偏光板を構成する偏光子に対して経時保存性を向上させる観点からも、フィルム構成材料中における上述の安定化剤の存在が重要な役割を担う。
【0069】
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置において、本発明の光学フィルムに上述の安定化剤が存在すると、上記の変質や劣化を抑制する観点から光学フィルムの経時保存性が向上できるとともに、液晶表示装置の表示品質向上においても光学的な補償設計が長期にわたって機能発現できる点で優れている。
【0070】
(酸化防止剤)
セルロースエステルは高温下では熱だけでなく酸素によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては安定化剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸化防止剤としては、酸素によるフィルム形成材料の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも有用な酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、溶融成型時の熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜2質量部である。
【0071】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物のうち好ましい化合物として、下記一般式(1)の化合物が挙げられる。
【0072】
【化1】

【0073】
上式中、R1、R2及びR3は、更に置換されているかまたは置換されていないアルキル置換基を表す。ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル=β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、”Irganox1076”及び”Irganox1010”という商品名で市販されている。
【0074】
その他の酸化防止剤としては、具体的には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等の耐熱加工安定剤、特公平08−27508記載の3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン系化合物、3,3′−スピロジクロマン系化合物、1,1−スピロインダン系化合物、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、ピペラジン骨格を部分構造に有する化合物、特開平3−174150号記載のジアルコキシベンゼン系化合物等の酸素スカベンジャー等が挙げられる。これら酸化防止剤の部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていても良い。
【0075】
(酸捕捉剤)
セルロースエステルは高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては安定化剤として酸捕捉剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815C、及び下記一般式(2)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物も好ましく用いることができる。
【0076】
【化2】

【0077】
上式中、nは0〜12を表す。
【0078】
更に上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、あるいはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落68〜105に記載されているものが含まれる。
【0079】
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
(ヒンダードアミン光安定剤)
本発明において、フィルム構成材料の熱溶融時の安定化剤、また製造後に偏光子保護フィルムとして晒される外光や液晶ディスプレイのバックライトからの光に対する安定化剤として、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含等まれる。このような化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化3】

【0081】
上式中、R1及びR2は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン光安定剤の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれる。
【0082】
【化4】

【0083】
(紫外線吸収剤)
本発明の光学フィルムを液晶セルに対して外側に用いる偏光子保護フィルムとして用いる場合には、安定化剤として更に紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤とは、製造後に使用される環境下で紫外線によってフィルムを構成する材料が分解することを防ぐ効果のある材料である。セルロースエステル自体は比較的紫外線に対して強い材料であるが、その他の添加剤については紫外線に対して弱い化合物である場合もあるし、偏光子や液晶セルも紫外線に対して弱い化合物から形成されているため、少なくとも外光があたる側の偏光子保護フィルムや、液晶ディスプレイのバックライトが入射する側の偏光子保護フィルムに付いては紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
【0084】
このような紫外線吸収剤としては、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、特に好ましくはベンゾトリアゾール系化合物である。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0085】
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0086】
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)234、チヌビン(TINUVIN)360(何れもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)を用いることもできる。
