説明

光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体の製造方法

【課題】医薬品などへの中間体として有用な光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)


で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンを光学活性なキナアルカロイドの存在下、トリフルオロピルビン酸エステルと反応させることからなる一般式(3)


で表される該γ−ラクタム誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−アミノ―α,β―不飽和ケトンから光学活性なα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロメチル基含有へテロ環状化合物は医薬、農薬分野において重要な化合物又は合成中間体であり、また、光学活性な化合物も生理活性物質として重要な化合物として精力的に開発が進められている。本願出願人は、エナミン化合物とトリフルオロピルビン酸エステルからアルドール縮合とそれに引く続く環化反応をワンポットで行ってトリフルオロメチル基を含むα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体を得る合成法について報告した(非特許文献1)。一般的に、光学活性体の製造方法には、ラセミ体から光学分割剤又はキラルカラムなどを用いた分割精製や光学活性体を原料とする合成方法などが知られているが、非光学活性物質からひとつの反応により光学活性な触媒の存在下光学活性な化合物を得るという簡便な方法が実用的な製造方法として期待されている。そのような製造方法のうち、不斉アルドール縮合に関して、例えば、キラルなシンコニウム塩を相間移動触媒としてイミンとアルデヒドからβ−ヒドロキシ−α−アミノ酸を合成する例(非特許文献2)、キラルなシンコニウム塩を相間移動触媒として水酸化アルカリ金属塩と有機相との不均一系で、アルデヒドとクロルケトンからα−クロル−β−ヒドロキシケトンを得る例が報告されている(特許文献1)。
【非特許文献1】シンレット(Synlett)2006,No.20,p.3484−3488
【非特許文献2】テトラヘドロン(Tetrahedron)47(29),p.5367−5378
【特許文献1】特開平11−80036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、トリフルオロメチル基を導入することで医薬、農薬の分野での有用性を増したα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体につき、さらに大きな生理活性の期待されるその光学活性体を非光学活性体原料から得る簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、β−アミノ―α,β―不飽和ケトンを光学活性なキナアルカロイドの存在下、トリフルオロピルビン酸エステルと反応させることで光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体を高い反応収率ならびに不斉収率で得ることができることを見出し本発明に至った。
【0005】
前記非特許文献1では、β−アミノ―α,β―不飽和ケトンとトリフルオロピルビン酸エステルから無触媒又は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を触媒として非光学活性体のα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体を合成できることを開示しており、この文献記載の反応はワンポットで行うことができる、アルドール縮合と環化反応の進行を同時に行うことができるという特徴を有しているが、光学活性体の合成方法については具体的になにも示していない。
【0006】
本発明者らは、光学活性な塩基性化合物を触媒として前記反応を試みたところ、前記非特許文献2及び特許文献1において開示された光学活性なシンコニウム塩を相間移動触媒とすることなく、光学活性なキナアルカロイドを触媒とする均一系の溶液反応として不斉アルドール縮合及び環化反応が進行し、容易にα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体が得られることを見出し本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0008】
【化3】


【0009】
(式中、Rは水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基を表す。また、RおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンを光学活性なキナアルカロイドの存在下、一般式(2)
CFC(=O)C(=O)OR (2)
(式中、Rは水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基を表す。)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルと反応させることからなる一般式(3)
【0010】
【化4】

【0011】
(式中、R、R、Rはそれぞれ一般式(1)と同じ基を表す)
で表される光学活性α−ヒドロキシ−α−トリプルオロメチル−γ−ラクタム誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
医薬品合成において興味深いヘテロ環状化合物であるα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体の光学活性体を、特定のアルカロイドを反応系に添加することで実用的な程度の不斉収率と反応収率で製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する一般式(1)
【0014】
【化5】

