説明

光学用途のための新規な複合材料及びそれを得る方法

本発明は、光学用途のための複合材料及びそれを得る方法に関する。この材料は、熱可塑性コポリエステルから作製された基材、ポリウレタンから作製された接着プライマー層、並びに有利にはヒドロキシル基、脂肪族CH基、エステル基、及びメチル基を有さないシロキサン基を含む抗スクラッチ性シリコーンワニスを含む。この材料は、光学部材、特にメガネレンズ(特にサングラス用)、及びヘルメット又はマスク用のバイザーを製造するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途のための新規な複合材料、及びそれを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料から作製されるソーラーガラスの分野において、最も普及した加工法の一つは、熱可塑性ポリマー類でできた基材を高圧下で注入することからなる。歴史的には、この熱可塑性ポリマー類に属する多数の有機材料が、光学部材、特にソーラーガラスを製造するために使用されてきた:即ち、通例「プレキシグラス(Plexiglass)」と呼ばれるポリメチルメタクリレート(PMMA)、セルロースプロピオネート(CP)、アセトブチレート(CAB)である。
【0003】
最高級品のサングラスの区分において、ジエチレングリコールのビス(アリル)カーボネートの(共)重合により得られる基材(例えば、PPG IndustriesによりCR−39(登録商標)という取引名の下で販売されている)である最初の熱硬化性有機ガラスの出現まで、無機ガラスが長い間、標準材料であった。より最近では、最高級品のサングラスの製造業者は、無機ガラスに比べて軽く、かつ、割れにくい基材で、しかもCR−39(登録商標)よりも高速度での打撃や衝撃に耐える基材を使用することを望むようになった。
【0004】
この要求は、光学用途のための熱可塑性材料の射出法の開発によって満たされてきた。まず、1970年代から、Christian Dalloz社が、個人向け日焼け防止用光学メガネ市場に、ポリカーボネート(PC)から製造された、Cridalon(登録商標)ガラスを提案した。約20年後、別の熱可塑性材料が出現した:即ち、一般にポリアミドと呼ばれる、非晶質のホモ−及びコ−ポリアミドである。
【0005】
従来の材料(無機ガラス及び熱硬化性有機ガラス)と徐々に置き換わってきた、これらの2種類の熱可塑性有機ポリマーのそれぞれは、長所及び短所を有する。
【0006】
ポリカーボネートは、あらゆる種類の形態(接眼レンズ及びスクリーン)に容易に射出成形され、非常に良好な耐衝撃性を有する。にもかかわらず、ポリカーボネートはどんなフレームにも使用できるわけではない。というのは、より低い耐性の領域を生ずる局在化した内部及び外部応力に起因する現象である応力亀裂の影響を非常に受けやすいからである。さらに、ポリカーボネートは、流行・高級分野でフレームを製造するために広く使用されているセルロースアセテートと適合しない。
【0007】
ポリアミドは、応力亀裂の影響を受けにくく、アセテートと適合する利点を有する。しかし、ポリアミドは、耐衝撃性がポリカーボネートの1/2であり、より加工しにくい。経済的観点から見れば、ポリアミドは、ポリカーボネートよりはるかに高価であり、加工されるために特別の設備を必要とする。
【0008】
欧州特許出願EP1162245には、基材、ポリウレタンから作製されたプライマー層、及びシリコーン抗スクラッチ性ワニス層を含む光学要素が記載されているが、使用される基材は、本出願人の目的を満たさない。
【0009】
本発明は、ポリカーボネートでもポリアミドでもないポリマー、即ち、共に脂肪族である2種のアルコールと1種の酸との重縮合から得られる脂環式コポリエステル類の熱可塑性材料に関する。米国特許第6333821号には、このような脂環式コポリエステルのいくつかが記載されているが、後者は、高いガラス転移温度(180℃を超える)を示す欠点を有する。さらに、米国特許第6333821号に記載されたとおりのコポリエステルを得る方法を考慮すると当該コポリエステルは熱可塑性材料ではないが、熱可塑性材料こそが本出願人によって検討されている種類の材料なのである。
【0010】
したがって、実質的により低いガラス転移温度を有する別の熱可塑性脂環式コポリエステルを探す必要があったのであり、それが「Tritan」という商標の下でEastman Chemical Company社によって開発されたコポリエステルである。この新規な材料は、ポリカーボネートに近い実施の容易さと、115℃付近のガラス転移温度とを併せ持つ、ポリアミドの利点を有する。
【0011】