【0087】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜20質量%添加することが好ましく、更に0.5〜10質量%添加することが好ましく、更に1〜5質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0089】
(可塑剤)
本発明の溶融流延による光学フィルムに形成においては、フィルム形成材料中に少なくとも1種の可塑剤を添加することが必要である。
【0090】
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、本発明においては、フィルム形成材料の溶融温度を低下させる添加剤、または同じ温度においてフィルム形成材料の粘度を低下させる添加剤として用いる。溶融温度を低下させたり溶融粘度を低下させることにより、溶融プロセス中におけるセルロースエステルの劣化を抑制することができるため、本発明ではこのような効果を有する材料であれば制限なく可塑剤として用いることができる。このような融点低下効果・粘度低減降下は、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を用いると、より大きい効果が得られやすい。
【0091】
また、可塑剤を添加することによってセルロースエステルフィルムの機械的性質向上、引き裂き強度向上、耐吸水性付与、水分透過率の低減等の効果が見られることもあるため、このような効果を有する材料を可塑剤として用いることがより好ましい。
なお可塑剤も、上記のように添加によってセルロースエステルの熱溶融プロセスにおける劣化を抑制する効果があるが、その効果は物理的な効果によるものであり、化学的な効果に起因するものではないため、本発明においては安定化剤としては分類しない。
【0092】
上記のような条件を満たし、本発明に用いられる可塑剤としては、例えば、リン酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤(エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤など)、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。この中でも多価アルコールエステル系可塑剤及び多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましく、更に多価アルコールエステル系可塑剤が好ましい。また、可塑剤は液体であっても固体であっても良く、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、空気下における1%質量減少温度Td(1.0)が150℃以上、更に200℃以上、特に250℃以上が好ましい。添加量は光学物性・機械物性に悪影響がなければ良く、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択され、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜50質量部、より好ましくは0.01〜30質量部である。特に0.1〜15質量%が好ましい。
【0093】
以下、本発明に用いられる可塑剤について具体例に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
多価アルコールエステル系の可塑剤:本発明においては、一分子中に複数の水酸基を有する化合物と、複数の1価の有機酸とが縮合した化合物を、多価アルコールエステル系可塑剤と称する。
【0095】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものをあげることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、キシリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グルコース、セロビオース等を挙げることができる。特に、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール系多価アルコール、グリセリン、ジグリセリン等のグリセリン系多価アルコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが好ましい。
【0096】
また、好ましい有機酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられるが、セルロースエステルの透湿度を低減する効果が高い不飽和カルボン酸によって多価アルコールエステルを形成していることが好ましい。
【0097】
多価アルコールエステルに用いられる不飽和カルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0098】
このような多価アルコールエステル系可塑剤の具体例のうち、例えば、エチレングリコール系の可塑剤としては、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等が挙げられる。
【0099】
またグリセリンエステル系の可塑剤の具体例としては、トリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等が挙げられる。
【0100】
上記以外の多価アルコールエステル系可塑剤の具体例としては、特開2003−12823公報の段落30〜33記載の可塑剤が挙げられる。
【0101】
なお上記に挙げた可塑剤は、多価アルコール部または有機酸部ともに、さらにアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基で更に置換されていても良く、またこれら置換基同士が共有結合で結合していても良い。あるいはこれらの構造がポリマーの一部であったり、或いは規則的にペンダントされていても良く、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。
【0102】
多価カルボン酸エステル系の可塑剤:本発明においては、一分子中に複数のカルボン酸基を有する化合物と、複数の1価のアルコールまたはフェノールとが縮合した化合物を、多価カルボン酸エステル系可塑剤と称する。