【0015】
で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンにおいては、Rは水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基である。ここで、RおよびRは一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成していてもよい。
【0016】
、R、Rは、本発明の反応においてはいずれも実質的には不活性であり反応の完了時においても変化せず反応には関与しない。R、R、Rにおけるアルキル基としては、炭素数が1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜10の脂肪族アルキル基または炭素数が3〜10のシクロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが例示できる。これらのアルキル基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。これらの置換基を有するアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペンタフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロメチル基などを挙げることができる。
【0017】
、R、Rにおけるアルケニル基は、炭素数が1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基または炭素数が3〜20のシクロアルケニル基が好ましく、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基または炭素数が3〜10のシクロアルケニル基がさらに好ましい。アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−へキセニル基、シクロヘキセニル基、アリル基などが挙げられる。また、これらのアルケニル基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。
【0018】
、R、Rにおけるアラルキル基は、例としてベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、p−ニトロベンジル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、α−フェネチル基等が挙げられる。
【0019】
、R、Rにおけるアルキニル基としては、例としてエチニル基、フェニルエチニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
【0020】
、R、Rのアリール基としては炭素数が6〜20のアリール基が好ましく、炭素数が6〜10のアリール基がさらに好ましい。アリール基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。
【0021】
におけるアルコキシ基は炭素数が1〜20のアルコキシ基が好ましく、炭素数が1〜10のアルコキシ基がさらに好ましい。アルコキシ基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。好ましいものとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロキシオキシ基、n−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基などを挙げることができる。
【0022】
におけるアリールオキシ基は炭素数が1〜20のアリールオキシ基が好ましく、炭素数が1〜10のアリールオキシ基がさらに好ましい。アリールオキシ基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。好ましいアリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、o−メチルフェニルオキシ基、m−メチルフェニルオキシ基、p−メチルフェニルオキシ基などが挙げられる。
【0023】
とRを組み合わせて形成される二価の基としては、炭素数1〜18のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基またはこれらの1または2以上の炭素が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ヘテロ環式基、シクロアルキレン基、もしくはフェニレン基のいずれか1種以上で置換された二価の基が例示できる。また、これらの二価の基の1個又は2個以上の水素原子は、ハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよく、さらに、同一の炭素原子に結合した二個の水素がRで説明された置換基で置換されたスピロ環で置換されていてもよい。
【0024】
このようにRとRを組み合わせて形成される二価の基は、一般式(1)において環状構造の一部を形成することができ、そのような環状構造としては、3員環から20員環でなる単環、双環、またはそれ以上の多環の構造を示すことができる。これらのうち、好ましいものとして、一般式(4)
【0025】
【化6】

【0026】
または、一般式(5)
【0027】
【化7】

【0028】
で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンが挙げられ、mは0〜4(4員環〜8員環)、好ましくは0〜3であり、特に3が好ましく、nは0〜4(4員環〜8員環)、好ましくは0〜3であり、特に2が好ましく、一般式(4)及び一般式(5)の式中の(CH)mまたは(CH)nの一個又は2個以上の水素原子が置換され得ることは一般式(1)と同様である。CHの水素原子に置換される基として好ましいものとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのアルキル基、炭素数3〜6のスピロ環などを例示することができる。
【0029】
一般式(2)
CFC(=O)C(=O)OR (2)
で表されるトリフルオロピルビン酸エステルにおけるRは、水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基である。
【0030】
は、本発明の反応においては脱離基の一部として機能するのみであり、基そのものとしてはいずれも実質的には不活性で変化しない。アルキル基としては、炭素数が1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜10の脂肪族アルキル基または炭素数が3〜10のシクロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などが例示できる。これらのアルキル基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。
【0031】
アルケニル基は炭素数が1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基または炭素数が3〜20のシクロアルケニル基が好ましく、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基または炭素数が3〜10のシクロアルケニル基がさらに好ましい。アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−へキセニル基、シクロヘキセニル基、アリル基などが挙げられる。また、これらのアルケニル基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。
【0032】
アラルキル基は、例としてベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、o−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、p−ニトロベンジル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、α−フェネチル基等が挙げられる。
【0033】
アルキニル基としては、例としてエチニル基、フェニルエチニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
【0034】
アリール基としては炭素数が6〜20のアリール基が好ましく、炭素数が6〜10のアリール基がさらに好ましい。アリール基はハロゲン(塩素、臭素、フッ素またはヨウ素)原子、置換基を有することもあるアルキル基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有することもあるアリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ヘテロ環式基などの置換基で置換されていてもよい。
【0035】
本発明における反応生成物は、一般式(5)
【0036】
【化8】

