説明

光学フィルムの製造方法、及びそれに用いる製造装置

【課題】 親水性高分子を含み構成されるフィルムを破断することなく延伸することができ、スループットの向上が可能な光学フィルムの製造方法、それに用いる製造装置、その製造方法により得られる光学フィルム、及びそれを用いた画像表示装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る光学フィルムの製造方法は、親水性高分子を含み構成されるフィルム1を弛みなく張った状態にして、その状態でフィルム1を溶液8中に浸漬し、該溶液8中でフィルム1を延伸することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性高分子からなるフィルムを少なくとも染色、架橋、延伸してなる光学フィルムの製造方法、それに用いる製造装置、その製造方法により得られる光学フィルム、及びそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムが用いられる液晶表示装置は、テレビやパソコン等の様々な用途に用いられている。近年、液晶表示装置等の大型化が進み、光学フィルムも大面積のものが必要とされ、その大面積化に伴って光学フィルムの製造設備も大型化している。
【0003】
前記の光学フィルムは一般に、親水性高分子からなる長尺のフィルムを少なくとも染色、架橋、延伸の工程を経て製造されている。例えば、下記特許文献1には、親水性高分子重合体と二色性染料を含む混合物から製膜されるフィルムを一軸方向に延伸処理した後、ホウ酸を含む水溶液で処理する偏光膜の製造方法が開示されている。また、当該特許文献1に於いては、ホウ酸水溶液でフィルムを処理するに際して、例えば55℃以上の温度で行うことも開示されている。
【0004】
しかしながら、浴温度が50℃以上の浴中にフィルムを弛んだ状態で浸漬させると、フィルムが過度に膨潤して軟化することがある。この様な場合に、フィルムを5倍以上の高倍率に延伸処理をすると、軟化した部分からフィルムが簡単に破断してしまうという問題がある。特に大型化した浴中では、ガイドロール間に長尺のフィルムを通す作業を行うことによりフィルムの浸漬時間も長くなるため、フィルムの膨潤・軟化が著しくなりフィルムの破断が容易に起こる。
【0005】
さらに、浴中のガイドロールに長尺のフィルムを通す作業は、一般に、浴中に直接手を入れて長時間手作業で行ったり、導き紐を用いて行われる。よって、作業性及び生産効率が劣るという問題もある。
【特許文献1】特公平7−46162号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、親水性高分子を含み構成されるフィルムを破断させることなく延伸することができ、スループットの向上が可能な光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、作業性及び生産効率の向上が可能な光学フィルムの製造装置を提供することを目的とする。さらに、高透過率及び高偏光度の光学フィルム、及び表示特性に優れた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、前記従来の問題点を解決すべく、光学フィルムの製造方法、それに用いる製造装置、その製造方法により得られる光学フィルム、及びそれを用いた画像表示装置について鋭意検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る光学フィルムの製造方法は、前記の課題を解決する為に、水性高分子を含み構成されるフィルムを弛みなく張った状態にして、その状態でフィルムを溶液中に浸漬することを特徴とする。
【0009】
前記の方法によれば、フィルムを弛んだ状態で溶液中に浸漬させないので、フィルムが過度に膨潤し軟化するのを低減できる。
【0010】
前記溶液として架橋剤を含有するものを使用し、フィルムを溶液中に浸漬することにより架橋処理を施すことが好ましい。
【0011】
前記フィルムの延伸は、前記溶液中に浸漬した状態で行うことが好ましい。
【0012】
前記の方法に於いては、弛みなく張った状態で浸漬されたフィルムを、その状態から延伸させるので、該フィルムが破断するのを防止でき、耐熱性及び耐水性に優れた光学フィルムを製造することができる。
【0013】
前記フィルムの溶液中での延伸は、初期状態の5〜7倍となる様に行うことができる。
【0014】
但し、前記の方法に於いては、フィルムの延伸を初期状態の5〜7倍となるまで行われていればよく、当該溶液中での延伸の前に、予め一定の延伸倍率で延伸された後に、前記延伸倍率となる様に延伸を行うことを排除するものではない。
【0015】
また、前記フィルムを溶液に浸漬する前に、フィルムを初期状態の3〜5倍の範囲内で延伸してもよい。
【0016】
前記の方法によれば、フィルムを初期状態の3倍から5倍に延伸した後、延伸後のフィルムを弛みなく張った状態で浴中に浸漬するので、フィルムの耐熱性・耐水性を向上させると共に、過度な膨潤による軟化を抑制し、延伸時の破断を防止して光学フィルムの製造が可能になる。
【0017】
前記フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムであることが好ましい。
【0018】
前記の方法によれば、ヨウ素または二色性染料の配向性が良く容易に加工することができる。
【0019】
前記架橋剤は、ホウ酸またはホウ砂であることが好ましい。
【0020】
これにより、フィルムの耐水性及び偏光性能を容易に向上させて光学フィルムを製造することができる。
【0021】
前記フィルムを浸漬させる溶液の温度は、50℃以上80℃以下であることが好ましい。
【0022】
これにより、高透過率、高偏光度の光学フィルムを容易に製造することができる。
【0023】
前記フィルムの浸漬は、該フィルムを溶液に向かって下側に凸状となる様にして、空気溜まりを生じさせることなく行うことが好ましい。
【0024】
これにより、フィルムを確実に溶液中に浸漬させることができるので、例えばフィルムの浸漬が架橋処理の為である場合にもフィルムを確実に架橋させることができる。
【0025】
