説明

光学活性チタンサラン化合物及びその製造方法

【課題】不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラン化合物及びその効率的な製造方法の提供。
【解決手段】光学活性チタンサラン化合物をジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離する際に、三種類の幾何異性体の混合物になることを発見した。その中で製造時の主生成分となる2つの幾何異性体の触媒性能を比較したところ、ホモキラル錯体が、擬似へテロキラル錯体よりも不斉エポキシ化反応における最終的な収率が良いことを見出した。そこで、光学活性チタンサラン化合物の製造検討で、触媒性能の良いホモキラル錯体を効率良く生成させ、触媒性能の劣る擬似へテロキラル錯体をできる限り排除できる製造技術を検討した結果、製造に際してニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒又は芳香族炭化水素系有機溶媒を用いることで、光学活性チタンサラン化合物のホモキラル錯体を高い単離収率及び高い化学純度で効率的に製造できる技術を確立した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラン化合物及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性チタンサラン化合物に関しては、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に記載されているジ−μ−オキソチタンサラン錯体が報告されており、過酸化水素水を酸化剤として、オレフィン化合物の不斉エポキシ化反応において、高いエナンチオ選択性と高い化学収率でエポキシ化反応が進行することが報告されている。さらに、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3には、系中調製法(In Situ法)の記載があり、光学活性チタンサラン化合物を反応系中で調製する方法が実施されている。系中調製法は、製造量や製造するエポキシ化合物が異なる個別対応の場合においては、汎用性が高い方法であるが、目的化合物が同じで繰り返し実施される製造の場合には、毎回、繰り返し触媒調製を行う手間を要する点から優れた方法とは言いがたい。そこで、不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラン化合物を、一旦、ジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離した後に、オレフィン化合物の不斉エポキシ化反応を行う方法(単離法)に焦点を当ててみると、特許文献1及び非特許文献1に記載の光学活性チタンサラン錯体(特許文献1の中では錯体4に該当する。)は46%の単離収率であり、並びに特許文献1に記載のある前記よりも触媒性能の劣る光学活性チタンサラン錯体(特許文献1の中では錯体3に該当する。)は65%の単離収率に留まっているため、更に工業的に有利でかつ安定に製造できる光学活性チタンサラン化合物の製造方法が求められている。一方、光学活性チタンサラン錯体の製造において、ジクロロメタン以外の溶媒を用いる方法は知られていない。
【0003】
【特許文献1】WO2006/087874A1
【特許文献2】WO2007/105658A1
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.(2006),45,3478−3480.
【非特許文献2】Synlett(2006),3545−3547.
【非特許文献3】Synlett(2007),2445−2447.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業的な観点から、目的化合物が同じで繰り返し実施される製造を効率的に行うための優れた方法の1つとして、光学活性チタンサラン化合物を、一旦、ジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離して保管しておき、必要時に応じて単離した触媒を調製することなく反応に添加するのみで、オレフィン化合物の不斉エポキシ化反応を行う方法(単離法)がある。この単離法に対応するため、光学活性チタンサラン化合物の工業的に有利で安定に製造して単離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、本発明者らにより、不斉エポキシ化反応に有用である光学活性チタンサラン化合物の製造方法について鋭意研究した結果、光学活性チタンサラン化合物をジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離しようとすると、三種類の幾何異性体の混合物になることを発見し、その三種類の幾何異性体うちの主成分となる2つの幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体をそれぞれ単離して、各々の触媒性能を比較したところ、後述するホモキラル錯体が擬似へテロキラル錯体よりも不斉エポキシ化反応において、最終的に良い収率を与えることを見出した。そこで、光学活性チタンサラン化合物の製造検討で、触媒性能の良いホモキラル錯体を効率良く生成させ、触媒性能の劣る擬似へテロキラル錯体をできる限り排除できる製造技術を検討した結果、製造に際してニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒を混合した溶媒を用いることで、光学活性チタンサラン化合物のホモキラル錯体を高い単離収率及び高い化学純度で効率的に製造できる方法を見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
[1]
下記式(1)及び式(2)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、無置換であるか、又はC1−4アルキル基(該アルキル基は、無置換であるか、又はハロゲン原子で置換されている。)、ベンジルオキシ基、若しくはC1−4アルコキシ基で任意に置換されており、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基であり、Rは、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表され、かつ、下記式(A)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中の部分構造式であるO−NH−NH−Oは、下記式(a)及び式(b)
【0011】
【化3】

【0012】
(部分構造式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される。)で表されるホモキラル錯体を95%以上含有することを特徴とする光学活性チタンサラン化合物又は、下記式(1’)及び(2’)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表され、かつ、下記式(A’)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中の部分構造式であるO−NH−NH−Oは、下記式(a’)及び式(b’)
【0017】
【化6】

【0018】
(部分構造式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される。)で表されるホモキラル錯体を95%以上含有することを特徴とする光学活性チタンサラン化合物。
【0019】
[2]
下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表されるサラン配位子を有機溶媒中でチタンアルコキシドと反応させ、次いでその反応混合溶液に水を添加して更に反応させることによる前記式(1)、(1’)、(2)及び(2’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される光学活性チタンサラン化合物の製造において、有機溶媒としてニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒を用いることを特徴とする製造方法。
【0022】
[3]
前記有機溶媒が、アセトニトリルである前記[2]記載の製造方法。
【0023】
[4]
前記有機溶媒が、テトラヒドロフランである前記[2]記載の製造方法。
【0024】
[5]
前記有機溶媒が、トルエンである前記[2]記載の製造方法。
【0025】
[6]
下記式(5)、式(6)、式(7)、式(8)、式(9)及び式(10)
【0026】
【化8】

