説明

光学活性を有するアルコール及びカルボン酸の製造方法

本発明の目的は、(S)−2−ペンタノール、(S)−2−ヘキサノール、1−メチルアルキルマロン酸、及び3−メチルカルボン酸を高い光学純度で得ることこができる安価かつ効率的な工業的製造方法を提供することである。本発明によれば、ある種の微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを製造する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2−ペンタノン又は2−ヘキサノンにイサチェンキア属等に属する微生物、該微生物処理物及び/又は該微生物培養物を作用させて、医薬、農薬等の中間体原料として産業上有用な化合物である(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを製造する方法に関し、また、2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、上記微生物から得られるカルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質(カルボニル還元酵素)をコードするDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物および/または該細胞培養液を作用させて、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを製造する方法に関する。さらに本発明は、光学活性1−メチルアルキルマロン酸及びその製造方法、並びに光学活性3−メチルカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを化学的に製造する方法としては、例えば、2−ペンタノンに対しポリアミドアミンとグルコノラクトンから成るデンドリマー存在下で還元を行う方法(J.Am.Chem.Soc.、Vol.123、p.5956−5961、2001)又は、2−ヘキサノンに対し光学活性ボロンを用いて還元する方法(特開平11−240894号公報)などが知られている。しかしながらこれらは生成物の光学純度が満足のいくものではない。
一方、微生物の菌体及び/又は該菌体処理物を用いて光学活性なアルコール体を生成する方法としては、ラセミ体のエステル化合物に微生物を作用させることにより光学選択的にエステルを加水分解することにより、光学活性なアルコール体を生成する方法が知られているが(特開平10−4998号公報)、収率が低いという問題、また望みの立体化学ではないアルコールもしくはそのエステルを捨てなければならない等の問題があった。また、ケト基を有する化合物を立体選択的に還元し、光学活性なアルコール体を生成する方法としては、2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに微生物を作用させることより製造する方法(Tetrahedron:Asymmetry、vol.14、p.2659−2681、2003)が知られているが生成物の光学純度又は生産濃度が満足のいくものではない、菌体の固定化又はアセトン処理等の反応に用いる菌体の前処理が煩雑である、基質の仕込み濃度が低い等の問題があり実用的ではなかった。
光学活性1−メチルアルキルマロン酸は、医農薬中間体として有用な化合物であることが知られている。また、光学活性3−メチルカルボン酸も同様に医農薬中間体として有用な化合物であることが知られている。
光学活性1−メチルブチルマロン酸は、神経抑制作用を示すバルビツール酸誘導体の中間体として有用な化合物である(例えば、国際公開第00/24358号パンフレットを参照。)。また、光学活性1−メチルアルキルマロン酸から合成可能な光学活性3−メチルヘキサン酸及び光学活性3−メチルヘプタン酸は、プロスタグランジン類等の医薬品中間体として使用されている(例えば、特開昭62−265279号公報を参照。)。
光学活性な2−ペンタノールを用いた(S)−1−メチルブチルマロン酸の合成が報告されている(J.Am.Chem.Soc.,1950,72,4695)。しかし、この方法では、光学活性な2−ペンタノールを得るために、ラセミ体の2−ペンタノールをフタル酸モノエステルとし、ブルシンで分割した後加水分解するという非常に煩雑な方法を用いており、また、分割であるため半量は利用できない上、分割したいアルコールに対して補助基、分割基の分子量が大きく、非効率的である。
1−メチルアルキルマロン酸の脱炭酸反応により3−メチルカルボン酸を合成する例はいくつか知られている(例えば、J.Am.Chem.Soc.,1950,72,4695、及びNouveau Journal de Chime,1985,9,557を参照。)。しかし、いずれも反応制御の困難な無溶媒、一括添加法で、かつ高温(180℃)を必要とすること等から、工業的実施は困難である。
また、本発明とは異なる基質に対して、添加剤を用いることでより低温で脱炭酸を行う方法も知られている。しかし、酸化銅存在下アセトニトリル中で還流させる方法(例えば、J.Am.Chem.Soc.,1993,115,801を参照。)や、硫酸存在下加熱する方法(例えば、Org.Lett.,2002,4,1571を参照。)が本発明の基質に適応可能か検証したところ、いずれの場合も顕著な反応加速効果は観測されなかった。このことから、添加剤を用いて脱炭酸反応を低温化する方法は、化合物によって適応できるものとできないものがあることが明らかとなった。
一方、溶媒中で100〜150℃程度の温度で反応を行う例も知られている(例えば、J.Org.Chem.,1983,48,2994を参照。)が、溶媒効果について検証している報告はなく、また、基質によって脱炭酸時に必要とされる反応温度に差があるため、溶媒による脱炭酸反応の低温化効果については明らかになっていなかった。
加えて、発生する二酸化炭素の制御等、安全面から考察されているものはなく、脱炭酸反応の工業的実施において課題が残されていた。
光学活性1−メチルブチルマロン酸の合成前駆体と考えられる光学活性1−メチルブチルマロン酸エステルの合成法としては、シトロネロールから誘導する方法(例えば、国際公開第00/24358号パンフレットを参照)が知られているが、多段階かつ低収率である等の問題があった。また、光学活性1−メチルペンチルマロン酸エステルの合成法としては、不斉1,4−付加反応で合成する方法(例えば、Tetrahedron Asym.,2001,12,1151を参照)が知られているが、十分な光学純度が得られないため(最大50%ee)、実用的ではない。
一方、光学活性1−メチルアルキルマロン酸より合成できる光学活性3−メチルヘキサン酸や光学活性3−メチルヘプタン酸の合成法として、不斉補助基を持つクロトン酸誘導体に対する有機銅試薬の付加反応(例えば、Helv.Chim.Acta.,1985,68,212を参照。)が知られている。しかし、この方法は高価な不斉補助基を分子内に導入する必要があり、また、廃液処理も問題となる有機銅試薬を当量用いる必要がある等、工業的に適した方法とはいえない。また、ラセミ化合物の光学分割(例えば、特開昭62−265279号公報参照。)も知られているが、分割では目的の立体配置を持つ化合物を最大でも50%しか取得できないため、効率が悪く、半量の望まない立体配置の化合物を廃棄するため環境負荷も大きい。また、シトロネル酸等から誘導する方法(例えば、米国特許第5136020号、及びTetrahedron,1977,33,289を参照。)も知られているが、多段階かつ低収率である等の問題があった。
また、光学活性1−メチルブチルマロン酸の合成例はあるが(J.Am.Chem.Soc.,1950,72,4695を参照。)、ブロモ化と続くマロン酸エステルとのカップリングの際に光学純度が大幅に低下しており、その後光学活性1−メチルブチルマロン酸に誘導した後再結晶を繰り返しても、70%ee程度までしか光学純度を高められないと記載されている。即ち、医農薬中間体として必要とされる高い光学純度を持つ光学活性1−メチルブチルマロン酸は従来の方法では合成できず、その調達のため光学純度を低下させない合成法が必要とされていた。
さらに、光学活性1−メチルヘプチルマロン酸(Nouveau Journal de Chime,1985,9,557を参照。)、並びに放射性元素でラベルされた光学活性1−メチルプロピルマロン酸(J.Am.Chem.Soc.,1980,102,7344を参照。)の合成例が知られている。しかし、マロン酸エステルとの反応の際に長時間(12時間以上)を要すること、ジカルボン酸での再結晶の際に大量の溶媒を必要とする(50倍体積量)こと、脱炭酸反応において高温(180℃)を必要とすること、コストが高く効率的ではない等から、工業的実施において不利な点が多い。更にそれらの化合物の光学純度は旋光度のみで報告されており、正確な光学純度は不明であるという問題も残っている。
【発明の開示】
本発明の目的は、より光学純度の高い(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノール、好ましくは光学純度99.0%e.e.以上の(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを工業的に簡便で、安価に製造できる新規な製造方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、光学活性1−メチルアルキルマロン酸及び光学活性3−メチルカルボン酸を高い光学純度で得ることこができる安価かつ効率的な工業的製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールの製造方法について鋭意検討した結果、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属などに属するある種の微生物を用いることにより、2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンを基質として(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを簡便に、効率よく生成することができることを見出した。さらに、上記微生物の一つとしてイサチェンキア(Issatchenkia)属微生物より2−ペンタノン又は2−ヘキサノンを還元して(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成するカルボニル還元酵素、及び該酵素をコードするDNAを単離してその塩基配列を解析した。さらに、該DNAを発現させた形質転換体を作製し、該形質転換体細胞、該細胞処理物および/または該細胞培養液を、原料となる2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンに作用させることにより、高い光学純度かつ高濃度で目的物(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを得ることができることを見出した。
さらに本発明者らは、光学活性アルコールを脱離基に変換した後、炭素求核剤と処理することで、高い光学純度を維持したまま置換反応を行うことができ、得られた光学活性化合物を加水分解の後、晶析することで、光学活性1−メチルアルキルマロン酸を高い光学純度で効率的に製造できることを見出した。また、光学活性1−メチルアルキルマロン酸を脱炭酸により光学活性3−メチルカルボン酸に変換する際、高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤を用いることで、従来の方法より大幅に温和な条件で反応でき、かつ二酸化炭素の発生を制御できる、工業的に簡便かつ優れた製造法を確立した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノンに作用させ、(S)−2−ペンタノールを製造する方法であって、該微生物若しくは形質転換体細胞が、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノールを生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の方法。
(2) 微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ヘキサノンに作用させ、(S)−2−ヘキサノールを製造する方法であって、該微生物若しくは形質転換体細胞が、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ヘキサノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ヘキサノールを生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の方法。
(3) 2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物、該微生物処理物、該微生物培養液、及び/又は、該微生物から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
(4) 2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物から得られるカルボニル還元酵素をコードするDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物、該細胞培養液、及び/又は、該細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
(5) 微生物が、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)、ブレッタノマイセス・アノマラス(Brettanomyces anomalus)、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、ホルテア・ウェルネッキ(Hortaea werneckii)、イサチェンキア・スクチュラータ(Issatchenkia scutulata)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyceselongisporus)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・ベッセイ(Pichia besseyi)、ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、アルスロバクター・ポリクロモゲネス(Arthrobacter polychromogenes)、アルスロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)、アルスロバクター・スルフロウス(Arthrobacter sulfurous)、ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum)、クロトバクテリウム・フラキュムファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ミクロバクテリウム・ケラタノリチカム(Microbacterium keratanolyticum)、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)、オクロバトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))、パラコッカス・デニトリフィカンス(Pracoccus denitrificans)、リゾビウ厶・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)及び、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)(コリネバクテリクム・ハイドロカルボクラスタム(Corynebacterium hydrocarboclastum))からなる群より選ばれる微生物であることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の製造方法。
(6) 2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、下記(A)〜(F)の何れかのDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物及び/又は該細胞培養液を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1から複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列を有し、カルボニル基を還元し光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列と50%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列番号2に記載の塩基配列を有するDNA。
(E)配列番号2に記載の塩基配列において、1から複数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。
(F)配列番号2に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。
(7) 下記一般式(1)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性を有する(R)又は(S)−1−メチルアルキルマロン酸を高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤の存在下に脱炭酸することを特徴とする、下記一般式(5)