また、本発明に係る光学フィルムの製造装置は、前記の課題を解決する為に、親水性高分子を含み構成されるフィルムを用いた光学フィルムの製造装置に於いて、前記フィルムを所定方向に搬送する一対の搬送ロールと、前記一対の搬送ロール間に位置し、前記フィルムを該搬送ロール間に掛け渡す際にフィルムを下側から支持する1または2以上の支持部材と、前記フィルムを溶液中に浸漬するための浴と、前記一対の搬送ロール間に位置する押し入れ部材であって、前記フィルムを溶液中に浸漬させる場合にフィルムを下方に押し下げ、弛みなく張った状態でフィルムを浸漬させる押入部材とを有することを特徴とする。
【0026】
前記の構成によれば、フィルムを弛んだ状態で溶液中に浸漬させないので、フィルムが過度に膨潤し軟化するのを防止できる。またフィルムの浸漬は、フィルムを支持した状態の支持部材と押入部材とを下方に移動させることで、簡便に行うことができる。これにより、浴中でフィルムを搬送ロール間に通す等の手作業や、導き紐の使用が不要となり、作業性及び生産効率の向上が図れる。またフィルムを、溶液中に均一に浸漬させることもできる。また、押入部材がフィルムを押下しながら浸漬させるので、フィルムは溶液に向かって下側に凸状となる。その結果、空気溜まりを生じさせることなくフィルムを確実に浸漬させることができる。
【0027】
前記一対の搬送ロールは、前記溶液中に於いて弛みなく張った状態で浸漬されたフィルムを周速差により延伸させることが好ましい。
【0028】
前記の構成によれば、フィルムが過度に膨潤し軟化するのを抑制した状態で、該フィルムを一対の搬送ロールの周速差により延伸するので、破断させることなく、耐熱性及び耐水性に優れた光学フィルムの製造を可能にする。
【0029】
前記一対の搬送ロール間には、前記フィルムのパスラインを調整するガイド部材が設けられており、前記パスラインの調整は、前記ガイド部材が前記浴内に移動し、浴内で前記支持部材または押入部材の少なくとも何れか一方と異なる高さに位置させることにより行うことができる。
【0030】
前記構成によれば、ガイド部材を浴内での支持部材または押入部材の少なくとも何れか一方と異なる高さに位置させることにより、溶液中に浸漬させているフィルムのパスラインや工程距離を自在に調節することが可能になる。
【0031】
前記支持部材、押入部材またはガイド部材のフィルムと接触する面が曲面を有することが好ましい。
【0032】
前記の構成によれば、フィルムと支持部材、押入部材またはガイド部材間の抵抗を軽減して滑らかにフィルムを搬送することができる。
【0033】
また、本発明に係る光学フィルムは、前記の課題を解決する為に、親水性高分子を含み構成されるフィルムを弛みなく張った状態にし、その状態を維持してフィルムを溶液中に浸漬し、該溶液中でフィルムを初期状態の5〜7倍の範囲内で延伸して得られたものであることを特徴とする。
【0034】
前記の光学フィルムは、親水性高分子を含み構成されるフィルムを弛みなく張った状態で溶液に浸漬し、溶液中で延伸して得られたものである。従って、前記構成の光学フィルムは、過度に膨潤し軟化していないことから、耐熱性及び耐水性に優れている。また、フィルムの延伸はその初期状態の5〜7倍になる様に高倍率でなされているので、高透過率、高偏光度の光学フィルムを提供することができる。
【0035】
また、本発明に係る画像表示装置は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の光学フィルムが設けられていることを特徴とする。
【0036】
前記構成の画像表示装置は、高透過率、高偏光度の光学フィルムを備えているので、表示特性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
【0038】
即ち、本発明に係る光学フィルムの製造方法であると、フィルムを弛みなく張った状態で溶液中に浸漬させるので、フィルムが過度に膨潤し軟化して延伸時に破断するのを低減する。その結果、スループットを向上させて、高透過率・高偏光度の光学フィルムを製造することができる。
【0039】
また、本発明に係る光学フィルムの製造装置であると、浴中でフィルムをガイドロールに通すなど従来行っていた手作業や導き紐の使用を不要するので、作業性及び生産効率の向上が図れる。
【0040】
また、本発明に係る光学フィルムであると、耐熱性及び耐水性に優れ、高透過率、高偏光度のものを提供することができる。
【0041】
また、本発明に係る画像表示装置であると、表示特性に優れたものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にする為に拡大または縮小等して図示した部分がある。
【0043】
(光学フィルムの製造方法)
先ず、光学フィルムの製造方法について、偏光板を例にして説明する。本実施の形態に係る光学フィルムの製造方法は、長尺のフィルムの染色工程、架橋工程、延伸工程、乾燥工程等を経て製造した偏光子の両面または片面に、トリアセチルセルロース等の保護フィルムを貼り合わせて偏光板を形成する。
【0044】
前記フィルムとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体系フィルム、これらの部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の高分子フィルムにポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理等ポリエチレン系配向フィルム等が例示できる。特に、後述の染色工程におけるヨウ素または二色性染料の配向性の良さから、ポリビニルアルコール系フィルムを用いるのが一般的である。
【0045】
ポリビニルアルコール系フィルムの材料には、ポリビニルアルコール(例えば、クラレ製のVF−9P75RS等)またはその誘導体が用いられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等があげられる他、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、そのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものがあげられる。ポリビニルアルコールの重合度は2000〜10000程度、好ましくは重合度2000〜5000、ケン化度は80〜100モル%程度のものが一般に用いられる。
