説明

光学ヘッドおよびディスク再生装置

【課題】 コストの増加および光学ヘッドの大型化の問題を生じることなく、光記録媒体のランドでの反射光によるクロストーク成分を制限してエラーを低減し、再生特性の低下を防止することができる光学ヘッドを提供する。
【解決手段】 対物レンズ26とフォトディテクタ28との間の復路光の光路上に、往路光と復路光とを分離する光分離部30と、入射する光に対して位相補償を付与する位相補償部31とを含んで構成される光学素子24が、位相補償部31が光分離部30よりもフォトディテクタ28寄りになるように設けられることによって、復路光に位相補償を付与することができ、光記録媒体29の再生特性の低下を防止することができる。また、ビームスプリッタなどの光分離素子を用いなくてもよい構成となるので、小型化および低コスト化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ヘッドおよびディスク再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク再生装置には、物理フォーマットの異なる複数種類の光磁気記録媒体、たとえばMD(Mini Disk:登録商標)およびHi−MD(登録商標)の記録および/または再生を行うことができるものがある。この複数種類の光磁気記録媒体の少なくとも再生を行うディスク再生装置に備えられる光学ヘッドには、レーザ光を出射する光源、光源から出射されたレーザ光を光磁気記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズ、光磁気記録媒体の情報記録面で反射された復路光であるレーザ光を分離する光学系および光学系によって分離されたレーザ光を電気信号に変換する信号変換手段が含まれる。
【0003】
MD、Hi−MDなどの光磁気記録媒体には、その情報記録面にグルーブと呼ばれる案内溝が設けられる。光磁気記録媒体を再生する場合、ディスク再生装置は、光源から出射されたレーザ光でグルーブを照射し、該照射された光の反射光によってグルーブに記録された情報を読み出す。近年では、できるだけ多くの情報信号を光磁気記録媒体に記録できるようにトラックピッチが狭められ、光磁気記録媒体の高密度化が進められている。
【0004】
従来用いられるMDのトラックピッチは1.6μmであり、近年開発された高密度記録を実現できるHi−MDのトラックピッチは1.25μmである。またMDのグルーブには、EFM(Eight to Fourteen Modulation)変調されたデータが記録されており、Hi−MDのグルーブには、MDよりも高密度記録用の物理フォーマットであるRLL(1−7)PP(RLL:Run Length Limited、PP:Party preserve/Prohibit rmtr(
Repeated Minimum Transition Runlength))変調されたデータが記録されている。このように物理フォーマットの異なるMDとHi−MDとで互換性を有するような光学ヘッドとして、光源から出射されるレーザ光の波長が780nmであり、対物レンズの開口数NAが0.45であるものが用いられる。
【0005】
このような光学ヘッドを用いる場合、光源から出射されるレーザ光のスポット径がトラックピッチよりも大きくなり、スポット径がグルーブからはみ出すことがある。グルーブからはみ出した光は、グルーブに隣接するランドの表面で反射し、グルーブで反射された光に混入し、共に電気信号に変換される。このような現象はクロストークと呼ばれ、グルーブによる反射光に他の光が混入することによって変換された電気信号、たとえば情報再生信号(RF信号)にエラーを多く発生し、再生特性を低下させる原因となる。
【0006】
そこで、光磁気記録媒体からの反射光の光路中に位相補償素子を装入することによってランドからのクロストーク成分を制限してエラーを低減し、再生特性の低下を防止する光学ヘッドが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0007】
図11は、特許文献1に開示の光学ヘッド1の構成を概略的に示す側面図である。ディスクリート光学系である光学ヘッド1は、レーザ光を出射する半導体レーザ素子2と、半導体レーザ素子2から出射される光を分離するグレーティング3と、入射光を透過または反射するビームスプリッタ4と、入射光を平行光とするコリメートレンズ5と、光磁気記録媒体11にレーザ光を集光する対物レンズ6と、入射光の位相を調節する位相補償素子7と、入射光を分離するウォラストンプリズム8と、入射光に非点収差を生成するシリンドリカルレンズ9と、入射した光を電気信号に変換する受光素子であるフォトディテクタ10とを含んで構成される。
【0008】
光を出射する光源である半導体レーザ素子2は、たとえば、光磁気記録媒体11がMDまたはHi−MDであるときは波長780nmのレーザ光を出射する。半導体レーザ素子2は、不図示の駆動電流を供給する外部回路と接続され、該外部回路からの電流量によってレーザ光の強度を変えることができる。
【0009】
グレーティング3は、半導体レーザ素子2から出射される光を0次回折光と−1次回折光および+1次回折光とに分離する回折格子である。ビームスプリッタ4は、半導体レーザ素子2から出射され光磁気記録媒体11に向かう往路光を透過し、光磁気記録媒体11で反射された復路光を反射する。コリメートレンズ5は、半導体レーザ素子2から出射され入射する拡散光を平行光にして出射する。
【0010】
対物レンズ6は、たとえば開口数NAが0.45であり、入射する光の光軸に平行な方向であるフォーカス方向および光磁気記録媒体11の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に対物レンズ6を移動可能に保持する不図示のアクチュエータに搭載される。対物レンズ6は、半導体レーザ素子2から出射された往路光を光磁気記録媒体11の情報記録面に集光し、光スポットを形成する。
【0011】
位相補償素子7は、入射光である光磁気記録媒体11からの復路光に位相補償を付与してランドからのクロストーク成分を制限してエラーを低減し、良好な再生特性が得られるようにする。なお、位相補償素子7は、光磁気記録媒体11がMDの場合とHi−MDの場合とのいずれにおいても良好な再生特性が得られるような位相補償量であって、MDとHi−MDとで同一の位相補償量を入射光に付与する。
【0012】
ウォラストンプリズム8は、光磁気記録媒体11で反射されてビームスプリッタ4で反射され、位相補償素子7を透過して入射する復路光を分離し、該分離した光を、シリンドリカルレンズ9を透過させて後述のフォトディテクタ10の予め定められる受光領域に入射させる。シリンドリカルレンズ9は、フォトディテクタ10がフォーカスエラー信号(FE信号)を出力できるように、入射光に非点収差を付与する。フォトディテクタ10は、予め定められる受光領域が形成される信号変換手段であり、入射したレーザ光を電気信号に変換し、演算を施すことによって前述のFE信号、RF信号およびトラッキングエラー信号(TE信号)を出力する。
【0013】