【0037】
で表される光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体であり、式中R、R、Rで表される基はそれぞれ一般式(1)におけるものと同じ基であって、反応中には変化しないものである。
【0038】
また、一般式(4)又は一般式(5)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンがを原料とするときは、反応生成物は一般式(6)又は一般式(7)で表されるα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体が製造でき、式中R、R、Rで表される基はそれぞれ一般式(1)におけるものと同じ基であって、反応中には変化しないものである。
【0039】
本発明の製造方法で得られる一般式(3)又は一般式(4)もしくは一般式(5)で表される化合物としては、1−ベンジル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン、1−ベンジル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インド−ル−2,4−ジオン、1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−1,3,5,6,7,8−ヘプタヒドロ−シクロヘプタ[b]ピロ−ル−2,4−ジオン、1−ベンジル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−1,3,6,7−テトラヒドロ−ピラノ[4,3−b]ピロ−ル−2,4−ジオン、スピロ[シクロブタン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンジル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン、1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン、1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン、スピロ[シクロブタン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンズヒドリル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン、スピロ[シクロヘキサン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンジル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン、スピロ[シクロヘキサン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンゾヒドリル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオンなどが挙げられる。
【0040】
本発明の方法においては、一般式(1)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトン1モルに対し、一般式(2)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルを0.1〜20モルを使用し、0.5〜10モルが好ましく、0.8〜5モルがより好ましい。0.1モル未満ではβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンの反応率が低く、20モルを超えても反応自体には問題はないがトリフルオロピルビン酸エステルが有効に利用されないので好ましくない。
【0041】
本発明の製造方法では、反応系中に存在させる触媒として光学活性なキナアルカロイドが挙げられ、次に掲げるキニン、キニジン、シンコニン、シンコニジン、(DHQ)AQN、(DHQD)AQN、(DHQ)PYR、(DHQD)PYR、(DHQ)PHAL、(DHQD)PHAL,スパルテインなどのキナアルカロイドが好ましく、キニン、キニジン、シンコニン、(DHQ)AQN、(DHQD)AQNがさらに好ましいものとして挙げられる。これらのキナアルカロイドとしては天然に産出する光学活性のものが使用できる。
【0042】
【化9】

