説明

光学用フィルム製造方法

【課題】フィルム品質を悪化させることなく、フィルム破断発生率の極めて低い運転が可能となる光学用フィルムの製造方法、及び、それらを実現するための製造装置を提供する。
【解決手段】非晶性の熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸による光学用フィルムの製造方法であって、横延伸工程において熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に変形する際に、熱風を熱源としたテンターを用いる製造方法において、送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板1を設置し、且つ、仕切板1を調整することでフィルム固定具に当たる熱量を調整し、光学フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶性の熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸による光学用フィルムの製造時に、フィルムの破断やプロファイルの悪化といったトラブルの発生を抑える光学用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、ワードプロセッサ、携帯電話、携帯情報端末等の小型化・薄型化・軽量化にともない、これらの電子機器に軽量・コンパクトという特長を生かした液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。液晶表示装置には、その表示品位を保つために偏光フィルム等の各種フィルムが用いられている。また、携帯情報端末や携帯電話向けに液晶表示装置を更に軽量化するため、ガラス基板の代わりにプラスチックフィルムを用いた液晶表示装置も実用化されている。
【0003】
液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置に用いるプラスチックフィルムには、光学的に透明であり、かつ複屈折が小さい他に光学的な均質性が求められる。このため、高度に延伸したポリビニルアルコールからなる偏光子を保護するための偏光子保護フィルムや、ガラス基板を樹脂フィルムに代えたプラスチック液晶表示装置用のフィルム基板の場合、複屈折と厚みの積で表される位相差が小さいことが要求される。また、外部の応力などによりフィルムの位相差が変化しにくいことが要求される。
さらに平面方向および厚み方向の面内でこれらの位相差のむらが小さいことや、フィルム表面の凹凸による、いわゆるレンズ効果による画像のゆがみ現象が生じにくいことが要求される。すなわち、位相差が大きかったり、外部の応力などにより位相差が変化したり、面内における位相差の変化が大きかったり、フィルム表面の凹凸によるレンズ効果があると、液晶表示装置の画質品位を著しく低下させる。すなわち、色が部分的に薄くなるなどの色とび現象や、画像がゆがむなどの弊害が出る。
【0004】
液晶表示装置に用いられるプラスチックフィルムとしては、非晶性の熱可塑性樹脂が好適な材料であって、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のエンジニアリングプラスチックスや、トリアセチルセルロース等のセルロース類のプラスチックからなるフィルムが知られている。これらプラスチックフィルムを製造する場合、プラスチックの溶融流動、溶剤乾燥収縮、熱収縮や搬送応力等により成形中のフィルムには各種応力が発生する。そのため、得られるフィルムにはこれらの応力により誘起される分子配向に起因する複屈折により位相差が残存しやすい。そのため必要に応じ熱アニール等のフィルムに対する特別な処理を施し残存する位相差を低減させなければならず製造工程が煩雑になるなどの問題がある。また、残存する位相差を低減させたフィルムを用いた場合でも、そのあとのフィルムの加工時に生じる応力や変形により新たな位相差を生じる。更に、プラスチックフィルムが偏光保護フィルムとして用いられる場合、偏光子の収縮応力により該フィルムに好ましくない位相差が生じ、偏光フィルムの偏光性能に悪影響を及ぼす事が知られている。
【0005】
一方フィルムを横方向に延伸する際には、クリップやピンを用いてフィルムを固定するテンターが用いられる場合が多い。すなわち、フィルムの幅方向端部をテンタークリップで保持し、次第に間隔が開くように設置されたテンターレールに沿って、フィルムの幅方向端部を保持したテンタークリップを前進させることにより、フィルムを横延伸する。横延伸のスタート時は通常、定常運転時のライン速度よりも遅いことが普通である。温度条件は定常運転時にフィルム品質が最も良い状態を維持できるように設定されている場合が多い。この状態で運転を開始すると、フィルムに与えられる熱量が大きすぎるために、フィルムの延伸戻りが大きくなる等の影響でフィルムが脆くなりテンター出口にて破断に至る。さらに定常運転時においてもフィルム端部が脆くなりテンター出口でフィルム破断やフィルムが裂けるトラブルが発生する場合がある。
これを回避する方法として、フィルム固定具にてフィルムが破断するのを防ぐために、フィルムの把持部において引き裂き強度の大きいフィルムを別途補強用として重ねて使用する方式が提案されている(特許文献1)。またフィルム固定具の温度をある温度以下とすることで、破断を防止する試みがなされている(特許文献2参照)。しかしながらこれらの改良案についても、フィルム貼り付け不良や、幅方向の厚みプロファイルに悪影響を及ぼすなど、使用者の満足出来るものではなかった。
【特許文献1】特開平11−254521号公報
【特許文献2】特開2006−306555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非晶性の熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸による光学用フィルムの製造方法であって、横延伸工程において熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に変形する際に、熱風を熱源としたテンターを用いる製造方法において、送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を設置し、且つ、仕切板を調整することでフィルム固定具に当たる熱量を調整し、フィルム品質を悪化させることなく、フィルム破断発生率の極めて低い運転が可能となる光学用フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸をする逐次二軸延伸において、立ち上げ時の破断が少なく、ライン速度が変化する場合や、定常運転時においてテンター出口以降のフィルム端部からのフィルムの破断が少なく、且つ厚みプロファイルが良好な光学用フィルムを安定して製造する方法を提供することを目的とし、具体的には、本発明は、以下に示す製造方法である。
【0008】
(i) 非晶性の熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸による光学用フィルムの製造方法であって、横延伸工程において熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に変形する際に、熱風を熱源としたテンターを用いる製造方法において、送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を設置し、且つ、仕切板を調整することでフィルム固定具に当たる熱量を調整することを特徴とする光学用フィルムの製造方法。
【0009】
(ii) 非晶性の熱可塑性樹脂として、イミド樹脂又はイミド樹脂を含有する樹脂組成物を用いることを特徴とする(i)記載の光学用フィルムの製造方法。
【0010】
(iii) イミド樹脂が、下記の一般式(1)で表される単位と、下記の一般式(2)で表される単位及び/又は(3)で表される単位を有するイミド樹脂であることを特徴とする、(ii)に記載の光学用フィルムの製造方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基示す。)
【0013】
【化2】

