説明

光学式信号出力装置の信号処理装置及び光学式変位検出装置

【課題】位置検出の分解能及び安定性を高いレベルで維持しつつ絶対位置の検出感度の向上及び検出範囲の拡大を簡便な構成で実現することが可能な光学式信号出力装置の信号処理装置及びそのような信号処理装置を備えた光学式変位検出装置を提供すること。
【解決手段】スケール上に形成され、変位検出対象物の変位方向Xに沿って実効反射率が漸増する光学特性を有するグレートラックに光ビームを照射して得られる第1の複数の周期信号と変位検出対象物の変位方向Xに沿って実効反射率が漸減する光学特性を有するグレートラックに光ビームを照射して得られる第2の複数の周期信号との間の位相差Δを調整すべく、位相調整部701の位相シフト部701aによって第2の複数の周期信号の位相をΔだけシフトさせる。そして、第1の複数の周期信号と位相シフト後の第2の複数の周期信号とを用いて変位検出対象物の絶対変位及び相対変位を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出対象物の変位を検出するための光学式信号出力装置からの信号を処理する信号処理装置、及びこのような信号処理装置を備えて変位検出対象物の変位を検出する光学式変位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変位検出対象物の変位を検出する光学式変位検出装置に関連する技術として、例えば特許文献1には次のような技術が開示されている。すなわち、特許文献1においては、被検体に一定の間隔でスリット又は反射面を列設し、このスリット又は反射面に由来する光パルスを検出する光電式検出装置であって、スリット又は反射面の径方向の長さを時計回りに順次大きくなるように構成している。
【0003】
図22は、特許文献1の光電式検出装置(光学式変位検出装置)の光学式信号出力装置に係る部分を示す側面図である。図22に示すように、光源1から出射した光ビームBは、被検体であるスケール4のスリットに照射され、その透過光が光検出器2によって検出される。
【0004】
また、図23は、特許文献1の光電式検出装置におけるスケール4の平面図である。図23に示すように、スケール4に設けられているスリットの径方向の長さは、図23において矢印で示されている回転方向に対し、基準位置A又はBを基準に一定の間隔で増大又は減少(図は増大の例を示している)させられている。
【0005】
さらに、図24は、特許文献1の光電式検出装置における光検出器の出力信号を示す図である。図24に示すグラフでは、横軸に被検体の変位(回転角)を取り、縦軸に光検出器2の出力を取っている。スケール4が反時計周りに回転すると、スリットの開口長さが減少する。この場合、図24に示すように光検出器からの出力信号は、振幅が徐々に減少するような特性となる。このような特性を有する出力信号を信号処理装置において適切に演算することにより、被検体の回転速度を検出することができる。また、振幅の変化を検出することによりスケール4の回転方向を検出することができる。
【0006】
なお、特許文献1には明記されてないが、上述した構成においては、回転変位に対する出力信号の振幅成分の大きさを予め調べておくことにより、出力信号の振幅成分の大きさを測定すれば、基準位置からのスケール4の回転角の絶対位置を検出することもできる。このようにして、特許文献1に開示されている光電式検出装置では、被検体の動きに伴って変化する検出信号の振幅に基づいて、被検体の運動方向や絶対位置を検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭48−78959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、絶対位置の検出感度を向上させるために或いは絶対位置の検出範囲を拡げるために、スリット等の開口長さを小さくする場合を考える。この場合には、スリット等の開口長さの最小値を小さくする程、出力信号の振幅が減少する。したがって、光検出器2からの出力信号におけるノイズ成分が相対的に大きくなってしまい、結果として、スリットの開口長さが小さい箇所では検出性能(分解能、安定性)が低下してしまう。
【0009】
さらに言えば、特許文献1に開示されている構成により絶対位置を検出する場合には、回転変位に対する光検出器2の出力信号の振幅特性を予め調べておく必要がある。ここで、回転変位に対する出力信号の振幅の特性は、例えば周囲環境、センサの取り付けガタ、経時変化、さらにはスケール上の欠陥等に起因して変化する。このため、その検出精度は極めて低いと考えられる。
【0010】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、位置検出の分解能及び安定性を高いレベルで維持しつつ絶対位置の検出感度の向上及び検出範囲の拡大を簡便な構成で実現することが可能な光学式信号出力装置の信号処理装置及びそのような信号処理装置を備えた光学式変位検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様の光学式信号出力装置の信号処理装置は、変位検出対象物に連結された光学式信号出力装置から出力され前記変位検出対象物の所定方向の変位に伴って振幅が漸増する複数の第1の周期信号と前記光学式信号出力装置から出力され前記変位検出対象物の前記所定方向の変位に伴って振幅が漸減する複数の第2の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせる位相シフト部と、前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とに対して所定演算を行うことにより、前記変位検出対象物の変位を求める信号処理部と、を具備することを特徴とする。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の第2の態様の光学式変位検出装置は、第1のトラックパターンと第2のトラックパターンとが変位検出対象物の変位方向に平行な方向が長手方向となるように形成されるスケールと、前記スケールに対して光ビームを照射する光源と、前記光源から射出された光ビームを前記第1のトラックパターンを介して検出することで前記変位検出対象物の所定方向の変位に伴って振幅が漸増する複数の第1の周期信号を生成する第1の光検出器及び前記光源から射出された光ビームを前記第2のトラックパターンを介して検出することで前記変位検出対象物の前記所定方向の変位に伴って振幅が漸減する複数の第2の周期信号を生成する第2の光検出器を有するセンサヘッドと、を具備し、前記第1のトラックパターン、前記第2のトラックパターン、前記第1の光検出器、前記第2の光検出器、及び前記光源はそれぞれ前記第1の光検出器による検出と前記第2の光検出器による検出とが関連付けて実行されるように配置されている光学式信号出力装置と、前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせる位相シフト部と、前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とに対して所定演算を行うことにより、前記変位検出対象物の変位を求める信号処理部と、を具備する信号処理装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置検出の分解能及び安定性を高いレベルで維持しつつ絶対位置の検出感度の向上及び検出範囲の拡大を簡便な構成で実現することが可能な光学式信号出力装置の信号処理装置及びそのような信号処理装置を備えた光学式変位検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学式変位検出装置の構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す光学式変位検出装置を線分A−A’で切断したときの断面図である。
【図3】第1の光検出器に形成された受光面とこの受光面に形成される光学イメージとの関係の一例を示す図である。
【図4】光検出器の4群の受光素子アレイの出力信号の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る信号処理装置の概念的な構成を示す図である。
【図6】位相シフト部の具体的な回路構成例を示す図である。
【図7】位相シフト部の変形例の回路構成を示す図である。
【図8】信号処理装置の第1の具体的な構成例を示す図である。
【図9】同相ノイズ除去部の出力特性の一例を示す図である。
【図10】振幅成分Vpp1、Vpp2の特性の一例を示す図である。
【図11】(Vpp1+Vpp2)及び(Vpp1−Vpp2)の特性の一例を示す図である。
【図12】(Vpp1+Vpp2)と(Vpp1−Vpp2)との比の特性を示す図である。
【図13】同相合成部の出力特性の一例を示す図である。
【図14】信号処理装置の第2の具体的な構成例を示す図である。
【図15】リサージュ生成回路で生成されるリサージュ図形の一例を示した図である。
【図16】リサージュ図形による相対変位演算について説明するための図である。
【図17】位相調整部の第1の変形例としての構成を示す図である。
【図18】位相調整部の第2の変形例としての構成を示す図である。
【図19】位相調整部の第3の変形例としての構成を示す図である。
【図20】位相調整部の第4の変形例としての構成を示す図である。
【図21】位相調整を行わないで信号加算を行う変形例の構成を示す図である。
【図22】従来例の光電式検出装置の光学式信号出力装置に係る部分を示す側面図である。