(式中、Rは前記と同義であり、*は不斉炭素を示す。)
で表される(R)又は(S)−3−メチルカルボン酸の製造方法。
(8) 下記一般式(2)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性アルコールをスルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(3)

(式中、Rは前記と同義であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。また、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性化合物を得た後、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(4)

(式中、R、R及びRは前記と同義であり、また、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性化合物とした後、加水分解することを特徴とする下記一般式(1)

(式中、Rは前記と同義であり、*は不斉炭素を示す。)
で表される(R)又は(S)−1−メチルアルキルマロン酸の製造方法。
(9) 下記一般式(1)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学純度が90%ee以上である(R)−1−メチルアルキルマロン酸、又は、(S)−1−メチルアルキルマロン酸。
(10) Rがn−プロピル基又はn−ブチル基であることを特徴とする上記(9)に記載の(R)−1−メチルアルキルマロン酸、又は、(S)−1−メチルアルキルマロン酸。
(11) 2−ペンタノンと反応して(S)−2−ペンタノールを生成する活性を有するカルボニル還元酵素を含有する微生物若しくは形質転換体細胞であって、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノールを生成することができ、かつその生産性が10mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノンに作用させ、(S)−2−ペンタノールへと変換し、得られた(S)−2−ペンタノールを、スルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(6)

(式中、Rはn−プロピル基であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。)
で表される光学活性体へと変換することを含む、一般式(6)で表される光学活性体の製造方法。
(12) 2−ヘキサノンと反応して(S)−2−ヘキサノールを生成する活性を有するカルボニル還元酵素を含有する微生物若しくは形質転換体細胞であって、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ヘキサノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ヘキサノールを生成することができ、かつその生産性が10mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ヘキサノンに作用させ、(S)−2−ヘキサノールへと変換し、得られた(S)−2−ヘキサノールを、スルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(6)

(式中、Rはn−ブチル基であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。)
で表される光学活性体へと変換することを含む、一般式(6)で表される光学活性体の製造方法。
(13) 得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは、前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換する工程をさらに含む、上記(11)又は(12)に記載の方法。
(14) (11)又は(12)に記載の方法により得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換し、
得られた光学活性化合物を加水分解することにより下記一般式(8)

(式中、Rは前記と同義である。)
で表される(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸に変換することを特徴とする、(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸の製造方法。
(15) 上記(11)又は(12)に記載の方法により得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換し、
得られた光学活性化合物を加水分解することにより下記一般式(8)