半導体レーザ素子2から出射されたレーザ光は、グレーティング3、ビームスプリッタ4およびコリメートレンズ5を透過して対物レンズ6に入射し、光磁気記録媒体11の情報記録面に集光される。また光磁気記録媒体11の情報記録面に集光されたレーザ光は、光磁気記録媒体11の反射面において反射され、対物レンズ6およびコリメートレンズ5を透過してビームスプリッタ4で反射され、位相補償素子7を透過し、ウォラストンプリズム8で分離され、さらにシリンドリカルレンズ9を透過してフォトディテクタ10で受光される。フォトディテクタ10では、受光されたレーザ光が電気信号に変換され、前記各信号が出力される。
【0014】
特許文献1に開示の光学ヘッド1では、光磁気記録媒体11で反射された光の位相が位相補償素子7によって好適に調整され、ランドで反射された光の位相が調整されるので、クロストークが低減され、MDおよびHi−MDの再生特性の低下をいずれの光磁気記録媒体11についても防止することができる。
【0015】
しかしながら特許文献1に開示の光学ヘッド1では、位相補償素子7が装入されることによって、位相補償素子が用いられない光学ヘッドよりもコストが増加し、大型化するという問題が生じる。そこで、コストの増加および光学ヘッドの大型化の問題を生じることなく、光磁気記録媒体のランドでの反射光によるクロストーク成分を制限してエラーを低減し、再生特性の低下を防止することができる光学ヘッドが希求されている。
【0016】
【特許文献1】特開2003−296960号公報(第14−15頁、第16図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような要求に鑑み、本願出願人は先に特願2005−205733号において、液晶素子を用いる位相補償素子を復路光の光軸に対して傾斜して設けることによって、復路光に位相補償および非点収差を付与し、シリンドリカルレンズを用いなくてもよい構成として、復路光に位相補償を付与しながら小型化およびコスト低減を実現する光学ヘッドを提案している。
【0018】
図12は、液晶素子13が傾斜して配置される光学ヘッド12の構成を概略的に示す側面図である。光学ヘッド12は、前述の図11の光学ヘッド1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。光学ヘッド12には、ビームスプリッタ4とフォトディテクタ10との間の復路光の光路上に設けられる液晶素子13と、液晶素子13に電圧を印加する電圧印加手段14と、電圧印加手段14の動作を制御する制御手段15とが備えられる。
【0019】
液晶素子13は、分割領域を有するように構成され、制御手段15に制御される電圧印加手段14から電圧が印加され、液晶素子13を構成する各分割領域における液晶の屈折率を個別に変化させることによって、入射光に適正な位相補償を付与する。光学ヘッド12では、液晶素子13がビームスプリッタ4とフォトディテクタ10との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられるので、液晶素子13への入射光に対して非点収差を生成することができ、シリンドリカルレンズなどの非点収差を生成するための光学部品を設けなくてもよい。このため、部品点数の削減によるコストの低減および光学ヘッドの小型化を実現できるとされる。
【0020】
しかしながら、近年光学ヘッドは、たとえばノート型パーソナルコンピュータ、モバイル光情報記録再生装置などに搭載されて汎用されるので、小型化が必須の開発課題とされている。図12に示す光学ヘッド12についても改良の余地があり、さらなるコストの低減および小型化が求められる。
【0021】
本発明の目的は、コストの増加および光学ヘッドの大型化の問題を生じることなく、光記録媒体のランドでの反射光によるクロストーク成分を制限してエラーを低減し、再生特性の低下を防止することができる光学ヘッドおよびディスク再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、光記録媒体に光を照射して情報を記録および/または再生する光学ヘッドにおいて、
光を出射する光源と、
光源から出射された往路光を光記録媒体に集光する対物レンズと、
光源から出射されて光記録媒体で反射された復路光を受光する受光素子と、
対物レンズと受光素子との間の復路光の光路上に設けられる光学素子とを含み、
光学素子は、
往路光と復路光とを分離する光分離部と、
入射する光に対して位相補償を付与する位相補償部とを備え、
位相補償部が、光分離部よりも受光素子寄りに設けられることを特徴とする光学ヘッドである。
【0023】
また本発明は、光学素子は、
位相補償部の受光素子を臨む側の面が、対物レンズと受光素子との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられることを特徴とする。
【0024】
また本発明は、光学素子と対物レンズとの間に配置され、対物レンズに入射する光の拡散角度を調整する拡散角度調整素子を含むことを特徴とする。
【0025】
また本発明は、位相補償部は、複数の分割された分割領域を有する位相補償ガラスであり、
位相補償ガラスは、
少なくとも1つの分割領域の屈折率が、他の分割領域の屈折率と異なることを特徴とする。
【0026】
また本発明は、位相補償ガラスの複数の分割領域が配列される方向は、
記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行であることを特徴とする。
【0027】
また本発明は、位相補償部は、
複数の分割された分割領域を有する液晶素子と、
液晶素子の複数の分割領域に対してそれぞれ電圧を印加して各分割領域の屈折率を変化させる電圧印加手段と、
液晶素子の分割領域へ入射する光に対して分割領域ごとに与える位相補償量を調整し、液晶素子を透過した光のスポットが該スポット内で一様な位相変化を付与されるように、液晶素子の分割領域に電圧を印加する電圧印加手段の動作を制御する制御手段とを含むことを特徴とする。
【0028】
また本発明は、液晶素子は、
分割領域ごとに透明電極を備えることを特徴とする。
【0029】
また本発明は、液晶素子の複数の分割領域が配列される方向は、記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行であることを特徴とする。
【0030】
また本発明は、光源は、波長が780nm以下のレーザ光を出射し、対物レンズは、開口数NAが0.45以上であることを特徴とする。
【0031】
また本発明は、前記記載の光学ヘッドを備えることを特徴とするディスク再生装置である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、光学ヘッドは、光を出射する光源と、光源から出射された往路光を光記録媒体に集光する対物レンズと、光源から出射されて光記録媒体で反射された復路光を受光する受光素子と、対物レンズと受光素子との間の復路光の光路上に設けられ、位相補償部を有する光学素子とを含んで構成される。このような光学ヘッドでは、光記録媒体で反射された復路光が光学素子の位相補償部に入射することにより入射光に位相補償が付与され、光記録媒体のランドでの反射光によるクロストーク成分を制限してエラーを低減することができるので、再生特性の低下を防止することができる。
【0033】