【図23】従来例の光電式検出装置におけるスケールの平面図である。
【図24】従来例の光電式検出装置における光検出器の出力信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光学式変位検出装置の構成を示す正面図である。図2は、図1に示す光学式変位検出装置を線分A−A’で切断したときの断面図である。
【0016】
本発明の一実施形態に係る光学式変位検出装置について説明する前に、後述するスケールに形成されるトラックパターンに係る用語の定義を行う。まず、変位検出対象物の変位方向に沿った所定区間において実効反射率、実効透過率、回折効率の何れかが漸増又は漸減する光学パターンを「グレースケールパターン」と定義する。また、変位検出対象物の変位方向に対して実効反射率、実効透過率、回折効率の何れかが周期的に変化する光学パターンを「エンコードパターン」と定義する。また、エンコードパターンとグレースケールパターンとを重畳してなる光学特性を有するパターンを「変調コードパターン」と定義する。さらに、グレースケールパターンと変調コードパターンの何れかで構成されるトラックを「グレートラック」と定義する。
【0017】
以下、図1及び図2を参照して光学式変位検出装置の構成について説明する。図1に示すように、光学式変位検出装置10は、センサヘッド30及びスケール50を含む光学式信号出力装置と、信号処理装置70とを有している。ここで、センサヘッド30とスケール50とは、一方が所定方向に変位可能な変位検出対象物に連結され、他方が基準面に連結されている。本実施形態においては、変位検出対象物の変位方向を図1に示すx軸に沿った方向(X方向)とする。勿論、変位検出対象物の変位方向を図1に示すx軸と直交するy軸に沿った方向やz軸に沿った方向としても良い。さらには、変位検出対象物の変位方向をx軸、y軸、z軸回りの回転方向としても良い。
【0018】
以下、光学式信号出力装置の構成について説明する。図1に示すように、光学式信号出力装置のセンサヘッド30は、光源31と、第1の光検出器32と、第2の光検出器33とを有している。そして、図2に示すように、センサヘッド30の受光面(第1の光検出器32及び第2の光検出器33が設けられている面)とスケール50とは対向するように且つ平行に配置されている。
【0019】
光源31は、光源(例えばレーザダイオード)とスリット31aとを備え、光源からの光ビームを、スリット31aを介してスケール50に向けて照射する。本実施形態における光源31は、図2に示すように、スリット31aを介して2方向に光ビームを照射可能になされている。図2では一方の光ビームを参照符号61、他方の光ビームを参照符号62で示している。
【0020】
第1の光検出器32はスケール50に向けて出射されスケール50で反射された光ビーム61を電気信号に変換するための複数の受光素子(例えばフォトダイオード)を有してなる受光素子アレイが4群形成された受光面を有している。また、第2の光検出器33はスケール50に向けて出射されスケール50で反射された光ビーム62を電気信号に変換するための複数の受光素子を有してなる受光素子アレイが4群形成された受光面を有している。ここで、各群の受光素子アレイを構成する受光素子は、スケール50からの反射光によって第1の光検出器32、第2の光検出器33のそれぞれに形成される光学イメージ(回折模様)の空間周期と同一の空間周期で形成されている。
【0021】
図3は、第1の光検出器32に形成された受光面とこの受光面に形成される光学イメージとの関係の一例を示す図である。なお、第2の光検出器33についても以下の第1の光検出器32に関する説明と同様の説明が成立する。
【0022】
詳細は後述するが、光源31から出射された光ビーム61はスケール50において反射され、この反射光が第1の光検出器32の受光面に入射する。そして、第1の光検出器32の受光面上において、例えば図3に示すような空間周期piを持った光学イメージ80が形成される。上述したように、第1の光検出器32には、4群の受光素子アレイ321、322、323、324が、光学イメージ80の空間周期piに相当するピッチで形成されており、受光素子アレイ321、322、323、324同士は、空間周期方向に互いにpi/4だけずらせられて配置されている。そして、受光素子アレイ321の各受光素子は出力端子VA1から信号を出力し、受光素子アレイ322の各受光素子は出力端子VB1から信号を出力し、受光素子アレイ323は出力端子VAB1から信号を出力し、受光素子アレイ324は出力端子VBB1から信号を出力するようになされている。
【0023】
このような構成において、受光面上に空間周期piを持って形成された光学イメージ80に対し、受光素子アレイ321、322、323、324は1/4周期ずつずれた空間位相差を持って光を検出する。したがって、第1の光検出器32の各受光素子アレイの出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1は電気角で90度(すなわち1/4周期)ずつずれた周期信号となる。
【0024】
スケール50は、変位対象物の変位方向(図1の例ではX方向)が長手方向となるように形成されている。そして、スケール50のセンサヘッド30と対向する側の面には、第1のトラックパターンの一例としてのグレートラック51と、第2のトラックパターンの一例としてのグレートラック52とが形成されている。
【0025】
ここで、図1に示すグレートラック51、52は例えば変調コードパターンのみで構成されているものである。そして、グレートラック51の変調コードパターンにおいては、図1のX方向に沿って空間周期ps毎に実効反射率が漸増するように複数の異なる実効反射率を有するエンコードパターン53が形成されている。また、グレートラック52の変調コードパターンにおいては、図1のX方向に沿って空間周期ps毎に実効反射率が漸減するように複数の異なる実効反射率を有するエンコードパターン53が形成されている。このようにして、グレートラック51とグレートラック52とを構成することにより、グレートラック51を構成する変調コードパターンとグレートラック52を構成する変調コードパターンとは実効反射率が鏡面反転した光学特性を有するものとなる。
【0026】
次に、光学式信号出力装置の動作について説明する。なお、本実施形態においては、第1の光検出器32及び第2の光検出器33の受光面に形成される光学イメージの生成原理に種々の生成原理を適用することが可能である。ここでは、典型的な例として3重格子構成による検出原理を適用する例を説明する。
【0027】
まず、図2に示すように、光源31とスケール50上のエンコードパターン53との距離をZ1とし、スケール50上のエンコードパターンと第1の光検出器32の受光面及び第2の光検出器33の受光面との距離をZ2とする。また、光源31に設けられたスリット31aのX方向におけるピッチをpoとする。
【0028】
光源31に設けられたピッチpoのスリット31aを経て、スケール50上のあるエンコードパターン53に光ビーム61、62が照射されると、これらの光ビーム61、62はエンコードパターン53によって反射される。これにより第1の光検出器32、第2の光検出器33の受光面上に空間周期piの周期的な光学イメージが形成される。この場合、piと、poと、psと、Z1と、Z2とは以下の関係を満たす。
pi=ps・(Z1+Z2)/Z1 …(式1)
po=ps・(Z1+Z2)/Z2 …(式2)
なお、第1の光検出器32、第2の光検出器33の受光面上に、空間周期piの周期的な光学パターンが明瞭に形成されるためには、pi、ps、po、Z1、Z2及び光源1の光波長λを、3重格子構成による光学イメージの形成条件に合致させるように構成する必要がある。しかしながら、本実施形態においては、上述したように、光学イメージの生成原理は3重格子構成による光学イメージの結像原理に限定されるものではなく、他の結像原理を用いることもできる。したがって、pi、ps、po、Z1、Z2、及び光源31の光波長λの詳細な決定手法については説明を省略する。
【0029】
上述したように、第1の光検出器32と第2の光検出器33には、受光素子アレイが光学パターンの空間周期piに相当するピッチで4群形成されており、各群は、空間周期方向に互いにpi/4だけずらせられて配置されている。このため、図3で示したように、受光面上に空間周期piを持って形成された光学イメージに対し、各群の受光素子アレイは1/4周期ずつずれた空間位相差を持って光を検出する。したがって、第1の光検出器32の各受光素子アレイの出力信号(第1の周期信号)VA1、VB1、VAB1、VBB1は電気角で90度ずつずれた周期信号となる。同様に、第2の光検出器33の受光素子アレイの出力信号(第2の周期信号)VA2、VB2、VAB2、VBB2も電気角で90度ずつずれた周期信号となる。
【0030】
ところで、上述したように、グレートラック51を構成する変調コードパターンは、変位検出対象物の変位方向に沿って実効反射率が漸増する光学特性を有するようにエンコードパターン53が形成されて構成されている。また、グレートラック52を構成する変調コードパターンは、変位検出対象物の変位方向に沿って実効反射率が漸減する光学特性を有するようにエンコードパターン53が形成されて構成されている。このため、変位検出対象物がX方向にpsだけ変位すると、光源31からの光ビーム61、62がpsだけずれた位置のエンコードパターン53に照射される。そして、psだけずれた位置のエンコードパターン53からの反射光に基づく光学イメージが第1の光検出器32、第2の光検出器33の受光面上に形成される。このため、第1の光検出器32の各群の受光素子アレイからの出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1は振幅が増加する。一方、第2の光検出器33の各群の受光素子アレイからの出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2は振幅が減少する。