【0046】
前記ポリビニルアルコール系フィルム中には、可塑剤等の添加剤を含有することもできる。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。可塑剤の使用量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系樹脂フィルム中20重量%以下とするのが好適である。
【0047】
染色工程は、未延伸または延伸されたフィルムに、二色性材料を吸着配向させる工程である。本工程に於いては、例えば、未延伸のフィルムを水または純水中で延伸した後、延伸したフィルムを染色溶液の入った浴に浸漬する方法、未延伸のフィルムを染色溶液の入った浴に浸漬した後延伸する方法、または未延伸のフィルムを染色溶液の入った浴中で延伸する方法を採用することができる。これらの各方法に於いて、延伸倍率は1.5〜3倍程度が好適である。また、未延伸フィルムを用いる場合、フィルムの厚さは50〜110μm程度のものが用いられる。さらに、延伸後のフィルムの厚さは20〜70μm程度が好適である。尚、延伸は多段階で行ってもよい。
【0048】
二色性材料としては、ヨウ素または二色性染料等が用いられる。これらのうちヨウ素を用いる場合、染色溶液としては、ヨウ素水溶液が一般的である。ヨウ素水溶液としては、ヨウ素の他に、溶解助剤として例えばヨウ化カリウム等によりヨウ素イオンを含有させたものなどが用いられる。ヨウ素濃度は0.01〜0.5重量%程度、好ましくは0.02〜0.4重量%であり、ヨウ化カリウム濃度は0.01〜10重量%程度、さらには0.02〜8重量%で用いるのが好ましい。
【0049】
ヨウ素染色処理にあたり、ヨウ素溶液の温度は、通常20〜50℃程度、好ましくは25〜40℃である。浸漬時間は通常10〜300秒間程度、好ましくは20〜240秒間の範囲である。
【0050】
二色性染料としては、アゾ系、ペリレン系、アントラキノン系の染料が例示できる。これらの染料は混合系染料などがとして用いることができる。尚、これら染料は、例えば特開昭54−76171号公報等に詳しい。
【0051】
架橋工程は、フィルムをホウ酸またはホウ砂の入った溶液中に浸漬して行う。本工程は、延伸工程と共に1回または複数回に分けて行うことで長尺フィルムの耐久性及び安定性を向上することができる。
【0052】
本実施の形態においては、2回に分けて架橋工程を行う場合を例にして説明する。架橋工程を2回に分けると、最初の架橋工程では、染色されたフィルムにある程度架橋させることができ、延伸時のネッキングを極力抑制し、高偏光度で、広幅の偏光子を製造することができる。
【0053】
第1架橋工程は、架橋剤を含む溶液に浸漬することにより行う。これにより、フィルムにある程度の架橋を施すことができる。第1架橋工程の処理温度は、架橋度の点から20〜50℃が好ましく、25〜45℃がさらに好ましい。処理時間は、通常10〜300秒間、好ましくは20〜240秒間程度である。
【0054】
第2架橋工程は、第1架橋工程よりも処理温度を高くして、架橋剤を含む溶液にフィルムを浸漬することにより行う。このとき、フィルムの浸漬は、フィルムを弛みなく張った状態にして行う。これにより、フィルムが過度に膨潤して(例えば、フィルムの初期状態の約3倍以上の膨潤)、軟化し過ぎるのを防止できる。フィルムを弛みなく張った状態にするには、例えば長手方向に引張り力をフィルムに加えればよい。当該引張り力は、フィルム材料、温度、延伸倍率等により適宜設定され得る。
【0055】
第2架橋工程の処理温度は、偏光度の向上の点から50〜80℃が好ましく、55〜70℃がさらに好ましい。処理温度が50℃未満の場合は、フィルムが十分な透過率及び偏光度を有さない場合がある。また、フィルムの膨潤が不十分なため5倍以上の高倍率延伸を行うと破断し易い場合もある。その一方、処理温度が80℃を超える場合は、フィルムが過度に膨潤、溶解して延伸破断する場合がある。処理時間は、通常、10〜800秒間、好ましくは30〜500秒間程度である。また、第2架橋工程の処理温度は、第1架橋工程の処理温度よりも高ければ特に制限はないが、第1架橋工程の処理温度よりも10℃以上、さらには20℃以上高いのが好ましい。
【0056】
また、第2架橋工程ではフィルムの延伸処理も併せて行う。この場合、延伸倍率は初期状態の5〜7倍程度となる様に行うのが好ましく、初期状態の5.5〜6.5倍程度となる様に行うのがより好ましい。フィルムは、染色工程、第1架橋工程、第2架橋工程等の全ての工程で徐々に延伸されており、総延伸倍率が5倍未満の場合は、十分な偏光度が得られない場合がある。その一方、総延伸倍率が7倍を越える場合は、延伸による破断が発生し易くなる。
【0057】
前記架橋剤としては従来公知のものを使用でき、例えば、ホウ酸、ホウ砂、グリオキザール、グルタルアルデヒド等のホウ素化合物等が例示できる。これらは一種類でもよく、二種類以上を併用してもよい。前記架橋剤を含む溶液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解した水溶液が使用できる。前記溶媒としては、例えば水が使用できる。また、さらに水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。
【0058】
前記第1及び第2架橋工程で使用する架橋溶液に於ける架橋剤の濃度は、特に制限されないが、通常、前記溶媒(例えば、水)100質量%に対して、2〜10質量%の範囲が好ましい。前記架橋剤がホウ酸の場合、ホウ酸濃度は、それぞれの処理温度におけるホウ酸飽和溶解濃度の30%以上、さらには40%以上に調整するのが好ましい。例えば、ホウ酸水溶液の処理温度が70℃の場合には、ホウ酸水溶液のホウ酸飽和溶解濃度は、13%であるため、ホウ酸水溶液のホウ酸濃度はその30%にあたる、3.9%よりも高くなるように調整するのが好ましい。ホウ酸水溶液のホウ酸濃度を前記範囲に調整すると、フィルムの膨潤度を調整できる点で有利である。特に、第1架橋工程よりも第2架橋工程のホウ酸濃度を高く設定するのが第2架橋工程を高温化できる点で好ましい。
【0059】