さらに光学素子は、往路光と復路光とを分離する光分離部と、入射する光に対して位相補償を付与する位相補償部とを含んで構成され、位相補償部が光分離部よりも受光素子寄りに設けられる。このため、往路光と復路光とを分離し、分離した往路光を光記録媒体側に導くとともに復路光を受光素子側に導くビームスプリッタなどの光分離素子を設ける必要がない。ビームスプリッタなどの光分離素子は、光学部品としては大きくコストも高いので、光分離素子を用いなくてもよい構成にすることにより、光学ヘッドの小型化および低コスト化を実現することができる。
【0034】
また本発明によれば、光学素子の位相補償部の受光素子を臨む側の面が、対物レンズと受光素子との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられるので、入射光に対して非点収差を生成することができ、シリンドリカルレンズなどの非点収差を生成するための光学部品が不要となる。このため、部品点数の削減、光学ヘッドのさらなる小型化を実現できる。
【0035】
また本発明によれば、光学素子と対物レンズとの間に配置され、対物レンズに入射する光の拡散角度を調整する拡散角度調整素子を含むので、光学ヘッドの小型化および結合効率の向上を図ることができる。
【0036】
また本発明によれば、位相補償部は複数の分割された分割領域を有する位相補償ガラスであり、位相補償ガラスは、少なくとも1つの分割領域の屈折率が他の分割領域の屈折率と異なる。位相補償ガラスに拡散光が入射するとき、入射光の入射角が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近とで異なり、入射光が位相補償ガラス中を進む距離である光路長が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近とで異なるので、位相補償ガラスを透過することにより付与される位相変化量が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近とで異なって光スポット内で位相変化量にばらつきが生じるけれども、複数の分割された分割領域を有する位相補償ガラスを用いることによって、それぞれの分割領域での屈折率を好適にし、光スポット内での位相変化量を一様にすることができる。
【0037】
また本発明によれば、位相補償ガラスの複数の分割領域が配列される方向は、記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行である。位相補償ガラスに入射する光の光スポットのうち、光スポットの半径方向周縁部の光には情報再生信号が含まれない。したがって光スポットの半径方向において情報再生信号が含まれる部分と含まれない部分との臨界部の入射角は、半径方向に垂直なタンジェンシャル方向における周縁部の入射角よりも小さいので、タンジェンシャル方向に位相補償を付与するよりも、半径方向に位相補償を付与する方が、光スポット内で一様な位相変化をさせるために付与する位相補償量の差違を小さくすることができる。このことから、半径方向について位相補償を付与することが好ましく、分割領域が配列される方向を光記録媒体の半径方向と平行とすることによって、光スポット内において付与する位相補償量の差違を低減し、一層容易に光スポット内の位相変化を一様にすることができる。
【0038】
また本発明によれば、位相補償部は、複数の分割された分割領域を有する液晶素子と、液晶素子の複数の分割領域に対してそれぞれ電圧を印加して各分割領域の屈折率を変化させる電圧印加手段と、液晶素子の分割領域へ入射する光に対して分割領域ごとに与える位相補償量を調整し、液晶素子を透過した光のスポットが該スポット内で一様な位相変化を付与されるように、液晶素子の分割領域に電圧を印加する電圧印加手段の動作を制御する制御手段とを含む。このため、液晶素子に入射する光の入射角に起因する光スポット内での位相変化量の差を低減することができ、光記録媒体の再生特性を一層向上させることができる。さらに、複数種類の光記録媒体の間で互換性を有するディスク再生装置に搭載される際に、該複数種類の光記録媒体のいずれに対しても、最適な位相補償量を付与することができる。
【0039】
また本発明によれば、液晶素子に電圧を印加するための電極として分割領域ごとに備えられる透明電極が用いられるので、光を電極で遮ることによって生じる光強度の低下を防止することができる。
【0040】
また本発明によれば、液晶素子の複数の分割領域が配列される方向は、記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行であるので、上記のように光スポット内で一様な位相変化をさせるために付与する位相補償量の差違を小さくすることができる。
【0041】
また本発明によれば、光源は、波長が780nm以下のレーザ光を出射し、対物レンズは、開口数NAが0.45以上であるので、各種光記録媒体に応じて良好な情報再生信号を得ることができる。
【0042】
また本発明によれば、前記のいずれかに記載の光学ヘッドを備えるので、コストの増加および光学ヘッドの大型化の問題を生じることなく、光記録媒体のランドでの反射光によるクロストーク成分を制限してエラーを低減し、再生特性を向上させることができるディスク再生装置が提供される。なお、ディスク再生装置は、光記録媒体に記録される情報の再生のみを行うものに限定されることなく、光記録媒体への情報の記録および光記録媒体に記録される情報の再生を行うものも含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
図1は、本発明の実施の一形態である光学ヘッド21の構成を簡略化して示す側面図である。光学ヘッド21は、半導体レーザ素子22と、グレーティング23と、光学素子24と、拡散角度調整素子25と、対物レンズ26と、ウォラストンプリズム27と、フォトディテクタ28とを含んで構成される。
【0044】
本実施形態の光学ヘッド21は、光学素子24が、対物レンズ26とフォトディテクタ28との間の復路光の光路上に設けられ、往路光と復路光とを分離する光分離部30と、入射する光に対して位相補償を付与する位相補償部である位相補償ガラス31とを備えることを特徴とする。
【0045】
なお本発明において、「位相補償量」とは、位相補償部が入射光に対して付与する位相変化の量のことであり、「位相変化量」とは、位相補償部によって位相補償量が付与された光の位相の変化量のことである。
【0046】
半導体レーザ素子22は、光を出射する光源である。半導体レーザ素子22は、たとえば、光記録媒体29がMD、Hi−MDなどの光磁気記録媒体またはCD(Compact Disk)などの光記録媒体であるとき、波長が780nmのレーザ光を出射し、光記録媒体29がDVD(Digital Versatile Disk)などの光記録媒体であるとき、波長が630〜690nmのレーザ光を出射し、光記録媒体29がブルーレイディスク(Blu−rayディスク:登録商標)などの光記録媒体であるとき、波長が390〜460nmの青色レーザ光を出射する。半導体レーザ素子22は、不図示の駆動電流を供給する外部回路と接続され、該外部回路からの電流量によってレーザ光の強度を変えることができる。半導体レーザ素子22から出射された光は、グレーティング23に入射する。
【0047】
グレーティング23は、半導体レーザ素子22から出射される光を0次回折光と−1次回折光および+1次回折光とに分離する回折格子である。グレーティング23を透過したレーザ光は、光学素子24に入射する。
【0048】