しかし、このコポリエステル単独では、ソーラーガラス又は他の光学ガラスの製造のために使用することはできない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、ソーラーガラス又は他の光学用途のガラスの製造に適するように処理されたコポリエステル系複合材料に関する。
【0013】
本発明は、「Tritan」という商標の下で市販されている種類のコポリエステル系複合材料を得る方法にも関する。
【0014】
実際、このコポリエステルは、単独で使用された場合、抗スクラッチ性材料では本来なく、そのことが「最高級品ソーラーガラス」用途としては許容されないことがわかったので;したがって、それに抗スクラッチ性ワニス層をコーティングすることが必要であった。この目的のために、ポリシロキサン類の抗スクラッチ性ワニスが、ソーラーガラスの分野で最も一般的に使用されており、それらの用途に関連して何ら具体的な問題を引き起こしていない。
【0015】
しかし、極めて驚くべきことに、ポリシロキサン類の多数の抗スクラッチ性ワニスが試験されたが、それらは、コポリエステル基材に適用された場合に当該基材に接着しなかったため、適切でなかった。
【0016】
これらのポリシロキサン類の抗スクラッチ性ワニスの中で、2種の非常に一般的に使用されているワニスを挙げることができる。
【0017】
試みられたこれらのワニスの第一は、脂肪族CH基と高含有量のポリジメチルシロキサン鎖のメチル基を有するシリコーンワニスである。
【0018】
ポリカーボネート上にこのワニスを適用する際のワニス製造業者の推奨は以下のとおりである。
− 浴温度T℃:20℃
− 厚さ:3から5ミクロン
− 乾燥:20℃で30分間(ゲル化)
− 硬化:123℃で1時間40分間
【0019】
このワニスを、厚さ、硬化時間及び硬化温度というパラメータの異なる種々のコポリエステル基材上で試験したが、予想に反して、まったく接着性を示さなかった。プライマーの使用はこのワニスに対して推奨されていない。
【0020】
試みられた第2のワニスであるが、これもヒドロキシル基、脂肪族CH基、エステル基、及び前記のものよりもメチル基含有量の低いシロキサン基を有するシリコーンワニスであった。
【0021】
ポリカーボネート上にこのワニスを適用する際の製造業者の推奨は以下のとおりである。
− 浴温度T℃:20℃
− 厚さ:3から5ミクロン
− 乾燥:20℃で30分間(ゲル化)
− 硬化:123℃で1時間40分間
【0022】
前記と同様に、このワニスを、厚さ、硬化時間及び硬化温度というパラメータの異なる種々のコポリエステル基材上で試験したが、またもや予想に反して、まったく接着性を示さなかった。プライマーの使用はこのワニスに対して推奨されていない。
【0023】
接着性を示さなかった両方の場合において、科学的説明は見出せなかった。
【0024】
これらの繰返された失敗に直面して、ポリシロキサン類の別の抗スクラッチ性ワニスを使用することを決定した;手近なものとして、ヒドロキシル基、脂肪族CH基、エステル基、及びメチル基を有さないシロキサン基を有するシリコーンワニスを使用した。
【0025】
ポリカーボネート上にこのワニスを適用する際の製造業者の推奨は以下のとおりである。
− 浴温度T℃:20℃
− 厚さ:3から5ミクロン
− 乾燥:20℃で30分間(ゲル化)
− 硬化:129℃で3時間
【0026】
このワニスの製造業者はプライマーを推奨する;それは、複数の添加剤を含むポリウレタンプライマーである。
【0027】
このプライマーを適用するための製造業者の推奨は以下のとおりである。
− 浴温度T℃:19℃
− 厚さ:1ミクロン
− 乾燥:50乃至70℃で10分間(ゲル化)
− 硬化:硬化せず
【0028】
製造業者により推奨された条件下で「Tritan」製基材上にそのプライマーと共に用いた、この最後に挙げたワニスの使用は、ワニスの良好な接着性をもたらしたが、コポリエステルが115℃付近のガラス転移温度を有するので、部材の変形をもたらした。
【0029】
そこで、ワニスの硬化操作の間のコポリエステル製部材の非変形性及び良好な接着性を同時にもたせるために新たな研究が必要であった。多くの試みの後、ついに硬化温度範囲が驚くほど狭いことが発見された;実際、製造業者により推奨されたとおりの130℃付近の硬化により部材は変形する一方、より低い温度(例えば90乃至95℃付近)では部材の変形は起きなかったが、コポリエステル基材上の抗スクラッチ性ワニスの適切な接着性をもたせることはできなかった。最終的に採用された硬化温度は100から110℃、有利には約105℃である。
【0030】
基材及びプライマーを含むガラス上に上記のワニスを適用するために、下記の種々の技術を使用することができる。即ち、