ホウ酸水溶液等には、ヨウ化カリウムによりヨウ素イオンを含有させることができる。ヨウ化カリウムを含有するホウ酸水溶液等は、着色の少ない偏光子、即ち可視光のほぼ全波長域に亘って吸光度がほぼ一定のいわゆるニュートラルグレーの偏光子を得ることができる。
【0060】
前記第2架橋工程の後、フィルムに対し常法に従って純水により水洗処理、及び乾燥処理を行うことができる。また、ヨウ素イオン含浸処理を施してもよい。これにより、ホウ酸等の析出を防止して外観の良好な偏光子が得られる。ヨウ素イオン含浸処理には、たとえば、ヨウ化カリウム等によりヨウ素イオンを含有させた水溶液を用いる。ヨウ化カリウム濃度は0.5〜10重量%程度、さらには1〜8重量%とするのが好ましい。ヨウ素イオン含浸処理にあたり、その水溶液の温度は、通常15〜60℃程度、好ましくは25〜40℃である。浸漬時間は通常1〜120秒程度、好ましくは3〜90秒間の範囲である。
【0061】
以上の様に、本実施の形態に係る光学フィルムの製造方法によれば、フィルム1を弛んだ状態で溶液中に浸漬させないので、フィルム1が過度に膨潤し軟化するのを防止する。その結果、フィルム1の延伸の際に、破断することなく偏光子を製造することができる。
【0062】
尚、本発明に於いては、第2架橋工程の他に、染色工程、第1架橋工程等の各工程に於いてもフィルムを浸漬させる際に、フィルムを弛みなく張った状態で行ってもよい。また、染色、架橋、延伸等の各工程は、別々に行う必要はなく同時に行っても良い。また、各工程の順番も特に限定されるものではない。更に、架橋工程の他に、延伸工程も2回以上行っても良い。
【0063】
(光学フィルムの製造装置)
本実施の形態に係る光学フィルムの製造装置について説明する。図1は、光学フィルムの製造装置を概略的に表す説明図であって、同図(a)はフィルムを掛け渡した状態を示し、同図(b)はフィルム浸漬の初期の段階を示し、同図(c)はフィルムを浸漬・延伸する状態を示す。
【0064】
図1(a)に示すように、本実施の形態に係る光学フィルムの製造装置は、出口側搬送ロール2と、入口側搬送ロール3と、浴4と、支持部材5と、ガイド部材6と、押入部材7とを有する構成である。
【0065】
出口側搬送ロール2及び入口側搬送ロール3は、図1(a)に示す矢印方向にフィルム1を搬送する。このときフィルム1は、搬送方向と平行な方向に引張り力が加わっており、弛みなく張った状態に維持されている。
【0066】
浴4は、長尺のフィルム1の搬送方向に対し10m以上の大型浴槽である。浴4内には、二色性材料または架橋剤等を含む溶液8が満たされている。
【0067】
支持部材5は、浴4上でフィルム1を下側から支持する。また支持部材5は、回転自在に軸受けしたロール形状をしている。さらに図1(b)、1(c)に示すように、支持部材5は上下方向に移動可能であり、これによりフィルム1を浴4に浸漬する際に支持部材5が妨げとならない様になっている。
【0068】
ガイド部材6は、支持部材5の両側にそれぞれ設けられ、かつ、出口側搬送ロール2と入口側搬送ロール3の間に掛け渡されたフィルム1の上側に位置する様に配置されている。またガイド部材6は、回転自在のロール形状をしている。さらにガイド部材6は、図1(b)、1(c)に示すように上下方向に移動可能であり、これによりフィルム1の浴4内でのパスライン、工程距離を調整することが可能になっている。
【0069】
押入部材7は、フィルム1を挟んで支持部材5と対抗する位置に設けられている。また押入部材7は、回転自在に軸受けしたロール形状をしている。さらに図1(b)に示すように、押入部材7は上下方向に移動可能であり、これによりフィルム1を浴4に浸漬する際にフィルム1を押下することができる。
【0070】
尚、支持部材5、ガイド部材6または押入部材7を上下方向に移動させる方法としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。具体的には、例えばジャッキアップ方式、油圧方式等が例示できる。また、支持部材5、ガイド部材6及び押入部材7は、前記のロール状のものに限定されず、例えば非回転の固定式であってもよい。さらに、支持部材5、ガイド部材6及び押入部材7の形状は特に限定されるものではなく、フィルム1と接触する面が少なくとも曲面であればよい。従って、例えば、横断面半円形、楕円形、扇形等の形状とすることも可能である。これらの形状とすることにより、フィルム1と支持部材5、ガイド部材6または押入部材7との接触面での摩擦抵抗を軽減し、フィルム1を滑らかに搬送することが可能になる。
【0071】
次に、本実施の形態に係る光学フィルムの製造装置の動作について説明する。先ず、図1(a)に示すように、フィルム1を出口側搬送ロール2と入口側搬送ロール3の間に掛け渡す。このときフィルム1は、浴4の外に位置している支持部材5によって支持され、弛みなく張った状態にされている。フィルム1は浴4の溶液8中に浸かることがない。
【0072】
続いて、図1(b)に示すように、押入部材7が弛みなく張った状態のフィルム1を押下しながら浴4の内部まで下方移動する。これにより、フィルム1が溶液8中に浸漬される。このとき支持部材5も浴4の内部まで下方移動する。フィルム1は下側に凸状となる様にして押下されるので、溶液8中に浸漬されたときフィルム1の下側には空気溜まりが形成されない。その結果、フィルム1を確実に溶液8中に浸漬させることができる。
【0073】
さらに、下側に凸状となったフィルム1の先端が溶液8に浸漬を開始し始めた後に、ガイド部材6を押入部材7の下降速度と同じまたはそれ以下の速度で下降させる。ガイド部材6は、それぞれ支持部材5よりもさらに下側に位置するまで下降させる。また、2つのガイド部材6は同じ高さ位置とする。その結果、支持部材5及びガイド部材6は、浴4中で相対的に上下方向で異なる様に位置する。これにより、フィルム1は支持部材5及びガイド部材6を支点として上下方向に交互に屈曲したパスラインを形成し、長時間浸漬させることができる。また、フィルム1を浴4内にできるだけ広範囲に浸漬することが可能になる。
【0074】