【0103】
二価のカルボン酸からなるジカルボン酸エステル系の可塑剤の具体例としては、ジドデシルマロネート(C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。
【0104】
3価以上のカルボン酸からなる可塑剤の具体例としては、トリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。
【0105】
上記の可塑剤におけるアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でも良く、これらの置換基は更に置換されていても良い。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでも良く、またこれら置換基同志が共有結合で結合していても良い。更にフタル酸の芳香環も置換されていて良く、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でも良い。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていても良く、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。
【0106】
リン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等のリン酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等のリン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていても良い。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでも良く、また置換基同志が共有結合で結合していても良い。
【0107】
またエチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、旭電化製アデカスタブPFR等のフェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、)、旭電化製アデカスタブFP500等のフェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、旭電化製アデカスタブFP600等のビスフェノールAジフェニルホスフェート、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていても良い。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでも良く、また置換基同士が共有結合で結合していても良い。
【0108】
更にリン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていても良く、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていても良い。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
【0109】
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1,000〜500,000程度が好ましく、特に好ましくは、5,000〜200,000である。1,000以下では揮発性に問題が生じ、500,000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステル誘導体組成物の機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でも良い。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いても良く、他の可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、滑り剤及びマット剤等を含有させても良い。
【0110】
これらの化合物の添加量は、可塑剤がフィルムを構成するセルロースエステルに対して、0.5質量%以上〜50質量%未満の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1質量%以上〜30質量%未満の範囲、更に好ましくは1質量%以上〜11質量%未満の範囲にある。これらの化合物の添加量は、上記目的の観点から調整することができる。
【0111】
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが好ましい。
【0112】
(その他の添加剤)
本発明においては、セルロースエステルに安定化剤、可塑剤や紫外線吸収剤の他、種々の添加剤を含有することができる。
【0113】
例えば、マット剤、フィラー、シリカやケイ酸塩等の無機化合物、染料、顔料、蛍光体、二色性色素、リターデーション制御剤、屈折率調整剤、ガス透過抑制剤、抗菌剤、生分解性付与剤などが挙げられる。また、上記機能を有するものであれば、これに分類されない添加剤も用いることができる。
【0114】
そして、これらの添加剤をセルロースエステルに含有させる方法としては、各々の材料を固体或いは液体のまま混合し、加熱溶融し混練して均一な溶融物とした後、流延して光学フィルムを形成する方法であっても、予め全ての材料を溶媒等を用いて、溶解して均一溶液とした後、溶媒を除去して、添加剤とセルロースエステルの混合物を形成し、これを加熱溶融し、流延して光学フィルムを形成してもよい。
【0115】
(製膜)
本発明の光学フィルムは、例えば、特許第3341134号公報に記載されているような、通常の溶液流延法によって製膜することも可能であるが、溶融流延法を用いて製膜することで、より寸法安定性の高く高品質な光学フィルムを得ることができる。
溶融流延法としては、例えば、米国特許第2,492,978号、同第2,739,070号、同第2,739,069号、同第2,492,977号、同第2,336,310号、同第2,367,603号、同第2,607,704号、英国特許第64,071号、同第735,892号、特公昭45−9074号、同49−4554号、同49−5614号、同60−27562号、同61−39890号、同62−4208号に記載の方法を参照して製膜できる。