光学素子24は、往路光と復路光とを分離する光分離部30と、入射する光に対して位相補償を付与する位相補償ガラス31とを備える。光学素子24は、光分離部30と位相補償ガラス31とが一体的に構成される。
【0049】
光分離部30としては、たとえばハーフミラーなどを用いることができる。光分離部30の位相補償ガラス31を臨む側と反対側の面は、半導体レーザ素子22から出射されて光分離部30に入射する往路光の光軸および半導体レーザ素子22から出射され、光記録媒体29で反射されて光分離部30に入射する復路光の光軸に対して傾斜するように設けられる。本実施形態の光分離部30では、半導体レーザ素子22から出射された往路光を反射して対物レンズ26へ導き、半導体レーザ素子22から出射されて光記録媒体29で反射された復路光を透過する。
【0050】
位相補償ガラス31は、光分離部30よりもフォトディテクタ28寄りに設けられる。位相補償ガラス31としては、たとえば、位相補償機能を有する光学ガラス基板などを用いることができる。位相補償ガラス31は、光分離部30で往路光と分離された復路光を透過させ屈折させることによって、復路光に対して位相補償を付与する。この位相補償ガラス31の具体的な構成については後述する。光学素子24に入射した半導体レーザ素子22からの往路光は、光分離部30で反射され、拡散角度調整素子25に入射する。
【0051】
拡散角度調整素子25は、光学素子24と対物レンズ26との間に配置され、対物レンズ26に入射する光の拡散角度を調整する。拡散角度調整素子25としては、たとえば、入射光を平行光とするコリメートレンズ、入射光の拡散角度を変化させるカップリングレンズなどを用いることができる。これらの中でも、光学ヘッド21の出射光光軸方向についての小型化および対物レンズ26フォーカス方向についての小型化が図れるとともに、対物レンズ26からの出射光の強度向上を図ることができるカップリングレンズが特に好ましい。拡散角度調整素子25により拡散角度が調整された光は、対物レンズ26に入射する。
【0052】
対物レンズ26は、半導体レーザ素子22から出射された光を光記録媒体29に集光する。対物レンズ26は、たとえば、光記録媒体29がMD、Hi−MDなどの光磁気記録媒体またはCDなどの光記録媒体であるとき、開口数NAが0.45であるものが用いられる。また、光記録媒体29がDVDなどの光記録媒体であるとき、開口数NAが0.6であるものが用いられ、光記録媒体29がブルーレイディスクなどの光記録媒体であるとき、開口数NAが0.85であるものが用いられる。
【0053】
対物レンズ26は、入射する光の光軸方向であるフォーカス方向および光記録媒体29の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に移動可能な不図示のアクチュエータに保持され、半導体レーザ素子22から出射された往路光を光記録媒体29の情報記録面に集光し、情報記録面上に光スポットを形成する。光記録媒体29に集光された光は、光記録媒体29の情報記録面にて反射されて復路光となり、拡散角度調整素子25を透過し、光学素子24の光分離部30を透過して光学素子24の位相補償ガラス31に入射する。ここで、対物レンズ26により光記録媒体29に集光された光について説明する。
【0054】
図2は、光記録媒体29の情報記録面に光スポット41が形成される様子を示す概略平面図である。光記録媒体29の情報記録面には、情報再生信号が記録される案内溝状のグルーブ42が形成される。なお、図2において示す3次元X−Y−Z軸について以下のように定義する。記録または再生状態にある光記録媒体29の情報記録面に垂直な方向(フォーカス方向)をX軸方向、記録または再生状態にある光記録媒体29の半径方向(トラッキング方向)をY軸方向、光記録媒体29のグルーブ42が延びる方向であって、トラッキング方向と直交する方向(タンジェンシャル方向)をZ軸方向とする。このX−Y−Zの3軸方向の定義は、本明細書を通じて共通に用いられる。
【0055】
光記録媒体29に記録されている情報を再生する場合、光学ヘッド21は、半導体レーザ素子22から出射されたレーザ光の光スポット41でグルーブ42の内部を照射し、該照射されたレーザ光の反射光によってグルーブ42に記録された情報を読み出す。
【0056】
光記録媒体29がMDの場合、トラックピッチ43は1.6μmであり、高密度記録が実現されるHi−MDの場合、トラックピッチ43は1.25μmである。光学ヘッド21によって光記録媒体29に対する情報の記録または再生を行うとき、半導体レーザ素子22から出射され光記録媒体29に照射されるレーザ光の光スポットは、たとえば直径1.6μmであり、このような場合光スポット41がグルーブ42からはみ出してしまう。
【0057】
グルーブ42からはみ出した部分の光スポット領域41aの光は、グルーブ42に隣接するランド44の表面で反射して、グルーブ42で反射される光に混入する。このような現象はクロストークと呼ばれ、グルーブ42で反射される光に他の光が混入することによって、該光を受光する後述のフォトディテクタ28で変換された電気信号、たとえば情報再生信号(RF信号)にエラーを多く発生し、再生特性を低下させる原因となる。
【0058】
本実施形態の光学ヘッド21の光学素子24には、このような再生特性の低下を防止するために、復路光に位相補償を付与することによってランド44からのクロストーク成分を制限し、エラーを低減する位相補償部である位相補償ガラス31が備えられる。以下、位相補償ガラス31の構成について説明する。
【0059】
図3は、位相補償ガラス31の構成を概略的に示す平面図である。位相補償ガラス31は、平面から見た形状が矩形の平板状部材であり、Z軸方向に延びる分割線51,52によって複数(本実施形態においては3つ)の分割領域31a,31b,31cに分割され、複数の分割領域31a,31b,31cが配列される方向が、記録または再生状態にある光記録媒体29の半径方向であるY軸方向に平行であることを特徴とする。また、本実施形態においては、位相補償ガラス31の複数の分割領域31a,31b,31cの屈折率がそれぞれ異なり、それぞれの分割領域に入射して位相補償が付与される光の位相変化が、光スポット内で一様となるように、分割領域31a,31b,31cの屈折率が設定される。
【0060】
ここで、入射光が入射する面内において屈折率が一様な位相補償ガラスに拡散光が入射するときに生じる問題について説明する。このような位相補償ガラスに光が入射するとき、入射光の入射角が異なると、該入射光が位相補償ガラス中を進む距離である光路長が異なるので、位相補償ガラスを透過した光の位相変化量が異なってしまう。このような位相変化量の変動は、入射角が異なる複数の光について問題となるだけでなく、入射光が拡散光である場合、光スポットの光軸付近の光と、光スポットの光軸を中心として両側の周縁部付近の光との間でも問題となる。
【0061】
すなわち、位相補償ガラスに拡散光が入射するとき、入射光の入射角が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近とで異なるので、入射光が位相補償ガラス中を進む距離である光路長が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近との間で異なる。また、光路長が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近との間で異なると、位相補償ガラスを透過することにより付与される位相変化量が光スポットの光軸付近と光スポットの周縁部付近との間で異なる。このため、入射光が入射する面内において屈折率が一様な位相補償ガラスを用いると、光スポット周縁部付近の光の偏光状態が直線偏光から楕円偏光へと推移し、光スポット内で位相変化量にばらつきが生じる。