尚、フィルム1の浸漬は、下側に凸状となったフィルム1の先端が溶液8に浸漬を開始し始めた後、支持部材5をガイド部材6よりも更に下側に移動させ、且つ押入部材7をガイド部材6よりも上方に位置させることにより、フィルム1のパスラインが浴4中で上下方向に屈曲しないようにしてもよい(図2(a)参照)。また、図2(b)に示す様に、支持部材5及び押入部材7をガイド部材6より下方まで移動させて、フィルム1のパスラインが浴4中でガイド部材6及び押入部材7によって案内されるようにしても良い。
【0075】
浸漬後、出口側搬送ロール2と入口側搬送ロール3との周速差によって、フィルム1を初期状態の5倍から7倍となるまで延伸する。
【0076】
以上の様に、本実施の形態に係る光学フィルムの製造装置によれば、フィルム1を予め出口側搬送ロール2と入口側搬送ロール3に掛け渡した後に浴4中に浸漬させるので、浴4中でフィルム1をガイド部材6等に通すなど従来行っていた手作業や、導き紐の使用が不要となる。また、支持部材5、ガイド部材6及び押入部材7を下降させるだけでフィルム1の浸漬が可能になるので、作業性及び生産効率の向上が図れる。また、本実施の形態に係る光学フィルムの製造装置は、染色、架橋等の各工程に於いて使用可能である。
【0077】
尚、前記の光学フィルムの製造装置に於いては、支持部材5が1つ設けられている場合について説明したが、本発明はその様な構成に限定されるものではなく、複数の支持部材が設けられた構成であってもよい。例えば、2つの支持部材5が設けられた光学フィルムの製造装置について説明すると以下の通りである。図3は、本実施の形態に係る他の光学フィルムの製造装置を概略的に示す説明図であって、同図(a)はフィルムを掛け渡した状態を示し、同図(b)及び(c)はフィルムを延伸する工程を示す。また、図4(a)及び(b)は、フィルムを延伸する他の工程を示す。
【0078】
先ず、図3(a)に示すように、フィルム1を出口側搬送ロール2と入口側搬送ロール3の間に掛け渡す。このときフィルム1は浴4の外に位置している2つの支持部材5によって支持される様にする。フィルム1の浸漬は、押入部材7が弛みなく張った状態のフィルム1を押下しながら浴4の内部まで下降することにより、フィルム1を下側に凸状となる様にして行う。このとき2つの支持部材5も下降させる。
【0079】
フィルム1の浸漬は、例えば図3(b)に示すように、2つの支持部材5がガイド部材6及び押入部材7よりも相対的に高い所に位置し、かつ、ガイド部材6及び押入部材7は同じ高さに位置する様にする。これにより、フィルム1は、支持部材5、ガイド部材6及び押入部材7を支点として上下方向に交互に屈曲したパスラインを形成し、長時間浸漬させることができる。
【0080】
また、図3(c)に示すように、2つのガイド部材6を、最下方にある支持部材5と最上方にある押入部材7との中間に水平となる様に位置させて、ガイド部材6を支点としてフィルム1が屈曲する様に浸漬・延伸をさせてもよい。さらに、図4(a)に示すように、押入部材7を、最下方にある支持部材5と最上方にあるガイド部材6との中間に位置させて、ガイド部材6及び押入部材7を支点としてフィルム1が屈曲する様に浸漬・延伸をさせてもよい。また、図4(b)に示すように、支持部材5を、最下方にあるガイド部材6と最上方にある押入部材7との中間に位置させて、支持部材5及びガイド部材6を支点としてフィルム1が屈曲する様に浸漬・延伸をさせてもよい。
【0081】
(光学フィルム及び画像表示装置)
前記製造方法により得られる偏光子(光学フィルム)は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護層を設けた偏光板とすることができる。透明保護層はポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護層を形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明保護層を形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。
【0082】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面(前記塗布層を設けない面)には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0083】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
【0084】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜50重量部程度であり、5〜25重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0085】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護層とは別体のものとして設けることもできる。
【0086】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。
【0087】
前記偏光板は、前記透明保護フィルムと偏光子を、前記接着剤を用いて貼り合わせることにより製造する。接着剤の塗布は、透明保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常0.05〜5μm程度である。
【0088】
本発明の光学フィルムは、偏光板への実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとしても用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2 や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
【0089】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0090】
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また前記透明保護フィルムに微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の透明保護フィルムは、入射光及びその反射光がそれを透過する際に拡散されて明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護層の表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