【0027】
から選ばれる請求項1記載の光学活性チタンサラン化合物、又は下記式(5’)、式(6’)、式(7’)、式(8’)、式(9’)及び式(10’)
【0028】
【化9】

【0029】
から選ばれる前記[1]記載の光学活性チタンサラン化合物。
【0030】
[7]
前記サラン配位子が、それぞれ下記式(11)、式(11’)、式(12)、式(12’)、式(13)、式(13’)、式(14)、式(14’)、式(15)、式(15’)、式(16)又は式(16’)
【0031】
【化10】

【0032】
である前記[2]、前記[3]、前記[4]又は前記[5]に記載の製造方法。
【0033】
[8]
前記[2]、前記[3]、前記[4]、前記[5]又は前記[7]記載の方法で製造される光学活性チタンサラン化合物。
【0034】
[9]
下記式(G)及び式(G’)
【0035】
【化11】

【0036】
(式中、部分構造式O−NH−NH−Oは請求項1の記載と同じ意味を表す。)のいずれかで表されるμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物。
【0037】
[10]
前記式(G)又は式(G’)に記載の部分構造式O−NH−NH−Oが、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G)の際には、それぞれ下記式(a11)、式(a12)、式(a13)、式(b14)、式(b15)又は式(b16)であり、かつ、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G’)の際には、それぞれ下記式(a11’)、式(a12’)、式(a13’)、式(b14’)、式(b15’)又は式(b16’)
【0038】
【化12】

【0039】
である前記[9]に記載のμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物。
【発明の効果】
【0040】
光学活性チタンサラン化合物のホモキラル錯体は、オレフィンの不斉エポキシ化反応において高いエナンチオ選択性、転化率並び化学収率を達成することができる。本発明によれば、当該光学活性チタンサラン化合物の中でも、触媒性能の良いホモキラル光学活性チタンサラン化合物を高い単離収率並び高い化学純度で効率的に製造することができる。有機溶媒としてニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒を混合した溶媒を用いることにより、生成したホモキラル錯体が反応系中に析出し、それを濾取するだけで純度95%以上のホモキラル錯体が得られることから、ホモキラル錯体の製造が従来知られた方法に比較して簡便に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本明細書中「n」はノルマルを、「i」はイソを、「s」はセカンダリーを、「t」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、「Me」はメチル基を、「Ph」はフェニル基を、「Bn」はベンジル基を意味する。又、化学構造式中に表記したR、S、aR並びにaSは、絶対配置の表記を示す。
【0042】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0043】
本発明に係わる光学活性チタンサラン化合物は、式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)
【0044】
【化13】

【0045】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、無置換であるか、又はC1−4アルキル基(該アルキル基は、無置換であるか、又はハロゲン原子で置換されている。)、ベンジルオキシ基、若しくはC1−4アルコキシ基で任意に置換されており、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基であり、Rは、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表される。ここで、式(1’)の錯体は、式(1)の錯体の鏡像異性体であり、式(2’)の錯体は、式(2)の錯体の鏡像異性体である。
【0046】
光学活性チタンサラン化合物の中でも、ホモキラル光学活性チタンサラン化合物は、式(A)及び式(A’)
【0047】
【化14】

【0048】
(式中の部分構造式であるO−NH−NH−Oは、下記式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)
【0049】
【化15】

【0050】
(部分構造式中のR、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される。)のいずれかで表される。ここで、式(A’)の錯体は、式(A)の錯体の鏡像異性体である。
【0051】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中の各置換基について説明する。
【0052】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、無置換であるか、又はC1−4アルキル基(該アルキル基は、無置換であるか、又はハロゲン原子で置換されている。)、ベンジルオキシ基、若しくはC1−4アルコキシ基で任意に置換されており、光学活性又は光学不活性である。)である。
【0053】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRについて具体的に説明する。該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。該C1−4アルキル基は、メチル基、トリフルオロメチル基、モノクロロメチル基、エチル基、ペンタフルオロエチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。該C1−4アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ等が挙げられる。該C6−12アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、2−ビフェニリルオキシ基、3−ビフェニリルオキシ基、4−ビフェニリルオキシ基等が挙げられる。該C6−22アリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−ペンタフルオロエチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2−i−プロポキシフェニル基、2−ベンジルオキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、2−メチル−1−ナフチル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、2−[3,5−ジメチルフェニル]−1−ナフチル基、2−[4−メチルフェニル]−1−ナフチル基、2−[p−(t−ブチルジメチルシリル)フェニル]−1−ナフチル基、2−(o−ビフェニリル)−1−ナフチル基、2−(m−ビフェニリル)−1−ナフチル基、2−(p−ビフェニリル)−1−ナフチル基等が挙げられる。
【0054】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中の好ましいRは、フェニル基(該フェニル基は、2−C1−3アルキル基(該2−C1−3アルキル基は、少なくとも1つ以上のハロゲン原子で置換されている。)、ベンジルオキシ基、又は2−C1−4アルコキシ基で置換されている。)2−フェニル−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基である。該フェニル基としては、2−トリフルオロメチルフェニル基、2−ペンタフルオロエチルフェニル基、2−ベンジルオキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2−i−プロポキシフェニル基、2−n−ブトキシフェニル基等が挙げられる。
【0055】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、2−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2−i−プロポキシフェニル基、2−ベンジルオキシフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基が好ましく、2−メトキシフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、2−ベンジルオキシフェニル基、2−フェニル−1−ナフチル基、2−メトキシ−1−ナフチル基がより好ましい。
【0056】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、水素原子、ハロゲン原子又はC1−4アルキル基である。
【0057】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRを具体的に説明する。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。該C1−4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0058】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基が好ましく、これらの中でもRは、水素原子がより好ましい。
【0059】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基である。
【0060】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRを具体的に説明する。該C6−18アリール基としては、フェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−メチルフェニル基が挙げられる。2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0061】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRはフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2つのRが結合したテトラメチレン基が好ましく、2つのRが互いに結合したテトラメチレン基がより好ましい。
【0062】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。
【0063】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRを具体的に説明する。該ハロゲン基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。該C1−4アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。該C1−4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0064】
前記式(1)、式(1’)、式(2)、式(2’)、式(a)、式(a’)、式(b)及び式(b’)中のRは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基が好ましく、これらの中でも、Rとしては、水素原子がより好ましい。
【0065】
光学活性チタンサラン化合物の製造する際に、有機溶媒としてニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒を用いることで、光学活性チタンサラン化合物である式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)の中でも、触媒性能の良いホモキラル光学活性チタンサラン化合物である式(A)及び式(A’)を高い単離収率及び高い化学純度で効率的に製造することができることが、本発明の特徴である。
【0066】
下記の反応式1(式中のR、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)は、サラン化合物である式(3)又は式(4)からは、ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の式(A)を製造する方法を示し、又、サラン化合物である式(3’)又は式(4’)からは、ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の式(A’)を製造する方法を示す。
反応式1
【0067】
【化16】