(式中、Rは前記と同義である。)
で表される(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸に変換し、
さらに得られた(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸を脱炭酸することを特徴とする、(R)−3−メチルヘキサン酸又は(R)−3−メチルヘプタン酸の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明の範囲は、これらの内容によって限定されるものではない。
1.微生物等を用いた光学活性アルコールの製造方法
本発明による(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法は、微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノン(又は2−ヘキサノン)に作用させ、(S)−2−ペンタノール(又は(S)−2−ヘキサノール)を製造する方法であって、該微生物若しくは形質転換体細胞が、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノン(又は2−ヘキサノン)に作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノール(又は(S)−2−ヘキサノール)を生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ペンタノール(又は又は(S)−2−ヘキサノール)/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする方法である。
なお、本明細書で言う2−ペンタノン及び2−ヘキサノンとはいずれも、炭素鎖が直鎖の2−ペンタノン及び2−ヘキサノンのことを意味する。
上記の通り、本発明の方法で用いる微生物若しくは形質転換体細胞は、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノン(又は2−ヘキサノン)に作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノール(又は(S)−2−ヘキサノール)を生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ペンタノール(又は(S)−2−ヘキサノール)/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする。ここで言う溶媒としては、アセトン、トルエン、ジメチルスルフォキシド、2−プロパノールが挙げられ、前処理としては、菌体を浸漬する、又は菌体を浸漬し減圧条件下で乾燥させる等の方法が挙げられる。これらの処理を必要とする微生物または形質転換体細胞を用いた(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノール製造方法は、該処理に労力と費用がかかる、再現性のある結果を得ることが困難である等のため、好ましくない。
生成する(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの光学純度は95%e.e.以上であればよいが、好ましくは98%e.e.以上であり、さらに好ましくは99%e.e.以上である。
また、(S)−2−ペンタノールについての生産性は、1mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であればよいが、好ましくは2mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは5mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは10mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、特に好ましくは20mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上である。
また、(S)−2−ヘキサノールについての生産性は、1mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であればよいが、好ましくは2mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは5mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは10mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは20mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、さらに好ましくは50mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であり、特に好ましくは100mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上である。
本発明の(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法の一例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は該アミノ酸配列のホモログであってカルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質(以下これを単に「カルボニル還元酵素」と称することがある)をコードするDNAを発現させた形質転換株を用いて実施することができる。
本明細書において、カルボニル還元酵素活性とは、カルボニル基含有化合物中のカルボニル基を不斉還元して光学活性なアルコール類とする活性をいう。このような活性は、カルボニル基含有化合物を基質として含有し、さらにNADPH又はNADHを補酵素として含有する反応液において、酵素として、目的のタンパク質、該タンパク質を発現する能力を有する形質転換体、形質転換体処理物、または培養液を作用させ、反応液中のNADPH又はNADHの減少初速度を反応液の吸光度の変化を測定することにより算出することができる。
本発明に用いるカルボニル還元酵素は2−ペンタノン又は2−ヘキサノンから(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成することができる酵素であればよい。本発明に用いるカルボニル還元酵素のカルボニル還元酵素活性を測定するに当たっては、カルボニル基含有化合物を基質として用いるが、カルボニル基含有化合物としては、2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに限らず、その置換体・誘導体等の構造類似化合物も好適に使用することができる。そのような例としては、1−アセトキシ−3−クロロ−2−プロパノン等を挙げることができる。
カルボニル還元酵素は、本明細書の記載によってそのアミノ酸配列および該アミノ酸配列をコードする塩基配列が明らかになったので、後述するようにカルボニル還元酵素のアミノ酸配列の一部又は全部をコードする塩基配列を元にして作製したプローブを用いて、カルボニル還元酵素活性を有する任意の微生物からカルボニル還元酵素をコードするDNAを単離した後、それを元に通常の遺伝子工学的手法を用いて得ることができる。
また、本発明を完成するにあたってなされたように、カルボニル還元酵素活性を有する微生物、すなわち、カルボニル還元酵素をコードするDNAを有する微生物、例えば、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物、好ましくはイサチェンキア(Issatchenkia)属酵母の培養物より精製することができる。
イサチェンキア(Issatchenkia)属酵母としては、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var. scutulata)が好ましく用いることができ、例えば、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var. scutulata)JCM1828株由来のカルボニル還元酵素が特に本発明のカルボニル還元酵素として用いることに光学活性アルコールの製造の点において優れている。本菌株は、理化学研究所微生物系統保存施設(Japan Collection of Microorganism(JCM))より入手可能である。
2−ペンタノンに作用させることにより、(S)−2−ペンタノールを製造する場合のカルボニル還元酵素あるいは該酵素をコードするDNAとしては、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、又は、ピキア(Pichia)属に属する微生物由来のものが好ましく用いられる。
さらに好ましくは、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、ホルテア・ウェルネッキ(Hortaea werneckii)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、アルスロバクター・ポリクロモゲナーゼ(Arthrobacter polychromogenes)、クルトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)、オクロバクトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)由来のものが用いられる。
具体的には、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)NBRC 0629、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)NBRC 0797、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)NBRC 0006、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)CBS 6408、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)JCM 1627、ホルテア・ウェルネッキ(Hortaea werneckii)NBRC 4875、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)NBRC 1676、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)JCM 10740、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)JCM 10741、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)NBRC 12137、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)DSM 20120、アルスロバクター・ポリクロモゲナーゼ(Arthrobacter polychromogenes)DSM 342、クルトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)ATCC 12813、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)NBRC 12550、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 11002、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 11004、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 12043、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)JCM 1353、オクロバクトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)ATCC 49237、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12950、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12952、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12953、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 12048由来のものが特に好ましく用いられる。
また、2−ヘキサノンに作用させることにより、(S)−2−ヘキサノールを製造する場合カルボニル還元酵素あるいは該酵素をコードするDNAとしては、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、又は、ロドトルラ(Rhodotorula)属に属する微生物由来のものが好ましく用いられる。
それらの中で、ブレッタノマイセス・アノマーラ(Brettanomyces anomala)、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、イサチェンキア・スクチュラータ(Issatchenkia scutulata)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)及び、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)由来のものが特に好ましく用いられる。
具体的には、ブレッタノマイセス・アノマーラ(Brettanomyces anomala)NBRC 0627、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)ATCC 10539、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)NBRC 1664、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)JCM 2284、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)JCM 2341、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)NBRC 1977、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)CBS 6408、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchenkia scutulata var.scutulata)JCM 1828、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)NBRC 1676、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)NBRC 1024、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)NBRC 1071 ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)JCM 1830、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)JCM 10740、ピキア・トレハロフィラ(Pichiatrehalophila)JCM 3651及び、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)NBRC 0879、アルスロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)DSM 20407、アルスロバクター・サルフレウス(Arthrobacter sulfureus)(ブレビバクテリウム・サルフレウム(Brevibacterium sulfureum))JCM 1338、ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum)ATCC 21196、ブレビバクテリウ厶・サルフレウム(Brevibacterium sulfureum)JCM 1485、クロトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)ATCC 12813、ミクロバクテリウム・ケラタノリティカム(Microbacterium keratanolyticum)NBRC 13309、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)JCM 1352、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)NBRC 15615、オクロバクトラム・アンスロピー(Ochrobactrum anthropi)ATCC 49237、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12952、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12953、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)NBRC 12442、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 12048、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 13129、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC 15960由来のものが好ましく用いられる。
微生物の培養物からのカルボニル還元酵素の取得方法としては、通常の酵素の精製方法を用いることができ、例えば、以下の方法で行うことができる。上記微生物をYM培地等の酵母の培養に用いられる一般的な培地で培養することで十分に増殖させた後に回収し、DTT(dithiothreitol)等の還元剤や、フェニルメタンスルホニルフルオリド(phenylmethansulfonyl fluoride;PMSF)の様なプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈殿や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲル濾過、疎水、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、キレート、色素、抗体等を用いたアフィニティークロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することが出来る。
例えば、本明細書の実施例に示すように、DEAE Sepharose Fast Flow(Amersham Biosciences社製)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、Butyl Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences社製)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー、MonoQ(Amersham Biosciences社製)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、Superdex 200(Amersham Biosciences社製)を用いたゲル ろ過クロマトグラフィー等を経ることにより電気泳動的にほぼ単一バンドまで精製することができる。
このように精製されたイサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株に由来するカルボニル還元酵素(以下、本酵素を「IsADH1」と称することがある。)は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、SDS−PAGEと省略)によると分子量約40,000Daのサブユニット1種からなり、また、Superdex200 HR10/30(Amersham Biosciences社製)を用いたゲル濾過に決定された分子量は、約40,000Daであった。以上のことから、IsADH1は、約40,000Daのサブユニット1種からなる単量体であると推察される。
カルボニル還元酵素をコードするDNAは、例えば、以下のような方法によって単離することができる。
まず、カルボニル還元酵素を上記の方法等にて精製後、N末端アミノ酸配列を解析し、さらに、リジルエンドペプチダーゼ、V8プロテアーゼなどの酵素により切断し、逆相液体クロマトグラフィーなどによりペプチド断片を精製後、プロテインシーケンサーによりアミノ酸配列を解析することにより複数のアミノ酸配列を決めることができる。
決定したアミノ酸配列を元にPCR用のプライマーを設計し、カルボニル還元酵素生産微生物株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型とし、アミノ酸配列から設計したPCRプライマーを用いてPCRを行うことにより本発明のDNAの一部を得ることができる。さらに、得られたDNA断片をプローブとして、カルボニル還元酵素生産微生物株の染色体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、カルボニル還元酵素をコードするDNAを得ることができる。
また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、得られた配列から、既知のDNAの外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、カルボニル還元酵素生産微生物株のcDNAを用いてRACE(Rapid amplification of cDNA ends)法(Molecular Cloning 3rd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、以下、Molecular Cloning)により本発明のDNAを得ることも可能である。
このようにしてイサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株の染色体DNAから単離されたカルボニル還元酵素IsADH1をコードするDNAの塩基配列は、配列番号2に示すとおりである。
なおカルボニル還元酵素IsADH1をコードするDNAは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、本明細書に記載の通りその塩基配列が明らかになったため、配列番号2に基づく化学合成等によって得ることもできる。
IsADH1をコードするDNAのホモログとは、カルボニル基還元酵素活性を害さない範囲内において配列番号1に記載のアミノ酸配列に一個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものである。ここで複数個とは、具体的には20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下である。
また、IsADH1のホモログとは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上のホモロジーを有するタンパク質をいう。
ちなみに上記タンパク質のホモロジー検索は、例えば、日本DNAデータバンク(DNA Databank of JAPAN(DDBJ))等を対象に、FASTAやBLASTなどのプログラムを用いて行うことができる。配列番号1に記載のアミノ酸配列を用いてDDBJを対象にBLAST programを用いてホモロジー検索を行った結果、既知のタンパク質の中でもっとも高いホモロジーを示したのは、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の機能未知のタンパク質Ydr541cp protein(配列番号3:Accession No.AAB64983)であり、42%の相同性を示した。
また、IsADH1をコードするDNAは、上記IsADH1をコードするDNAまたはそのホモログであって、カルボニル還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAである。
上記タンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含むものが挙げられる。
IsADH1をコードするDNAのホモログとは、カルボニル基還元酵素活性を害さない範囲内において配列番号1に記載のアミノ酸配列に1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAを含む。ここで複数個とは、具体的には60個以下、好ましくは30個以下、より好ましくは10個以下である。
当業者であれば、配列番号2に記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.、vol.10、pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.、vol.100、pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR−A Practical Approach、IRL Press、pp.200(1991))等を用いて適宜置換、欠失、挿入及び/または付加変異を導入することによりIsADH1をコードするDNAのホモログを得ることが可能である。
また、IsADH1のアミノ酸配列またはその一部や、IsADH1をコードするDNAまたはその一部を元に、例えばDNA Databank of JAPAN(DDBJ)等のデータベースに対してホモロジー検索を行って、本発明のタンパク質をコードするDNAホモログの塩基配列情報を手に入れることも可能である。当業者であれば、この塩基配列情報を元に寄託菌株からのPCR等により該DNA断片を手に入れることが可能である。
さらに、IsADH1をコードするDNAのホモログは、IsADH1をコードするDNAまたはその一部をプローブとして用いて、カルボニル還元酵素活性を有する任意の微生物から調製したDNAに対し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等によりストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズするDNAを得ることによっても取得できる。本発明のタンパク質をコードするDNAの「一部」とは、プローブとして用いるのに十分な長さのDNAのことであり、具体的には15bp以上、好ましくは50bp以上、より好ましくは100bp以上のものである。
各ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning等に記載されている方法に準じて行うことができる。
本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNAをプローブとして使用し、ストリンジェントな条件下、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、ストリンジェントな条件としては、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法およびプラークハイブリダイゼーション法においては、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
上記のようにして単離された、カルボニル還元酵素をコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能に挿入することにより、カルボニル還元酵素発現ベクターが提供される。また、この発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、カルボニル還元酵素を該形質転換体から得ることができる。あるいは、形質転換体は、公知の宿主の染色体DNAにカルボニル還元酵素をコードするDNAを発現可能に組み込むことによっても得ることができる。
形質転換体の作製方法としては、具体的には、微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中に、本発明のDNAを導入し、構築された発現ベクターを該微生物中に導入するか、もしくは、直接宿主ゲノム中にカルボニル還元酵素をコードするDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。
このとき、カルボニル還元酵素をコードするDNAが宿主微生物中で発現可能なプロモーターを含んでいない場合には、適当なプロモーターを本発明のDNA鎖の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流にそれぞれ組み込む必要がある。このプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv.Biochem.Eng.43,75−102(1990)、Yeast 8,423−488(1992)などに詳細に記述されている。
本発明のカルボニル還元酵素を発現させるための形質転換の対象となる宿主微生物としては、宿主自体が本反応に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、具体的には以下に示すような微生物を挙げることができる。
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属などに属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属などに属する宿主ベクター系の確立されている放線菌。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属などに属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などに属する宿主ベクター系の確立されているカビ。
上記微生物の中で宿主として好ましくは、エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属であり、特に好ましくは、エシェリヒア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属である。
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築および宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)。
以下、具体的に、好ましい宿主微生物、各微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーターなどの例を挙げるが、本発明はこれらの例に限定されない。
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミドが挙げられ、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどが挙げられる。
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどを挙げることができ、また、染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α−アミラーゼ等の酵素遺伝子のプロモーターやターミネーターなどが利用できる。
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで確立されている一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273−82(1983))を挙げることができる。
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))などのプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57−183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))などのプラスミドベクターが挙げられる。
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80(1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクターを挙げることができる。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae)などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7,283−287(1989))。
また、上記以外でも、各種微生物に応じた宿主ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が確立されており、特に蚕を用いた昆虫などの動物中(Nature 315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系、及び大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽などの無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
本発明は、上記の方法などで得られる配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAをベクターに組み込んで得られる組換え体DNAを保有する形質転換体細胞、又は、該DNAを染色体DNAに組み込んで得られる形質転換体細胞、該形質転換体細胞処理物および/または培養液を、反応基質である2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンに作用させることにより、該化合物のカルボニル基を不斉還元させ、(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを製造することができる。
また本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と50%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAをベクターに組み込んで得られる組換え体DNAを保有する形質転換体、又は、該DNAを染色体DNAに組み込んで得られる形質転換体細胞、該形質転換体細胞処理物および/または培養液を、反応基質である2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンに作用させることにより、該化合物のカルボニル基を不斉還元させ、(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを製造することができる。
また本発明は、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物、該微生物処理物、該微生物培養液、及び/又は、該微生物から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、反応基質である2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンに作用させることにより、該化合物のカルボニル基を不斉還元させ、(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを製造することができる。
2−ペンタノンに作用させることにより、(S)−2−ペンタノールを製造する場合は、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、又は、ピキア(Pichia)属に属する微生物が好ましく用いられ、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、ホルテア・ウェルネッキ(Hortaea werneckii)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、アルスロバクター・ポリクロモゲナーゼ(Arthrobacter polychromogenes)、クルトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)、オクロバクトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)が特に好ましく用いられ、具体的には、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)NBRC 0629、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)NBRC 0797、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)NBRC 0006、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)CBS 6408、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)JCM 1627、ホルテア・ウェルネッキ(Hortaea werneckii)NBRC 4875、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)NBRC 1676、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)JCM 10740、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)JCM 10741、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)NBRC 12137、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)DSM 20120、アルスロバクター・ポリクロモゲナーゼ(Arthrobacter polychromogenes)DSM 342、クルトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)ATCC 12813、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)NBRC 12550、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 11002、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 11004、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)IAM 12043、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)JCM 1353、オクロバクトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)ATCC 49237、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12950、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12952、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12953、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 12048が好ましく用いられる
2−ヘキサノンに作用させることにより、(S)−2−ヘキサノールを製造する場合は、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、又は、ロドトルラ(Rhodotorula)属に属する微生物が好ましく用いられる。
それらの中で、ブレッタノマイセス・アノマーラ(Brettanomyces anomala)、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、イサチェンキア・スクチュラータ(Issatchenkia scutulata)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)及び、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)が特に好ましく用いられる。
具体的には、ブレッタノマイセス・アノマーラ(Brettanomyces anomala)NBRC 0627、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)ATCC 10539、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)NBRC 1664、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)JCM 2284、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)JCM 2341、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)NBRC 1977、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)CBS 6408、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchenkia scutulata var.scutulata)JCM 1828、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyces elongisporus)NBRC 1676、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)NBRC 1024、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)NBRC 1071 ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)JCM 1830、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)JCM 10740、ピキア・トレハロフィラ(Pichiatrehalophila)JCM 3651及び、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)NBRC 0879、アルスロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)DSM 20407、アルスロバクター・サルフレウス(Arthrobacter sulfureus)(ブレビバクテリウム・サルフレウム(Brevibacterium sulfureum))JCM 1338、ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum)ATCC 21196、ブレビバクテリウム・サルフレウム(Brevibacterium sulfureum)JCM 1485、クロトバクテリウム・フラキュファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)ATCC 12813、ミクロバクテリウム・ケラタノリティカム(Microbacterium keratanolyticum)NBRC 13309、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)JCM 1352、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)NBRC 15615、オクロバクトラム・アンスロピー(Ochrobactrum anthropi)ATCC 49237、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12952、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))NBRC 12953、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)NBRC 12442、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 12048、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)IAM 13129、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC 15960が好ましく用いられる。
また、反応基質となる2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンは、通常、基質濃度が0.01〜90%w/v、好ましくは0.1〜30%w/vの範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加しても良いが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。
本発明の製造方法において、2−ペンタノンあるいは2−ヘキサノンのカルボニル基含有化合物(反応基質)に上記形質転換体細胞又はカルボニル還元活性を有する微生物を作用させるにあたっては、該形質転換体細胞又は微生物細胞をそのまま用いることもできるが、該細胞処理物、例えば、凍結乾燥処理したもの、物理的または酵素的に破砕したもの等の細胞処理物、該細胞中のカルボニル還元酵素画分を粗精製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を用いることができる。反応液に添加する形質転換体細胞若しくは微生物細胞及び/又は該細胞処理物の量は、反応液にその細胞の濃度が通常、湿菌体重で0.1〜50%w/v程度、好ましくは1〜20%w/vとなるように添加し、酵素のような調製物を用いる場合には、酵素の比活性を求め、添加したときに上記細胞濃度になるような量を添加する。
また、本発明の製造方法においては、補酵素NADPもしくはNADPH、又はNADもしくはNADHを添加するのが好ましく、補酵素の濃度としては、通常0.001mM〜100mM、好ましくは0.01〜10mM添加する。
上記補酵素を添加する場合には、NADPH(NADH)から生成するNADP(NAD)をNADPH(NADH)へ再生させることが生産効率向上のため好ましく、再生方法としては、1)宿主微生物自体のNADP(NAD)還元能を利用する方法、2)NADP(NAD)からNADPH(NADH)を生成する能力を有する微生物やその処理物、あるいは、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などのNADPH(NADH)の再生に利用可能な酵素(再生酵素)を反応系内に添加する方法、3)形質転換体を製造するに当たり、NADPH(NADH)の再生に利用可能な酵素である上記再生酵素類の遺伝子を本発明のDNAと同時に宿主に導入し発現させる方法、等が挙げられる。
このうち、上記1)の方法においては、反応系にグルコースやエタノール、ギ酸などを添加する方が好ましい。
また、上記2)の方法においては、上記再生酵素類を含む微生物、該微生物菌体をアセトン処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的または酵素的に破砕したもの等の菌体処理物、該酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を用いてもよく、また市販の酵素を用いても良い。
この場合、上記再生酵素の使用量としては、具体的には、本発明のカルボニル還元酵素に比較して、酵素活性で通常0.01〜100倍、好ましくは0.5〜20倍程度となるよう添加する。
また、上記再生酵素の基質となる化合物、例えば、グルコース脱水素酵素を利用する場合のグルコース、ギ酸脱水素酵素を利用する場合のギ酸、アルコール脱水素酵素を利用する場合のエタノールもしくはイソプロパノールなどの添加も必要となるが、その添加量としては、反応原料である2−ペンタノン、又は、2−ヘキサノンに対して、通常0.1〜20倍モル当量、好ましくは1〜5倍モル当量添加する。
また、上記3)の方法においては、カルボニル還元酵素をコードするDNAと上記再生酵素類のDNAを染色体に組み込む方法、単一のベクター中に両DNAを導入し、宿主を形質転換する方法及び両DNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換する方法を用いることができるが、両DNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換する方法の場合、両ベクター同士の不和合性を考慮してベクターを選択する必要がある。
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター及びターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
本発明の製造方法は、反応基質及びカルボニル還元酵素をコードするDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物、該細胞培養液、及び/又は、該細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物、並びに、必要に応じて添加された各種補酵素及びその再生システムを含有する水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行われる。
また、本発明の製造方法は、反応基質及びブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属のカルボニル還元酵素活性を有する微生物、該微生物処理物、該微生物培養液、及び/又は、該微生物から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物、並びに、必要に応じて添加された各種補酵素及びその再生システムを含有する水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行われる。
上記、水性媒体としては、水又は緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、リン酸ナトリウムやリン酸カリウム、トリス、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられ、また、有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、ジメチルスルホキシド等、反応基質の溶解度が高い物を使用することができる。
本発明の方法は、通常4〜60℃、好ましくは10〜45℃の反応温度で、通常pH3〜11、好ましくはpH5〜8で行われる。反応時間は通常、1〜72時間程度である。また、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。
本発明の方法により生成する光学活性アルコールは、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質を遠心分離、膜処理などにより分離した後に、酢酸エチル、トルエンなどの有機溶媒による抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
2.光学活性3−メチルカルボン酸の製造方法
本発明の製造方法において、下記一般式(5)