【0091】
反射板は前記の偏光板の透明保護フィルムに直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお反射層は、通常、金属からなるので、その反射面が透明保護フィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などより好ましい。
【0092】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0093】
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4 板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0094】
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。上記した位相差板の具体例としては、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドの如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであってよく、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであってもよい。
【0095】
また上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板又は反射型偏光板と位相差板を適宜な組合せで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組合せとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記の如く予め楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
【0096】
視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視角補償位相差板としては、例えば位相差フィルム、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され厚さ方向にも延伸された厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0097】
また良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
【0098】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光子を通して光を入射した場合には、偏光子の偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光子に吸収されてしまい、偏光子を透過してこない。すなわち、用いた偏光子の特性によっても異なるが、およそ50%の光が偏光子に吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光子に吸収されるような偏光方向を有する光を偏光子に入射させずに輝度向上フィルムで一旦反射させ、更にその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光子を通過し得るような偏光方向になった偏光のみを、輝度向上フィルムは透過させて偏光子に供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
【0099】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
【0100】
従って、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を投下するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0101】
可視光領域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。
【0102】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0103】
また、偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層又は3層以上の光学層とを積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
【0104】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0105】
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0106】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0107】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
【0108】
偏光板や光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
【0109】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0110】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0111】
なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やべンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0112】
本発明の偏光板または光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光板または光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0113】