【0043】
【化10】















【0044】
本発明において使用する触媒は、一般式(1)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトン1モルに対し、0.005〜1モルであり、0.01〜0.8モルが好ましく、0.05〜0.5モルがより好ましい。0.005モル未満では実質上反応が起こらず、1モルを超えることは反応の点からは問題はないが、生成物の回収が困難になり好ましくない。
【0045】
本発明の反応は、溶媒としては一般的に使用されるものが適用できるが、低極性有機溶媒または非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。そのような低極性有機溶媒としては、ヘプタン、ヘキサン、キシレン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロルエタン、ジイソプロピルエーテルが挙げられ、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロルエタン、トルエン,ベンゼンが好ましく、非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサメチルリン酸トリアミドが挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランが好ましい。これらは単独で使用し得るのみならず、2種類以上を併せて用いることも可能である。
【0046】
溶媒の使用量は、反応系が均一となれば特に限定されないが、一般式(1)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトン1重量部に対し、0.1〜200重量部であり、1〜100重量部である。0.1以下では原料又は生成物が溶解しないことがあって処理に困難をきたすことがあり、100重量部を越えると生成物の回収が煩雑になるので好ましくない。
【0047】
反応温度は特に限定されるものではなく、通常は外部からの加熱、冷却を行うことのない温度、いわゆる室温で行うことができるが、具体的には−80℃〜150℃であり、−20℃〜120℃が好ましく、より好ましくは0℃〜100℃である。また、反応温度は室温又は前記低温での適当な時間の後、前記温度において反応を継続することもできる。反応器は大気開放型の反応器、またはオートクレーブ等の密閉型の反応器のいずれも可能である。反応圧力は大気圧下、または加圧下のいずれも可能である。反応時間は特に限定されるものではないが、通常0.5〜24時間で反応は完結する。
【0048】
反応後、一般式(3)で表されるα−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体は一般的な手法によって反応液から単離および精製することができ、例えば反応液を濃縮した後、蒸留精製またはシリカゲル、アルミナ等の吸着剤を用いたカラムクロマトグラフ法での精製、塩析、再結晶等を挙げることができる。
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
すべての反応は窒素雰囲気下で行った。核磁気共鳴 (NMR)スペクトルはバリアン(Varian)社製のMercury-200分光光度計を用いて測定した。1H NMRスペクトル (200 MHz)はテトラメチルシラン (TMS)を,19F NMR スペクトル (188 MHz)はトリクロルフルオロメタンを内部標準物質 (0.00 ppm)としてppm単位で示し、J値はHz単位で示した。薄層クロマトグラフィー (TLC)はメルク(Merck)社のSilica gel 60 F254を用いた。
【0051】
〔実施例1〕
10mlナスフラスコに原料として3−ベンジルアミノ−シクロヘサ−2−エノン(S1)(0.15mmol、30mg)、触媒としてキニン(10mol%、9mg)を溶媒ジクロルメタン1.0mlに溶かし、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル(2.0当量、43mg)を加えて室温で撹拌した。原料が消失まで2時間にわたり撹拌を続けた後、減圧下で溶媒を除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=8/2〜5/5)で精製し、得られた1−ベンジル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン(P1)の反応収率を求めたところ89%であった。不斉収率は、高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、37%eeであった。生成物は次のとおりであった。
【0052】
〔実施例2〜11〕
原料、触媒、溶媒、温度、時間を表1に示すとおりとして、他の条件は実施例1と同様に実施した結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
〔実施例12〕
10mlナスフラスコに原料として3−ベンズヒドリルアミノ−シクロヘキサ−2−エノン(S6)(0.15mmol、42mg)、触媒として(DHQ)AQN(10mol%、12mg)を溶媒塩化メチレン1.0 mlに溶かし、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル(2.0当量、43mg)を加えて室温で撹拌した。原料が消失まで1時間にわたり撹拌を続けた後、1,2−ジクロルエタン1.0mlを加えて1時間さらに還流を続け、目的生成物が合成されたことを薄層クロマトグラフィ(TLC)で確認した後、減圧下で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=8/2〜5/5)で精製し、得られた1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン(P6)の反応収率を求めたところ72%であった。不斉収率は、高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、77%eeであった。生成物は次のとおりであった。
1H NMR (CDCl3): δ = 1.86-2.06 (m, 3H), 2.18-2.54 (m, 3H), 4.20 (br s, 1H), 6.81 (s, 1H), 7.15-7.20 (m, 4H), 7.33-7.45 (m, 6H).
19F NMR (188 MHz, CDCl3): δ = -78.1 (s, 3F).
Rf= 0.37 (ヘキサン/酢酸エチル= 50 / 50)
IR (KBr): 3400, 3064, 3033, 2954, 1759, 1647, 1603, 1243, 1191, 1165, 1076, 1013, 741, 715, 700, 612, 512, 418 cm-1.
MS (EI): m/z = 401 [M+].
〔実施例13〜16〕
原料、触媒、溶媒、温度、時間を表1に示すとおりとして、他の条件は実施例12と同様に実施した結果を表1に示す。
【0055】
【化11】