で表される光学活性3−メチルカルボン酸は、上記一般式(1)で表される光学活性1−メチルアルキルマロン酸を高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤の存在下で脱炭酸することにより製造される。
上記一般式(1)において、Rは炭素数3〜5のn−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、イソプロピル、イソブチル基、イソアミル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基である。これらのうち好ましくはn−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル、イソプロピル基、イソブチル基であり、更に好ましくはn−プロピル基又はn−ブチル基である。
また、*は不斉炭素を示し、R体及びS体のいずれでもよく、好ましくはR体であり、その光学純度は通常80%ee以上、好ましくは90%ee以上であり、特に医薬原体又は中間体として用いる場合、高い光学純度が要求されるため、更に好ましくは95%ee以上であり、特に好ましくは99%ee以上である。
上記脱炭酸反応は、高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤の存在下で加熱してもよいし、低極性溶媒の存在下、又は無溶媒下で高温加熱して行ってもよいが、工業的実施の容易さより高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤の存在下で反応温度を低く抑えることが好ましい。一般的に脱炭酸反応は150℃から200℃の高温条件を必要とするが、通常のグラスライニングの反応器では使用限界温度に近く、昇温、冷却にも時間がかかる上、大量の熱量を必要とするため、反応温度の低温化によるメリットは非常に大きい。また、一般に光学活性1−メチルアルキルマロン酸は常温で固体であるため、無溶媒で反応を行う場合、反応槽に仕込んだ後加熱融解する必要がある。しかし、固体のみが入った状態で通常の反応槽では撹拌ができず、攪拌せずに加熱すると熱伝導効率が極端に悪くなり、また部分昇温による反応暴走の危険があるため現実的ではない。そのため、溶媒を用いて光学活性1−メチルアルキルマロン酸を溶液若しくはスラリー状態で取り扱うことが好ましい。
一方、反応により多量の二酸化炭素が発生するため、工業的規模で実施する際は、安全性確保のため、二酸化炭素の発生速度を制御することが重要である。
二酸化炭素の発生速度を制御する観点から、光学活性1−メチルアルキルマロン酸を溶解した溶液又は加熱融解した光学活性1−メチルアルキルマロン酸を、連続的に滴下し反応することが好ましい。滴下法では反応制御が容易で、かつ通常の反応装置を用いることができる。また、反応で生成する光学活性3−メチルカルボン酸を溶媒として用いることもでき、この場合反応後に除去が必要となる溶媒等を含まないため、精製負荷が小さく好ましい。
また、生成する光学活性3−メチルカルボン酸より高沸点の溶媒を用いることもできる。反応溶媒として生成物よりも高沸点の溶媒を用いることで、反応液を蒸留する際に光学活性3−メチルカルボン酸が第1留出成分として留出するため軽沸点溶媒を用いた場合に問題となる軽沸成分の混入を避けることができ、かつ高沸点溶媒を高沸希釈剤として蒸留容器に残すことで目的物をより多く留出させ、蒸留効率を上げることができる。
減圧下で光学活性1−メチルアルキルマロン酸溶液を反応容器に滴下しながら反応させ、生成した光学活性3−メチルカルボン酸を連続的に留去する反応蒸留も可能である。反応蒸留法では反応制御が容易で、かつ加熱している時間が短時間で済むため、長時間加熱により生じる不純物の生成を抑制でき、好ましい。
光学活性1−メチルアルキルマロン酸溶液を、加熱した反応装置中を流す流通法により、光学活性3−メチルカルボン酸へと変換することもできる。流通法では、反応装置への溶液の供給を制御することで、二酸化炭素発生速度を制御できる。また、加熱している時間が短時間で済むため、長時間加熱により生じる不純物の生成を抑制できるため好ましい。流通反応の反応装置としては、管状反応器、薄膜蒸留器または多段式槽型流通反応器を用いることが好ましい。薄膜蒸留器では減圧下で反応することも可能である。
上記脱炭酸反応で用いられる溶媒としては、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;四塩化炭素、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジトリデシル、トリメリット酸トリオクチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;トルエン、キシレン、テトラデカン、トリデカン、流動パラフィン、モノメチルナフタレン、イソプロイルビフェニル、ジベンジルトルエン、水素化トリフェニル、シリコンオイル等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;蟻酸、酢酸等の有機酸系溶媒;ピリジン、2,6−ルチジン、トリエチルアミン等の塩基性溶媒;ジメチルスルホキシド;水;等が挙げられる。これらから選ばれる複数の溶媒を任意の割合に混合して用いてもよい。高極性の基質や添加剤を溶解させるために高極性溶媒であるアセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ピリジン、酢酸、水等が好ましく、反応加速効果の大きい非プロトン性極性溶媒である、ジメチルスルホキシド、ピリジンが特に好ましい。
また、テトラデカン、トリデカン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリテトラヒドロフラン、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジトリデシル、トリメリット酸トリオクチル、流動パラフィン、モノメチルナフタレン、イソプロイルビフェニル、ジベンジルトルエン、水素化トリフェニル、シリコンオイル等の高沸点溶媒は、蒸留の際に高沸希釈剤として用いられる。
また、溶媒の使用量としては、任意の量の溶媒を用いることができるが、通常は原料基質に対して1〜20倍体積量、好ましくは1〜5倍体積量である。
反応促進のための添加剤を溶媒として用いることも可能である。その場合、光学活性1−メチルアルキルマロン酸を溶解若しくは懸濁させるため、通常基質に対して0.5〜20倍体積量使用される。溶媒の留去回収等の負荷を減らすため、0.5〜3倍体積量が好ましい。
上記脱炭酸反応で用いられる添加剤は、硫酸、塩酸等の鉱酸;塩化ナトリウム、塩化リチウム等の無機塩;酢酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム等の有機塩;シアン化ナトリウム、シアン化銅等のシアン化物;塩化銅、塩化鉄等の重金属塩;酸化銅、酸化銀等の重金属酸化物;ピリジン、2,6−ルチジン、トリエチルアミン、ベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム等の無機塩基;無水酢酸、無水フマル酸等の酸無水物;等が挙げられ、これらを任意の割合に混合して用いてもよい。好ましくは重金属塩、重金属酸化物、有機塩基、酸無水物、およびこれらの混合物であり、更に好ましくは酸化銅、ピリジン、2,6−ルチジン、無水酢酸及びこれらの混合物であり、特に好ましくは比較的安価でかつ反応加速効果が大きく、蒸留で目的物と分離可能なピリジンである。
用いる添加剤の量は、通常基質に対して0.01〜50wt%であるが、急激な二酸化炭素の発生を避け、かつ精製負荷を減らすため必要最低限度に抑えることが好ましく、好ましくは0.01〜5wt%である。
反応温度は通常30〜200℃であり、添加剤の有無、使用する添加剤等の反応条件により必要な温度は異なる。工業的観点から過度の高温反応は装置上の制約を受け実施困難であるとともに、昇温、冷却に長時間を要するため望ましくなく、好ましくは30〜150℃であり、更に好ましくは30〜110℃である。
上記反応で得られる光学活性3−メチルカルボン酸は、蒸留及び/又は抽出等の方法で精製することが好ましい。
3.光学活性1−メチルアルキルマロン酸の製造方法
本発明の光学活性1−メチルアルキルマロン酸は、下記一般式(2)