液晶セルの片側又は両側に偏光板または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0114】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0115】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0116】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0117】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0118】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0119】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0120】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1/4 波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0121】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0122】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0123】
(実施例1)
重合度2400、厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを用いて、膨潤、染色、第1架橋、第2架橋、延伸、洗浄、乾燥の各工程を経て、偏光子を作製した。すなわち、30℃の水中で長尺フィルムを浸漬し、さらに初期状態の3倍まで延伸した(膨潤工程)。
【0124】
次に、最終製品である偏光板の透過率が43.5%となる様に、染色溶液を調製した。すなわち、30℃の水にヨウ化カリウム2wt%を添加した後、さらに高濃度ヨウ素溶液を追加して染色溶液を作製した。高濃度ヨウ素溶液は、水:ヨウ化カリウム:ヨウ素を100:20:1の割合で溶解した染色溶液のヨウ素濃度調整用の溶液である。この染色溶液にフィルムを浸漬し、さらに初期状態の4倍まで延伸した(染色工程)。
【0125】
続いて、30℃の水にホウ酸4wt%とヨウ化カリウム2wt%を加えて第1架橋溶液を調製した。この第1架橋溶液にフィルムを浸漬し、さらに初期状態の4.3倍まで延伸した(第1架橋工程)。
【0126】
さらに、50℃の水にホウ酸4wt%とヨウ化カリウム2wt%を加えて第2架橋溶液を調製した。この第2架橋溶液にフィルムを弛みなく張った状態で浸漬し、延伸した(第2架橋工程)。尚、本工程では、前記実施の形態に於いて説明した光学フィルムの製造装置を使用して行った(図1参照)。すなわち、図1(a)に示すのと同様にして、フィルムを出口側搬送ロールと入口側搬送ロールの間に掛け渡し、フィルムが支持部材によって支持され、かつ弛みなく張った状態となる様にした。続いて、図1(b)に示すのと同様にして、押入部材が弛みなく張った状態のフィルムを、下側に凸状となる様にして押下しながら第2架橋溶液中に浸漬させた。また、ガイドロールを押入部材の下降速度と同じ速度で、ガイドロールが支持部材よりもさらに下側に位置するまで下降させた。浸漬後、出口側搬送ロールと入口側搬送ロールとの周速差によって、フィルムを初期状態の6倍となるまで延伸した。
【0127】
第2架橋工程後のフィルムを30℃のヨウ化カリウム4wt%水溶液に浸漬し、さらに初期状態の6.05倍まで延伸した(洗浄工程)。その後、ヨウ化カリウム4wt%水溶液からフィルムを引き上げ、30℃で2分間乾燥した(乾燥工程)。
【0128】
これにより、実施例1に係る光学フィルムを作製した。
【0129】
(実施例2)
本実施例2に於いては、実施例1において使用した第2架橋溶液の温度を50℃から60℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例2に係る光学フィルムを作製した。
【0130】
(実施例3)
本実施例3に於いては、実施例1において使用した第2架橋溶液のホウ酸濃度を4wt%から8wt%に変更しし、その温度を50℃から70℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例3に係る光学フィルムの作製を行った。
【0131】
(実施例4)
本実施例4に於いては、実施例1において使用した第2架橋溶液のホウ酸濃度を4wt%から10wt%に変更し、その温度を50℃から80℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例4に係る光学フィルムの作製を行った。
【0132】
(比較例1)
本比較例1に於いては、第2架橋工程で、長尺フィルムを搬送ロール間に掛け渡す作業の際に、長尺フィルムを浴中に浸けた状態で手作業で浴中のガイドロール間に通して浸漬させた。その他については、実施例1と同様にして比較例1に係る光学フィルムの作製を行った。
【0133】
(比較例2)
本比較例2に於いては、比較例1において使用した第2架橋溶液の温度を50℃から60℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、本比較例2に係る光学フィルムの作製を行った。
【0134】
(比較例3)
本比較例3に於いては、比較例1の第2架橋工程において使用した第2架橋溶液のホウ酸濃度を4wt%から8wt%に変更し、その温度を50℃から70℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、本比較例3に係る光学フィルムの作製を行った。
【0135】
(比較例4)
本比較例4に於いては、比較例1の第2架橋工程において使用した第2架橋溶液のホウ酸濃度を4wt%から10wt%に変更し、その温度を50℃から80℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、本比較例4に係る光学フィルムの作製を行った。
【0136】
(評価)