【0062】
このような問題に対して、本実施形態の位相補償ガラス31は、複数の分割された分割領域31a,31b,31cを有し、それぞれの分割領域に入射して位相補償が付与される光の位相変化が、光スポット内で一様となるように、分割領域31a,31b,31cの屈折率がそれぞれ設定されるので、位相補償ガラス31により位相補償が付与された光の該光スポット内での位相変化量を一様にすることができる。
【0063】
また位相補償ガラス31は、直線偏光に調整された光の偏光軸が、記録または再生状態にある光記録媒体29の半径方向であるY軸方向と平行になるように位相変化を付与することが好ましい。以下その理由について説明する。
【0064】
位相補償ガラス31は、前述の図2で示すように、グルーブ42に隣接するランド44の表面で反射された光によるクロストーク成分を制限するために用いられる。ここで、グルーブ42の情報再生信号を得るとき、光スポット41について見てみると、Z軸方向については光スポット41の周縁部までグルーブ42に記録される情報再生信号が含まれる。一方Y軸方向について見てみると、光スポット41の周縁部付近である光スポット領域41aはランド44に照射され、情報再生信号が含まれない。すなわち、光スポット41をY軸方向について見てみると、情報再生信号は光スポット41の中心付近にのみ存在する。
【0065】
ここで、位相とは波であるので、反射光の位相をY軸方向の波であるP波と、Z軸方向の波であるS波とに分割して考える。光記録媒体29がMDである場合、光記録媒体29からの反射光の位相はP波、S波ともにほぼそろった状態(S−P=0°)となっている。しかしながら光記録媒体29がHi−MDである場合、光記録媒体29からの反射光は、P波がS波よりもδだけ遅れた状態(S−P=δ)となっている。
【0066】
位相補償ガラス31によって位相補償を付与することによりδ=0°とできたとき、光記録媒体29がHi−MDであるときでも最適な再生特性を得ることができる。このようにδ=0°とする方法は2つあり、Z軸方向の波であるS波をδだけ遅らせる方法と、Y軸方向の波であるP波をδだけ進ませる方法、すなわちY軸方向の波であるP波を2π−δだけ遅らせる方法とがある。
【0067】
前述のように、Z軸方向については光スポット41の周縁部にまでグルーブ42に記録される情報再生信号が含まれる。したがって、Z軸方向の波であるS波をδだけ遅らせる方法では、位相補償ガラス31に入射する周縁部の光についても位相変化を付与する必要があり、本実施形態の光学ヘッド21に備えられる位相補償ガラス31を用いても光スポット内における位相変化量の差がわずかに生じる。
【0068】
一方Y軸方向については、光スポット41の周縁部にグルーブ42に記録される情報再生信号が含まれない。したがって、Y軸方向の波であるP波をδだけ進ませる方法では、位相補償ガラス31に入射する光の周縁部については情報再生信号が含まれないので、光スポット内における位相変化量の差がわずかに生じても、光スポットのY軸方向において情報再生信号が含まれる部分と含まれない部分との臨界部の入射角は、光スポット周縁部の入射角よりも小さく、得られる情報再生信号としてはほとんど位相変化量の差のないものとなる。
【0069】
上記のように、光スポット41のY軸方向において情報再生信号が含まれる部分と含まれない部分との臨界部の入射角は、Y軸方向に垂直なZ軸方向における周縁部の入射角よりも小さい。したがって、Z軸方向に位相変化を付与するよりも、Y軸方向に位相変化を付与する方が、光スポット内で一様な位相変化をさせるために付与する位相補償量の差違が小さくなる。このことから、光記録媒体29のY軸方向について位相変化を付与することが好ましく、位相補償ガラス31の分割領域31a,31b,31cが配列される方向を光記録媒体29のY軸方向に平行とすることによって、光スポット内において付与する位相補償量の差違を低減し、一層容易に光スポットの位相変化を一様にすることができる。
【0070】
さらに、本実施形態の光学素子24は、位相補償ガラス31のフォトディテクタ28を臨む側の面が、対物レンズ26とフォトディテクタ28との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられる。このことによって、位相補償ガラス31への入射光である光記録媒体29からの復路光に対して非点収差を生成することができ、シリンドリカルレンズなどの非点収差を生成するための光学部品を用いなくてもよい構成となるので、部品点数の削減および光学ヘッドのさらなる小型化を実現できる。
【0071】
なお、位相補償ガラス31のフォトディテクタ28を臨む側の面が傾斜することによって、拡散光である入射光のスポットの一方の周縁部における光と、一方の周縁部と反対側の他方の周縁部における光との間で光路長の差が大きくなる恐れがあるけれども、本実施形態のように位相補償ガラス31が分割され、各分割領域において好適な屈折率が設定されることによって、位相補償ガラス31が傾斜して配置されても光スポット内において位相変化量に差が発生するのを防止することができる。
【0072】
以上のような位相補償ガラス31を透過した光記録媒体29からの復路光は、位相補償ガラス31により位相変化および非点収差が付与され、ウォラストンプリズム27に入射する。
【0073】
ウォラストンプリズム27は、光記録媒体29で反射され光学素子24の光分離部30で分離されるとともに位相補償部31で位相補償および非点収差が付与される光記録媒体29からの復路光をフォトディテクタ28に入射させる異方性素子であり、光学素子24とフォトディテクタ28との間に配置される。ウォラストンプリズム27は、入射する光を、たとえば、フォーカスエラー信号(FE信号)およびトラッキングエラー信号(TE信号)を検出するためのサーボ系に使用されるメイン信号と、MO(Magneto-Optical)信号(RF信号)に使用されるI,J信号とに分離し、フォトディテクタ28に設けられる各信号の受光領域に入射させる。
【0074】
フォトディテクタ28は、光記録媒体29から反射された復路光を受光する受光素子である。フォトディテクタ28は、入射したレーザ光を電気信号に変換し、演算を施すことによってFE信号、TE信号およびRF信号を出力する。フォトディテクタ28には、複数の受光領域が設けられる。
【0075】
図4は、フォトディテクタ28に設けられる複数の受光領域の構成を概略的に示す平面図である。フォトディテクタ28には、たとえば、4個の等面積の矩形に4分割される受光領域が2行2列の行列状に配置される受光領域A,B,C,Dと、受光領域A〜Dの両側にY軸方向に配置される矩形状の2つの受光領域E,Fと、受光領域A〜Dの両側にZ軸方向に配置される矩形状の2つの受光領域I,Jとが備えられる。受光領域A〜Dでは、グレーティング23によって分離された0次回折光であって、位相補償ガラス31により非点収差が生成されるとともにウォラストンプリズム27によって分離されたメイン信号に使用される光を受光し、非点収差法によりFE信号を出力する。受光領域E,Fでは、グレーティング23によって分離された−1次回折光および+1次回折光であって、ウォラストンプリズム27によって分離されたメイン信号に使用される光を受光し、TE信号を検出する。受光領域I,Jでは、グレーティング23によって分離された0次回折光であって、ウォラストンプリズム27によって分離されたI,J信号に使用される光を受光し、RF信号を検出する。
