説明

光学的測定法

【課題】検体に含まれる測定対象物を検出する光学的測定において測定される発光中に混在する測定対象物以外の物質による発光を軽減し、高感度かつ信頼性の高い光学的測定を行う。
【解決手段】測定対象物を含有する試料に希釈液を加えて行う均質化工程と、固形物を取り除く濾過工程と、励起波長による発光がない不溶性微粒子を検体に対し濃度1〜10%となるよう加える添加工程と、測定対象物の測定評価工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中に含まれる測定対象物を高感度に検出する光学的測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
検体に含まれる測定対象物を、光の吸収や発光などの光学的変化を分析手法として利用する光学的測定は、食品、医療、環境といった様々な分野に普及しつつある。特に食品分野では、食の多様化、外食・中食の普及や流通の発達により、食中毒の発生原因が従来とは異なる傾向にあり、また大規模・広範囲に渡って病原性の強い集団食中毒が発生していることから、食中毒菌への対策として出荷前の迅速かつ高感度な検査等が求められている。
【0003】
光学的手法を用いた検査法としては、光透過性の容器(セル)に試料を入れ、容器内に光を通過させて観測を行う方法が挙げられる。または、光透過性の材料から成る光導波路をプローブとし、このプローブに光を導入又は/及び収集して、プローブ表面付近の測定対象物を光学的に観測することも行われている。特に、プローブ内に内部全反射光を伝播させ、その際のプローブ表面に発生するエバネッセント光を励起光とする方法は、プローブ表面近傍における免疫反応を選択的に観測することにおいて優れた方法である。
【0004】
また、前記の全反射を多重に行わせることにより、励起光をより効率良く用い、感度を向上させることもできる。この多重全反射を利用した測定法の一例としては、ファイバ型光導波路を検体溶液に浸漬して用いる方式が、知られている。(たとえば、特許文献1)また、内部全反射の効率を高めるために、独特な形状部分を有するファイバ型光導波路が開示されている。(例えば、特許文献2)これらの例は、装置に対して着脱可能な光学プローブとして使い易いものであり、使い捨て性やコストを考慮して、樹脂を射出成形などの成形法で加工して作製されることが多い。
【0005】
また従来からの免疫反応を利用する分析法は、夾雑物の多い検体から特定の測定対象物を選択的かつ簡便に測定する方法として優れており、免疫反応による測定対象物の直接的又は間接的な測定法として、例えば沈降反応や凝集反応などが用いられている。
【0006】
更に、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、酵素などの標識物質による標識によって免疫反応を光学的に測定し定量化する標識免疫測定を行うことで、測定感度が飛躍的に高まっている。標識法による放射免疫測定方法、酵素免疫測定方法、蛍光免疫測定方法などが知られており、幾つかの装置が市販されている。
【0007】
光学的測定の中でも特に、免疫反応を利用し蛍光色素による標識を行う光学的測定法においては、免疫反応により形成される測定対象物と蛍光物質との結合物を高感度かつ選択的に検出することができる一方で、測定対象物以外の物質による発光が測定されることがある。例えば近年重要度が増している食品検査において、カイワレ大根、ネギ、ホウレンソウ等のクロロフィルを含む検体によって上記のような発光が測定されることが分かった。
【0008】
これは一般に標識抗体の非特異吸着やバックグラウンドと呼ばれるような、例えば免疫反応において蛍光色素により標識された抗体が、特異的な反応によらず反応が起こるべき部位以外に吸着して蛍光が検出されるものとは異なる。詳細な機構は明らかではないが、検体中に含まれるクロロフィル-蛋白質複合体がプローブ近辺に存在あるいは表面に吸着して、励起光により励起されて発光しているものが測定対象物と色素との結合体による蛍光と混在しているものである。
【特許文献1】米国特許4582809号公報