【0031】
すなわち、変位検出対象物がX方向にpsだけ変位する毎に、第1の光検出器32の各群の受光素子アレイの出力端子VA1、VB1、VAB1、VBB1からは90度(すなわち1/4周期)ずつの位相差を有し且つ振幅が漸増する特性を有する周期信号VA1、VB1、VAB1、VBB1が出力され、第2の光検出器33の各群の受光素子アレイの出力端子VA2、VB2、VAB2、VBB2からは90度(すなわち1/4周期)ずつの位相差を有し且つ振幅が漸減する特性を有する周期信号VA2、VB2、VAB2、VBB2が出力される。
【0032】
図4(a)に第1の光検出器32の4群の受光素子アレイの出力信号の一例を示し、また、図4(b)に第2の光検出器33の4群の受光素子アレイの出力信号の一例を示す。図4(a)及び図4(b)に示すように、実際の受光素子アレイの出力信号は、光源31やスケール50の光学的配置に大きく影響される直流(DC成分)を含むものである。図4(a)において出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1がそれぞれ有するDC成分をVDC1で、また、図4(b)において出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2がそれぞれ有するDC成分をVDC2で示している。図4(a)に示すように、VDC1は、変位検出対象物の変位に従ってそのレベルが漸増(単調増加)する特性を有している。また、図4(b)に示すように、VDC2は、変位検出対象物の変位に従ってそのレベルが漸減(単調減少)する特性を有している。
【0033】
以上が光学式信号出力装置の構成及び動作である。ここで、グレートラック51、52の構成は、図1に示した構成に限定されるものではない。例えば、図1のグレートラック51、52の構成は、光源31から出射された光ビーム61、62のスケール50からの反射光を第1の光検出器32及び第2の光検出器33で検出する反射型の光学式信号出力装置の場合の構成例を示している。これに対し、光源31からスケール50に対して出射された光ビーム61、62の透過光を第1の光検出器32及び第2の光検出器33で検出する透過型の光学式信号出力装置の場合には、グレートラック51の変調コードパターンとグレートラック52の変調コードパターンとには実効透過率が鏡面反転するように光学特性を持たせる。この他、本実施形態においては、スケール50に照射した光ビーム61、62の反射光、透過光、又は回折光により第1の光検出器32又は第2の光検出器33の受光面上に形成される光学イメージの空間振幅又は総光量が変調される各種のグレートラックの構成を適用可能である。
【0034】
また、上述した例においては、光源31に、ピッチpoのスリット31aを設ける例を示している。しかしながら、このような構成は、3重格子構成による光学イメージの結像原理の利用を想定した場合の構成である。したがって、他の結像原理を利用する場合には、スリット31aは必ずしも必須の構成要件ではない。
【0035】
次に、信号処理装置70について説明する。まず、信号処理装置70における信号処理の概念について説明する。図5は、本実施形態に係る信号処理装置70の概念的な構成を示す図である。
【0036】
なお、図5においては、第1の光検出器32からの出力信号として互いにφ(図の例では90度(すなわち1/4周期))位相の異なる出力信号VA1、VB1のみが信号処理装置70に入力され、第2の光検出器33からの出力信号として90度(すなわち1/4周期)位相の異なる出力信号VA2、VB2のみが信号処理装置70に入力されるように図示している。これは説明を簡略化するためである。図5に示した出力信号VA1、VB1、VA2、VB2は、変位検出対象物の変位検出に必要且つ十分な信号である。これらの信号に加えて出力信号VAB1、VBB1、VAB2、VBB2を信号処理装置70に入力することにより、同相ノイズの除去等を行うことが可能となる。
【0037】
また、図4(a)で示したように出力信号VA1、VB1は変位に従って振幅とDC成分とが漸増する特性を有し、図4(b)で示したように出力信号VA2、VB2は変位に従って振幅とDC成分が漸減する特性を有するものである。しかしながら、説明を簡単にするため、図5においては、信号VA1、VB1、VA2、VB2の振幅及びDC成分が変位によらずに一定であるように図示している。図4(a)、図4(b)に示した出力信号に対する位相調整部701の動作は、以下に説明する図5に示した出力信号に対する位相調整部701の動作と殆ど変わらない。
【0038】
図5に示すように、信号処理装置70は、位相調整部701と、絶対変位演算部702と、相対変位演算部703とを主に有している。
【0039】
位相調整部701は、1つ以上の位相シフト部を有する。ここで、位相シフト部は、同一の光検出器から出力される一群の周期信号の位相を同位相分だけ一斉にシフトさせるものである。本例において、位相シフト部は、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2との少なくとも一方の位相を、第1の光検出器32の出力信号と第2の光検出器33の出力信号との位相差Δだけシフトさせる。なお、図5における位相調整部701は、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2の位相をΔだけシフトさせる位相シフト部701aを有している例である。
【0040】
図1で示した光学式信号出力装置では、スケール50に2列のグレートラックが形成されている。このように、第1の光検出器32及び第2の光検出器33がそれぞれ別のグレートラックを介して光ビームの反射光を受光する構成となっている場合、センサヘッド30とスケール50との間の配置のずれにより、第1の光検出器32の出力信号VA1と第2の光検出器33の出力信号VA2との間、及び第1の光検出器32の出力信号VB1と第2の光検出器33の出力信号VB2の間にはそれぞれ位相ずれΔが生じている可能性が高い。なお、図1の例では、さらに第1の光検出器32の出力信号VAB1と第2の光検出器33の出力信号VAB2との間、第1の光検出器32の出力信号VBB1と第2の光検出器33の出力信号VBB2の間にもそれぞれ位相ずれΔが生じることになる。
【0041】
光検出器の出力信号のようなアナログの周期信号に対する振幅や位相の検出処理は、そのための処理回路に対する負担が大きい。ここで、複数の光検出器の出力信号を加算したり減算したりすることで得られる信号の振幅や位相を検出するようにすれば、複数の光検出器の出力信号を1つ分の光検出器の出力信号にまとめることができる。この場合、その後の位置検出の処理を簡便にすることができる。
【0042】
位相ずれのないアナログ周期信号同士であれば、アナログ周期信号の振幅や位相の検出を行ってから加減算をしても、アナログ周期信号の加減算の前に振幅や位相の検出を行っても同じ結果が得られる。これに対し、位相ずれのあるアナログ周期信号同士を加減算してしまうと、その後の振幅や位相の検出の際に所望の振幅や位相が得られなくなることがある。また、加減算前のアナログ周期信号の振幅が光検出器毎にばらばらに変化すると、加減算後の信号の変位に対する周期性が失われてしまう。この場合、変位の検出結果に誤差を生じることとなる。
【0043】
以上のような複数の光検出器の間の出力信号の位相を機械的に一致させることは困難である。機械的な位相調整をしない場合又は機械的な位相調整で除去できない位相ずれをなくしたい場合には、電気的な位相調整が必要となる。このような電気的な位相調整を位相調整部701の位相シフト部701aにおいて行う。
【0044】
第2の光検出器33の位相調整は、例えば、互いにφ(図の例では90度)の位相差を有する出力信号VA2及びVB2と以下に示す3角関数の(式3)とを用いて、もとの位相からΔだけ位相のずれた信号VA2’、VB2’を生成することによって行う。
【数1】

【0045】
なお、(式3)におけるa、bは係数である。また、Aは変位検出対象物の変位に対応している。また、(式3)の演算を行うための条件として、第1の光検出器32の出力信号の振幅はそれぞれ等しく、また、第2の光検出器33の出力信号の振幅もそれぞれ等しいものとする。ただし、第1の光検出器32の出力信号の振幅と第2の光検出器33の出力信号の振幅とは必ずしも一致していなくとも良い。
【0046】
(式3)において、a+b=1、且つΔ=tan−1(a/b)を満たすaとbを求める。このようにして求めたsin(A+Δ)がVA2’となる。同様にしてsin(A+Δ)に対して90度位相のずれたcos(A+Δ)を求める。このcos(A+Δ)がVB2’となる。なお、実際のVA2’、VB2’は振幅が「1」ではなく、出力信号VA2、VB2の振幅に応じた振幅を有するものとなる。
【0047】
(式3)のような位相調整を行うための具体的な位相シフト部の回路構成例を図6に示す。図6(a)は0度≦Δ≦90度までの位相差Δに対する位相調整を行う回路構成例である。この回路は、第2の光検出器33からの出力信号の入力端子VA2、VB2、VAB2、VBB2を有している。また、この回路は、入力端子の数に応じた数(図6(a)の例では4つ)の可変抵抗を有しており、これらの可変抵抗は直列に接続されている。そして、入力端子VA2は、ボルテージフォロワ回路等のバッファ回路Bufを介して可変抵抗の接点RA2に接続されている。同様に、入力端子VB2は、バッファ回路Bufを介して可変抵抗の接点RB2に接続されている。また、入力端子VAB2は、バッファ回路Bufを介して可変抵抗の接点RAB2に接続されている。また、入力端子VBB2は、バッファ回路Bufを介して可変抵抗の接点RBB2に接続されている。さらに、各可変抵抗は、端子間の抵抗値が等しくなるよう、トリマ連動されている。
