説明

光学検査用被装部材と、これを用いた光学検査方法

【課題】培養した細胞を別の光学検査用容器に移すことなく、透明細胞培養用容器に被装するだけで光学検査に用いることができる光学検査用被装部材と、これを用いた光学検査方法を提供する。
【解決手段】不透明材料で構成され、透明細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なく被装させることで光学検査に用いることができることを特徴とした光学検査用被装部材であり、これを用いたことを特徴とする光学検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学検査用被装部材と、これを用いた光学検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織などの培養や吸光光度法、発光測定法、蛍光測定法等による生体物質の検出・定量等の分野で細胞培養用容器が汎用されている。細胞培養用容器の一つであるマルチウェルプレートは、1枚のプレートで多数の検体を同時に扱えるため多量の検体を扱う必要のある創薬スクリーニング、ハイスループットーニング等で使用されている。マルチウェルプレートは、プレート当たりのウェルの数が決まっており、6、12、24、48、96、384ウェル等がある。
【0003】
このマルチウェルプレートを用いる場合には、細胞培養用の表面処理や滅菌が必要である。一般的には細胞培養用の表面処理には、プラズマ処理、コロナ処理、細胞接着因子のコーティング、親水ゲルの塗布による非接着化等、目的に応じて種々の表面処理がなされている。こうしたマルチウェルプレートは通常ポリスチレン製の射出成形品を用いる場合が多い。
【0004】
培養組織等の検体の観察にマルチウェルプレートを使用する場合、光の透過性のため、着色されていない透明なプレートが用いられるが、検出の方法として蛍光測定法や発光測定法を使用する場合には、隣のウェルに光が漏れないようにプレート自体を白や黒に着色したものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。そのためこうしたプレートを製造するメーカーにおいては、透明プレート、白色プレート、黒色プレート等、各々のプレートに先に述べた表面処理を施している。
【0005】
細胞培養用に表面処理されたマルチウェルプレートを使用して細胞を培養し、細胞自身または細胞から分泌された蛋白質などの成分から細胞の機能を評価する分析法が一般的になっている。評価法は免疫分析、蛍光や発光測定法など様々で、例えば、緑色蛍光蛋白質などの蛍光蛋白質は培養細胞の遺伝子発現の非破壊的な検出に有効であり、細胞生物学の分野で広く利用されている。同様にルシフェラーゼなどの発光酵素を利用した遺伝子発現の検出もまた、細胞生物学の分野で広く利用されている。また、光学顕微鏡による培養細胞の形態評価も簡便かつ重要な評価法であり、細胞種によらず細胞形状の観察、評価は一般的に行われている。
【0006】
細胞自身や細胞の分泌物を種々の測定法で評価しようとする場合、透明プレートで培養を行うと、光学顕微鏡観察や吸光度測定が可能ではあるが、その透過性によって隣のウェルに光が漏れるため発光・蛍光測定の使用には適さない。
培養細胞を発光・蛍光測定で評価する場合、細胞培養用の表面処理した着色プレートで培養し、続いて同じ着色プレートを用いて発光・蛍光測定を行うが、光を透過しないため、光学顕微鏡による細胞の形態評価が困難である。
また、透明プレートと着色プレートとでは表面性状が微妙に異なることから、細胞の培養条件が同じにはならないことも評価の妨げとなる場合がある(例えば、特許文献2参照)。
上記のように培養細胞の顕微鏡観察と蛍光・発光測定の両立は困難であるため、通常は透明プレートを使用して形態評価をしながら培養し、その後細胞及び培養液を着色プレートへ移し替え、蛍光または発光測定を行うこととなる。しかし、移し替えの操作は、多量の検体を伴う場合非常に煩雑であり、器具や作業者の読みとりによる秤量誤差が存在するため、測定データの正確性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開1984−132335号公報
【特許文献2】特開1999−127843号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、培養した細胞を別の光学検査用容器に移すことなく、透明細胞培養用容器に被装するだけで光学検査に用いることができる光学検査用被装部材と、これを用いた光学検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(9)に記載の本発明により達成される。