で表される光学活性アルコールをスルホニルオキシ基へと変換し、下記一般式(3)

で表される光学活性化合物を得た後、下記一般式(9)

で表される炭素求核剤と反応させて得られる下記一般式(4)

で表される光学活性化合物を、加水分解することで製造される。
上記一般式(2)、(3)及び(4)におけるRは本明細書中前記した通りである。
上記一般式(4)及び(9)において、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基であり、好ましくはエステル基である。ここで、RとRは一体となって、5−(1−メチルアルキル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−4,6−ジオン等の環状構造を形成してもよい。
該エステル基のアルコール成分としては反応に悪影響を与えない基であれば特に限定されないが、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキシルアルコール等の直鎖、分岐又は環状のアルキルアルコール;フェノール、ナフトール等のアリールアルコールであり、更に好ましくはメチルアルコール又はエチルアルコールである。
上記一般式(3)において、Xはメシルオキシ基、トシルオキシ基、ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、クロロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基であり、好ましくはメシルオキシ基、トシルオキシ基、ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、クロロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基であり、更に好ましくはメシルオキシ基又はトシルオキシ基である。
上記一般式(1)〜(5)において、*は不斉炭素を示し、その光学純度は通常80%ee以上、好ましくは90%ee以上、更に好ましくは95%ee、特に好ましくは99%ee以上である。絶対立体配置はR体及びS体のいずれでもよく、好ましくは上記一般式(2)及び(3)においてS体であり、上記一般式(1)、(4)及び(5)においてR体である。
原料として用いる光学活性アルコールは、対応するケトンの不斉還元、リパーゼによる分割等を含む不斉反応により、公知の方法で任意に合成することができるが、分割法は望みの立体ではないアルコールもしくはそのエステルを捨てなくてはならない等の問題があり、原料を全て利用できるケトンの不斉還元で合成することが好ましい。更に好ましくは、構造の単純な脂肪族ケトンに対してもカルボニル基を還元して比較的高い光学純度で光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質又は該タンパク質をコードするDNA発現させた微生物又は形質転換体細胞等を作用させる合成方法である。
上記一般式(2)で表される光学活性アルコールをスルホニルオキシ基へと変換する方法としては、水酸基のスルホニル化が挙げられる。
水酸基のスルホニル化法としては、メシルクロリド、メシル酸無水物等のメシル化剤;トシルクロリド、トシル酸無水物等のトシル化剤;トリフルオロメタンスルホン酸無水物等のトリフレート化剤;等を用いる方法が挙げられる。
好ましいスルホニルオキシ基として、メシル基、トシル基、ニトロベンゼンスルホニル基、クロロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニル基が挙げられ、更に好ましくは工業的に安価に導入できるメシル基又はトシル基である。
上記反応において使用されるスルホニル化剤の量は、基質に対して1〜10当量、好ましくは1〜2当量である。
用いられる溶媒としては、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらから選ばれる複数の溶媒を任意の割合に混合して用いてもよい。好ましい溶媒として、安価で回収も容易なジクロロメタン、酢酸エチル、トルエンが挙げられる。
また、溶媒の使用量としては、任意の量の溶媒を用いることができるが、通常は原料基質に対して2〜50倍体積量、好ましくは3〜10倍体積量である。
上記反応において、塩基を共存させることが好ましい。用いられる塩基としては、トリエチルアミンやピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、好ましくは有機塩基であり、更に好ましくはトリエチルアミン、ピリジンである。
用いる塩基の当量は、通常副生する酸を中和するために必要な量であり、基質に対して1〜10当量、好ましくは1〜2当量であるが、塩基を溶媒として用いてもよい。
反応温度は通常−20〜100℃であり、導入する脱離基及び/又は反応条件により最適点は異なる。特に好ましいメシル基またはトシル基の場合、好ましくは0〜40℃である。
反応時間は任意に設定できるが、10時間以内に行うことが、製造コストを抑える観点からも好ましい。
上記反応で用いられる一般式(9)で表される炭素求核剤としては、マロン酸エステル、マロン酸、マロノニトリル、マロン酸モノエステル、シアノ酢酸、シアノ酢酸エステル、メルドラム酸が挙げられ、好ましくはマロン酸エステル、マロノニトリル、シアノ酢酸エステルであり、更に好ましくは工業的に安価かつ加水分解の容易なマロン酸エステルである。
該エステルのアルコール成分としては、反応に悪影響を与えない基であれば特に限定されないが、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール等の直鎖、分岐又は環状のアルキルアルコール;フェノール、ナフトール等のアリールアルコールであり、更に好ましくはメチルアルコール又はエチルアルコールである。
用いる炭素求核剤の量は、通常基質に対して1〜10当量であるが、同じ炭素求核剤に2分子の基質が反応したジアルキル体の生成を抑制するため、基質より過剰に用いることが好ましく、基質に対して1〜3当量、更に好ましくは1.2〜2.0当量である。
上記反応において、用いられる塩基としては、水素化ナトリウム、水素化リチウム等の水素化金属化合物;リチウムジイソプロピルアミド、カリウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド化合物;n−ブチルリチウム、イソプロピルマグネシウムブロミド等の有機金属化合物;ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;等が挙げられ、好ましくは水素化金属化合物、アルカリ金属及び金属アルコキシドであり、更に好ましくは水素化ナトリウム、ナトリウム及びナトリウムメトキシドである。
用いる塩基の当量は、基質に対して1〜10当量、好ましくは1〜3当量である。
用いられる溶媒としては、ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これらから選ばれる複数の溶媒を任意の割合に混合して用いてもよい。好ましい溶媒として、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエンが挙げられ、更に好ましくは、高極性で円滑に反応が進行し、かつ抽出の際に水層と分液可能で、混入しても次工程で問題とならないテトラヒドロフランが挙げられる。
また、溶媒の使用量は、任意の量を用いることができ、通常は原料基質に対して0.5〜20倍体積量であるが、円滑に反応が進行するのであれば、より少ない方が反応速度を速めるため好ましく1〜8倍体積量、更に好ましくは2〜4倍体積量である。
反応温度は、通常0〜100℃であり、脱離基、炭素求核剤の種類や反応条件により最適点は異なる。ラセミ化抑制のため、反応時間が長くなり過ぎない範囲でかつ低い温度が好ましく、特に好ましいメシル基又はトシル基を有する上記一般式(3)とマロン酸エステルとの反応の場合、好ましくは30〜100℃であり、更に好ましくは50〜80℃である。
反応時間は、脱離基、炭素求核剤の種類や反応条件に大きく依存するが、10時間以内に行うことが、製造コストを抑える観点からも好ましい。但し、反応時間を短縮するために高温等の過激な反応条件を用いると、生成物の光学純度が低下するため、反応時間、温度、溶媒等の適切な条件を選択する必要がある。
上記反応で得られる一般式(4)で表される光学活性化合物は、上記一般式(1)で表される光学活性1−メチルアルキルマロン酸へと変換するにあたり、精製せず反応溶液のまま用いることもできるが、蒸留及び/又は抽出等の方法で精製することが、より高純度の光学活性1−メチルアルキルマロン酸を得ることができるため好ましい。
光学活性1−メチルアルキルマロン酸へと変換する方法は、酸処理、アルカリ処理等でエステル基及び/又はシアノ基をカルボキシル基に変換する方法等が挙げられ、シアノ基をエステル基に変換した後加水分解をする等の段階的手法で行ってもよいが、含水溶媒中単段階で行う方が工程数を削減できるので好ましい。
上記反応で用いられる試薬は、硫酸、塩酸等の鉱酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ナトリウムメトキシド等の有機塩基;等が挙げられる。好ましくは工業的に安価に使用できる水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、塩酸である。
用いられる溶媒としては、プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;蟻酸、酢酸等の有機酸系溶媒;ジメチルスルホキシド;水;等が挙げられる。これらから選ばれる複数の溶媒を任意の割合に混合して用いてもよい。加水分解を行うため、水又は水と混和する溶媒と水の混合溶媒系が好ましく、水と混和する溶媒として、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、酢酸が挙げられ、更に好ましくは水である。
また、溶媒の使用量としては、任意の量の溶媒を用いることができるが、通常は原料基質に対して1〜20倍体積量、好ましくは2〜8倍体積量である。
上記一般式(1)で表される光学活性1−メチルアルキルマロン酸は結晶性のよい化合物であり、光学純度が十分でない場合には、晶析により光学純度を高めることが好ましい。晶析後の光学純度は、好ましくは90%ee以上であり、特に医薬原体又は中間体として用いる場合、高い光学純度が要求されるため、更に好ましくは95%ee以上、特に好ましくは99%ee以上である。
晶析には、抽出液等の溶液から結晶を析出させる通常の晶析法の他に、濃縮、冷却、溶媒添加等の操作により一度析出した結晶を、溶媒添加、過熱等により溶かし、そこから結晶を析出させる再結晶、生じた結晶を溶媒で洗う懸洗等の方法が含まれる。
用いられる溶媒としては、プロピルエーテル、メチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;水;等が挙げられる。これらから選ばれる複数の溶媒を任意の割合に混合して用いてもよい。好ましくは安価でかつ結晶の乾燥も容易なプロピルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、酢酸エチルであり、更に好ましくは引火点が比較的高く工業的に扱い易いヘプタン、トルエン、キシレン、酢酸エチルであり、特に好ましくは目的物の溶解度が適当な範囲で、混入する不純物の溶解度が比較的高く、かつ単一溶媒で結晶を析出させることのできるトルエンである。
また、溶媒は任意の量を用いることができ、通常は原料基質に対して1〜50倍体積量であるが、溶媒量は結晶化のスケールや溶媒コストに関わるため結晶化の目的を達成できる範囲で極力少ない方がよく、好ましくは1〜20倍体積量、更に好ましくは1〜10倍体積量である。
4.光学活性1−メチルアルキルマロン酸
本発明の光学活性1−メチルアルキルマロン酸は、下記一般式(1)