【0048】
図6(a)に示す回路構成において、90度ずつの位相差を有する出力信号VA2=sinA、VB2=cosA、VAB2=−sinA、VBB2=−cosAが入力されたとすると、出力信号VA2、VB2から、以下の(式4)で示すようにして出力信号VA2に対してΔの位相差を有する出力信号VA2’が得られる。また、出力信号VB2’、VAB2’、VBB2’についても同様にして得ることができる。
【数2】

【0049】
なお、(式4)におけるRは接点RA2とスイッチとの間の抵抗値を示し、Rはスイッチと接点RB2との間の抵抗値を示している。そして、R/(R+R)が(式3)におけるaに対応し、R/(R+R)が(式3)におけるbに対応している。
【0050】
図6(a)に示す位相シフト部の回路を複数段組み合わせることで、位相調整範囲を拡げることが出来る。例えば、2段組み合わせることで0度から180度までの調整が可能となる。また、図6(a)に示す位相調整シフト回路への入力を入れ換える入力入れ換え回路、又は出力を入れ換える出力入れ換え回路を、図6(a)に示す位相シフト部の回路と組み合わせて用いることで、0度から360度まで、全ての角度の位相調整が可能となる。
【0051】
ここで、図6(a)に示すように、VAB2’はVA2’に対して位相が180度ずれており、VBB2’はVB2’に対して位相が180度ずれている。これを利用して、図6(a)に示す回路から破線枠で示した部分を削除し、インバータ等によってVA2’、VB2’の位相を180度反転させることでVAB2’、VBB2’をそれぞれ生成するようにしても良い。
【0052】
図6(a)の例では、抵抗を仲介した和信号の生成によって位相シフトを行ったが、オペアンプを用いた回路を用いても良い。具体例の1つを図6(b)に示す。図6(b)の回路において、VA2=sinA、VB2=cosAの信号を入力すると、出力VA2’は以下の(式5)の様になる。
【数3】

【0053】
この図6(b)の例では、R1を可変抵抗としており、R1の値を変化させることで、−90度<Δ≦0度の範囲で位相シフト量を変えることができる。R2も可変抵抗とすれば、Δ=−90度の位相シフト量も実現できる。
【0054】
以上のことから、図6(a)と図6(b)の例では、絶対値で90度の範囲内での位相シフトが可能となる。これらの位相シフト回路を複数組み合わせたり、入出力信号の入れ換えや信号反転回路と組み合わせたりすることで、所望の角度範囲での位相調整が可能な位相調整シフト回路を実現することができる。
【0055】
また、図6(a)、図6(b)に示した回路は抵抗値をアナログ的に変化させる構成である。これに対し、抵抗値をデジタル的に変化させて位相調整を行う構成としても良い。このような場合の回路構成例を図7に示す。図7の構成においては、複数の位相信号の選択肢の中から、最も好ましい位相の信号群を選択する。なお、図7は、0度<Δ≦90度までの位相差Δに対する位相調整を行う回路構成例である。このような図7の構成では、位相調整を自動的に行うことが可能である。
【0056】
以上、図6、図7に示した以外であっても、同一の光検出器から出力される一群の周期信号の位相を位相差Δ分だけ一斉にシフトさせることができる構成であれば、位相シフト部701aとして各種の構成を適用することが可能である。例えば、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の両方の位相をシフトさせることによって位相差Δを無くすような構成としても良い。また、位相のシフトを行う信号を第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2との間で切り替えられるようにしても良い。さらには、位相シフト部701aを演算回路で実現しても良い。
【0057】
絶対変位演算部702は、第1の光検出器32の出力信号と、位相シフト部701aによって位相シフトされた第2の光検出器33の出力信号とに基づいて変位検出対象物の絶対変位を演算する。相対変位演算部703は、第1の光検出器32の出力信号と、位相シフト部701aによって位相シフトされた第2の光検出器33の出力信号とに基づいて変位検出対象物の相対変位を演算する。
【0058】
図8は、信号処理装置70の第1の具体的な構成例を示す図である。図8に示す信号処理装置70は、同相ノイズ除去部704a、704bと、位相調整部701と、振幅成分差動演算部705と、同相合成部706と、絶対変位演算部702と、相対変位演算部703とを有している。なお、振幅成分差動演算部705と、同相合成部706と、絶対変位演算部702と、相対変位演算部703が「信号処理部」の一例として機能する。
【0059】
まず、第1の光検出器32の出力信号、第2の光検出器33の出力信号の前処理に係る構成及び動作について説明する。
同相ノイズ除去部704a、704bは、第1の光検出器32及び第2の光検出器33からの出力信号のうちで、180度(すなわち1/2周期)位相の異なる出力信号の差を演算する。すなわち、同相ノイズ除去部704aにおいては以下の(式6)で示す演算が行われ、同相ノイズ除去部704bにおいては以下の(式7)で示す演算が行われる。
Va1=VA1−VAB1
Vb1=VB1−VBB1 (式6)
Va2=VA2−VAB2
Vb2=VB2−VBB2 (式7)
図9(a)に同相ノイズ除去部704aの出力信号を示し、図9(b)に同相ノイズ除去部704bの出力信号を示す。同相ノイズ除去部704aの動作により、第1の光検出器32の出力信号に含まれるオフセット成分、ノイズ成分、DC成分の影響がキャンセルされる。そして、位相差φ(例では90度)を有する出力信号Va1、Vb1が得られる。また、同相ノイズ除去部704bの動作により、第2の光検出器33の出力信号に含まれるオフセット成分、ノイズ成分、DC成分の影響がキャンセルされる。そして、位相差φ(例では90度)を有する出力信号Va2、Vb2が得られる。
【0060】
なお、ノイズ成分等の影響を考慮しないのであれば、同相ノイズ除去部704a、704bは不要である。また、この場合には光学式信号出力装置からの信号も出力信号VA1、VB1、VA2、VB2だけ入力するようにすれば良い。
【0061】
位相調整部701は、位相シフト部701aを用いて、同相ノイズ除去部704aの出力信号Va1、Vb1と同相ノイズ除去部704bの出力信号Va2、Vb2のうち、少なくとも一方(図8の例では出力信号Va2、Vb2のみ)の位相をΔだけシフトさせる。なお、出力信号Va1、Vb1と出力信号Va2、Vb2との位相差Δ、すなわち第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB2と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2との位相差Δは、例えば信号処理装置70とは別個に設けられた位相差検出回路において検出されるものである。この他、例えば、後述の振幅成分差動演算部705や同相合成部706における信号の加算前後の振幅の変化によっても位相差Δを検出することが可能である。
【0062】
同一の周期を持つ複数の周期信号間の位相差や特定の位相を有する周期信号に対する位相差を検出する具体的な方法としては、例えば、次のようなものがある。オシロスコープ等で取り込んだ波形のピーク等の位相を特定できるポイント間の位相差を検出したり、2つの正弦波信号によって生成されるリサージュ波形の楕円形状を用いて算出したりする。楕円状のリサージュ波形では、2つの信号振幅と楕円の長軸・短軸の座標軸に対する倒れ角から2信号の位相差を算出可能である。また、2つの正弦波信号の一方の位相をシフトさせた後に2信号の和を取る場合に、和信号の振幅が最大、又は最小となる位相シフト量から、元の2信号の位相差を算出することが可能である。この場合の位相シフト量の与え方は、1組の2信号の一方の位相シフト量を180度、又は360度といった範囲内で変化させて行く方法と、複数組の2信号の一方へ、それぞれ値の異なる既知の位相シフト量を与える方法などがある。1組の2信号の一方の位相シフト量を変化させる前者の方法では、所定範囲内を所定ステップでスイープして位相差を検出する方法と、最適化手法の様に徐々に、求める位相差である最適値へ近づいていく方法がある。
【0063】
ここに記載した位相差検出の方法は具体的例として例示したものであり、位相差検出にこれら以外の方法を用いても構わない。
【0064】
振幅成分差動演算部705は、位相調整部701の出力信号Va1、Vb1の振幅成分Vpp1と、位相調整部701の出力信号Va2’、Vb2’の振幅成分Vpp2(出力信号Va2、Vb2の振幅成分と同じ)とを演算する。そして、振幅成分差動演算部705は、振幅成分Vpp1と振幅成分Vpp2との和、及び振幅成分Vpp1と振幅成分Vpp2との差を演算する。
【0065】