【0068】
反応式1中の本発明で使用するサラン配位子である式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)は、下記の反応式2で表される方法によって製造できる。
反応式2
【0069】
【化17】

【0070】
反応式2中のR、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。反応式2中の2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物である式(17)又は式(18)とジアミン化合物である式(19)又は式(19’)(化合物(17)又は化合物(18)1モルに対して0.5〜0.6モルを使用する。)を有機溶媒中で混合し反応させ、サレン配位子であるイミン化合物の式(20)、式(20’)、式(21)又は式(21’)を製造し、そのイミン化合物を、還元剤を用いてアミン化合物に還元することで、サラン配位子である式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)の化合物を製造できる。
【0071】
反応式2中で使用する有機溶媒は、アルコール系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、ハロゲン系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒、アミド系有機溶媒又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒が挙げられ、具体的には、i−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。この中で好ましい溶媒としては、i−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトニトリル、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド、上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒である。
【0072】
反応式2については、イミノ化反応とアミン化合物への還元反応を、連続化して行うことも可能である。
【0073】
反応式2中で使用する還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、シアン化水素化ホウ素ナトリウム(NaBHCN)及び水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)等が挙げられ、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)が好ましい。
【0074】
反応式2中で使用するジアミン化合物の式(19)及び式(19’)については、フリー体のジアミン化合物及び塩を形成したジアミン化合物の両者から、いずれかを選んで使用することが可能である。塩を形成したジアミン化合物については、ジアミン硫酸塩、ジアミン塩酸塩、ジアミン酒石酸塩等が挙げられる。サレン配位子であるイミン化合物を製造する際に使用するジアミン化合物としては、フリー体のジアミン化合物、ジアミン硫酸塩、ジアミン酒石酸塩が好ましい。
【0075】
これらのサレン配位子を製造する時に、2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物の式(17)又は式(18)1モルに対して、1〜10モルの脱水剤を共存させて製造することができる。脱水剤としては、無水硫酸マグネシウム、無水ホウ酸又はモレキュラシーブスが好ましい。又、脱水操作としてはディーンシュターク型脱水反応器を用いて、溶媒との共沸脱水により生成する水を除去しながらも製造できる。
【0076】
2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物の式(17)又は式(18)は、非特許文献のJ.Chem.Soc.Perkin Trans 1.(1980),1862−1865.に記載された方法等に従い、対応するフェノール化合物(22)又は化合物(23)とパラホルムアルデヒドを、塩化スズと塩基の共存下、トルエン中で加熱撹拌することで、製造できる。製造方法を反応式3に示す。
反応式3
【0077】
【化18】

【0078】
2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物製造について具体例を記載する。例えば2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物(27)及び(27’)については、特許文献の特開平7−285983と非特許文献のTetrahedron(1994),50,11827−11838.に記載された方法等により合成することができる。製造方法の一例を反応式4に示す。
反応式4
【0079】
【化19】

【0080】
反応式4中のPhはフェニル基を、TfNPhはN−フェニルトリフルオロメタンスルホンイミドを、PhMgBrはグリニャール試薬を、NiCl(dppe)は塩化[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)クロリドを、MOMClはクロロメチルメチルエーテルを、(i−Pr)NEtはエチルジイソプロピルアミンを、t−BuLiはターシャリーブチルリチウムを、DMFはジメチルホルムアミドを、TMSBrは臭化トリメチルシリルを意味する。反応式4において、出発物質(24)からは、2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物(27)を得られ、出発物質(24’)からは、上記と同じ方法を用いて2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物(27’)を得ることができる。
【0081】
ジアミン化合物については、例えば、(1S,2S)−(+)−1,2−ジアミノシクロヘキサン及び(1R,2R)−(−)−1,2−ジアミノシクロヘキサンは、Aldrich社、東京化成工業株式会社等から入手可能であり、(1S,2S)−(−)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン及び(1R,2R)−(+)−1,2−ジフェニルエチレンジアミンは、Aldrich社等から入手可能である。
【0082】
光学活性チタンサラン化合物の製造方法について、検討した内容を説明する。非特許文献のSynlett(2006),3545−3547.の記載より、特許文献のWO2006/087874A1及び非特許文献1のAngew.Chem.Int.Ed.(2006),45,3478−3480.に記載の式(28’)
【0083】
【化20】