で表される化合物である。
上記一般式(1)において、Rは炭素数3〜5のn−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、イソプロピル、イソブチル基、イソアミル基、シクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基である。これらのうち好ましくはn−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル、イソプロピル基、イソブチル基であり、更に好ましくはn−プロピル基又はn−ブチル基である。
また、*は不斉炭素を示し、R体及びS体のいずれでもよく、好ましくはR体であり、その光学純度は通常80%ee以上、好ましくは90%ee以上であり、特に医薬原体又は中間体として用いる場合、高い光学純度が要求されるため、更に好ましくは95%ee以上、特に好ましくは99%ee以上である。
本発明を以下の実施例により更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例の記載により限定されるものではない。
【実施例】
実施例A(微生物を用いた光学活性を有するアルコールの製造)
(1)2−ペンタノンから(S)−2−ペンタノールを生成する微生物、及び、2−ヘキサノンから(S)−2−ヘキサノールを生成する微生物の単離
イーストエキス(Difco社製) 5g/L、ポリペプトン(日本製薬社製) 5g/L,麦芽エキス(Difco社製) 3g/L、グルコース(日本食品加工社製) 20g/Lの組成からなる液体培地2.5mLに、表1に示した各種の菌株を接種し、30℃で24から72時間好気的に培養した。得られた各培養液から1mLづつ培養液を採取し遠心分離により菌体を集めた。この菌体にトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を0.04mL、脱塩水を0.028mL加え、菌体を十分に懸濁させたのちに、グルコース100g/Lを0.05mL、NADP(オリエンタル酵母社製)12g/Lを0.02mL添加し、さらに反応基質として2−ペンタノン又は2−ヘキサノンをイソプロパノールに100g/Lとなるように溶かした溶液を0.01mL加え、30℃で20時間反応させた。
反応終了後の反応液を酢酸エチルで抽出し、生成した(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの定量を行った。生成物の定量は、酢酸エチル抽出溶液をガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。GCの条件は以下の通りである。
カラム:β−DEX120(SUPELCO社製、30m×0.25mmID、0.25μm film)
キャリア:He 1.5ml/min、 split 1/50
カラム温度:(S)−2−ペンタノールの定量時は50℃、(S)−2−ヘキサノールの定量時は65℃
注入温度:250℃
検出:FID 250℃
GC:島津GC−14A
(S)−2−ペンタノールの定量結果を表1に、(S)−2−ヘキサノールの定量結果を表2に示す。




(2)イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ JCM1828株由来カルボニル還元酵素の単離
イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var. scutulata)JCM1828株を2Lの培地(グルコース80g、酵母エキス(Difco社製)20g、ペプトン(極東製薬製)40g/L)で培養し、遠心分離により菌体を調製した。得られた湿菌体150gを10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)、0.1mM DTT(以下これを単に「バッファー」と称する)で懸濁し、ダイノーミルKDL(シンマルエンタープライゼス製)により破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液に90g/Lの濃度になるようPEG6000を添加し4℃で1時間静置後、遠心分離により沈殿を除去した。この上清より、DEAE Sepharose Fast Flow(Amersham Biosciences社製)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、Butyl Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences社製)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー、Mo noQ(Amersham Biosciences社製)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、及びSuperdex 200(Amersham Biosciences社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーを経ることにより、目的のカルボニル還元酵素を電気泳動的に単一バンドまで精製した。
精製の際、カルボニル還元酵素の活性は、酵素液を含む反応液(100mM Tris−HCl pH7.5、0.32mM NADPH、2mM 1−アセトキシ−3−クロロ−2−プロパノン)を37℃で反応させ、NADPHの消費量を340nmの吸光度の減少から算出することにより測定した。吸光度の測定にはSPECTRAmax 190(Molecular Devices社製)を使用した。尚、上記反応において1分間に1nmolのNADPHを消費する活性を1Uとした。
イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ JCM1828株由来カルボニル還元酵素の精製の結果を表3に示す。

上記表3の精製段階のSuperdex200活性画分をポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により解析した結果、精製されたタンパク質はほぼ単一バンドであり、その分子量は約40,000Daであった。
(3)IsADH1の基質特異性
様々なカルボニル化合物について上記(2)で精製したカルボニル還元酵素液を含む反応液(100mM Tris−HCl pH7.5、0.32mM NADPH、2mM 基質)を調製し、37℃で反応させた。反応液中のNADPHの消費量を340nmの吸光度によりモニターすることによりそれぞれの化合物に対するカルボニル還元酵素活性を測定した。吸光度の測定にはSPECTRAmax 190(Molecular Devices社製)を使用した。1−アセトキシ−3−クロロ−2−プロパノンに対するカルボニル還元酵素活性を100とした時の、各基質化合物に対するカルボニル還元酵素の相対活性を表4に示す。

(4)IsADH1のアミノ酸配列の解析
前記(2)で得られた上記表3の精製段階のSuperdex200のカルボニル還元酵素を含む画分を脱塩、濃縮後、エドマン法によりN末端アミノ酸の解析を行い18残基のN末端アミノ酸配列を決定した。結果を配列番号4に示す。
また、精製したカルボニル還元酵素を、リジルエンドペプチダーゼを用いた消化法(タンパク質実験ノート・下、羊土社)により消化して得たペプチドを逆相HPLC(アマシャム バイオサイエンス社製 μRPC C2/C18 PC3.2/3)を用い、ペプチドを分離し、分取した。分取したペプチドピーク1種をエドマン法によりアミノ酸配列の解析を行い、アミノ酸配列を配列番号5に示した。
(5)IsADH1をコードするDNAの配列解析及び形質転換体の作製
イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株を前記(2)に示した培地で培養し、菌体を調製した。
菌体からのゲノムDNAをDNeasy tissue kit(Qiagen社製)を用いて抽出、精製した。得られたゲノムDNAを元に、逆転写酵素SuperScript II Reverse Transcriptase(インビトロジェン社製)を用いて、酵素添付のプロトコルによりcDNAを合成した。
前記(4)で得られた配列番号4のN末端アミノ酸配列を元にセンスデジェネレイト(degenerate)プライマー及び配列番号5の内部アミノ酸配列を元にアンチセンスのデジェネレイト(degenerate)プライマーを計2種類合成した。それぞれの塩基配列を配列番号6,7に示した。この2種のプライマーを用いて、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株のcDNAに対してデジェネレイト(degenerate)PCRを行ったところ、約350bpの増幅断片が認められた。
このDNA断片を、アガロースゲル電気泳動を行い、約350bpの断片のバンドを切り出しMinElute Gel Extraction Kit(Qiagen社製)にて精製して回収した。得られたDNA断片を、pGEM−Teasy Vector(Promega社製)にライゲーションし、大腸菌DH5α株(東洋紡社製)を形質転換した。形質転換株を、アンピシリン(100μg/mL)を含むLB寒天培地で生育させ、いくつかのコロニーを用いて、T7プライマー(Promega社製)とSP6プライマー(Promega社製)を用いたコロニーダイレクトPCRを行い、挿入断片のサイズを確認した。目的とするDNA断片が挿入されていると考えられるコロニーを、100μg/mLアンピシリンを含むLB培地で培養し、QIAPrep Spin Mini Prep kit(Qiagen社製)によりプラスミドを精製した。
精製したプラスミドを用いて、挿入DNAの塩基配列をダイターミネーター法により解析した。決された塩基配列を配列番号8として示した。
次に、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株のゲノムDNAを元に、Molecular cloning記載の方法に従ってRACE反応用のcDNAを合成し、同文献記載の方法で5’−及び3’−RACE反応を行った。反応には上記塩基配列を元に設計した配列番号9および10に示す2種の遺伝子特異的プライマーを用いた。
RACE反応による増幅遺伝子断片の配列解析の結果、本カルボニル還元酵素の推定cDNA配列を配列番号11に、該DNAがコードするアミノ酸配列を配列番号1に示した。配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号2に示した。
引き続き、上記配列番号11に記載の配列を元に、クローニング用のプライマーとして配列番号12に記載の塩基配列及び配列番号13に記載の塩基配列を合成し、上記プライマーを各50pmol、dNTP各1000nmol、イサチェンキア・スクチュラータ変種スクチュラータ(Issatchankia scutulata var.scutulata)JCM1828株のcDNA 250ng、ExTaq DNApolymerase用10×緩衝液(タカラバイオ社製)10μL、ExTaq DNA polymerase 5ユニット(タカラバイオ社製)を含む100μLの反応液を用い、変性(95℃、1分)、アニール(58℃、1分)、伸長(72℃、1分)を30サイクル、PTC−200(MJ Research社製)を用いて行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、特異的と思われるバンドが検出できた。
上記反応液をMinElute PCR Purification kit(Qiagen社製)にて精製した。精製したDNA断片を制限酵素EcoRIとXbaIで消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Qiagen Gel Extraction kit(Qiagen社製)により精製後回収した。得られたDNA断片を、EcoRI、及びXbaIで消化したpUC118とLigation high(東洋紡績社製)を用いて、ライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。
形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むLB寒天培地上で生育させ、コロニーダイレクトPCRを行い、挿入断片のサイズを確認した。
目的とするDNA断片が挿入されていると考えられる形質転換体を50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で培養し、QIAPrepSpin Mini Prep kit(Qiagen社製)を用いてプラスミドを精製し、pUCIsADH1とした。
プラスミドに挿入したDNAの塩基配列をダイターミネーター法により解析したところ、挿入されたDNA断片は、配列番号2の塩基配列と一致した。
(6)IsADH1をコードするDNAによって形質転換した大腸菌を用いた(S)−2−ペンタノールの合成
前記(5)で得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含むCircle Grow培地100mL(BIO 101社製)を10連で30℃で30時間培養した。得られた菌体を遠心分離により集菌後、下記に示す方法により、2−ペンタノンを基質として(S)−2−ペンタノールの合成を行った。
上記菌体10gに0.6g/L NADP(オリエンタル酵母社製)20mg、1Mトリス塩酸バッファー(pH7.0)10mL、100g/L グルコース40mL、グルコースデヒドロゲナーゼ(天野製薬社製、76unit/mg)20mg、2−ペンタノン(東京化成社製、ニート)1gを添加後30℃で8時間反応させた。反応時のpHを2M 炭酸ナトリウムで7.0に保った。反応終了後の反応液を酢酸エチル抽出し、生成した(S)−2−ペンタノールの定量を行った。
定量は酢酸エチル溶液をガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。GCの条件は以下の通りである。
カラム:β−DEX120(SUPELCO社製、30m×0.25mmID、0.25μm film)
キャリア:He 1.5ml/min、 split 1/50
カラム温度:50℃
注入温度:250℃
検出:FID 250℃
GC:島津GC−14A
この結果、(S)−2−ペンタノールの収量は0.99gであり、光学純度は>99.0%e.e.であった。
(7)IsADH1をコードするDNAによって形質転換した大腸菌を用いた(S)−2−ヘキサノールの合成。
前記(6)で得られた形質転換体を用い下記に示す方法により、2−ヘキサノンを基質として(S)−2−ヘキサノールの合成を行った。
上記菌体10gに0.6g/L NADP(オリエンタル酵母社製)20mg、1Mトリス塩酸バッファー(pH7.0)10mL、100g/L グルコース40mL、グルコースデヒドロゲナーゼ(天野製薬社製、76unit/mg)20mg、2−ヘキサノン(東京化成社製、ニート)1gを添加後30℃で6時間反応させた。反応時のpHを2M 炭酸ナトリウムで7.0に保った。反応終了後の反応液を酢酸エチル抽出し、生成した(S)−2−ヘキサノールの定量を行った。
定量は酢酸エチル溶液をガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。GCの条件は以下の通りである。
カラム:β−DEX120(SUPELCO社製、30m×0.25mmID、0.25μm film)
キャリア:He 1.5ml/min、 split 1/50
カラム温度:65℃
注入温度:250℃
検出:FID 250℃
GC:島津GC−14A
この結果、(S)−2−ヘキサノールの収量は0.99gであり、光学純度は>99.0%e.e.であった。
(8)IsADH1をコードするDNAによって形質転換した大腸菌を用いた(S)−2−ペンタノールの合成(スケールアップ)
前記(6)で得られた形質転換体を用い下記に示す方法により、2−ペンタノンを基質として(S)−2−ペンタノールの合成を行った。
上記菌体140g(乾燥菌体重量として約42gに相当)もNADP(オリエンタル酵母社製)84mg、1M トリス塩酸バッファー(pH7.0)140mL、グルコース 118g、グルコースデヒドロゲナーゼ(天野製薬社製、76unit/mg)40mg、2−ペンタノン(東京化成社製、ニート)28gを添加後、脱塩水を加え反応容量を1.4Lとし30℃で16時間反応させた。反応時のpHを2M 炭酸ナトリウムで7.0に保った。反応終了後の反応液を酢酸エチル抽出し、生成した(S)−2−ペンタノールの定量を行ったところ(S)−2−ペンタノールの収量は17.2gであり、光学純度は>99.0%e.e.であった。
(9)IsADH1をコードするDNAによって形質転換した大腸菌を用いた(S)−2−ヘキサノールの合成(スケールアップ)
前記(6)で得られた形質転換体を用い下記に示す方法により、2−ヘキサノンを基質として(S)−2−ヘキサノールの合成を行った。
上記菌体50g(乾燥菌体重量として約15gに相当)もNADP(オリエンタル酵母社製)30mg、1Mトリス塩酸バッファー(pH7.0)50mL、グルコース 54g、グルコースデヒドロゲナーゼ(天野製薬社製、76unit/mg)20mg、2−ヘキサノン(東京化成社製、ニート)15gを添加後、脱塩水を加え反応容量を500mLとし30℃で7.5時間反応させた。反応時のpHを2M 炭酸ナトリウムで7.0に保った。反応終了後の反応液を酢酸エチル抽出し、生成した(S)−2−ヘキサノールの定量を行った結果、(S)−2−ヘキサノールの収量は15.1gであり、光学純度は>99.0%e.e.であった。
実施例B(化学合成による光学活性カルボン酸の製造)
[実施例1](S)−2−メタンスルホニルオキシペンタンの合成
200mlの3つ口フラスコに、(S)−2−ペンタノール4.14g(47.0mmol,99.1%ee)とトリエチルアミン9.8ml(71mmol)、ジクロロメタン41mlを仕込んだ。この混合液を氷冷し、メタンスルホニルクロリド4.36ml(56.4mmol)を滴下した。その後30分撹拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液40mlと水20mlを添加して反応を停止させた。混合物をジエチルエーテル80mlで抽出し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液20mlと飽和食塩水20mlで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去し、粗(S)−2−メタンスルホニルオキシペンタン8.5gを得、更に精製することなく次の反応に用いた。