【0056】
実施例で使用した原料化合物ならびに実施例により得られた生成物及び物性を次に示す。
S1:3−ベンジルアミノ−シクロヘキサ−2−エノン
P1:1−ベンジル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン
1H NMR (CDCl3): δ = 2.02-2.18 (m, 2H), 2.26-2.66 (m, 4H), 4.37 (br s, 1H), 4.65(d, J = 6.7 Hz, 1H), 4.89 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 7.15-7.20 (m, 2H), 7.31-7.42 (m, 3H).
19F NMR (CDCl3): δ= -78.1 (s, 3F).
Rf= 0.70 (酢酸エチル / メタノール = 90 / 10)
IR (KBr): 3128, 1763, 1632, 1601, 1413, 1359, 1263, 1183, 1158, 1075, 1026, 960, 945, 737, 712, 568, 499 cm-1.
MS (EI): m/z = 325 [M+]
P2:3−ベンゾイルアミノ−5,5−ジメチル−シクロヘキサ−2−エノン
S2:1−ベンジル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インド−ル−2,4−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δd= 1.05 (s, 3H), 1.07 (s, 3H), 2.24 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 2.35 (s, 2H), 2.38 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 4.26 (br s, 1H), 4.66 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 4.89 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 7.13-7.18 (m, 2H), 7.31-7.41 (m, 3H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.0 (s, 3F)
Rf= 0.72 (酢酸エチル).
IR (KBr): 3201, 2961, 1756, 1625, 1599, 1421, 1267, 1191, 1173, 1062, 956, 701 cm-1.
MS (EI): m/z = 353 [M+].
P3:3−(ベンズヒドリルアミノ)−5,5−ジメチル−シクロヘプタ−2−エノン
P3:1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−1,3,5,6,7,8−ヘプタヒドロ−シクロヘプタ[b]ピロ−ル−2,4−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δ = 1.63-1.77 (m, 4H), 2.59-2.65 (m, 4H), 5.83 (s, 1H), 6.89 (s, 1H), 7.17-7.25 (m, 4H), 7.31-7.42 (m, 6H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.2 (s, 3F).
Rf= 0.70 (ヘキサン/酢酸エチル= 70 / 30)
S4:4−ベンジルアミノ−6,6−ジメチル−5,6−ジヒドロ−ピラン−2−オン、P4:1−ベンジル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−1,3,6,7−テトラヒドロ−ピラノ[4,3−b]ピロ−ル−2,4−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δ = 1.44 (d, J =16.2 Hz, 6H), 2.47 (d, J = 18.0 Hz, 2H), 2.67 (d, J = 18.0 Hz, 2H), 4.44 (br s, 1H), 4.65 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 4.88 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 7.13-7.18 (m, 2H), 7.32-7.42 (m, 3H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.3 (s, 3F)
Rf= 0.70 (酢酸エチル)
S5:8−ベンジルアミノ−スピロ[3,5]ノナ−7−エン−6−オン
P5:スピロ[シクロブタン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンジル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン
1H NMR (CDCl3): δ -= 1.66-1.92 (m, 6H), 2.40-2.69 (m, 4H), 4.22 (s, 1H), 4.69 (d, J = 16.0 Hz , 1H), 4.91 (d, J = 16.0 Hz , 1H), 7.17-7.25 (m, 2H), 7.35-7.43 (m, 3H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.5 (s, 3F)
Rf= 0.70 (酢酸エチル)
S6:3−ベンズヒドリルアミノ−シクロヘキサ−2−エノン
P6:1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン
1H NMR (CDCl3): δ = 1.86-2.06 (m, 3H), 2.18-2.54 (m, 3H), 4.20 (br s, 1H), 6.81 (s, 1H), 7.15-7.20 (m, 4H), 7.33-7.45 (m, 6H).
19F NMR (188 MHz, CDCl3): δ = -78.1 (s, 3F).
Rf= 0.37 (ヘキサン/酢酸エチル= 50 / 50)
IR (KBr): 3400, 3064, 3033, 2954, 1759, 1647, 1603, 1243, 1191, 1165, 1076, 1013, 741, 715, 700, 612, 512, 418 cm-1.