【特許文献2】米国特許6136611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、光学的測定において測定される発光中に混在する測定対象物以外の物質による発光を軽減し、高感度かつ信頼性の高い光学的測定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る光学的測定法は、検体に含まれる測定対象物を検出する光学的測定法において、該検体に希釈液を加えて行う均質化工程と、固形物を取り除く濾過工程と、該濾過工程後の検体に励起波長による発光がない不溶性微粒子を濃度1〜10%となるよう加える添加工程と、該不溶性微粒子を添加した検体中の該測定対象物の測定評価工程を備える光学的測定法である。また不溶性微粒子は動物性蛋白質であり、例として、スキムミルク、カゼイン、BSA(牛血清アルブミン)がある。また上記励起波長は400〜700nmである。
【0011】
また上記光学的測定法は、プローブの表面に検体中の測定対象物を捕捉させ、更に蛍光性発色団を有する色素を結合し、プローブ内に励起光を導入して発生したエバネッセント光によって蛍光性発色団を励起し、プローブ内を伝播して収集された蛍光量を測定することによって、プローブ上に形成された測定対象物と色素との結合物を検出する。プローブ表面への測定対象物の捕捉及び蛍光性発色団を有する色素との結合は、免疫反応によるものであり、測定対象物と色素とが抗体を介してプローブ表面に結合物を形成している。また検体はポルフィリン環構造を有する発光物質を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明による光学的測定法によれば、光学的測定において測定される発光中に混在する測定対象物以外の物質による発光を軽減し、高感度かつ信頼性の高い光学的測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る光学的測定法は、検体に含まれる測定対象物を検出する光学的測定法において、該検体に希釈液を加えて行う均質化工程と、固形物を取り除く濾過工程と、該濾過工程後の検体に励起波長による発光がない不溶性微粒子を濃度1〜10%となるよう添加する工程と、該不溶性微粒子を添加した検体中の該測定対象物の測定評価工程を備える光学的測定法である。
【0014】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1はプローブ1の側面図であり、このプローブ1は例えばポリスチレン樹脂を射出成型して製作され、フランジ部2を境に上部はレンズ部位3とされ、下部は棒状の光導波路4とされ、光導波路4の先端は光吸収部位5とされている。
【0016】
光導波路4の表面への測定対象物の捕捉方法は、直接的な物理吸着や予め表面に準備された吸着剤による捕捉を用いることができるが、予め表面に固定された測定対象物に特異的に結合する物質による捕捉、より好ましくは抗体による捕捉が選択性の高い方法として望ましい。
【0017】
図2は基本的な測定光学系の構成図である。測定容器11にフランジ部2を用いて固定したプローブ1の上方には、ビームスプリッタ13、半導体レーザー光源15が配置され、ビームスプリッタ13のプローブ1側からの光束の反射方向には、図示しないレンズ、フィルタを介して例えばフォトダイオードから成る光検出器14が配置されている。
【0018】
測定に際しては、先ずプローブ1を測定光学系とは別に設けられた検体容器12中に保持することで、光導波路4は検体が満たされた検体容器12に浸漬され、測定対象物の捕捉を行う。
【0019】
次いで、プローブ1を測定容器11に移動して洗浄した後、蛍光性発色団を有する色素により標識された標識抗体と接触させることで免疫反応の結合物を形成する。そして、半導体レーザー光源15からレーザー光をプローブ1に導入し蛍光の集光を行う。導波路4で得られる蛍光は、レンズ部位3からビームスプリッタ13、レンズ、フィルタを経て、光検出器14により蛍光信号の光量を測定する。
【0020】
棒状の光導波路4は検体容器12及び測定容器11中に配置されるために、浸漬、洗浄などの各種操作が行い易いという長所を持っている。しかし一方で、励起光の反射光、散乱光、或いは吸収や屈折率の変化が蛍光に混入して光検出器14で収集され易いという短所がある。この短所は光導波路4の端面の光吸収部位5に黒色体を配置すること、測定光学系中に光学フィルタを導入するなどによってかなり解決される。
【0021】