− 「浸漬コーティング」:ガラスをワニス浴に浸漬する;
− 「フローコーティング」:ガラスはワニスのジェットを受け、それが全表面にわたって重力で流れる;
− 「スプレーコーティング」:ガラスはスプレーによりワニスを受ける;
− 「スピンコーティング」:ガラスはワニスの滴下を受け、それがガラス自身の回転によって全表面にわたって広がる
である。
【0031】
本発明による新規な複合材料は無色のままであってもよく、着色されていてもよい;着色は、着色顔料を(特に射出成形時に)添加することによって、又は着色浴に浸漬させることによって行うことができる。
【0032】
本発明による複合材料に使用されるワニスは、例えば、化粧目的の着色処理又は反射防止目的の機能的処理、更には、貴金属(特に金)の蒸着などの特殊な処理を問わず、種々の真空表面処理と適合する点にも注目すべきである。
【0033】
最後に、本明細書では、本発明による複合材料の基材を構成する「Tritan」と呼ばれるコポリエステルを例に挙げて説明してきた。本発明の範囲を逸脱しなければ、他の熱可塑性コポリエステル、即ち、「Tritan」に近い物理的及び/又は化学的特性を有するが、より高いガラス転移温度を有して熱可塑性材料の範囲にとどまるものは、前記複合材料の基材として使用され得ることはもちろんである。その熱可塑性コポリエステルのガラス転移温度がTritanより高いとすれば、この複合材料を得る方法は、その使用した熱可塑性コポリエステルのガラス転移温度よりも若干低いワニスの硬化温度を採用することによって多少修正すればよい。
【0034】
様々な光学部材が、本発明による複合材料から作製することができ、メガネレンズ、特にソーラーガラス、又はマスク用若しくはヘルメット用のバイザーを含み得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.熱可塑性脂環式コポリエステル基材;
b.ポリウレタンプライマーの層;
c.シリコーン抗スクラッチ性ワニス
を含むことを特徴とする、光学用途のための複合材料。
【請求項2】
前記コポリエステルが「Tritan」という商標の下で市販されているものであることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記シリコーンワニスが、ヒドロキシル基、脂肪族CH基、エステル基、及びメチル基を有さないシロキサン基を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
着色されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
真空表面処理も受けていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
a.ポリウレタンプライマーをコポリエステル基材に適用する工程;
b.シリコーン抗スクラッチ性ワニスフィルムを前記プライマー上に堆積させる工程;
c.前記ワニスを、前記コポリエステルのガラス転移温度より若干低い温度で硬化させる工程
からなることを特徴とする、請求項1に記載の複合材料を得る方法。
【請求項7】
前記ワニスの硬化が、前記コポリエステルが「Tritan」である場合、100℃から110℃にあることを特徴とする、請求項6に記載の複合材料を得る方法。
【請求項8】
硬化温度が約105℃にあることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ワニスがプライマー上に適用され、前記プライマーは、以下の技術、即ち、浸漬コーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティングの1つを用いて、基材の上に配置されていることを特徴とする、請求項6から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の複合材料を用いて作製された光学部材。


【公表番号】特表2013−521157(P2013−521157A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555464(P2012−555464)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/FR2011/000118
【国際公開番号】WO2011/107678
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(510133883)クリスチャン ダロズ スノプティクス ソシエテ パル アクスィヨンズ サンプリフィエ (エセアエセ) (3)
【Fターム(参考)】