【0014】
(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(ただし、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
(iv) 熱風を熱源としたテンターを有する横延伸機であって送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を有し、該仕切板はフィルム固定具に当たる熱量を調整する機能を有することを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、フィルム品質を悪化させることなく、フィルム破断発生率の極めて低い運転が可能となる光学用フィルムの製造方法、及び、それらを実現するための製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔フィルムの組成〕
まず、本発明に係る光学用フィルムの製造方法において用いられるフィルムについて説明する。本発明において、フィルムは少なくとも非晶性の熱可塑性樹脂からなる。この非晶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル系樹脂やポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、マレイミド・オレフィン系樹脂、グルタルイミド系樹脂などの単独樹脂、あるいはこれらを混合してなる樹脂組成物が挙げられる。
【0019】
非晶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、耐熱性や耐溶剤性の観点から、下記一般式(1)で表される単位を有するイミド樹脂が好ましく、下記一般式(1)で表される単位と下記一般式(2)で表される単位とが共重合したイミド樹脂、下記一般式(1)で表される単位と下記一般式(3)で表される単位とが共重合したイミド樹脂、又は、下記一般式(1)で表される単位と下記一般式(2)で表される単位と下記一般式(3)で表される単位とが共重合したイミド樹脂がより好ましい。
【0020】
【化4】