ここで、振幅成分Vpp1、Vpp2の特性をそれぞれ図10に示す。上述したように、グレートラック51の変調コードパターンは図1のX方向に沿って実効反射率が漸増するような光学特性を有し、また、グレートラック52の変調コードパターンは図1のX方向に沿って実効反射率が漸減するような光学特性を有している。このため、振幅成分Vpp1は、図10に示すように、変位量xに対して単調増加の特性104を有する。一方、第2の光検出器33から出力される信号の振幅成分Vpp2は、図10に示すように、変位量xに対して単調減少の特性105を有する。なお、図10からも明らかなように、振幅成分Vpp1、Vpp2はそれぞれ(式8)、(式9)に示す関係で定義される。
Vpp1=a・x (式8)
Vpp2=−a・(x−Lgray) (式9)
ここで、Lgrayは、スケール50の実効反射率が漸増又は漸減する所定区間の長さである。また、aは変位検出対象物が単位距離だけ変位した際の振幅成分Vpp1の変化量(すなわち図10に示すVpp1の傾き)である。なお、Vppmaxを所定区間において第1の光検出器32、第2の光検出器33からそれぞれ出力される信号の最大振幅とすると、傾きaは以下の(式10)によって求めることができる。
a=Vppmax/Lgray (式10)
また、Vpp1とVpp2の和、差の演算結果を以下の(式11)、(式12)に示す。
Vpp1+Vpp2=a・Lgray (式11)
Vpp1−Vpp2=2a・x−a・Lgray (式12)
(式11)の特性を図11の特性106で、(式12)の特性を図11の特性107でそれぞれ示す。位相調整部701の動作により、(式11)、(式12)で示す演算を正しく行うことが可能となる。
【0066】
次に、絶対変位演算に係る構成及び動作について説明する。
絶対変位演算部702は、振幅成分差動演算部705で演算された振幅成分の和(Vpp1+Vpp2)と振幅成分の差(Vpp1−Vpp2)とを用いて絶対変位xを算出するための演算を行う。この演算として、絶対変位演算部702においては以下の(式13)で示す演算が行われる。
(Vpp1+Vpp2)/(Vpp1−Vpp2) (式13)
より詳細には、絶対変位xは、(式13)による演算結果を利用した(式14)の演算により算出される。
x=α・(Vpp1−Vpp2)/(Vpp1+Vpp2)+β (式14)
ここで、α(≠0)、βは係数である。なお、絶対変位xを算出するための(式13)から(式14)への変換は極めて容易である。このため、必ずしも(式14)の演算を絶対変位演算部702内で行わなくとも良い。この場合、信号処理装置70のさらに後段に設けられる、図示しないホストコンピュータ等で(式14)による変換を実行すれば良い。
【0067】
また、上述の例では、絶対変位の演算方法として振幅成分Vpp1、Vpp2を用いる例について説明している。本質的には、第1の光検出器32の出力信号と第2の光検出器33の出力信号に基づく逆相となる成分の信号であれば良い。例えば、図4(a)、図4b)におけるDCレベル信号であるVDC1、VDC2を用いて(式11)〜(式14)の演算を行うようにしても良い。
【0068】
なお、(式13)に、(式11)、(式12)の関係を代入すると以下の(式15)、(式16)の関係が得られる。
(Vpp1−Vpp2)/(Vpp1+Vpp2)=2/Lgray・x−1
(式15)
x=Lgray・((Vpp1−Vpp2)/(Vpp1+Vpp2)+1)/2
(式16)
ここで、(式15)に示すように、(Vpp1−Vpp2)/(Vpp1+Vpp2)は、最大振幅Vppmaxや傾きaに依存しない値である。また、Lgrayはスケール50の設計段階で決定される固定値である。このため、光学式変位検出装置10の動作中にVppmaxやaが変動しても(式16)の変位量xは変化しない。
【0069】
また、通常、光学式信号出力装置の経時変化や環境温度の変化により、光源からの出力や光検出器の感度特性等は変化する。また、光源からの出力や光検出器の感度特性が変化していなくとも、センサヘッドやスケールのがたつき等の要因によって光検出器で検出される光量が変化してしまう。一般的には、このような多様な変動要因により、センサヘッドからの出力振幅やその和・差成分は、例えば図10及び図11に示す、実線104で示す特性から破線104’で示す特性、実線105で示す特性から破線105’で示す特性、実線106で示す特性から破線106’で示す特性、実線107で示す特性から破線107’で示す特性、というように大きく変動してしまう。この場合、絶対位置を正確に検出することは困難となる。
【0070】
本実施形態においては、Vpp1とVpp2との和・差を演算した上で、さらにこれらの比を演算することで、(式16)に示すように、変動する成分である傾きaや最大振幅Vppmaxをキャンセルした変位を得ることができる。このようにして非常に安定且つ高精度に絶対変位xを検出することができる。また、(式15)の特性は図12の実線108で示す特性となる。図12に示す特性は、傾きa、最大振幅Vppmaxに依存しないため、傾きaや最大振幅Vppmaxを求めることなく、絶対変位xを演算することが可能である。したがって、絶対変位xを演算するためにセンサヘッドやスケールの初期設定も必要としない。
【0071】
次に、相対変位演算に係る構成及び動作について説明する。
同相合成部706は、位相調整部701からの出力信号Va1、Vb1、Va2’、Vb2’のうちで同位相の信号を加算する。すなわち、同相合成部706においては以下の(式17)で示す演算が行われる。
Va=Va1+Va2’
Vb=Vb1+Vb2’ (式17)
このような同相合成部706からは図13に示すような90度(すなわち1/4周期)の位相差を有する信号Va、Vbが得られる。
【0072】
相対変位演算部703は、同相合成部706により得られた信号Va、Vbの位相角に基づいて変位量を角度情報へ変換し、一つ前の演算処理結果との比較を行うことで、分解能に応じた変位量を算出する。このような処理を行う際に、相対変位演算部703は、直接的に振幅値を演算して角度情報へ変換することで変位量を算出するようにしても良いし、所謂ROMテーブル参照方式によって変位量を算出するようにしても良い。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、光学式信号出力装置に設けられた2つの光検出器から出力される互いに逆相となる信号を用いて変位検出対象物の絶対変位及び相対変位を検出するようにしている。これにより、絶対変位検出及び相対変位検出の何れにおいても分解能及び安定性を高いレベルで維持しつつ絶対位置の検出感度の向上及び検出範囲の拡大を実現することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、2つの光検出器の出力信号を加減算するに先立って少なくとも一方の光検出器からの出力信号の位相を位相差Δだけシフトさせるようにしている。これにより、変位の検出の際の誤差の影響を低減してより安定且つ高精度な変位検出を行うことが可能である。
【0075】
以下、本実施形態の変形例について説明する。
まず、図1においては、光源31を1個のみ図示しているが、光源の数は1個に限られない。すなわち、複数の光源を設けても勿論良い。また、センサヘッドの数も1個に限られない。例えば、グレートラック51、52の各々に対して個別にセンサヘッドを設ける構成としても良い。このように構成する場合には、各々のグレートラックに対して別々の光源を利用できるので、グレートラック間の距離配置に自由度が増す。なお、2つの光源の光量に差がある場合であって変位の検出に高精度が要求される場合には、当該光量の差を補正することが望ましい。
【0076】
また、図14は、信号処理装置70の変形例としての第2の具体的な構成例を示す図である。図14に示す信号処理装置70は、同相ノイズ除去部704a、704bと、位相調整部701と、リサージュ生成回路707と、絶対変位演算部702と、内挿回路708a、708bと、相対変位演算部703とを有している。この図14の構成はリサージュ図形に基づいて変位検出対象物の絶対変位及び相対変位を検出する構成である。
【0077】
まず、第1の光検出器32の出力信号、第2の光検出器33の出力信号の前処理に係る構成及び動作について説明する。なお、図14に示す同相ノイズ除去部704a、704bと、位相調整部701の構成及び動作は図8で示した構成及び動作と同一である。したがって、同相ノイズ除去部704a、704bと、位相調整部701の説明については省略する。
【0078】
リサージュ生成回路707は、位相調整部701からの出力信号Va1と出力信号Vb1、出力信号Va2’と出力信号Vb2’とからリサージュ図形をそれぞれ生成する。
【0079】
ここで、位相調整部701からの出力信号Va1を余弦成分とし、出力信号Vb1を正弦成分としてリサージュ図形を生成するとともに、位相調整部701からの出力信号Va2’を余弦成分とし、出力信号Vb2’を正弦成分としてリサージュ図形を生成する場合を考える。図9(a)に示したように、出力信号Va1、Vb1は、変位量に従って振幅が漸増する特性を有している。一方、図9(b)に示したように、出力信号Va2’、Vb2’(図9(b)は、同相ノイズ除去部704bの出力信号Va2、Vb2を示しているが、Va2とVa2’、Vb2とVb2’は位相が異なるのみで振幅は同じである)は、変位量に従って振幅が漸減する特性を有している。このため、出力信号Va1、Vb1に基づいて描画したリサージュ図形は、図15に示すように、半径(原点からの距離)が漸増する渦状の軌跡L1となる。一方、出力信号Va2’、Vb2’に基づいて描画したリサージュ図形は、図15に示すように、半径が漸減する渦状の軌跡L2となる。
【0080】
次に、絶対変位演算に係る構成及び動作について説明する。
図14の構成における絶対変位演算部702は、リサージュ生成回路707において生成されたリサージュ図形L1の半径r1とリサージュ図形L2の半径r2について、以下の(式18)で示す演算を実行することで絶対変位を算出する。