[実施例2](R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチルの合成
実施例1で得られた粗(S)−2−メタンスルホニルオキシペンタン8.5gとマロン酸ジエチル14.2g(88mmol)、DMF22mlを200mlのナス型フラスコに仕込んだ。この混合液を氷冷し、60%水素化ナトリウム(油性)3.5g(88mmol)を添加した。その後60℃で5時間、80℃で3時間反応させた後、室温にて飽和塩化アンモニウム水溶液40mlと水10mlを添加して反応を停止させた。混合物を酢酸エチル100mlで抽出し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液20ml、水20ml、飽和食塩水20mlで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチルを7.77g(無色油状物質、33.8mmol、収率72%)得た。

[実施例3](R)−(1−メチルブチル)マロン酸の合成
実施例2で得られた(R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチル7.77g(33.5mmol)と25%水酸化ナトリウム水溶液16.1g(100mmol)、エタノール3.9ml、水15.4mlを200mlのナス型フラスコに仕込んだ。この混合液を60℃で1.5時間反応させた後、室温にて濃塩酸9mlを添加して酸性にした。混合液に食塩を加え飽和させた後、酢酸エチル100mlで抽出した。水層を酢酸エチル50mlで再抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去後、ヘキサン58mlと酢酸エチル5.8mlから晶出し、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸を4.73g(白色板状結晶、27.1mmol、収率81%)得た。キラル分析の結果、光学純度は99.3%eeであった(Supelco,β−DEX120,inj.300℃,FID250℃,Det.250℃,Oven130℃、インジェクション時に脱炭酸して生じる3−メチルヘキサン酸を分析)。


[実施例4](S)−2−メタンスルホニルオキシヘキサンの合成
300mlの3つ口フラスコに、(S)−2−ヘキサノール6.3g(62mmol,99.7%ee)とトリエチルアミン13ml(93mmol)、酢酸エチル126mlを仕込んだ。この混合液を氷冷し、メタンスルホニルクロリド5.7ml(74mmol)を滴下した。その後30分攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液40mlと水20mlを添加して反応を停止させ、水層を分離した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液20mlと飽和食塩水20mlで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去し、粗(S)−2−メタンスルホニルオキシヘキサン10.8gを得、さらに精製することなく次の反応に用いた。

[実施例5](R)−(1−メチルペンチル)マロン酸ジエチルの合成
実施例4で得られた粗(S)−2−メタンスルホニルオキシヘキサン10.8gとマロン酸ジエチル19.2g(120mmol)、DMF32mlを200mlのナス型フラスコに仕込んだ。この混合液を氷冷し、60%水素化ナトリウム(油性)4.8g(120mmol)を添加した。その後60℃で1時間、80℃で3時間反応させた後、室温にて飽和塩化アンモニウム水溶液50mlと水10mlを添加して反応を停止させた。混合物を酢酸エチル100mlで抽出し、有機層を水30mlで2回と飽和食塩水30mlで洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、(R)−(1−メチルペンチル)マロン酸ジエチルを12.0g(無色油状物質、49mmol、収率82%)得た。

[実施例6](R)−(1−メチルペンチル)マロン酸の合成
実施例5で得られた(R)−(1−メチルペンチル)マロン酸ジエチルを11.7g(48mmol)と25%水酸化ナトリウム水溶液23g(144mmol)、エタノール5.9ml、水24mlを100mlのナス型フラスコに仕込んだ。この混合液を60℃で2時間反応させた後、室温にて濃塩酸13mlを添加して酸性にした。混合液に食塩を加え飽和させた後、酢酸エチル120mlで抽出した。水層を酢酸エチル40mlで再抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去後、ヘキサン90mlと酢酸エチル18mlから晶析し、(R)−(1−メチルペンチル)マロン酸を6.5g(白色柱状結晶、35mmol、収率72%)得た。

[実施例7](R)−3−メチルヘキサン酸の合成
実施例3で得られた(R)−(1−メチルブチル)マロン酸4.56g(26.2mmol)を50mlのナス型フラスコに仕込み、180℃に昇温した。気体の発生が止まってから更に10分間撹拌した後、室温に冷却した。得られた粗生成物を減圧蒸留し、(R)−3−メチルヘキサン酸を2.05g(無色油状物質、沸点77℃/3mmHg、15.7mmol、収率60%)得た。キラル分析の結果、光学純度は99.2%eeであった(Supelco,β−DEX120,inj.250℃,FID250℃,Det.250℃,Oven130℃)。

[実施例8](R)−3−メチルヘプタン酸の合成
実施例6で得られた(R)−(1−メチルペンチル)マロン酸3.00g(15.9mmol)を20mlのナス型フラスコに仕込み、180℃に昇温した。気体の発生が止まってから更に10分間攪拌した後、室温に冷却した。得られた粗生成物を減圧蒸留し、(R)−3−メチルヘプタン酸を1.69g(無色油状物質、沸点86℃/4mmHg、11.7mmol、収率74%)得た。

[実施例9](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(ピリジン溶媒)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸1.00g(5.8mmol)、ピリジン2mlを15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。90℃から反応が開始し、130℃まで115分かけて昇温、更に30分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例10](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(DMSO溶媒)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、DMSO4mlを15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。100℃から反応が開始し、140℃まで75分かけて昇温、更に20分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例11](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(ピリジン添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、ピリジン182mg(2.3mmol)を15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。100℃から反応が開始し、150℃まで95分かけて昇温、更に15分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例12](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(DABCO添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)258mg(2.3mmol)を15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。100℃から反応が開始し、140℃まで95分かけて昇温、更に15分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例13](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(DBU添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)350mg(2.3mmol)を15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。110℃から反応が開始し、140℃まで50分かけて昇温、更に20分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例14](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(無水酢酸触媒・ピリジン溶媒)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸1.00g(5.8mmol)、ピリジン2mlを15mlのスリ付き試験管に仕込み、無水酢酸294mg(2.88mmol)を添加した。室温で2時間、40℃で1時間攪拌後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は99.8%であった。
[実施例15](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(硫酸添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、硫酸113mg(1.15mmol)を15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。130℃から反応が開始し、180℃まで100分かけて昇温、更に20分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例16](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(Fe3O4添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、酸化鉄(Fe3O4)40mg(2wt%)を15mlのスリ付き試験管に仕込み昇温した。130℃から反応が開始し、180℃まで100分かけて昇温、更に20分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
[実施例17](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(酸化銅(I)添加)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸2.00g(11.5mmol)、酸化銅(I)82.8mg(0.58mmol)、アセトニトリル20mlを100mlのフラスコに仕込み、加熱還流させた。6時間反応後、室温に冷却し、HPLCで分析したところ、転化率は64.3%であった。
[実施例18](R)−3−メチルヘキサン酸の合成(添加剤なし)
窒素雰囲気下、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸3.00g(17.2mmol)をナス型フラスコに仕込み昇温した。130℃から反応が開始し、180℃まで75分かけて昇温、更に15分間撹拌した後、室温に冷却した。HPLCで分析したところ、転化率は100.0%であった。
上記した実施例9から18の結果を以下の表5に示す。