【0076】
フォトディテクタ28では、各受光領域A〜Jで復路光を受光し、下記式に示すように各電気信号を出力する。なお、下記式中において、各受光領域から検出される信号が表す値を、各受光領域を表すアルファベットの頭に「S」を付して表す。
FE信号=(SA+SC)−(SB+SD)
TE信号=SE−SF
RF信号=SI−SJ
【0077】
以下光学ヘッド21の動作について説明する。半導体レーザ素子22から出射されたレーザ光は、グレーティング23を通過して0次回折光、+1次回折光および−1次回折光に分離され、光学素子24の光分離部30で反射される。光分離部30で反射されたレーザ光は、拡散角度調整素子25を通って拡がり角度が変化し、対物レンズ26によって光記録媒体29の情報記録面に集光される。光記録媒体29に集光された光は、光記録媒体29によって反射され、対物レンズ26および拡散角度調整素子25を透過し、光学素子24の光分離部30を透過して光分離部30と一体的に形成される位相補償ガラス31に入射する。
【0078】
位相補償ガラス31は複数に分割され、複数に分割された各領域における屈折率が異なるので、光の入射角に起因する光スポット内における位相変化量の差を低減することができるような位相補償量が入射する復路光に付与される。また、位相補償ガラス31のフォトディテクタ28を臨む側の面が、対物レンズ26とフォトディテクタ28との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられることによって、位相補償ガラス31への入射光に対して非点収差が付与される。
【0079】
位相補償ガラス31によって位相変化および非点収差が付与された復路光は、ウォラストンプリズム27によって分離されてフォトディテクタ28の所定の位置に受光される。フォトディテクタ28は、受光したレーザ光を用いてFE信号、TE信号およびRF信号の各電気信号を出力する。
【0080】
以上のように、本実施形態の光学ヘッド21は、位相補償ガラス31が、屈折率の異なる複数の領域31a,31b,31cに分割されることによって、入射光に付与する位相補償量を領域ごとに変化させることができるので、光スポット内における位相変化量の差を低減することができ、光記録媒体29の再生特性を向上させることができる。さらに、位相補償ガラス31が傾斜して設けられることにより、非点収差を生成するためのシリンドリカルレンズなどの光学部品が不要となるので、光学ヘッドの小型化を実現することができる。
【0081】
このような光学ヘッド21は、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。本実施形態の光学ヘッド21では、位相補償ガラス31として分割線51,52を境界として屈折率が異なるものを用いるけれども、これに限定されることなく、たとえば、位相補償ガラスの面内において屈折率が変化する屈折率勾配ガラスなどを用いてもよい。
【0082】
図5は、本発明の実施の第2形態の光学ヘッド61の構成を簡略化して示す断面図である。本実施形態の光学ヘッド61は、前述の第1実施形態の光学ヘッド21に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0083】
第2の実施形態の光学ヘッド61は、光学素子62の位相補償部として、複数の分割された分割領域を有する液晶素子63と、液晶素子63の複数の分割領域に対してそれぞれ電圧を印加して各分割領域の屈折率を変化させる電圧印加手段64と、液晶素子63の分割領域へ入射する光に対して分割領域ごとに与える位相補償量を調整し、液晶素子63を透過した光のスポットが該スポット内で一様な位相変化を付与されるように、液晶素子63の分割領域に電圧を印加する電圧印加手段64の動作を制御する制御手段65とを含むものが用いられることを特徴とする。
【0084】
図6は、液晶素子63の構成を概略的に示す平面図である。液晶素子63は、光学素子62の光分離部30と一体的に設けられ、光分離部30よりもフォトディテクタ28寄りに配置される。また本実施形態の光学ヘッド61に備えられる液晶素子63は、平面から見た形状が矩形の平板状部材であり、Z軸方向に延びる分割線53,54によって複数(本実施形態においては3つ)に分割される分割領域63a,63b,63cを有する。また複数の分割領域63a,63b,63cが配列される方向は、記録または再生状態にある光記録媒体29の半径方向であるY軸方向に平行である。
【0085】
液晶素子63は、分割領域63a,63b,63cごとに電圧印加手段64に接続される透明電極と前記電圧印加手段64に接続される透明電極に対向するように配置されるもう1つの透明電極とからなる1対の透明電極および1対の透明電極の間に配置される液晶層を備える。このような液晶層および透明電極は、ガラス基板によって封止される。
【0086】
液晶素子63には、分割領域63a,63b,63cのそれぞれに備えられる透明電極を介して電圧印加手段64から電圧が印加される。したがって、電圧印加手段64は、分割領域63a,63b,63cにそれぞれ異なる電圧値を印加させることができるように構成される。液晶素子63の複数の分割領域に備えられる電極として透明電極を用いることによって光が電極で遮られることがないので、液晶素子63を通過する光の強度低下を防止することができる。液晶素子63では、1対の透明電極間に電圧が印加されることによって液晶層の屈折率を変化させ、該屈折率変化によって入射光に位相変化を付与する。
【0087】
電圧印加手段64によって電圧が印加される液晶素子63は、入射光に位相補償を付与し、入射光をほぼ直線偏光に偏光させる。分割領域を有する液晶素子63の各透明電極に電圧を印加する電圧印加手段は、不図示の電源と、PWM(Pulse Width Modulation)とを備える。電圧印加手段64の動作は、制御手段65によって制御される。
【0088】
制御手段65は、液晶素子63の分割領域63a,63b,63cへ入射する光に対して分割領域ごとに与える位相補償量を調整し、液晶素子63を透過した光のスポットが該スポット内で一様な位相変化を付与されるように、液晶素子63の分割領域63a,63b,63cに電圧を印加する電圧印加手段64の動作を制御する。液晶素子63に入射する拡散光の光スポット内において位相変化量に差が生じる理由およびその位相変化量の差を低減するように位相補償量を調整する方法については後述する。
【0089】