【0084】
のサラン配位子から調製できる光学活性チタンサラン化合物よりも、下記式(11’)
【0085】
【化21】

【0086】
のサラン配位子を用いて、調製できる光学活性チタンサラン化合物の方が、触媒性能が良い内容の報告があった。
【0087】
上記の理由から、工業的有用性が高い光学活性チタンサラン化合物を製造できるサラン配位子である式(11)
【0088】
【化22】

【0089】
を用いて光学活性チタンサラン化合物をジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離する検討を行った。しかしながら、ジ−μ−オキソチタンサラン錯体には、三種類の幾何異性体が存在することが分かった。三種類の幾何異性体についてはHPLCにより分析した。該分析条件は、カラム名:Inertsil ODS−3 (4.6x150mmx3μm)、溶離液:アセトニトリル/20mM酢酸ナトリウム水溶液=96/4(v/v)、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃である。
【0090】
それらの三種類の幾何異性体を詳細に調べるため、三種類の幾何異性体のそれぞれを単離して精製した。続いて、単結晶化した後、X線構造解析を行った。
【0091】
下記の部分構造式(29)をO―NH―NH―Oに略し、構造決定できた三種類の幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体を式(A29)、式(B29)及び式(C29)として記載する。これらの構造は、単結晶X線構造解析により決定した。
【0092】
【化23】

【0093】
式(A29)の錯体は、同じ部分構造を持った二つチタン単核構造から成り立っており、ホモキラル構造である。一方、式(B29)及び式(C29)の錯体については、異なる部分構造を持った二つチタン単核構造から成り立っており擬似へテロキラル構造である。式(B29)と式(C29)との構造の違いは、窒素上(構造図中のイタリック字のNと点線の矢印で示す。)の水素原子の配置が異なっている点である。
【0094】
次にサラン配位子の立体化学と三種類の幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体の立体化学について記載する。サラン配位子を式(3)又は式(4)
【0095】
【化24】

【0096】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を用いて反応を行い、光学活性チタンサラン化合物をジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離する場合について記載する。サラン配位子が式(3)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(a)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示して、サラン配位子が式(4)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(b)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示す。その際の三種類の幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体の構造は、下記式(A)、式(B)及び式(C)となる。
【0097】
【化25】

【0098】
サラン配位子を式(3’)又は式(4’)
【0099】
【化26】

【0100】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を用いて反応を行い、光学活性チタンサラン化合物をジ−μ−オキソチタンサラン錯体として単離する場合について記載する。サラン配位子が式(3’)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(a’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示して、サラン配位子が式(4’)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(b’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示す。その際の三種類の幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体の構造は、下記式(A’)、式(B’)及び式(C’)となる。
【0101】
【化27】