(r1−r2)/(r1+r2) (式18)
この(式18)は(式13)と等価な式である。したがって、実際の絶対変位xは、(式18)による演算結果を利用した(式19)の演算により算出される。
x=α・(r1−r2)/(r1+r2)+β (式19)
位相調整部701の動作により、(式18)、(式19)で示す演算を正しく行うことが可能となる。
【0081】
ここで、(式18)の演算の代わりに、半径r1とr2の差をリサージュ図形の最大半径rmax(上述のVmaxに対応)で除算しても絶対変位を求めることができる。すなわち、以下の(式20)で示す演算を行っても良い。
【0082】
(r1−r2)/rmax (式20)
なお、絶対位置の算出においては、絶対変位演算部702においてラフな絶対位置を求めた後、このラフな絶対位置と相対変位演算部703において求められる相対位置とを併せてより高精度な絶対位置を求めるようにしても良い。さらには、例えばコンパレータ等の簡易な回路素子により信号を検出して比較判定することも可能であり、直接アナログ値に基づいて絶対位置を算出しても勿論良い。
【0083】
次に、相対変位演算に係る構成及び動作について説明する。
図14の構成における内挿回路708aは、リサージュ生成回路707において生成されたリサージュ図形L1の余弦成分、正弦成分を用いて内挿処理を行って角度情報θ1を取得する。また、内挿回路708bは、リサージュ生成回路707において生成されたリサージュ図形L2の余弦成分、正弦成分を用いて内挿処理を行って角度情報θ2を取得する。
【0084】
具体的には、内挿回路708aは、例えばリサージュ生成回路707において生成されたリサージュ図形L1の余弦成分(=Va1)と正弦成分(=Vb1)の値からθ1=tan−1(Vb1/Va1)を演算することで角度情報を取得する。また、内挿回路708bは、例えばリサージュ生成回路707において生成されたリサージュ図形L2の余弦成分(=Va2’)と正弦成分(=Vb2’)の値からθ2=tan−1(Vb2’/Va2’)を演算することで角度情報を取得する。なお、角度情報を細かく演算することで空間周期psよりも細かい変位量を検出することが可能となる。
【0085】
ここで、リサージュ生成回路707からの出力信号をアナログ−デジタル変換してアドレスデータを生成し、各内挿回路に記録されている角度情報のテーブルをアドレスデータに基づいて参照することで内挿処理を行っても勿論良い。さらには、分解能によっては、直接、アナログ値を用いて、コンパレータ等の簡易な回路素子によって信号を検出して変位を求めても勿論良い。
【0086】
相対変位演算部703は、内挿回路708aで演算された角度情報θ1と内挿回路708bで演算された角度情報θ2とを演算処理して誤差成分を排除するとともに、該誤差成分が排除された現在の角度情報と一つ前のタイミングで取得された角度情報との差を演算する。ここで、「誤差成分を排除する」処理とは、単に内挿回路708a、708bから出力される角度情報の平均値をとる処理に限定されない。例えば以下の3つの例で示す処理も「誤差成分を排除する」処理として含めることができる。
(例1) 内挿回路708a、708bで演算される角度情報のうち、原信号の振幅の大きい方に相当する角度情報のみを出力させる。
(例2) 原信号の振幅の大きさに応じて、内挿回路708a、708bからの角度情報を重み付けして平均化処理する。
(例3) 処理開始時に誤差分を除去する。
【0087】
ここで、相対変位演算部703において演算される角度情報の変化量θが空間周期ps内での変位に相当する。θから相対変位xpへは、以下の(式21)に従って変換することができる。
xp=ps・θ/2π (式21)
ところで、実際には、(式21)に示す相対変位xpは、内挿回路708a、708bの何れかからの角度情報だけでも演算可能である。ただし、一方の角度情報のみから相対変位を演算してしまうと、振幅の小さな領域において相対変位の演算誤差が大きくなってしまう。これに対し、本実施形態においては、2つの内挿回路708a、708bの角度情報を用いて相対変位を演算するようにしている。この場合、一方の信号の振幅が小さい場合には他方の信号の振幅が大きくなっている。したがって、演算誤差の影響がキャンセルされて安定して高精度に相対位置を演算することが可能である。
【0088】
次に、リサージュ図形に基づく相対変位の別の演算手法について説明する。まず、リサージュ生成回路707において、位相調整部701からの出力信号Va1、Vb1、Va2’、Vb2’のうちで同位相の信号を加算する。この場合、図13で示したような、変位xに対して一定の振幅を有する1/4周期位相差の信号Va、Vbが得られる。ここで、信号Vaを余弦成分、信号Vbを正弦成分としてリサージュ図形を生成すると、図16に示すような一定の半径で描かれる円軌跡となる。この円周上の位相角θの変化量から相対変位xpを求めることが可能である。このような手法でも安定して高精度に相対位置を演算することが可能である。
【0089】
また、図17は、位相調整部701の第1の変形例としての構成を示す図である。この第1の変形例の構成は、図5で示した構成に加えて位相差検出部701bを設けたものである。
【0090】
位相差検出部701bは、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2のうちで互いに対応する(特定位相同士の)信号(図では出力信号VA1と出力信号VA2)の位相差Δを検出し、この検出した位相差Δを位相シフト部701aに出力する。位相シフト部701aは位相差検出部701bで検出された位相差Δだけ、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の位相をシフトさせる。
【0091】
なお、図17は、第2の光検出器33の出力信号の位相をシフトさせているが、第1の光検出器32の出力信号の位相をシフトさせるようにしても良い。また、両方の光検出器の位相をシフトさせるようにしても良い。また、図17は、出力信号VA1と出力信号VA2とからなる1組の出力信号の位相差を検出するようにしているが、4組の出力信号の位相差を全て検出するようにしても良い。この場合は、例えば4組の出力信号の位相差の平均値を位相シフト部701aに入力する。
【0092】
図17で示した構成では、位相調整に係る全ての処理を信号処理装置70内で行うことができるようになる。さらに、必要な時に位相検出を行うことができるので、最新の検出結果に基づいた調整が可能となる。特に、常に位相検出を行うことでリアルタイムの位相調整の実現が可能となる。
【0093】
図18は、位相調整部701の第2の変形例としての構成を示す図である。この第2の変形例の構成は、図17で示した構成に加えて選択部701cを設けたものである。また、図18においては、位相差検出部701bで検出された位相差Δが選択部701cと位相シフト部701aとに入力される。
【0094】
選択部701cは、位相差検出部701bで検出された位相差Δに応じて、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2を並べ替え、並べ替え後の信号VA2A、VA2B、VB2A、VB2Bを位相シフト部701aに出力する。位相シフト部701aは、並べ替え後の信号VA2A、VA2B、VB2A、VB2Bを位相シフトさせ、位相シフト後の信号VA2Aを出力VA2’とし、位相シフト後の信号VA2Bを出力VB2’とし、位相シフト後の信号VB2Aを出力VAB2’とし、位相シフト後の信号VB2Bを出力VBB2’として位相シフト部701aに出力する。
【0095】
なお、選択部701cにおける並べ替えは、位相シフト部701aにおける位相のシフト量が小さくなるようにする。すなわち、出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2はφ(本実施形態の例では90度(1/4周期))ずつの位相差を有している。このため、選択部701cにおいて信号の並べ替えを行うことで、位相シフト部701aに入力する前にφ単位での位相シフトを行ったのと同じことになる。このようにして、位相シフト部701aにおける位相シフト量を少なくすることが可能である。
【0096】
図19は、位相調整部701の第3の変形例としての構成を示す図である。この第3の変形例の構成は、図18で示した構成に加えて振幅中心差補正部701dと、振幅差検出部701eと、振幅調整部701fとを設けたものである。
【0097】
振幅中心差補正部701dは、振幅中心差検出部7011dを有している。この振幅中心差検出部7011dは、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2とのそれぞれの振幅中心のDCレベルの所定の値からの差、又は第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の振幅中心のDCレベルと第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の振幅中心のDCレベルとの差を検出する。そして、振幅中心差補正部701dは、振幅中心差検出部7011dで検出された振幅中心のDCレベルの所定値からの差、又は振幅中心のDCレベル同士の差を補償するように(無くなるように)、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2との少なくとも何れか一方の振幅中心のDCレベルを補正する。
【0098】