また制御手段65は、光スポット内における位相変化量の差を低減するように電圧印加手段64の動作を制御するだけでなく、光記録媒体29の種類に応じて液晶素子63の位相補償量を調整するように電圧印加手段64の動作を制御する。制御手段65は、光記録媒体29の種類を検出し、検出される光記録媒体29の種類に応じて、液晶素子63の各分割領域に予め定められる電圧を印加する。光記録媒体29の種類に応じて、液晶素子63の各分割領域に印加されるべき電圧、すなわち入射光に対して適正位相補償を付与することのできる屈折率とする電圧は、予め試験をして光記録媒体29の種類ごとに求めておき、テーブルデータなどの形で制御手段65に付設されるメモリ65aに格納しておくことができる。メモリ65aは、たとえば、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)などで構成される。
【0090】
制御手段65は、フォトディテクタ28によって得られる電気信号、たとえば、光記録媒体29として光磁気記録媒体を用いる場合、該光磁気記録媒体に予め記録されるTOC(Table Of Contents)情報などに基づいて、光記録媒体29の種類の判別を行う。
【0091】
さらに、液晶素子63には温度変化によってその光学的特性などの諸特性が変化するという問題があるけれども、本実施形態の光学ヘッド61では、液晶素子63付近に液晶素子63の表面温度を測定する不図示の温度センサが設けられ、予めメモリ65aに格納される温度と電圧とを関連づけたテーブルデータを用いて、液晶素子63の温度変化に伴う諸特性の変化を補正する。
【0092】
位相補償部として液晶素子を用いる場合、位相補償部として位相補償ガラスを用いる場合よりも、液晶素子に入射する拡散光の光スポット内における位相変化量の差がさらに大きくなる。以下液晶素子を用いる場合において拡散光の光スポット内における位相変化量の差がさらに大きくなる理由および本実施形態の液晶素子63によってその位相変化量の差を低減するように位相補償量を調整する方法について説明する。
【0093】
液晶素子に光が入射するとき、液晶素子を構成する液晶の屈折率異方性により、入射光の入射角が変化すると液晶の入射光に対する屈折率が変化する。また、液晶素子に入射する光の入射角が変化すると、液晶素子に印加する電圧が同一であり液晶素子自体の屈折特性が同一であるにも関わらず、入射角の変化に伴う当該光の屈折率変化によって、光の位相変化量が所望量とは異なるものとなる。
【0094】
このような位相変化量の変動は、入射角が異なる複数の光の間について問題となるだけでなく、入射する光が拡散光である場合、光スポットの光軸付近の光と、光スポットの光軸を中心として両側の周縁部付近の光との間でも問題となる。また、入射角が異なることによって光スポット中心付近での液晶の屈折率と光スポット周縁部付近での液晶の屈折率とに差が生じると、その屈折率の差によって光スポット中心付近での位相変化量と光スポット周縁部付近での位相変化量とに差が生じる。
【0095】
ここで、光スポット中心の位相変化量と光スポット周縁部の位相変化量との差は、下記式(1)のように表される。ただし、「屈折率の差」とは、液晶素子に印加する電圧が同一であり液晶素子自体の屈折特性が同一であるにも関わらず、入射角の変化に伴って生じる光スポット中心の屈折率と光スポット周縁部の屈折率との差である。
(位相変化量の差)
=(屈折率の差)×(液晶の厚み)×360/(入射光の波長) …(1)
【0096】
式(1)に示すように、同一の光スポット内において位相変化量にばらつきが生じると、光スポット中心付近における最適な位相補償量を拡散光である入射光の光スポット全体に付与したとしても、該入射光の光スポット周縁部における位相変化量は最適な値とは異なる位相変化量となってしまう。
【0097】
図7は、分割されていない液晶素子に入射した拡散光に対して光軸中心において最適な位相補償量を入射光全体に一様に付与したときの光スポット半径方向の各位置における位相変化量を示す図である。液晶素子は、拡散光である入射光の光軸中心(光スポット中心)において最適な位相補償量を、光スポット全体に付与する。このことによって、入射光の光スポット中心付近においては、入射光をほぼ直線偏光にすることができる。
【0098】
しかしながら前述のように、光スポット中心と同様の最適な位相補償量を光スポット全体に付与したとしても、拡散光である入射光の光スポット周縁部においては入射光の入射角度が光軸中心部分とは異なるので、最適な位相変化量から外れた値となる。このように光スポット周縁部での位相変化量が最適値から外れると、光スポット周縁部付近の光は、偏光状態が直線偏光から楕円偏光へと推移してしまう。
【0099】
このような光の入射角の違いに起因する屈折率の差によって生じる光スポット内における位相変化量のばらつきを低減するために、本実施形態の光学ヘッド61では、前述の図6に示すような複数に分割された分割領域63a,63b,63cを有する液晶素子63が用いられる。図6に示すような分割領域63a,63b,63cを有する液晶素子63は、分割領域63a,63b,63cのそれぞれに備えられる透明電極に印加される電圧値を異なる値とすることによって、各分割領域63a,63b,63cごとに入射光に対する屈折率を異なる値に設定することができ、それぞれの分割領域63a,63b,63cに入射する光に付与する位相補償量を変えることができる。
【0100】
図8は、図6に示す複数の分割領域を有する液晶素子63が拡散光である入射光に対して付与する位相補償量を示す図である。図8では、各分割領域63a,63b,63cで入射光に付与する位相補償量を実線で示す。なお図8中、二点鎖線で示すライン71は、前述の複数に分割されない液晶素子に入射する拡散光に対して光スポット内で一様な位相補償量を付与したときの位相変化量を示す。
【0101】
分割領域63aでは、実際の位相変化量が最適値よりも小さくなる光スポット周縁部の一端側に、光スポット中心付近に付与する位相補償量よりも大きい位相補償量を付与する。分割領域63bでは、実際の位相変化量と最適な位相変化量との差が小さいので、位相補償量を変化させない。分割領域63cでは、実際の位相変化量が最適値よりも大きくなる光スポット周縁部の他端側に、光スポット中心付近に付与する位相補償量よりも小さい位相補償量を付与する。
【0102】
なお前述のように、液晶素子63の分割領域63a,63b,63cでの位相補償量を変化させるために分割領域63a,63b,63cに備えられる透明電極に印加される電圧値は、たとえば、予め試験などによって求められ、制御手段65に備わるメモリ65aに格納される値などを用いることができる。
【0103】
図9は、複数に分割された分割領域を有する液晶素子63に入射する拡散光に対して、分割領域ごとに異なる位相補償量を付与したときの位相変化量72を示す図である。液晶素子63を複数に分割し、光スポットの中心付近と周縁部付近とで電圧印加手段64からの印加電圧値を変化させて位相補償量を変えることによって、光スポット内における位相変化量の最適値との差を小さくでき、光スポット内における位相変化量の差を低減することができる。
【0104】
図10は、複数に分割されない液晶素子によって位相補償が付与された場合における光記録媒体29再生時のエラーレートと、複数の分割領域を有する液晶素子63によって位相補償が付与された場合における光記録媒体29再生時のエラーレートとを示す図である。複数に分割されない液晶素子によって位相補償が付与された場合(従来)におけるエラーレートを白丸で、本実施形態の光学ヘッド61に備えられる複数の分割領域を有する液晶素子63によって位相補償が付与された場合(本発明)におけるエラーレートを黒丸で示す。なお、複数の分割領域を有する液晶素子63を用いる場合の横軸で示す位相補償量は、分割領域63bで付与した位相補償量を示す。なおエラーレートは、単位時間に発生したエラーの数を測定したものである。エラーレートの測定には光記録媒体29としてMDを使用した。