(1)不透明材料で構成され、透明細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なく被装させることで光学検査に用いることができることを特徴とする光学検査用被装部材。
(2)前記不透明材料は、白色又は黒色の着色剤を含むものである(1)に記載の光学検査用被装部材。
(3)射出樹脂成形で形成されたものである(1)又は(2)に記載の光学検査用被装部材。
(4)真空樹脂成形で形成されたものである(1)又は(2)に記載の光学検査用被装部材。
(5)前記透明細胞培養用容器は、樹脂成形品である(1)に記載の光学検査用被装部材。
(6)前記透明細胞培養容器は、マルチウェルプレートを含む(1)又は(5)に記載の光学検査用被装部材。
(7)前記マルチウェルプレートは、ウェル断面がU字型であるものを含む(6)に記載の光学検査用被装部材。
(8)(1)乃至(7)に記載の光学検査用被装部材を、前記細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なくに被装させて光学検査を行うことを特徴とする光学検査方法。
(9)吸光度測定、蛍光・発光測定法を含む(8)に記載の光学検査方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、培養した細胞を別の光学検査用容器に移すことなく、透明細胞培養用容器に被装するだけで光学検査に用いることができる光学検査用被装部材と、これを用いた光学検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明に光学検査用被装部材と共に用いられる透明細胞培養用容器を示す概略図である。
【図2】本願発明の一実施例である光学検査用被装部材を示す概略図である。
【図3】本願発明の一実施例である光学検査用被装部材を透明細胞培養用容器に被装した状態の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光学検査用被装部材は、不透明材料で構成され、透明細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なく被装させることで光学検査用に用いることができることを特徴とする。
【0013】
本発明の光学検査用被装部材と共に用いられる透明細胞培養用容器は、射出樹脂成形品であることが好ましい。ガラス等の透明部材も使用できるが、射出樹脂成形品とすることで形状加工性および、表面修飾の容易性を良好とすることができる。
【0014】
上記透明細胞培養用容器に用いられる樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。これらの中でもマルチウェルプレートに求められる成形性、透明性、放射線耐性の点においてポリスチレン樹脂が特に好ましい。
【0015】
上記透明細胞培養用容器の表面には親水性処理を施すことができる。親水性処理を施すことにより特に細胞の培養に適した基材表面とすることができる。親水性処理方法としては、特に限定されないが、溶解、遊離することのない安定な親水性層を得ることができるため、水溶性樹脂を培養ウェル表面に接触させた後に非水溶性硬化皮膜に変成させて形成する方法が好ましい。
【0016】
また、上記透明細胞培養用容器は、マルチウェルプレートであることが好ましい。マルチウェルプレートを用いることで、特に一枚の培養容器で多量の検体を同時に取り扱うことができる。
【0017】
上記マルチウェルプレートは、ウェル断面がU字型であることが好ましい。ウェル断面がU字型のマルチウェルプレーとを用いることで、特に細胞を一箇所、すなわちウェル底球面に集めることができ、細胞凝集塊形成の培養において均一な大きさの凝集塊を形成することができる。
【0018】
一方、本発明の光学検査用被装部材は、不透明部材で構成され、透明細胞培養容器の底面側から上記透明細胞培養容器にほぼ隙間無く被装させることで光学検査に用いることができることを特徴とする。こうすることで、特に遮光性の必要な光学検査において透明細胞培養容器を漏れなく遮光することができる。
【0019】
上記不透明材料は、白色又は黒色の着色剤を含むことが好ましい。白色又は黒色の着色剤を含むことで、光学検査用として通常用いられている容器として用いることができる。白色又は黒色の着色剤としては、特に限定されず、市販の着色剤を用いることができる。
【0020】
上記本発明の光学検査用被装部材は、特に限定されないが、射出樹脂成形で形成されることが好ましい。射出樹脂成形品とすることで、寸法精密性に優れることから上記透明細胞培養用容器にほぼ隙間無く被装させることができる。また、直接培養液等に触れないため、コンタミしにくく再使用が可能である。