【0116】
例えば、本発明のセルロースエステル及び添加剤の混合物を、熱風乾燥または真空乾燥した後、溶融押出し、T型ダイよりフィルム状に押出しして、静電印加法等により冷却ドラムに密着させ、冷却固化させ、未延伸フィルムを得る。冷却ドラムの温度は90〜150℃に維持されていることが好ましい。
【0117】
溶融押出しは、一軸押出し機、二軸押出し機、更に二軸押出し機の下流に一軸押出し機を連結して用いてもよいが、得られるフィルムの機械特性、光学特性の点から、一軸押出し機を用いることが好ましい。更に、原料タンク、原料の投入部、押出し機内といった原料の供給、溶融工程を、窒素ガス等の不活性ガスで置換、或いは減圧することが好ましい。
【0118】
本発明の前記溶融押出し時の温度は150〜250℃の範囲であることが好ましい。更に200〜240℃の範囲であることが好ましい。
【0119】
本発明の光学フィルムを偏光子保護フィルムとして偏光板を作製した場合、該セルロースエステルフィルムは、幅手方向もしくは製膜方向に延伸製膜されたフィルムであることが特に好ましい。
【0120】
前述の冷却ドラムから剥離され、得られた未延伸フィルムを複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介してセルロースエステルのガラス転移温度(Tg)からTg+100℃の範囲内に加熱し、一段または多段縦延伸することが好ましい。次に、上記のようにして得られた縦方向に延伸されたセルロースエステルフィルムを、Tg〜Tg−20℃の温度範囲内で横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。
【0121】
横延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると、幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。更に横延伸後、フィルムをその最終横延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布が更に低減でき好ましい。
【0122】
熱固定は、その最終横延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差を1〜100℃の範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
【0123】
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで求めた値である。
【0124】
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0125】
(機能性層)
本発明の光学フィルム製造に際し、延伸の前及び/または後で帯電防止層、透明導電層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、易滑性層、易接着層、防眩層、ガスバリア層、光学補償層等の機能性層を塗設してもよい。特に、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選ばれる少なくとも1層を設けることが好ましい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
【0126】
製膜工程において、カットされたフィルム両端のクリップ把持部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。
【0127】
本発明の光学フィルムは偏光子保護フィルム用として用いることができる。偏光子保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて、偏光子の両面に偏光子保護フィルムを貼り合わせる方法があり、少なくとの片面に本発明の偏光子保護フィルムである光学フィルムが偏光子に直接貼合できる観点で好ましい。
【0128】
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
【0129】
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
【0130】
(延伸操作、屈折率制御)
本発明の光学フィルムは、延伸操作により屈折率制御を行うことができる。延伸操作としては、セルロースエステルの1方向に1.0〜2.0倍及びフィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜2.5倍延伸することで好ましい範囲の屈折率に制御することができる。
【0131】
例えばフィルムの長手方向及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に延伸することができる。このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0132】
例えば溶融して流延した方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大き過ぎると、フィルムの厚み方向の屈折率が大きくなり過ぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制或いは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、テンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、所謂ボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、該流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。
【0133】
更に、互いに直行する2軸方向に延伸することにより、得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
【0134】
セルロースエステルフィルム支持体の膜厚変動は、±3%、更に±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
【0135】