しかし測定される蛍光中に、励起光によって励起されて発光する測定対象物以外の物質による発光が混在する場合、波長が極めて近いと光学フィルタによる分離も十分に有効ではない。例えば食品に元来含まれる色素や着色料として添加される色素が、測定対象物を標識する蛍光色素と極めて近い波長で励起・発光する場合、その分離は困難であるばかりか、測定された蛍光量が測定対象物によるものとの判定が不明瞭となり、食品検査においては誤判定は大きな損害を生じるものとなる。食品に含まれる色素として例えば、ポルフィリン環構造を有するクロロフィルがある。クロロフィルは蛋白質と結合してクロロフィル-蛋白質複合体を形成しているため、プローブ表面に付着して励起光により励起され発光していると考えられる。または表面近傍に存在しているだけで励起光により励起され発光しているとも考えられる。クロロフィルの中でもクロロフィルaは吸収極大が427nmと660nmにあり、665〜680nmにて発光するため、標識に最適な蛍光色素の波長と一致してしまうことがある。
【0022】
上記理由による測定される発光中に混在する測定対象物以外の物質による上記発光を軽減するためには、測定対象物を含有する試料を希釈液と共に例えばフィルタを備えた専用バッグに入れ、ストマッカーやローラーにより均質化する工程を行う。この時希釈液は、測定対象物により液体培地や緩衝液などを適宜選択することができる。次いでフィルタを通過することにより固形物を取り除く濾過工程を経た検体に、励起波長による発光がない不溶性微粒子を検体に対し濃度1〜10%となるよう加える添加工程を行う。不溶性微粒子はスキムミルク、カゼイン、BSA(牛血清アルブミン)等の動物性蛋白質であることが好ましい。また不溶性微粒子は波長400〜700nmの励起光により励起されないものであることが好ましい。不溶性微粒子がクロロフィル-蛋白質複合体のプローブへの付着を防ぐものと考えられ、上記濃度より低濃度であるとクロロフィル-蛋白質複合体のプローブへの付着を防ぐ効果が得られず、測定対象物による蛍光と混在して検出されてしまう。上記濃度より高濃度であると測定対象物の免疫反応をも妨害してしまい、また検体への溶解が困難となる。上記均質化工程、濾過工程、添加工程を経たのち前述の測定対象物の測定評価を行う。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
(プローブ)
プローブ1は、ポリスチレン樹脂(極一般的なものであり、どこのメーカー品であっても良い)を射出成形したものであり、その形状は図1に示した通りである。光導波路4は、テーパー部が長さ41.3mm、円柱部が直径0.7mm、であり、使用状態に応じた所定の長さとし、レンズ部3とフランジ部2を有していてもよい。なお、プローブの形状は、本実施例を1例とするものにすぎない。
【0024】
(操作)
このプローブ1の光導波管4の表面にEscherichia coli O157:H7抗体(Kirkegaard & Perry Lab.Inc社製)を固定したものを用いた。検体の調整は次のように行った。カイワレ大根に9倍量の0.5%ポリオキシメチレンソルビタンモノラウレートを含む0.01mol/Lりん酸緩衝液を加え、市販のフィルタバッグ内でストマッカー法により均質化し、フィルタ濾過を経たものに菌濃度2.4×104CFU/mlとなるよう不活化したEscherichia coli O157:H7を加えた。スキムミルクの粉末を検体に対し濃度2.5%となるよう添加し、溶解した。なお上記菌を加える操作は実験的に前もって菌濃度を知るための操作であり、実用での測定では菌濃度不明の検体を用いるのが常であるので、菌を加える操作は行わない。上記検体を用いて、次の工程による評価測定を行った。
【0025】
(ア)始めに、測定前の信号を得るために、光導波路4を測定容器11内に配置し、緩衝液を満たして測定を行った。
【0026】
(イ)非特異的吸着による信号を得るために、光導波路4を測定容器11の2μg/mlの蛍光標識抗体(Amersham Biosciences社製:Cy5 bisfunctional reactive dyeにより抗体を標識)を含むりん酸緩衝液に浸漬して、25℃で5分間静置した。光導波路4を緩衝液により洗浄し、りん酸緩衝液で測定容器11を満たして蛍光信号を3回測定した。これによって非特異的吸着分による僅かな信号増加と飽和を予め確認した。
【0027】
(ウ)免疫反応による信号を得るために、10mlの検体を満たした検体容器12に光導波路4を10分間浸漬した後りん酸緩衝液により洗浄し、りん酸緩衝液で測定容器11を満たして標識前の信号を得た。
【0028】
(エ)光導波路4を測定容器11中の2μg/mlの蛍光標識抗体を含む緩衝液に浸漬して、25℃で5分間静置した。光導波路4をりん酸緩衝液により洗浄し、りん酸緩衝液で測定容器11を満たして標識後の蛍光信号を得た。
【0029】
[実施例2]