振幅差検出部701eは、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の振幅差を検出する。振幅調整部701fは、位相シフト部701aの出力信号の数(図では出力信号VA2’、VB2’、VAB2’、VBB2’の4つ)に応じた振幅調整回路(例えば増幅回路からなる)を有し、振幅差検出部701eで検出された振幅差に応じて、出力信号VA2’、VB2’、VAB2’、VBB2’の振幅調整を行う。この振幅調整は各出力信号の振幅を合わせたり、所望の振幅や振幅比にしたりするために行う。このようにすることで、信号の加減算の結果として得られる信号への第1の光検出器32及び第2の光検出器33の影響を所望の割合とすることができる。すなわち、加減算された信号の振幅や位相といった信号情報への第1の光検出器32及び第2の光検出器33の元信号の影響割合を所定の割合とすることができる。そのため、一方の光検出器の出力に偏った位置検出を避けることができ、高精度な位置検出が可能となる。
【0099】
ここで、図18では、振幅差検出部701e、振幅調整部701fを位相調整部701内部に設けている。しかしながら、振幅差検出部701e、振幅調整部701fを位相調整部701の後段に設けるようにしても良い。また、図18の例では、位相シフト部701aの出力信号に対して振幅調整を行っている。しかしながら、振幅差検出部701e、振幅調整部701fを位相シフト部701aの前段に設けるようにして、位相シフトの前に振幅調整を行うようにしても良い。
【0100】
図20は、位相調整部701の第4の変形例としての構成を示す図である。この第4の変形例の構成は、図18で示した構成に加えてオフセット検出部701gと、オフセット補正部701i、701hとを設けたものである。
【0101】
オフセット検出部701gは、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と位相シフト部701aの出力信号VA2’、VB2’、VAB2’、VBB2’との基準電圧に対するオフセット量、又は第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1に対する位相シフト部701aの出力信号VA2’、VB2’、VAB2’、VBB2’のオフセット量を検出する。オフセット補正部701i、70hは、オフセット検出部701gで検出されたオフセットが無くなるように、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と位相シフト部701aの出力信号VA2’、VB2’、VAB2’、VBB2’との少なくとも何れか一方のオフセットを補正する。オフセット補正は、例えばレベルシフトによって行う。なお、図20は両方の信号のオフセット補正を行う例である。
【0102】
オフセットを持ったままの信号を用いて相対位置及び絶対位置の位置検出を行うと誤差を生じさせる大きな要因の1つなりうる。図20で示した構成によってオフセット補正を行うことで、位相調整のみを行うよりも、より高精度な位置検出が可能となる。
【0103】
ここで、図20では、オフセット検出部701gと、オフセット補正部701h、701iを位相調整部701内部に設けている。しかしながら、オフセット検出部701gと、オフセット補正部701h、701iを位相調整部701の後段に設けるようにしても良い。また、図20の例では、位相シフト部701aの出力信号に対してオフセット補正を行っている。しかしながら、オフセット検出部701g、オフセット補正部701hを位相シフト部701aの前段に設けるようにして、位相シフトの前にオフセット補正を行うようにしても良い。
【0104】
さらに、図19で示した振幅調整と図20で示したオフセット補正とは組み合わせて行っても良い。この際、振幅調整とオフセット補正との順番は、どちらが先でも同時でも構わない。
【0105】
なお、上述した各種の位相調整において、例えば、位相差が5度程度ずれていても振幅誤差は0.5%程度しか生じない。そのため、用途によっては第1の光検出器32の出力信号と第2の光検出器33の出力信号との位相を完全に一致させなくても良い。この場合、例えば、複数の候補の中から位相差の少ない信号同士を選択すれば良い。
【0106】
図21は、このような変形例の構成を示す図である。該変形例の構成は、入力信号の数(図21の例では第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の8つ)に対応したバッファ回路Bufと、振幅差検出回路801a、801bと、ゲイン指示回路802と、振幅調整回路803a、803bと、スイッチ回路804と、スイッチ回路804と振幅調整回路803a、803bとの間に接続されたバッファ回路Bufと、位相差検出部805と、接続切替演算部806と、スイッチドライブ回路807と、加算回路808と、を有している。
【0107】
振幅差検出回路801aは、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の振幅差を検出する。振幅差検出回路801bは、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の振幅差を検出する。
【0108】
ゲイン指示回路802は、振幅差検出回路801aによって検出された第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の振幅差が補償されるように(無くなるように)第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の各々のゲイン値を振幅調整回路803aに指示する。また、ゲイン指示回路802は、振幅差検出回路801bによって検出された第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の振幅差が補償されるように第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の各々のゲイン値を振幅調整回路803bに指示する。
【0109】
図21の変形例においては、位相シフトを行わずに信号の並べ替えのみを行って信号の加算を行うものである。このため、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の間、又は第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の間に振幅差があると正しい加算結果が得られなくなる。振幅調整回路803a、803bによって第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1の間、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の間での振幅差を無くすことで、位相差Δが小さい場合には、並べ替えのみで信号の加算を行っても正しい加算結果を得ることが可能である。
【0110】
スイッチ回路804は、第2の光検出器33の出力信号と同数(図では4つ)のスイッチを有している。これらのスイッチは、スイッチドライブ回路807によって振幅調整回路803bから出力される振幅調整後の第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2の何れかを選択して加算回路808に出力するようになされている。
【0111】
位相差検出部805は、第1の光検出器32の出力信号VA1、VB1、VAB1、VBB1と、第2の光検出器33の出力信号VA2、VB2、VAB2、VBB2との位相差Δを検出する。そして、位相差検出部805は、位相差Δが所定値(例えば5度)以下の場合、接続切替演算部806に制御信号を出力する。
【0112】
接続切替演算部806は、振幅調整後の第1の光検出器32の出力信号VA1と出力信号VA1に対して位相が略等しい振幅調整後の第2の光検出器33の出力信号とが同じ加算回路808に入力され、振幅調整後の第1の光検出器32の出力信号VB1と出力信号VB1に対して位相が略等しい振幅調整後の第2の光検出器33の出力信号とが同じ加算回路808に入力され、振幅調整後の第1の光検出器32の出力信号VAB1と出力信号VAB1に対して位相が略等しい振幅調整後の第2の光検出器33の出力信号とが同じ加算回路808に入力され、振幅調整後の第1の光検出器32の出力信号VBB1と出力信号VBB1に対して位相が略等しい振幅調整後の第2の光検出器33の出力信号とが同じ加算回路808に入力されるようにスイッチドライブ回路807に対してスイッチの切り替え指示を送る。
【0113】
スイッチドライブ回路807は、接続切替演算部806の指示に従ってスイッチ回路804を構成する4つのスイッチの接続先の切り替えを行う。
【0114】
加算回路808は、振幅調整後の第1の光検出器32の出力信号と振幅調整及び並び替え後の第2の光検出器33の出力信号とを加算する。
【0115】
ここで、図21で示した構成は図8における相対変位演算のための構成を示しており、図21の加算回路808は図8の同相合成部706と対応している。なお、絶対変位演算の際には、第1の光検出器32の出力信号と第2の光検出器33の出力信号とで逆相となる信号同士を加減算する。したがって、スイッチ回路804において、第1の光検出器32の出力信号と第2の光検出器33の出力信号とで逆相となる信号同士が同一の加算回路808及び図示しない減算回路に入力されるように信号の選択を行わせるようにすれば、図21で示した構成を絶対変位演算に対しても適用可能である。
【0116】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0117】