【0102】
ホモキラル錯体である式(A’)は、式(A)のエナンチオマーであり、擬似ヘテロキラルである式(B’)は、式(B)のエナンチオマーであり、擬似ヘテロキラルである式(C’)は、式(C)のエナンチオマーである。
【0103】
光学活性チタンサラン化合物製造の際に、その三種類の幾何異性体うちの主成分となる二種類の幾何異性体のジ−μ−オキソチタンサラン錯体のホモキラル錯体である式(A29)及び擬似ヘテロキラル錯体である式(B29)についての触媒性能を比較した。その結果、ホモキラル錯体である化合物(A29)が、擬似へテロキラル錯体である化合物(B29)よりも、不斉エポキシ化反応において、最終的に良い収率を与えることを見出した。
【0104】
そこで、光学活性チタンサラン化合物の製造検討で、触媒性能の良いホモキラル錯体を効率良く生成させ、触媒性能の劣る擬似へテロキラル錯体をできる限り排除できる製造技術を検討した結果、製造に際してニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒を用いることで、光学活性チタンサラン化合物のホモキラル錯体を高い単離収率及び高い化学純度で効率的に製造できる方法を見出した。
【0105】
以下に、触媒性能が良いと分かったホモキラル光学活性チタンサラン化合物を高い選択性で製造し高い化学純度で単離できる方法についての詳細を説明する。前記式(1)、式(1’)、式(2)及び式(2’)のいずれかで表される光学活性チタンサラン化合物を製造する方法において、前記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)のいずれかで表されるサラン配位子1モルに対して0.05〜2.0(モル/L)に相当する有機溶媒中に溶解させる。次に、チタンアルコキシドを、サラン配位子1モルに対して1〜1.5モルを添加して、0.5〜3時間、撹拌して反応を行う。サラン配位子とチタンアルコキシドとの反応の際の反応温度については、0〜50℃で反応を行う。その後に、水添加を行う。反応混合溶液にサラン配位子1モルに対して水を3〜10モルを添加した後、さらに1〜48時間、撹拌して反応を行う。その際に反応温度については、20〜120℃で反応を行い、目的とするホモキラル錯体である光学活性チタンサラン化合物を析出、結晶化させる。この結晶化時温度は−5〜15℃にて熟成するための撹拌もできる。続いて生成した結晶を濾取し、そのケークを有機溶媒にて洗浄することで、ホモキラル光学活性チタンサラン化合物を得ることができる。
【0106】
サラン配位子とチタンアルコキシドとの反応の際の反応温度については、0〜50℃で反応を行うことができるが、25〜40℃が好ましい。
【0107】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造で、使用する有機溶媒は、非プロトン性の有機溶媒、プロトン性の有機溶媒又はこれら上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶液が挙げられるが、好ましい溶媒は非プロトン性有機溶媒である。
【0108】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造で、使用する非プロトン性の有機溶媒としては、ハロゲン系有機溶媒、エステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、アミド系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒又は芳香族炭化水素系有機溶媒が挙げられ、具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。
【0109】
この中で好ましい有機溶媒は、エステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、アミド系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、これら上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶液である。
【0110】
さらに、この中で更に好ましい有機溶媒は、ニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、これら上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶液である。ニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶液を用いると、触媒調製の反応を行って生成した錯体が反応系中に析出してくるので、それを濾取するだけで純度95%以上のホモキラル錯体が75%以上の単離収率で得られる。
【0111】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造で、使用するニトリル系有機溶媒としては、具体的には、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等が挙げられ、好ましい溶媒はアセトニトリルである。
【0112】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造で、使用するエーテル系有機溶媒としては、具体的には、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、好ましい溶媒はテトラヒドロフランである。
【0113】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造で、使用する芳香族炭化水素系有機溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、好ましい溶媒はトルエンである。
【0114】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、使用する有機溶媒の使用量は、サラン配位子と使用する有機溶媒の濃度で表すことができる。サラン配位子1モルに対して0.05〜2.0(モル/L)に相当する濃度が挙げられ、好ましくは、サラン配位子1モルに対して0.2〜0.4(モル/L)に相当する濃度である。
【0115】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、使用するチタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラi−プロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド等が挙げられ、これらの中でも、チタンテトラi−プロポキシド[Ti(Oi−Pr)]が好ましい。
【0116】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、使用するチタンアルコキシドの使用量は、サラン配位子1モルに対して1〜1.5モルが挙げられ、好ましくは、サレン配位子1モルに対して1〜1.05モルである。
【0117】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、チタンアルコキシドの添加温度及び反応温度は、室温又は0〜50℃であり、25〜40℃が好ましい。
【0118】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、チタンアルコキシドを添加した後の撹拌時間は、0.5〜3時間が挙げられ、1〜2時間が好ましい。
【0119】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、チタンアルコキシドを添加した後の撹拌中の反応温度は、室温又は0〜50℃であり、25〜40℃が好ましい。
【0120】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、使用する水の量は、サラン配位子1モルに対して1〜10モルが挙げられ、3〜5モルが好ましい。
【0121】
本ホモキラル光学活性チタンサラン化合物の製造において、水の添加温度及び反応温度は、20〜120℃であり、35〜40℃が好ましい。
【0122】
本ホモキラルな光学活性チタンサラン化合物の製造において、水を添加した後の撹拌時間は、1〜48時間が挙げられ、3〜5時間が好ましい。
【0123】
本ホモキラルな光学活性チタンサラン化合物の製造において、水を添加した後の撹拌中の反応温度は、20〜120℃であり、35〜40℃が好ましい。
【0124】
光学活性チタンサラン化合物の結晶化が終了した後に濾取を行い、そのケークを有機溶媒で洗浄することで、光学活性チタンサラン化合物を得ることができる。その洗浄の際に使用する有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、アミド系溶媒又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶液が挙げられる。具体的には、エタノール、メタノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられ、この中で好ましい溶媒は、アセトニトリル、トルエンである。
【0125】
濾取、洗浄したホモキラル光学活性チタンサラン化合物は真空乾燥機等で乾燥することで、粉末状で得ることができる。
【0126】
なお、ホモキラル錯体(A)を、基質オレフィンの非存在下で、酸化剤で反応させると新しい錯体が得られ、これはX線結晶構造解析の結果、下記の構造を有するμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体(G)
【0127】
【化28】

【0128】
(部分構造O−NH−NH−Oは前記の通りである。)であるということが明らかとなった。
【0129】
次にμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体について詳細に記載する。サラン配位子を式(3)又は式(4)
【0130】
【化29】

【0131】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を用いて製造できるジ−μ−オキソチタンサラン錯体のうち、ホモキラル錯体(A)を有機溶媒に溶解させ該反応混合液を酸化剤で酸化することで、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体(G)を製造できる。該製造方法を反応式5に示す。サラン配位子が式(3)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(a)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示して、サラン配位子が式(4)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(b)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示す。
反応式5
【0132】
【化30】

【0133】
μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体の立体化学について記載する。サラン配位子を式(3’)又は式(4’)
【0134】
【化31】

【0135】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を用いて製造できるジ−μ−オキソチタンサラン錯体のうち、ホモキラル錯体(A’)を有機溶媒に溶解させ該反応混合液を酸化剤で酸化することで、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体(G’)を製造できる。該製造方法を反応式6に示す。サラン配位子が式(3’)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(a’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示して、サラン配位子が式(4’)の場合は、部分構造式のO―NH―NH―Oは式(b’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)を示す。μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体である式(G’)は、式(G)のエナンチオマーである。
反応式6
【0136】
【化32】

【0137】
このμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体である化合物(G)又は化合物(G’)を、ホモキラル錯体である化合物(A)又は化合物(A’)より製造する際の酸化剤の具体例としては、ヨードソベンゼン、次亜塩素酸ナトリウム、m−クロロ過安息香酸、オキソン(デュポン社登録商標)、過酸化水素水、尿素―過酸化水素付加体(UHP)、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、クメンヒドロペルオキシド(CHP)及び上記の酸化剤から選ばれる混合物が挙げられる。この中でも、過酸化水素水及び尿素―過酸化水素付加体(UHP)が好ましく、過酸化水素水がより好ましい。
【0138】
該μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン錯体も、過酸化水素水を酸化剤として、基質オレフィン化合物の不斉エポキシ化反応について高いエナンチオ選択性と高い収率で目的となるエポキシ化合物を与える触媒として機能することが明らかとなった。
【0139】
以下、実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0140】
サラン配位子の製造方法は、特許文献WO2006/087874A1及び非特許文献Angew.Chem.Int.Ed.(2006年),45,3478−3480.記載の方法に従って製造できる。製造方法の一例を反応式7に示す。
反応式7
【0141】
【化33】