実施例1と同様にして用意したプローブ1を用いた。また、実施例1と同様にフィルタバッグ内でストマッカー法により均質化したカイワレ大根及びりん酸緩衝液を、フィルタ濾過を経たのち菌濃度を調整し、スキムミルクの粉末を濃度2.5%となるよう添加し、溶解した。実施例1と同様に(ア)〜(エ)の操作を行った。
【0030】
[比較例]
実施例1と同様にして用意したプローブを用い、検体は実施例1、2と同様に調製しフィルタバッグによる濾過を経たものをスキムミルクを添加せずに用いた。実施例1と同様に(ア)〜(エ)の操作を行った。
【0031】
図3は実施例1〜2及び比較例における測定データのグラフを示している。実施例1〜2及び比較例とも、上記操作(イ)において標識抗体の非特異的吸着による信号値の増加はみられない。しかしスキムミルクを添加しなかった比較例では、上記操作(ウ)において信号値の増加が観測された。また上記操作(エ)においても、測定対象物であるEscherichia coli O157:H7による信号値は、均質化工程でカイワレ大根を加えないりん酸緩衝液のみでの測定における信号値よりも非常に大きな信号値が得られた。上記(ウ)及び(エ)での信号値にはクロロフィルによると思われる発光の分が含まれると考えられる。スキムミルクを添加した実施例1、2では信号値の増加が殆どないか、または小さく抑えることができた。またいずれの実施例でも、上記操作(エ)において、測定対象物であるEscherichia coli O157:H7による信号値は均質化工程でカイワレ大根を加えないりん酸緩衝液のみでの測定と同程度の信号値を得ることができ(図示せず)、スキムミルクが測定対象菌に対して悪影響を及ぼすことはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プローブの側面図である。
【図2】測定光学系の構成図である。
【図3】実施例および比較例における測定データのグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1.プローブ
2.フランジ部
3.レンズ部
4.光導波路
5.光吸収部位
11.測定容器
12.検体容器
13.ビームスプリッタ
14.光検出器
15.レーザー光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる測定対象物を検出する光学的測定法において、
該検体に希釈液を加えて行う均質化工程と、
該均質化工程の後の検体の固形物を取り除く濾過工程と、
該濾過工程後の検体に励起波長による発光がない不溶性微粒子を濃度1〜10%となるよう加える添加工程と、
該不溶性微粒子を添加した検体中の該測定対象物の測定評価工程と
を備えることを特徴とする光学的測定法。
【請求項2】
前記不溶性微粒子は動物性蛋白質であることを特徴とする請求項1に記載の光学的測定法。
【請求項3】
前記動物性蛋白質は、スキムミルク、カゼイン、BSA(牛血清アルブミン)であることを特徴とする請求項2に記載の光学的測定法。
【請求項4】
前記励起波長は400〜700nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学的測定法。
【請求項5】
前記光学的測定法は、プローブの表面に検体中の測定対象物を捕捉させ、更に蛍光性発色団を有する色素を結合し、該プローブ内に励起光を導入して発生したエバネッセント光によって該蛍光性発色団を励起し、該プローブ内を伝播して収集された蛍光量を測定することによって、該プローブ上に形成された測定対象物と色素との結合物を検出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学的測定法。
【請求項6】
前記プローブ表面への測定対象物の捕捉及び蛍光性発色団を有する色素との結合は、免疫反応によるものであり、測定対象物と色素とが抗体を介してプローブ表面に結合物を形成していることを特徴とする請求項5に記載の光学的測定法。
【請求項7】
前記検体がポルフィリン環構造を有する発光物質を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学的測定法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−153487(P2006−153487A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340500(P2004−340500)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】