【0021】
(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0022】
【化5】

【0023】
(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0024】
【化6】

【0025】
(ただし、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
イミド樹脂は、通常、上記一般式(1)で表される単位を有する樹脂である。この一般式(1)で表される単位からなる樹脂は、正の固有複屈折を有している。一方、上記一般式(2)で表される単位からなる樹脂はゼロ近傍の固有複屈折を有し、式(3)で表される単位からなる樹脂は負の固有複屈折を有している。従って、上記一般式(1)で表される単位と上記一般式(2)及び/又は(3)で表される単位とが適切な比率で共重合したイミド樹脂を用いれば、光学用途に好適なゼロ複屈折のフィルム、又はそれに近いフィルムを実現することができる。
【0026】
上記一般式(1)で表される単位を有する樹脂としては、例えば、グルタルイミド樹脂等が挙げられる。また、上記一般式(1)で表される単位と上記一般式(2)で表される単位とを有する樹脂としては、例えば、イミド化ポリメタクリル酸メチル樹脂(イミド化PMMA樹脂)等が挙げられる。また、上記一般式(1)で表される単位と上記一般式(3)で表される単位とを有する樹脂としては、例えば、イミド化スチレン樹脂等が挙げられる。また、上記一般式(1)で表される単位と上記一般式(2)で表される単位と上記一般式(3)で表される単位とを有する樹脂としては、例えば、イミド化メタクリルスチレン樹脂(イミド化MS樹脂)等が挙げられる。なお、これらの樹脂の合成方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて合成することができる。
【0027】
また、非晶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂組成物であってもよい。本発明において、非晶性の熱可塑性樹脂として用いることができる樹脂組成物の具体的な組成は特に限定されるものではなく、上述した各種熱可塑性樹脂(好ましくは上記イミド樹脂)と、本発明の技術分野で公知の他の成分とを公知の比率で含有していればよい。他の成分としては、他の樹脂成分であってもよいし、以下の押出工程で一般的に用いられている安定剤や滑剤、紫外線吸収剤等であってもよい。
【0028】
〔フィルムの成形方法〕
フィルムを成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能であり、たとえば、溶液流延法や溶融押出法などが挙げられる。そのいずれをも採用することができるが、地球環境上や作業環境上、あるいは製造コストの観点から、溶剤を使用しない溶融押出法が好ましい。
【0029】
本発明にかかるフィルムの製造方法においては、少なくとも縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸工程が含まれていればよく、他の工程については特に限定されるものではないが、好ましい実施形態としては、さらに、予備乾燥工程、押出工程、冷却工程の各工程を含む製造方法を挙げることができる。
【0030】
予備乾燥工程は、フィルム化の前に、用いる熱可塑性樹脂を予備乾燥しておく工程である。予備乾燥は、例えば原料をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などを用いることによって行われる。以上の予備乾燥によって、押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。本工程を採用することによって、特に光学用フィルムを製造する場合には、発泡に伴う光学用フィルムの品質低下を回避できるため好ましい。予備乾燥の具体的な条件は特に限定されるものではなく、本発明の技術分野で公知の条件を採用することができる。なお、予備乾燥の際の温度は、水を充分に気化させられる程度に高温であり、かつ、原料ペレットがブロッキングしない程度に低温であればよい。
【0031】
押出工程は、熱可塑性樹脂を押出機に供給してシート状に押出し、フィルムとして製膜する工程である。押出機の種類および押出条件は特に限定されるものではなく、本発明の技術分野で公知の条件を採用することができる。例えば、押出機内で加熱溶融された熱可塑性樹脂を、ギヤーポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する構成の押出機を好ましく用いることができる。ギヤーポンプを用いることによって、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みむらを低減させることができる。また、フィルターを用いることによって、樹脂中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。このような構成を採用することによって、得られる光学用フィルムの品質をより向上させることができる。
【0032】
冷却工程は、押し出されるシート状の溶融樹脂を2つの冷却ドラムで挟み込んで冷却する工程である。冷却工程を採用することによって、光学用フィルムを効率的かつ高品質に製膜することができる。ここで、2つの冷却ドラムのうち、一方は表面が平滑な剛体製の金属ドラムであり、もう一方は表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルなドラムであることが特に好ましい。剛体製のドラムとフレキシブルなドラムとで、押し出されるシート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して製膜することにより、表面の微小な凹凸やダイラインなどが矯正されて、表面の平滑な、厚みむらが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0033】
上記剛体製ドラムおよびフレキシブルドラムの具体的な材質や形状、大きさ等は特に限定されるものではなく、押し出されたシート状の溶融樹脂を十分に冷却できるようなドラムとなっていればよい。なお、本明細書において「冷却ドラム」とは、いわゆる「タッチロール」および「冷却ロール」をも包含するものである。
【0034】