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0118】
10…光学式変位出力装置、30…センサヘッド、31…光源、32…第1の光検出器、33…第2の光検出器、50…スケール、51,52…グレートラック、53…エンコードパターン、70…信号処理装置、701…位相調整部、701a…位相シフト部、701b…位相差検出部、701c…選択部、701d…振幅中心差補正部、7011d…振幅中心差検出部、701e…振幅差検出部、701f…振幅調整部、701g…オフセット検出部、701h,701i…オフセット補正部、702…絶対変位演算部、703…相対変位演算部、704a,704b…同相ノイズ除去部、705…振幅成分差動演算部、706…同相合成部、707…リサージュ生成回路、708a,708b…内挿回路、801a,801b…振幅差検出回路、802…ゲイン指示回路、803a,803b…振幅調整回路、804…スイッチ回路、805…位相差検出部、806…接続切替演算部、807…スイッチドライブ回路、808…加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位検出対象物に連結された光学式信号出力装置から出力され前記変位検出対象物の所定方向の変位に伴って振幅が漸増する複数の第1の周期信号と前記光学式信号出力装置から出力され前記変位検出対象物の前記所定方向の変位に伴って振幅が漸減する複数の第2の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせる位相シフト部と、
前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とに対して所定演算を行うことにより、前記変位検出対象物の変位を求める信号処理部と、
を具備することを特徴とする光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項2】
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号の位相差を検出する位相差検出部をさらに具備し、
前記位相シフト部は、前記位相差検出部によって位相差に相当する分だけ前記第1の複数の周期信号と前記第2の複数の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせることを特徴とする請求項1に記載の光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項3】
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号のそれぞれの振幅中心の所定の値からの差、又は前記振幅中心同士の差を検出する振幅中心差検出部と、
前記振幅中心差検出部によって検出された振幅中心の所定の値からの差、又は振幅中心同士の差に相当する分だけ前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のそれぞれの振幅中心の補正を行う振幅中心差補正部と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項4】
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号のそれぞれの振幅の差を検出する振幅差検出部と、
前記振幅差検出部によって検出された振幅の差を補償する分だけ前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のそれぞれの振幅を調整する振幅調整部と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうち逆相となる第1の周期信号と第2の周期信号とを加算及び減算して前記変位検出対象物の絶対変位を求める演算と、前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうち同相となる第1の周期信号と第2の周期信号とを加算して前記変位検出対象物の相対変位を求める演算との少なくとも何れかを前記所定演算として行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項6】
前記光学式信号出力装置は、
第1のトラックパターンと第2のトラックパターンとが前記変位検出対象物の変位方向に平行な方向が長手方向となるように形成されるスケールと、
前記スケールに対して光ビームを照射する光源と、
前記光源から射出された光ビームを前記第1のトラックパターンを介して検出することで前記複数の第1の周期信号を生成する第1の光検出器及び前記光源から射出された光ビームを前記第2のトラックパターンを介して検出することで前記複数の第2の周期信号を生成する第2の光検出器を有するセンサヘッドと、
を具備し、
前記第1のトラックパターン、前記第2のトラックパターン、前記第1の光検出器、前記第2の光検出器、及び前記光源はそれぞれ前記第1の光検出器による検出と前記第2の光検出器による検出とが関連付けて実行されるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の光学式信号出力装置の信号処理装置。
【請求項7】
第1のトラックパターンと第2のトラックパターンとが変位検出対象物の変位方向に平行な方向が長手方向となるように形成されるスケールと、前記スケールに対して光ビームを照射する光源と、前記光源から射出された光ビームを前記第1のトラックパターンを介して検出することで前記変位検出対象物の所定方向の変位に伴って振幅が漸増する複数の第1の周期信号を生成する第1の光検出器及び前記光源から射出された光ビームを前記第2のトラックパターンを介して検出することで前記変位検出対象物の前記所定方向の変位に伴って振幅が漸減する複数の第2の周期信号を生成する第2の光検出器を有するセンサヘッドと、を具備し、前記第1のトラックパターン、前記第2のトラックパターン、前記第1の光検出器、前記第2の光検出器、及び前記光源はそれぞれ前記第1の光検出器による検出と前記第2の光検出器による検出とが関連付けて実行されるように配置されている光学式信号出力装置と、
前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせる位相シフト部と、前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とに対して所定演算を行うことにより、前記変位検出対象物の変位を求める信号処理部と、を具備する信号処理装置と、
を有することを特徴とする光学式変位検出装置。
【請求項8】
前記信号処理装置は、
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号の位相差を検出する位相差検出部をさらに具備し、
前記位相シフト部は、前記位相差検出部によって位相差に相当する分だけ前記第1の複数の周期信号と前記第2の複数の周期信号とのうちの少なくとも何れかの位相をシフトさせることを特徴とする請求項7に記載の光学式変位検出装置。
【請求項9】
前記信号処理装置は、
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号のそれぞれの振幅中心の所定の値からの差、又は前記振幅中心同士の差を検出する振幅中心差検出部と、
前記振幅中心差検出部によって検出された振幅中心の所定の値からの差、又は振幅中心同士の差に相当する分だけ前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のそれぞれの振幅中心の補正を行う振幅中心差補正部と、
をさらに具備することを特徴とする請求項7又は8に記載の光学式変位検出装置。
【請求項10】
前記信号処理装置は、
前記光学式信号出力装置から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のうちの少なくとも1組の特定位相同士の第1の周期信号と第2の周期信号のそれぞれの振幅の差を検出する振幅差検出部と、
前記振幅差検出部によって検出された振幅の差を補償する分だけ前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号のそれぞれの振幅を調整する振幅調整部と、
をさらに具備することを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項に記載の光学式変位検出装置。
【請求項11】
前記信号処理部は、前記位相シフト部から出力された前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうち逆相となる第1の周期信号と第2の周期信号とを加算及び減算して前記変位検出対象物の絶対変位を求める演算と、前記複数の第1の周期信号と前記複数の第2の周期信号とのうち同相となる第1の周期信号と第2の周期信号とを加算して前記変位検出対象物の相対変位を求める演算との少なくとも何れかを前記所定演算として行うことを特徴とする請求項7乃至10の何れか1項に記載の光学式信号出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−137643(P2011−137643A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295977(P2009−295977)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】