応力に対して、正の複屈折を得るセルロースエステルを用いる場合、幅方向に延伸することで、光学フィルムの遅相軸が幅方向に付与することができる。この場合、本発明において、表示品質の向上のためには、光学フィルムの遅相軸が、幅方向にあるほうが好ましく、(幅方向の延伸倍率)>(流延方向の延伸倍率)を満たすことが必要である。
【0136】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、或いは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれらの方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0137】
製膜工程のこれらの幅保持或いは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0138】
本発明の光学フィルムを偏光子保護フィルムとした場合、該保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に20μm以上、更に35μm以上が好ましい。また、150μm以下、更に120μm以下が好ましい。特に好ましくは25以上〜90μmが好ましい。上記領域よりも光学フィルムが厚いと偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いと、リターデーションの発現が困難となること、フィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。
【0139】
本発明の光学フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。
【0140】
θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0141】
(液晶表示装置)
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光子保護フィルムは寸法安定性が高いため、どの部位に配置しても優れた表示性が得られる。液晶表示装置の表示側最表面の偏光子保護フィルムには、クリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられた偏光子保護フィルムをこの部分に用いることが好ましい。また光学補償層を設けた偏光子保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光子保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することが出来る。
【0142】
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルをさらに複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
【0143】
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することが出来る。ドメインの分割は、公知の方法を採用することが出来、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定出来る。
【0144】
本発明の偏光板は垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domein Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることが出来る。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、本発明の偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することも出来る。本発明の偏光板を用いることによって本発明の効果が発現出来れば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
【0145】
該液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても高性能であるため、本発明の光学フィルムを用いた液晶表示装置、特に大型の液晶表示装置の表示品質は、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【実施例】
【0146】
実施例1
〈セルロースエステルの分子量測定〉
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて重量平均分子量(Mw)を算出することができる。
【0147】
測定条件は以下の通りである。
【0148】
溶媒: 塩化メチレン
カラム: Shodex K806,K805,K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0149】
〈セルロースエステルの置換度測定〉
ASTM D817−96に基づき、下記のようにして置換度DSを求めた。
乾燥したセルロースエステル1.90gを精秤し、アセトン70mlとジメチルスルホキシド30mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。攪拌しながら1モル/L水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水100mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示約として0.5モル/L硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行なった。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、常法により有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0150】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
X=(162.14×TA)/{1−42.14×TA+(1−SA×TA)×(Y/X)}
Y=X×(Y/X)
DS=X+Y
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:0.5モル/L硫酸の力価
W:試料質量(g)
TA:全有機酸量(mol/g)