本冷却工程では、たとえ一方のドラムが弾性変形可能であったとしても、いずれのドラム表面も金属であるために、ドラムの面同士が接触してドラム外面に傷がつきやすく、また、ドラムそのものが破損しやすい。従って、成形するフィルムの厚みは10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。
【0035】
また、本冷却工程では、フィルムが厚いと、フィルムの冷却が不均一になりやすく、光学的特性が不均一になりやすい。従って、フィルムの厚みは200μm以下であることが好ましく、170μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の好ましい実施態様として、上記予備乾燥工程、押出工程、冷却工程、および後述する延伸工程を含む製造方法を例示したが、もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、必要に応じて一部の工程を省略してもよいし、本発明の技術分野で公知の他の工程を追加してもよい。他の工程としては、後述する表面処理工程等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0037】
〔フィルムの延伸方法〕
本発明では、上記のようにして得られたフィルムに対して延伸工程を施すことにより延伸フィルムを得る。すなわち、延伸フィルムは、上記〔フィルムの成形方法〕において説明した方法などによって得られた未延伸状態のフィルムに対して、縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸を行うことにより得られる。これらの延伸を行うことにより、フィルム面内およびフィルム厚み方向の複屈折を適度に付与することができる。なお、原料フィルムを成形した後、必要に応じて一旦フィルムを保管もしくは移動して、その後にフィルムの延伸を行ってもよい。
【0038】
縦延伸には、従来公知の任意の延伸方法が採用されてよく、一般に、ゾーン延伸またはロール縦延伸が一般的である。ゾーン延伸法は、2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する縦一軸延伸であり、ロール縦延伸法は、所定の温度に設定された延伸ロール間で、入口側のロール回転数より出口側のロール回転数を大きくすることによって延伸する方法である。延伸温度は、使用する熱可塑性樹脂により異なるが、一般に、熱可塑性樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+10℃の範囲が好ましい。
【0039】
横延伸は、テンター延伸が一般的である。
【0040】
本発明における横延伸工程では、横延伸機が、送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を有することを特徴とする。その一例を図1に示すが、これらに限定されるものではない。仕切板を分割する個数は、テンターの幅を変更できる単位毎とすることが望ましいが、フィルムの特性に合わせて増減することができる。また、設置するゾーンはフィルムをしかるべき温度にあげる予熱ゾーンから延伸ゾーンに設置することが最も効果があるが、テンター炉内全域にわたり設置したり、ある部分のみ設置したりすることが可能である。この仕切板の材質は、テンター内の予熱温度以上の耐熱性を有することが好ましく、異物発生の観点からステンレス鋼を使用することが望ましい。仕切板の隙間は、テンターのクリップ間移動装置の動作を妨げない範囲で出来る限り狭いほうが良い。仕切板の設置について説明すると、テンタークリップはチェーン駆動されている場合が多く、チェーンには発塵や錆びを抑えるために注油する方式が採用されている場合が多い。注油された油が飛散するのを抑えるために、クリップの上下にカバーが取り付けられている場合がある。この上カバーにスリット状の溝を切り、仕切板を装着することが可能である。さらにこの仕切板は容易に開度を調整し、フィルム固定具にあたる熱量を調整する機能を有する。開度は外部から調整することもできる。すなわち、外部から調整用ワイヤーを操作することによって、仕切板が上下し、開度が調整できる開度調整機構を有する。仕切板の開度を100とすると、送り側クリップと返り側クリップの間を流れる熱風量が仕切板を設置しないときと同じ、すなわち100%の熱風量となり、仕切板の開度を0(ゼロ)とすると、送り側クリップと返り側クリップの間を流れる熱風量が最小、すなわち0%の熱風量となる。
【0041】
運転開始時は仕切板開度を0とし、クリップの間を熱風が通過することを防止する。フィルムのMD方向の速度を定常運転時の状態まで増速する。定常運転の速度は適宜設定できる。増速が完了したら、装置外部より仕切板をあげてクリップに流れる熱風の量を調整する。調整できる範囲は仕切板のない場合の熱風量を100とすると、0〜100の範囲である。フィルムの厚みプロファイルやフィルム端部の状態を見て仕切板の開度を決定する。フィルム端部の熱量が不足すると、厚みプロファイルの悪化が確認できる。プロファイルが悪化する場合は仕切板の開度を大きくする。またフィルム端部の強度が著しく不足している場合は仕切板の開度を小さくすることにより、フィルムの破断防止と良好な厚みプロファイルを両立したフィルムの製造が可能となる。上記観点から開度は適宜調整してやればよいが、例えば、イミド樹脂の場合、破断防止のため、熱量は極力少ないことが好ましく、運転開始時から増速完了時までの好ましい開度は0である。増速完了後は、品質への影響から好ましい開度は70以上、さらに好ましくは80以上であり、特に好ましくは90以上である。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例に基づき、詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正及び各変を行なうことが出来る。
【0043】
詳細を説明する前にフィルムの厚み測定方法について述べる。厚みはクリップで挟んだ部分を除くフィルム幅方向に渡り、アンリツ社製FILM THICKNESS TESTER KG601Bの接触式連続厚み計にて1mmピッチで測定した。厚み精度の範囲は、測定した全データを100%として計算した。
〔製造例1〕