【0142】
2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物(33)とジアミン化合物(34)(2−ヒドロキシアリールアルデヒド化合物1モルに対して0.5〜0.6モルを使用する。)をトルエン中で混合し、窒素雰囲気下で加熱撹拌することで反応させ、サレン配位子であるイミン化合物(35)を製造し、引き続き、該反応溶液中に、メタノール、水素化ホウ素ナトリウムと順に添加し、窒素雰囲気下で加熱撹拌することで、そのサレン配位子(35)をサラン配位子(11)に還元することで製造できる。還元剤を添加する際は、反応溶液を冷却することもできる。
【0143】
実施例1
ホモキラル光学活性チタンサラン化合物(A29)の製造
【0144】
光学活性サラン配位子(11)0.22g(0.40mmol)を反応容器に仕込み、1.0mLのアセトニトリルに溶かし、窒素雰囲気下40℃で撹拌し、0.11g(0.40mmol)のチタンテトラi−プロポキシド[Ti(Oi−Pr)]を40℃で滴下した。窒素雰囲気下40℃で1時間撹拌して、次に22mg(1.2mmol)の水(HO)を40℃で添加した。水の添加後、40℃で3時間攪拌し、生じた沈殿物の一部を採取しクロロホルムに溶解させてHPLCで分析を行なった。ホモキラル錯体(A29)/擬似へテロキラル錯体(B29)/擬似へテロキラル錯体(C29)の比率を下記に記載する。錯体(A29)/錯体(B29)/錯体(C29)=93.6/5.6/0.8であった。
【0145】
析出した固体を濾紙で濾取し、アセトニトリルで2回(0.5mLで2回)ケークを洗浄した。ケークをナス型フラスコに入れて、エバポレーターと真空乾燥機を用いて、恒量になるまで乾燥した。0.21g(収率87%)淡黄色粉末状で、光学活性チタンサラン化合物(5)のホモキラル錯体(A29)を得た。HPLCによる該錯体の相対面積百分率(%)は、99%であった。
【0146】
HPLC分析条件:カラム名 Inertsil ODS−3(4.6x150mmx3μm)、溶離液 アセトニトリル/20mM酢酸ナトリウム水溶液=96/4(v/v)、流速 1.0mL/min、カラム温度 40℃、保持時間 錯体(A29)6.0分、錯体(B29)6.4分、錯体(C29)7.4分、測定波長 240nm.
【0147】
H−NMR(CDCl)δ;0.64〜0.92(m,4H),0.92〜1.24(m,4H),1.49〜1.67(br,2H),1.67〜1.83(br,2H),1.85〜2.04(br,2H),2.07〜2.28(m,2H),2.45(d,J=11.6Hz,2H),2.59〜2.95(m,6H),3.30(s,6H,−CH3),3.61〜3.86(m,4H),3.70(s,6H,−CH),3.97(t,J=11.3Hz,2H),4.16(d,J=11.3Hz,2H),6.10(dd,J=8.0,0.6Hz,2H),6.32(dd,J=7.4,1.8Hz,2H),6.53(t,J=7.3Hz,2H),6.63〜7.32(m,22H)
【0148】
実施例2〜実施例4
ホモキラル光学活性チタンサラン化合物(A29)の製造
【0149】
実施例1に記載した反応条件のうち、溶媒の種類を変更して同様の反応を行なった。水の添加後、3時間撹拌した後のサンプリングによるHPLCによる分析結果を表1に示す。
【0150】
【表1】


(注1)i−プロポキシ基(i−PrO基)を持つチタン化合物とサラン配位子との複合体と推定され、HPLC保持時間は、4.0分である。
(注2)最終的な単離収率とホモキラル錯体の純度は、それぞれ次のとおりであった。
実施例3:単離収率 78% 純度 96%
実施例4:単離収率 75% 純度 95%
【0151】
実施例5
ホモキラル光学活性チタンサラン化合物(D)の製造
【0152】
光学活性チタンサラン化合物である式(D)、式(E)並びに式(F)
【0153】
【化34】