Y/X:イオンクロマトグラフで測定した酢酸と酢酸以外の酸とのモル比
X:酢酸による置換度
Y:イソ酪酸又はピバリン酸による置換度
SA:Yがイソ酪酸のとき70.09、ピバリン酸のとき84.12
〈セルロースの分取〉
Indian J.Chem.Tech.,vol.3(1996)p333に記載の方法を参考にして分子量の異なるセルロースの分取を行った。
【0151】
ギンネムの木(Leucaena Leucocephala)から抽出したα−セルロース10質量部と、パラホルムアルデヒド12質量部とを、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略)360質量部に100℃で5時間加熱して溶解させたのち、DMSO 620質量部を加えて5℃まで冷却した。
【0152】
このDMSO溶液を攪拌しながら、純水を100質量部添加し、生成した沈殿物をろ過して得られた固形物をセルロースHとした。ろ過した濾液には、再び純水を100質量部添加し、生成した沈殿物をセルロースMとした。更に濾液に200質量部の純水を添加して、得られた固形分をセルロースLとした。
【0153】
得られたセルロースa〜cは、水:アセトン=50:50の溶液に溶解させた後、5℃で24時間冷蔵後、生成した浮遊物をろ過し、水とアセトンを留去して、更に真空下100℃で24時間乾燥することで精製した。
【0154】
《セルロースエステルの合成》
Polymers for Advanced Technologies,vol.14(2003),p478を参考にして、各種のセルロースエステルを合成した。
【0155】
〈セルロースエステルa1〉
セルロースMを100質量部(100モル部)と、塩化リチウム420質量部(1600モル部)と、酢酸30質量部(80モル部)、ピバリン酸を138質量部(220モル部)とを、ジメチルアセトアミド1000質量部(体積で10倍)に混合した溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を380質量部(300モル部)、ジメチルアミノピリジン130質量部(170モル部)、ジメチルアミノピリジン−トシル酸塩130質量部(70モル部)を室温で加え、DCCが完全に消費されるまで24時間攪拌した。反応終了後、5000質量部の蒸留水を加えて生成した白色沈殿を濾別した。濾別した固形物を純水で数回洗浄した後、メタノールで24時間ソックスレー抽出を行い、最後に70℃で真空乾燥することでセルロースエステルa1を得た。得られたセルロースエステルの置換度、分子量は後述の測定法にしたがって実施し、測定結果については表1に記載した。
【0156】
〈セルロースエステルa2〉
酢酸30質量部(80モル部)を63質量部(170モル部)に、ピバリン酸138質量部(220モル部)を82質量部(130モル部)に変更した以外はセルロースエステルa1と同様にして合成を行い、セルロースエステルa2を得た。
【0157】
〈セルロースエステルa3〉
酢酸30質量部(80モル部)を81質量部(220モル部)に、ピバリン酸138質量部(220モル部)を50質量部(80モル部)に変更した以外はセルロースエステルa1と同様にして合成を行い、セルロースエステルa3を得た。
【0158】
〈セルロースエステルa4〉
酢酸30質量部(80モル部)を93質量部(250モル部)、ピバリン酸138質量部(220モル部)を31質量部(50モル部)と変更した以外はセルロースエステルa1と同様にして合成を行い、セルロースエステルa4を得た。
【0159】
〈セルロースエステルa5〉
酢酸81質量部(220モル部)を74質量部(200モル部)に、DCCを380質量部(300モル部)を355質量部(280モル部)に変更した以外はセルロースエステルa3同様にして合成を行い、セルロースエステルa5得た。
【0160】
〈セルロースエステルa6〉
酢酸81質量部(220モル部)を93質量部(250モル部)に、DCCを380質量部(300モル部)を418質量部(330モル部)に変更した以外はセルロースエステルa3同様にして合成を行い、セルロースエステルa6を得た。
【0161】
〈セルロースエステルa7〉
セルロースエステルの原料、セルロースMをセルロースHとした以外は、セルロースエステルa3と同様にして合成を行い、セルロースエステルa5を得た。
【0162】
〈セルロースエステルa8〉
セルロースエステルの原料、セルロースMをセルロースLとした以外は、セルロースエステルa3と同様にして合成を行い、セルロースエステルa6を得た。
【0163】
〈セルロースエステルb1〉
ピバリン酸138質量部(220モル部)をイソ酪酸120質量部(220モル部)に変更した以外は、セルロースエステルa1と同様にして合成を行い、セルロースエステルb1を得た。
【0164】
〈セルロースエステルb2〉
ピバリン酸82質量部(130モル部)をイソ酪酸71質量部(130モル部)に変更した以外は、セルロースエステルa2と同様にして合成を行い、セルロースエステルb2を得た。
【0165】
〈セルロースエステルb3〉
ピバリン酸50質量部(80モル部)をイソ酪酸43質量部(80モル部)に変更した以外は、セルロースエステルa3と同様にして合成を行い、セルロースエステルb3を得た。
【0166】
〈セルロースエステルb4〉
ピバリン酸12質量部(20モル部)をイソ酪酸10質量部(20モル部)に変更した以外は、セルロースエステルa4と同様にして合成を行い、セルロースエステルb4を得た。
【0167】
〈セルロースエステルb5〉
セルロースエステルの原料、セルロースMをセルロースHに変更した以外は、セルロースエステルb3と同様にして合成を行い、セルロースエステルb5を得た。
【0168】
〈セルロースエステルb6〉
セルロースエステルの原料、セルロースMをセルロースLに変更した以外は、セルロースエステルb3と同様にして合成を行い、セルロースエステルb6を得た。
【0169】
〈セルロースエステルc1〉
ピバリン酸50質量部(80モル部)をプロピオン酸36質量部(80モル部)に変更した以外は、セルロースエステルa3と同様にして合成を行い、セルロースエステルc1を得た。
【0170】
〈セルロースエステルc2〉
イソ酪酸43質量部(80モル部)を酪酸43質量部(80モル部)に変更した以外は、セルロースエステルb3と同様にして合成を行い、セルロースエステルc2を得た。
【0171】
〈製膜方法〉