アクリル酸エステル系樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を、イミド化剤であるモノメチルアミンによりイミド化し、イミド化PMMA樹脂を製造した。この、イミド化PMMA樹脂は、実施形態の〔フィルムの組成〕に記載した一般式(1)で表される単位と一般式(2)で表される単位とが共重合したイミド樹脂に相当する。得られたイミド化樹脂を押出機にてペレットにし、得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、40mm単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて240℃で押出し、厚み150μmのフィルムを得た。フィルムのTgは126℃であり、フィルムの伸び率は3%であった。
〔製造例2〕
ポリメタクリル酸メチル‐スチレン共重合体(MS)樹脂を、イミド化剤であるモノメチルアミンによりイミド化し、イミド化MS樹脂を製造した。このイミド化MS樹脂は、実施形態の〔フィルムの組成〕に記載した一般式(1)で表される単位と一般式(2)で表される単位と一般式(3)で表される単位とが共重合したイミド樹脂に相当する。得られたイミド化樹脂を押出機にてペレットにし、得られたペレットを140℃で5時間乾燥した後、40mm単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて260℃で押出し、厚み150μmフィルムを得た。フィルムのTgは140℃であり、フィルムの伸び率は4%であった。
〔実施例1〕
製造例1の樹脂を用いて、縦延伸温度を135℃、縦延伸倍率を2.0倍として縦延伸を実施し、図1記載の横延伸機を用いて横延伸温度を150℃、横延伸倍率を2.0倍、横延伸機の熱風風速は9〜10m/sec、仕切板(ステンレス鋼)の開度を運転開始時から、増速完了までは0、増速完了と同時に90とした。増速完了時の生産速度は、7m/minであった。増速時のフィルム端部は裂けや割れが発生することなく良好であり、増速完了後もフィルムが裂けたり、破断することはなかった。得られた二軸延伸フィルムの厚みをオフラインの接触式厚み計にて測定した。フィルムの厚みが40μm±2μmとなる幅が二軸延伸フィルムの80%であった。
〔実施例2〕
製造例2の樹脂を用い、縦延伸温度を150℃で縦延伸を実施し、図1記載の横延伸機を用いて、横延伸温度を160℃、仕切板の開度を運転開始時から、増速完了までは0、増速完了と同時に80とした以外は、実施例1と同様の条件にて実験を実施した。増速時のフィルム端部は裂けや割れが発生することは無かった。得られた二軸延伸フィルムの厚みをオフラインの接触式厚み計にて測定した。フィルムの厚みが40μm±2μmとなる幅が二軸延伸フィルムの85%であった。
〔比較例1〕
製造例1の樹脂を用いて、フィルムの速度を増速完了した後も仕切板の開度を0とした以外は実施例1と同様の条件で運転を実施した。フィルム端部の状態は良好であり、フィルムの破断など発生せず増速を完了し、二軸延伸フィルムを得た。オフラインの接触式厚み計にて厚みを測定したところ、フィルム中央の厚みに比べフィルム端部の厚みが30%厚く、フィルムの厚み精度も中央厚み40μm±2μmとなる幅が、二軸延伸フィルムの50%未満であった。
〔比較例2〕
製造例2のフィルムを用い、フィルムの速度を増速完了した後も仕切板の開度を0とした以外は実施例1と同様の条件で運転を実施した。フィルム端部の状態は良好であり、フィルムの破断など発生せず増速を完了し、二軸延伸フィルムを得た。オフラインの接触式厚み計にて厚みを測定したところ、フィルム中央の厚みに比べフィルム端部の厚みが30%厚く、フィルムの厚み精度も中央厚み40μm±2μmとなる幅が、二軸延伸フィルムの50%未満であった。
〔比較例3〕
製造例1のフィルムを、運転開始時から増速完了時、さらに、増速完了後も仕切板の開度を90とした以外は実施例1と同様の条件で横延伸した。増速中に、テンター出口にてフィルム端部から亀裂が頻発し、最終的にはテンター出口でフィルムが破断した。得られたフィルムの厚みプロファイルは良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係わる横延伸機と仕切板の概略図
【符号の説明】
【0045】
1 仕切板
2 横延伸機
3 クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性の熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸する逐次二軸延伸による光学用フィルムの製造方法であって、横延伸工程において熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に変形する際に、熱風を熱源としたテンターを用いる製造方法において、送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を設置し、且つ、仕切板を調整することでフィルム固定具に当たる熱量を調整することを特徴とする光学用フィルムの製造方法。
【請求項2】
非晶性の熱可塑性樹脂として、イミド樹脂又はイミド樹脂を含有する樹脂組成物を用いることを特徴とする、請求項1に記載の光学用フィルムの製造方法。
【請求項3】
イミド樹脂が、下記の一般式(1)で表される単位と、下記の一般式(2)で表される単位及び/又は(3)で表される単位を有するイミド樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の光学用フィルムの製造方法。
【化1】

(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基示す。)
【化2】

(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化3】

(ただし、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項4】
熱風を熱源としたテンターを有する横延伸機であって送り側のフィルム固定具と返り側のフィルム固定具との間に仕切板を有し、該仕切板はフィルム固定具に当たる熱量を調整する機能を有することを特徴とする光学フィルムの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−284829(P2008−284829A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133931(P2007−133931)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】