【0154】
(部分構造式(36)は、O―NH―NH―Oで略した。)は、H−NMRの結果より推定した構造である。
【0155】
光学活性サラン配位子(13)0.35g(0.50mmol)を反応容器に仕込み、2.2mLのアセトニトリルに溶かし、窒素雰囲気下40℃で撹拌し、0.14g(0.50mmol)のチタンテトラi−プロポキシド[Ti(Oi−Pr)]を40℃で滴下した。窒素雰囲気下40℃で1時間撹拌して、次に27mg(1.5mmol)の水(HO)を40℃で添加した。水の添加後、25℃で14時間攪拌し、生じた沈殿物の一部を採取し、クロロホルムに溶解させて、HPLCで分析を行なった。ホモキラル錯体(D)/擬似へテロキラル錯体(E)/擬似へテロキラル錯体(F)の比率を下記に記載する。
錯体(D)/錯体(E)/錯体(F)=95.6/4.3/0.1であった。
【0156】
析出した固体を濾紙で濾取し、アセトニトリル10mLでケークを洗浄した。ケークをナス型フラスコに入れて、エバポレーターと真空乾燥機を用いて、恒量になるまで乾燥した。0.29g(収率77%)淡黄色粉末状で、光学活性チタンサラン化合物(7)のホモキラル錯体(D)を得た。HPLCによる該錯体の相対面積百分率(%)は、99%であった。
【0157】
HPLC分析条件:カラム名 Inertsil ODS−3(4.6x150mmx3μm)、溶離液 アセトニトリル/20mM酢酸ナトリウム水溶液=96/4(v/v)、流速 1.0mL/分、カラム温度 40℃、保持時間 錯体(E)39.2分、錯体(D)45.2分、錯体(F)56.2分 測定波長 254nm.
【0158】
H−NMR(CDCl)δ;−1.13〜−0.89(m,2H),0.24〜0.82(m,6H),1.23(t,J=14.9Hz,4H),1.47〜1.91(m,6H),2.28(t,J=11.8Hz,2H),2.36〜2.58(m,2H),2.91(d,J=13.1Hz,2H),3.36(d,J=11.3Hz,2H),3.68(d,J=11.0Hz,2H),3.72(d,J=12.5Hz,2H),4.08(d,J=10.7Hz,2H),4.46(d,J=12.5Hz,2H),4.56(d,J=12.2Hz,2H),4.91(d,J=12.5Hz,2H),5.01(d,J=12.5Hz,2H),6.13(dd,J=7.9,1.0Hz,2H),6.34(dd,J=7.4,1.5Hz,2H),6.58〜7.41(m,44H)
【0159】
実施例6,実施例7
ホモキラル光学活性チタンサラン化合物(D)の製造
【0160】
実施例5に記載した反応条件のうち、溶媒の種類を変更して同様の反応を行なった。水の添加後、3時間撹拌した後のサンプリングによるHPLCによる分析結果を表2に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
実施例8
ホモキラル錯体と擬似へテロキラル錯体の触媒性能を比較する実験
【0163】
下記ホモキラル錯体(A29)と擬似へテロキラル錯体(B29)
【0164】
【化35】

【0165】
(部分構造式(29)は、O―NH―NH―Oで略した。)との触媒性能に関する比較実験について記載する。
【0166】
下記の反応式8に、ホモキラル錯体(A29)と擬似へテロキラル錯体(B29)との触媒性能の比較実験を示す。
反応式8
【0167】
【化36】

【0168】
不斉エポキシ化反応を行う基質オレフィンとして2−ビニルナフタレン(30)(614mg、4.0mmol)を、10.0mLの有機溶媒(ジクロロメタン)に溶解させ、基質オレフィン濃度が0.4mol/Lに相当する溶媒を調製した。この溶液2.0mL(基質オレフィンが0.8mmol含まれる。)をそれぞれ反応容器に取り出し、ホモキラル錯体である化合物(A29)並びに擬似へテロキラル錯体である化合物(B29)を、それぞれの反応容器に2.4mg(基質オレフィンに対して0.25モル%に相当する量である。)を添加した。それぞれの混合溶液にpH7.4のリン酸緩衝液(0.067mol/L、140μL)を添加した後に、温度を25℃に保ち、30%過酸化水素水(136μL、基質オレフィン0.8mmolに対して1.2mmolに相当する量である。)を加えて撹拌した。各時間で、反応の溶液の一部を抜き取り、HNMRで、あらかじめ反応基質と等モル量加えておいた不斉エポキシ化反応に関与しない内部標準物質としての2−ブロモナフタレン(32)、原料並びに目的化合物(31)の積分比を計算して、転化率と収率を算出した。
【0169】
次に、比較実験の転化率についての結果を下記の図1に示す。
【0170】
図1

【0171】
次に、比較実験の収率についての結果を下記の図2に示す。
【0172】
図2

【0173】
上記の結果より、目的化合物の2−ビニルナフタレンオキシド(31)の収率は、ホモキラル錯体である化合物(A29)では、60時間で95%であり、擬似へテロキラル錯体である化合物(B29)では、60時間で73%であった。即ち、ホモキラル錯体である化合物(A)が擬似へテロキラル錯体である化合物(B)よりも、不斉エポキシ化反応における最終的な収率が良いことを見出した。
【0174】
実施例9
μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)
【0175】
【化37】

【0176】
(部分構造式(29)は、O―NH―NH―Oで略した。)の製造
【0177】
ホモキラル光学活性チタンサラン化合物(A29)1.2g(1.0mmol)を反応容器に仕込み、9.0mLのジクロロメタンに溶かし室温20〜25℃で撹拌し、2.5g(22.0mmol)の30%過酸化水素水を、室温20〜25℃で滴下した。窒素雰囲気下、該反応混合液を室温20〜25℃で20分撹拌した。次に、該反応混合液へ2mLの水を添加した後、分液操作して水層を除き得られた有機層を2mLの水で洗浄した。続いて、該有機層を30%チオ硫酸ナトリウム水溶液2.5gで洗浄し、さらに2mLの水で洗浄した後、を留去し、中圧カラムクロマトグラフィーにて単離精製(溶離液条件:ヘキサン/酢酸エチル=65/35から60/40へのグラジエント条件)を行った。104mg(収率9%)淡黄色粉末状で、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)を得た。HPLCによる該錯体の相対面積百分率(%)は、99%であった。μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)の構造は、単結晶X線構造解析により決定した。
【0178】
HPLC分析条件:カラム名 Inertsil ODS−3(4.6x150mmx3μm)、溶離液 アセトニトリル/20mM酢酸ナトリウム水溶液=96/4(v/v)、流速 1.0mL/min、カラム温度 40℃、保持時間 錯体(G29)5.1分、錯体(A29)5.8分、測定波長 280nm.
【0179】
H−NMR(CDCl)δ;0.73〜0.94(m,2H),0.95〜1.23(m,2H),1.24〜1.34(m,1H),1.56(s,3H),1.62〜1.85(m,4H),2.02〜2.31(m,4H),2.47〜2.60(m,2H),2.61〜2.79(m,2H),3.08〜3.24(m,4H),3.25(s,6H,−OCH)3.66〜3.84(m,4H),3.72(s,6H,−OCH)4.03〜4.14(m,4H),6.09(d,J=7.5Hz,2H),6.41(dd,J=7.8Hz,1.8Hz,2H),6.59〜7.11(m,22H),7.24〜7.32(m,2H)、
ESI−HRMS;LTQ Orbitrap(Thermo Electron社製)
測定値=1217.423,(理論値=1217.425)
【0180】
実施例10
μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)を用いた不斉エポキシ化反応
【0181】
μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)を用いた1,2−ジヒドロナフタレン(33)の不斉エポキシ化反応を反応式9に示す。
反応式9
【0182】
【化38】