合成例で合成したセルロースエステル(a1〜a8、b1〜b6、c1〜c2)を90質量部、可塑剤を10質量部、酸化防止剤を1.0質量部、紫外線吸収剤を1.0質量部と粉体のまま混合後、2軸押し出し機へフィードした。酸捕捉剤は常温で液体であるため、別途液体用のフィーダによってバレル内にフィードした。バレル内の温度(溶融温度)は表1に記載の温度、スクリュ回転数は200rpmとし、最終的に得られる光学フィルムの膜厚が80μmとなるように製膜した。なお各試料における添加剤の種類等の実験処方についても表1に記載した。
【0172】
なお、各試料に使用した各種添加剤およびその1%質量減少温度(Td1.0)を下記に示した。1%質量減少温度(Td1.0)については、セイコーインスツルメンツ製示差熱熱質量同時測定装置、EXSTAR6000TG/DTAによって昇温速度10℃毎分、乾燥空気(露点−30℃)下で測定した。
・多価アルコールエステル系可塑剤 TMPTB(旭電化製 トリメチロールプロパントリベンゾエート):262℃、EPEG(東京化成製 エチルフタリルエチルグリコレート):200℃
・リン酸エステル系可塑剤 PFR(旭電化社製 アデカスタブPFR):273℃、TPP(東京化成製 トリフェニルホスフェート):237℃
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤 I1010(チバスペシャルティケミカルズ社製 イルガノックス1010):295℃
・ヒンダードアミン光安定剤 C2020(チバスペシャルティケミカルズ社製 チマソーブ2020):278℃
・エポキシ系酸捕捉剤 V7190(アトフィナ社製 バイコフレックス7190):286℃
・ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 T360(チバスペシャルティケミカルズ製 チヌビン360):323℃
・ベンゾフェノン系紫外線吸収剤 MBHMB(アルドリッチ製 5,5′−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4メトキシベンゾフェノン)):303℃
【0173】
【表1】

【0174】
表1の処方に基づいて得られた光学フィルムA1〜A8、B1〜B6、C1〜C2、E1〜E7と、比較例の溶液流延フィルムD1としてコニカミノルタ製コニカタック8UXについて下記の評価を行い、その結果を表2に記載した。
A1〜A7、B1〜B5、C1〜C3、E1〜E4、について、以下の評価を行った。
【0175】
〈弾性率の測定〉
上記作製した各フィルム試料を、幅手方向(TD方向)で10mm、搬送方向(MD方向)で200mm切り出し、23℃、相対湿度55%の雰囲気下で12時間調湿を行った後、オリエンテック社製のテンシロン(RTA−100)を用い、搬送方向(MD方向)の上下端をチャックで固定し、チャック間の距離を100mmに設定して、引張り速度100mm/minで引張り、MD方向の弾性率(GPa)を測定した。数値が大きいほど、引張りに対する強度が高いことを表す。
【0176】
〈面内複屈折R0の測定〉
23℃55%RH環境下で王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA−21ADHを用いて測定し、各透明フィルムの面内のX方向、Y方向の屈折率の差に、厚みを80μmと仮定して乗じた値を複屈折(nm)として表した。
【0177】
〈寸法安定性〉
フィルム試料について、長手方向150mm×幅手方向120mmサイズに断裁し、該フィルム表面に100mm間隔で長手方向(MD)および幅手方向(TD)の各々2ヶ所にカミソリ等の鋭利な刃物で十文字型の印を付し、23℃55%RHの環境下で24時間以上調湿し、工場顕微鏡で処理前の長手方向、及び幅手方向のそれぞれの印間距離L1を測定する。次に、該試料を電気高温槽中で高温処理(条件;90℃の環境下で120時間放置する)あるいは高温高湿処理(条件;80℃90%RHの環境下で120時間放置する)する。再び、該試料を23℃55%RHの環境下で24時間調湿し、工場顕微鏡で処理後の長手方向及び幅手方向のそれぞれの印間距離L2を測定する。この処理前後の変化率を次式によって求める。
(式)寸法変化率(%)=(L2−L1)/L1×100
L1:処理前の印間距離
L2:処理後の印間距離
〈耐光性評価〉
前記作製したセルロースエステルフィルムをスガ社製耐光性評価試験機に500時間投入し、投入前後での380nmにおける光の透過率を測定し、減衰率△T(%)を評価した。
【0178】
◎:変化度2%未満(偏光子保護フィルムとして問題ないレベル)
〇:変化度2%以上10%未満(偏光子保護フィルムとして問題ないレベル)
△:変化度10%以上20%未満(偏光子保護フィルムとして何とか使えるレベル)
×:変化度20%以上(偏光子保護フィルムとして問題のあるレベル)
また、以下の手順に従って、得られた偏光子保護フィルムを偏光子の両面に貼合し、偏光板としての耐久性を評価した。
(偏光板の作製)
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、沃化カリウム2質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光子を作製した。
実施例または比較のフィルムA1〜E6を、40℃の2.5M/L−水酸化ナトリウム水溶液で60秒間アルカリ処理し、更に水洗乾燥して表面をアルカリ処理した。
【0179】
前記偏光子の両面に、実施例または比較のフィルムA1〜E4のアルカリ処理面を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として両面から貼合し、保護フィルムが形成された偏光板A1〜E4を作製した。
【0180】
〈偏光板耐久性テスト:白抜け〉
500mm×500mmの偏光板試料2枚を熱処理(条件:90℃で100時間放置する)し、直行状態にした時の縦又は横の中心線部分のどちらか大きいほうの縁の白抜け部分の長さを測定して辺の長さ(500mm)に対する比率を算出し、その比率に応じて下記のように判定した。縁の白抜けとは直行状態で光を通さない偏光板の縁の部分が光を通す状態になることで、目視で判定できる。偏光板の状態では縁の部分の表示が見えなくなる故障となる。
【0181】
◎:縁の白抜けが5%未満(偏光板として問題ないレベル)
○:縁の白抜けが5%以上10%未満(偏光板として問題ないレベル)