【0021】
更に、上記本発明の光学検査用被装部材は、真空樹脂成形で形成されることができる。真空樹脂成形品とすることで、安価に生産でき、ディスポーザブルとすることができる。
【0022】
本発明の不透明材料から構成される光学検査用被装部材を透明細胞培養容器の底面側から前記透明細胞培養容器にほぼ隙間無く被装させることで従来の着色樹脂で成形したプレートと同様に蛍光や発光の隣のウェルへの光の横漏れを防ぐことができ、蛍光・発光測定が可能となる。
【0023】
次に、本発明の光学検査方法について説明する。
本発明の光学検査方法は、上記光学検査用被装部材を、上記細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なくに被装させて行うことを特徴とする。
上記方法を用いることで、吸光度測定、蛍光・発光測定を同一の細胞培養条件のサンプルで実施することができる。以上のように、従来の容器ではそれぞれの測定法に必要な特性を持つ基材上で個々に行ってきた細胞培養や光学顕微鏡観察、蛍光・発光測定を同一の容器上で実施でき、同じ状態の検体を用いて、発光・蛍光測定が可能となる。
【0024】
更に、従来では別々の容器で細胞培養と、光学検査を行っており、光学検査を行う場合は細胞培養用容器から光学検査用容器に移し替える必要があった。この際、細胞だけを移し替えるのは大変な作業であり、場合によってはコンタミネーションを起こし、大切な実験が台無しになってしまう場合もあった。本願発明では、細胞培養用の容器をそのまま光学検査に用いることができるため、このようなことを防止することができる。
また、更に培養を継続したい場合には、本発明の光学検査用被装部材を取り除いて、元の透明な細胞培養用容器で細胞培養を継続することができる。この際も、従来では細胞培養用容器に移し替えなくてはならないことは言うまでも無く、移し替えの手間がかかること及び新たな容器が必要となる。
【0025】
次に、本発明の光学検査用被装部材について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本願発明の光学測定用被装部材と共に用いられる透明細胞培養用容器を示す概略図である。図2は、本願発明の一実施例の光学測定用被装部材を示す概略図である。図3は、本願発明の一実施例である光学測定用被装部材を透明細胞培養用容器に被装した状態の拡大断面図である。
図3で示すように、本発明の光学検査用被装部材(2)は、透明細胞培養用容器(1)の底面側から透明細胞培養用容器(1)にほぼ隙間無く被装される。
【符号の説明】
【0026】
1 透明細胞培養用容器
2 光学検査用被装部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透明材料で構成され、透明細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なく被装させることで光学検査に用いることができることを特徴とする光学検査用被装部材。
【請求項2】
前記不透明材料は、白色又は黒色の着色剤を含むものである請求項1に記載の光学検査用被装部材。
【請求項3】
射出樹脂成形で形成されたものである請求項1又2に記載の光学検査用被装部材。
【請求項4】
真空樹脂成形で形成されたものである請求項1又は2に記載の光学検査用被装部材。
【請求項5】
前記透明細胞培養用容器は、樹脂成形品である請求項1に記載の光学検査用被装部材。
【請求項6】
前記透明細胞培養容器は、マルチウェルプレートを含む請求項1又は5に記載の光学検査用被装部材。
【請求項7】
前記マルチウェルプレートは、ウェル断面がU字型であるものを含む請求項6に記載の光学検査用被装部材。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の光学検査用被装部材を、前記細胞培養用容器の底面側から前記透明細胞培養用容器にほぼ隙間なくに被装させて光学検査を行うことを特徴とする光学検査方法。
【請求項9】
吸光度測定、蛍光・発光測定法を含む請求項8に記載の光学検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−230633(P2010−230633A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81352(P2009−81352)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】