MS (EI): m/z = 401 [M+].
S7:3−(ベンズヒドリルアミノ)−5,5−ジメチル−シクロヘキサ−2−エノン、P7:1−ベンズヒドリル−3−ヒドロキシ−6,6−ジメチル−3−トリフルオロメチル−3,5,6,7−テトラヒドロ−1H−インドール−2,4−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δd= 0.93 (s, 3H), 1.01 (s, 3H), 1.89 (d, J = 18.2 Hz, 1H), 2.09 (d, J = 18.2 Hz, 1H), 2.16 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 2.31 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 4.29 (br s, 1H), 6.83 (s, 1H), 7.17-7.21 (m, 4H), 7.34-7.41 (m, 6H).
19F NMR (CDCl3): δ = -77.9 (s, 3F).
Rf= 0.47 (ヘキサン/酢酸エチル= 50 / 50)
IR (KBr): 3390, 2962, 1765, 1646, 1600, 1424, 1405, 1356, 1266, 1225, 1193, 1161, 1078, 1067, 904, 743, 702, 567, 447 cm-1.
MS (EI): m/z = 429 [M+].
S8:3−(ベンズヒドリルアミノ)−スピロ[3,5]ノナ−7−エン−6−オン
P8:スピロ[シクロブタン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンズヒドリル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δ = 1.62-1.89 (m, 6H), 2.01-2.64 (m, 4H), 4.31 (s, 1H), 6.85 (s, 1H), 7.17-7.30 (m, 4H), 7.33-7.45 (m, 6H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.4 (s, 3F)
Rf= 0.41 (ヘキサン/酢酸エチル= 50 / 50)
S9:8−ベンジルアミノ−スピロ[5,5]ウンデカ−3−エン−2−オン
P9:スピロ[シクロヘキサン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンジル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δ = 1.17-1.40 (m, 10H), 2.23-2.53 (m, 4H), 4.64 (d, J = 15.8 Hz, 1H), 4.92 (d, J = 15.8 Hz, 1H), 7.14-7.19 (m, 2H), 7.31-7.42 (m, 3H).
19F NMR (CDCl3): δ = -78.0 (s, 3F)
Rf= 0.79 (酢酸エチル)
S10:3−(ベンズヒドリルアミノ)−スピロ[5,5]ウンデカ−3−エン−2−オン
P10:スピロ[シクロヘキサン−3’,5’,6’,7’−[1H]−インドール]1’−ベンゾヒドリル−3’−ヒドロキシ−3’−トリフルオロメチル−2’,4’−ジオン;
1H NMR (CDCl3): δ = 1.10-1.42 (m, 10H), 1.86 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 2.18 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 2.19 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 2.39 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 4.24 (s, 1H), 6.85 (s, 1H), 7.17-7.21 (m, 4H), 7.36-7.41 (m, 6H).
19F NMR (CDCl3): δ = -77.9 (s, 3F)
Rf= 0.48 (ヘキサン/酢酸エチル= 50 / 50)
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法で得られる光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体は、医薬、農薬又はそれらの中間体として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、Rは水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基を表す。また、RおよびRが一体となって、ヘテロ原子の介在もしくは非介在で環状構造の一部を形成してもよい。)で表されるβ−アミノ―α,β―不飽和ケトンを光学活性なキナアルカロイドの存在下、一般式(2)
CFCOCOOR(2)
(式中、Rは水素原子、置換基を有することもあるアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基またはアリール基を表す。)で表されるトリフルオロピルビン酸エステルと反応させることからなる一般式(3)
【化2】


(式中、R、R、Rはそれぞれ一般式(1)と同じ基を表す)
で表される光学活性α−ヒドロキシ−α−トリフルオロメチル−γ−ラクタム誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記光学活性なキナアルカロイドが、キニン、キニジン、シンコニン、シンコニジン、(DHQ)AQN、(DHQD)AQN、(DHQ)PYR、(DHQD)PYR、(DHQ)PHAL、(DHQD)PHAL,スパルテインから選ばれた1又は2以上の光学活性なキナアルカロイドである請求項1に記載の光学活性α−ヒドロキシ−α−トリプルオロメチル−γ−ラクタム誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−13098(P2009−13098A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175509(P2007−175509)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】