△:縁の白抜けが10%以上20%未満(偏光板として何とか使えるレベル)
×:縁の白抜けが20%以上(偏光板として問題のあるレベル)
評価結果を表2に示す。
【0182】
【表2】

【0183】
表2において、溶融流延で製膜した本発明のフィルムA3と、溶液流延で製膜したフィルムD1を比較すると、本発明のフィルムは寸法安定性が高く、かつMD、TDでの寸法安定性に差が少なく、偏光子とした際にも白抜け故障の少ない好ましい偏光子保護フィルムであることがわかる。
【0184】
またフィルムA3とA4を比較すると、ピバリン酸による置換度Yが0.3より大きい方が、溶融温度を低減でき、溶融製膜プロセスによって分子量の低下が起こりにくく、得られるフィルムの寸法安定性が良好であることがわかる。またフィルムA1とA3を比較すると、ピバリン酸置換度Yは2.0未満である方が、寸法安定性が高く白抜け故障の発生しにくいことがわかる。
【0185】
またこのような傾向は置換基がイソ酪酸の場合でも同様であったが、ピバリン酸を用いた方が溶融温度を低くできる傾向があり、エネルギー的にも有利であり好ましい。
【0186】
さらにフィルム形成材料中に安定化剤として酸捕捉剤を添加したフィルムE1、ヒンダードアミン系光安定剤を添加したフィルムE2、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加したフィルムE3では、溶融流延法において分子量の低減を防ぐことができ、寸法安定性の高いフィルムを得ることができた。
【0187】
またフィルムE5とA3を比較すると、可塑剤として多価アルコールエステル系の可塑剤を用いた方がセルロースエステルの劣化が少なく、得られるフィルムの寸法安定性が高くなることがわかる。またフィルムE6のように、紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール系でないと、耐光性が低く耐光試験によって紫外線吸収能が劣化してしまうものの、寸法安定性については高いフィルムであるため、外光の当たらない内側の偏光子保護フィルムに限って用いることができる光学フィルムであった。
【0188】
実施例2
(液晶表示装置としての特性評価)
32型TFT型カラー液晶ディスプレーベガ(ソニー社製)の偏光板を剥がし、上記で作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて断裁した。液晶セルを挟むようにして、前記作製した偏光板2枚を偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け、32型TFT型カラー液晶ディスプレーを作製し、セルロースエステルフィルムの偏光板としての特性を評価したところ、本発明の偏光板A3〜A6、B2〜B4、E2〜E4はコントラストも高く、優れた表示性を示した。これにより、液晶ディスプレーなどの画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として酢酸イソ酪酸セルロース、または酢酸ピバリン酸セルロースからなることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記酢酸イソ酪酸セルロースまたは酢酸ピバリン酸セルロースが、下記式(1)および(2)を満たすセルロースエステルであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
式(1) 2.4≦X+Y≦2.9
式(2) 0.3≦Y≦2.0
(式中、Xは酢酸による置換度であり、Yはイソ酪酸又はピバリン酸による置換度を表す。)
【請求項3】
前記セルロースエステルの重量平均分子量が、20万以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記酢酸イソ酪酸セルロースまたは酢酸ピバリン酸セルロースを含有するフィルム形成材料を、150℃以上250℃以下の溶融温度で加熱溶融し、溶融流延法によって製造したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記フィルム形成材料中に、1%質量減少温度Td(1.0)が、250℃以上である可塑剤を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記フィルム形成材料中に、安定化剤として、1%質量減少温度Td(1.0)が、250℃以上である酸捕捉剤または酸化防止剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記セルロースエステルの置換度が、下記式(3)、(4)を満たすセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の光学フィルム。
式(3) 2.5≦X+Y≦2.7
式(4) 0.5≦Y≦1.0
(式中、X,Yは前記式(1),(2)における各々X,Yと同義である。)
【請求項8】
前記可塑剤が、多価アルコールエステルであることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項9】
前記フィルム形成材料中に、前記安定化剤としてさらに、Td(1.0)が250℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記溶融流延法によって製造された光学フィルムのセルロースエステルの重量平均分子量が15万以上であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の光学フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項12】
液晶表示セルの両面に請求項11に記載の偏光板が配置されたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項13】
マルチドメイン型の垂直配向モードであることを特徴とする請求項12に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−111797(P2006−111797A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302557(P2004−302557)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】