【0105】
図10に示すように、位相補償量が一定の範囲(約90°〜120°)以外の大部分においては、複数の分割領域を有する液晶素子63によって位相変化が付与された場合におけるエラーレートが、複数に分割されない液晶素子によって位相変化が付与された場合におけるエラーレートよりも大幅に低減された。このように液晶素子を複数に分割して光スポットの中心付近と周縁部付近とで液晶素子へ印加する電圧値を適宜選択することによって、各分割領域における位相補償量を変化させて光スポット内における位相変化量の差を低減することができ、光記録媒体29の再生特性を向上させることができることが判る。
【0106】
さらに、位相補償部として液晶素子63を用いることによって、電圧印加手段64からの印加電圧に応じて入射光に付与する位相補償量を再生ごとに最適な値とすることができる。このため、本実施形態の光学ヘッド61を、たとえばMDとHi−MDとの間で互換性を有するディスク再生装置に搭載する場合、MDの再生時と、Hi−MDの再生時とのそれぞれにおいて、いずれにも最適な位相補償量を付与することができる。
【0107】
以上のような本発明の光学ヘッド21,61を備えるディスク再生装置は、光の入射角に起因する光スポット内における位相変化量の差を低減することができ、光記録媒体29の再生特性をさらに向上させることができる。なお、本発明の光学ヘッド21,61を備えるディスク再生装置には、光記録媒体29に記録される情報の再生のみを行うものに限定されることなく、光記録媒体29への情報の記録および光記録媒体29に記録される情報の再生の両方を行うものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の一形態である光学ヘッド21の構成を簡略化して示す側面図である。
【図2】光記録媒体29の情報記録面に光スポット41が形成される様子を示す概略平面図である。
【図3】位相補償ガラス31の構成を概略的に示す平面図である。
【図4】フォトディテクタ28に設けられる複数の受光領域の構成を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の実施の第2形態の光学ヘッド61の構成を簡略化して示す断面図である。
【図6】液晶素子63の構成を概略的に示す平面図である。
【図7】分割されていない液晶素子に入射した拡散光に対して光軸中心において最適な位相補償量を入射光全体に一様に付与したときの光スポット半径方向の各位置における位相変化量を示す図である。
【図8】図6に示す複数の分割領域を有する液晶素子63が拡散光である入射光に対して付与する位相補償量を示す図である。
【図9】複数に分割された分割領域を有する液晶素子63に入射する拡散光に対して、分割領域ごとに異なる位相補償量を付与したときの位相変化量72を示す図である。
【図10】複数に分割されない液晶素子によって位相補償が付与された場合における光記録媒体29再生時のエラーレートと、複数の分割領域を有する液晶素子63によって位相補償が付与された場合における光記録媒体29再生時のエラーレートとを示す図である。
【図11】特許文献1に開示の光学ヘッド1の構成を概略的に示す側面図である。
【図12】液晶素子13が傾斜して配置される光学ヘッド12の構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0109】
21,61 光学ヘッド
22 半導体レーザ素子
23 グレーティング
24,62 光学素子
25 拡散角度調整素子
26 対物レンズ
27 ウォラストンプリズム
28 フォトディテクタ
29 光記録媒体
30 光分離部
31 位相補償ガラス
63 液晶素子
64 電圧印加手段
65 制御手段
65a メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光記録媒体に光を照射して情報を記録および/または再生する光学ヘッドにおいて、
光を出射する光源と、
光源から出射された往路光を光記録媒体に集光する対物レンズと、
光源から出射されて光記録媒体で反射された復路光を受光する受光素子と、
対物レンズと受光素子との間の復路光の光路上に設けられる光学素子とを含み、
光学素子は、
往路光と復路光とを分離する光分離部と、
入射する光に対して位相補償を付与する位相補償部とを備え、
位相補償部が、光分離部よりも受光素子寄りに設けられることを特徴とする光学ヘッド。
【請求項2】
光学素子は、
位相補償部の受光素子を臨む側の面が、対物レンズと受光素子との間の復路光の光軸に対して傾斜して設けられることを特徴とする請求項1記載の光学ヘッド。
【請求項3】
光学素子と対物レンズとの間に配置され、対物レンズに入射する光の拡散角度を調整する拡散角度調整素子を含むことを特徴とする請求項1または2記載の光学ヘッド。
【請求項4】
位相補償部は、複数の分割された分割領域を有する位相補償ガラスであり、
位相補償ガラスは、
少なくとも1つの分割領域の屈折率が、他の分割領域の屈折率と異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光学ヘッド。
【請求項5】
位相補償ガラスの複数の分割領域が配列される方向は、
記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行であることを特徴とする請求項4記載の光学ヘッド。
【請求項6】
位相補償部は、
複数の分割された分割領域を有する液晶素子と、
液晶素子の複数の分割領域に対してそれぞれ電圧を印加して各分割領域の屈折率を変化させる電圧印加手段と、
液晶素子の分割領域へ入射する光に対して分割領域ごとに与える位相補償量を調整し、液晶素子を透過した光のスポットが該スポット内で一様な位相変化を付与されるように、液晶素子の分割領域に電圧を印加する電圧印加手段の動作を制御する制御手段とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光学ヘッド。
【請求項7】
液晶素子は、
分割領域ごとに透明電極を備えることを特徴とする請求項6記載の光学ヘッド。
【請求項8】
液晶素子の複数の分割領域が配列される方向は、記録または再生状態にある光記録媒体の半径方向に平行であることを特徴とする請求項6または7記載の光学ヘッド。
【請求項9】
光源は、波長が780nm以下のレーザ光を出射し、対物レンズは、開口数NAが0.45以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の光学ヘッド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の光学ヘッドを備えることを特徴とするディスク再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−42202(P2007−42202A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224602(P2005−224602)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】