[実施例19](S)−2−メタンスルホニルオキシペンタンの合成
2Lのセパラブルフラスコに、(S)−2−ペンタノール100g(1.13mol、100%ee)を含有する酢酸エチル溶液417gとトリエチルアミン149g(1.47mol)を仕込んだ。この溶液を5℃に冷却し、メタンスルホニルクロリド156g(1.36mol)を滴下した。その後、室温で1時間撹拌した後、水440gを添加して反応を停止させた。水層を除去して有機層に10%食塩水267gを添加した後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で水層のpHを中性にした。水層を除去して溶媒を留去した後、トルエン添加、濃縮を2回繰り返し、粗(S)−2−メタンスルホニルオキシペンタン 191g(淡褐色油状物質、化学純度93.5%、1.07mol、収率94.6%)を得た。
[実施例20](R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチルの合成
4000mlのセパラブルフラスコに60%水素化ナトリウム(油性)71.7g(1.79mol)、THF605gを仕込んだ。マロン酸ジエチル287g(1.79mol)とTHF28.4gを25〜40℃で反応液に滴下しとTHF28.4gで洗い流した。65〜70℃に昇温後、粗(S)−2−メタンスルホニルオキシペンタン266g(純度80.1%、1.28mol)とTHF28.4gを添加した。その後還流下6時間反応させた後、室温にて水638mlを添加後、濃塩酸を加え、pHを6〜7に調整した。水層を除去後、溶媒を留去して、粗(R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチルを443g(無色油状物質、純度59.9%、1.15mol、収率90.5%)を得た。
[実施例21](R)−(1−メチルブチル)マロン酸の合成
粗(R)−(1−メチルブチル)マロン酸ジエチル439g(純度59.9%、1.14mmol)と25%水酸化ナトリウム水溶液6650g(4.04mol)、水797mlを4000mlのセパラブルフラスコに仕込んだ。この混合液を65−70℃で6時間反応させた後、冷却した。反応液を一旦抜き出し、濃塩酸421g(4.05mol)をフラスコへ仕込んだ後、反応液を滴下した。混合液のpHは1.1であった。混合液を酢酸エチル717gで抽出した。有機層を0.26M塩酸532mlで洗浄し、溶媒を留去、トルエンで置換した。トルエン974gから晶析し、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸を170g(白色板状結晶、純度95.3%、0.931mmol、収率81.7%)得た。キラル分析の結果、光学純度は99.7%eeであった。
[実施例22](R)−3−メチルヘキサン酸の合成
窒素雰囲気下、ピリジン89gを1Lのナス型フラスコに仕込み、110℃に昇温し、(R)−(1−メチルブチル)マロン酸140g(766mmol、純度95.4%)をピリジン147gに溶解させた溶液を5時間かけて滴下した。さらに1時間攪拌した後、室温に冷却し、(R)−3−メチルヘキサン酸のピリジン溶液329gを得た。HPLCで分析したところ、転化率は100%、収率は定量的であった。
反応で得られた(R)−3−メチルヘキサン酸169g(1.29mmol)を含むピリジン溶液754gを約50Torrで減圧蒸留してピリジンを除去し、粗(R)−3−メチルヘキサン酸を197g得た。この粗(R)−3−メチルヘキサン酸190gを約10Torrで精留し、(R)−3−メチルヘキサン酸を152g(無色油状物質、1.17mol、収率90%、純度99.3%)得た。キラル分析の結果、光学純度は99.5%eeであった。
【産業上の利用可能性】
本発明の方法により、医薬、農薬等の中間体原料として産業上有用な化合物である(S)−2−ペンタノールあるいは(S)−2−ヘキサノールを高光学純度かつ高濃度で得ることができる。
本発明によれば、安価かつ効率のよい工業的製造方法で、医農薬中間体として有用な光学活性1−メチルアルキルマロン酸及び光学活性3−メチルカルボン酸を高い光学純度で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノンに作用させ、(S)−2−ペンタノールを製造する方法であって、該微生物若しくは形質転換体細胞が、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノールを生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の方法。
【請求項2】
微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ヘキサノンに作用させ、(S)−2−ヘキサノールを製造する方法であって、該微生物若しくは形質転換体細胞が、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ヘキサノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ヘキサノールを生成することができ、かつその生産性が1mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の方法。
【請求項3】
2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物、該微生物処理物、該微生物培養液、及び/又は、該微生物から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
【請求項4】
2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ホルテア(Hortaea)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、ロッデロマイセス(Lodderomyces)属、ピキア(Pichia)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クルトバクテリウム(Crutobacterium)属、ゲオバチルス(Geobacillus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、パラコッカス(Paracoccus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属からなる群より選ばれる微生物から得られるカルボニル還元酵素をコードするDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物、該細胞培養液、及び/又は、該細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
【請求項5】
微生物が、ブレッタノマイセス・ブルクセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)、ブレッタノマイセス・アノマラス(Brettanomyces anomalus)、キャンディダ・ファマータ(Candida famata)、キャンディダ・クルセイ(Candida krusei)、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、ホルテア・ウェ ルネッキ(Hortaea werneckii)、イサチェンキア・スクチュラータ(Issatchenkia scutulata)、ロッデロマイセス・エロンジスポラス(Lodderomyceselongisporus)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・ベッセイ(Pichia besseyi)、ピキア・カクトフィラ(Pichia cactophila)、ピキア・セゴビエンシス(Pichia segobiensis)、ピキア・スパルティナエ(Pichia spartinae)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ロドトルラ・ミヌータ(Rhodotorula minuta)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、アルスロバクター・ポリクロモゲネス(Arthrobacter polychromogenes)、アルスロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)、アルスロバクター・スルフロウス(Arthrobacter sulfurous)、ブレビバクテリウム・ブタニカム(Brevibacterium butanicum)、クロトバクテリウム・フラキュムファシエンス(Curtobacterium flaccumfaciens)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ミクロバクテリウム・ケラタノリチカム(Microbacterium keratanolyticum)、ミクロバクテリウム・サペルダエ(Microbacterium saperdae)、ミクロバクテリウム・エスピー(Microbacterium sp.)、ミクロバクテリウム・テスタセウム(Microbacterium testaceum)、オクロバトラム・アントロピー(Ochrobactrum anthropi)、オクロバクトラム・エスピー(Ochrobactrum sp.)(シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis))、パラコッカス・デニトリフィカンス(Pracoccus denitrificans)、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)及び、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)(コリネバクテリウム・ハイドロカルボクラスタム(Corynebacterium hydrocarboclastum))からなる群より選ばれる微生物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
2−ペンタノン又は2−ヘキサノンに、下記(A)〜(F)の何れかのDNAを発現させた形質転換体細胞、該細胞処理物及び/又は該細胞培養液を作用させ、(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールを生成させることを特徴とする高光学純度(S)−2−ペンタノール又は(S)−2−ヘキサノールの製造方法。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1から複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列を有し、カルボニル基を還元し光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードするDNA。
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列と50%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードするDNA。
(D)配列番号2に記載の塩基配列を有するDNA。
(E)配列番号2に記載の塩基配列において、1から複数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。
(F)配列番号2に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、カルボニル基を還元して光学活性アルコールを合成する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。
【請求項7】
下記一般式(1)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性を有する(R)又は(S)−1−メチルアルキルマロン酸を高極性溶媒及び/又は脱炭酸を促進する添加剤の存在下に脱炭酸することを特徴とする、下記一般式(5)

(式中、Rは前記と同義であり、*は不斉炭素を示す。)
で表される(R)又は(S)−3−メチルカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(2)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性アルコールをスルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(3)

(式中、Rは前記と同義であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。また、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性化合物を得た後、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(4)

(式中、R、R及びRは前記と同義であり、また、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学活性化合物とした後、加水分解することを特徴とする下記一般式(1)

(式中、Rは前記と同義であり、*は不斉炭素を示す。)
で表される(R)又は(S)−1−メチルアルキルマロン酸の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(1)

(式中、Rは炭素数3〜5のアルキル基を示し、*は不斉炭素を示す。)
で表される光学純度が90%ee以上である(R)−1−メチルアルキルマロン酸、又は、(S)−1−メチルアルキルマロン酸。
【請求項10】
がn−プロピル基又はn−ブチル基であることを特徴とする請求項9に記載の(R)−1−メチルアルキルマロン酸、又は、(S)−1−メチルアルキルマロン酸。
【請求項11】
2−ペンタノンと反応して(S)−2−ペンタノールを生成する活性を有するカルボニル還元酵素を含有する微生物若しくは形質転換体細胞であって、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ペンタノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ペンタノールを生成することができ、かつその生産性が10mg(S)−2−ペンタノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ペンタノンに作用させ、(S)−2−ペンタノールへと変換し、得られた(S)−2−ペンタノールを、スルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(6)

(式中、Rはn−プロピル基であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。)
で表される光学活性体へと変換することを含む、一般式(6)で表される光学活性体の製造方法。
【請求項12】
2−ヘキサノンと反応して(S)−2−ヘキサノールを生成する活性を有するカルボニル還元酵素を含有する微生物若しくは形質転換体細胞であって、溶媒による前処理をしない生菌体を2−ヘキサノンに作用させたときに、95%e.e.以上の光学純度の(S)−2−ヘキサノールを生成することができ、かつその生産性が10mg(S)−2−ヘキサノール/g乾燥菌体重量/時間 以上であることを特徴とする上記の微生物若しくは形質転換体細胞、該微生物若しくは細胞処理物、該微生物若しくは細胞培養液、及び/又は、該微生物若しくは細胞から得られるカルボニル還元酵素画分の粗精製物若しくは精製物を、2−ヘキサノンに作用させ、(S)−2−ヘキサノールへと変換し、得られた(S)−2−ヘキサノールを、スルホニル化剤と反応させることにより、下記一般式(6)

(式中、Rはn−ブチル基であり、Xはスルホニルオキシ基を示す。)
で表される光学活性体へと変換することを含む、一般式(6)で表される光学活性体の製造方法。
【請求項13】
得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは、前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換する工程をさらに含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の方法により得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換し、
得られた光学活性化合物を加水分解することにより下記一般式(8)

(式中、Rは前記と同義である。)
で表される(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸に変換することを特徴とする、(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸の製造方法。
【請求項15】
請求項11又は12に記載の方法により得られた一般式(6)で表される光学活性体を、塩基存在下、一般式(9)

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、エステル基、カルボキシル基又はシアノ基を示す。ここで、RとRは一体となって環状構造を形成してもよい。)
で表される炭素求核剤と反応させ、下記一般式(7)

(式中、R及びRは前記と同義である。Rはn−プロピル基又はn−ブチル基である。)
で表される光学活性化合物に変換し、
得られた光学活性化合物を加水分解することにより下記一般式(8)

(式中、Rは前記と同義である。)
で表される(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸に変換し、
さらに得られた(R)−1−メチルブチルマロン酸又は(R)−1−メチルペンチルマロン酸を脱炭酸することを特徴とする、(R)−3−メチルヘキサン酸又は(R)−3−メチルヘプタン酸の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/075651
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517830(P2005−517830)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002093
【国際出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(396020464)株式会社エーピーアイ コーポレーション (39)
【Fターム(参考)】