【0183】
不斉エポキシ化反応を行う基質オレフィンとして1,2−ジヒドロナフタレン(33)(52.2μL、0.4mmol)を、1.0mLの有機溶媒(ジクロロメタン)に溶解させ、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G29)を反応容器に2.4mg(基質オレフィンに対して0.5モル%に相当する量である。)を添加した。室温20〜25℃にて、該混合溶液へpH7.4のリン酸緩衝液(濃度0.067mol/L、添加量68.0μL)を添加した後に、30%過酸化水素水(68.0μL、基質オレフィン0.4mmolに対して0.6mmolに相当する量である。)を加えた後、反応温度を40℃にして6時間撹拌した。反応終了後、20〜25℃に冷却してから、反応混合溶液の一部を抜き取り、HNMRで、あらかじめ反応基質と等モル量加えておいた不斉エポキシ化反応に関与しない内部標準物質としての2−ブロモナフタレン(32)、原料(33)並びに目的化合物(34)の積分比を計算して、転化率と収率を算出した。転化率は>99%であり、収率は95%であった。得られた1,2−ジヒドロナフタレンオキシド(34)の光学純度は、反応終了後の反応混合液の一部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製(溶離液条件:ペンタン/エーテル=20/1)して、ダイセル社製キラルセルOB−H及びヘキサン/イソプロパノール(99/1=v/v)混合液を用いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。98%eeであった。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明に係わる光学活性チタンサラン化合物は、不斉エポキシ化反応の触媒として有用である。そして、本発明によれば、当該光学活性チタンサラン化合物を製造操作において、ホモキラル錯体を95%以上含有する光学活性チタンサラン触媒を、収率75%以上で簡便かつ効率的に製造することができる。よって、本発明は、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)及び式(2)
【化1】


(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基又はC6−22アリール基(該アリール基は、無置換であるか、又はC1−4アルキル基(該アルキル基は、無置換であるか、又はハロゲン原子で置換されている。)、ベンジルオキシ基、若しくはC1−4アルコキシ基で任意に置換されており、光学活性又は光学不活性である。)であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基であり、Rは、C6−18アリール基又は、2つのRが一緒になって環を形成する場合は、C3−5の二価の基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。)のいずれかで表され、かつ、下記式(A)
【化2】


(式中の部分構造式であるO−NH−NH−Oは、下記式(a)及び式(b)
【化3】


(部分構造式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される。)で表されるホモキラル錯体を95%以上含有することを特徴とする光学活性チタンサラン化合物又は、下記式(1’)及び式(2’)
【化4】


(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表され、かつ、下記式(A’)
【化5】


(式中の部分構造式であるO−NH−NH−Oは、下記式(a’)及び式(b’)
【化6】


(部分構造式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される。)で表されるホモキラル錯体を95%以上含有することを特徴とする光学活性チタンサラン化合物。
【請求項2】
下記式(3)、式(3’)、式(4)及び式(4’)
【化7】


(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表されるサラン配位子を有機溶媒中でチタンアルコキシドと反応させ、次いでその反応混合溶液に水を添加して更に反応させることによる前記式(1)、(1’)、(2)及び(2’)(式中、R、R、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)のいずれかで表される光学活性チタンサラン化合物の製造において、有機溶媒としてニトリル系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒、又は上記の有機溶媒から選ばれる混合した溶媒を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、アセトニトリルである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフランである請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、トルエンである請求項2記載の製造方法。
【請求項6】
下記式(5)、式(6)、式(7)、式(8)、式(9)及び式(10)
【化8】


から選ばれる請求項1記載の光学活性チタンサラン化合物、又は下記式(5’)、式(6’)、式(7’)、式(8’)、式(9’)及び式(10’)
【化9】

から選ばれる請求項1記載の光学活性チタンサラン化合物。
【請求項7】
前記サラン配位子が、それぞれ下記式(11)、式(11’)、式(12)、式(12’)、式(13)、式(13’)、式(14)、式(14’)、式(15)、式(15’)、式(16)又は式(16’)
【化10】


である請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項2、3、4、5又は7記載の方法で製造される光学活性チタンサラン化合物。
【請求項9】
下記式(G)及び式(G’)
【化11】


(式中、部分構造式O−NH−NH−Oは請求項1の記載と同じ意味を表す。)のいずれかで表されるμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物。
【請求項10】
前記式(G)又は式(G’)に記載の部分構造式O−NH−NH−Oが、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G)の際には、それぞれ下記式(a11)、式(a12)、式(a13)、式(b14)、式(b15)又は式(b16)であり、かつ、μ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物(G’)の際には、それぞれ下記式(a11’)、式(a12’)、式(a13’)、式(b14’)、式(b15’)又は式(b16’)
【化12】


である請求項9に記載のμ−オキソ−μ−ペルオキソ光学活性チタンサラン化合物。

【公開番号】特開2011−201779(P2011−201779A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227467(P2008−227467)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】