前記実施例及び比較例に於いてそれぞれ作製した光学フィルムについて延伸破断の有無を調べた。すなわち、光学フィルムの作製を10回実施し、光学フィルムの破断した回数をカウントし、破断率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0137】
【表1】

表1から明らかな様に、同じ温度条件下において光学フィルムの作製を行ったところ、実施例1〜4については破断率が0%ないしは極めて低い値を示した。その一方、比較例1については破断率が80%であり、歩留まりが極めて低かった。さらに、比較例2〜4については破断率が100%であり、光学フィルムを作製することができなかった。これにより、実施例1〜4に係る光学フィルムの製造方法であると顕著な破断防止効果が見られ、生産性及び歩留まりの向上が図れることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の実施の一形態に係る光学フィルムの製造装置を概略的に表す説明図であって、同図(a)はフィルムを掛け渡した状態を示し、同図(b)はフィルム浸漬の初期の段階を示し、同図(c)はフィルムを浸漬・延伸する状態を示す。
【図2】前記光学フィルムの製造装置を概略的に表す説明図であって、同図(a)及び(b)はフィルムの浸漬及び延伸の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る他の光学フィルムの製造装置を概略的に示す説明図であって、同図(a)はフィルムを掛け渡した状態を示し、同図(b)〜(e)はフィルムを延伸する工程を示す。
【図4】前記光学フィルムの製造装置を概略的に示す説明図であって、同図(a)及び(b)はフィルムを延伸する他の工程を示す。
【符号の説明】
【0139】
1 フィルム
2 出口側搬送ロール
3 入口側搬送ロール
4 浴
5 支持部材
6 ガイド部材
7 押入部材
8 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子を含み構成されるフィルムを弛みなく張った状態にして、その状態でフィルムを溶液中に浸漬することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記溶液として架橋剤を含有するものを使用し、前記フィルムを溶液中に浸漬することにより架橋処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムの延伸を前記溶液中に浸漬した状態で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの溶液中での延伸は、初期状態の5〜7倍となる様に行うことを特徴とする請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記フィルムを前記溶液に浸漬する前に、フィルムを初期状態の3〜5倍の範囲内で延伸することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記フィルムは、ポリビニルアルコールフィルムであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤は、ホウ酸またはホウ砂であることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルムを浸漬させる溶液の温度は、50℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルムの浸漬は、該フィルムを溶液に向かって下側に凸状となる様にして、空気溜まりを生じさせることなく行うことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
親水性高分子を含み構成されるフィルムを用いた光学フィルムの製造装置に於いて、
前記フィルムを所定方向に搬送する一対の搬送ロールと、
前記一対の搬送ロール間に位置し、前記フィルムを該搬送ロール間に掛け渡す際にフィルムを下側から支持する1または2以上の支持部材と、
前記フィルムを溶液中に浸漬するための浴と、
前記一対の搬送ロール間に位置する押し入れ部材であって、前記フィルムを溶液中に浸漬させる場合にフィルムを下方に押し下げ、弛みなく張った状態でフィルムを浸漬させる押入部材とを有することを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【請求項11】
前記一対の搬送ロールは、前記溶液中に於いて弛みなく張った状態で浸漬されたフィルムを周速差により延伸させることを特徴とする請求項10に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項12】
前記一対の搬送ロール間には、前記フィルムのパスラインを調整するガイド部材が設けられており、
前記パスラインの調整は、前記ガイド部材が前記浴内に移動し、浴内で前記支持部材または押入部材の少なくとも何れか一方と異なる高さに位置させることにより行うことを特徴とする請求項10または11に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項13】
前記支持部材、押入部材またはガイド部材の長尺フィルムと接触する面が曲面を有することを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項14】
親水性高分子を含み構成されるフィルムを弛みなく張った状態にし、その状態を維持してフィルムを溶液中に浸漬し、該溶液中でフィルムを初期状態の5〜7倍の範囲内で延伸して得られたものであることを特徴とする光学フィルム。
【請求項15】
請求項14に記載の光学フィルムが設けられていることを特徴とする画像表示装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−126722(P2006−126722A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318158(P2004−318158)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】